【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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謎ですよね、このCM


EPISODE 40. 血浴みの深淵 1/3

 小鳥のさえずりが響く、朝の城南大学考古学研究室。

 

 秋の朝、涼やかな風が開いた窓から吹き込んでくる。その爽やかな陽気とは裏腹に、ひとり電話を続ける沢渡桜子の表情には深刻なものがあった。

 

「はい……はい、ええ……間違いないです」

『……やっぱり、アレはクウガを示す古代文字なんすね』

 

 スピーカー越しの声は、爆破のヒーロー・爆心地こと、爆豪勝己のものだった。ぶっきらぼうだが、年長者である自分に対して最小限度の礼節は保っているし、荒々しさも鳴りをひそめている。

 

『"戦士クウガ"を奴が書いたっつーことは、宣戦布告……か?』

 

 自信家の彼にしては、語尾が揺れた。現時点で、死柄木弔は現代のクウガである緑谷出久と一度も接触していない。グロンギである以上は……と考えられなくもないが、それにしたって動機は薄い。宣戦布告するならば、因縁のあるアギト――轟焦凍に対してするのが自然だ。

 

「いえ……おそらく、違うと思います」

『……じゃあ、なんだってンすか?』

「………」

 

 ずっと抱えていた、漠然とした違和感――古代文字の解読を開始した当初から。理屈でなくぼんやりと感じていたものだから誰にも話さず来たけれど……勝己から送られたあの血文字の画像を何度も見て、それが鮮明な、確信となって胸のうちに宿ったのだ。

 あとはそれを、彼が……そして出久が、どう捉えるか。いずれにせよ、伝えないことには始まらない。

 

「私の直感が正しければ、これは――」

 

 

――通話を終えて宿泊している一室へ戻ると、ツインのベッドの片割れが、未だこんもり盛り上がっていた。思い詰めたようだった勝己の額に、ピシリと青筋が浮かぶ。

 

「おいコラ、半分ヤロォ……」

「………」

 

 唸るような声では、掛け布団の中にいる連れには届かない。激怒した勝己は、片足を振り上げようとして……少し考えてから、靴を脱いでその場に置いた。

 

 そのうえで、布団の中心あたりをめがけて踵落としを見舞ったのである。鈍い音に続いて、「ぐぇ」と、涼やかな風貌に似つかわしくない蛙の潰れたような声が漏れる。

 

「電話してる間に用意しとけっつったろうがッ、なに二度寝しとんだ寝坊野郎が!!」

「……いてぇ」

 

 ようやくのそのそと這い出してくる紅白頭。一時期より伸びてきたうえ、寝ぼけ眼の気の抜けた表情は、まるで眠っている間に少年時代に退行してしまったかのようだった。実際にそういう個性がないわけではないので、こうして文字どおり寝食をともにしはじめた当初は内心気が気でなかったのはここだけの話だ。

 

「チッ……3分で支度しろ。メシ食ったら発つぞ」

「5分くれ……」

「アタマ散らすぞ右半分」

 

 右半分丸ハゲの赤髪を想像してか、魂の抜けたようだった焦凍がようやく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。これで顔を洗いでもすれば、多少は見られる顔になるだろう。

 

「チッ……ようやっと連中を捕まえられそうなんだ。気合い入れろ」

「……わかってる。"あの人"に協力してもらえるんだしな」

 

 焦凍が"あの人"と指したプロヒーロー――彼もまた、捜査本部からの要請に応じて協力を快諾してくれた。学生時代……主に1年生の頃は散々ぶっ叩かれたが、おかげでいまの自分たちがあるとも思う。勝己も認める数少ない、頼りになる先輩ヒーロー。

 

「あの人の協力を得られるうちに、決めなきゃな」

「どっちにしろとっとと決めんだよ。そんで東京戻んぞ、じゃなきゃ――」

「――緑谷に顔向けできない、だよな」

「違ッげぇわ決めつけんな!!」

「そうか、悪りぃ」

 

 強敵だったという第43号も、合同捜査本部及びG3ユニット、そしてついにビートチェイサーを乗りこなすことができたクウガ=緑谷出久の綿密な連携の果てに倒されたという。できれば一日でも早く、また彼らと肩を並べたい――焦凍はそう願ったし、勝己も絶対口にはしないがそうなのだろうと思う。

 

(緑谷、おまえも頑張ってるんだもんな。……俺たちも、もっと頑張らねえとな)

 

 死柄木弔を救ける、最後の砦――出久はきっとそうなると自身の勘が告げているし、既に当人へも伝えているところでもある。だがそれに安易に甘えてはならないのは当然のこと。何より本気で事を成そうとしているこの相棒への侮辱にもほどがある。冷たい水で清めたあとの焦凍の表情は、その相棒の予想どおりに引き締まっていた。

 

 

「そういや爆豪。沢渡さん、あの血文字のことなんて言ってた?」

「……あぁ、」

 

 

『――これは、グロンギの文字です』

 

 そのことばを聞いてもなお、勝己の心に波紋は広がらない。元がなんだろうが、クウガはクウガで……デクはデクだ。

 

 

 

 

 

 勝己と焦凍が弔、および行動をともにしている二体のグロンギの追跡に日々を費やしている一方で、緑谷出久はというと、

 

「いずくせんせー!いっしょにおままごとしよぉー!」

「だめー!いずくはおれたちとヒーローごっこするの!」

「あ、アハハ……」

 

 幼稚園にて、スモックを着た幼児たちに囲まれていた。

 絶賛、自分を取り合ってケンカ中の彼ら。「僕のために争わないで!」なんて台詞が脳裏に浮かんで、漏れるのはただただ苦笑ばかり。これほど幼い子供たちと接する機会なんてめったにないから、どう諌めたものかもわからないのだ。

 

 餅は餅屋というべきか、出久の困った様子を察知してプロの保育士が飛んできた。

 

「こらっ、ケンカしない!仲良しできない悪い子は、出久先生と遊んでもらえないよ!――出久先生も、遠慮なく叱ってもらっていいんですからね」

「ハハ……すみません、難しくて……」

 

 言い方こそ許可だったが、実質的には自分もまとめて叱られたようなものだと出久は感じたし、実際そのとおりだった。

 力なく肩を落としていると、背後から「デクくん!」とあだ名で呼ぶ声がかかった。

 

「モテモテだねぇ、このこのっ」

「麗日さん~……」

「ここではウラビティって呼んでよぅ!」

 

 元々丸い頬を膨らませるしぐさを見せるのは、出久の友人である麗日お茶子。ご承知のとおり、プロヒーローである。

 ヒーローネームである"ウラビティ"と呼ぶよう指示したこと、そしてコスチュームを纏っていることからわかるように、彼女がここにいるのは事務所から派遣されてのこと。彼女の所属するブレイバー事務所は救助を専門としているが、幼稚園や養護施設等からの依頼に応じて子供たちとの交流も行っているのである。

 

 

 ではなぜ出久もここにいるのか、それは数週間前のポレポレに遡る。

 

「ボランティア?」

「うん!毎年年2回、春と秋に幼稚園で交流会やってるんだけど、一緒に参加してくれる学生ボランティアも募集してるんよ。デクくんもよかったら応募してみない?」

 

 思わぬお誘い。本当なら願ってもないことなのだけれど、

 

「………」

 

 出久はちょっと困ったような表情を浮かべ、皿を洗う手に目を落とした。お茶子が怪訝な表情を浮かべる。

 

「……もしかして、小さい子苦手?」

「へっ、あ、いやそんなことは……少なくとも嫌いではないよ。ただ僕、急用入っちゃうことが多いから……迷惑かけちゃうとよくないし」

「あー……」

 

 確かにそこはネックではあった。だが出久に行きたい気持ちがあるのなら、お茶子としても早々に引き下がるわけにはいかない。

 

「大丈夫!デクくんが世のため人のため頑張っちゃう人だって、ブレイバー所長も知ってるからさ!」

「へぁッ!?な、なん……まさか僕のことしゃべってるの?ブレイバーにまで!?」

「そりゃまあ……ウチの事務所そんなに規模大きくないから、所長とチームアップすることもあるし。"是非一度会ってみたい"って言っとったよ!」

「……僕のこと、かなり美化して話してませんか?」

「してないしてない!至って公明正大にお伝えしております!」

 

 いや、まったくしていないかといえば嘘になる。お茶子は出久の人格を高く評価しているわけで、元々90点のところを100点満点に膨らませて伝えるくらい意識せずやれてしまう。ただ出久自身は自分を20点くらいに思っているから、必然的に「美化しすぎだよ!」ということになるのである。嗚呼、哀しい哉。

 

「そんなわけだからさ!どーしても抜けなきゃならない場合があるくらい、大丈夫だって!」

「うぅん……」

 

 出久が口をムズムズさせている。気持ちがぐらついているのだろう。あとひと押し!お茶子の瞳が猛禽類のようにギラリと光った。

 

「ときにデクくん。夏休み忙しくて、インターンとかも行けなかったって言ってたよね?」

「う、うん」

「ウチの事務所、規模拡大に向けて次年度以降スタッフの新卒採用も増やす方針らしいんだ。……ココでブレイバーに気に入られとけば、ウフフ、わかるよね?」

「!!」

 

 出久の表情が一瞬、見てはいけないようなものになってしまったのはこの際置いておくとして。

 

 いずれにせよお茶子のぶら下げた餌は、この慎重にも程がある魚を見事に釣り上げたのだった。

 

 

――というわけで、戻って、本日この頃。

 

 プロヒーローと学生ボランティアによるチームアップの一環として、お茶子と出久は一緒になって子供たちと遊んだり、ヒーローの活躍をわかりやすく描いた紙芝居を披露したりと、派遣されたメンバーの中でも特に精力的に活動していた。

 

「ふぅ……」

 

 そんな彼らにも10分ほどの中休みが与えられた。出久は気分転換に庭に出て、息をつきつつぐうっと伸びをする。――と、傍らから缶ジュースが差し出される。

 

「お疲れさま、デクくん」

「あぁ……ありがとう。うらら……ウラビティ」

 

 にっこりと笑い、「いまはどっちでもいいよ」とお茶子は応じた。

 

「疲れた?まあ、慣れないことしてるもんねえ」

「うん……でも楽しいよ、本当に。誘ってくれてありがとう」

「ふふ、どーいたしましてっ。――でもやっぱりアレやね、デクくんって意外と鍛えてるよね」

「へっ、そ、そうかな?」

「そうだよ。これでも一応プロのはしくれだからね、見てればわかるよ。身のこなしとか」

「そっか……」

 

 出久が嬉しそうに右手を見つめている。そこに走る傷痕。お茶子は静かに目を伏せた。以前はただ痛々しいだけだと思っていたけれど、いまは――

 

「……ねえ、デクくん――」

 

 

「――あっちいけよ!!」

 

 にわかに響く稚い罵声に、ふたりははっと顔を上げた。次いで聞こえてくるのは、別の子供の泣きわめく声。

 

 ふたりとも腰を上げるのは速かったが、寸分出久のほうが先んじた。声のした砂場のほうへ、全力で走っていく。お茶子もすぐあとに続いた。

 

 そこにいたのは、スモックを着たふたりの少年だった。一方が地べたに尻餅をついてわんわん泣いており、もう一方が立ち尽くしてばつの悪そうな表情を浮かべている。その光景を目の当たりにした途端、お茶子の頭に血が上った。

 

「何やってるの!!」

「!?」

 

 ぎょっとこちらを見たふたりの少年。怒りを露にしたプロヒーローがずんずん迫ってくる。いくら幼く見える若い女性といえど、幼児に与えるプレッシャーは凄まじい。

 

 結果、

 

「う、うぁ……うわぁあああああん!!」

「!?」

 

 号泣――ふたりとも。抑制されることなくあふれ出す感情の奔流は、子供の感覚を忘却しつつあるお茶子には刺激が強かった。

 

「え、あ、ごめ……ちょっ……」

 

 しまった、泣かせてしまった。色をなしてしまったことを早くも後悔しつつ、お茶子はひたすら慌てていた。

 すると、意外や出久がす、と歩み寄り――

 

「大丈夫、僕が来た!」

 

 ふたりの頭に手を置いて、そう告げたのだ。普段の彼からは想像もつかない、堂々とした声音で――

 

「……なんてね。知ってる?オールマイト」

 

 しゃくりあげながらも声をあげて泣くのをやめた少年たちは、顔を見合わせたあと、小さくうなずく。

 

「……パパとママが、ヒーローのどうがみてるとよくはなしてくれる」

「……うちも」

「そ、っかぁ……パパママ世代だよね、もう」苦笑しつつ、「僕、小さい頃大好きだったんだ……いやいまでも好きだけどね。だから真似してみました!」

 

 へへ、とおどけて笑ってみせたかと思うと、その笑みがフッと穏やかなものになる。

 

「"あっち行け"って言ったの、きみ?」

「!」

 

 よく言えば利発そうな、しかし実際のところかなり生意気そうな雰囲気の少年に尋ねる。彼は一瞬肩を震わせたが……あくまで穏和を崩さない出久の態度に、おずおずとうなずいた。

 

「そっか。どうしてそんなこと、言っちゃったのかな?」

「だ、だって……っ!」

 

 半ば涙声のまま、少年は必死に訴えかける。――ここで遊んでいたら、自分が転んでしまった。そうしたら引き連れていた隣の少年が、助け起こそうと手を差し伸べてきた。おれは大丈夫なのに、ひとりで起きられるのに。どんくさくて弱っちいこいつが、おれを助けようとするなんて――そんな怒りのままに突き飛ばし、叫んだ……ということらしい。

 

 そんな経緯を傍らで聞いていたお茶子の脳裏に、目の前の青年と、そして彼の幼なじみである高校の同級生の顔が交互に浮かんだ。そういえばこの子供たち、どことなく雰囲気が似通っている――

 

 同じく感じるものがあったのか、出久もまた元々大きな目をさらに丸くしていたが……やがてまた、穏やかな微笑を浮かべた。

 

「そっか。……きみは、この子が嫌い?」

 

 微笑とは裏腹に、それはあまりに重い問いかけだった。訊かれた少年が弾かれたように顔を上げ、傍らの少年は怯えたような表情で出久と友人とを交互に見遣る。

 

「ち、ちがっ……きらい、なんかじゃ……!」

「じゃあ、大切?」

 

 はっきりそうだと認めることは幼児にしても恥じらいがあるのだろう、少年はやや俯きがちに……ただそれでも、こくんとうなずいた。

 

「そっか。大切だから、いつもこの子を守って、助けてあげる方で……この子のヒーローでいたいんだよね」

「……うん」

 

 まるで催眠術にでもかかっているかのように、少年は素直にうなずく。大切な友だちをつい邪険にしてしまう理由を受け止められ、理解されているからか。今日、初めて会った青年に。

 

「そっか、そっか」確かめるようにうなずきつつ、「でもね……自分のヒーローがつらそうにしてたり、転んだりしたとき、助けることもできないのはすごくかなしいんだ。――ね?」

 

 もう一方の、おとなしそうな少年が遠慮がちにうなずく。その大きな目には、涙がいっぱいにたまっていた。

 

「きみも、この子が大切なんだね」

「うん……っ」

 

 転んで痛そうにしていたら、自分もなんだか痛くなる。大切なぼくのヒーローで、友だちだから。涙声で、少年は訴えかける。

 

「そうだよね。友だちがつらそうにしてたら、助けになってあげたいよね」

「………」

「それはきっと、強いとか弱いとか関係ないと思うんだ。――だから一番必要なのは、相手が自分を大切に思ってくれてるんだって、自信をもつことじゃないかな?」

 

 「ね、」と、穏やかに告げる出久の表情に、何か感じるものがあったのか。突き飛ばしたほうの少年が、もう一方におずおずと歩み寄った。

 

「……ごめん、りく」

「!」

「おまえ、よわっちいけど……やさしいだろ。だから、いっちゃんすげえおれをたすけたりしたら……おまえ、せかいじゅうのみんなをたすけに、どっかいっちまうきがしたんだ。おまえがいなくなっちまったら、ヤなんだ……っ」

「たっちゃん……!」

 

 "りく"が、たまらない様子で"たっちゃん"に抱きついた。

 

「ぼく、どこにもいかないよ……たっちゃんのそばにいるよ……!たっちゃんのことたいせつだから、たっちゃんがこまってるときは、ぼくがたっちゃんのヒーローになりたいんだもん……っ!」

「りく、りくぅ……っ!」

 

 抱きしめあったまま、わんわんと泣きわめくふたり。そんな彼らを見つめる出久の瞳にもきらりと光るものが浮かんだのを、お茶子は見た。

 

 

 

 

 

「あの子たち、陸くんと大河くんって言うんやね」

 

 交流会の佳境。帰りのバスに乗り込んでいく子供たちを見送りながら、お茶子。客観的にはなかなか唐突なつぶやきだったのだが、聞かされた出久にとってはそうではなかった。

 

「うん。なんかお互いの呼び方までそっくりで……びっくりしちゃった」

「アレやね、世の中にはそっくりさんが3人はいるって言うけど、コンビ単位でもあるのかもねそういうの!」

「えぇ……ど、どうかなぁ……」

 

 自分と幼なじみのような凹凸にも程があるコンビ、世にそう何組もいてはたまらない。出久が内心そう毒づいていると、

 

「いずくせんせー!!」

「!」

 

 噂をすればの声。見れば、そっくりさんコンビの片割れが飼い犬のようにこちらに駆け寄ってくるところだった。少し遅れてもう一方も――「まってよたっちゃーん!」と叫びながら。

 

「大河くん、陸くん……走るとまた転んじゃうよ?」

「あれはたまたまだ、かんたんにはころばねーよ!……あの、これ」

 

 遠慮がちに差し出されたちいさな掌。その上に乗っていたのは、赤と黒の異形をデフォルメしたストラップ。

 

「これ……クウ、4号の?」

「うん、おれのいちばんすきなヒーローなんだ!だからやるよ!」

「あ、たっちゃんずるい!ぼくも!」

 

 今度は陸が差し出してくる――ヒーロー・爆心地のストラップ。

 

「こいつばくしんちがいちばんすきなんだって!かわってるよなー」

「だってかっこいいじゃん!」

「あんなのいばってるだけじゃん、4ごうのほうがかっこいいっての!」

 

 「ばくしんち!」「4ごう!」と、今度は好きなヒーローをめぐって揉めようとしているふたり。微笑ましいことは微笑ましいが、せっかく深まった友情に亀裂が入っては困る。

 

「もう、喧嘩しない!それよりこれ……本当にもらっちゃっていいの?」

 

 「大事なものなんでしょ?」と訊くと、大河が「だからだよ」と笑った。

 

「なかなおりさせてくれたいずくせんせーも、おれたちのヒーローだからな!」

「!、~~ッ」

 

 おれたちの、ヒーロー――およそ人生で初めてぶつけられたことばに、出久は思わず感涙に咽びそうになった。幼児から見ればいい大人が号泣したら引くを通り越しておぞましいだろうと思って、どうにか涙ぐむだけにとどめたが。

 

「あ、ありがとう……大事にするよっ」

「ふふ……よかったね、デクくん」

 

 ストラップをしっかりと握りしめる友人を、お茶子は微笑みながら見つめていたのだが……子供たちの純な瞳が、彼女に向いて。

 

「なぁいずくせんせー、ひょっとしてこのおばさんとつきあってんの?」

「!!?」

 

 ニヤリと笑った大河の口から放たれた質問は、成人ふたり、とりわけお茶子を恐慌状態に陥らせるに十分だった。

 

「つ、つきあ……おばさん……」

「だめだよたっちゃん!」意外や陸が毅然と言う。「そういうのはでりけーとだからきいちゃだめって、せんせいいってたよ。あとウラビティはまだわかいからおねえさんだよ」

「ふーん」どうやら怒鳴られたことを根にもっているらしい。

「もうっ、そんなんじゃこんどのりょこう、つれてってもらえないよ!」

「あ、そ、そっか……今度幼稚園のみんなで行くんだよね」

 

 話題を逸らすために旅行の話に乗ることにした出久だったが、幼少凹凸コンビはぱあっと瞳を輝かせてうなずいた。

 

「うん!ひこうきのってね、おきなわってところいくの!」

「10がつでもおよげんだって!スゲーよな!」

「そうだね。ふたりとも、楽しい思い出がつくれるといいね」

「「うん!」」

 

 力強くうなずいたふたりは、やがて保育士の催促の声を受けてバスまで走っていった。「ばいば~い!」と手を振りながら。

 

「……も~、生意気!」復活したお茶子がぷりぷり怒っている。

「アハハ……そうだね。――ああやっていつまでも、仲良しでいてくれたらいいなぁ……」

 

 しみじみとつぶやく出久。彼が幼なじみと仲良しでいられなかったことは、お茶子もよく知っている。お互いの本当の気持ちが見えなくなり、すれ違ってしまった。陸と大河もそうなりかけていたけれど、

 

「大丈夫だよきっと、デクくんが仲直りさせてあげたんやもん」

 

 断言するお茶子。出久のことばがあったから、ふたりは本音をぶつけ合うことができた。喧嘩をすることくらい、これからだってあるかもしれない。それでも今日のことを忘れない限り、きっと何度でも、彼らは仲直りできる――

 

「そうだね……そうだよね、きっと」

「うん!……それに比べてなぁ、」肩を落とす。「いいとこナシだったなぁ私……曲がりなりにもプロヒーローなのに」

「いっ、いやそんなこと……」

「いいのわかってるから!私ももっとがんばらないと!デクくんに負けないようにねっ」

 

 サムズアップしてみせるお茶子の負けん気の強い表情は、かつて自分がヒーローにふさわしいか迷っていた少女とは、まるで別人のようだと出久は思った。

 

(僕に負けないように、か……。僕もまだまだ、がんばらないと)

 

 いつ終わるとも知れない、グロンギとの戦いを――

 

 決意を新たにする出久を、お茶子はちら、と横目で見つめていた。何か言いたげな表情を浮かべつつも……穏やかに笑って、それを胸にしまう。いまはただ、あの子供たちの温かな未来を想っていたかった。

 

 




特救ヒーロー・ブレイバー

本名:葵 勇輝

個性:ブレイブ→勇気をエネルギーに変えるぞ!

ヒーローコスチューム:全身を包む濃紺の強化装甲!


レスキューといえばね、うん。

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