【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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6つの個性て……轟アギトの倍になっちまったよ
逆に轟アギト版シャイニングフォームの構想も固まりそうですが、収拾つかなくなるので本編ではこのままトリニティでいきます。


今回ちょっと警察24時風味というか、初見に優しい?仕様になってます。うまく説明できない…。あと地味にクウガ放送開始19周年だったりしますね!


EPISODE 42. 戦場のjunction 1/3

 

――2×××年 11月16日

 

 この日池袋駅周辺は、狂騒と恐慌とに覆われていた。

 

 サイレンを鳴らしたパトカーや護送車が何台も連なって走行し、地区担当のヒーローたちが険しい表情で街に目を光らせ、未だ往来にいる人々を避難させる。凶悪なヴィランによる大規模破壊活動――テロが発生した場合と同レベルの警戒。

 恐ろしいことに、この超常社会においては必ずしも珍しいことではないが……これが一体の異形の怪物によって引き起こされた事態であるとなれば、話は変わってくる。

 

 

『本部から全車!』

 

 非常態勢の中心となって動く未確認生命体関連事件合同捜査本部の面々の警ら車両に、指揮をとる塚内直正管理官(警視庁警視)からの無線が入る。

 

『午前10時15分頃、池袋駅地下街に大型車両が連続して突入した事件は、昨日までの三件の犯行と同様に未確認生命体第45号によるものであることが判明した!』

「!」

 

 聞く捜査員たちの表情に緊張が走る。なおも続ける塚内。

 

『現在池袋署及び池袋周辺を管轄する3ヒーロー事務所に協力を要請、交通規制及び車両・瓦礫等の撤去作業を順次開始している。……が、後者については難航している状況だ』

 

「ッ、また出てくるのを待つしかないというのか……!」

 

 ターボヒーロー・インゲニウムこと飯田天哉は、覆面パトカーの助手席でたまらず毒づいていた。これまでの3件の犯行では、既に400名以上が犠牲となっている。実際に殺害された人数としては、これは過去最悪の数字である。今回の犯行によってさらに更新されるともなれば、焦燥極まるのも無理からぬこと。

 

「出入口を完全に塞いで、閉じ込めてから殺す……漏らしがないうえにこっちからもすぐには手が出せない。この前の44号に負けず劣らず厭らしい手口だね」

 

 運転手を務める森塚駿巡査が、そんな分析をもって応える。偶然ではなく、敵は計ってそうしているのだ。

 

「ッ、今度こそは必ず倒さなければ……だが――」

『大丈夫!』

「!」

 

 いきなり割り込んできた、成人男性にしては高めの声。同時に、一台のオートバイが追いつき並走してくる。背広でもヒーローコスチュームでもない青年ライダーの姿――しかし彼は、まぎれもない戦友、同志である。

 

『――緑谷くん!』

「絶対に勝つよ!――それにほら、他力本願なようだけど、"ふたり"も帰ってくるしね!」

『爆豪くんと轟くんか……』

 

 爆豪勝己、そして轟焦凍――"整理"と称して行方をくらました死柄木弔たちを追って東京を離れていた彼ら。しかし計162体もの未確認生命体が殺戮されて――うち一体は彼らが手にかけたのだが――一ヶ月弱、ぱたりと凶行が止んでしまったこと、最近になって死柄木たちが都内で目撃されたことなどから、もはや"整理"は完遂されてしまったのだと判断し、本部に戻ってくることになった。それがまさしく、今日この日なのである。

 

「もちろん、その前に僕らだけで終わらせるのが一番ではあるけどね」

『そうだな……。よしっ、とにかくベストを尽くそう緑谷くん、森塚刑事!』

「うん!」

『シャー、頑張るぞい!』

 

 緑谷出久――表向き、ヒーローオタクの大学生。しかしその実態は異形の英雄、公に言われるところの"未確認生命体第4号"――"仮面ライダー"の名を受け継ぐ超古代の戦士、クウガである。

 

 

 

 

 

 地上の駅構内に負けず劣らずの賑々しさを誇る池袋駅の地下街は、いまこの瞬間は完全なる静寂に支配されていた。

 

 人々が姿を消してしまったわけではない。むしろひしめきあうようにして、彼らは存在している――

 

 

――存在しているだけで、彼らはもはやひとりの例外なく、息をしていなかった。

 壁はあちこち血に染まり、その鼻を刺すような臭いが辺りに充満している。

 

 そんな惨たらしい空間の中にあってただひとつ、荒ぶった息遣いが響く。唯一の生存者……否、そのような喜ばしいものではない。

 

 パンクロック風のファッションに、鈍い光をたたえた鋭い瞳。指輪を無造作にはめた拳からは、絶えず血が滴っている。

 

 彼――ゴ・バベル・ダこそが、この惨状をたったひとりで生み出した張本人なのだ。

 

 床を埋め尽くす骸たちをなんの躊躇もなく踏みつけながら、バベルは瓦礫に塞がれた出入口に向かっていく。――その背中を見つめる、もうひとりの生ける者。閉鎖空間と化しているはずのこの地に突如として現れた仮面の男は、ゲリザギバス・ゲゲルの審判という己の役割を淡々とこなしていて。

 

「ズゴゴバギゼ……バギングバギングゲギドド、バギンググシギドゲヅンビンバ」

「!、………」立ち止まるバベル。「チッ、思ったより稼げなかったか」

 

「バサダガド……バギングズガギドドググビン。ビセギビ、ゴパサゲデジャス」

 

 

 

 

 

 時を追うごとに物々しさを増していく池袋の街を、高みから見下ろすひと組の男女の姿があった。

 

「バベルは派手にやっているようだな」

「………」

 

 「とはいえ、ジャーザの二番煎じにならなければ良いが」――一貫して冷静なゴ・ガドル・バのつぶやき。結果的に敗者となったジャーザのやり方をも取り入れたのは流石自分と対等に競う男なだけのことはあるが、派手に動けばそれだけリントも死にもの狂いで動いてくる。己も己の実力に驕らず、奴らを攻略する策を練っておかなくては。

 

 それにしても、

 

「……よもや、あの老体がザギバス・ゲゲルを受けて立つ気になるとはな。一体いかなる心変わりがあったというのだ?」

「さあな」女――バルバはにべもない。「あの男の考えていることなど、我らにわかるはずもない」

 

 ただ口には出さないが、わからずとも一定の推測は立つ。要するに、彼は疲れたのだろう。グロンギの王としての使命に抗うことに……おそらくは、旧い友人だった武器係の老人にまでそうあることを求められて。

 

 嘲りを含んだ、しかしそれにしては卑しさを微塵も感じさせぬ微笑を浮かべるバルバ。その横顔をちらりと窺い、ガドルは忌々しげに眉をひそめた。

 

(何を考えているのかわからぬのは、貴様らも同じことだ)

 

 リントに"ダグバの力"を与えて、道具とするなど。

 

 まあいい。いずれにせよ己がザギバス・ゲゲルに勝利し、新たなグロンギの王となれば同じこと。クウガやアギトが立ちはだかろうとも、必ずや。

 

(そのために、必要なことは――)

 

 

 

 

 

 合同捜査本部の他にも、警視庁には対未確認生命体の専門対策班――"S.A.U.L"なる略称があるが、あまり使われていない――が存在する。リーダーの下に実働班員、開発・整備担当が各一名ずつという小規模チームだが、警視総監肝煎りであり、何より並み居るプロヒーロー以上の活躍が期待されていることから、社会的にもその注目度は高い。

 

 彼らもまた、専用の移動基地"Gトレーラー"に乗って戦場へ向かっている最中だった。

 

「――了解。5分後にはこちらも到着します」

 

 今しがた通信を行っている猫頭の男性が、班長を務める玉川三茶警部補である。それを終えるやくるりと振り返り、

 

「地下街から姿を現した45号と緑谷くんが戦闘中、ただ敵のパワーが尋常でなく手を焼いているそうだ。――心操くん、出動を」

「了解。例の武器は?」

「爆心地たちが持ってくる」

 

 わかりました、ともう一度うなずく青年――心操人使。立てた紫陽花色の髪にくっきり刻まれた目の下の隈が特徴的な彼こそ、G3の正装着員である。

 

 彼は既にG3のアンダーアーマーとなるラバースーツに着替えていた。そこから装着スペースに入り、各種装甲を着込んでいく。従来は玉川と発目が手作業で行うというアナログ極まりない装着方法だったのだが、新武器開発のため科警研に戻っている発目が置いていった"着せ替えくん"なる装置により、現在は自動化が図られている。

 着せ替えと言うだけあってG3のパーツを着せるだけでなく元々の着衣を数秒で脱がし、アンダースーツも着せてくれる優れものなのだが、流石に恥ずかしいと心操が主張したため装着のみの使用にとどめられた。

 

 ともあれその"着せ替えくん"の手によって、心操の身体は青と銀の鎧で覆われた。最後に頭部――クウガに似た橙の複眼をもつメットが、前方から被せられる。

 

 後頭部までを覆ったそれを軽く直せば――G3、装着完了である。

 

「0912、オペレーション開始!――頼んだぞ」

「了解、出動します」

 

 トレーラーのハッチが開き、そこから地上に運び出されるG3と専用マシン・ガードチェイサー。高らかにサイレンを鳴らして己の存在を知らしめながら、"警視庁の青い悪魔"――森塚巡査命名――は戦場へ疾走するのだった。

 

 

 

 

 

――そう、本来大勢の人々で賑わうべき池袋駅周辺は、既に血風吹きすさぶ戦場となり果てていた。

 

 これまでにないパワーでクウガを何度も吹っ飛ばしつつも、正面から戦うことを避け逃走を図り続けるゴ・バベル・ダ。一刻も早く残る47人を殺害し、ゲリザギバス・ゲゲルを終わらせたいがゆえの行動。

 しかしクウガ――出久をはじめ、捜査本部の面々は強固な意志でこの戦いに臨んでいる。ここまでだ。これ以上、ひとりとして殺させてなるものか――

 

 確実に追跡すべく生身からビートチェイサーでの格闘に切り替えたクウガだが、この作戦は見事功を奏していた。スピードを緩めることなく軽快かつ縦横無尽に疾走しつつ、ウィリーの状態からホイールを叩きつける。

 

「グゥ……ッ」

 

 バッファローに似た屈強な怪人体へと変身したバベルも、これにはたまらずうめき声をあげる。敵が及び腰なのをいいことに、クウガは徹底的に攻めて攻めて攻めきるつもりでいた。心操はもう間もなく到着するし、勝己と焦凍も合流にさほど時間は要さない。ゆえに無理をするつもりはないが、できるだけ自力で追い込みたいと思ってしまうのもまた性で。

 

 振り下ろされるホイールをどうにか身体と腕で受け止めようとするバベルだが、高速回転するそれは激しい摩擦を起こし、火花を散らす。結局胴体を覆う灼熱に耐えかねて、バベルはふらふらと後退した。――今だ!

 

 マシンのシートを蹴って跳躍し、

 

「ぅおりゃぁッ!!」

 

 拳を、顔面に叩き込む!

 

「ガハァッ!」

 

 ブチ込まれた鉄拳は、屈強なゴのグロンギをも傷つけることに成功した。口の中を切ったのか、その場に血を吐き出すバベル。もっとも当然致命傷には至らないから、一瞬にして回復されてしまうものではあるのだが。

 これまで数多のグロンギと戦ってきた出久は、そうした彼らの能力をよく理解している。油断することなく姿勢を低くし、両拳を改めて構える。

 

 その姿を認めたバベルは、思わず「ムゥ……」と唸り声をあげていた。

 

「……骨のある拳だ。クウガがここまで強くなっているとはな」

「………」

 

「勿体ない。それだけ強い拳があれば、大勢のリントを殺せるだろうに」

「……ッ!」

 

 笑い混じりに放たれたひと言に、出久が激昂しかかるのも無理はなかった。思わず拳を振り上げかける。――しかし、義憤が憎悪に変わればどうなるか……思い返せば、抑えるしかない。

 

 深呼吸を繰り返して怒りを抑制せんとするクウガ。対してバベルは反撃に出る。半ば心からの称賛を込めた挑発は、敵の動揺を誘うものだった。激怒させても面白いし、抑えても――

 

 一気に距離を詰めたところで、クウガが迎撃のパンチを放ってくる。姿勢を低くしてそれをかわし、

 

 カウンターで、胸にメリケンサック付きの拳を叩き込んだ。

 

「が……ッ!?」

 

 苦痛の声とともに、飛び散る鮮血。よろけて後退するクウガの赤い装甲が、殴られた箇所からひび割れていた。

 

「ぐ、うぅ……」

 

 鋭い痛みが、そこから全身に広がっていくような錯覚。鎧は皮膚が硬質化したものであり、神経が通っている。いかに頑丈であろうとも、破壊されれば命まで危うい。

 

「フン……俺の拳のほうが上のようだな」

 

 くつくつと嘲うバベル。確かに、一対一では圧倒的に不利だ。出久はそう痛感せざるをえない。

 

「ッ、緑谷くん……!」

 

 包囲網を構成する一員として、戦闘を遠巻きに見守っていた飯田。友人のピンチについに居ても立ってもいられなくなり飛び出しそうになる彼を、頭ひとつぶん以上小柄な青年が押し留めた。

 

「ダメだよインゲニウム!いくらきみでも、フツーの人間がガチンコでやるにはアイツは危険すぎる」

 

 だから万が一に備えて包囲してるんだろう、と森塚。実際に塚内からもそうした指示を受けている以上、それに反する行為をそう易々とできないのは確かだ。

 

「大丈夫、心操くんが間もなく到着する。それまでによっぽどヤバくなったら突っ込めばいい」

「……承知、しました」

 

 結局唇を噛みしめながらも、飯田は踏みとどまった。第39号――ゴ・ベミウ・ギとの戦いでも、絶対零度の鞭に打たれる危険を顧みず戦った……彼らと肩を並べて。あのときと違って勝己と焦凍がいないから、むしろ自分も前に出ていけない。その矛盾した現実が悔しい。

 それに、

 

(爆豪くんならきっと、一歩も退かないはずだ……!)

 

 

――その爆豪勝己と轟焦凍は、科警研から池袋への途上、国道318号線を西に進んでいるところだった。

 

「もう少しだな、爆豪!」

 

 黒塗りの覆面パトの横をオートバイで並走しながら、声を張り上げる焦凍。――返答はない。それがむしろ嬉しかった。

 

 ウィンドウ越しに見える勝己の横顔は鋭く、真剣そのもの。彼の心は既に向かう先……幼なじみがグロンギ相手に踏ん張っているであろう戦場に在るのだろう。自分も見習わなければと思い、焦凍は前方を見据える。

 

 

――ふたりの戦士がいま、戦場への帰還を遂げようとしていた。

 

 

 




キャラクター紹介・リント編 バギンググシギ

逆俣 空悟/Kugo Sakamata
個性:シャチ
年齢:39歳
身長:202cm
好きなもの:強者、海水浴
個性:
見たまんま、シャチの能力は全部使える!地上でも変わらないチートだぞ!ただし乾燥だけは苦手なので水中のほうがラクではあるらしい。時折三陸沖で泳いでいる姿を目撃されるとかされないとか。
備考:
ヒーローネーム"ギャングオルカ"。20年のキャリアを誇るベテランヒーローであり、数年連続でトップランカーに名を連ねているぞ!個人としての力量はもちろんのこと、20名ものサイドキックを擁する大規模なヒーロー事務所の経営者でもある!部下たちからは「シャチョー」と呼ばれているぞ!
厳格な性格で知られており、仮免試験やその後の補講ではヒーローの卵たちをスパルタで鍛えたことも。教え子となった勝己や焦凍のことを内心買っているようであり、厳しいことを言いながらも積極的に協力したのだった。もしかして:ツンデレ
本当は子供好きなのだが、上述の性質やビジュアルのせいで泣かれるばかり。おじさんは傷ついている!

作者所感:
おじさんマスコットその3。逢魔ヶ刻動物園からの参戦らしいですね。当時一応本誌で読んでたんですが、途切れ途切れだったので残念ながら記憶にございませんでした。
かっちゃんたちとの共闘は本来クラスメイトの誰かの予定だったんですが、納得のいく人選ができず(第一候補は常闇くんだったんですがかっちゃんと個性の相性が悪そうなので断念)、ちょうどジャーザ回だったこともあって対になるこの人に白羽の矢が立ちました。もそっと活躍させてあげたかった……。

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