【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
「終わりのはじまり」繋がりでは個人的にトッキュウジャーのクリスマス回が好きです。あの辺以降は全部神回と言っても過言ではない。「君が去ったホーム」はキョウリュウジャーのアイガロン死亡回以来一年ぶりに泣きました。
科警研での戦闘は、未だ膠着状態が続いていた。
友人である八百万百を人質にとられ、攻撃を仕掛けるどころかむやみに距離を詰めることすらできない轟焦凍――アギトと飯田天哉。彼らを嘲りつつ、奥へ奥へと進んでいくグロンギ――そして、死柄木弔。
「轟くん、」飯田が小声で耳打ちする。「氷を張り巡らせて奴らを分断できないか?その隙に俺が駆け寄って八百万くんを……」
この状況を打開するために、飯田は必死に策を巡らせていた。その心は焦凍とて同じ。しかし彼は、さらに慎重にならざるをえない。
「……駄目だ危険すぎる。いくらおまえのスピードでも、八百万を無傷で助け出せる確証がねえ」
「ッ、だが、このまま奴らの目論見を成就させるわけには……!」
「大丈夫、俺を信じてくれ」――そこまでの絶対的なことばを、飯田は返せなかった。ズ・ゴオマ・グはともかくとして、他の二体は上位の存在である可能性が大いにある。焦凍やいまここに向かっているであろう出久のように、人間を超越した力が、自分にあるわけではない。トルクオーバーの状態で突撃したとて、奴らからすれば――そんなネガティブな想像すらよぎってしまう。
自分自身を信用できないのに、仲間に信じてもらえるはずがない。
「く……ッ」
フルフェイスの下で、飯田が唇を噛んだときだった。
「――つまんないな」
そんなつぶやきが漏れた。――白の、怪物から。
は、とふたりが反応するより早く、彼は襲いかかってくる。咄嗟にアギトが割り込み、半冷半燃をフル稼働させて迎え撃った。
――効かない。
いや、間違いなくその身を傷つけてはいるのだ。しかしこの怪人、まったく痛みに怯む様子を見せない。気にかけないのか、そもそも感じないのか……とにかく、自分の身体などかえりみない突撃を敢行してくる。
「チィ……ッ!」
ならばと、ワン・フォー・オールを発動させる。黄金の光流が、全身を覆い尽くしていく――
「うぉおおおおおッ!!」
異様なまでのスピードを、その拳が捉える。直撃とはいかなかったが命中し、怪人を後退させることには成功した。
「………」
唸る怪人。またいつ襲いかかってくるかもわからない。だが警戒よりも、芽生えた違和感がさらに膨れ上がっていく。
(こいつ、まさか……)
そのとき、ヤマアラシのグロンギ――ゴ・ジャラジ・ダが、背後から怪人に声をかけた。
「ダグバ……遊びたいの?」
振り向かないまま、怪人――ダグバが小さくうなずく。
「じゃあいいよ……キミの好きにして。――ゴオマ、いくよ」
誘われたゴオマはというと、ジャラジが確保している女性ヒーローのことしか眼中にないようであった。
「ボギヅ……ボギヅンヂゾ、グパゲソ!!」
「……ハァ、馬鹿」
ひと睨みするジャラジ。露骨に脅迫するような態度でないにもかかわらず、ゴオマの背にぞぞぞと怖気が走った。壊された翼の付け根が疼くような錯覚。口をつぐみ、従わざるをえないのだった。
八百万を抱えたまま、奥へと去っていく二体。追いかけようとする動きは、当然のごとく"ダグバ"に阻まれた。
「ぼくと遊んでよ、ヒーロー……!」
「……ッ!」
「ふざけるな」と切り捨てたいところ、なぜか息が詰まる。心臓の音がうるさい。
"ダグバ"のクラッシャーが開き、真っ赤な舌がちろりと覗く。それは細く尖り、まるで蛇のようで。
「さぁ――」
「――ゲーム、スタートだ……!」
「――!」
ああ……やっぱりそうか。
酷かった動悸が、すうと治まっていくように思われた。――絶望とともに。
「なんで、おまえが……」
「――死柄木、弔……!」
血のいろをした双眸には、かつて彼が抱いていた飽くなき憎悪が……滲んでいた。
*
薄暗い洋館の表に、一台のバイクが置かれていた。
「よー、俺が出かけてる間にずいぶん面白いことになってンな」
その主である青年――ゴ・バダー・バが、そんなつぶやきとともに広間にやってきた。ツーリングの最中、彼は街で科警研襲撃の報に接したのだ。それが誰の仕業なのかも、はっきりわかっていた。
「何が面白いものか」心底不愉快げな表情を浮かべるゴ・ガドル・バ。「リントが、ダグバの力を我が物顔で使うなど……」
「究極の闇をもたらす資格があるのは、オレたちだけだ……!」これはゴ・バベル・ダの言。
ふむ、とバダーは肩をすくめた。無論、彼もリントが究極の闇をもたらす存在となるとは夢にも思ってはいないが……だからこそ、好きに遊ばせてやればいいとも考える。ゲゲルの邪魔さえしなければ。
ただ、ゴ集団最強の3人の考えは必ずしも一致しているわけではないらしかった。その証拠に、ゴ・ジャーザ・ギだけは愉しげにモバイルPCを操作している。
「おまえはなに調べてんの?」
「死柄木弔について♪まあ公開されている情報なんてたかが知れてるけど……それでも、面白い男なのはわかったわ」
かつて敵連合を率いた男、英雄の存在に支えられたこの社会と秩序を粉々に打ち砕こうとした悪の権化――インターネット上の情報からわかったのはその程度だったが、それがまだあんなに若い青年というのが興味深かった。何せ、彼が動き出したのは五年以上も前のことだ。
「そういえば、ザザルも殺されたみたいよ?」
「は?マジかよ」
こちらのほうが、バダーには寝耳に水だった。
「ルールを看破されて標的を潰されたうえに、居所も掴まれてしまったらしいわ。……身の丈にあったゲゲルをすれば、もう少しマシだったかもね」
優しげな口調とは裏腹に、容赦なく切り捨てるジャーザ。自分も万が一失敗したら、こういう扱いになるのだろうか。まあそんなことは万が一にもありえないのだが。
「じゃあ次は俺か。ザジオの爺さんとこ行ってくるわ……」
せっかく帰ってきたばかりなのだけれど、ゲゲルの準備ともなれば最優先で取りかからねばならない。多くのグロンギにとってゲゲルの成功は自分のためだけのものだったが、彼にとってはそうではなかった。――相棒"バギブソン"。己が栄光は、彼の栄光でもある。彼とともに頂に立つのだと、バダーは望んでやまないのだった。
再び去りゆく背姿を見送りつつ、ジャーザ、バベルが口々につぶやく。
「お手並み拝見というところかしらね?」
「あんな道具に頼る奴など、たかが知れているわ!」
「……それは私への嫌みかしら?いつでも受けて立つけど?」
上品な笑顔を貼りつけたままのジャーザだが、目が笑っていない。浅慮な発言をしたと自覚はあるバベルも、戦りあうことに躊躇いはなかったのだが。
「ジャレソ」
ガドルに、あっさりと止められた。ゴ最強の男のことばは、彼女らの行動にもそれなりの影響力をもつ。
「冗談よ、こんなところで余分な力を使うつもりはないわ。ゲゲルに……いえ、ザギバス・ゲゲルにとっておかないと」
「……いい心がけだ」
ゴにまでなっておきながら、権利を放棄する愚か者どものことをガドルは思い出した。ジャラジはまだ別の形の野望を秘めているようだが、新参の"彼女"は――元々の期待が大きかっただけに、その失望と憤りも相当なものだった。
*
権利を放棄したと捉えられるほど長く行方をくらましているゴ・ガリマ・バは、人混みの中にあった。軍服のような漆黒の衣装を纏った彼女の姿は奇異なものだったが、まともに気に留める者はない。そもそもこの超常社会において、服装の如何などはさしたる問題ではないのだ。異形型の個性持ちの存在のために――以前、自分の怪人体よりカマキリそのものなリントを目撃して閉口した――。
――そんな彼女だが、あてどもなく歩いているわけではなかった。
ビル街の片隅にある、古びたレコードショップ。ガリマはそこに入り、クラシックのレコードを聴いていた。耳の内を浸す優雅な音楽。それは間違いなく、ガリマの心に華やぎを与えていた。――ベミウの演奏を、思い出す。
だが所詮、それまでのものだった。
(……違う、こんなものではない!)
精緻な、つくられた音。自分が聴きたい音とはまったく違っていた。これが初めてではない、もう何度も、こんなことを繰り返している。
「……ベミウ、」
いっそ彼女があんなにも美しい音色を奏でるなどと、知らなければよかったとすら思う。そうすれば自分は、ただまっすぐ頂点を目指して戦い続けることができたのに。
しかしそれは、もはやありえない夢幻の話。現実の彼女はただ、消え去ったベミウの影を追って彷徨を続けるほかないのだった。
*
戦線をダグバに任せたジャラジとゴオマは、目当ての場所にたどり着いていた。
――否、既にその目的までもを果たしていた。
「ボセ、パ……」
「うん……まあまあ似合ってる」
満足げにうなずくジャラジ。彼の視線の先にはゴオマの姿があったが、それはもはやズ・ゴオマ・グの容姿とはまったく異なっていた。
漆黒の皮膚を覆う、真っ赤な機械鎧。真っ赤な瞳。突き出した角。――クウガに瓜二つながら、明確に人工的な存在とわかるその姿。
まぎれもなく、G2だった。
「じゃあもういいよ、この人……殺しても」
「!」
いままで大事に抱えていたのと打って変わって、女の身体をぞんざいに投げ捨てるジャラジ。床に叩きつけられた痛みによって、彼女――八百万百は、覚醒を促された。
「んん……」
「あ、起きた?」
暫しぼんやりとしていた八百万だったが、視界が鮮明になるにつれてその表情が険しくなった。「未確認生命体……!」と声をあげ、立ち上がろうとする。
しかし彼女の所作は果たされなかった。G2の無骨な手が、その細い首を締め上げたからだ。
「ぁ……っ!」
「ボソギデバサヂゾ、グデデジャス……!」
徐々に込められていく力。強烈な圧迫。八百万の意識は再び、今度こそ不可逆的に、闇へ閉ざされていく。
「クウガが……リント、殺す」
おもむろにつぶやいたジャラジは、陰湿な笑い声をあげた。――それが、"彼"の逆鱗に触れるとは思いもよらずに。
「テメェらが死ね!!」
いきなりの罵声に、飛び込んでくる影。振り向いたグロンギたちの視界は、眩い閃光によって覆われた。
「グッ!?」
こればかりは不意打ちだった。目の前が真っ白になり、どうにもならない。視力の回復は常人より圧倒的に速いが、それまでの数秒を仕掛人は全身全霊で活かした。
視界が戻ったときにはもう、ゴオマの手の中に女の首はなかった。無論、身体ごと。
八百万の身体は、彼女を救い出した存在の手に抱きかかえていた。
「胸クソ悪ィんだよ、腐れ外道どもが!!」
「ビガラァ……!」
「……爆心地、すごいね。生きてたんだ」
現れたヒーロー・爆心地に、対照的な反応をみせる二体。その声色だけで、G2を着ているのが第3号――ズ・ゴオマ・グだと爆豪勝己は悟った。
「でも、どうやってここに?ダグバが、塞いでるはずなのに……」
「出入口はひとつじゃねーんだよ、覚えとけハリネズミ野郎!」
「……ハリネズミじゃなくて、ヤマアラシだよ」
反論はもはや、勝己の耳には入っていなかった。怒鳴り散らしながら、その頭脳は目まぐるしく回転している。
(閃光弾が3号に効いてねぇ、G2着てるせいか……。敵は二体……こっちは手負いで八百万も自力じゃ動けねえ、轟と飯田はおそらくダグバとかいう未確認と戦って――は、ダグバ……?)
『クウガはやがて、ダグバと等しくなるだろう』
究極の闇――そんな存在が、ついに姿を現した?
「ねぇ、」
「!」
いきなりジャラジから声をかけられて、勝己は我に返った。「気安くしゃべりかけんな!!」と吼え返すことも忘れない。
それをあっさりと無視して、ジャラジは続ける。
「取引……しない?」
「ア゛ァ?」
「ボクら……もう目的、達した。だからこのまま帰らせてくれれば……キミたちには、何もしない」
「目的ィ?コソドロがか?」
挑発めいたことばを返してしまうのは、もうほとんど反射のようなものだった。ゴオマなどは激昂し、勝己に襲いかかろうとしている。八百万を抱えた状態では応戦できようはずもなかったが……なんと、ジャラジがそれを手で制した。
「チッ……その取引、乗らねえっつったら?」
「……訊かなきゃわからない?」
ジャラジが押し止める手を、自身の胸もとにやるしぐさを見せた。そこにぶら下がった装飾品が、彼の主武器であるダーツに変化する。そこまではまだ知らなかったが、いずれにせよ攻撃の意思は明確だった。
「……ッ、」
歯噛みする勝己の腕を、掴むてのひらがあった。
「ダメ、です……爆豪、さん……」
「!、八百万……」
「私には構わず……戦って、ください……ッ」
訴えかける声は、息も絶え絶えというありさまだった。合間に咳も漏れる。グロンギたちに痛めつけられ、窒息寸前にまで追いやられた。――この女を放って戦える心をもっていたなら、どれだけ楽に生きられたか。
勝己の出す答は、決まっていた。
「……とっとと失せろ」
「爆豪さん……!」
「賢いね……爆心地」
道を開けたヒーローを嘲笑しながらも、ジャラジは取引を"誠実に"実行するつもりのようだった。勝己を睨みつけるゴオマを制しつつ、悠々と去っていく。
「………」
その背姿を見送りながら、勝己は唇を噛むこともなく淡々とした表情を保っていた。抱きかかえられた八百万がかえって、不気味に思うくらいに。
*
「死柄木ッ!!」
科警研の通路に、超人アギトの悲痛な叫びが響いた。
続く、激戦。"ダグバ"――死柄木弔の瞬間移動にも等しいスピードでの猛攻。それに対し一歩も退くことなく、氷結と業火でもって間合いを保ちながら、隙と見定めたところでワン・フォー・オールによって反撃を仕掛ける。
(なんて、戦いだ……)
まさしくヒトを超越した者たちの戦いであると、飯田天哉は痛感せざるをえなかった。自分が割り込む余地などない、そう思えてしまう。それでは駄目だと、わかってはいても――
飯田が見守ることしかできない激戦の中、それでも焦凍は、目の前の怪人に向かってひたすらに声を飛ばした。
「なんでッ、なんでおまえがグロンギなんかに……!」
「………」
「なんで今さら、そんなモンに戻っちまうんだよ!?」
もう二度と、何ものにもなれない壊れた生き物。そんなこいつをなんとかしてやりたいと決意したその日に、どうしてこんなことになっちまう?焦凍の心に堪えがたい闇が生まれる。――俺のせい、なのか?
絶望とは裏腹に、身体は勝手に動く。全力で、目の前の怪物との死闘に終止符を打とうとする。
「ワン・フォー・オール……!」
全身にみなぎった力が光流となって現れるのを感じながら、最後の一撃の構えをとるアギト。――と、相対する白のアギトとでもいうべき怪物もまた、鏡写しのように態勢を低くしていく。
極限の静寂と、緊迫。破綻の時はあっさりと訪れた、ふたりの跳躍によって。
「うぉおおおおおおお――ッ!!」
龍を象った紋章を突き抜ける、アギトの両足。ダグバのそれもまた、同じ。――彼はグロンギであり、確かにアギトの一種だった。
そして――激突。
凄まじい閃光と疾風とが、辺りを覆い尽くした。
「ぐ……ッ!?」
重量級の肉体をもつ飯田ですら、壁に手を突いていなければ吹き飛ばされてしまいそうだった。一体その中心部では何が起こっているのか?焦凍は、弔は……。
そのとき、どさりと何かが落下してきた。くっきりと分かたれた紅白の頭髪、アギトからもとの姿に戻ってしまった轟焦凍だということは、考えるまでもなくわかった。
「轟くん……!?」
一瞬、焦凍が敗北を喫したのだと思った。だがそれはある意味では正しく、普遍的には誤っていて。
落下してきたのは、人間体である死柄木弔の姿に戻ったダグバも同じだったからだ。
「………」
真っ赤な血潮が、純白のパーカーを無惨に汚していく。それでも彼は笑っていた。心底、幸せそうに。
「ッ、おまえ……!」
焦凍は戦慄した。こいつは、死柄木弔に戻ったわけですらない。――もっとおぞましい、まったく別の化け物になってしまった。
『ダグバ』
「!」
不意に、どこからともなくジャラジの声が響く。
『目的は達した。……帰ろう』
「……ん」
少し名残惜しげにうなずきながら、おもむろに退いていく弔。焦凍はその場から一歩も動けずにいた。はっと我に返った飯田が「待て!」と走りだそうとするが、
刹那、閃光が再び、周囲を覆い尽くした。
「――ッ!」
予想だにしないできごとに動きを止めざるをえない飯田。敵に害意があったならば、彼は危険な状況に置かれていたかもしれない。
ただ現実には、彼の視界が回復したときにはもう、敵の姿はかき消えていたのだった。
「逃げた、のか……?」
「………」
目的は達した――響いたその声は、彼らに激しい焦燥を与えるものだった。奴らは一体、何を得た……?
と、そのとき、奥から何者かの足音が響いてきた。飯田は思わず身構えたが、
「……大丈夫だ、飯田」
「なに?」
「あいつが、来たんだ」
焦凍の言うとおり、現れたのは敵ではなかった。
「爆豪くん……!」
八百万をおぶった、爆豪勝己の姿。顔などは未だガーゼで覆われたままで、痛々しい。それでも足取りはしっかりしていた。
「八百万くんを奪回したのか……よかった」
「………」
勝己は何も言わない。その様子をいぶかしんだ焦凍だったが……八百万がこちらを凝視していることに気づいて、大変なことを忘れていたと気づいた。今さらだが。
「轟さん……あなたが、なぜここに……?」
「……あぁ」
彼女にすべてを語らねばならないときが、来てしまった。