【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
ひと晩で8万吹っ飛びました。特オタって金かかるんだね(今更)
[追記]かっちゃんが冬コスに衣替えしたくだり入れ忘れてたので無理やり挿入しました。次回予告で13号先生が軽く言及してただけなので自分でも忘れるという。
夏目実加はプラットホームで電車を待っていた。フルートの入った長い入れ物を傍らに置き、手元の雑誌に目を落としている。
――"X号、未確認生命体161体を惨殺の怪"
「………」
暫し難しい表情で読み進めていると、構内にアナウンスが流れ出す。未確認生命体の出現により、列車の運転を一時見合わせるよう警察から指示があった――との報だ。
それを聞いた実加は、雑誌を閉じて少女らしいピンクのスマートフォンを起動する。未確認生命体と検索してニュースサイトを開けば、リアルタイムでの情報が目に飛び込んでくる。
(緑谷さん。……爆豪、さん)
本日開催されるフルートのコンクール。そこで披露することになった自身の演奏を、ふたりにも観に来てもらう――そう約束したのだ。グロンギとの戦いの最前線に立つ彼らに対して無理なお願いをしてしまった――それはわかっているけれど、どうかふたり揃って無事な姿を見せてほしかった。
*
なおも激戦が続いていた。
クウガは身軽な青い形態"ドラゴンフォーム"に超変身を遂げ、バベルの拳を素早くかわし続ける。これ以上一撃を受ければ、赤でも耐えられない。ならばいちかばちかと姿を変えたのだ。
逃げるクウガ、追うバベル。先ほどまでとは攻守が逆転してしまったようだが、いつまでもこの状況を継続するつもりはない。
「ちょこまかと……戦る気がないなら去らせてもらうぞ」
「……いや、もういいよ」
「何?――ッ!?」
バベルが反応する間もなく、その身に鋼鉄のワイヤーが何重にも巻きついていく。たちまちバベルは上半身を締め上げられてしまった。
「ボセパ……!」
「――悪いな、捕縛は一番の得意分野なんだ」
「!」
背後に立つ青と銀の戦士――G3。彼の装備した"GA-04 アンタレス"が、バベルの自由を完全に封じている――
「ありがとう心操くん、――はっ!」跳躍、と同時に赤へと戻り、「うぉりゃあッ!!」
足先へ奔る熱を押し出すように、ドロップキックが炸裂する。「グウゥ……!」とうめき声をあげてよろけるバベル。一撃受けた胸元には、封印の紋が浮かんでいた。
「ッ、キュグキョブンジャリゾロダサグンパ……」
「!」
「ボン、ゴ・バベル・ダザ……ヌゥゥンッ!!」
全身に力を込めるバベル。――途端に消えうせていく古代文字。そこまでであれば想定しえたことではあった。だが、
「ヌゥウウウウウウウ……!」
続く唸り声。そしてその肉体がさらなる変化を遂げる。元々筋肉質だったボディがよりいっそう膨れあがり、赤みがかった皮膚が色味を失って暗褐色に染まっていく。
「!?、こいつも変わるのか……!」
前の、ジャーザと同じ。危機感を強めたふたりの戦士が動くより早く、
膨張しきった分厚い筋肉が、アンタレスのワイヤーを引き千切った。
「な……!?」
「………」
驚愕する心操。対してバベルは沈黙したまま、胸の装飾のひとつを引き抜き握りしめる。それは途端に、鋭い突起がいくつも生え出でたハンマーへと変化した。――振りかぶり……背後めがけて、投げつける。
「――がぁッ!?」
その凶器は、スコーピオンの引き金を引こうとしていたG3の胸部ユニットを直撃した。大量の火花が飛び散り、重量のあるその身体が容易く弾き飛ばされる。
「心操くんっ!?」
「ジョゴリドパ、ジョジュグザバ!」
「!」
早くも新たなハンマーをつくり出し、迫るバベル"剛力体"。退避は間に合わない、咄嗟にそう判断したクウガは再び「超変身!」と叫びをあげた。モーフィンクリスタルが紫の輝きを放ち、主の肉体をバベルに負けじと膨れあがらせ、鎧を再構成する。
彼がタイタンフォームに変身を遂げるのと、鎧めがけてハンマーが振るわれるのがほぼ同時だった。
「ぐ――ッ!?」
うめき声とともに、地面に叩きつけられるクウガ。これまであらゆる攻撃を無力化してきた分厚く硬い鎧に……穴が、開いていた。
繰り返すが、クウガの鎧は皮膚が変化したものである。いかにタイタンフォームのそれであっても、穴が開くほどに傷つけば……そこに通う神経が、悲鳴をあげないはずがない。
「ぐ、うぅ……ッ」
耐えがたい苦痛に悶えながらも、起き上がろうとするクウガ。対してバベルは、血も涙もない。
「ゥラァッ!!」
「がッ!?」
今度は下から上にハンマーを振り上げる。一瞬宙に打ち上げられ、また地面に叩きつけられる。今度は起き上がるより早く、振り下ろす。何度も、何度も。その度に鎧の傷が増えていく。もはや立ち上がれない以上、抵抗するすべもない。
「緑、谷……ッ」
心操もまた、ショックアブソーバーを破壊するほどの一撃に身動きがとれない。彼が回復するかクウガが致命傷を受けるか……どちらが先か、考えるまでもない。
「ぬぅうううう……ッ!」飯田が顔を真っ赤にして声を張り上げる。「このままでは緑谷くんが殺されてしまうッ!!この期に及んでただ突っ立って見ていろとおっしゃるのですか!!?」
よほど切羽詰まってか、どこぞの爆ギレヒーローの影響を受けているのか、やや乱暴な口調で森塚に詰め寄る飯田。「いや僕に言われましても」と、森塚は些か困惑ぎみである。
一方で、現場指揮官である鷹野警部補が冷静に指示を下す。
「インゲニウムの意見を採用するわ。――総員、緑谷くんの援護を!」
『待て鷹野!』インカム越しに、塚内管理官の制止の声。
「もう待てませんッ、全責任は私が負います!」
一瞬たじろぎつつも、塚内は「そうじゃない」と至って落ち着いた声を発した。
『大丈夫だ。――"彼ら"が、来たからな』
信頼に満ちたその声音と時を同じくして、曇天を切り裂くように、ふたつのシルエットが鮮やかに舞った。
「
「KILAUEA――」
「――
「――SMAAAAASHッ!!」
凄まじい爆炎が標的の表皮を焦がし、間髪入れずに劫火を纏った拳が叩き込まれる。
「ガハァッ!?」
防御姿勢をとる猶予もなく、直撃を受けて吹き飛ばされるバベル。いかにグロンギでも一、二を争う強靭な肉体をもっているといえども、彼らの攻撃は、その上を行くもので。
「!、あれは……!」
誰しもが声をあげ……そして思わず、笑みをこぼす。
「轟くん……――かっちゃん……!」
ついにふたりが、帰ってきた。
「遅くなって悪ぃ。苦戦してたみたいだな」
「……お恥ずかしながら」
「はっ、クソデクと洗脳野郎にしちゃようやったほうだわ!」
「褒められているのか貶されているのか……」
彼らが参戦したというだけで、思わず軽口を叩きたくなってしまう。皆、彼らの無事がうれしいし、何より高揚しているのだ。再び間近で、彼らの躍動が見られる――
「グウゥ……ビガラサ……!」
「!」
弛みかけた雰囲気に水を差すように、忌々しげな声を発しながら立ち上がろうとするバベル。無論ここが戦場なのだということを、誰ひとりとして忘れてはいない。
「爆豪、」心操が呼びかける。
「チッ……おらよ」アタッシュケースをやや乱暴に押しつけ、「俺ぁガキの使いじゃねえぞクソが!」
「俺に言われても……まあ、ありがとな」
文句を言いながらも、発目の開発した"これ"を勝己が運んで来てくれたことはまぎれもない事実だ。
早速とばかりにケースを開ければ、砲口型のアタッチメントが姿を現す。飛び出した、ミサイルのごとき砲弾。子供の腕ほどの長大さが厳めしい。
「すげぇな……――よしっ」
初めて生で見る実物に圧倒されつつも、心操の行動は素早かった。ケースから取り出すや、アタッチメント後部をスコーピオンの銃口に接合する。ジョイントの形状はサラマンダーと変わっていないから、初使用でもまごつく必要がない。
「ヌゥ……!」
これまでとは明らかにスケールの異なる火器の登場に流石のバベルも危機感を覚えたのだろう、その
「やらせねえ」
「!?」
足元に冷気が漂ったかと思えば、今度は脚をまったく動かせなくなる。――彼の下半身は、アギトの"右"がつくり出した氷山に呑み込まれていた。
「心操、今だ!」
「ああ」狙いを定め、「――喰らえッ!!」
引き金を引く。砲から開放され、押し出される弾丸。それはまっすぐ、バベルの胸元めがけて吸い込まれていく。
――そして、
「グガアァッ!!?」
苦痛の悲鳴とともに爆ぜる灼熱、飛び散る鮮血。ゴのグロンギをそれだけ傷つける破壊力――いや、従来の武器とまったく異なるのはそのあとからだった。
「ガ……!?グ、アァ、ガアァ……ッ!」
撃たれた箇所をかきむしりながら、悶絶するバベル。いかに大きなダメージといえど、致命傷でない限りほぼ瞬時に治癒する回復力――それがまったく機能せず、傷口からは絶えず血が噴き出している。
「ガ、ゴハァッ!!」
ついにバベルが吐血した。先ほどクウガに殴られたときとは比にならないほど大量の、しかも臓腑から出る黒い血だ。バベルは混乱し、そして恐怖した。
(ゴセ、グ……ギブ……?)
「ラ、ザザァ……!」
執念で踏ん張るバベルの姿は、最強クラスのグロンギとしての強烈な威圧感を周囲に振り撒く。
「ッ、これでも即死とはいかないのか……」
「任せろ」
即死とはいかなくとも、もはや死の運命から逃すつもりはない。アギトが腰を落とし、下半身に力を込める。
――そして、跳んだ。
「うぉおおおおお――ッ!!」
半冷半燃とワン・フォー・オール、轟焦凍を超人たらしめる複数の力がひとつとなりて、彼の行く先にアギトの紋章をつくり出す。それを突き破ることによって……彼のキックは、最大威力に到達するのだ。
「ギィアァァァ……ッ!?」
両足が叩きつけられる。骨が砕け、内臓が潰れる感触。バベルはさらに多くの血を吐き出したが、それでも倒れない。いや、倒れることもできないのだ。その頑丈さが、彼の不幸だった。
「これでも駄目か……――緑谷!」
「!、………」
一瞬、躊躇が生まれなかったかといえば嘘になる。敵はもうほとんど虫の息で、放っておいたってこのまま死んでしまうかもしれない。いくら残虐に人間を殺してきた奴らといえど、そこまで追い打ちをかけるのに良心が咎めないはずもない。
だが、手心を加えた結果万が一復活したら?その報いを受けるのは自分である以前に無辜の一般市民たち。――であれば、やるしかない。
「………」
いくつもの痛々しい穴が開いた銀と紫の鎧が、流れ出した血を覆い隠すように再び赤へと戻る。同時に、アークルを中心として奔る雷。ところどころに金の装飾が施され、右足には寄り集まった雷のエネルギーが固形化したようなアンクレットが顕現する。
赤の金――ライジングマイティへと強化変身を遂げたクウガは、勢いのままに走り出し……跳躍する。その背後で、すかさず爆破の構えをとる勝己。
「うぉりゃあぁぁッ!!」
「死ねぇッ!!」
その「死ね」は果たして誰に向けたものなのか――そんな疑問すらもう湧くこともなく、爆炎を背に浴びて加速したクウガの身体がバベルめがけて急降下していく。
そして右足が、胴体に触れた。
「――ッ、」
もはや彼は、断末魔すら発することもできず。砕けた氷もろとも紙のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。既に意識のない身体に浮かんだ封印の紋が、腹部からベルトのバックルを侵していく。
――命を燃やし尽くすような、激しい爆発が起きた。
ばらばらに砕かれた肉片が飛び散り、周辺一帯に惨状をもたらす。戦いが終わってからもしばらく、封鎖を解除できない最大の理由でもある。
いずれにせよ、彼らは勝った。今日もまた、グロンギに勝利したのだ。
「――鷹野から本部へ。第45号は撃破されました、これより現場検証に移りたいと思います」
鷹野が冷静に状況を報告する一方で、
「い゛……痛つつ……」
顔をしかめながら右足をさする出久。どうやらキックの反動で痛めてしまったらしかった。以前もそうだったが、赤の金は他の形態と異なり生身の右足を必殺兵器として改造するため、強力ではあるが負担も大きいのだ。わかっては、いたのだけれど。
「緑谷、大丈夫か!?」
「あ、あぁうん……大したことはないけど……」
心配して駆け寄ってきてくれた焦凍と心操に対して、そう応じて微笑みかける。自分が無茶ばかりしてきたせいで、そういう意味ではあまり信頼がないのだ。笑みには自嘲も混ざっていた。
「て、ていうか!……なんか久しぶりだね、こういうの」
「!、そりゃあ……な」
出久と運命的な出会いを果たして5ヶ月、そのうち直近の実に4割は別行動をとっていた計算になる。メッセージアプリ等で会話はしていても、電話で声を聞いたり直接顔を見たりはしていないので本当に久しぶりだ。存在を忘れられる……はないにしても、よそよそしい態度をとられたらどうしようかと、焦凍は内心不安だったのである。
それを杞憂だと笑い飛ばすかのように、目の前の童顔がいっそう輝きを放った。
「おかえり、轟くん!」
「!」
目を丸くした焦凍もまた、ややあって不器用ながら微笑み返す。
「ああ……ただいま」
満面の笑みでうなずき返した出久は、やおら立ち上がろうとする。右足を庇うようにしているせいか、うまくバランスがとれない。見かねた心操が手を貸してやって、ようやく意を遂げることができた。「ごめんね、ありがとう」と謝意を示しつつ、彼が歩み寄ったのはもうひとりの帰還者……彼の、幼なじみのもと。
「かっちゃんもおかえりなさい。コスチューム、冬仕様に変えたんだね」
「……おう」
汗が武器のとなる勝己にとって、汗腺を閉じてしまう寒さは大敵である。冬の足音も近づいてきたこの時期はもう、袖がありなおかつ防寒にすぐれた素材のコスチュームに着替えているのだ。
「生で見るの初めてだけど……超カッコいいよ!」
笑顔とともに、びしっとサムズアップを決める出久。対する勝己は相変わらずにこりともしない仏頂面で「たりめーだ」と返すばかりだけれど、その機微はある程度、読み取れるようにはなった。
物心ついた頃からの幼なじみ同士にしては、ややぎこちなさを感じさせるやりとり。やりとりと言うにも、ことば少なだ。――いまの彼らには、それで十分だった。
もっとも、それだけでは満足できない男もいるわけで。
――DRRRRRR!!
「轟くんッ、爆豪くん――ッ!!」
エンジンフルスロットルで迫ってきたかと思うと、飯田天哉はその巨駆でもって帰ってきたふたりをまとめて抱き締めた。間にいた出久もなぜか巻き込まれてしまう。
「んんんん゛ッ!?」
「おっ」
「ぶッ!?」
「よく……ッ、よく無事で帰ってきてくれたふたりとも!!」
「テメェ゛クソメガネッ、放せやゴラァァァァ!!」
「げっ、か、かっちゃん爆破は勘弁して髪燃えちゃうからぁ……!」
「……飯田がこうだと安心するな、苦しいけど」
(巻き込まれなくてよかった……)by心操。
一方で、見守っていた大人たちはというと。
「フッ……まだまだガキだな」
「……あんたに言われちゃおしまいね、森塚」
何はともあれ……戦友たちの帰還を喜ぶ思いが、一番だった。
*
――未確認生命体第45号が、撃破された。
その報は様々なメディアを通じて、市民たちのもとに知らしめられた。
午前の情報バラエティ番組などではコメンテーターが第4号についてあることないこと訳知り顔で持ち上げる一方、ヒーローたちを不甲斐ないと指弾するいつもの光景が繰り広げられている。単に4号ひとりに功績を"押しつける"のは程度が低いにしても、G3の登場などにより警察に対する評価が"ヴィラン受け取り係"から持ち直しつつあることも事実――無論、犠牲を防げないことへの批判もないわけではないが――。
未確認生命体の出現は、ヒーロー至上社会という"普遍"すら侵食しつつある……既に現代人と同等の知見をもつようになったグロンギのひとり、ゴ・ジャラジ・ダもまた、その事実を切々と感じとっていた。
(リントがまた変わっていく、ボクらが再臨したことによって)
(ボクの望む"究極の闇"がもたらされたそのあと……キミたちはどうなるのかな?)
そのときを想像して、薄暗い部屋の中、禍々しく光を放つテレビの前で嘲う。――彼
そしてその弔はというと、ジャラジ以上に食い入るようにして画面を見つめていた。コメンテーターたちのつまらない会話から移り変わって、これまで撮影されたのだろうクウガの戦いが映し出されている。独りの英雄を持て囃すのが好きなのは、いまも昔も変わらないらしい。
――と、弔の右手がいきなり椅子の肘掛けを掴んだ……5本の指で。あっとジャラジが思ったときにはもう、肘掛けは跡形もなく崩れ去っていた。
「……どうしたの、ダグバ?」
「………」
気遣わしげに歩み寄っていくジャラジに対し、弔はぶんぶんとかぶりを振った。
「わかん、ない。……あいつ見てたら、なんか、お腹のへんがムカムカした」
「……へぇ、」
それを聞いたジャラジは、薄い唇を三日月型に吊り上げていた。
「ねぇ、ダグバ」
「?」
そのこけた頬に両手を置き、半ば強引にこちらを向かせる。弔の真っ赤な双眸に、自分の顔がはっきりと映し出されていた。
「キミ……
「きら、い……」
「そう。――同じだよ、ボクと」
「だからさ、」
「ちょっと痛い目、遭わせてあげようか」
「………」
目の前の瞳に剣呑な輝きが宿るのが、ジャラジには愉しくて仕方がなかった。