【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
「門矢」が実在するのが一番びっくりでした。字体からして実在しないのは「操真」「天空寺」くらい?(「葛葉」も読み「かずらば」は実在しないらしいです)。近年の作品が多いのは時代の流れなんだろうか。
ヒロアカ世界だと「飯田」「相澤」といったオーソドックスな名字が残っている一方、「爆豪」だとか「上鳴」「心操」のような当人の個性ピンポイントすぎる名字もありますね。あれはたまたまなのか、あるいは超常社会になってから生まれた新しい名字なのか、どうでもいいっちゃどうでもいいんですけど考察が捗ります。
「ハァ……つ、疲れたぁ………」
冷たい床に大の字に横たわって、緑谷出久は息も絶え絶えにそうこぼしていた。
対して、
「けっ、この程度でへばったンかよ。やっぱデクはデクだな」
スポーツドリンク片手に、遠慮など微塵もなく馬鹿にした態度をとる爆豪勝己。時折ふぅ、と溜息をつく程度で、ほとんど息が上がっていない。
ゆえにこればかりは反論できないと、出久は思った。クウガになってから8ヶ月半、着実に鍛えてきたという自負はあるが、やはり勝己とは積み上げてきたものの質も量も違いすぎる。少なくとも基礎体力の面では、まだまだ到底敵いそうもなかった。
(流石だなぁ、かっちゃん……)
もっと頼りにしてもらえるよう、まだまだ頑張らないと。大の字のままそう考えていたら、いきなりそこそこの重みのある塊が顔面に降ってきた。
「痛でッ!?な、なん……あ、」
出久の童顔に甚大なダメージを与えたそれは、飲料で満たされたペットボトルだった。そんなものが勝手に降ってくるわけもない。人の手で投げつけられたわけだが、それができるのはこの場にひとりしかいないのだった。
「やる」
「!?、え、い、いいの?お、お金……あ、財布リュックの中だ……」
飲み物を恵んでくれるという予想外の行動に動転する出久。勝己は暫しその様子をつまらなそうに眺めていたが、
「いらん。貧乏学生と対等にディールするほど金に困っとらんわ」
「あ、ありがとう……」
そんなこと言って、ポレポレカレーは未だに奢らせるじゃないか……とは流石に言わなかった。せっかく勝己が好意を示してくれたのだ、わざわざ機嫌を損ねるなんて馬鹿な真似はすまい。
実際汗として大量に流してしまったぶん、身体は水分を欲していた。迷わずキャップを開け、ごくごくと口内に流し込む。渇いた喉を、ほのかに甘く潤すスポーツドリンク。しょっちゅう飲んでいるものなのに、なんだかとても懐かしい味に感じる。
ふと、以前から訊きたかったけれど、なかなか踏ん切りがつかずにいたことを思い出した。
「そ、そういえばなんだけど……かっちゃんが体力めちゃくちゃあるのって、トレーニングもそうだけど、やっぱり登山やってるのも大きかったりするのかな……?」
ことばを選びすぎて、かえってしどろもどろになってしまった。勝己は基本合理的な男だから、こういう言い方は余計に苛立たせてしまうかと焦ったのだが。
「切島に訊いたんか?」
勝己の反応は淡々としたものだった。即座に切島鋭児郎の名が出てくる洞察力は相変わらず流石だったが。
「う、うん。切島くんと一緒に登ることもあるんだよね?」
「……まあな。あのクソ髪、行きてぇ行きてぇってウゼェんだわ」
いかにも面倒臭そうに吐き捨てる勝己だったが、その実満更でもないのを隠しきれていない。クソ髪呼ばわりしていようとも、勝己にとって切島はまぎれもない友人なのだろう。――その関係性を、羨ましく思う。
「僕も、行ってみたいな……」
漏れたつぶやきは……出久にとっても、意図しないものだった。はっと我に返れば、勝己が「正気かコイツ」とでも言いたげな表情でこちらを見ている。出久は慌てたが、撤回するつもりはなかった。
「え、えっと……色々話聞いてるとた、楽しそうだなって思って!僕、相変わらずヒーロー研究以外に趣味って趣味ないし!それにほらっ、せっかく静岡で育ったんだから、一度くらい富士山にも登ってみたいし!」
「………」
「……ごめん、今さらすぎるよね。こんなこと言うの」
幼なじみなのに……と言えるような親しい関係ではなかったにしても、少なくとも一方的には憧れ、その背中を追っていたのだ。なのにあの頃は、勝己の趣味なんて知ろうとも思わなかった。仮にそうしたとて当時の勝己が軟化するのも想像できない、要するに関係が歪すぎたのだ。
出久のことばを、勝己は肯定も否定もしなかった。ただひとつ溜息を吐き出したあと、ぽつり。
「……シロウトがいきなり富士山登れっかよ。山舐めんな死ね、つーか死ぬぞ」
「う……」
「死ね」はいつものことなので流せるが、「死ぬぞ」だと真に迫ったものを感じさせられてしまう。肩を落とした出久だったが、
「初心者向けの山もある。――事件が終息したあとテメェの気が変わってなけりゃ、連れてってやってもいい」
「!、ほ、ほんとに……?」
「いちいち確認すんなや、ウゼェ」
そっぽを向く勝己。出久にはそれがちょうどよかった、いまの自分は見るに堪えないようなにやけ面を晒しているだろうから。
「へへ……未確認がいなくなったあとの楽しみができちゃった」
「フン、よかったな。就活のことばっか考えずに済んでよ」
「う……きみはとことん抉ってくるな」
もうひとつ鼻を鳴らして、勝己はおもむろに立ち上がった。
「あ、帰る……の?」
「おー」
「そっか。僕は研究室行くけど、何か伝えることある?沢渡さんとか……実加さんとかに」
「………」
一瞬考えるようなしぐさを見せた勝己だったが、
「別に」
「……そっか。じゃあ、またね」
「おー」
向けられた背中に名残惜しそうな視線を遣ることもなく、出久もまた歩き出した。傷ついた右手に、やわらかく力を込めながら。
*
いよいよ、ゴ・ガドル・バは己のゲゲルを開始しようとしていた。そのスタート地点へと向かい、悠然と歩く。これより彼がもたらす惨劇を予見するかのように、風は荒れ、頭上の太陽は雲に覆われる。
辺り一面に不穏をばらまく"ゴ"最強の男。その強烈なプレッシャーの前に、無謀にも立ち塞がる女の姿があった。
「ギラガサバビゾ、ギビギダ?」
「………」
軍服を纏った女――ゴ・ガリマ・バ。行動とは裏腹に、その切れ長の瞳に剣呑な光は宿っていない。だからこそガドルは、彼女が現れた意図を量りかねていた。さして関心がなかったというのもあるが。
暫しことばを探るように沈黙を保っていたガリマだったが、
「……貴様は、どのようなゲゲルを行うつもりなのだ」
どこか責めるような響き。ガドルは不快を覚えたが、それを表に出すことはしなかった。
「リントの戦士たち……ヒーローのみを狩る」
「!、それは……」
「うむ。貴様の手法に倣わせてもらった」
「………」
恥ずかしげもなく言い放つガドル。確かにガリマは"メ"であった頃、ヒーローとの戦いを望んで渋谷駅前でゲゲルを行い、99人を殺害してゲリザギバス・ゲゲルへの挑戦権を得た。だがヒーローの殺害はあくまで己の希望以上の意味はもたず、99人の中には彼らを誘き出すため手にかけた一般市民や警察官も多分に含まれている。
対してガドルは、ヒーロー以外は最初から標的と見なさないつもりだ。目標人数も、ゴの殿である以上当時の自分の比ではないだろう。慢心でなく、それが為せるだけの力が、ガドルにはある――
「……惜しいことをしたものだ、貴様も」
「!」
「本来このゲゲル、貴様にこそ相応しかったであろうものを」
それはガドルなりの最大限の賛辞だったのだろうが、ガリマは嬉しいとも、彼の言うとおり惜しいとも思えなかった。ただ、もやもやとした気持ちが胸の奥から湧きあがってくるばかりだ。
「もう用はなかろう。そこをどけ」
「………」
黙って引き下がるガリマを一瞥すらせず、再び歩き出すガドル。彼に対して何をしたくてここに来たのか……自分自身わからず、ガリマは唇を噛んでその背を見送るほかなかった。
*
城南大学考古学研究室。大学としては既に年末休暇に入り、平時より遥かに閑散としている中にあって、ここ……というより彼女だけは相変わらずフル稼働していると言ってよかった。
沢渡桜子――出久の友人であり、クウガやグロンギに関する研究の第一人者でもある。まだ一応院生の身なのだが、出久=クウガとの誼もあって警察や関東医大・椿医師との窓口も彼女が務めている状況。それ以外に本業とも言える修士論文も抱えているのだから、彼女にはクリスマスどころか大晦日も正月もないのだった。
「ふあぁ……」
さらには昼も夜もないのだから、当然漏れ出す欠伸。それはたまたまこのタイミングで入室してきたジャン・ミッシェル・ソレルにも捉えられてしまった。
「Bonjour、桜子サン。もしかしテ、また徹夜?」
「おはようございます……。ですね、気づいたら朝になっちゃってたので、そのまま」
ディスプレイから顔を上げた桜子は、ジャンが大量の書類を抱えているのを認めて首を傾げた。
「それ、どうしたんですか?」
「アア……ゴウラムの研究もひととおりまとまったカラ、そろそろ資料の整理しようと思っテ。デモ量が思ったヨリ多くテ、どこから手つけるか困ってマス」
「ふふ……そういうの、やりはじめると終わらないんですよね」
いざ手をつけても、全然関係ない書類や本などが出てきては、それらに脱線してしまいがちなのである。それがまた楽しいから性質が悪い。
実際ジャンも、そうした楽しみを見出だしてしまったのだった。
「そうそう、いいモノ見つけちゃいましタ」
「いいもの?」
「Oui!」
手招きに応じた桜子の前に差し出されたのは、一枚の写真だった。そこに写されているのは……自分と、あの緑谷出久。ただ後者の体格がいまより華奢なのと、表情に緊張があることが見てとれる。いつ頃撮影したものなのか、桜子にはすぐにわかった。確か自分がまだ夏目教授のゼミに所属する学部生の頃……つまり大学入りたてほやほやの出久と、知り合って間もない時期の肖像だ。
「緑谷クン、全然変わらないと思ってたケド、こうして見るト大人になってるんだネ」
「桜子サンはホントに変わらないケド」と付け加えるのが流石、抜け目ない。
微笑みを浮かべた桜子が懐かしい思い出に浸っていると、噂をすればと言うべきか被写体のもう一方がやって来た。
「おはよう……あれ、何してるの?」
首から下はそれなりに頼もしくなった――冬着だとわかりづらいが――緑谷出久本人の登場である。ただ首から上は写真と変わらない、相変わらずの童顔である。
「あ、おはよう出久くん。見て見てこれ、ジャン先生が見つけたの!」
「ん?――わっ、懐かしい!僕が初めてここに遊びに来たときの写真……だよね?」
「そうそう。この頃は出久くん、まだ敬語が抜けなかったんだよね」
「そう……でしたっけ?」
「なんでいま敬語になるのよ」噴き出す桜子。
もとより異性とのかかわりがほとんどなかった出久である。それが大学デビューして早々、桜子のような美人かつ大人の女性と親しくなったとて、気安く接することなどできるわけもないのが当然だ。さらには、自分は無意識下で異性への飢餓が限界を迎えていて、理想の女性をイメージの中で作り出しているのでは?なんて疑念すら一時は真剣に検討したものだった。幸いにして、それは杞憂というものだったが。
「あの頃はほんと、出久くんがこんな立派になっちゃうなんて、考えもしなかったなぁ……」
「緑谷クン、小動物みたいダッタネ」
「しょ、小動物て……」
まあ桜子以前に大学にもまだ慣れていなくて、縮こまってキョロキョロしていたことを考えれば割と的を射た比喩かもしれない。力なく笑いつつ、恥じ入った出久は話題を変えることを選んだ。というか、そちらが本来の目的なのだが。
「ところでなんだけど……碑文で何か出てないかな?クウガのパワーをもっと強化する方法とか」
訊くと、自分を律した桜子がきびきびと席に戻った。
「改めて全文を調査し直してみてるわ、既にわかっているものも含めてね。けど、やっぱり……」
「赤、青、紫、緑……だけ?」
「うん。あとは……なってはいけない、凄まじき戦士」
「そっかぁ……」
言い方は悪いが、元々強い期待をかけていたわけではない。ただ、自分を磨くのはもちろん大切なことだが、対する敵の強化のスピードが猛烈すぎるのだ。この前の第45号――ゴ・バベル・ダとの戦闘など、帰還した爆心地とアギトの奇襲的な援護がなければ危うかった。
「金の力は、確か椿さんにしてもらった電気ショックが引き金になったんだよね」
「うん。そのあとはずっとビリビリが出てたけど……上鳴くんに協力してもらって、初めてモノにできた感じかな」
金の力――きっかけは偶然、かつ心停止という不慮の事態によるものだが、これがなければ戦い抜けたとは思えない。いまの自分には多くの仲間がいて、とりわけ轟焦凍の変身するアギトなどは――"ワン・フォー・オール"を有しているだけあって――自分より高い戦闘能力を有しているわけだけれども、頑丈さと回復力の並外れたグロンギ相手に確実な決め手となるのはやはりクウガの封印能力だ。ただ通常の4形態のそれが通用しなくなりつつある中での強化だったから、本当に運に恵まれていると言わざるをえない。
「金の力は、確かに奴らを倒すにあたって切札になってる。ただ30秒しか保てないから本当にとどめを刺すんだってときにしか使えない、けど最近の奴らは金の力でもゴリ押しじゃ通用しなくて、そこに至るまでに色々と工夫して追い詰めなきゃだめだし、いやもちろんその工夫も大事ではあるけど僕だけじゃなくてかっちゃんや皆の負担にもなるわけであるからして………」
人に聞かせたいのか独り言なのか判然としないいつものこれ。ある程度区切りがつくまで待つか、あまり長くなるようだったら適当にちょっかいを出して我に返らせるのが桜子のスタイルだったが、ジャンは西欧出身なだけあって(?)、遠慮なく割り込んでいった。
「じゃあ、ソレがずっと使えるようになれバ完璧ダネ!」
「!」
いきなり顔を寄せられてびっくりした様子の出久だったが、そのひと言が閃きのきっかけとなった。
「そう、そうだよね!やっぱり、もう一回電気ショックを受ければ……」
「ちょっ……ちょっと、冗談やめてよ」
胸騒ぎを覚えた桜子が慌てて押しとどめようとするが、一度火のついてしまった出久はもう易々とは止まらない。
「いやでも、強くなるためにはそれが一番確実で手っ取り早いと思うんだよね。まさか、凄まじき戦士になっちゃうわけにはいかないんだし」
「ッ、それは、そうだけど……でもやっぱり無茶だよ、なんともないのに電気ショック受けるだなんて!」
桜子のことばは、極めて常識的なものに他ならない。相手がもはや、常人とは異なる肉体をもつ青年が相手といえども。
その青年はと言うと、困ったような微笑みを浮かべて「そうかもね」と応じた。以前のように押しただけ押し返してくるような、青さを感じられないのが桜子には寂しい。
流石に見かねたジャンが、ふたりの間に割り込んだ。
「
「………」
「ネェ緑谷クン……みんなの笑顔のタメにがんばるノ、すごく素敵なことヨ。ケド、そこマデ無理することはないんじゃないカナ?」
190cm近い長身のジャンの顔を、出久はじっと見上げた。頭髪と同じ深い翠の瞳は凪いでいて、穏やかだが強い意思を感じさせる。姿はまったく変わってしまってもこの青年こそ戦士クウガなのだと、まざまざ見せつけられているようだった。
「――僕、ずっと昔からヒーローになりたかった」
ようやく口を開いたかと思えば。それはもう、桜子もジャンも緑谷出久の核となるパーソナリティとして認識している。
「オールマイトみたいに笑顔でみんなを救けられる、超カッコイイヒーロー。結局あきらめちゃったけど……クウガになって、今度こそそれができるようになったと思った」
「………」
桜子もジャンも、黙って彼のことばを聞いていた。わかっていることであっても、"オリジン"なのだろうそれを、自分自身で確かめるような響きをもっていたから。
「でもたぶん、僕には決定的に足りないものがあった……昔から」
「足りない、もの?」
「見えてなかったんだ。救けたい、守りたいって思う人たちの顔が。……笑顔を、なんて言ってるのにね」
たとえば幼少の頃、自分がオールマイトのように颯爽と一般市民を救助する妄想をするとき。救けようとしている人々の顔なんて一度もイメージできなかったし、しようと意識したこともなかった。
クウガとして、実際に誰かを救けるようになってさえも、それは変わらない。イメージするしない以前に、明確にこの目で捉えているはずなのに。ただ、そういうものだと思っていた。毎日大勢の人々を救い、戦うヒーローたち。ひとりひとりの顔なんて、彼らも覚えてはいないだろうと合点して。
「でも、いまは違う」
「"みんな"って言うのがさ……ちゃんと、見えるようになった。それは沢渡さんだったり、轟くん、心操くんだったり、おやっさんや麗日さん、あと捜査本部の人たちだったり……かっちゃん、だったり」
「それって……」
「……うん。進歩どころか、退化してるかもしれないね」
名も知らぬ大勢の人々を救けるために、悪と戦う。それがヒーローとして模範的な姿だとするなら、自分はヒーロー失格かもしれない。クウガとしても。爆豪勝己……かっちゃんならあるいは「所詮デクなんだから、そのくらいのスケールがお似合いなんじゃねーの」と、否定を装った肯定を投げかけてくれるかもしれないが。
だが結局、それが真理なのだと思う。自分は弱くて、ちっぽけなただの人間だ。ひとりですべての人々の笑顔を守るんだなんて、思い上がりにもほどがある。――だからみんなを……ともに戦ってくれる友人たちを、守りたいのだ。彼らがそこにいてくれるなら、自分はどんな敵とだって戦える。それが結果的にすべてを守ることに繋がっているのだと、いまは自信をもって言えるから。
「だから……だからね、自分を蔑ろにするようなことは絶対にしないよ。それじゃ、きみたちの笑顔を守ることなんてできっこないんだ。……僕は、自分にできるだけの無理をする。あとはみんなと一緒に頑張る、それだけだよ」
きみたちだって、そうだろう――出久の表情は、雄弁にそう物語っていて、桜子は二の句が継げなくなった。ジャンなどはむしろ感銘を受けてしまったのか、碧眼をきらきらさせているのだが。
「緑谷クン、イイ
「………」
「やっぱりダメかな?」なんて言って、じっと見つめてくる出久。青年らしく女の自分よりちゃんと背が高いのに、なんだか小さい子供に上目遣いで見つめられているように錯覚してしまうからずるい。
「……椿さんは、いいって言うかな?前は絶対ダメって断られちゃったんでしょう?」
「う……ま、まあそうなんだけどね」
けれど、あのときとは状況も大きく変わっている。いまのように自分の気持ちを真摯に伝えれば、椿もわかってくれると信じる。
「じゃあ、早速行ってくるね!それじゃ!」
「ちょっ……そんないきなり!?」
つい数分前にやって来たばかりだというのに、躊躇なく飛び出していく出久。案外果断な一面があることは知っているふたりだが、これには流石に呆気にとられるばかりだった。