【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
原作準拠の変身音が嬉しいですね。
あと地味に一条さんの携帯がたのしい。でも新録の声に結構貫禄がついてて草生えました。
チャージズマこと上鳴電気はようやく昼食にありついていた。半年前、渋谷駅前で未確認生命体第32号――メ・ガリマ・バ(当時)によって大勢のヒーローたちが殺害されて以降は、周辺を管轄するヒーロー事務所は一時的に合同したり、他の地域から応援を派遣してもらうなどしてかろうじて機能不全に陥ることを防いできた。数少ないあの戦いの生き残りである以上、先頭に立ってこの街を守らなければという責任感が彼には芽生えていた。振る舞いは相変わらずおちゃらけたところもあるが、それは愛嬌の範疇である。
出前の丼に箸をつけつつ未確認生命体関連のニュースを凝視していると、背後から声をかけてくる者があった。
「おつかれ、チャージズマ」
「!、おー……響香。おかえり」
「本名呼ぶなっての、一応業務中なんだから」と微笑むのは、同期の女性ヒーローであるイヤホン=ジャックこと耳郎響香。上鳴とは雄英高校でともに学んだ仲であり……現在では、戦友を飛び越えた深い関係となって久しい。長年うまくやっているのは、上鳴が軽薄に見えて案外一途なおかげだろう。
「それ……46号のニュース?」
「おー、とりあえず新情報はねえみたいだけど。……しっかしこの手口、」
「似てるよね……32号に」
そう、32号と対峙しているからこそ……今回の事件、どうしても当時のことを思い出してしまうのだ。上鳴の表情が自ずと険しいものとなる。
先輩にあたるヒーローたちが奮闘むなしく斬首されていく姿は、未だに悪夢となって彼を苦しめる。未確認生命体は絶対に許さない――和らぐことなき烈しい怒りが、彼の原動力のひとつとなっていることは間違いない。
「………」
そんな恋人を心配しつつも、それが常軌を逸したものとならない限り、耳郎は何も言うまいと心に決めていた。軽い男と揶揄されがちな上鳴ではあるが、それは感情と現実にきっちり折り合いをつけ、ときには妥協もできることの裏返しでもある。
――問題は、未確認生命体関連事件合同捜査本部にいる元同級生ふたりが、揃ってその点不得手なことである。
「爆豪と飯田、大丈夫なのかな……。4号と轟でも勝てなかったって聞くし」
「……確かに、今回ばかりはな」
彼らがそれこそ敵と刺し違えようとするような真似をしでかさないかという不安はあるし――飯田はまだ自制するだろうが――、どうにか助けになりたいという気持ちはある。ただそれを実行に移すことは、未確認生命体が管轄区域にでも現れない限りはないだろう。学生もプロヒーローも、何かに縛られていることに変わりはない。最近はそれを痛感することばかりだ。
だからせめて、独りで突っ走りがちな爆豪を守ってやってほしい――上鳴は密かに、そう神に祈った。けれども実際にそれを為しているのは神などではなく、仇という名の憎悪の標的である未確認生命体第32号、ゴ・ガリマ・バであるだなどと、知るよしもないのだった。
*
鷹野警部補と森塚巡査の覆面パトカーがセントラル=アリーナの駐車場に入ったときには、爆豪勝己から本部に通信が入ってから一時間弱が経過していた。
気短な彼のことだから、しびれを切らして先に突入しているのではないか――そんな不安を抱く一方で、彼は管理官の命令をなんの断りもなく無視はしないだろうという信頼もあった。同級生などからはみみっちいとも言われる勝己の性格だが、本気でストッパーをかければ無理矢理外しはしないという安心感はある。逆にそれをしなければ、どんな無茶をしでかすかわからないということでもあるのだが。
ともあれ確かに、車を滑り込ませた先には勝己の姿があった。――ゴ・ガリマ・バの姿も。
「爆心地、」
ガリマを気にしつつ、歩み寄っていく鷹野。その懐には当然拳銃を忍ばせている。後輩のぶんも合わせて計12発しかない神経断裂弾だが、いざとなればこの場で使う覚悟はあった。管理官からもその許可は受けている。
その後輩こと森塚はというと、ひょこひょこと軽い足取りでついてくる。相変わらず緊張感がないと内心呆れた鷹野だったが……後ろに随えていたために、彼のどんぐり眼が鋭く細められていたことに、気づかないだけだった。
――だから彼がなんの脈絡もなくガリマに銃口を向けたのは、まったく寝耳に水のことだった。
「!」
「森塚ッ!?」
意外にも割って入ろうとした勝己を、ガリマは押しとどめた。その姿を、森塚はあくまで冷徹に観察していた。
「……爆心地から聞いてるだろうけど、これにはお前ら未確認も殺せる弾丸が入ってる」
「………」
知っているとばかりに無反応を保つガリマ。それでも構わず、森塚は続ける。
「おまえが何考えてるのか知らないけど、もし何かに怪しい動きを見せたら躊躇なく撃つよ。
「……わかっている。私はただ、私の求めるもののため、爆心地を殺させないだけだ」
「………」
暫し、沈黙のままに睨みあう時間が続く。いつ森塚の意志ひとつで引き金が引かれるかわからないし、逆にその兆候があればガリマも怪人体に変身して鎌を一閃するだろう。
その張り詰めた空気は……へらりと相好を崩した森塚が、銃を下ろしたことで解かれた。
「ま、そーいうことなら。よろしくね、えーと……」
「ガリマだ。ゴ・ガリマ・バ」
「オーケー、ガリマちゃん。ちなみに僕は森塚でこっちは鷹野さん、ともに敏腕捜査員でありまーす」
親しげに声をかける童顔の刑事は、つい今までとはまるで別人のようだった。この男とはもう8ヶ月近い付き合いになるが、親しくなっただけむしろ謎めいた部分が見え隠れするようになってきたと鷹野は感じていた。正義感はまっとうにあるようだから追及する必要もないのだろうが……やはり、得体の知れないものがある。
「……まあいいわ」そのひと言で強引に自分を納得させつつ、「確認するわ。この中には第46号とB9号の変身した第47号、それにB1号がいる……間違いないわね?」
ガリマがうなずく。それを認めて、森塚が「よぉ~しッ」と唸った。
「ボスクラスが3体……一網打尽にするチャンスだね」
「爆心地、護衛は頼んだわ」
「……ああ」
承りつつ、勝己は釈然としないものを感じていた。磨きあげた個性で華々しくヴィランを倒すヒーロー、その成果をうやうやしくいただく――受け取り係とまで揶揄されてきた――警察。幼少期より刷り込まれてきた絶対的な関係が、この場で逆転してしまったように思えてならなかった。……いや、その予感はあったのだ。Gシリーズの開発が始まったときから。
すべては変わってゆくのだ。人も、社会も。それを受け入れねば、過去の残滓でできた淀みの中に置いていかれるだけ。
ただあの日の誓いだけは不変に持っていなければならないと心して、勝己は拳を握りしめた。
*
アリーナ内部でなおも続く、2体のグロンギの死闘。
翼を広げて奇襲を仕掛けるドルド。姿の見えなくなった自分を捜しているガドルは、こちらに背を向けて微動だにしない。ほくそ笑むドルドは勝利を確信していた、しかし――
「――フン」
「ッ!?」
目の前まで迫ったところで、いきなりこちらを射抜く青い瞳。ドルドがしまったと思った直後には、背中に鋭い痛みが奔っていた。
攻撃をあきらめて着地し、振り返る。ガドルの右手に、大量の黒い羽根が握られていた。血が滴り落ちる。いくらかは根元から毟られてしまったのだろう。
「……む、」
先だってのガドルのことばが意味するところを痛感せざるをえなかった。長らく本気で戦っていないから、長期戦になればなるほどこのようにボロが出る。そもそも正面切っての格闘は、己の得手とするところではない。
戦法を変える必要があるか。そう判断するや、ドルドの行動は速かった。わずかに後ずさったかと思うと、そのまま飛翔して逃走を試みたのだ。飛行速度は落ちても、あれしきの羽根を毟られたくらいで飛べなくなるわけはない。
「………」
存分に翔べる屋外に戦場を移そうとしている――ドルドの意図を察しつつ、ガドルは躊躇なく一歩を踏み出す。しかし、
「リントの戦士と、ガリマがいる」
「!」
背後から響くバルバの声に、再び立ち止まる。振り向くと同時に、投げ渡されたものを掴みとる。それは銀色の腕輪の形をとっていた。
「……グゼパバ」
かつて、下位のグロンギたちがゲゲルに際して使用していた計測器。崇高なるゲリザギバス・ゲゲルでこれを使わざるをえないというのは忸怩たるものがあったが、一度始めてしまった以上はいかなるアクシデントがあろうとも中断はできない。勝者となって先へ進むか、敗者として死ぬか……ふたつにひとつ。
じゃらりと珠玉が音をたてる腕輪を身につけ、ゴ・ガドル・バは歩きだした――
――その一方、駐車場内。
「さあ、いくわよ」
鷹野のひと声により、ついに動き出す一同。拳銃のグリップを握りしめ、「よっしゃ!」と応じたのは言うまでもなく森塚だ。
「僕が先行しますよ、万一待ち伏せでもされて鷹野さんの美しいお顔に傷でもついたらコトですし……な~んてフラグも立ててみたりなんかしちゃったりして!」
「……ぶん殴るわよ。行くならとっとと行け」
「おーこわこわ」
肩をすくめつつ、一歩を踏み出そうとする森塚。相変わらず緊張感のない男だと呆れる勝己だったが……隣のガリマがは、と声を漏らしたのが、不意に耳に入った。
そして、
「避けろ!――"奴"が来るぞ!」
「え――」
きょとんとした表情でこちらを振り向く森塚に、すかさず飛びかかったのは勝己だった。体格差もあって容易く抱え込み、地面を滑走する。
それとほぼ同時に、漆黒の翼をもつ異形が飛び出してきて、そのまま外へ逃げ去っていった。
「いまのは……!?」
「ッ、47号!」
ドルドの姿はもう視界にはなく、ただ黒い羽根の残骸が辺りに散らばるばかりだ。その光景を鋭く睨みつけていた勝己は、二の腕のあたりを叩かれる感触で森塚の存在を思い出した。
「ば、爆豪くん、これ僕にソッチのケがあればドキドキするシチュではあるけども……」
「……わり」
退きつつ……考える。最優先に殲滅すべき対象はガドルだが、外に逃げたドルドをこのまま見過ごしては、倒すチャンスが次にいつ巡ってくるかわからない。――それを思えば、結論は容易く出た。
「あんたらは奴を追ってくれ。中の46号とB1号は、俺とコイツで押さえる」
「……マジ?無茶しない?」
疑わしげな視線を向けてくるふたりの刑事を、早よ行けと勝己は急かした。少なくとも、自分にはガリマという同行者がいる。その事実を恃みとしている時点で、彼は既にかのグロンギを信頼しつつあるのだが……このときはまだ、気づいていなかった。
「行くわよ森塚。47号も野放しにはできない」
「……そっスね。じゃあ爆心地、くれぐれも!」
来た道を引き返すように、駆け出す刑事たち。その背姿を見送りつつ……やはり"戦闘"は、自分たちヒーローの仕事だと勝己は思い直した。少なくとも、まだ。
「行くぞカマキリ女」
「ああ――ッ、ぐ……」
「!?、おい!」
突然うめき声をあげて、その場に蹲るガリマ。顔を歪めて腹部を押さえるその姿は、既に一度は目撃したものだった。
「……テメェ、まだ傷治ってねえんか?」
「……大したことはない、気にするな。貴様は自分のことだけ心配していろ」
「………」
鋭く睨めつけつつ、勝己はじっとガリマの表情を観察していたが……思うところを意図的に押し殺しているのか、その内心を窺い知ることはできなかった。
「行くぞ」
「チッ、命令すんなや」
反射的にそう言い返しつつも、ともにアリーナ内部へ踏み出す。中にいる2体のグロンギ……そのいずれも討たなければ、この延々と続く惨劇に終わりは来ないのだ。
*
出久の出陣を見送ったあと、椿秀一たちは轟焦凍の移された病室へ向かいつつ、別の人物の話をしていた。
「そうか……あの小僧、よりによって未確認と組んじまったか」
「ええ。仲間も当然止めたんでしょうが……あいつ、自分で決めたら誰の言うことも聞かないから」
「だろうよ。小僧……爆豪は前からそういう奴だった。っつっても俺は、そこまでしょっちゅう会ってたわけじゃねえが」
弟子であった八木俊典――かのオールマイトから、頻繁に相談を受けていたことでもある。勝己の場合、彼のような生まれながらの精神性によってヒーローたるのではなく、独りで背負ったものに誓ってヒーローであろうとするから難しかった。その背負っているものがなんなのか、決して誰にも見せないのだから性質が悪い。友人も教師にも、決してそこに踏み込ませないのだから。
「でも、」桜子が口を挟む。「爆豪さん……出久くんと一緒に行動するようになって、前とは少し変わってきたみたいなのに」
無論、学生時代の勝己のことは人伝にしか知らないが、一応はもうひととせに近い付き合いだから彼の人となりはそれなりに理解しているつもりでいる。出久とかけ離れているようで、重なる一面があることも。少なくとも出会った当初に比べれば、彼への反感は圧倒的に薄れたと言っていい。
「あいつが変わったっていうのは私も同感です。ただ、緑谷も轟も戦えない状況で……"俺がやらなきゃならない"って気持ちが抑えられなくなっちまったんでしょう」
「……そんな爆豪さんを、守れる人がいるとしたら」
あのとき――出久が"凄まじき戦士"への恐怖と"クウガであること"への強迫観念の板挟みになっていたときと、似た状況。あのときと同じように、出久は彼を救えるのだろうか。そのためにいまも疾走しているであろう友人を、桜子は想った。
そうして彼らが、いよいよ病室に差し掛かったとき。中から言い争うような声が聞こえたかと思うと、扉が乱暴に押し開かれた。
――そこから現れたのは、入院着のままの轟焦凍だった。青ざめた顔に、切れ長のオッドアイだけが爛々と輝いている。
「!、焦凍……」
「ッ!」
3人の姿に彼が一瞬固まったところで、あとを追って看護師が飛び出してきた。ずいぶん慌てた様子だ。
「どうしたんです、一体?」
「ああ、椿先生!」ほっとした様子で、「患者さんが、目を覚ました途端"退院する"って言って聞かなくて……」
椿は思わず渋面をつくった。焦凍が飛び出してきた時点で、薄々予感はしていたが。
「……退院して、どこ行くつもりだ?」
「ッ、そんなの決まってる……!爆豪も飯田も心操も……緑谷だって戦おうとしてるのに、俺だけこんなところに……ッ」
「俊典からなんも学んどらんのかおまえは!」グラントリノが声を荒げる。「そういう無茶が積み重なって、あいつは死んだんだろうが!!」
「!」
そのひと言は、彼を看取った数少ない人間である焦凍には痛烈だった。一瞬ことばに詰まり……目を伏せる。
しかし仲間たちがかの強敵に立ち向かっているという事実は、それすらも抑えて焦凍を頑なにした。
「でも俺は……俺は――!」
踵を返し、駆け出そうとする焦凍。震える足がもつれ、転びそうになってまで。
椿たちは当然制止しようとしたが……その必要はなかった。焦凍の前に、大柄な男が立ち塞がったからだ。
「!!」
「!、親、父……」
フレイムヒーロー・エンデヴァー――轟炎司。
息子の"左"にも受け継がれた碧眼が、彼を鋭く見下ろしていた。