【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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MOVIE大戦FOREVER、大晦日に観てまいりました。

クウガ含めた平成ライダー登場シーンでもう、「君はヒーローになれる」と言われたデクばりに号泣。19年間ライダーを観てきた自分のような人間へのご褒美ともいえる素晴らしい作品でした。そういう方、それでなくとも思い入れのある平成ライダーのいる方々は是非、劇場に足をお運びください。


EPISODE 39. BEAT HIT! 4/4

 快進撃を続けるゴ・バダー・バは、自身のゲゲルを見届けに来ていた仲間のもとへ、自信たっぷりに姿を見せていた。

 

「ガドパパンビンボソギデ、ゲギボグザゼゴセン、ゲリザギバス・ゲゲル」

「………」

 

 唇を歪めるジャーザ、忌々しげに眉を顰めるバベル、静かに瞑目するガドル。審判たるふたり――バルバとドルドは、なんの感動もうかがわせずそのことばを聞いている。

 

「ゴギデググルビ、ゴセパ……ザギバス・ゲゲル!」

 

 高らかに宣言するバダー。勝利を確信……否、既に勝利へ至っているかのごとき態度に、沈黙を保っていたバルバがついに口を開いた。

 

「ゴンボドダパ、ガギゴンパパンビンゾ……ボソギデ、バサギゲ」

「フン……ガギゴンパパンビン、バ」

 

「ボソギゾ、クウガ――ヅギパ、ボソギゾガンダ」

「………」

「ダボギリザゼ」

 

 好戦的な瞳でバルバをひと睨みして、去っていくバダー。それを向けられた……ように思われたバルバはというと、

 

「――ザ、ゴグザゾ」

 

 背後の深い暗闇に、ぽつりと声を投げかける。何ものも存在しえないはずのそこから、応えるように咆哮が響く。

 

 

――それは、狼の遠吠えに似ていた。

 

 

 

 

 

 度重なる失敗にも、捜査本部の面々は決して折れない。

 

 塚内管理官によって追い込みポイントが再設定され、鷹野警部補とエンデヴァーをリーダーとする実働部隊が封鎖を行う。――ただ、神奈川県警白バイ隊の協力をこれ以上得るわけにはいかない。バダーの予測進路からいっても、おそらくこれがラストチャンスだ。

 

「なんとしても、ここで奴を追い込まねばな」

「ええ……」

 

(そして彼に、バトンを託さなければ)

 

 先ほど塚内管理官から、出久がビートチェイサーで出撃した旨通信があったばかりだ。マシンを使いこなせていない状況で――いや、それを克服できるという自信あってのことに決まっている。だから、何も心配することはない。

 

 既にガス弾の装填されたライフルを構え、並び立つ鷹野以下、SATの面々。木々をぶち抜くようにして造られたまっすぐな道、その地平線の向こうで、何かが揺らめいたような気がした。

 

「!」

 

 すかさず己の個性――"ホークアイ"を発動させる。視力が一時的に急上昇し、遥か彼方までを鮮明に見ることができるようになる。――豆粒のようなシルエットから、漆黒のオートバイとそれを操るライダーの姿が浮かび上がった。

 

「来たか……――構え!!」

 

 女性警部補の指示に従い、一斉に銃口を前方に向ける狙撃部隊。耳障りなエンジン音が加速度的に増していく。

 こちらの戦闘態勢に気づいてか、かのライダー――ゴ・バダー・バはマシンもろとも異形へと姿を変えた。たとえ得点にならずとも、行く手を阻むなら容赦なく轢き潰すつもりか。膨らむ緊迫感に汗が滲むが、だからといって逃げ出したいとは微塵も思わない。

 

「………」

 

 引き金に指をかけたまま、じっと踏みとどまる。まだだ、この距離では確実な命中が見込めない。もっと引きつけて撃つ。その明確なラインも、事前に設定してある。

 

 そして前輪が、その見えない境界線を踏み越える――

 

 

「――撃てッ!!」

 

 透き通った聲の反響をかき消すように、無数の銃声が一寸の乱れもなく響き渡る。発射された弾丸の波が、バダー自身やバギブソンの車体へ吸い込まれていき……炸裂する。膨大なガスがあふれ出し、標的の周囲を覆い尽くす。ただ走行に伴い発生する疾風のために、多くがいずこかへ吹き飛ばされてしまう。それも当然、想定済みだ。弾丸は一発こっきりではない、ゆえにひとりひとりが引き金を引くのも一度だけではない。何度もガスが撒き散らされれば、それだけバギブソンの周辺に滞留する時間も伸びる。

 

「グゥ……ッ!」

 

 致命的ではないにせよ、それは確実にバダーの身体、とりわけ視覚と嗅覚を蝕んだ。その毒から身を守ろうという本能が働き、運転が疎かになってしまう。当然、前方への注意も。

 

「攻撃開始だ!!」

 

 狙撃部隊が後方に下がり、入れ替わるようにしてエンデヴァー率いるヒーローチームが攻撃を仕掛けにかかる。

 

「「喰らえッ!!」」

 

 爪を針に変えて射出するヒーローがいれば、"かまいたち"の個性で巻き起こした旋風をぶつけるヒーローがいる。それらはバギブソンのホイールめがけて放たれたものだった。

 鋭い針は突き刺さることはなくとも表面を傷つけ、そこに旋風が容赦なく襲いかかり、ゴムを大きく切り裂く。――タイヤが、バーストする。

 

「ッ、ンだと……だがッ!」

 

 このまま行動不能に陥るかに思われたバギブソンだったが、流石にグロンギのマシンだった。完全に停車してしまうより早く、損傷が癒えていく。スピードは、再び上昇へ転じる。

 

「自己再生能力まであるのか……!?」

「……ッ、」

 

 わずかに怯んだ様子を見せるヒーローたち。しかし、

 

「狼狽えるな!!」エンデヴァーが檄を飛ばす。「破壊しきれなくとも構わんッ、あのマシンに完全再生を許すな!!」

 

 傷を負った身でありながらも、彼の声は聴く者の鼓膜を震わせる。臆病風など吹き飛ばし、士気を高める力を発揮するのだ。

 ヒーローたちによる猛攻が続き、バギブソンのボディには確実にダメージが蓄積していく。自己再生能力があるといえども、あくまでマシンであるからにはバダー自身ほどのものではない。10人単位での猛攻を前にしては、次第に追いつかなくなっていくのは必然であった。

 

「チィ……ッ!」

 

 誘導されていることは察しつつも、バダーは突破を断念し横道へマシンを滑り込ませた。バギブソンが破壊されては元も子もない。

 

 その背姿を、鷹野たちは深追いすることなく見送ることとなった。その表情には、一様に達成感が表れている。

 

「よし……!」

「うむ、よくやった皆……鷹野警部補も。見事な指揮だったぞ」

「!、お褒めに与り、光栄です」

 

 作戦がようやく成功をみて気持ちが解れているせいか、そう応じる鷹野の表情は珍しく柔らかな、女性らしいものだった。普段は心から同僚として接しているつもりだが、この瞬間ばかりは年齢の近い娘の面影が重なる。

 流石に有能な女性警察官というべきか、次の瞬間にはもう、表情を引き締めたうえで本部へ通信を入れていたのだが。

 

「鷹野から本部へ――」

 

 

『――作戦は成功、43号は厚木方面へ進路を変えました』

「そうか!よくやった……本当に」

 

 皆の努力が実った。あとは――

 

(頼んだぞ、緑谷くん)

 

 

 

 

 

 厚木方面の長い直線道路を爆走しながら、ゴ・バダー・バは舌打ちを漏らしていた。

 

「チッ、リントゾログ……!」

 

 奴ら、あと一歩で本当に愛機を粉砕するところだった。かつてとは比にならない大きな力を持ちつつあることは承知しているつもりだったが、まさかあれほどとは。

 かなりダメージを受けたせいか、バギブソンは本調子でない。――リントどもはよもや知らないだろうが、ゲゲルの制限時間まで残り30分を切っているのも気がかりだ。最後のひとりはクウガだと息巻いていたが、奴が現れなければ恥を忍んで適当なターゲットを見繕わなければならないかもしれない――

 

――そんなことを考えて鬱憤を溜めていたら、背後から勇ましいいななきが迫ってきた。

 

「!」

 

 振り返ったバダーが目の当たりにしたのは、体色と同じ黒と赤に染めぬかれたマシンを駆り、迫りくる異形のライダー。

 

「クウガ……!」声音に歓喜が宿る。「よく来たッ、最後のひとりだ!!」

 

 あえてスピードを緩め、その到来を待つバダー。一方で追撃するクウガは、新たな相棒であるビートチェイサーの速度を限界まで上昇させていく。

 

「……ッ、」

 

 最初から自分の――クウガのために造られたマシン。それゆえ純粋な白バイの試作機だったトライチェイサーよりとにかく性能を高めることに注力されていて、操作性に難がある――有り体に言えば、気難しい。

 自分はそういう人間をよく知っているのだ。ずっとうまくいかなくて、苦しかった。――けれど、いまは違う。

 

(僕も彼も、あの頃とは違う。何故か、)

 

(それは僕らがお互いに、たくさんの人と絆を結ぶことができたからだ)

 

(おまえもそうだ、ビートチェイサー)

 

 

「ここには僕とみんなとッ、トライチェイサーの魂がある!!」

 

 暴走しかかるマシンを、クウガは御した。寸分と経たないうちに、バギブソンと並ぶ。

 

「フン、そんなバイクで!」

 

 鼻を鳴らしたバダーがマシンの後輪を持ち上げ、ビートチェイサーの車体に振り下ろしてくる。

 

「ッ!」

 

 ハンドルを左に向け、攻撃をかわす。トライチェイサーより遥かに反応が良い。

 

(よし……このマシンなら!)

 

 その高い能力を確信したクウガは思いきった行動に出た。マシンを勢いよく幅寄せし、バギブソンにぶつけたのだ。火花が散り、車体が大きくぐらつく――バギブソンの。

 

「グウゥ……ッ!?」

 

 持ち前のライディングテクニックで態勢を立て直しつつも、バダーは狼狽していた。自分とバギブソンのコンビを前に、かなうマシンなどありはしなかった。皆、逃げまどうしかなかった――このクウガは生意気にも立ち向かってきたが、それとて敵ではなかったはずなのに……。

 

(俺のバギブソンより上だってのか、こいつのマシンが……!)

 

 ギリ、とグリップを握る手に力がこもる。

 

 だが、だとしても――

 

「性能はそっちが上だろうがッ、バギブソンを完璧に乗りこなせる俺が勝つ!!」

「………」

 

 クウガが一瞬、目を伏せる。

 

「……その台詞だけ聞いたら、ヒーローみたいだね」

 

 認めざるをえない。自分自身の能力なんてたかが知れている――そもそもが、借り物の力でここにいる木偶の坊のデクなのだから。

 

「それだけ僕は、多くのものに支えられて戦ってる。いままでも、これからも」

「……バンザド?」

「ふっ……」

 

 思わず、笑みがこぼれる。

 

 

「――このマシン(ビートチェイサー)に乗ってるのは、僕ひとりじゃないって言ってんだよ!!」

 

 トライチェイサーの魂たるグリップを力いっぱいに捻り、急加速。最高時速の420キロにまで刹那のうちに到達し、疾風が巻き起こる。

 

「!、~~ッ!!」

 

 苛立ちを露にしながら、追いすがるバダー。本調子でないことを差し引いても、バギブソンでは追いつけない。その距離は開く一方だ。

 

 暫し走り続けたクウガは、ふと背後を見遣った。バダーとバギブソンの姿が豆粒ほどの大きさにしか見えなくなっている。そろそろ潮時だろう。

 

 アクセルを握る右手から力を抜き、入れ替わりにブレーキを握る左手に力を込める。時速420キロからの急ブレーキなど狂気の所業としか言いようがないが、ビートチェイサーであれば問題ない。トライチェイサー同様に尾部からパラシュートが射出され、安全に速度を落とすことができる。

 

 結果的に制動距離もほとんどなく、マシンは停車した。再び振り返るクウガ――今度は、車体ごと。

 

「………」

 

 徐々に迫りくる宿敵の姿が視界に入る。いよいよ決着をつける時――そう心していると、不意に頭上に影が差した。

 

『カディル・サキナム・ター』

「!、そうだね……おまえを忘れちゃいけないよな、ゴウラム」

 

 彼もまた、大切な仲間のひとり。――そしてこのビートチェイサーならば、彼の力を最大限に活かすことができる。

 頭上のゴウラムが降下しながら……ふたつに割れる。マシンに接触し――融合する。

 

――ビートゴウラム。トライゴウラムとほとんど変わりない姿だが、素体となったマシンの差ゆえ、性能は大きく上昇している。

 

「さぁ――行こう!」

 

 再び、走り出す。バダーも速度を緩めることなく迫りくる。さらに上昇した最高速度を見せつけてやれないのは残念な気もしたが、こいつに敗北感を与えること自体に意味はない。

 

 全身に力を込めるクウガ、その身に電撃が奔る。電撃はその身にとどまらず、ビートゴウラムの車体にまで広がっていく――

 

 クウガが赤の金・ライジングマイティへ姿を変えると同時に、ビートゴウラムにも変化が起きた。フロントに黄金の装飾が施され、牙もまた金に染まる。ライジングパワーが、ゴウラムにまで作用したのだ。

 

「!、よし……!」

 

 予想どおりだ。ライジングフォームになる際にゴウラムへ意志を向けていれば、自分自身と同様に強化できるのではないか――以前、幼なじみが言っていたこと。

 

 流石に正面から来るバダーも怯んでいる様子だが、今さら退くこともできないのかまっすぐに突っ込んでくる。反転して逃げ出したところで、ライジングビートゴウラムのスピードであれば数秒といらずに追いつけるだろうが。

 

「終わりだ――ッ!!」

 

 大きく膨れあがった黄金の牙を、炎と雷とが覆い尽くす。迫りくるそれで視界がいっぱいになる瞬間、バダーは絶叫していた。ほとんど、特攻に臨むような心持ちだったろう。

 

 いずれにせよバギブソンはライジングビートゴウラムに打ち勝つどころか先端を触れさせることすらできず、その巨大な牙にライダーもろとも挟み込まれてしまった。

 

「ガッ、アガァ……ッ!?」

 

 ずりずりと道路を引きずられ、牙が身体に食い込んだ状態で封印エネルギーを流し込まれるグロンギ。彼が操っていたマシンも、その圧倒的なパワーに耐えきれず砕け散ろうとしている。

 

「ゴ、ゴセパァ……!キョ、グギン、サギザザァ……!」

「………」

 

「もう、終わりだよ」

 

 牙にこもった力がピークに達した。バダーもバギブソンも、頑丈なその身を容易く捻じ切られて絶命する。同時に砕け散ったバダーのバックルが大爆発を起こした。

 

「……ッ、」

 

 わずかに姿勢を低くして、爆風に耐えるクウガ。以前もそうだったが、ゴウラムのボディが彼とマシンとを爆発から守り通してくれる。その頑丈さに感嘆するとともに、感謝するほかない。

 

 爆炎が収まり、焦げた匂いが漂う。かのグロンギの痕跡はもう、それ以外には存在しない。

 ふぅ、と息をつき、マシンから降りる。漂う白煙の残滓を見下ろしていると、彼方からサイレン音が聞こえてきた。

 

 暫ししてパトカーの群体が現れ、車内から背広であったりヒーロースーツであったりと、様々な姿かたちの人々が降りてくる。彼らの視線は一様に自分に向けられている――クウガになったばかりの頃にも、同じようなことはあった。

 

 ただ、あのときとは決定的に異なる点がひとつある。――彼らの瞳に宿るのは敵意ではなく、仲間への信頼と称賛。ただその、曇りなき想いだけ。

 

 クウガは――緑谷出久は、まっすぐにそれに応えてみせた。向けられた感情を受け止め、そして彼らに何倍にもして返す。その行為に、ことばはいらない。

 

 握った拳に、唯一ピンと立てた親指。それだけで、十分だった。

 

 

 

 

 

 アジトとしている廃屋の中で、死柄木弔はひとり、ぼうっと窓の外を眺めていた。鈍色の雨雲に覆われたまま、暗闇へ堕ちていく空。ひどく心地が良い。このまま永遠に朝が来なければいいのにと、思考の濁った頭で思う。そもそも彼は、朝が来て昼になって、やがて夜が来るという変化そのものに順応していなかった――ずっと、窓もない狭い部屋で過ごしていたから。

 

「どうしたの、ダグバ?」ゴ・ジャラジ・ダが声をかけてくる。「今日もたくさん殺して……疲れた?」

「………」かぶりを振り、「……わかんない。頭のなか、ぐるぐるする」

「そう……」

 

 彼が敵連合の王だった頃の記憶は、未だに戻らない。しかし消失してしまったわけではなく、彼の頭の中にある、どろどろとした滞留の奥底に沈んでいるのだろう。それは無意識下で、彼の精神を蝕み続けているに違いない。

 

 そのことが果たしてどんな結末をもたらすのか、ジャラジにはわからない。ただ己の望む方向へ彼が進んでくれればいいと思って、行動をともにしている。

 

 こけた頬に触れ、そっと撫でてやれば、弔は濁った瞳のままはにかんだ。夜が明ければまた、殺戮がはじまる。

 

 

 

 

 

 病室にて、心操人使は私服に着替えている最中だった。治療は既に行われ、完治とはいかないまでも傷は癒えている。グロンギが倒された旨は既に連絡を受けているものの、それでも病室でじっとしていられないのは若さゆえか。

 

 いずれにせよ安静にしているよう言われているので、今日明日は自宅で読書でもしながら過ごそうか――そんなことを考えていると、ドアが控えめにノックされた。

 

「どうぞ」

「しっ、失礼します……」

 

 ややどもった、成人男性にしては高めな声。開かれたドアの向こうから踏み入ってきたのは、予想どおりの童顔の友人の姿だった。

 

「緑谷……わざわざ見舞いに来てくれたのか?」

「うん。元気そうでよかった……もう退院?」

「まあ、筋トレとかはほどほどにしろって言われちゃったけど。――それより聞いたよ、43号、やったんだってな。ビートチェイサー、乗りこなせたんだって?」

「うん、皆のおかげでね。心操くんもありがとう」

「別に何もしてないけど……落ち着いたらまた行くか、ツーリング」

「うん!」

 

 笑みをかわしあうふたりの青年。このときばかりは、彼らは"仮面ライダー"である以前にごくありふれた親友同士だったのだけれど。

 ふと出久の後方から視線を感じて、目線を上げた心操は思わず身を強張らせた。

 

「?、どうしたの心操くん?」

「い、いや……うしろ……」

「?」

 

 彼の人差し指に従って振り向いて、出久もまたぎょっとした。開いたドアの隙間から、犬の顔が覗いていたのである。

 

「……邪魔したかな?」

「!、あ……」

 

 しゃべる犬。ただそれで、明確に知人であるとわかった。ドアが完全に開かれれば、上等な背広を纏った胴体が露になる。

 

「面構本部長……」

 

 畏まった様子のふたりに対し、面構犬嗣はフッと微笑んでみせた。

 

「突然押しかけたりしてすまない。少し思うところがあってな」

「はあ……」

 

「……きみたちは本当に、よくやってくれた。塚内管理官、それに上層部も非常に喜んでいたよ。代表して、礼を言わせてほしいワン」

 

 父親ほどの年齢の警察官僚が、自分たちに向かって頭を垂れている。出久はあからさまに挙動不審になったし、彼ほど感情の起伏の少ない心操も心なしか赤面している。

 

「いっ、いやそんな!僕はむしろ、皆さんのおかげでやりたいことをやらせてもらってるというか……心操くんはあれだけど……」

「……なんであんた、そうやってすぐ他人を人身御供にすんの」

「へぁっ!?」

 

 親友から非難の目を向けられ、さらに狼狽する出久。ああしまった、と面構は思った。この若者ふたりは己の能力に不釣り合いなほど自己評価が低い。ことばで褒めるのは程々にしないと、かえって逆効果になってしまうようである。

 

「クゥン……まあ形ばかり頭を下げられてもきみら若者は困るだけか」

「い、いや、そういうわけでは……」

「皆まで言わずともよろしい。――ところで、焼肉は好きかい?」

「!」

 

 顔を見合わせるふたり。その瞳がきらりと煌めいたのを、面構は見逃さない。肉が嫌いな若者などいないのだ、まして彼らのように多くのエネルギーを費やしていれば。ややステレオタイプではあるが、少なくともこの場では正鵠を射ていた。

 

「好きだな。よし行こう、当然私の奢りだワン」

「えぇっ、そんな……」

「反論はノーサンキューだワン」

 

 大柄な犬のお巡りさんに半ば強引に腕を引かれ、連行される出久と心操。

 グロンギのひとりをまた倒したといえど、気を抜いてなどいられない。考えなければならないことも、やらなければならないこともたくさんある。――面構にとっては、これもまたそのひとつ。骨身を削って矢面に立つこの若者たちを労ってやりたい……いまはただ、そんな気持ちでいたのだった。

 

 

つづく

 

 





お茶子「次回予告!ってわけで突然ですがデクくん!」
デク「へぁッ、な、なんでしょう!?」
お茶子「子供ってかわいいよね!見てるとこう、あったかい気持ちになるよね!」
デク「う、うん、そうだね!」
お茶子「ってわけで次回は、デクくんと私が幼稚園で子供たちと交流するよ!デクくんと爆豪くんみたいな子もおるよ!」
デク「仲良くしてほしいなぁ……」シミジミ
お茶子「………」
デク「……麗日さん?」

お茶子「……だから憎いんだ。あの子たちの未来を奪った、あいつらが」
デク「!!」

EPISODE 40. 血浴みの深淵

お茶子「誰かを殺してやりたいって思ったこと、ある?」
デク「ダメだっ、麗日さん!!」
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