【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
P.S. 今回のエピソードについては個人的に色々と思うところがありすぎて前書きに書くには長くなるので、活動報告に乗せることといたします。ご興味ある方はちらっと覗いてみてください。
あの場で起こったことを出久が知るのに、勝己との再会は待たなかった。
駅に到着したあと、実加の口から彼女の知る限りが語られたのだ。「そっか」とだけ、出久は応じるほかなかった。
「……怖かったんです、私」
「それは……しょうがないんじゃ、ないかな?銃なんか突きつけられたら誰だって――」
実加は小さくかぶりを振った。
それだって、確かに怖かった。けれど差し伸べられた勝己の手を、とることができなかったのは――
「あの捕まった男の人、コンクールの前、私が落としたこのミサンガを拾ってくれたんです」
「!、……そう、だったんだ」
「それに、爆豪さんも。私に花束くれたり、頑張れって言ってくれて……そのとき、すごく優しい笑い方してて……」
「………」
いまとなってはもう、勝己のそうした行動に驚きはなかった。そうだ、ずっと昔の……まだ個性も出なかった頃の幼い彼はやっぱり乱暴者だったけれど、そういうところもあった。ただ自分も世間も、そうでない勝己を見すぎてしまったというだけのこと。
「だから余計に嫌だったんです。犯人のひとも爆豪さんも、すごく怖い
大勢の人間を傷つけてきたであろう、あの掌を。
出久には、実加の気持ちが痛いほどよくわかった。だけど、だからこそ――
「でも、それは本当のかっちゃんだよ」
「!」
「すごく怖くて、嫌かもしれないけど……それが、爆豪勝己って人なんだ」
「………」
やるせない表情で俯く実加。
「でもね、」
「笑った顔も、ほんとのかっちゃんだから」
「!!」
弾かれるように顔を上げた実加は、確かに見た。悔恨と諦念と……そして希望が入り乱れた、出久の微笑みを。
「実加さん。きみは……どうしたい?」
そんなの、答は決まっていた。
*
報告書を書き終えた爆豪勝己が真堂の所属するヒーロー事務所を辞そうというときにはもう、辺りはすっかり宵闇に染まっていた。
「今日はお疲れさま、爆豪くん。さすが、未確認相手に最前線で戦ってるヒーローは違うね。俺も見習わなきゃいけないな」
「……また心にもねえことぺらぺらと。つーかついてくんなやすかし野郎、テメェまだ仕事あんだろ」
「いいだろ、見送りくらいさせてくれよ。それに、いまのはちゃんと本音」
「俺は結構、きみをリスペクトしてるんだ」と、白い歯を見せて笑う真堂。仮に本音だとしても、こいつにリスペクトされたところで嬉しくもなんともない。
事務所の玄関口にまでたどり着いたところで、真堂はようやく立ち止まった。勝己は立ち止まらない。扉を開けてくれようとする真堂の手を無慈悲に弾き、自らノブに手をかける。
と、
「……きみは相変わらず、呼吸がしづらそうだね」
「あ゛?」
思わず振り向けば、真堂はもう胡散臭い笑顔を浮かべてすらいなかった。どこか寂しげな表情。同情……むしろ共感か、これは。
「きみは世間……ううん、身内からですら、傍若無人で自尊心ばっかり強くて、ヒーローらしさなんて欠片もないアンチヒーローだとレッテルを貼られてる。……まあ、まったくの誤解とも言い切れないのがあれだけど」
「ケンカ売ってんのか、テメェ」
「まあまあ、最後まで聞いてよ」
「世間ってのは、俺たちヒーローを記号でしか見ない」
「きみが背負い込んでいるものも、あのときどんな思いでいたのかも……そんなこと、考えようともしない。そのほうが都合が良いから。ただ自分たちが石を投げてもいいサンドバッグとして、きみを縛りつけて、吊るしておきたくて仕方がないのさ」
「……けっ」
だからどうしたと言わんばかりに、勝己は再び背を向けた。
「言いてぇことはそれだけか。じゃあな、もう連絡してくんなよ」
「ッ、」
「やっぱりきみには、もっとふさわしい舞台があると思う!」
絞り出すような声だった。
「きみが忘れたってンなら、もう一度言うよ。未確認の事件が終わったら、いままでの俺たちを知らない場所で一緒に仕切り直してみないか?アメリカでもヨーロッパでも、アフリカの発展途上国でもいい。……もっと自由にやっていいんだ、俺も、きみも。そうじゃなきゃ、おかしいじゃないか……」
――俺たちは、ヒーローである以前にひとりの人間なのだから。
ドアノブを握ったままの手に自ずから力がこもるのを、勝己は感じていた。ぶるりと震えるそれとは裏腹に、瞳は一瞬、静かに閉じられて。
そして、
「……どこへ行ったって同じだ。俺のやることは変わらねえ」
「!」
「世間が、他人が俺をどう思おうが……どう扱おうがもうどうでもいい。いつかどっかで死ぬとき、自分でやりきったと思えりゃそれでいい」
楽になりたいとは思わない。楽しみがなくとも構わない。――必要ないのだ、そんなもの。デクの夢を終わらせ、オールマイトを終わらせた、自分のような男には。
真堂は暫し彼の背中をじっと見つめていたが……やがて、ため息をこぼした。
「……救えないな、きみも」
「なんとでも言えや」
勝己は最後にちらりとこちらを見遣って、いよいよ扉を開けた。暗闇の中に一歩を踏み出していく。――その肩越しに見えたシルエットが、真堂の心を打った。
「!、……そうか」
「きみの人生は、否定されるばかりではなかったんだね」
「!!」
自分を待つ少女の姿に気づいた勝己の耳に、もはや真堂のことばは届いていなかった。あふれ出す感情のままに、走り出す。
――そこにいたのは、夏目実加だった。
「おまえ……なんで……」
ただ戸惑いのままに、か細い声で訊く。その姿にヒーロー・爆心地の烈しさなど、微塵もありはしなかった。
瞳いっぱいに涙を溜めた実加は、暫しことばを選ぶように躊躇っていたのだが、
「……これ」
「!」
彼女が取り出したのは、勝己も既にひとつ食べた、あの饅頭だった。
「ひとつだけ、残っちゃったから……だから……」
「……ッ、」
おずおずと差し出された掌。自身の掌が触れてももう逃げることのないそれはひどく小さくて、温かかった。
夜の闇に浮かぶルビーのような煌めきがいつまでも、少女の姿を映し出していた。
つづく
轟「次回予告だ」
心操「今回出番のなかったWライダーでお送りします……ハァ」
心操「次回はまた時期が飛んでクリスマス・イブ。リア充どもが浮つく忌々しい日だ」
轟「……おまえ、なんかキャラ違くねえか?」
心操「気にするな、これがクリスマスのスタンダードだ。わかったか今回舞台裏で八百万とイチャイチャしてたクソリア充が」
轟「……なんでもいいけど、おまえ中学んときは彼女いたって言ってなかったか?」
心操「色々あったんだよ察しろ。……さて本題に戻るが、」
轟「いきなりだな」
心操「そんなめでたいイブの日にいよいよ動き出す、未確認生命体第46号。奴のゲームの標的は……」
轟「……俺たちヒーロー、か」
心操「46号の圧倒的な力を前に、次々と斃れていく戦士たち。そのとき、奴の前に立ちはだかったのは……」
轟「?、俺たちじゃねえのか?」
心操「それは次回のお楽しみだ」
EPISODE 44. マンティス・エレジー
轟「緑谷、電気ショックを志願する」
心操「さらに向こうへ……行って大丈夫か、それ?」