【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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アギトがタイムジャッカーについたって本当ですか?
失望しました、エンデヴァーのファンやめます。


EPISODE 37. 終わりのはじまり、そして 3/3

「――ごめんね心操くん、わがまま言っちゃって」

「いや……」

 

 緑谷出久は友人である心操人使を伴って自宅アパートに帰ったのは、夜もずいぶん深まった頃合いだった。

 

 事件の後処理が済んで帰宅を許可……否、"命令"されたとき、心操にうちに来ないかと声をかけたのだ。G3という身体に負担のかかる強化服の着脱を一日のうちに何度も繰り返し、彼が自分以上に疲労困憊なのはわかっていたけれど……それでも。

 

 申し訳なさそうに力なく微笑む出久に、いつも以上に目の下の隈の濃い心操も笑い返した。

 

「気にするなって言ったろ。……俺もちょうどそういう気分だったんだ。疲れてるのは事実だけど、多分、ひとりで帰ってベッドもぐっても眠れない」

「……そうだね」

 

 今日は本当に、長い一日だった。グロンギもクウガもなく学生をやっていた頃だったら一日くらいヒーロー番組や動画を見て潰すことだってあったのに。

 

 ただ、その長さに比して、自分は――おそらく心操も同じ気持ちだから、二つ返事で了承してくれたのだろうが。

 

 駐輪場に二台バイクを置き、階段を上っていく。そうしてたどり着いた部屋の前に、ひとつ、人影があった。

 

「!、あ……」

 

 

「沢渡、さん……」

 

 出久と心操を交互に見やり、桜子は小さく手を振った。廊下の薄暗い電灯の下で、彼女の表情はいつもより儚げに見える。なんだか居ても立ってもいられない気持ちになって、出久は彼女のもとに駆け寄った。

 

「どっ、どうしたの急に……。いやそれはいいんだけど、いつから待ってたの?」

「そんなに待ってないよ。二時間くらい」

「十分待ってるじゃないか!……ごめん、待たせちゃって」

「ううん……私のほうこそごめんね、急に押し掛けちゃって。でも、今日のことニュースで見てたら……なんか、ここに来ずにはいられなくなっちゃったの」

 

 そう言うと、桜子はちら、と心操を見やった。一寸も逸れることなく目が合う。互いの顔を目の当たりにした瞬間、思ったことがひとつだけ。

 

「俺、」

「私、」

 

「「――お邪魔だった?」」

「へぁ?」

 

 まったく同じタイミングで同じことを――しかも至って真面目な表情で――言うものだから、出久は思わず癖になっている裏返った声を発してしまった。

 

「そ、そんな……なぜ?」

「仮面ライダー同士だし」

「まあ……男女だし」

「い、いやおかしい!?仮面ライダー同士はまだわかるけど、男女とかそういうのはおかしい!」

 

 桜子の気持ちを知っていながら「おかしい」と言い切る出久のほうが世間一般からすればおかしいのだが、そこはもう彼の性格と割りきるしかない。実際、当事者である桜子はくすりと笑うばかりだった。

 

「冗談だよ冗談。でも、本当に私までお邪魔しちゃって大丈夫?」

「ハァ……」ため息をつきつつ、「大丈夫……ていうか、いてくれたほうがいいかな。僕的には……」

「俺もです」

「そっか。じゃあ、お邪魔するね」

 

 その微笑みは少女のような可憐さと大人の穏やかさがきちんと同居していて、やはりこういう人には幸せになってほしいと出久は思った。

 

 自分が幸せにするとは、まだ、言えそうもなかった。

 

 

 

 

 

 心操や桜子にとって、出久の部屋へ上がるのは久々のことだった。警視庁や戦場、研究室で頻繁に顔を合わせてはいても、こうしてふつうの友だち付き合いをする時間は、あまり確保できていなかったから。

 

(それにしても……)

 

 相変わらず、ヒーローオタク丸出しの部屋だと思う。これでも実家の自室よりは整理しているらしいが。ただやはり数ヶ月が経過して、グッズが増えていく一方なのは変わらないようだった。

 それに、

 

「――あのサイン、結局全部飾ったんだな」

 

 壁一面に飾られた複数の色紙には、多種多様なサインが飾られている。"烈怒頼雄斗"に"ウラビティ"、"チャージズマ"、他にも大勢――皆、雄英高校のOBだ。それらがどこで出久の手に渡ったのか、心操も桜子もよく知っている。彼に贈られるさまをこの目で見ていたのだから、当然である。

 

「うん!」自分で注いだ烏龍茶を飲みつつ、「色々考えたんだけど、実家に送るのも押し入れに大事にしまっとくのももったいないし、やっぱり飾っておきたかったんだ!ただ直射日光が当たると色褪せちゃうから、ちょっと模様替えもして直接日が当たらないようにしたり……あれ飾るだけのつもりだったのに、気づけば丸一日作業になってたよね」

「ふふ、出久くんらしいね」

 

 へへ、と照れくさそうにはにかむのがまた彼らしい。グロンギに立ち向かっていくときの勇敢な表情や考えごとをしているときのしぐさも好きだが、こういう柔らかい一面を見られるとやはりほっとする。

 

「やっぱり、いいよね……ヒーローって」

「……そうだな」

 

 出久の声が、心なしか沈んだような気がした。

 

「僕……、」

 

 何か言いかけて、口をつぐんだ。しきりに飲み物に口をつけて、瞳をさまよわせている。酒の力でも借りればぱっと吐き出せるのだろうが、生憎冷蔵庫には久しくそういった類いのものは入れていない。クウガになってからというもの、この友人たちと居酒屋で飲み明かすこともなくなった。例外は海水浴の時くらいだ。

 

 それだけ彼は、いつ何どきでも戦場に立てるように生活してきた。この数ヶ月間そうしてきて、胸を張って「僕はクウガなんだ」と言えるようになってきたと思っている。けれど――

 

「………」

 

 出久が逡巡を続けていると、

 

「ヒーロー科で、ちゃんと学べてたら」

「!」

「常々そういう気持ちはあったけど……今日ほど強くそう思った日はないかも、俺」

 

 心操は皮肉っぽく唇を歪めた。

 

「で、あんたは何言おうとしてたわけ?」

「……そんなようなことデス」

「ふーん、やっぱり」

 

 出久は思わず苦笑した。心操も、同じことを――いや、それもそうか。ヒーローを目指すことをあきらめてふつうの学生生活を送っていたという意味では、自分たちの境遇は似通っている。そもそも、それが意気投合する端緒になったわけで。

 

「……今日みたいなこと、初めてだった」

 

 いや正確には、あかつき村と渋谷でのグロンギ同時出現という似たような事例はあったけれど。――ただ出久はあのとき前者に専念していたから、複数の事件の同時処理を経験していないことに変わりはなかった。

 

「ゲームのルールを見破って、41号を倒すことはできた。けど……死柄木弔のことでは、僕は何もできなかった。それどころかかっちゃんに怪我させて、科警研の時は間に合わなくて……」

「経験があれば、もっと上手く立ち回れたんじゃないか……やっぱり、そう思うよな」

「……うん」

 

 そう感じているのは、自分たちだけではない……と、思う。少なくとも爆豪勝己は自分たちにないものを持っていながら、それでも涙をこらえきれずにいるほど悔恨を抱いていた。

 

「でも、それだけじゃないんだ」

 

「かっちゃんにさ……僕、言ったんだ。"力になりたい、ならせて"って」

「……結構チャレンジャーだな、おまえ」

「い、いや自分でもそう思うけど!……でもかっちゃん、昔と違うんだ。振り払ったりしないんだ」

 

「轟くんたちのこと訊いた途端振り払われて爆破かまされたけど」とぼやくと、即座に「それは出久くんが悪い」と返されてしまった、桜子に。心操もうんうんうなずいている。

 

「な、なんで!?……いやまあそれは置いといてだけど、せっかくかっちゃんが受け入れてくれてるのに、僕、やっぱりもどかしいんだ。前はただ、もっと強い力があればって思ってた。けど……ただ強くなるだけじゃ、僕はまた、かっちゃんにあんな表情(かお)をさせてしまう気がする……」

「緑谷……」

 

 協力する、力になる――いままでのようにグロンギを倒していくだけなら、簡単などとは口が裂けても言えないまでも、そう難しいことではないだろう。いまの自分には"金の力"があるし、たくさんの仲間がいる。

 

 けれど死柄木弔のことでは、まだ自分は、何もできていない。死柄木を救けたい――そんな勝己の想いを、どうすれば支えてやれるのだろう、自分は。

 

 その答は、誰も持ち合わせてはいない。自分の力で見つけなければならないものだと、わかってはいるけれど――

 

「……きっと、すぐに答は出ないんじゃないかな」

 

 ふたりの吐露を聞き届けた桜子が、不意に声をあげた。

 

「他人の想いを支えるって、ヒーローだけじゃなくて誰しもがやろうとしていることだけど……そのくせ、すごく難しいのよ。もしかしたら、人助けよりずっと」

「………」

 

 桜子は常にそれをやってくれている――自分たちに対して。だからこそそのことばには、ひどく説得力があった。

 

「ねえ出久くん。どうして爆豪さんは、きみの手を振り払わなくなったんだと思う?」

「え……」

 

 思わぬ問いかけだった。答に窮してしまうのは、何も思いつかないからではなくて。

 

「……僕がかっちゃんの気持ちを、思いやれるようになったから」

 

 それをはっきり口にするには恥じらいがあった。

 桜子は笑うこともなく、真剣な表情のままうなずく。

 

「もちろん爆豪さんが大人になったとか、出久くんが強くなったからとかも、理由としてはあると思う。けど爆豪さんが嫌々きみを受け入れてるのでないとしたら、きっと、そういうことなんじゃないかな」

 

 勝己がかつて、独りよがりで傲慢だったのは事実だ。その狭量が、"いっちゃんすごくない""ムコセーのデク"に手を差し伸べられることなど赦せないという、拗れた感情につながったのだということも。

 

 けれど、独りよがりだったのは自分も同じだ。かっちゃんは、無力を運命づけられた僕の気持ちなんてわかってくれない。だから僕だってそんなもの考えない……いやそもそも、彼が傷つくことなんてあるわけがないと思い込んでいた。

 

 最初は純粋だった"救けたい"という想いに、いつからか駆り立てられるようになってしまっていた――

 

「……そうだね。僕がかっちゃんを助けたいのは、義務だとかそんなんじゃない」

 

 かっちゃんが、大切だから。

 

 

「いまは、その気持ちを大事にすればいいと思う。自分に何ができるかは、そのあとに見つかるよ……きっと」

「……うん」

「大切だから、か……」

 

 心操もまた、そのことばに感慨めいたものを抱いているらしい。その想いをかなえるのはとても難しい、だからこそ、何よりの原動力になることだってある――彼もまた、身をもって知っているのだった。

 

 

 

 

 

――気づけば自分たちは眠っていたらしい。

 

 何か振動めいたものを感じとって、出久はそのことに気づいた。正確には、覚醒を促されたというべきか。

 

「ん……」

 

 身体を起こし、半ば夢うつつのままの寝ぼけた頭で、周囲を見遣る。すぐ目の前のテーブルでは、心操と桜子が仲良く突っ伏して眠っていた。壁掛け時計の短針は3と4の中間を指している。どうやらとりとめもない会話を続けているうちに、皆寝落ちしてしまったようだ。これも久しく体験していない、学生らしい出来事のひとつだった。

 

 と、振動は未だ続いている。ようやくその出処を探りはじめた出久だったが、発見まで数秒とかからなかった。――テーブルの下に落ちていた、彼自身のスマートフォン。彼女がしきりに震え続け、着信を告げていたのである。

 

 すわ事件か――瞬時に眠気の吹き飛んだ出久だったが、表示された発信者の名は予想とはわずかに逸れたものだった。

 

 

「――轟くん!」

 

 アパートの外でバイクに寄りかかってぼうっとしていた焦凍は、待ち人の声で我に返った。顔を上げれば、Tシャツの上から適当な上着を羽織っただけの恰好で、出久が階段を駆け下りてくる。

 

「緑谷……悪いな、こんな時間に」

「い、いや別にいいけどさ……どうしたの、突然?」

 

 勝己や塚内管理官ら捜査本部の面々ではなく、焦凍からの呼び出しということは、新たなグロンギ出現というわけでもあるまい。ここに来ているということは、まさか彼もうちに上がりたいのかなんて、ピントのずれたことを考えたりもしたのだが。

 

「……実は、しばらく東京を離れることになった」

「え!?」

 

 深夜も深夜であることも忘れて大きな声をあげてしまう。思った以上に響いた自分の声に、出久は余計に焦りを募らせた。

 

「……どういう、こと?」声をひそめて訊く。

 

 無論、焦凍も言いっぱなしではない。その決断に至った経緯を、すべて語った。死柄木弔との再邂逅、彼が告げた"整理"の開始――

 

「"整理"って、一体……」

「わからねえ……けど、とてつもなく恐ろしいことなんだと思う。終わりのはじまりが、いよいよ来ちまうんじゃねえかって……そんな気がするんだ」

「………」

 

 かつてヴィランの王になろうとしていた男が、グロンギになってしまった――それ自体終末への扉が開かれたことを予感させるものなのに、さらに何をしようというのか。

 焦凍の言うとおり、とても恐ろしいことなのだろう。だから、それを止めるためにあとを追う――

 

「けど……まさか、きみひとりで行くんじゃないよね?」

 

 表向きには、ヒーロー・ショートは未だ失踪中ということになっている。そんな彼が独りで行けば、宿ひとつ探すのにも苦労を強いられるだろう。

 あるいは、グラントリノが再び供をするのだろうか。出久のそんな予想は極めて順当といえるものだったのだが、

 

「……そのことで緑谷、おまえに謝らなきゃならねえ」

「え?」

 

「――爆豪が、俺に同行することになった」

「……!」

 

 息を呑む出久に、焦凍は再び経緯を語った。――さかのぼること数時間前。警視庁にて焦凍は、面構本部長に弔の追撃を進言・志願していた。そこに現れた勝己が唐突に「俺も行く」と言い出したのだ。

 

 焦凍は当惑したし、面構らも流石に二つ返事で応諾はできなかった。実際に籍を置いているわけでない焦凍とは異なり、勝己は名実ともに捜査本部のエースである。今後も東京で起こり続けるであろう殺人ゲーム――その抑止力たることと、秤に掛けるのは至難だった。

 

 けれど、

 

――死柄木を、放ってはおけない。

 

 ただそれだけ、わかりきったことば。けれども居合わせた者たちは皆、その声に彼の意志の固さをみた。彼の心をいま、最も深いところまで占めているものはなんなのか、痛感せざるをえなかった。

 

 結局、勝己の同行は認められた。弔のことも捜査本部の所管する案件には変わりなく、誰か所属のヒーローや捜査員を派遣する必要があったのだ――

 

 

「……そっか。それで、かっちゃんは?」

「一旦別れて、五時にまた警視庁で合流することになってる。流石に仮眠とらねえとキツイし、荷物まとめる必要もあるからな」

「そっか……」

 

――僕も、行きたい。

 

 一瞬、そんなことばが出かかった。弔を救けるために、協力する――そのためには自分も同行するのが一番いいに決まっている。

 けれども焦凍がいなくなって、自分まで東京を離れたらどうなる?強力になっていくグロンギたち、いくら心操とG3がいるといえども、あまりに荷が重すぎる。

 

 結局出久は、すんでのところでその想いを呑み込んだ。それを知ってか知らずか、焦凍は勝己について、こんなことを口走った。

 

「……爆豪が東京(こっち)を離れるのは、俺もどうかと思ったんだ。もちろん、飯田や森塚刑事たちだったら、影響ねえってわけじゃねえけど……」

 

「けどあいつ、別れる前に言ったんだ」

 

 

――デクに会うなら伝えとけ。

 

――俺は、こっちのことはなんも心配してねえってな。

 

 

「かっちゃんが、そんなことを……?」

 

 何も心配していない――彼以外の捜査本部の面々も皆優秀だから、というふうにもとれる。そのような意味だったとしても極めて彼らしからぬことばだが、だとすればわざわざ出久だけを指す必要もない。

 

「信頼されてんだな、おまえ」

 

 もはや当たり前のことのようにつぶやかれた、焦凍のことばがすべてだった。自分がいなくとも、デクがいるから大丈夫――

 

 出久は思わず苦笑した。本当にそう思ってくれているのだとすれば、ずいぶんと婉曲的な言い方だ。でありながらその意味するところは実にわかりやすい。彼の複雑な性情が、そのまま表されているかのようだった。

 

「緑谷、俺たちは死柄木を止めにいく」念押しするようにもう一度宣言しつつ、「……けど正直、俺たちだけでどこまでできるかはわからねえ。"前科"があるからな……」

「前科って……」

 

 焦凍にかかれば冗談のような物言いになってしまうが、弔のことは紛れもない、自分たちの咎だと彼は思っていた。敵連合を壊滅させ、彼を捕らえることはできた。けれど、救うことはできなかった――いやそもそも、当時の自分はそんなこと、オールマイトの後継者でありながら考えもしなかった。勝己のほうがよほど、その思いを強く抱いていたのではないだろうか。

 

(俺はいまも、"救けたい"とは胸を張って言えずにいる)

 

 だから、

 

「緑谷。俺はおまえが、"最後の切り札"になると思ってる。俺のことも救けてくれたおまえならきっと、あいつのことも……」

「轟くん……」

「……だからその日が来るまで、こっちのことは任せた」

 

 焦凍の右手が、おずおずと差し出される。なんだか動きがぎこちないのは、きっとまだ不慣れだからなのだろう。出久もそれは同じだったけれど、彼の気持ちに応えて、躊躇うことなくその手を握り返した。冷気を扱う右側だけれども、手のひらは温かかった。

 

「じゃあ……行くな」

「うん。――気をつけて」

 

 手を放し、去ってゆく焦凍。見送る出久。そんなふたりを呼ぶ声。振り向けば、アパートの階段からこちらを見下ろす心操と桜子の姿があった。目が覚めたときに出久の姿がないことに気づき、飛び出してきたのだろう。

 

 既にバイクに跨がっていた焦凍は、ヘルメットのバイザーを上げて振り向いた。そのオッドアイが、ふたりを交互に見回す。

 

「沢渡さん、心操。――これからも緑谷のこと、支えてやってくれ」

「!、……もちろん!」

「……あんたに言われるまでもないよ」

 

 躊躇いのない、あるはずがない彼女らのことば。それを聞いた焦凍は、満足そうにうなずき――バイクを、発進させた。

 

 

 遠ざかっていく背中をいつまでも見つめながら、出久は思う。――いつか来る、切り札となるべき日のために、

 

(僕は……僕の憧れたヒーローであり続けよう)

 

 みんなの笑顔を、守れるようなヒーローであり続ける――それがきっと、自分を信じてくれた幼なじみの笑顔を守ることにもつながるから。

 

 

 

 

 

 その、一方で。

 

 

「ザジレスゾ、バダー」

 

 響き渡る、バラのタトゥの女――バルバの声。彼女は再びその衣装を変えていた。薔薇の花弁を思わせる、紅色のドレス。これまでのような露出も大きく減り、より厳粛な雰囲気を醸し出している。背後には控えるドルドが、静かにバグンダダを掲げる――

 

「やっと俺の番か……待ちくたびれたぜ」

 

 ニヒルな笑みを浮かべるゴ・バダー・バ。彼の視線の先には愛馬バギブソンと、バギブソンを手入れする老人の姿があった。ヌ・ザジオ・レ――グロンギの道具や武器の製作・修繕を一手に引き受ける唯一の職人である。ゲゲルへの参加は認められていないし、その気もない。

 

「ギギジョグ……ドデデロ……」

 

 ただ己の作ったものがリントの命を奪うのを愉しむ、残忍な性情は持ち合わせていた。

 

 

 バダーはバギブソンに軽やかに飛び乗り――その姿を、怪人体へと変貌させた。未確認生命体第6号――ズ・バヅー・バに酷似した風貌。ダークグリーンに染め抜かれた全身の中で、鮮血を吸い上げたような真っ赤なマフラーが燦然と輝いている。

 バヅーと大きく異なるのは、肘から鋭い突起が生えていることだった。それを自ら毟りとり、マシンのボディに突き刺す。と、そのシルエットが大きくゆがんだ。禍々しい装甲が全体を包み、ただのオフロードバイクを殺人兵器へと変えてしまうのだった。

 

「フッ……そろそろザギバス・ゲゲルに進む奴が見たかっただろ、あんたらも」

 

 バダーがそう声をかけたのは、見送りに現れたゴの三強。反応はそれぞれだが、共通するのはどこか見下したような態度。どうせこいつも失敗すると思われているのだろう。

 そのことに気づいていながら、バダーはまったく不快には思わない。彼らの予想は外れるという、絶対的な自信があったから。

 

「あんたと戦りあうのが楽しみだぜ、ガドル」

「……面白い」ようやくガドルが口を開く。「貴様の手並み、見せてもらうぞ」

「フン、りょーかい」

 

 堂々たるサムズアップを見せつけ……エンジンを、唸らせる。

 

「さあ……行くぜぇッ!!」

 

 

 いよいよ動きだす、"脅威のライダー"。アギトと爆心地という貴重な戦力を切り離した出久たちは、果たして彼を止めることができるのだろうか。

 

 鍵たりうるのは、クウガのために造られた新たなるマシン。

 

 

――その名も、ビートチェイサー。

 

 

つづく

 

 




バダー「次回、いよいよ始まる俺のゲゲル。ライダーは皆俺の餌食さ、当然クウガもGなんたらもな」

バダー「一方クウガには俺のバギブソンをも上回るという新型マシンがあるらしいが、乗りこなすのに四苦八苦するらしい。そんなことで俺を止められるのかねえ?……つーわけで次回」

EPISODE 38. 駆け抜ける嵐

バヅー(幽霊)「ゴセンバダビゾドデデブセ、ガビビ!(俺の仇をとってくれ、兄貴!)」
バダー「(無視)さらに向こうへ、プルスウルトラ……ってね」




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