【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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なんとかメビオのゲゲル開始までぶち込もうとしたらちょっと長くなったのと、場面転換がやたら多くなりました。ざっくり分けると出久パート、勝己パート、グロンギパートが入れ替わり立ち代わり出てくる感じです。

メビオの殺戮シーンはややグロ色強めなので、心臓の弱い方は要注意!


EPISODE 3. エンカウンター 2/3

 

 街中を、ひとりの大男が闊歩していた。

 明らかにサイズの小さい革のベストを腕に通しただけで殆ど晒された上半身は筋骨隆々としており、まるでどこぞのレスラーのようである。そして左の二の腕には、犀をモチーフにした黒いタトゥ。風体だけでも通行人が遠巻きにするのは当然なのだが、恐れられているのは何より、その不機嫌極まりないことがひと目でわかる剣呑な表情だった。

 

「ブガギ……ブガブデダラサン……!」

 

 謎の言語を呟く男は、時折鼻と口を手で押さえ、ゴホゴホと咳をしている。その睨みつけるような視線は、道路を絶えず往来する車の群れに向けられていた。

 

「ガギヅサンゲキバ……ボパギデ、ジャソグバ!」

 

 いよいよ我慢の限界に達したらしい男が、握り拳を固めた瞬間、

 

 唐突に向かい風が吹き、彼の頬に真っ赤な物体が付着する。

 首を傾げながらそれを毟り取り、掌に乗せた途端、男の表情が変わった。――それは、薔薇の花片だった。

 

「バギギバ、ン、ゲゲル……。ギボヂヂソギギダバ、リントゾロ!」

 

 声高に叫んで、男はいずこかへ去っていった。ほどなくして警察発表の不審者情報に記載されることになるのだが、未確認生命体の出現に忙殺されている警察やヒーローたちに顧みられるのは暫くあとのことになった。

 

 

 

 

 

 爆豪勝己は考えていた。ひとりの若者としての私心をできるだけ抑制し、ヒーロー・爆心地として。

 

 警察側からの通達。これは極めて妥当なものと考える(もう少し穏健な思考の人間なら、やや乱暴だと批判するかもしれない。しかし、勝己にそこまで要求するのは酷である)。

 少なくとも、人間に害意をもっているであろう第3号やその仲間たちに対しては、自分もそのように臨むことに迷いはない。だが、第2号および第4号――クウガは。

 

(アイツは、人間だ。……ただの民間人の、学生だ)

 

 その民間人の命が、彼の愛するヒーローたちの手によって、奪われるかもしれない。敵ですら、よほど手のつけられない凶悪犯罪者でもない限り、ヒーローに生殺与奪の権利はないというのに。

 

 クウガがふつうの青年であることを知っている自分が、このまま彼を見殺しにしていいだろうか。――そんなはずはない。ヒーローである以上、人の命は守らねばならない。それが、大嫌いな幼なじみであっても。

 

(あんたならそうするんだろう、オールマイト)

 

 憧れたヒーローを、超えると誓ったのだ。それが正しいと思ってしまったなら、もう曲げてはならない。突き進むほか、ない。

 

 

 ならば、緑谷出久を戦わせない――変身させないためには、何が必要か。答えは容易かった、そして勝己の希求するヒーロー像とも合致していた。

 

 意志を固めた勝己は、事務所から与えられた任務を果たすべく行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 その勝己の幼なじみはというと、三限に渡る講義を乗りきってようやくひと息ついたところだった。

 

「ハアァァァ~………なんとか、寝ずに済んだ……」

 

 とはいえ、体力的にはもう限界に近い。現在時刻は14時半。今日のアルバイトは18時からだから、まだ時間には余裕がある。少し行儀は悪いが、図書館の休憩スペースで昼寝でもしていこうか。そう考えて立ち上がった矢先、

 

「緑谷、」

 

 背後からかかる感情を押し殺したような声に振り向くと、出久よりひと回り背の高い紫髪の青年がこちらに小さく手を振っていた。目の下にはくっきりと隈が刻まれ、自分などよりよほど寝不足に見える。そうでないことを、出久はよく知っていたが。

 

「心操くん!」

「よう、おつかれ」

 

 心操人使――大学における、出久のあまり多くはない友人のひとりである。大学生ともなると流石に無個性だからと表立って馬鹿にしてくる者もいないが、出久のほうもすっかり内向的な性格ができあがってしまっているから、やはり恒常的に交流のある人間は少ない。

 その点、心操は自身の個性へのコンプレックスという、ある種出久と似通った影のある青年だった。

 

 その個性は、"洗脳"。

 彼のことばに返答した者は頭にモヤがかかったようになり、言いなりになってしまう(無論、心操にその気がなければ発動しない)。いくらでも悪用の途が思いつく個性は、他人をして"敵向き"と評されてきた。それゆえ心操も心操で友人は多くはないし、他者に積極的に絡んでいくこともしない。ただ、出久だけは例外にしてくれているようだった。こちらにまったく警戒心がないと、信頼してくれているからだろうか。そうだったら嬉しいな、と、出久は思った。

 

「バイトまで時間あるだろ、どっかで時間つぶさないか?」

「え、あー……」本当は少し寝ておきたいのだが、それで断るのもなんだか気が引ける。

「……なんか疲れてるみたいだな。無理しなくていいよ」

「いや、その……あっ」

 

 そういえば、と、出久はあることに思い至った。

 

「ねえ心操くん。確かきみ、ガンヘッドのマーシャルアーツ・クラブに通ってるんだよね?」

「ああ……まあな」

 

 心操はかつてヒーローを目指し、雄英高校に在籍していた。といっても、幼なじみたちのいたヒーロー科ではなく、滑り止めの普通科だったそうだが。ヒーロー科への編入を頑なに目指しながらも、結局限界を悟り、己の個性を活かしやすいだろう警察官に志望を変更したらしい。身体を鍛えているのもその一環なのだろう。

 ヒーローを夢見ながら挫折した――そんな境遇までも、出久と共通している。もっとも、次善の目標をはっきり見定めて努力している心操は、未だ将来展望を描けない自分などよりよほど立派だと、出久は思っているのだが。

 

「それがどうかしたのか?」

「実は、僕も参加してみたいな、って思ってて。よかったら、どんな感じなのか教えてもらえないかなー、って……」

「いいけど……なんか唐突だな。あぁ、おまえも警察官目指すことにしたとか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……。ほ、ほら、最近色々物騒だし。自分の身くらいは自分で守りたいんだ」

 

 クウガのことは、いくら友人といえど打ち明けられない。それゆえの当たり障りのない嘘だが、出久は内心緊張していた。精神系の個性を扱うだけあって、心操は他人の心理に敏い。隠しごとをしていると、見抜かれてしまうかもしれない――

 

 しかし、そんな心配をよそに、

 

「……ふぅん。まあ、ヘンな怪物の噂まであるもんな」皮肉にも、深くかかわった事件が嘘を補強してくれたらしい。「わかった、教えてやるよ。話だけじゃあれだし、実践もしてみるか?」

「えっ、いいの!?」

「軽くだけどな。素人相手は俺も怖いし」

「うん。ありがとう、心操くん!」

 

 出久が心から感謝を述べると、心操ははにかんだように、笑った。

 

 

 

 

 

 街中を、ひとりの青年が闊歩していた。

 マフラーに前を大きく寛げたライダースーツ、パンツ、枯木色で統一された奇抜な服装に、パーマのかかったような無造作な頭髪。目つきは鋭く、何ものも寄せつけない一匹狼的な雰囲気を醸し出している。あてどもなくさまよっている様子の彼は、不意に立ち止まり、屈み込んだ。――地面に落ちていた十円玉を、拾い上げる。

 

「……?」

 

 道を歩きながら、目の当たりにしてきた光景を思い出す。この薄っぺらい金属の塊は、頻繁に人と人との間で受け渡しが行われていた。

 そういうものなのかと思った青年は、すれ違う人々に対して拾ったそれを突然差し出した。いきなりのことに通行人はぎょっとし、慌てて逃げていく。これをもらうと喜ぶのではないのか?青年は首を傾げる。

 

 そんな不思議ちゃん的な行動も、彼のもとに赤い薔薇の花片が舞い降りてくるまでだった。それを手にした途端、彼の瞳が冷たく細められる。

 

「ダボギリザバ……」

 

 かの怪物たちと同じ言語を口にして、青年は今度こそ明確な目的地をもって去るのだった。

 

 

 

 

 爆心地こと爆豪勝己は、単身パトロールを行っていた。人気の少ない、化外の者が身を隠しやすい場所を脳内にピックアップしつつ、鋭く視線を滑らせる。

 いつだって彼は活動中に気を抜くことはない。だが、今日のそれは特に異質だった。「爆心地だ!」と騒ぎたてそうな人々も、その鬼気迫る様子に気圧されてか遠巻きに見ている程度。そのほうが都合はいい。未確認生命体を、一刻も早く、捜し出さねばならないのだから。

 

 と、事務所特製ジャンパーのポケットにしまった端末がブルルと振動を開始した。発信者の名前を確認して、またか、と溜息をつく。

 それでも無視するという選択肢はなかった。というか、こちらが出ない限り相手は絶対にあきらめないだろう。延々バイブレーションをお供にしなければならないのはストレスだった。

 

「……んだよ」通話をタップして、不機嫌な声で応じる。

 

 それに対し、

 

『あ、あぁ、わりぃバクゴー。……どうだ、そっち?』

「まだなんもねえわ。ぜってぇ今日中に見つけるけどな」

 

 特に第3号は、昼間のうちに発見して始末したい――勝己はそう考えていた。

 

「用はそんだけか?切るぞ」

『あっ、ちょ、ちょい待ち!……2号と4号のことなんだけど、おまえ、どう思ってんだ?』

「……どうって、何がだ」

『いや……あいつらだけ、他のとはなんか異質だろ?人殺しは一切しねえで、自分の仲間ばっか襲って。しかも、結果的にそれで救けられたヤツも多いわけだし……俺らも含めて』

「………」

 

 一度目は、警官隊。二度目は、勝己と切島――切島自身は気絶していたせいで覚えていないようだが――。三度目は、勝己。2、4号の正体を知らずとも、誰かしらを危機から救う形になっていることは少し考えればわかることだ。実際切島は、それを偶然の産物として処理するつもりはないようであった。

 

 が、

 

「仮にそうだとして、証明できんのか?」

 

 スピーカーの向こうで、切島が声を詰まらせるのがわかった。

 

「証明できなきゃ覆しようもねえ、アレが奴らと同じ害獣だって評価はな。だから、んなことどうだっていい」

『……そうだな、わかった』

 

 いやに切島が素直に引いたので、勝己はそのまま通話を打ち切った。小さく溜息をつく。

 

 そう。クウガが害獣でないことを証明するには、緑谷出久の正体を――少なくとも警察上層部に対して――明らかにしなければならない。だが、それには様々なリスクが伴うことは言うまでもない。少なくとも、出久がふつうの大学生として生活することは難しくなるだろう。だから、それは最初から頭にない。デクは、デクのままでいい――

 

(奴らは絶対、俺の手で潰す……!)

 

 そう意気込んで再び歩き出した矢先、勝己はすれ違った女性に肩をぶつけてしまった。香水でもつけているのだろうか、薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「……失礼」 

 

 そう言って、勝己は軽く会釈した。学生時代ならいざ知らず、なんの縁もゆかりもない相手に「どこ見てんだコラァ!?」とはならない。なんだかんだ、彼にもヒーローとして最低限の良識というものはあった。

 しかし女性は、不快そうに顔をしかめ、

 

「……ギジャバビゴギザ」

「――!」

 

 つぶやかれたことばは、日本語ではなく。しかし、この三日間で既に聞き慣れていた。

 

「おいあんた、いま何つった?」

「………」

「もっかい言ってみろや、なあ?」

 

 尋問となると、途端に素のガラの悪さが露わになる。ふつうの女性ならその威圧感に号泣してしまいかねないところだが、額に白いバラのタトゥのある女は、眉ひとつ動かさない。業を煮やした勝己がその肩に手を伸ばそうとした瞬間、

 

 細腕からは信じられないほどのパワーで勝己を突き飛ばし、女はその場から逃走を開始した。

 

「ッ、待てやゴルアァァァァッ!!」

 

 当然のごとく爆ギレした勝己は、爆破を起こし、文字通りの爆速ターボで女を追跡する。しかし、女の周囲では薔薇の花片が絶えず舞い上がり、それが女の姿を何重にも撹乱する。どうやら幻惑作用があるらしいと勝己は踏んだ。問題は、それが個性なのか、あるいは――

 

 

 ただ、潜伏する未確認生命体を捕捉する重大な手がかりを見つけたかもしれない。そんな確信だけが、胸の中に渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 同時刻。勝己がバラのタトゥの女と遭遇した地点から1キロも離れていない場所に、ひとりの少女が立っていた。年齢は十代後半くらいだろうか。漆黒の衣に、漆黒のショートパンツ。指輪や首飾り、イヤリングまでことごとく真っ黒で統一している。ショートパンツから覗く白い太腿のコントラストがまぶしい。なにを考えているのか読めないよどんだ瞳で、行きかう人々を観察している。

 

「おーい、ネーちゃん」

「……?」

 

 と、ふたり組の男が、彼女に声をかけた。いかにも粋がった佇まいに、軽薄なふるまい。だが本物の荒事までは経験していないだろうことが雰囲気でわかる。――要は、いわゆる"チンピラ"という人種である。

 

「すごいカッコしてんね、春先っつっても寒くないの?」

「そんなキレーな生脚晒しちゃってさあ、誘ってると思われちゃうよ?」

 

 表向き気遣うような、しかし確実になにかを期待したことばとともに、男たちは少女に近寄っていく。それでも少女は不思議そうな表情を浮かべ、その場にとどまっている。男たちの期待が、ますます膨らむ。

 

「……おっ、」男の片割れが、少女の太腿を見て何かに気づいた。「ネーちゃん、タトゥなんか入れてんの?」

 

 少女の左の太腿には、ネコ科の動物を模ったであろう黒いタトゥが刻まれていた。虎やライオンにしてはデフォルメが効き過ぎている、豹かジャガーではないだろうかと、男たちは思った。

 が、そんなことはどうでもいい。男たちにとって重要なのは、少女がタトゥを身体に刻んでいること。自分たちの同類であると分類できるからだ。

 

 男の片割れが少女の前にしゃがみ込み、

 

「へえぇ、か~わいいねぇ」

 

 太腿のタトゥを、ぺちぺちと指で叩く。じゃれるようなしぐさ。――しかしその瞬間、茫洋としていた少女の瞳に殺意が宿り、

 

 

 男の意識は、永遠に途絶えた。己の死因が少女の膝蹴りに顎どころか頭蓋骨まで砕かれ、中の脳味噌まで潰されるという凄惨なものだなどと、知ることはないだろう。

 

「へ……?」

 

 空高く打ち上げられ、そして地面に叩きつけられたツレ()()()肉塊を呆然と眺めながら、男の片割れが間抜けな声を発する。あまりに突然の惨事を処理できていないのだろう。

 だが、それはまぎれもない現実だった。肉塊の頭部は、血と脳漿に濡れ、それだけならまだしも、眼球が飛び出たおぞましい状態でこちらに傾いている。それと目があった瞬間、男の身体はようやく恐怖を認識した。

 

「ヒッ、ヒィイイイイッ!!?」

 

 悲鳴をあげ、男はその場から逃げ出そうとする。化け物、死ぬ、化け物に殺される――そんな現実から逃げ出すために、全速力で走る、

 

 しかし、ほどなくして、その足は止まった。男は背中から胸にかけてずしりと何かがのしかかるような衝撃を感じ、反射的に立ち止まってしまったのだ。

 何が、起きたのか。おもむろに視線を落とした男は、自身の胸から、何か黒いものが生えていることに気づいた。最初はなんだかわからなかったが、よくよく見れば、それは手のように見える。黒く太い五本の指、その先端の爪は、鋭く尖り――

 

――赤黒く、染まっていた。

 

「は、ぁ……?」

「………」

 

 再び呆ける男。しかしその状態は長く続かない。ぐり、と手首が捻られたかと思うと、手が勢いよく男の胸から抜かれていく。既に心臓を破壊したそれは、そのまま背中から抜けていった。

 

「がぶっ、ごへぇあァッ!?」

 

 鼻や口から鮮血を決壊させながら、白目を剥いた男は棒のようにその場に倒れ伏した。しばらくピクピクと痙攣を続ける身体に、漆黒の肌をもつ豹の怪人が語りかける。

 

「ジョソボデ。ガギションギゲギザ、パセサン、ゲゲルン」

 

 謎の、言語。――少女が変身した豹の異形。彼女もまたグロンギのひとり、ヒョウ種怪人"ズ・メビオ・ダ"だった。

 

 メビオは手首に巻いた銀色の腕輪、そこに通した珠玉をふたつ移動させると、つまらなそうに溜息をついた。

 

「ザグ……ガド、バギンググシギドパパンビン……。ボセゼパ、ググビゴパデデギラグ」

 

 どうやら、容易くふたりの人間を殺害できてしまったことが不満らしい。もっと殺し甲斐のある人間は、いないものか――

 

 そして彼女は、道路を走る四輪の鉄の塊に目をつけた。窓ガラス越しに、人が乗っているのが見える。少なくとも、ふつうの人間を遥かに上回る速度で、走行している――

 

「ガセビグスバ」

 

 メビオがわずかに態勢を低くし――

 

 次の瞬間、その場に残像のみを残し、彼女は姿を消した。

 

 

「♪~」

 

 大音量で音楽をかけ、リズムに合わせて身体を揺らす運転手の男。前の車との車間距離が開いていることもあって、彼の車は制限速度をややオーバーしているのだが……そのことへの罪悪感はあまりないようであった。

 そんな彼の横を、不意に、黒い影が追い抜いていった。怪訝に思って顔を傾けた男だが、そこにはなんの姿もない。目の錯覚か何かだったらしい、そうだろう、時速60キロの速さを追い抜いていくことなど早々あるわけもないのだ。

 

 気を取り直して、顔を戻した男は、前方を走っていたはずの車が停止しているのを見て慌ててブレーキを踏んだ。しかし間に合わず、速度を殺しきれぬうちに追突してしまう。衝撃が車体を襲い、ハンドルに顔を叩きつけられる。

 

「ぐぇっ、て、えぇ……」

 

 痛い。が、それで済んだだけ幸いかもしれない。一体何ごとかと額を押さえながら顔を上げる。窓ガラス越しに、前方の車の内部が伺われる。なぜか、フロントガラスが砕けているようだった。しかも、赤黒い飛沫があちこちに飛んでいる。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 車を出て様子を確認すべきか。そう考えた男が、シートベルトを外すために身を屈めた瞬間――不意に、凹んだボンネットにずしんと衝撃が走った。慌てて顔を上げた男が見たのは……豹に似た、異形の怪人だった。

 あっと声をあげる間もなく、怪人――メビオは爪を一閃、粉々にガラスを破壊した。反射的に顔を庇う男。自ら視界を塞いだ男は、残された聴覚で彼女のことばを聞いた。

 

「ゴラゲグ、ズゴゴビンレザ」

 

 そのことばの意味を理解するより早く、彼は永遠に思考の手段を失った。

 

 

 

 手に付着した血液をべろりと舐めあげながら、メビオは満足げにつぶやく。

 

「ボセバサ、グボギパダボギレゴグザ」

 

 まだまだ、車はそこかしこを走っている。メビオは事切れた男のことなど次の瞬間には忘れ、ターゲットめがけて再び走り出す。

 

 

――虐殺が、はじまろうとしていた。

 

 




メビオ人間体を「少女」と表記しましたが、外見年齢的には出久よりちょっと下くらいなイメージです(18、9くらい?)。原作メビオは演者さんが女子レスラーだったこともあってゴツかったのに対し、漫画版はロリだったり五代との交流があったりで人気が高いみたいですね。前者のほうが好きな自分は少数派かな?演者の白鳥女史はひと言もしゃべってないのでアレですけど……
ザイン、バヅー、バラ姐さんはほぼそのまんまですが、今後原典とは違うイメージにするグロンギがいるかもしれません。


それはさておき、出久の大学での友人として、心操くんが登場しました。元々モブ友人として書いていて、あとから差し替えるなど完全に思いつきです。天啓を得たと言ってもいいです。
好きなキャラなので活躍させたいですが、クウガ原作にないポジションなのでどう絡められるかまだ不透明という。なんかいいアイデアあったら教えてほちぃ!

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