【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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最後の平和な日常…となるやもしれませぬ。


EPISODE 44. マンティス・エレジー 1/3

 年末差し迫った東京の街並みは、あらゆる不穏を糊塗するかのごとく賑々しい。行きかう人々の多くは分厚いコートを羽織り、往来はクリスマスの到来を告げる飾り付けによって華々しく彩られている。

 

 人波をさまよい歩くゴ・ガリマ・バの瞳に、そうした季節の風景は一切映っていなかった。

 

「………」

 

 現代に復活してから8ヶ月余。そのうち半分以上、彼女はこうしてあてどもない旅を続けていた。美しいピアノのしらべで自らを虜にした、ゴ・ベミウ・ギが斃れたその日から。

 

 ただ当初は、ベミウのそれに並ぶだけの音楽を見つけ出すという明確な目的があった。音楽のある場所どこへでも行き、渇望し、追い求めた。しかしその結果は、ほとんど芳しいものではなかった。世の中には名演奏家が大勢いて、掌ほどの大きさの円盤を介して彼らの演奏を簡単に聴くことができるとも知った。けれどもそれらは、ガリマの心を欠片も満たしはしない。

 

 その、一方で。

 

(……あの少女の、演奏は)

 

 ベミウやプロの演奏家たちと比べれば明らかに粗削りで、未熟さを孕んだ音の連なり。まだ丸みの残る頬を赤らめながら、緊張の面持ちで吹かれた"トロイメライ"。それが不思議と、ベミウの演奏を思い出させてくれた。

 

 数奇な巡り合わせだと言うほかないが、そのとき隣に座っていたのは、ベミウの仇とも言うべきヒーロー・爆心地だった。粗野で乱暴で、傍若無人を絵に描いたような男。世間ではそれを"アンチヒーロー"と形容しているらしいが、滑稽な話だとガリマは思う。正義をお題目に同じリント相手ですら平気で暴力を振るう戦士たち、ヒーローとは所詮そんなものでしかない。やっていることは、自分たちグロンギとそう大きく異なるわけでもない。であるならば、聖人ぶらない爆豪勝己のような人間のほうが、よほど"ヒーロー"とやらにふさわしいのではないだろうか。

 

 しかし、だからといって、彼にリントらしい情念がないわけではないこともガリマは知ってしまった。でなければきっと、あんなことばは出ない。

 

――あの子の父親は、テメェらの仲間に殺された。

 

 だからどうした。以前の自分なら、そう切り捨てていたことだろう。けれどあれからひと月、そのことばがずっと彼女を縛っていた。あの優しい音色を聴く資格が、果たして自分にあるのだろうか。仇であるグロンギが彼女の演奏を気に入ったなどと知ったら、その心根は曇ってしまうのではないか。

 

(私は、どうすれば……)

 

 だからガリマはもう、答を出せぬまま滅びのときを待つほかなかった。

 

 

 

 

 

 迎えたクリスマス・イブの朝空は、雲ひとつなく澄み渡っていた。

 

 吐き出される息が白く染まる一方で、動き続けて火照った身体に北風が心地よい。人生22回目の冬、緑谷出久は初めてそうしたことを思い知った。

 

 染み出る汗を拭いつつ、前を走る青年の背中を見つめ、思う。

 

(そんなの当たり前なんだろうな……かっちゃんは)

 

 爆豪勝己――幼なじみであり、いまではプロヒーロー・爆心地。中学生までヒーローの活躍を追ってはノートに書き連ねるばかりだった自分と異なり、彼は少年時代からこうした地道な努力を重ねていたらしい。かっちゃんはなんでもできる才能マンなのだと、幼少期の印象をいつまでも引きずっていたあの頃の自分には、そんなこと思いもよらなかっただろうけれど。

 

 そんな追憶をこねくり回していると、前方から怒声を浴びせかけられた。

 

「おいクソナード!!何ボーッとしてやがる置いていき殺すぞ!!」

「ひゃ、ひゃいっ!すみません!!」

 

 相変わらず上下関係はこんなだが、それでもこうしてかつてとは違う、良い関係を築きつつあると思う。

 

 もとに戻ることは不可能でも、前に進むことはできるのだ。

 

 

 

 

 

 次いで、轟焦凍。現在の住居であるマンションの一室にて、彼は眠い目をこすりながら朝食の用意をしていた。東京に来て約半年ほど、こうした家事全般をこなす姿も板に付きつつある。当初はこれが酷いものだったのだ。事後のキッチンの惨状を目の当たりにした老齢の同居人が卒倒しかかるくらいには。

 

「おい焦凍」ダイニングからしわがれた声がかかる。「メシはまだかのう?」

「もうできます」

「……そこは"やあねえ、さっき食べたでしょ"と返すとこだ」

 

 新聞を広げながらそんな冗談を口にするのが、同居人であり、大師匠でもあるグラントリノこと空彦老人である。師・オールマイトよりワン・フォー・オールを受け継いだことで超人"アギト"へと進化を遂げながら、内に燻る憎悪のために化け物へと貶めてしまった自分。暴走する力を恐れ、憧れも矜持も捨てて逃避を選んだ孫弟子を、彼は最後まで見捨てず支えてくれた。本当に、感謝してもしきれない。

 

「それよかおまえ、世間はクリスマスだなんだと浮かれとるっつーのに悠長に朝飯作っとっていいのか?」

「?、なんでですか?」

 

 首を傾げる焦凍。ご飯茶碗と焼き鮭を乗せたお盆を持ってくる姿は家庭的な雰囲気を醸し出している。クールな容姿とのギャップもあって、二重に女性受けが見込めると思うのだが。

 

「あの嬢ちゃんとは約束しとらんのか?」

「八百万のことなら、昼間は仕事です」

「じゃあ夜は空いとるのか」

「………」

 

 なぜか黙り込む焦凍。相変わらず何を考えているのかわからない表情だが、そういう反応をするということは意識はしているのだろう。いままでの無頓着ぶりを思えば、ずいぶんな進歩ではないか。

 

「ま、いい。ジジイが口出しするもんでもねえしな。やりたいようにやれや、若けぇんだから大抵の失敗は取り返しがつく」

「……そうですね、頑張ります」フッと微笑む。

「ときに焦凍よ、」

「なんですか?」

 

「メシはまだか?」

「……いま目の前にあるでしょう」

 

 ボケが通じないのは相変わらずのようだった。

 

 

 

 

 

 賑やかなクリスマス仕様のデコレーションが施されているのは、緑谷出久のアルバイト先である喫茶ポレポレも例外ではなかった。

 

 開店前の仕込みを行うマスター――"通称おやっさん"――と、それを手伝う麗日お茶子。彼女がヒーロー業の傍らここで働きはじめて、もうすぐ7ヶ月にもなる。いまでは……というか当初から、自慢の看板娘である。

 

 なのだが、

 

「マスター、あの……お願いがあるんですけど」

「んん~?なに、冬のボーナスが欲しいの?」

「違くて……いやもらえるなら欲しいですけど!」

 

 お茶子の丸みを帯びた顔立ちに、わずかな罪悪感が滲む。それでおやっさんはなんとなく事情を察したが、あえて彼女自身の口から語られるのを待った。

 そして、

 

「年明けから、シフト減らしてもらうことってできない……ですか?」

「どうして?」

「実は……」

 

 お茶子――ヒーロー・ウラビティの所属するブレイバー事務所。小規模な事務所であるためヒーロー3年目のお茶子が一番の若手だったのだが、なんと来春、新たにデビューするルーキーを採用することになったのだ。ヒーロー志望の生徒・学生はデビュー前からインターンなどで実戦経験を積むことが多いが、今回の新採も例に漏れず、年明けからブレイバー事務所に仮所属となる。そこで、だ。

 

「私、フレッシュマントレーナーを任せてもらえることになったんです」

「フレッシュトマト?」

「フレッシュマントレーナー!ってかそれはアレか、私の顔がトマトみたいってそういう!?」

「いやそこまでは言ってない……」

 

 横文字にするとあれだが、要するに新人の教育係のようなものである。

 

「だから結構忙しくなるし……勉強しなきゃいけないことも、増えると思うから――」

 

 「お、お願いしますっ」と、がばりと頭を下げるお茶子。それに対するおやっさんの答は……もう、事情を察した瞬間から決まっていた。

 

「……ま、若いときなんてのは一度しかない」

「………」

「自分で決めたんだったら、迷わずドーンとやりなさい……ケデリック」

「!、あ、ありがとうございますっ」

 

 いつかこういうときが来ることはわかっていた。お茶子も出久もまだ成人したばかりの若者、その未来の可能性は無限に広がっていく。自分だってかつてはそうだったのだ。ヒーローに比べれば圧倒的に地味かもしれないが……。

 

「でもなぁ、看板娘の不在は痛いしなぁ……。こうなったらアレか、お茶子ちゃん目当てで来てくれるニーチャントーチャンのためにも、オプションで水着で接客するサービスを……」

「……それマスターが週末になると行くお店やん」

「ぎくぎくっ!」

 

 

 

 

 

「G3の……強化計画?」

 

 上司である玉川三茶警部補の口から飛び出したことばに、心操人使は衝撃を受けていた。

 

 "警察のヒーロー"とでも言うべきG3の栄えある装着員として日々精力的に活動する彼は、今日も今日とて玉川とともに科警研を訪れていたのである。そんな折に明かされたのが、G3を従来のソフト面からでなく、ハードから抜本的に強化しようという動きだった。

 

「ンニャ」うなずく猫頭。「きみは4号やショートを巧みにサポートしてくれている……が、やはり警察の次世代主力装備として華々しい活躍を望む声も多いんだ」

「………」

 

 心操は閉口した。――大人の事情。玉川自身も思うところはあるのだろう、まだ学生の身でもある部下を気遣うような声色だ。

 ただ自分自身、現状に忸怩たるものがあるのもまた事実。だから強化自体を否定するつもりはないが、

 

「でも、そもそもスペックが上がると人体がついていかないから抑制したんじゃないんですか?」

 

 そう、クウガの戦闘データを基に、その能力に迫る性能を実現したG2。しかし肉体を戦闘用に作りかえてしまうクウガと異なり、あくまで強化服を生身の人間が装着するシステムである以上、限界はあった。あの見るからに屈強な飯田天哉ですら、長時間の戦闘には耐えきれなかったのだ。

 

「俺をクビにして緑谷とか轟に頼むって言うならまあ、話はわかりますけど」

「……怒ってる?」

「いえ……すみません、冗談です」

 

 自分のトーンでそういうことを言うと、機嫌を損ねたと思われてしまうようである。心操は反省した。

 

「俺も専門外だから詳しくはわからないんだが……発目くん曰く、専用のサポートAIを搭載したマイクロチップをスーツに埋め込むことで、スペック上昇による負担を極力抑えるんだとか」

「そんなことができるんですか?」

「ああ。……ここだけの話、装着者のほうを改造しちゃおうかとも思ったらしいんだが、専門外なので断念したそうだ」

「……それ敵連合のやり口じゃないですか」

 

 専門云々以前に、倫理感から断念してほしいものであると思うのは自分だけではあるまい。

 

「まあなんにしても、そっちが実際に動き出すのはいまの作業が終わってからだな」

 

 締めることばとともに、実験室に入る。そこでは当の発目以下研究員たちが、まさしく実験に取り組んでいる真っ最中だった。

 

――発目が、何やらブツブツつぶやいている。

 

「0.3秒0.3秒0.3秒0.3秒0.3秒……!」

「……?」

 

 心操が首を傾げるのと、強化ガラスケースの中で爆発が起きるのが同時――それも、一挙に二度も。

 

「あぁぁぁ速すぎる!!」

「……0.07秒です」

「やっぱりぃいいいい!!」

 

 シャウトし、頭を抱えて机に突っ伏す発目。しかし即座に顔を上げ、「まだまだこれからですよぉおお!!」と今度は前向きなシャウト。目の下の隈がひどい。部下ふたりが揃って寝不足感溢れるビジュアルとなった玉川の心境は複雑なものがあるが、それはこの際どうでもいいことである。

 

「発目くん、ご苦労様。……なかなか苦戦続きみたいだね」

「おぉ、これはご両人!そうなんですよぉ~なかなかこの調整が難しくて!!」

「調整って?」

 

 「爆発と爆発の間隔の、です!」と、発目は怖い笑顔を浮かべた。

 

「さらなる調査の結果、連鎖爆発の間隔が0.3秒になりますと、未確認生命体の体組織に最も甚大なダメージを与えられることが判明いたしまして!」

「0.3秒……誤差は?」

「±0.02秒ですね、許容範囲は!」

 

 それはなかなか……厳しい。

 

「しかしこれさえ成功すれば、G3はおろか一般の警察官も未確認生命体を倒せるようになるんだ。門外漢のくせに偉そうなことは言えないが……頑張ってくれ、発目くん」

「もちろんです!」

 

「必ず造り上げてみせますよ――"神経断裂弾"!!」

 

 

 

 

 

 街頭の大型ヴィジョンに、発電所の映像が映し出されている。同時に流れるのは、ここ1ヶ月間続いている、謎の電圧低下現象について伝えるアナウンサーの声。所管する経済産業省の調査によっても未だ原因が掴めず、市民の苛立ちはピークに達している……と、ままならない現状を告げている。

 

 そのニュースを、感慨深そうな表情で見つめる女の姿があった。薔薇色のドレスを身に纏い、茨のように黒髪を垂らしたその美貌。いかなる人間の目も引きそうであるのに、実際には行き交う人波に完全に溶け込んでいる。

 

「新たな力……得ることができたようだな」

「……うむ」

 

 にわかに後ろから現れた、着流しを纏った男。筋肉質な肉体を胸元まで晒した恰好にもかかわらず、皮膚には鳥肌ひとつ立っていない。

 

「だがクウガにアギト、そして"個性"を得たリントたち……奴らの前に誰ひとりとして、ゲリザギバス・ゲゲルを成功させることができなかった」

 

 さらにはグロンギの力を得て、160ものグロンギを虐殺したリントもいる――それは無論、バルバが仕組んだことだが。

 

「そんなリントだからこそ、殺す価値がある」

 

 きっぱりと、男――ガドルは言い切った。戦う力、そして意志。それらを持ち合わせていない者どもの返り血など、浴びる価値もない。

 

「新たな力は元々、ザギバス・ゲゲルのためのもの。ゆえに貴様は俺が討つ」

 

「――ガミオ」

「………」

 

 ふたりのいる陸橋から離れた地上に立つ、フードで目元を隠した老人の姿。彼こそがグロンギの現支配者であるン・ガミオ・ゼダであると、知る者はこの場にふたりしかいない。

 

 望むところだとばかりに、口許を歪めるガミオ。彼はそのまま、踵を返していずこかへ去っていった。強者たるガドルを、いまはまだ歯牙にもかけていない。その力は未だ、片鱗たりとも露にはされていないのだ。

 

 

 




キャラクター紹介・リント編 バギンググシギドパパン

真堂 揺/Yo Shindo

個性:揺らす
年齢:22歳
身長:184cm
好きなもの:釣り
個性詳細:
そのままズバリ、触れたものを"揺らす"個性。揺れの大きさに応じて反動で自分の身体に余震が来るため、使いこなすにはそれに耐えうる屈強な肉体が必要だ!
最大パワーは地割れを起こす威力を誇るが、その性質上屋内や都市部では使用を制限されるのがウィークポイントとなるぞ!
備考:
傑物学園高校出身の若手ヒーローで、爆豪勝己より1期先輩にあたる。千葉市周辺を所管する大規模ヒーロー事務所に所属しており、4年目ながらチームリーダーを務める有望株だ!近い将来ヒーロービルボードチャートへのランクインも確実視されているぞ!
実力はもちろんのこと、その甘いマスクと爽やかな振る舞いによって老若男女問わず高い人気を得ている。……が、それはあくまで表向きであって、実際の彼はかなりシビアかつドライな……有り体に言えば腹黒な性格の持ち主である。似たような性格ながらそれを微塵も誤魔化すことをせず、さらには初対面で自分の裏の顔を見抜いた勝己に対しては単なる興味や同感を超えた感情を抱いているらしい。日本の空気に息苦しさを覚えはじめていた彼は、海外への移籍を勝己に打診し続けていたが……。

作者所感:
爽やかなクセにかっちゃん顔負けの暴言吐いたりエグい悪人ヅラ見せたりするのすこ。
切島くんがかっちゃんの親友なら、こっちは同族……って感じのイメージ。かっちゃんが十字架を背負ってなければ、あるいは相棒にまでなる未来があったかもしれません。
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