【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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餓弩流閣下


EPISODE 45. ビートル・クライシス 2/3

 ゴ・ガドル・バと3人の仮面ライダーの激戦は、未だ膠着状態が続いていた。

 

「フン――」

 

 "射撃体"のガドルがボウガンの引き金を引く。その度に高速で放たれる空気弾が、攻撃の糸口を掴むべく距離を詰めようとするクウガ・アギトに襲いかかる。

 

「ッ!」

 

 アギトは自身の前面に氷壁を展開してそれを受け、クウガはタイタンフォームとなって自身の身体で受け止める。ただ、後者の場合は数歩ぶんずりずりと後退させられてしまうのだが。

 

「ッ、あいつ無尽蔵か……」

 

 自身のペガサスフォーム……いやライジングペガサスと同等の力だと、出久は思った。しかも奴の場合、制限時間がない。

 

 四形態を目まぐるしく変えつつ使いこなすガドルの戦いぶりに彼らが疲弊しつつあったとき、ついに"彼"が状況を打開しようと動いた。

 

「緑谷、轟!」

「!」

 

 ふたりが振り向けば、そこには"GGX-05 ニーズヘグ"を構えたG3の姿。

 それがゴ・バベル・ダに致命的なダメージを与えた火器であることに気づいたガドルは、咄嗟に空気弾を放つ。それは確かにG3の装甲に多大な損傷を負わせたが、

 

 それより早く、ニーズヘグの巨大な弾丸も発射されていた。ガドルの胴体目掛けて吸い込まれていく。

 攻撃を受けた心操を慮りながらも、出久たちはやった、と思った。一撃で倒すことはできずとも、それに繋がるだけのダメージは与えられるのだと確信したのだ。

 

――刹那、ガドルの瞳が青く染まった。

 

「ボシャブバ」

「!」

 

 ボウガンが変化したハルバードが振りかぶられ、

 

 弾丸が、弾き返された。

 

「――!?」

 

 誘爆することもなく綺麗に方向転換させられてしまったそれは、スピードを保ったままアギトへと向かっていく。これが通常の攻撃なら氷壁なりワン・フォー・オールによる回避なりで対処することができただろうが、予想外の事態に彼は一瞬硬直してしまった。

 それが命取りとなった。彼がようやく動こうとしたときにはもう、弾丸の先端がその身に触れていた。

 

 そして、本来数秒前に起きて然るべきだった爆発が……彼を呑み込んだ。

 

「ぐぁああッ!!?」

「轟くんっ!?」

「轟!!」

 

 ふたりの悲鳴のような呼び声が響く中、吹っ飛ばされ、地面を転がるアギト。オルタリングの輝きが失われ……その姿が、轟焦凍のそれに戻る。

 

「……ぐ、うッ」傷つきながらも起き上がろうとする焦凍だったが、「!?、がはッ!!」

 

 ごぼりと吐き出されたのは、大量の赤黒い血だった。グロンギに致命傷を与える威力をもった弾丸は、超人となった焦凍の内臓すらも大きく傷つけてしまったのだ。

 

「か……ぁ……」

 

 そんな状態で、気力だけで立ち上がれるはずもなく……焦凍は意識を失って、倒れ伏した。

 

「ヅギパ、ビガラザ」

「!」

 

 息つく間もなく、次はクウガを標的としたガドル。素早く距離を詰めると同時に、再び剛力体へと形態を変える。

 

「くッ!」

 

 咄嗟に防御姿勢をとるクウガ。同時に、大剣が一閃。

 

――次の瞬間には、右肩の装甲が斬り飛ばされていた……鮮血とともに。

 

「がッ、あぁ……!?」

 

 激痛にうめく。クウガの鎧は皮膚が変化したもの。いま彼は、皮膚を剥ぎ取られるのと同じ痛みを感じさせられているのだ。

 

 よろけて後退する相手に対し、ガドルは容赦しない。重い剣を軽々と振り回し、確実にクウガの身体に傷をつけていく。

 

(ッ、このまま、じゃ……!)

 

 出久は危機感を覚えた。焦凍は完全に戦闘不能となり、心操のG3も損傷を負って援護もままならない状況に陥っている。ことここに至って自分までやられたら、目の前のグロンギを止められる者はいなくなってしまう。

 

(いちか、ばちか……!)

 

 彼が覚悟を決めたそのとき、ひときわ大振りな一撃が炸裂した。衝撃に弾かれ地面を転がる、タイタンフォーム。その身に電流が奔る。と同時に、

 

「超変身ッ!!」

 

 赤い鎧のマイティフォームへと、超変身を遂げる。電撃が全身に黄金の意匠を施し、彼にさらなる力を与えた。――チャンスはきっと、この一度だけ。

 

「!」

「――うぉおりゃあぁぁッ!!」

 

 金色のアンクレットを装着した切札たるキックが、地面から宙へ向かうようにしてガドルの胸元に炸裂する。

 

「グゥ……!」

 

 アギトのそれにすら匹敵する破壊力を前に、流石のガドルも後退する。蹴りを受けた胸元に浮かぶ、先ほどより遥かに色濃い古代文字。完璧に決まった、今度こそ――

 

「………」

 

 しかし期待に反して、ガドルは小さなため息を吐いただけだった。どくりと、心臓が跳ねる。

 

――そして、封印の紋がかき消えた。

 

「な……!?」

 

 そんな、馬鹿な。2体の強力なグロンギを下した、ライジングマイティキックが効かない?

 咄嗟に身構えはしたクウガだったが、ライジングフォームを解除することも忘れるくらい動揺していた。そんな彼の眼前で、ガドルは唐突に、かつ無造作に剣を投げ捨て、

 

「ゴンヂバサ……パボグヅバゲ」

「!」

 

 その目が橙――格闘体のそれに戻るや、全身に電流が奔り出す。まさかと思うも束の間、胴体と瞳が黄金色に染まった。首の周りには赤茶の体毛が生え、その姿をより威圧的に見せている。

 

「な……――金の、力……!?」

 

 そう、それはまぎれもない、自分がもつのと同じ雷の力だった。ガドル"電撃体"――1ヶ月に渡って発電所で電気を浴び続けたことによって彼が獲得した、さらなる強化形態である。

 

 彼は両脇を締めるような構えをとり……走り出す。その足元に纏った電光の熱が見える――どう対処すればここから逆転できるのか……そればかりに囚われて、出久の目は曇った。

 

 そして彼は、反射的に繰り出したカウンターパンチを命中させることすらできぬまま、錐揉みから放たれたキックによって吹き飛ばされた。

 

「が――」

 

 紙のように宙を舞い、ビルの壁面に叩きつけられるライジングマイティ。その衝撃でコンクリートの一部が崩れ落ち、彼はその瓦礫の下に埋もれた。

 

「………」

 

 死んだか、否か。勝敗が決した以上、もうそんなことはガドルにはどうでもよかった。バグンダダが破壊された以上、いずれにせよゲゲルの得点とはならない。

 

 が、刹那――瓦礫を押し退けるようにして、クウガが姿を現した。

 

「……ッ、」

「……ほう」

 

 思ったよりはしぶといと、ガドルは感心したが……ただ、再び戦闘態勢をとるには至らなかった。クウガの身体にはほとんど力が入っておらず、もう戦える状態でないのは明らかだった。

 その見立てどおり、アークルから輝きが失われ……ライジングマイティの鮮やかな赤と金が、脱色されて純白と化してしまう。角も短い、グローイングフォーム――肉体が傷つき、正常な変身を保てなくなった姿。

 

 メ・ギノガ・デとの決戦時のように回復基調にあるならばともかく、いまはエネルギーが失われていく一方だ。――意識が混濁し、その場に膝をつくクウガ。変身は解除され、口から血を流した出久はそのまま力なく倒れ伏し、もう起き上がることはなかった。

 

「……フン」

 

 所詮こんなものかと、ガドルは鼻を鳴らした。一応、それなりに楽しめはしたが……。

 

 そのときこちらに迫る、引きずるような足音。気づきながらも振り向くことさえせず、ガドルは口のみ動かした。

 

「その戦意は買うが……いま貴様を討っても、俺に得がない」

「ッ、黙れ……!」

 

 "GS-03 デストロイヤー"を装着したG3。しかし傷ついたそのパワードスーツのエネルギーは既に空になっており、ほとんど装着者の枷となってしまっている。ただでさえスペックで何歩も劣っているのに、そんな状態でガドルに敵うはずがない。

 それがわかっているから、ガドルはあえてデストロイヤーの高速振動する刃を肩口に受けてやった。皮膚が千切れ、血が飛び散る。それでもなお、彼は身じろぎひとつしない。リントの造った人工武器にしては大したものだとは思ったが、それだけだ。

 

 ガドルはもはやことばもなく、淡々と拳を振りかぶった。顔面を殴られたG3もまた、うめき声をあげながら吹き飛び、地面に倒れ込む。デュアルアイが破損し、心操の視界は闇に閉ざされてしまった……もっとも、そうでなくとも彼もまた気絶していたのだが。

 

「ゴセパ、ザバギンバシグラ、"ゴ・ガドル・バ"ザ」

 

 文字どおり死屍累々の惨状。誰も聞いてはいないだろうその中心で高らかに名乗りをあげるガドル。ここに倒れる戦士たちは皆、曲がりなりにも全力で自分に喰らいついてきた。一定の敬意は払って然るべきという思考が、彼にはあったのだ。

 ただ、

 

「……その程度の力では、究極の闇は止められんぞ」

 

 ちょうどパトカーのサイレン音が近づいてきたが、ガドルは静かに去ることを選んだ。――バグンダダが破壊された以上、新たにせねばならないことができてしまった。

 

 

 ガドルが去り、それと入れ替わるようにして、合同捜査本部の覆面パトカーが現れる。

 

「ッ、マジかよこれ……!」

「!、緑谷くん轟くんッ、心操くん!?」

 

 降りてきた森塚とインゲニウム――飯田天哉が、例外ひとつとなく倒れ伏した仲間のもとへ駆け寄っていく。かろうじて反応を示したのは心操だけで、出久と焦凍に至ってはひと目見ただけで明らかな瀕死の状態だった。

 

「こんな、ことが……」

 

 半ば呆然としていた飯田だったが、一歩後ろの森塚が携帯電話から救急車を要請する声で我に返った。一帯を見渡すが、敵の影はない。第46号……この惨状をつくり出した恐るべき敵は、いずこかへ姿を消してしまった。

 

「……ッ、」

 

 また、何もできなかった。ただ3人の仮面ライダーがこんな敗北を喫するような相手――仮に自分も参戦していたとて、足手まといにしかならなかったかもしれない。それが余計に、悔しくてならないのだった。

 

 

 戦闘のあとを見ていたのは、彼らばかりではなかった。

 

「ガドル……やっぱり、強い」

 

 ビルの縁に腰掛け、つぶやく詰襟姿の少年――ゴ・ジャラジ・ダ。ガリマと異なりダグバ――死柄木弔と呼ばれていたものの目付役を自ら買って出たことで、元々意欲のないゲゲルを猶予されている。おかげでこうして、高みの見物と洒落込んでいられるのだった。

 

「………」

 

 そしてそのダグバも、やはり彼と行動をともにしている。彼の真っ赤な瞳はじっと、眼下の仮面ライダーの成れの果てたちを捉えて離さない。

 

「クウガもアギトも、やられちゃった。ガドルは、ザギバス・ゲゲルに進むかもしれない……」

「あいつら……死んだ?」

「まだ。……でも、死んじゃうかも」

 

 双眸が、かっと見開かれる。

 

「そんなの許さない……。あいつらは、ぼくが壊すんだ……!」

 

 アギトも――そして、クウガも。嫌いなものは、自分の手で壊さなければ気が済まない。それが彼の……人としての心をなくした、死柄木弔こと志村転弧のすべてだった。

 

「……ヒヒッ」

 

 そして、ジャラジは卑しく嘲う。すべては自分の望むままに動いている……ガドルがゲゲルを成功させようとさせまいと、その行き着く先は変わらない。ああ、なんてこの世界は素晴らしいのだろうと、心の底から思った。

 

 

 

 

 

 そうして英雄たちが完全なる敗北を喫した頃、科警研では乾坤一擲をなしうる新装備――"神経断裂弾"の最終調整が続けられていた。具体的には、2種類の火薬の爆発間隔を、約0.3秒にするという作業。玉川と心操が様子を見に来た朝から一度も休憩すらなく、発目明は実験を注視していたのだが。

 

「――0.42秒……お、惜しい……!」

 

 思わず地団駄を踏む発目。惜しい、では駄目なのだ。完璧な結果でなければ――

 

――と、不意に懐の携帯電話がぶるぶると振動して、彼女はマッド・スランプ状態からかろうじて脱した。マッドなのは性根からだが、こればかりはどうしようもない。

 

「はいもしも~しッ!」

『もしもし、飯田です。すまない大変なときに、いま少し話せるかい?』

「あ、ああ飯田さん……はい、大丈夫ですとも!」

 

 かの委員長が相手だとどもってしまうようになって久しいが、用件を思えばどうにか取り繕うことができた。未確認生命体第46号が出現し、猛威を振るっていることは彼女も承知している。

 

『先ほど現場に到着したのだが、第46号は既に、どこかに行方をくらませてしまった。緑谷くんたちが3人がかりでも倒せないほどの強敵らしい。……それで、その、』

「神経断裂弾の完成を急いでほしい、とおっしゃりたいわけですね?」

『……すまない。きみが精一杯やってくれていることは承知しているし、本来俺に催促する権限などないんだが』

「いえ、お気になさらず!ところで、緑谷さんたちは?」

『………』一瞬の沈黙のあと、『G3は損傷したが、心操くんは軽傷だ。だが……』

 

『緑谷くんと轟くんは……重体だ。現在救急車で、関東医大病院に運んでもらっている』

「!」

 

 発目はことばを失った。焦凍に直接致命傷を負わせしめたのが彼女の開発したニーズヘグであるとまでは、流石の飯田も明かしはしなかったが。

 

『とにかく3人とも戦えない状況だ。俺たちの力もどこまで通用するかわからない以上は……』

「……わかり、ました。とにかくがんばってみますので、お任せあれ!」

『うむ、ありがとう!』

 

 通話を切るや……発目は思わず眉間を指で押さえた。彼女とて間接的ながら悪と戦う者、仲間である出久たちを気遣う気持ちはある。無論、これから矢面に立って戦わねばならない飯田や勝己たちのことも。

 だからこそ、

 

「よ~しッ、こうなったら命燃やしちゃいますよぉ~!!」

 

 何徹もしている時点でもはや相当命を燃やしてしまっているのだが、彼女はそんなこと気にしない。ただ彼女なりに備えた良心にはわずかな引っ掛かりがあったのだが……それを押し込めてでも、いまは前進し続けるしかないのだった。

 

 

 

 

 

 徹夜を重ねて影ながら英雄たちを支援している女性といえば、城南大学の沢渡桜子女史もそうである。文系と理系、社会性など、発目明と好対照をなしているともいえるが……基盤となる想いは同じ。

 

「………」

 

 

 パソコンのモニターを凝視しながらも……ふと、今朝発掘されたばかりの写真を見遣る。いまよりほんの少しだけ幼い緑谷出久の姿。

 

「――ネェ桜子サン、」写真の発見者であるジャン・ミッシェル・ソレルの呼びかけ。「緑谷クン、どうしたカナ?」

「……そうですね、」

 

 寄り道でもしていなければ……かつ椿の説得に成功していれば、電気ショックを受けている頃かもしれない。

 

「桜子サンは……緑谷クンにこれ以上、強クなっテほしくナイ?」

「……どうかな」

 

 曖昧な答だったが、それだけで終わらせるつもりはなかった。

 

「でも……それで出久くんが、笑顔になれるなら」

 

 そう、桜子にとってはそれがすべてだった。自分の命が風前の灯火となったあのときの、悔し涙に濡れた出久の顔。あんな表情を二度とさせずに済むのなら、彼が常人とはかけ離れた力を得ていくことも、認めざるをえないと思った。

 

――そのとき、研究室のBGMとして流していたラジオの音楽が、唐突に無機質な男性の声に変わった。

 

『番組の途中ですが未確認生命体関連のニュースをお伝えします。本日午前11時頃、多摩市一之宮3丁目付近にて管轄するグランサイザー・ヒーロー事務所に所属するヒーロー18名及び追跡されていた銀行強盗2名を殺害した未確認生命体第46号は、その後第4号及び第4号B、そしてG3と交戦しましたが、圧倒的な力を見せつけており……また、現場では第32号及び新たな未確認生命体と思われる存在も目撃されており……』

「!、桜子サン、コレ……」

 

 出久が出て行ってほどなく、新たなグロンギが出現した……ということは――

 

「出久くん……椿さんのところ行けなかったんだ……」

 

 

 

 

 

 このとき緑谷出久は、椿秀一のところ――関東医大病院にいた。最も自発的でないどころか意思の疎通もできない状態で、集中治療室のベッドに横たわっている状態でだが。

 

 その痛々しい姿を、心操人使はガラス越しに見つめていた。彼もまた傷を負った身であって、その頬や制服に隠れた身体のあちこちに治療の痕が残っている。ただそれでも、隔絶された空間にいる出久の比ではない。彼は体内……内臓にまでも深傷を負っているのだ。仮に自分の肉体が同じダメージを受けたらば、きっと生命活動を維持できないだろうほどの。

 

――そして生死の境を彷徨っているのは、彼ばかりではない。ましてそのもうひとりは、自分が放った一撃のために……。

 

「……ッ、」

 

 ずきりと痛みがあふれるのも構わず、拳を握りしめる心操。と、そんな彼のもとに、歩み寄る者があって。

 

「――心操くん、」

「!、飯田……」

 

 戦場と変わらぬコスチューム姿――唯一首から上だけは晒している――の、飯田天哉。その表情は深刻のひと言に尽きる。心操はたまらず目を逸らしかけたが……その先にも出久の姿があって、逃げ場などないのだと思い知った。

 

「……轟は?」

「……正直、予断を許さない状態だ。内臓がかなり傷ついている」

「そう……だよな」たまらずベンチに座り込む。「ニーズヘグはそういう武器だ。いくら不完全だって言っても……ふつうの人間じゃない奴らを、殺すつもりで造られた……」

 

 グロンギを殺す――裏を返せば、"アギト"なる超人の肉体を得た焦凍の命だって、奪える武器に違いない。考えたことがなかったわけではない……けれども、そんなものを仲間である彼らに突きつけることなどあるはずがないと思っていたのだ。

 

「……そうだな」うなずく飯田。「未確認生命体は加速度的にその力を増している。"個性"の力など、もう通用しないのではないか……そのような甘えた考えに、とらわれてしまうほどに」

 

 悲観を"甘え"と許容できるのは、飯田の強さだろう。それはヒーローがプロヒーローたる所以でもある。心操には、届かなかったもの。

 

「だから俺たちは、そうした危険な"兵器"に頼らねばならない。きっと……これから先も」

「それが仲間まで、殺すことになったとしてもか?」

「……すまない。いまここでその答は出せない」

「……そう」

「ただ、心操くん……今度のことを、きみが気に病むべきではないと、俺は思う。おそらくそれは、轟くんも緑谷くんも望んではいない」

 

 心操のとった行動に瑕疵はない。ただ、敵の能力が度を越していたのだ。これで心操が罪悪感に押し潰されるようなことだけはあってほしくないと、飯田は切に思った。

 暫しの沈黙のあと、

 

「……わかってる」絞り出すように心操は言う。「俺はもう、ウジウジ悩むのはやめにしたんだ。それでやるべきこともやれなくなるんじゃ、G3の装着員失格だ。俺に道を譲ってくれた人たちに申し訳が立たない」

 

 心操の脳裏に、巨大な尻尾を武器に戦うかの雄英出身ヒーローの薄い顔立ちが浮かぶ。ほんのわずかでも、彼に「やっぱり自分のほうが装着員にふさわしかった」なんて思わせることがあってはならない。隣の男にしてもそうだ。

 

「だから飯田、……俺、やるよ」

「……やる、とは?」

「決まってるだろ。46号と戦う」

「な……!?」

 

 流石にこれには面食らう飯田だった。戦うと言ったって――

 

「きみは動けるかもしれないが、G3は出撃できる状態ではないはずだ!」

「そうだな。けど、武器はある」

「それこそ無茶だ、G3の武装は生身で扱えるような代物ではない!大体、装着無しでの出動など、許可されるわけがない!」

「かもな」

 

「……だから、あんたの手が借りたい」

「!」

 

 こちらに向き直った藤色の瞳が、堂々と飯田の大柄な体躯を射抜く。くっきりと刻まれた隈の存在を一瞬忘れてしまうくらい、それは煌めいて見えた。

 

「し、心操くん」

「あんたが後ろから支えてくれれば、なんとかなると思う。何よりあんたは、G3のことをよく知ってる。だから……頼む」

「ッ、俺は……」

 

 そのまっすぐな視線に耐えかねて、今度は飯田のほうが目を逸らしかけたときだった。

 

「待て、爆豪!」

「!」

 

 独特の渋みある呼び止めの声。と同時に廊下の向こうからすたすたと歩いてくるかの同僚……と、あとを追う、声の主である医師の姿。

 

「待てって言ってるだろうが!治療はまだ終わってないんだぞ!!」

「……チッ」

 

 その舌打ちは、よりにもよって飯田に聞かれてしまったことによるものか。確かに彼にとっては聞き捨てならないことばだった。

 

「爆豪くん!どうして治療を最後まで受けないんだ!?逸る気持ちはわからないではないが、それにしたって――」

「うるせえな、決まってんだろンなこたぁ!」負けじと怒鳴り返す。「完治までやっとったら体力が勿体ねえだろうが!!」

 

 雄英高校の校医だったリカバリーガール――修善寺治与の個性がそうであるように、治癒系の個性の大抵はそれと引き替えに患者の体力を消費する。生命エネルギーのいわば先食いをすることで、無理やり快復を早めているとも言えるのだ――無論、デメリットのない魔法のような個性もあるが、それは非常に希少である――。それで疲れ果てて戦えなくなっては本末転倒だから、最低限動けるようになればいい……そういうことなのだろう。

 

「動けねえ奴ぁ寝てりゃいい。俺ぁ動けっから行く、そんだけだ。だからアンタはデクと半分野郎のこと心配してろよ、椿先生よぉ」

「爆豪……おまえなぁ、」

 

 椿はもはや閉口するしかなかった。この男の幼なじみがそうであるように、この男も相当頑なだ。実際に動けてしまう以上、何を言っても無駄なのだと悟ってしまう――

 

「爆豪くんッ、心配してくださっている年長者に対してなんて物言いを――」

「御託はいいからとっとと行くぞクソネガネ」

「こ、こらっ!話はまだ終わっていないぞ!!」

 

 椿の制止がなくなったのをいいことに足早に立ち去ろうとする勝己と、慌ててあとを追う飯田。話が終わっていないのは同じ心操も、それに続く。

 

 その場にひとり残った椿は……ふと、未だ目を覚まさぬ出久を見遣った。

 

「早く起きないと、おまえの幼なじみが無茶するぞ……緑谷」

 

 それでも出久はなお、昏々と眠り続けている――

 

 

「爆豪くん!!」

 

 病院のエントランスにまで来てもなお追いかけてくる飯田に、勝己は根負けするほかなかった。

 

「……しつけえなテメェ。あの人にはあとで謝っから」

「それは無論そうすべきだが……そうでなくてだな。そんなに急いで動いたところで、奴らの潜伏先に心当たりがあるのか?」

「………」

 

 それを言われると、勝己にしては珍しく沈黙せざるをえない。行方をくらましたガドルやドルドがどこに行ったかなど、わかるはずがないのだ。

 けれど、このままじっとしていることなどできない。――出久と焦凍があんな状態であればこそ、尚更。

 

「……いまは、俺がやらなきゃなんねえんだよ」

「ッ、爆豪くん――」

 

 

「――ガドルの居場所なら、知っているぞ」

「!!」

 

 突然かかった、女の声。振り返った勝己たちが見たのは、黒い軍服のような衣装を纏った美女。飯田と心操は訝るばかりだったが……勝己だけはもう、因縁ともいえる強烈なつながりを彼女との間にもってしまっていた。

 

「テメェ……」

 

 睨みつける勝己の視線を、彼女――ゴ・ガリマ・バは真正面から受け止めた。

 

 

 

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