【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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案の定文字数ヤバイことになりました。
「1エピソード3万字超えたら書き直しね」と脳内担当編集に宣告されてしまったので収めるべく細々カットしてたり(かっちゃん達とギャングオルカの別れとか)後半に行くにつれ描写がアッサリしてますがご勘弁ください。


関係ないですがキバの「魔界城の王」は井上さんがカットするなと言ったシーンや出演者が見所として挙げていたシーンがことごとくカットされていたらしいですね。惨い話や…。


EPISODE 41. 汚水 4/4

 ゴ・ジャーザ・ギは港にいた。隣にはバグンダダを抱えたドルドの姿。

 懐中時計を見遣り、ドルドがつぶやく。

 

「時間だな」

 

 笑みを浮かべてうなずくジャーザ。――刹那、その身が歪む。知的な美女の姿から、獰猛なサメの怪人の姿へ。そしてそのまま、躊躇なく海中へ飛び込む――

 

「………」

 

 それを見送ったドルドもまた怪人体へと姿を変え……黒翼を広げ、曇天の彼方へ飛び立ったのだった。

 

 

 

 

 

 出久が去ったあとも、お茶子はしばし公園の傍らに座り込んでいた。

 

「………」

 

――きみには、もっと他にやることがあると思う。きみはその力で……ヒーローとしてこれから先もずっと、大勢の人たちを救けなきゃいけないんだ。

 

――僕にはそれしかできないだけだよ。だからきみに、僕にはできない人助けを続けてほしいんじゃないか。

 

 想い人のことばが、ぐるぐると頭の中を回る。思えば初めて出会ったその日の夜もそうだった。巡る彼の真摯なことばが、黒い沈澱の中から澄んだものを掬いあげてくれたのだ。

 

 やがて軽業師が去り、音楽も子供たちの歓声も去った頃、お茶子はやおら立ち上がった。そして再びスクーターに跨がり、元来た道を引き返すように走り出した。

 

 

 

 

 

『塚内から全車へ。さんふらわあは現在大洗から約60キロ北東の洋上を航行中。鷹野たちは予定どおり海上保安庁の巡視艇に乗り込み、当該船舶と合流せよ。なお心操くん……G3はヘリで船上に向かうことになっている』

 

 塚内からの連絡、ビートチェイサーを走らせる出久が応える。

 

「塚内さん、僕はゴウラムで行きます!ビートチェイサーの回収をお願いします」

『了解した。きみが一番乗りになりそうだな……気をつけて』

 

『――それともうひとつ、第44号によると思われる新たな書き込みが確認された』

「!」

『"どうでもいい殺しはさっさと終わらせて、もっと大事なゲームを早く進めたい"……だ、そうだ』

「……ッ、」

 

 出久はぎりりと歯を食いしばったし、他の捜査本部の面々も皆、憤懣に駆られたのは同じことだっただろう。

 

――許さない、絶対に。

 

 そう思うのは当然なのだけれども、それだけに支配されてはいけないのだ。いまこのとき、人々(みんな)の笑顔を守るヒーローでありたいと願うからには。

 

「ッ、――変身ッ!!」

 

 抑えても抑えても湧きあがってこようとする澱んだものをいっそすべて吐き出すように、出久は叫んだ。アークルが青い輝きを放ち、彼の肉体をクウガ・ドラゴンフォームへと変身させる。

 同時に頭上へ飛来したゴウラムめがけ、跳躍する。手と手を繋ぎ、海上へ。

 

 ヘリよりも船よりも速い飛翔によって、15分ほどでさんふらわあの船上にたどり着いた。手を放して甲板に降下するや、縁によってじっと海面を見下ろす。

 

「………」

 

 自ずから、拳に力がこもる。身体が震える。憎悪……いやこれは、義憤として抱えていたい。クウガは大きく肩を上下させた。

 

 どれだけの時間が経ったか――不意に、ぞわりと肌が粟立った。

 

「ッ!」

 

 と同時に飛び退いたのが幸いした。コンマ数秒の間に、長大な銛が彼のいた空間を舞っていた。それは重力に逆らって上方へ突き進み、露出したパイプに突き刺さってようやく静止した。

 数秒のうちに、ざばあと音をたてて人間の形をしたものが甲板へ飛び上がってくる。それは異形型のようで、遥かに禍々しいもの、

 

「44号……!」

「………」

 

 ぎろりと視線を向けてくる44号――ジャーザ。戦闘に際して、彼女は寡黙だった。他のグロンギのように名乗りをあげることもせず、す、と自然な動作でスカートの装飾に手をかける。

 たちまちあの凶器へと変形したそれが、ジャーザの腕から勢いよく投げつけられる。直撃を受ければいかにクウガといえど串刺しにされる――たかだか数時間前に経験済みだ。

 

 だがここは地上であって、水中ではない。ドラゴンフォームは強みであるスピードを活かしてその襲撃を避け、さらに高く跳躍して2階部分に登った。ちょうど突き刺さったままの銛を引き抜き、軽やかに振り回す。

 ジャーザと同じモーフィングパワーによって、銛はドラゴンフォームの専用武器であるドラゴンロッドへと姿を変えた。

 

 一方で、早くも新たな銛を携えているジャーザ。彼女自身の命が尽きない限り、武器はいくらでも創り出せる。逃げ続けたところで、いたずらに体力を浪費するだけ。それに、

 

(この船には、たくさんの人たちが乗っている)

 

 いまは船内の安全な場所へ待避しているだろうが、この敵を倒さない限り彼らの心身に安寧はない。

 ならばと、いちかばちか、クウガは勢いこんで飛び降りた。予想どおり、ジャーザの銛が投げつけられる。

 

「ッ!」

 

 ドラゴンロッドで弾き飛ばすが、その際の衝撃で着地の際にバランスを崩してしまう。それ自体はさしたることではなかったのだが、ジャーザの能力は彼のキャパシティを超えてしまっていた。

 海中を泳ぐのと変わらぬスピードで、彼女は距離を詰めてきたのだ。

 

 再び銛で串刺しにされる……というところで、すかさずクウガはロッドを振るう。銛がはたき落とされる……が、それでもジャーザはたじろぐ様子すら見せず、思いきり殴りつけた。

 

「ぐぁッ!?」

 

 吹き飛ばされ、叩きつけられる。クウガが思わず倒れこんだところに、ジャーザが迫る――

 

 いよいよ命の危険を覚えはじめたそのとき――プロペラの回転音とともに、ヘリが接近してくるのがジャーザの頭越しに見えた。そこから覗く、青と銀の鋼鉄戦士の姿。

 

(心操くん……!)

 

 

「緑谷……!」

 

 G3――心操人使もまた、親友がピンチに陥っている状況を認識して焦燥を深めていた。

 

「主任、猶予がありません。降下します!」

『了解した。――G3システム、オペレーション開始!』

 

 その指示を受けると同時に、彼は躊躇なくヘリから飛び降りた。降下から着地までの数秒すらも惜しい――右手に掴んだ"GM-01 スコーピオン"の銃口をジャーザに向け……引き金を、引く!

 

 背中に弾丸がめり込み、火花が散る。大きなダメージを受けたのではないにせよ、ジャーザが反応しないはずもない。立ち止まり――振り返る。標的が移ったことを、否が応にも実感せざるをえない。

 彼女は敵の増援にもたじろがない。素早く次なる銛を創り出し――投げつけてくる。スコーピオンでは対応できない――その可能性に備えて、G3は左手に"GS-03 デストロイヤー"を装備していた。高速振動するブレードを振りかざし、銛を弾き飛ばす。

 

「ッ!」

 

 少なからず衝撃を受けた心操の身体だったが、怯むことなく突撃を敢行する。身構えるジャーザだったが、

 

「うおぉぉッ、――超変身!!」

「!?」

 

 復活したクウガに、背後から羽交い締めにされる。同時にその形態が青からパワーに優れた紫へと変わったために、ジャーザは即座には振り払えず、動きを封じられる。

 

「行けぇぇッ、心操くん!!」

 

 彼のことばのままに――デストロイヤーを、右肩めがけて振り下ろす!振動する刃がめり込み、おびただしい量の鮮血が辺りに飛び散る。ジャーザが初めて苦悶の声をあげた。

 

(いける……!)

 

 肉が裂けていく感触の生々しさより、勝利の予感への喜びが心操の中で勝った。しかしジャーザは並のグロンギではない、自由な足を振り上げてG3の胴体を思いきり蹴りつけた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 弾き飛ばされる心操。クウガがはっとしたのもつかの間、ジャーザの身体に異変が起きた。

 バックルが禍々しい光を放ったかと思えば、耳障りな音、そして斬られているとき以上の苦悶の声とともに、全身が変化をはじめたのだ。

 

 スイマーのようだった体型が筋肉で大きく膨れあがる。青みがかった体色もまた、暗いグレーへと変化した。

 

(変わった……!?)

 

 ちょうど朝に話していた事態が、早くも発生してしまった。このグロンギはクウガと同じように、その身を形態変化させる能力までもっている――

 

 そしてクウガが形態ごとに使用する武器を変えるのとやはり同じく、ジャーザもまたタイタンソードに勝るとも劣らない大剣を手にした。肩の傷などあってなきかのごとく、片手でそれを構え、G3へ迫っていく。

 

 あんな大きな得物相手では、デストロイヤーも耐えきれない――そう判断したクウガは、もとに戻った銛をタイタンソードに再変化させ、ジャーザの背後から迫った。――振り下ろす。

 

 しかしジャーザは即座に振り返り、刃で刃を受け止めてみせた。そこから始まるつばぜり合い。分があるのは……ジャーザだった。

 

「ッ、ぐ、う……っ!」

 

 タイタンフォームを圧倒するパワー。これまで戦ってきたどんな敵をも凌ぐ威圧感に、じりじりと圧されていく。

 

(負ける、わけには……ッ!)

 

 そのときだった――両手が不意に、熱をもったのは。

 

「!!」

 

 クウガになったばかりの頃、幾度となく感じたそれ。霊石アマダムが、戦い勝利するすべを教えてくれる――その感覚。

 刹那、ついに競り負けたクウガは、あえなく心操のいる側へ弾き飛ばされていた。

 

「ぐうぅ……ッ」

「ッ、緑谷……大丈夫か……?」

「なんとかね……――心操くん、」

「?」

 

 クウガの手が、デストロイヤーに触れる。

 

「これ、貸してもらっていい?」

「……何か手があるのか?」

「うん。新しいことができるかもしれない」

 

 心操は一瞬、前方に視線を戻した。もはや王手をかけた気でいるのか、"剛力体"となったジャーザはわざとゆっくり距離を詰めてくる。いずれにせよ、考えている猶予はない。

 

「――いいぜ、使えよ」

「ありがとう!」

 

 差し出されたデストロイヤーを左手にとり、立ち上がるクウガ。その身に電撃が走る。と同時に、いよいよ剣を振り上げるジャーザ。その鋭く重い刃が、クウガを脳天から一刀両断する――かと思われた刹那、

 

 ()()()()黄金の刃が、ジャーザのそれを受け止めきっていた。

 

「……!?」

 

 ジャーザが初めて当惑を覗かせた。クウガが紫の金、ライジングタイタンフォームへと変身を遂げた――それ自体は現代のクウガの能力として認識していたことではあった。だがしかし、

 

 なぜ、ライジングタイタンソードが二本もある?

 

「やっぱり、できた……ッ!」

 

 常人の力では両手でも振るいようのない大剣、それが二本も。ライジングタイタンの卓越したパワーと相まって、一気にジャーザを押し返していく。

 

 だが、ただ押し返すだけでは勝利は掴めない。ライジングフォームが保てる30秒――その間に、決着をつける!

 

(そのためには……!)

 

「うぉおおおおおおおおッ!!」

 

 甲板の縁までゴリ押しで追い詰め、

 

――自身もろとも、ジャーザを突き落とした。

 

「緑谷ッ!?」

 

 心操の驚愕の声が、耳に届く。流石にこれは想定外だったのだろう。出久自身とて、最初から計算づくで考え出したわけではない……こんなむちゃくちゃな方法。

 

 もつれ合いながら墜落していくふたり。いかに強力な超人たちといえども重力には逆らえない。ただ落下しきったあと……海中はジャーザのフィールドだ。

 

――その前に、決着を。

 

「うぉおおりゃぁああああッ!!」

 

 雄叫びとともに、目の前の敵めがけてふたつの刃を突き出す。ジャーザが同じ行動をとるのもまた、同時だった。

 

 肉を裂く生々しい音が響き……それは、水飛沫の音によって容易くかき消されてしまった。

 

「緑谷――ッ!」

 

 

 既にさんふらわあに最接近していた海上保安庁の巡視艇"あかぎ"からも、その光景は視認されていた。

 

「いまのは、緑谷くんか……!?」

「海に落ちたの!?」

 

 "潜れるくん"もなしに――状況を詳しくは知らない以上、彼らが絶望的な気持ちに駆られるのも無理はなかった。

 

 そのとき、"対岸"から声が響いた。

 

「何かに掴まれ!!」

「な……心操くん!?」

「急げ、爆発するぞ!」

 

 はっとした飯田たちが近くの手すりに掴まる――と同時に、心操の予言どおり海面が爆ぜた。

 

「……ッ!」

 

 その煽りを受けて揺れる巡視艇。彼らは必死に耐えるしかなかった……森塚の顔がどんどん青くなっていくのはこの際置いておくとして。

 ほどなくして揺れはおさまったが、

 

「ッ、緑谷くん……」

 

 凪を取り戻した海面を見下ろしながら、飯田は気遣わしげな声をあげた。爆発が起きたということは、グロンギは斃れたのだろう。しかし出久が無事とは限らない、万が一相討ちにでもなっていたら――

 

 と、同様の不安を抱いていた心操が、弾んだ声をあげた。

 

「!、熱源が上昇……人が上がってくるぞ」

「なに!?」

 

 ほどなくして、ざばあと音をたてて浮かび上がる頭。海藻まみれになっているのかと思いきや、それは一本の例外なく彼の頭髪であるらしかった。

 

「緑谷くん……!」

「緑谷!」

 

 肩で息をしてはいるが、無事であることを示すように笑顔を浮かべ、親指を立ててみせる出久。いつもと変わらぬその姿に、心操たちが密かに胸を撫で下ろしたのは言うまでもあるまい。ただ、肉体が傷ついていないことばかりでなく。

 

 巡視艇から梯子が下ろされ、出久を救助する用意が整えられていたときであった。珍しく寡黙だと思われていた森塚が、爆弾を投下したのは。

 

「うぷっ……もうヤベェはきそう……」

「!?」

 

 安堵ゆえののんびりとした雰囲気は一瞬にして吹き飛び、森塚除く面々の表情が一様に強張った。

 

「も、森塚アンタって奴は……!」

「みっ、緑谷くん急げ!!このままだと吐瀉物をもろに浴びてしまうぞ!?」

「へぁっ!?」

 

 飯田のこれっぽっちもオブラートに包まない単語に戦慄する出久。さんふらわあの甲板でメットを外した心操がにやにやしているのを尻目に、慌てて梯子を登りだす。デストロイヤーを片手で抱えているのが、色々な意味でヒヤヒヤものである。

 

「………」

 

 ふと、足を止める。――脳裏に浮かぶ、大河と陸の笑顔。それらを思い起こしてももう、心が揺らぐことはない。

 

――悔恨も憎悪も、この黒い海に打ち捨てていこう。

 

 森塚が臨界点を突破する一方で、出久はただ前へ進み続けることを選びとった。それがいかに、険しい茨の道であるとしても。

 

 

 

 

 

 牛三市内での死闘は、日が暮れてもなお続いていた。

 

「死ィねぇえええええッ!!」

 

 罵声とともに放たれる爆炎。それをものともせずに反撃を仕掛けるズ・ゴオマ・グ。以前の彼にせよG2の装甲にせよ、ここまでの火力を受けて無事ではいられないはずなのだが……強化改造を受けているためか、その身には傷ひとつついていない。

 

「グォオオオオッ!!」

「ッ!」

 

 獣じみた咆哮とともに振り下ろされるクローを、俊敏な身のこなしでかわす"爆心地"――爆豪勝己。無尽蔵とも思われる体力が売りの強靭な肉体にも、流石に疲労が蓄積している。息もつかせぬ激戦の中で確実に増していく身体の重さは、あるいは精神への無視できない負担となっていただろう――独りなら。

 

 ただ、轟焦凍以外にもうひとり、ギャングオルカという頼もしい仲間がここにはいた。

 

 ゴオマの意識が勝己へ向いている間に、彼は果敢にも接近し――頭部から、超音波を放つ。受けた者を麻痺させるそれは、五年前の仮免試験に際しては多くの挑戦者を脱落へ追いやったある意味最大の武器である。とりわけ、聴覚に極めてすぐれたゴオマには効果覿面だ。

 

「ガァアアアアア……ッ!?」

 

 本来標的を麻痺させるエフェクトを発揮する超音波が、確実にゴオマを蝕んでいく。苦悶の悲鳴をあげながら、彼は初めてその場に片膝をついた。しかしギャングオルカは、そこで手を緩めない。

 

「ヌゥウ――ッ!!」

 

 陸上でも発揮しうるシャチの身体能力を最大限に活かし跳躍、鋭い蹴りを放つ。弱っていたゴオマは、ついに砂塵を巻き上げながら地面に倒れ伏した。

 

「フン……もうへばったか?不甲斐ないぞ爆心地」

「ア゛ァ?ヨユーだわ舐めんな!!」

 

 両手から小さな爆破を起こす勝己。またしてもゴオマが起き上がってきたらば、即座に最大限火力を見舞ってやるつもりだった。

 ヒーローたちがむしろ意気軒昂になる一方で、文字どおり高みの見物を決め込んでいたジャラジはため息をついていた。

 

「……所詮ズか。もっと……強くしてもらわないと」視線を移し、「ガヂヂロ、ゴソゴソ、ギゴゾビババ……」

 

 

――轟焦凍の変身したアギトと死柄木弔の変わり果てたダグバもまた、一進一退の攻防を続けていた。

 

「はぁ――ッ!」

「グ……!」

 

 実際には……前者に、形勢が傾きつつある。"進化"を遂げて久しく、強敵たちと戦い続けて力を磨いている焦凍。一方で弔はまだグロンギの力を得たばかりで、格下の仲間を一方的に蹂躙し虐殺するばかりなのだから。

 しかしそれも、いまこのときの話。弔はいずれ、手に負えない恐ろしい敵となるかもしれない――だからこそ、ここで決着を。

 

「あぁムカつく……けど、楽しいなぁ……!」

「……遊びは終わりだ」

 

 全身に力を込め……あふれるパワーを、両足に集中させる。鏡写しのように、ダグバも姿勢を低くしていく。――科警研での、最初の戦闘と同じ状況。あのときは相討ちとなってしまったけれど。

 

(今度は、勝つ――ッ!)

 

 そんな決意とともに、跳んだ。

 

「うぉおおおおお――ッ!」

 

 互いのキックが、空中で激突する。凄まじいエネルギーが奔流となって、閃光をばらまき、旋風を巻き起こす。

 その中心にあってなお、互いに譲らない。譲れない。

 

「ハハハハ、ハハハハハ……っ!」

「……ッ、オオオオオオッ!!」

 

 雄叫び。――オールマイトにすら一瞬及んだ覇気が、ついにダグバを打ち破った。

 

 墜落し、人間の姿に戻って転がる弔。一方でアギトはその超人の姿を保ったまま、着地に成功した。

 

「あぁ……」かすれた声。「痛い、なぁ……」

「もう終わりだ、死柄木……もう、」

 

 背後から勝己とギャングオルカも駆けつけてくる。これでもう、この男と戦う必要はなくなる――

 

――そのはず、だった。

 

「ダメだよ……まだ」

「!?」

 

 まるで瞬間移動のようにして、現れたジャラジが立ちふさがる。

 

「ダグバにはまだ、たくさん、頑張ってもらわなきゃ……」

「黙れッ!!そいつはダグバなんかじゃねえッ!!」

 

 勝己が吼え、誰よりも早く動く。ジャラジの脳天めがけ、爆破を仕掛けようとする……しかし、

 

「残念だけど……バイバイ」

 

 ジャラジがダーツを地面に投げつける。勝己のそれより小規模な爆発と閃光。怯むことなく己の爆破を敢行する勝己だったが……それでもなお、遅かった。

 

 そこには既に、弔の流した血以外、なんの痕跡も残されてはいなかったのだ。

 

 

 逃走を図ったジャラジたちは、やおら山道を下っていた。自力で歩けない状態の弔を、ジャラジがおぶっている。身長差からすると信じがたい光景だが、ジャラジは比較的非力とはいえゴのグロンギであるし、弔は元々骨が浮き出るほどの痩身である。

 

「……ねぇ、」耳元で声をかける弔。

「……なぁに?」

「整理……どうするの?ひとり取り逃がした……」

 

 これまではあえてゴオマに任せることもあったが、そいつもいま満身創痍で後ろをついてきている状態である。

 

「大丈夫、だよ」

 

 にもかかわらず、ジャラジはそう言い切った。

 

「なんで?」

「ヒヒッ……だってさ――」

 

 

「また逃げられちまった……くそっ、」

 

 たまらず吐き捨てる焦凍。確かにあと一歩のところまで追い詰めた。邪魔さえ入らなければ――

 

「まだそう遠くまでは行っておらんだろう」ギャングオルカが諭すように言う。「所轄に協力を要請し、山を囲めば必ず発見できるはずだ。――それでいいな、爆心地?」

「……ああ」

 

 勝己がことば少なにうなずいたとき、不意にギャングオルカのインカムに通信が入った。

 

「こちらギャングオルカ……――何!?わかった、すぐに行く!」

「!、まさかもう奴らが?」

 

 発見されたのか――そんな喜ばしい報告とは、残念ながら真逆を行くもので。

 

「いや違う。……貴様らが逃がした未確認生命体の少女が、突如怪人体に変身して暴れだしたそうだ」

「ッ!?」

 

 ふたりは声も出せなかった。

 

 

「――ぐぁあッ!?」

 

 異形の怪物を押さえつけようとして、逆に吹き飛ばされるヒーロー。ギャングオルカからの命令に従い、少女を保護しようとした途端、突然姿を変えて襲いかかってきたのだ。数人がかりで応戦するが、止められない――

 

「つ、強い……!」

「これが、未確認生命体……!」

 

 魚類のような姿をしたグロンギが迫る。狂ったように、笑い声をあげながら。

 

「パダギロ……ギママギボソグ……!」

 

 どちらにせよ殺されるなら、掟などにおもねる必要はない。欲望の赴くままに殺して、殺しまくってやる――自分の手がリントの血にまみれるのを思い描いて、彼女は笑う。

 

 それが、

 

「――McKINLEY SMASHッ!!」

「ア――」

 

 何が起きたかもわからぬうちに、周囲一帯もろとも彼女は凍りついていた。

 

「………」

 

 地面を踏みしめるような足取りで、現れるアギト。――その一歩後ろには、爆心地の姿も。

 

「爆豪、」

「……いい、俺がやる」爆破とともに跳び上がり、「榴弾砲(ハウザー)……着弾(インパクト)

 

 放たれた爆炎は、氷を融かすのではなく。その命もろとも、粉々に吹き飛ばした――

 

 

「……馬鹿が」

 

 嘲るようなことばが……どこか、哀しく響いた。

 

 

 

 

 

――数日後

 

 出久がいつものようにポレポレを訪れると、そこにはエプロン姿の麗日お茶子の姿があった。

 

「あ……おはよう、デクくん」

「おはよう……麗日さん。あ、おやっさんは?」

「買い出しに行ったよ」

 

 調理の手を止めて、こちらにやってくるお茶子。出会ったばかりの頃はいちいちどぎまぎしてしまったが、最近はそういうこともなくなった。彼女がいる日常もまた、当たり前になりつつある。

 

「……三度目はないぞって、怒られちゃった」

「ブレイバーに?」

「うん。謹慎にはならずに済んだけど……」

「……そっか」

「梅雨ちゃんにはね、泣かれちゃった。私ほんと、酷いことしちゃったなあ……」

「そうかも、しれないね……」

 

 それを殊更に否定することは、出久にはできなかった。ただ、

 

「ちゃんと謝ったんだよね?」

「もちろん」

「そっか」

 

 暫しの沈黙のあと、

 

「私、頑張るよ。ヒーロー・ウラビティとして……みんなの笑顔、守るから」

「うん」

「だから……だからさ、デクくんも――」

 

 と、そのときだった。「ただい松田優作~!」といういつものギャグとともに、買い物袋を提げたおやっさんが帰ってきたのは。

 

「あ、おかえりなさい」

「おう。あ、出久も来てたか!じゃあ今日も一日、張り切ってお客様に愛と笑顔とその他もろもろを届けるぞ~!」

「おー!」

「お、おー」

 

 「そのためにはまずおやっさんの凝った肩をほぐしてくれい、お茶子ちゃん!」「それもセクハラです!」なんて、いつもの会話。ひとりひとりにこんな日常があって、だからこそ世界は汚れていても美しい。

 

 もういない子供たちからもらった、ふたつのストラップ。リュックにぶら下げたそれらを見つめながら、出久は思う。

 

――この煌めきを守り続けよう。いつか、終わりが来るその日まで。

 

 

つづく

 

 




ブラドキング「次回予告!」
13号「……の前に、お小言をひとつ、ふたつ、みっつ……」
ブラドキング「……そんなスペースないぞ」

ブラドキング「いよいよ爆豪と轟が東京に戻ってくるそうだ」
13号「そうなると死柄木弔たちの動きも気になりますね。おや、爆豪くんは冬コスチュームにお着替えですか……」
ブラドキング「死柄木も気にはなるが、新たな未確認生命体、第45号も一方で動きだ……ん?もう動いているのか?」
13号「どうやら諸々すっ飛ばしていきなり決戦のようですね……G3の新兵器もいよいよお披露目されるようですし、2話もつのだろうか?」

EPISODE 42. 戦場のjunction

ブラドキング「ウェイクアップ!運命(さだめ)の鎖を解き放て……間違えた、さらに向こうへ!!」
13号「プルス・ウルトラ~!」

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