【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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MOVIE大戦FOREVER、いよいよ明日公開!(ダイマ)

聞くところによるととんでもないサプライズがあるらしいですね。クウガがあれだけ目立っている中だと妙な期待を寄せざるをえない。

大晦日に大きなお友達と一緒に観に行く予定なので先にネタバレ見ちゃうか、それとも我慢するか……悩ましい。


EPISODE 38. 駆け抜ける嵐 2/3

 "未確認生命体第43号"の呼称を与えられた――第42号はゴ・ジャラジ・ダに与えられ、ダグバこと死柄木弔はその特殊性を鑑みて便宜上X号と呼ばれることとなった――ゴ・バダー・バは、愛機とともに殺人を重ねていた。

 

 たったいまも、断末魔の悲鳴をあげる男性をタイヤで踏み潰したところだった。胴体を下敷きにされた男性は……口からどす黒い血を吐き、苦悶の表情を浮かべて絶命していた。

 

「バギングドググド……グシギビン」

 

 "21人"――グロンギ語で殺害人数を確認することばをつぶやいて、バダーはゆっくりバギブソンを後退させた。同時に、その姿が人間のそれへと戻る。マシンもまた、通常の姿に――

 

「ガデ……ヅギパゾ、ギヅババ?」

 

 またひとつ命を奪ったことになんの感慨もなく、次なる獲物を求めて走り出す。

 

 その姿を見送る審判――ドルドも、また同じ。

 

「鋼の馬から引きずり下ろし、轢き殺す……か」

 

 バダーが自ら定めたルールを確認する。目の前に転がっている屍も、これまでのものも皆、近くに彼らが生前愛用していたバイクが転がっている。それはバギブソンによって破壊され、見るも無惨な姿に変わってしまっているのだった。

 

 

 

 

 

 森塚とともに出動した出久は即座にクウガへと変身、彼とともに全速力でバダーの追跡へと向かった。

 

 その間にも、無線越しに次々と情報が飛び込んでくる。バダーの移動ルート、そしてターゲットとしている人々――

 

(ライダーを襲うなんて……!)

 

 バイクにこだわりをもっていることが明白な彼らしい選定だが……いずれにせよ、認めるわけにもいかない。

 

 と、無線の告げるバダーの現在地点が近隣を指した。ならばなんとしても、発見しなければ――

 

 

「――よォ!」

「!?、うわっ!」

 

 いきなり側道からバイクが飛び出してきて、クウガは思わず車体を大きく右へ逸らせた。危うく中央分離帯にダイブしそうになる。

 

「!、おまえ……43号!!」

「おー、俺そんなんになってるのか。まあなんでもいいけどよ」

 

 まるで友人相手のように、親しげに声をかけてくるバダー。しかし漆黒のフルフェイス越しに覗く瞳に……微塵も、親愛の情はうかがえない。

 

「俺の標的は鋼の馬……つまりバイクに乗っているリント。――当然おまえも……獲物さぁ!!」

「ッ!」

 

 人間体のまま、躊躇なく体当たりを仕掛けてくる。トライチェイサーの瞬発力をもって、それをかわす。満身創痍といえども、そうした戦闘能力は市販のバイクなどとは比較にならない。

 

「へぇ、やっぱりやるな。それでこそ、遊び甲斐がある!」

「ッ、ここはおまえの遊び場じゃない!!」

 

 実際、前後には数台一般車両が走行している。片方が第4号であることから距離は開けてくれているが、万が一にも巻き込むわけにはいかない。

 

 出久の意図を察したのか、バダーはフンと鼻を鳴らした。

 

「ここじゃ戦えねえってか?――いいぜ、本気で戦りあえねえんじゃつまんねえからな!」

 

 言うが早いか、バダーはスピードを上げた。持ち前のテクニックで車と車の間をすり抜け、蛇行しながら前進していく。クウガもまた追走する。

 

 やがて彼らは左折し、国道から工場地帯へ飛び込んだ。中央をぶち抜くような道路は、トラックやダンプカーが通行するため広々としている。それでいて、現在車両の姿はない。――うってつけの、戦場となってしまった。

 

「ここならいいだろ?」

「………」

 

 ふたりのライダーはいま、距離を保って対峙していた。互いを威嚇するかのごとくグリップを捻り、エンジン音を唸らせる。そんな状況下にあっても飄々としているバダー、異形の仮面の下で感情を押し殺すクウガ。

 

――機先を制したのは、バダーだった。

 

 唸り声を咆哮へと変えて、走り出すマシン。その姿が一瞬歪み、騎手ともども異形へと変貌する。

 

「ッ!!」

 

 その脅威を身をもって知りながらも、クウガもまた怯むことなく相棒を前進させた。同時に「超変身」と唱え、赤から青――ドラゴンフォームへと姿を変える。少しでも身軽になってマシンへの負担を減らすためだ。

 

「うぉおおおおッ!!」

 

 そして、吶喊。距離がゼロとなり、前輪と前輪がぶつかり合い、火花を散らす。わずかにバランスを崩すトライチェイサーに対し、バギブソンはまったく動じる様子を見せない。

 

(くそっ、やっぱり性能差が……!)

 

 標的を破壊し、殺傷するためのマシン。その外見どおりの攻撃性は、トライチェイサーのそれを遥かに上回る。

 

(だけど……!)

 

「人を殺すためのマシンなんかに……負けるわけにはいかないっ!!」

 

 再度距離をとったクウガは、付近にあったコーンバーを掴みとった。モーフィングパワーが作動し、黄と黒で交互に塗装された棒が鮮やかな青に発色する。ドラゴンフォームの専用武器たる、ドラゴンロッド。

 

 マシン同士の真っ向からのぶつかり合いに勝機が見出だせないなら、己の肉体に宿った力も加えて。自分がすべきは勝負に勝つことではなく……この敵を、どんな手を使ってでも止めることなのだから。

 

「へぇ、そう来るか。せっかく青だもんな」うなずきつつ、「いいぜ……来いよッ!!」

 

 彼の双子の弟であったズ・バヅー・バを倒したドラゴンロッド。その事実にも怯むことなく、バダーはまっすぐに向かってくる。クウガもまた、再び突撃を仕掛ける――

 

(ただの青じゃ無理だ……。ここで、仕留めるためには!)

 

 たちまちその身が電光を帯びる。アークルのモーフィンクリスタルが黄金に発色し……鎧の一部を、同じく黄金に染めあげた。同時に、ロッド。その両先端に長く鋭いブレードが装着されることで、さらなるリーチの長さと攻撃力を兼ね備える。

 

「はぁあああああ――ッ!!」

 

 すれ違いざま――ロッドを、一閃!

 

「ぐぁっ!?」

 

 バギブソンの体当たりによってトライチェイサーは転倒し、クウガの身体も地面に投げ出される。その一方で、

 

「ッ、ぐ……」

 

 うめき声をあげるバダー。その胸元が切り裂かれ、血が流れ出している。――封印の紋が、浮かぶ。

 

「チッ……遊びが、過ぎたかね……」

 

 弱々しいつぶやきを聞いて、全身に鈍い痛みを覚えながらもクウガは勝利を確信した。金の力で一撃を浴びせられた以上は……と。

 

――ゴ・ガメゴ・レに対してライジングタイタンの攻撃が通じなかったことを、出久は忘れてしまっていた。

 

「ザグ、ボンデギゾバサ……!」

 

 バダーが全身に力を込める。――傷がみるみるうちに癒え、同時に封印の紋はその役割を果たすことなく消えうせていく。

 

「な……ッ!?」

「……惜しかったな。思いっきりブッ刺させりゃやれたかもな」

 

 ガメゴのときと同じ、傷が浅すぎたのだ。だが後悔先に立たず、強化形態を保てる制限時間30秒が間もなく過ぎようとしている。やむなくクウガは通常のドラゴンフォームへ戻った。

 

「さあて……次でジ・エンドといこうか!!」

 

 反転し、再び迫りくるバダーとバギブソン。もはやすれ違いざまの一撃を狙ったところで、ハイリスクノーリターン。ドラゴンフォームの身軽さをもってかわすしかない。そう腹をくくったのだが、

 

 刹那、銃声が響き渡り、バギブソンのマフラー部が爆ぜた。

 

「!?」

 

 同時に、噴出する薄赤いガス。その強烈な刺激臭は、怖いものなどないと言わんばかりの飄々とした態度を一貫して崩さなかったバダーをして初めて取り乱させた。ゲホゲホと咳を繰り返しながら、しきりにまとわりつくガスを払っている。

 

 クウガが目の当たりにしたのは、ライフルを構える森塚ら刑事たちと、その後ろに控えるヒーローたち。

 

「大丈夫か、緑谷くん!!」インゲニウムこと飯田天哉が進み出てくる。「未確認生命体め、スピード勝負ならこのインゲニウムが相手だ!!」

 

 DRRRR、とふくらはぎのエンジンを唸らせる飯田。無論、バギブソン相手に競えるほど規格外のスピードが出せるわけではない。半分は強がりだが、もう半分は磨きに磨いてきた肉体と個性への自信あってのこと。小回りならば、己に分がある――

 

 しかし。脚にエンジンをもっているというだけでは、戦意の失せたバダーの関心を買うことはできなかった。

 

「チィ……ッ、お前らの相手なんかしてられるかよ。時間の無駄だ!」

 

 そう、ここにいる全員を始末したところで、タイムロスにしかならない。吐き捨てたバダーはクウガの頭上を飛び越え、猛スピードで走り去っていく。当然黙って見送るわけもない、救援に現れた面々の大半がパトカーに飛び乗り、追跡を開始した。

 

「……ッ、」

 

 出久もできるものならそうしたかった。しかし激しく転倒したトライチェイサーを慮れば、そういうわけにもいかない。車体を抱え起こし、グリップを捻ってエンジンの調子を確かめていると、再び「緑谷くん!」と声がかかった。残った飯田と森塚が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か?怪我は?」

「僕は大丈夫……だけど、」

「TRCSはまたダメージを受けちゃった……か」

 

 あと一回同じようなダメージを受ければ、そのときこそこのマシンの最期かもしれない。――かのグロンギと正面切って戦おうとする限り、今日がその日となる確率は極めて高い。

 

 複雑な思いで相棒を見下ろす出久の背中を、森塚の手が軽く叩いた。

 

「ま、壊れかけなのは前から承知してるけど、壊れていいとは誰も思ってない。――まして、僕はこいつの生みの親……いや違うな、お兄ちゃん?でもでも僕をモデルに製作してるわけだからこう……クローン?」

「あ……」

 

 出久ははっとした。森塚の個性"駿速(レーザーターボ)"はバイクに変身する個性――それを基にして、トライチェイサーは開発されたのだ。実際に使用している自分以上に、愛着をもっていても不思議ではない。

 

「森塚刑事、そのたとえはかえって実態とかけ離れているように思えます!」

「こまけぇこたぁいいんだよ!――ま、そういうわけで、なるべく温存していこうよ」

「そうですね……でも、どうやって?」

 

 森塚はにっこりと笑い、

 

「それは上で考えちう!こんなクソガキに発言権はないのさ……」

「い、いやそんな……」

「森塚刑事ッ、面構本部長や塚内管理官はそのような考え方はなさらないと思います!まあ冗談なのだろうとは理解していますが!」

「わかっててもツッコむんだね……まあいいけど。――実際にはG3ユニットと協議して作戦決めるらしいよ、場合によっては所轄や神奈川の地区担ヒーロー、県警まで巻き込んだ一大作戦になるかもって」

「神奈川?」

「奴の進路からいって、そっちに入ることも考えられるからねー。奴らの犯行が東京都内にとどまらないことはもう、前例もありますし」

「……確かに」

 

 最終的に決着をつけるのは自分の役割だとしても、ここまで多くの協力を受けることになるとは。胸が熱くなると同時に、己の相手がそれだけ大規模な対応が必要になるほどの強敵であることを肝に銘じる。クウガになったばかりの頃、ひとりで戦い抜こうと決意していた自分がいかに青かったか。勝己があのときから陰に陽に支えてくれなければ、命がいくらあっても足りなかった。

 

「緑谷くん」

「!」

 

 飯田の呼びかけで、我に返った。

 

「爆豪くんと轟くんの不在は痛いところだが、皆で力を合わせて穴を埋めていこう!」

「……うん、そうだね!」

 

 彼らの存在の大きさを思えばこそ、彼らなしでも使命を成し遂げなければならない――思いは皆同じなのだと改めて感じとって、出久は奮起した。

 

「よーし、じゃあ僕らも行こうぜ!」

「「了解!」」

 

 森塚の一声により、彼らもまた動きだす――

 

 

 

 

 

 追う者たちの足掻きを嘲笑うかのように、バダーは犯行を重ねていた。

 

 バイクを発見するや執拗に追跡して巧みに袋小路へ追い込み、逃げ道を失ったところを背後から体当たりを喰らわせてライダーを引きずり下ろす。投げ出されたライダーのヘルメットが脱げ――長い茶髪が、露になる。まだ若く、美しい女性だった。

 

「た、たすけて……ッ」

「………」

 

 男であれば絆されぬ者はいないであろう哀願は――グロンギであるバダーにとって、小石ほどの波紋ももたらさないものだった。

 

 無慈悲にグリップを捻り、急発進。こだました女の悲鳴は、刹那響き渡った鈍い衝突音によって途切れた。

 

 

 そうしてプレイヤーがさらに()()を稼ぐ一部始終を、付近の鉄塔から冷たく見下ろしている複数の影があった。

 

「バギングズガギド、ドググビン……」

 

 バグンダダの珠玉を操り、殺害人数を数えおろすドルド。その傍らにて、バルバ・ガドル・ジャーザ・バベルが、四者四様の表情を浮かべている。

 

「……バルバ、奴の制限時間と人数は?」

「7時間で、99人だ」

「フン……なら余裕ではないか」吐き捨てるように、バベル。

 

 それに対し、

 

「そうとも言い切れないでしょう」ジャーザのひと言。「当然リントは手を打ってくるわ。ザザルの二の舞になる可能性もある……まあ、バダーがそこを考慮していないとは思わないけれど」

「……ふむ」

 

「――リントは時間切れを待たず、バダーを倒すために仕掛けてくるだろう。それを逆手にとり、好機となせる、か……」

 

 バダーに果たして、それができるかどうか。できれば自分のよき好敵手となりうるし、できないのならそれまで。いずれにせよガドルは、このゲームの結末を最後まで見届けるつもりだった。

 

 

 


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