【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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作者、インフル

熱が上がってこないと気づかないから怖いよね
昨日昼前に発熱したんですが、もう少し遅かったら危うくプールに泳ぎに行くところでした。


そして今回登場のベテランヒーローの活動地域については捏造しました。口癖からして名古屋とかあっちの方がよかったのかもしれませんが。


EPISODE 40. 血浴みの深淵 2/3

 数日後。

 

 爆豪勝己と轟焦凍は、今日も今日とてとあるヒーローの事務所を訪れていた。

 

「毎日来ててもちょっと緊張するよな、ここは」

「しねえよ。つーか、テメェもそんなタマかよ」

 

 軽口を叩きつつ、サイドキックに挨拶をして所長のところまで通してもらう。事務のスタッフ等を除いた純然たるサイドキックだけでも優に20名を超える、大規模な事務所――その協力をすんなり得ることができたことを思えば、高一の仮免試験、ふたり揃って一度不合格になってしまったことすら無駄ではなかったように感じられるから人生は不思議だ。

 

「シャチョー、爆心地とショートです」

 

 この事務所特有の呼び名とともに、所長デスクの前へ。この所長(シャチョー)、なぜか毎日こちらに背中を向けてそっけなさを演出しているのは、この際気に留めないことにして。

 

「ふん、貴様ら性懲りもなくまた来たのか。いつまで私の手を煩わせる気だ、ヒヨッコども」

「……今日こそ終わらせたるわ」

「よろしくお願いします、」

 

 

「――ギャングオルカ」

 

 ギャングオルカ――本名、逆俣空悟。20年以上のキャリアを誇り、ヒーローランキングトップ10に名を馳せるベテランヒーローである。勝己たちの学生時代、仮免試験及びその補講にも招かれていた――その鬼教官ぶりは心身に嫌というほど刻み込まれている。

 

 しかし、だからこそ勝己も焦凍も理解している――その厳しさは、優しさの裏返しでもあるのだと。

 

 露骨にため息をつきつつ、ギャングオルカは立ち上がった。シャチそのままの顔、その鋭く吊り上がった瞳がこちらに向けられる。

 

「いいだろう、引き続き協力してやる。勘違いするなよ、一般市民の安全な暮らしを守るためだ。貴様らのためではない」

「ありがとうございます」

 

 一礼する勝己。すると、

 

「なんだ貴様、牙を抜かれたシャチのようにでらしおらしくなりおって!五年前の貴様ならもっと噛みついてきただろう。しょせん若造は若造、大人ぶってないで覇気を見せんか!それと轟焦凍、貴様は貴様で"あと5分寝たかった"とでも言いたげな顔をしおって――」

 

 急に始まった謎の説教を半目で聞き流しつつ、勝己は思った。「このオッサン、やっぱ面倒くせぇ」……と。

 

 

 

 

 

――同時刻 東京

 

 警視庁内に設置されて既に半年以上が経過する未確認生命体関連事件合同捜査本部では、所属する警察官とヒーローが一堂に会する定例会議が開かれていた。

 

「――新装備開発の進捗状況については以上だ。次に、各地で殺戮を続けているX号、42号、3号……及び、奴らを追跡している爆心地とショートの状況について――エンデヴァー、報告を」

「うむ」

 

 機敏に立ち上がるエンデヴァーこと轟炎司。目下の書類に一瞬視線を落とすと、会議室中によく通る声で報告を開始した。

 

「X号らは長野県、愛知県、群馬県、新潟県と移動しながら殺戮を続け、現在宮城県牛三市に潜伏中との情報が入っている。その情報に基づき、ショートと爆心地も三日前に牛三市内へ入り、現地のギャングオルカ事務所と共同で目下捜索を行っている状況である」

「ギャングオルカってあのトップランカーの?エンデヴァー直々の依頼とはいえよく協力を受けてくれましたね」

 

 「超多忙でしょうに」と森塚。本来このような不規則発言は咎められるべきなのだが――実際、以前はそうだった――、もはや彼のキャラクターとして定着してしまっているうえ、そのひと言がさりげなく行き詰まりを解消する場合も多々あるため、本部長も管理官も特に注意しなくなっている。

 

「息子たちが雄英高校一年のときのヒーロー仮免許取得試験、及び不合格者への補講を担当したのがギャングオルカだ。彼も教え子は可愛いのだろう」

「ほぉ……学生時代の伝手ってヤツですね」

「うむ。――話を戻すが、昨日までの時点では発見には至っていない。ただ牛三市内にいくつか奴らのアジトとなりうる施設等が存在しており、絞り込みがかなり進んでいるとのことだ。奴らが再び移動していない限り、本日中には発見に至る公算が高い」

 

 何より息子――焦凍の勘が、戦闘の予感を告げているらしかった。

 

「近隣住民への避難の呼びかけ等は?」

「ああ」塚内が引き継ぐ。「あくまで潜伏中のヴィランの捕縛、及びそれに伴う戦闘の発生として宮城県警に勧告及び避難誘導を行ってもらう手筈になっている」

「これまでのように住民に危害が及ばないことを期待したいですけど……科警研の例もありますしね」

 

 大量虐殺が行われているのになんと呑気な台詞か――そう思われるのも無理からぬことかもしれない。無論、これには理由があった。

 

「しかし一体どういうつもりなのか――我々人間ではなく、同じ未確認生命体を次々に殺害するなんて」

 

――弔たちが虐殺した、100体超の身元不明の屍。その身体のどこかには、いずれも動植物を模したタトゥーがあった。そして何より……腹部に埋め込まれた、霊石、霊石、霊石。

 

「死柄木弔とお仲間が正義に目覚めた……はまずありえないとして、ただの仲間割れとも考えづらいですしね」

「うむ……」

 

「――これは私見だが、」

 

 いつもは本部長として聞き役に徹している面構が声をあげた。部下たちの注目が、自ずから集まる。

 

「ショートが死柄木弔から聞いたという"整理"……これがヒントであり、同時に答でもあるはずだワン」

「人間を対象にして使うとなると、人員整理とかありますよね」

 

 有り体に言ってしまえば――リストラ。

 その意味を一同が理解した途端、室内の気温が何度も下がったようだった。

 

「……奴らは死柄木を使って、もはや不要になった仲間を処分しているのかもしれないな」

 

 誰からともなく漏れたつぶやきは、時にこれ以上なく真実を言い当てる。おそらく、今回も。

 彼らがこれまで、そしてこれからも戦い続けねばならない敵は――グロンギは、そういう存在なのだ。

 

 

 

 

 

――東京国際空港

 

 大田区旧羽田町に所在し、通称"羽田空港"とも呼ばれる空の玄関口。秋の行楽シーズン、多くの旅行客でごった返していた。

 

 その一角……ロビーのソファーに、ある女性の姿があった。パンツスタイルのスーツ姿に飾り気のない眼鏡といういでたち。たおやかな笑みを浮かべながらノートパソコンを操作する姿は、傍から見ればビジネスウーマンか投資家か。いずれにせよ、この場に存在することになんの違和感も抱かせない姿だった。

 

 しかしそんな彼女に近づくふたりの男の姿は、それぞれパンクロック風、和装と、一般的なそれからはややかけ離れたもので。

 

「一気に243人か」

「貴様にかかれば、容易いゲゲルだな」

 

 女は液晶に目を落としたまま、

 

「ザギバス・ゲゲルに進むんだから、余計な力を使いたくないの」

「ザギバス・ゲゲル……か。――貴様に、あの老体が殺せるか?」

「もちろん。そしてあなたたちと、殺しあうことになるかもね」

 

 柔和な笑みを崩さぬまま剣呑なことばを言い放ち……立ち上がる。腕時計の短針と長針は、既に定刻を示そうとしていた。

 

「……時間だわ。それじゃ」

 

 歩きだす――ゴ・ジャーザ・ギ。彼女のもたらす惨劇を予言するかのように、行き先で待つバラのタトゥの女――バルバの纏うドレスは、赤く色づいていた。

 

 

 

 

 

 緑谷出久は城南大学を訪れていた。所属する学生である以上それは特異なことでもなんでもないのだが、今日が休日であることを考えると事情は変わってくる。以前ならいざ知らず、クウガとなってからというもの、出久の休日はトレーニングアルバイトトレーニングアルバイト時々捜査会議といったような具合で、わざわざキャンパスに足を運ぶなど滅多にあることではなかった。

 

 ならばなぜここに来たかというと、

 

 

「――あ、いらっしゃい出久くん」

「こんにちは、沢渡さん」

 

 考古学研究室に入り、沢渡桜子と挨拶をかわす。友人なので私的に会うことも当然あるが、ここに来る以上はやはりクウガがらみなのである。

 

 それは彼も同じようで。

 

「よう、緑谷」

「あ、心操くん……早かったね」

「今日は図書館使う日って決めてたからな」

 

 休憩用の丸テーブルを陣取り、ちゃっかりコーヒーをいただいているのも同じく友人、心操人使だ。目の下の隈は生まれつき……らしい。

 

「おまえはトレーニングしてきたんだろ?」

「うん!今日はね、筋トレしてプールにも行っちゃった」

 

 珍しく得意げな表情で力こぶをつくってみせる出久。半年前までに比べればそれは頼りがいのあるものになっているのだろうが、残念ながら既に長袖の季節なので見た目にはわからない。

 それにしても、

 

「なんかご機嫌だな……いいことでもあった?」

 

 見るからにほわほわとした雰囲気を醸し出している。元々、感情の起伏がわかりやすい青年ではあるが――

 

「ふふ、実はね――」

 

 リュックにぶら下げたストラップをふたりに見せつける。数日前、大河と陸にもらったものだ。

 その経緯を聞いて、心操と桜子の表情も朗らかなものになった。

 

「ふふ……よかったね、出久くん」

「うん!……ただまあ、かっちゃんはともかくクウガって僕自身なわけだし、ヘンな感じもするんだけどね」

「いいんじゃないの別に。俺もG3のグッズが出たら一個くらい身につけたいし……出ないだろうけど」

「い、いやいやそんな……」

 

 自虐ぎみの心操をふたりで宥めていると、廊下からドタドタと足音が迫ってくる。その音の激しさを聞いただけで、三人とも「あぁ、彼が来たな」とわかってしまった。

 

 ほどなくして大柄なシルエットがすりガラス越しに浮かんだかと思えば、勢いよく扉が開かれて。

 

「遅くなりました!!面目次第もございませんッ!!」

 

 190センチ近い巨躯をほぼ直角に折り曲げ、謝罪の意を示すのはこの場で唯一のプロヒーロー……インゲニウムこと飯田天哉である。出久たちが私服姿であるのに対してひとりだけかっちりとしたスーツ姿なのも、妙に浮いてしまっている。

 

「ちょっ、飯田くんいきなり謝罪から入るのはやめて!」慌てて制止する出久。「捜査会議の都合で遅れたってみんなわかってるから、連絡ももらってるし!」

「そもそも、遅刻咎めるほどちゃんとした集まりじゃないですよ……」

 

「そういう問題ではないのです!ぼ、俺は以前、"社会人たるもの30分前行動は基本中の基本だ"などと緑谷くんに対して見得を切った、それが自分自身で実践できていなかったとは……この飯田天哉、一生の不覚……ッ!」

「……あんた、めんどくさいって言われない?」

 

 心操の毒舌が容赦なく炸裂したのだった。

 

 

 

 

 

 どうにか飯田が落ち着いたところで、先ほどまで心操がひとりで占拠していた丸テーブルを4人で共有して座る。桜子、心操、飯田とそれぞれ雑多な資料を用意してきているので、唯一手ぶらの出久は少し恥ずかしかった。

 

 ただ……出だしに桜子が提示したものの説明を受けているうち、それどころではなくなったのだけれど。

 

「クウガのマークが……グロンギの文字……」

 

 勝己が桜子に送った血文字の画像――それを印刷したものを目の当たりにして、一同はことばを失わざるをえなかった。「まだ私見の段階だけど」と付け加えつつ、確信のこもった口調で桜子が説明する。

 

「リントは本来、争いを好まない平和な民族だって話は前にしたよね?もちろん人間だから、ちょっとした喧嘩や諍いはあったかもしれないけど……それこそ戦争とか、個人レベルなら殺人とか、そういう重大な争いに発展することはなかった可能性が高いわ」

「……そのような民族であるならば、確かに戦士という概念が存在するほうが不自然ですね」

 

 戦闘が行われないならば、戦士という存在があるわけがない――考えてみれば、当然のこと。

 

「それでクウガの誕生にあたって、敵であるグロンギからクウガを表すための文字を輸入したってわけか。……ただ"戦士"を表すにしては、そのものズバリそっくりすぎる気もするけど」

 

 突き出た四本角をもつそれは、クウガやゴウラムのモデルとなっている甲虫――クワガタを象ったものとしか見えない。ちょうどグロンギたちの身体のどこかに刻まれた、タトゥのような……。

 

「そうね。だからこれは、正確には"戦士"という一般名詞じゃなくて、特定の個人を表すものなんだと思う」

「ってことは、まさか……」

「……うん、これを書いたグロンギ自身の署名、かもしれない」

「………」

 

 飯田と心操が一瞬顔を見合わせ……目を伏せる。もうひとり、かの血文字が表す力を持つ者がこの場にいる。彼の顔を、見られる気がしなかった。

 暫しの沈黙ののち、その青年が口を開いた。

 

「……クウガを表す文字も、本来は四本角なんだよね」

 

 桜子が小さくうなずくと、出久はふぅ、と小さく息を吐いた。

 

「35号を憎しみのままに殺したあと、夢の中で見た真っ黒な戦士……それも四本角だった。それは碑文にあった"凄まじき戦士"なんじゃないかって、沢渡さん言ってたよね?」

「……うん。聖なる泉が枯れ果てる……優しさを失って、憎しみに囚われた姿……」

 

 全身、瞳まで真っ黒に染まった、禍々しい姿――死柄木弔はその逆で、まるで骨のような純白の姿をしていた。けれども、きっと。

 

「死柄木弔が変身したのはきっと、僕が進んじゃいけない未来の姿なんだ」

 

 空っぽになった心が、憎悪によって塗りつぶされた――彼の身体が純白なのはきっと、"それしかない"からなのだろう。それはあまりにも哀しいことだと思うし……何より、共感するところもある。出久自身も、あるいは紙一重の境界線に十数年、独り立ち尽くしていたから。

 

 それを聞いた飯田が、沈痛な面持ちのまま口を開く。

 

「死柄木……奴はあの力を得た途端、同類となったはずの未確認生命体を次々に殺戮している。おそらくは種として、不要な存在となった者たちを……」

「……そんな奴らと緑谷が、同じになりかねないって言うのかよ」

 

 "戦うためだけの生物兵器"――椿医師が言っていたのはつまり、こういうことなのだろうと思い返す。そのことばを初めて聞いたときも、それこそ出久を戦わせまいとして争いになるくらいには平静でいられなくなったが、それが具現化したものが目の前に現れるとまた心が揺らぐ。

 

「緑谷……やっぱり、おまえは――」

 

 抑えきれなくなった思いを、心操が吐き出しかけたときだった。

 

「大丈夫!」

 

 サムズアップとともに、出久はそう声をあげた。数日前、子供たちに対して放ったそれとまったく同じ調子で。

 

「僕はみんなの笑顔を守るために戦う、この先何があったって絶対にその気持ちだけは忘れない。万が一また憎しみを抱いてしまうことがあったとしても、きみたちの存在そのものがそれを思い出させてくれるって信じてる」

「緑谷……」

「だからきみたちも――僕を、信じてほしい」

 

 煌めく翠が、まっすぐに射抜く。そのまぶしさに屈しない者は、この場にはいなかった。

 桜子と飯田が力強くうなずき、心操はため息をつく。――苦笑いとともに。

 

「あんたがそんな自信満々にモノ言うなんてな。いつもそうならいいのに」

「う……き、きみには言われたくないよ!」

 

 調子を狂わされてかいつものようにどもりはじめた出久を見て、一同は思わず穏やかな笑みを漏らしたのだった。

 

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギングドググドドググ

ヤマアラシ種怪人 ゴ・ジャラジ・ダ/未確認生命体第42号

「ゴソゴソ、ジャソグ、ババ……(そろそろ、やろう、かな……)」

登場話:
EPISODE 32. 心操人使:リブート~

身長:177cm
体重:134kg
能力:
瞬間移動を思わせるスピード
伸縮自在の針

行動記録:
ヤマアラシに似たグロンギ。人間体は詰め襟を着込み、伸ばした前髪で目元を隠した推定14~15歳の少年で、容姿に違わずぼそぼそとした陰気な口調で話し、ヘッドホンで爆音のデスメタルを聴くことを趣味としている様子。メ・ガルメ・レより年長だと思われるが、怪人体の体格は彼よりも小柄である(グロンギではザザルに次ぐ)。
グロンギ、ましてゴ集団の一員であるにもかかわらず自身のゲゲルに関心をもたない変わり者で、根城たる洋館で怠惰な振る舞いを見せていた一方、バルバとドルドがゲゲルの裏で死柄木弔を仲間に引き入れようとした際には強い興味を示し、彼のグロンギ化にも積極的に関与した。
止めに現れたクウガとの戦闘にて初めて怪人体を表し、掴みどころがなくも身軽な所作や、伸縮自在のダーツによる攻撃で翻弄する。また科警研襲撃の際にはクリエティ=八百万百を人質にとることでヒーローたちや爆心地=爆豪勝己の手出しを封じるなど内に秘めた狡猾さも垣間見せている。
その後は"ダグバ"となった弔の"整理"の案内役としてその旅に同行している。その死神としての成長を見守り、時折好意すら覗かせる、彼の目的は一体なんなのだろうか……。

作者所感:
ガルメにダークアイ案件を持っていかれた代わりに、かつての黒霧ポジションを獲得しました……概要としてはそんな感じ。やり口からして絶ッ対善人ではないはずですが、死柄木に対する態度は打算だけでは出せない感じにしたつもりです。
打算にしても、死柄木をAFOばりに可愛がるのは一体なぜなのか。究極の闇大好きマンにしても自分やゴの仲間ではダメなのか(これはバルバたちにも当てはまりますが)、まだまだ謎多しでございます。

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