【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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EPISODE 43. トロイメライ 3/4

 ちょうどその頃、合同捜査本部のNo.2である塚内警視と、S.A.U.Lのリーダーである玉川警部補もまた、ともに遅めの昼食をとっていた。もっとも、決まった時間に食事できるほうが珍しい彼らからすれば、早いも遅いもないのだが。

 

「おまえとメシ食うのも久しぶりだな、三茶」

「そうですね。塚内さん、昇進してから構ってくれなくなりましたし」

「なんだそりゃ……彼氏彼女じゃあるまいに」

 

 首から上が混じりっけない猫だからまだ微笑ましいかもしれないが、外見諸々の要素を取っ払ってみればアラフォー(40手前)のおっさんが同じくアラフォー(40過ぎ)の元上司が構ってくれなくて拗ねるという……なんというかこう、そういう男同士のもつれ合いが好きな方々にとってもストライクゾーンから外れる振る舞いなのではなかろうか。

 

「そういうおまえはどうなんだ、ちゃんと部下の面倒みてやってるのか?」

「ウ゛ッ……にゃ、ニャア」

「なに誤魔化してんだ」

「……発目くんは言わずもがなだし、心操くんはこう、今どきの若者ですし。あまりプライベートに踏み込みすぎるのもあれかなーと……」

「一般企業やお役所ならそうかもしれないが、俺たちは互いに命を預けて戦ってるんだ。そういうのもある程度は必要だろ。それに心操くん、彼は打てば響くタイプだと思うぞ」

 

 面構本部長が出久ともども焼肉を食べさせてやったときは、ふたり揃ってむしゃむしゃがっついていたらしい。話もそれなりに弾んだそうだから、森塚などよりは飯田などに近い――つまりはヒーロー的な――メンタルを持っているのだろう。つくづく、その道からドロップアウトしてしまったのが惜しい。警察としてはむしろ僥倖だったかもしれないが。

 

 それからもお互い出世してみてどうだとか、多忙な独身貴族ゆえ増えた給料の使い途がなくて困っているだとか、40歳までには所帯を持ちたい(持ちたかった)だとか、そんな中年男性あるあるな会話で盛り上がるふたり。供された食事もあらかた平らげ、そろそろお勘定という時になって、不意に玉川が真面目な表情になった。何か言おうとして……周囲を窺うように、目線を動かす。ここまでのような雑談を吹っ掛ける態度でないことを察した塚内だったが、相手もベテランであるから促さず静かに待った。

 

 そして、

 

「……捜査会議では話題に挙がりませんでしたけど、廃工場で発見された未確認生命体の死体の件、塚内さんはどう考えていますか?」

「……あれか」

 

 ひと月ほど前、廃工場で発見された老人の遺体。爬虫類のようなタトゥが手に刻まれたそれは、腹部をえぐり取られており……解剖に付された結果、体組織に他のグロンギと同様の特徴がみられることがわかったのだ。

 

「他の161体と同じ、X号による"整理"……では、ないですよね」

「……ああ」うなずき、「あの遺体の未確認の殺害時点で、奴はまだ地方にいたはずだ。それに奴の手口にしては、腹部以外が綺麗に残りすぎている。それに――」

 

――抵抗の痕跡(あと)が、なかった。

 

「あくまで勘だが、犯人(ホシ)はX号とはまた別の未確認だと思う。それもただの仲間割れではない。あるいは……」

 

 塚内が挙げた容疑者の名を聞いて、玉川は戦慄せざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 街にようやく戻った、かりそめの平穏。それを嘲笑うかのように、バラのタトゥの女――バルバは、艶やかに笑みを浮かべていた。

 

「いよいよだな、ガドル」

「………」

 

 そんな彼女と相対するのは、カブトムシに似た異形の怪人。無駄なく鍛え上げられた筋肉質な漆黒の身体を、堅固な装甲が覆っている。橙色に光る一対の瞳は、常に苛烈な戦意を放ち続けて憚らない。彼こそがゴ・ガドル・バ――実力者揃いの"ゴ"の中でも、卓越した力の持ち主である。

 

 バベルも斃れ、長らく待ち続けていたゲゲルの順番がようやく自分に回ってきた。にもかかわらず、彼は逸る様子を微塵も見せない。黙したまま、傍らで見守る仮面の男――ドルドめがけ、カードのようなオブジェクトを投げつける。そこには現代人にはおよそ判読不能な象形文字が記されていて。

 

「ほう、これはこれは……」

 

 感心したようにうなずくドルド。そしていよいよ、バルバが爪型の指輪を構え、ガドルのもとへ歩み寄る――

 

――刹那、その姿が着流しを纏った男性のそれに戻った。

 

「ラザザ」

「!」

 

 有無を言わせぬことばに、バルバが立ち止まる。

 

「ガサダバヂバサンジンドゾ……ゲダバサ、クウガ」

「……ほう」

 

 踵を返し、颯爽と去りゆく。"新たな力"――すべては、確たる勝利のために。

 

「いまのおまえに、ガドルを抑えられるかな――"ガミオ"」

「………」

 

 いつの間にか現れた、目深にフードを被った老人。口許に深く刻まれた皴は、いかなる事態に直面しても決して揺らぐことはない。

 

――たとえ旧友を、自らの手で殺めたとしても。

 

 

 

 

 

 夏目実加はホールを彷徨っていた。

 

 一度は観客席で静かに自分の番を待つ心積もりでいたのだが、他人の巧みな演奏を聴いていると、かえって不安で落ち着かない気持ちになってしまったのだ。

 それに、

 

(桜子さんたち、まだかな……)

 

 来てくれると約束した3人とも、まだ顔を見ていない。桜子以外のふたり――出久と勝己――に至っては連絡先すら知らないのだ。自分の演奏が始まるまでに、ちゃんと来てくれるだろうか――

 

 ただなんとはなしに、周囲に目をやった実加。しかしその行動が、思わぬところで己の希望を叶えた。

 

「!」

 

 案内の女性から、コンクールのプログラムを受け取っているとおぼしき青年の姿が視界に入る。実加より頭ひとつぶん以上も高い背丈に、一見細身ながらいっとう鍛えられていることがわかる身体つきと身のこなし。伊達眼鏡に隠された、意思の強さを露にするピジョンブラッドのような紅い瞳。簡単に変装はしているようだけれども、直接会って、ことばをかわして、誤認するはずがない。あれは――

 

「爆豪さ……」

 

 呼びかけようとして……思いとどまる。プロヒーローの個人情報は公には伏せられているが、住所等はともかく本名や来歴についてはこのご時世簡単に広まってしまう。まして勝己のような雄英出身者ともなれば、かつてのオリンピックに代わるものとなった雄英体育祭で名が売れてしまっているのだから秘密も何もない。

 

 前置きが長くなったが、要するに勝己の存在を周囲に気取られたくなかったのだ。ヒーロー・爆心地がいると騒ぎになれば、落ち着いてフルートを聴いてもらうどころではなくなるし、最悪自分との関係を邪推されるようなこともないとは言い切れない。

 

 実加がどうしたものかと逡巡していると、幸いにして勝己のほうからこちらに気づいた。

 

「あ……こ、こんにちは」

「……おう」

 

 ぶっきらぼうな応答とともに、歩み寄ってくる勝己。やはり直接あいまみえるとなると緊張してしまうが……ぐっと唾を飲み込んで、実加もまた一歩を踏み出した。

 

「ご無沙汰、してます。今日はあの……お忙しい中、来ていただいてありがとうございます」

「……別に。それよりいいんか、こんなとこいて」

「あ、はい。私の番まだまだだし、なんか緊張しちゃって」

 

 そのときふと、勝己が小脇に抱えた花束が目に入った。

 

「あの、それって……?」

「あぁ……おまえにやる」半ば強引に押しつけられる。「いらなきゃ捨てとけ」

「そ、そんなっ!……嬉しいです、ありがとうございます」

 

 驚きのほうが先に来たが、それはまごうことなき本音だった。あの塩どころか唐辛子対応で名高い爆心地から花束を贈ってもらえる人間は、いまのところ世界で唯一自分ひとりだろう、きっと。

 

「まだ行かねえんなら、少し話でもするか」

「え、いいんですか?」

「……待ちくたびれてんだよ、付き合えや」

 

 不機嫌そうな台詞にも、もう腰が引けることはない。実加はにっこりと笑って「はい!」とうなずいた。

 

 

 話をすると言っても、成人過ぎた男のプロヒーローとふつうの女子中学生ではなかなか共通の話題もない。まして互いに、くだけた話が得意というわけでもなく。

 

 そうなると結局、話題はひとつしかない。

 

「……ニュースだなんだで見聞きしてるだろうが、奴らン中でいま異変が起きてる」

「それって、新しく現れた未確認生命体が、仲間をたくさん殺した……っていう?」

「そうだ。ただ、そのおかげで連中の特性を詳しく調べることもできてる。もうすぐデク……4号じゃなくても、連中をブッ殺せるようになる」

「!、じゃあ――」

 

「未確認生命体はいなくなりますか?0号も、いなくなりますか?」

「………」

 

 縋るような目で見上げてくる。あのときも、父の死から間もないがゆえに刺々しくなっていただけで、きっと同じ気持ちだったのだろう。

 

「……言ったろ。奴らのいいようにはさせねえ――俺たちが、必ずブッ潰すってな」

「………」

 

 実加は暫し、じっと勝己の顔を見つめていたが、

 

「よろしく……お願いします」

 

 丁寧に頭を下げる。その瞳にはもう、不信はなかった。

 

「私、あのあとからずっと、自分にできることを考えてて……。研究室のお手伝いしようかとも思ったんですけど、全然専門的なこととかわからなくて。ヒーロー目指すとかも、現実的じゃないし。それで、お父さんの勧めてくれたフルート、がんばってみようと思ったんです」

「それで半年でコンクールか……大したもんだな」

 

 称賛のことばは、自分でも信じられないほど滑らかに飛び出していた。一瞬目を丸くした実加の頬が、やがてりんごのように赤く色づく。

 

「あ、ありがとうございます……私なんか、まだまだですけど……」

「なら、せいぜい気張れや」

「はい!」

 

 嬉しそうにうなずいた実加は、「あ」と声をあげてバッグから何かを取り出した。

 

「おやつに持ってきたんですけど……お饅頭、いりますか?」

「饅頭?」

「あ、甘いもの苦手なんでしたっけ……」

「……別に苦手じゃねえ。欲しねえだけだわ」

 

 欲しなさすぎて、饅頭に至っては15年以上も食べていないけれども。

 

「もらうわ。ハラ減ってっし」

「あ、どうぞ。――どうでもいいことなんですけど、私、お饅頭食べるときってどうしてもあんこから先に食べちゃうんですよね。ふたつに割って」

「!」

 

 勝己が目を丸くするのを見て、実加はよもやと思った。

 

「もしかして、爆豪さんもですか?」

「……ああ、ガキんときだけどな」

 

 甘味が口の中に残るのが嫌だったから、先に餡の部分だけきれいに食べるようにしていた――そんな説明をすると、実加が笑った。

 

「じゃあ理由は逆なんですね。私は甘いの大好きなので、我慢できなくって」

「女とガキは甘ェの好きだもんな。どっちにも合ってんじゃしょうがねえわ」

「うっ……わ、悪かったですねっ!」

 

 頬を膨らませてみせる実加。それを受け止めた勝己は、瞳を細めてフッと微笑んだ。それは花束と同じくらい、貴重な表情だと実加にはわかった。

 

「爆豪さんって、そんなふうにも笑うんですね……」

「あ?」

「あ、す、すみません。いつも厳しい顔してるか、怖い笑い方してる印象があったので……」

 

 ヴィラン顔負けと巷では言われている――なんてことまでは、流石に口にはしなかったけれど。

 多少なりとも怒られるかと思ったが、勝己はその柔らかな笑みを維持したまま、瞳にほんのわずか、自嘲のいろを覗かせただけだった。

 

「……だろうな」

「……?」

 

 実加が覚えたのは、小さな、本当に小さな違和感だった。彼がもっている自信、プライド……そういうものの、奥の奥に覆い隠された何か。うまく説明できないけれどそれは、そういったものとは矛盾した感情なのではないかと感じたのだ。

 

「爆豪さ――」

「つーか、そろそろ行かねえとやべーんじゃねえの?」

「え?――あ!」

 

 気づけば、自分の出番まで30分を切っている。勝己の言うとおり、そろそろ準備に取り掛からねば……おしゃべりに気を取られすぎてうまくいかなかったなんて、笑い事ではない。

 

「じゃあ……行ってきます」

「おーおー、トチんなよ」

「が、がんばりますっ」

 

 ぺこりと一礼して、走っていく実加。それを見送ったあとで、勝己は彼女からもらった饅頭をふたつに割って、餡の部分だけを齧る。

 

「……クソ甘ぇ」

 

 そう、苦手なわけではない。――ただ、自分にはふさわしくないというだけだ。

 

 

 

 

 

 その頃緑谷出久は、沢渡桜子とともにコンクール会場へ向けてバイクを走らせている真っ最中だった。

 

「思ったより遅くなっちゃったね……!間に合うかな……」

「あと15分くらいで着けるはずだから、たぶん大丈夫だよ。だから慌てないで、安全運転でね!」

「はは……」

 

 確かに、無茶な運転で事故でも起こしたら元も子もない。呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。

 

――そのときだった。人影が、ふらふらと道路に踏み出してきたのは。

 

「ッ!?」

 

 慌てて急ブレーキを握る出久。不幸中の幸いというべきか、まだ距離があったおかげでバランスを崩すこともなく停まることはできた。まずもって桜子に大丈夫か訊けば、肯定が返ってくる。

 

「ッ、なんなんだ、一体――」

 

 行く手を阻んだ男は、焦る様子もなく茫洋とその場に佇んでいる。しみひとつない純白のパーカーを纏い、フードを目深に被っている。はみ出た髪も白い。――唇が、醜くひび割れている。直接ではないが、その姿は記憶に焼きついていた。

 

「!、おまえ……」

 

「死柄木、弔……!」

 

 東京に戻ってきたことは既に知るところ。だが、なぜこんなところに?

 

 ほとんど反射的にマシンから飛び降り、当惑している桜子を背後に庇う。途端、対峙する弔の充血した双眸が、ぎろりと鋭くなった。

 

「クウガ……緑谷、出久……」

「……!」

 

 こいつ、僕の名前を?

 

「おまえ見てると……なんか、ムカムカする……!」

 

「きらいだ……――死ね!!」

 

 瞳がかっと見開かれ、弔の肉体が内側から変質する。日に焼けていないもとの肌がさらに白く染め抜かれ、紅い瞳が歪に巨大化する。頭部から突き出した黄金の二本角はクウガやアギトに酷似しているが……その実は、彼の内面を表したように醜くゆがんでいた。

 

「……ッ、沢渡さん、隠れてて」

「う、うん……!」

 

 桜子を逃がし、自身はその場に踏みとどまる。援護してくれる仲間は誰もそばにいない。けれども、

 

(逃げるわけには、いかない……!)

 

 弔を救ける、その力になると決めたのだから。

 

 

「――変身ッ!!」

 

 アークルを体内から顕現させ、変身の構えをとる。たちまち全身の筋肉が膨れあがり、漆黒の皮膚が、真っ赤な鎧が包んでいく。弔の……ダグバのそれとは似て非なる赤い複眼が、出久の翠眼を覆い隠した。

 

「………」

 

 おもむろに、拳を構えるクウガ。対してダグバは微動だにしない。その場に縫い付けられたよう双方が、辺りに強烈なプレッシャーをばらまいている。少し離れた街路樹の陰から見守る桜子が、思わず固唾を呑む。

 

――刹那、ついに状況が動いた。

 

「あははははははっ!!」

 

 狂ったような哄笑とともに、凄まじい速度で距離を詰めてくる。まともな神経ならいますぐ逃げ出したくなるところだが、クウガはぐっとその場に踏みとどまった。ぎりぎりまで引き付けて――かわす!

 

「く……ッ、――はぁッ!」

 

 そして地面を転がりつつ、脇腹に蹴りを叩き込む。ただ守りも念頭に入れた攻撃なだけあって、牽制程度の効果にとどまってしまった。すかさずダグバが手を伸ばしてくる。クウガは慌ててまた距離をとる。

 

 ダグバが、笑った。

 

「はは……ぼくの手が、こわいの?」

「……当たり前だろ」

 

 その感情を否定するつもりは更々ない。弔が元々持っている個性を使われれば、いかにクウガの肉体といえど"崩壊"を免れない。奴の5本の指と接触しないよう臆病になることも、この戦いでは必要だ。

 

「へぇ……こわいのに、戦うの?」

「そんなのッ、当たり前だ!!」

 

「決めたんだ。僕はみんなを……みんなの笑顔を、守ってみせる!!」

「………」

 

 ダグバの拳が、固く握りしめられた。

 

「やっぱりおまえ……大嫌いだぁッ!!」

 

 一気に詰められる距離。拳が握り込まれている以上、少なくとも個性は使われない。いちかばちか……クウガもまた、拳を振り上げて応戦する。

 

 ゼロ距離。そして、

 

「がぁッ――」

「ぐ――」

 

 互いの拳が、互いの頬を歪ませあう。クウガは後方に吹っ飛ばされ、ダグバは地面を転がった。

 

「ッ、うぅ……」

 

 鈍い痛みが、鋭く発せられる。ダグバも同等のダメージを受けているのだろう、頬を押さえながら……それでも、殺意のこもった視線をクウガへ向けている。

 

「嫌いだ……死ね、死ね……っ!」

「ッ、なんで、そこまで……!」

 

 生粋のグロンギたちとは異なる、何かにとり憑かれたような憎悪。その姿はあまりにおぞましく……あまりに、切なかった。

 

 

(出久くん……)

 

 そんな死闘を見守り続けることしかできない桜子の手に、力がこもる。この戦いはいつまで続くのか、そしてどんな形で終るのか――そのとき出久が無事でいるという保証など、どこにもない。

 

――そして、彼女自身も。

 

「ねえ」

「!」

 

 いきなり背後から声がかかる。反射的に振り向いた桜子の視界に映ったのは、迫る陰気な詰襟姿の少年。逃げ出す間もなく、彼の手が迫り――

 

 

「きゃああぁっ!」

「ッ!?」

 

 短い悲鳴を耳にして、クウガが振り返った先――怪人体に変身したゴ・ジャラジ・ダと、彼に拘束された桜子の姿があった。

 

「沢渡さんっ!!」

「……ヒヒッ」卑しく嘲うジャラジ。「ダグバ……この(ひと)傷つけるほうが、クウガは面白いことになるよ……」

「ッ、おまえ……!」

「……へぇ」

 

「じゃあ……そうする」

 

 ジャラジのことばに従って、ダグバが動くのは速かった。放り出された桜子のもとに、一気呵成に迫っていく。

 

「ッ、沢渡さん――!!」

 

 クウガとて立ち上がり、桜子を救うべく走り出す。しかしスピードに長けたダグバに対し、いかに全力であってもその動きはあまりに緩慢だった。そして狙われた桜子は、恐怖から身動きすらできない――

 

「ヒヒッ……無力だね、クウガ」

「く……ッ」

 

 嘲うジャラジに、反論もできない。手を伸ばしても、届かない――

 

「や、めろ……ッ!」

 

 もはやそう、声を振り絞ることしかできない。それでダグバが止まるはずもない。今度こそ明確に開かれた掌が、いよいよ桜子の目の前に迫る。

 

――僕は、こんなすぐそばにいる大切な人すら、救えないのか。

 

 無力感とともに、とうに抑えたと思っていたどす黒いものが、胸のうちから溢れ出してくる――その黒が、複眼に滲みかける。

 

 刹那、その場にいる誰もが予想だにしない事態が起きた。

 

 上空に、突如として黒雲が現れる。それは太陽光を完全に遮断し、辺りを夜の闇に変えてしまった。

 

「な……?」

「これは――」

 

 ダグバも思わず動きを止め、上空を見遣る。直後、ジャラジが彼の名を叫んだ――珍しく、焦りを露にした声で。

 

 そして落雷が、2体の身体を貫いた。

 

「がぁ――ッ!?」

 

 倒れ込むグロンギたち。余程ダメージが大きかったのか、その身がたちまち人間体に戻ってしまう。

 おかげで桜子は助かった……その安堵以上に、クウガもまた当惑していた。これは、なんだ?一体なにが起きている?

 

「――!」

 

 そのとき不意に感じた、得体の知れない強烈な気配。振り向いたクウガは、ビルの屋上に立つシルエットを目撃した。

 

 刹那、強烈なプレッシャーが全身を圧し潰し――

 

「う……」

 

――自分自身ですら気づかないうちに、出久は気を失っていた。

 

 

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギングドググドズゴゴ

サメ種怪人 ゴ・ジャーザ・ギ/未確認生命体第44号

「ログググ、ガゲス……ドヅダゲ、デゴギデ、ゼベ……ザギバス・ゲゲル(もうすぐ会えると伝えておいて……"ザギバス・ゲゲル"でね)」

身長:201cm
体重:182kg(俊敏体)/213kg(剛力体)
能力(武器):銛(俊敏体)/大剣(剛力体)

行動記録:
サメの能力をもち、水中を自在に泳ぎ回るグロンギ。人間体はパンツスーツを纏い眼鏡をかけた美女であり、グロンギの中で最も現代社会に溶け込みやすい姿をしている。ノートパソコンを持ち歩き、インターネットを使いこなすなど知性も非常に高い。
言動もまた知性的であり、朗らかな笑顔を浮かべるなど他のグロンギにはない振る舞いも見せるが、本性は群を抜いて冷酷かつ陰湿。ゲゲルにおいては「5時間で567人」という高難度の数値目標を設定するが、「ザギバス・ゲゲルの前に余計な力を使いたくない」という理由から、旅客機や船といった逃げ場のない閉鎖空間で、子供など弱者の集団を標的としてゲゲルを行う。一方でネット上に犯行のヒントとなる書き込みを行うなど、挑発的な一面も垣間見せた。
クウガとは二度に渡って衝突。初戦となった東京湾内での戦闘では"潜れるくん・ライダー仕様"を装備したドラゴンフォームを終始スピードで圧倒し、銛で串刺しにして下した。二戦目のさんふらわあ船上においても一対一では圧倒的な力を見せつけるが、ヘリコプターから降下してきたG3が参戦、デストロイヤーの刃で肩を斬られたことで大きなダメージを受ける。形勢逆転かと思われたとき、それまでの"俊敏体"から、タイタンフォームすら凌ぐパワーを誇る"剛力体"への超変身能力を露にする。大剣での攻撃でクウガを弾き飛ばし、ふたりの仮面ライダーを追い詰めるが……出久の閃きによるダブルライジングタイタンソードによってとどめの一撃を防がれ、一気に押し返されて船から突き落とされる。墜落の最中にふたつの刃によって貫かれ、爆炎とともに水底に没した。
最初の旅客機内での犯行による243名の犠牲者の中には、その数日前に出久とお茶子が交流した幼稚園の園児たちも含まれていた。そのことがお茶子を復讐に走らせたが……。

作者所感:
「ゲス野郎~」(たけしの物真似っぽく)
美人で物腰柔らかなのにジャラジに並ぶゲスですよね……。拙作だとジャラジが何考えてるかわからない系になってるので余計。
変身後の声がやたら野太いんですが、あれって女優さん本人なんですかね?あのゴツイ怪人体で優しい声で喋られてもあれですけども。

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