【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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新年度でうsね
次の元号はなんじゃろな~


EPISODE 46. 散華 3/4

 関東医大病院の廊下で、ともにプロヒーローたる父子が対峙していた。

 

「……何しに来た」

 

 そう口火を切ったのは、息子のほうだった。息子が重傷を負って病院に搬送されて、親が駆けつけるのに理由などいるものか。以前ならともかく、いまの焦凍にそれがわからないはずがない。……けれども自らの置かれた状況が、それを受け入れることを許さなかった。

 

「わかりきったことを訊くな」にべもない返答。「それよりも、そんな状態で戦いに行くつもりか?足手まといになるだけだぞ」

「ッ、ンなこと……やってみなきゃわかんねえだろ!」

 

 思った以上に大きな声が出て、それはそのまま快復しきっていない肉体への負担ともなった。激しく咳き込みながら、手を壁について身体を支える。その時点で父親の言が正しいことは、誰の目から見ても明らかとなってしまった――当人も含めて。

 

「俺はオールマイトの弟子で……あんたの息子だ……!誰よりも俺が、戦わなきゃならねえんだ……!」

「……焦凍、」

「それは、あんたが望んだことでもあるはずだ……!」

「……ッ」

 

 思わず言いよどむエンデヴァー。その思うところを理解したグラントリノが背後から孫弟子を諌めようとするが、余計に頑なになった彼は止まらない。立ち止まることを、己に許さない。

 沈黙する父とすれ違うようにして、歩き出す焦凍。

 

 もはや戦場に飛んでしまった彼の精神を現実に立ち返らせたのは……左腕を、掴む手だった。

 

「!」

「……もういい」

「は……?」

 

「もういい、焦凍……ッ」

 

 父の大きな手はぶるぶると震え、その強面はいまにも泣き出しそうなほどに歪められていた。――20年生きてきて、初めて目にする姿だった。

 

「俺が、俺が悪かった……。だから行くな……そんな身体でヒーローであろうとするな……!おまえにまで何かあったら、()()()は……!」

「なん、だよ……それ……。なんであんたが、そんな……!」

 

 今さら何を言っているんだと、怒りを覚えないといえば嘘になる。……けれどそれ以上に、筋骨逞しい背中を丸めて懇願する父の姿は、あまりに――

 

 

「……あんた、」

 

「歳、とっちまったな……」

「………」

 

 ヒーロー・ショートであり、オールマイトの後継者であり、超人――"仮面ライダー"アギト。

 

 しかし何よりいまこの瞬間、彼は轟炎司の息子でしかないのだった。

 

 

 

 

 

 強力な個性をその身に宿しているというだけの、少なくともこの世界においては常人に違いない爆豪勝己。彼はどこまでもヒーローとして、戦場の真っ只中を突き進んでいた。

 

「………」

 

 そんな彼に同行する、ゴ・ガリマ・バ。

 彼女の意識は鋭く周囲に向けられながら、その実勝己の横顔も捉えていた。

 ベミウよりこの男のほうが余程グロンギらしいと思っていたが……敵としてではなく同行者としてことばをかわして、やはり自分たちとは根本的に違う存在なのだと思い知らされた。この男の強さは少なくとも、自分自身の快楽を志向してはいない。ただ、他人のための自己犠牲とも言いきれないようなところがあって――

 

――有り体に言えばガリマは、爆豪勝己という人間への興味を深めていたのだった。この男は一体、何を原動力としてここまで懸命になるのか。

 

 もしも自分がグロンギでなかったら、これから先ゆっくり時間をかけて知っていくこともできたかもしれない。そう考える自分に驚きはなかった。――しかし何よりも、自分自身にその猶予が残されていないことを、彼女は悟っていた。

 

(ならば私にできることは、やはり……)

 

 そのとき不意に、むせかえるような濃い香りが漂ってきた。――薔薇の、匂いだ。

 

「!、この奥に、バルバがいる」

「あのバラ女か?……奴がテメェらがやってるゲームの管理をしてんだな?」

「そうだ。彼女は我々グロンギの中でも特別な存在。ゲゲルだけではない、彼女の意志が新たなダグバを生み出しもした」

「……知っとるわ」

 

 ゆえにあの女を倒さなければ、すべては終わらないのだと勝己は確信した。死柄木弔を救うという大願も、果たせはしない。

 

 そんな彼の意志を知らずして……かのプレイヤーが、ふたりの行く手を阻んだ。

 

「ラデデギダゾ」

「!」

 

 悠然と対面から現れる、甲虫を象った異形の戦士。――ゴ・ガドル・バが、立ち塞がった。

 

「………」

 

 沈黙を保ったまま、姿勢を低くして臨戦態勢をとる勝己。本丸はバラのタトゥの女であるにせよ、目の前の敵もターゲットであることには変わりない。対するガドルも同じだ。瞳の色を紫へと変え……大剣を手にする。

 

 いつ衝突が起こるか――その秒読みが始まった瞬間、

 

「どいていろ」

「!?」

 

 勝己を押し退けるようにして、再びガリマが前面に出た。

 

「!、テメェ……」

「勘違いするな、貴様はバルバのところへ行け。彼女とは因縁があるのだろう」

 

 それは否定しない。が、勘違いも何もないのだ。ガリマは確かにすぐれた戦士だが……ガドルには及ぶまい。

 勝己の気持ちが伝わったのか、彼女はわずかに振り向き、瞳を細めた。

 

「……見くびるな。ゴ・ガリマ・バは、決して何ものにも敗れない」

「……ッ、」

 

「――愚かな」

 

 ガリマの矜持をたったひと言で切り捨て、ガドルがいよいよ襲いかかってきた。

 

「くッ!」

 

 咄嗟に怪人体に変身し、鎌で刃を受け止めるガリマ。しかしその勢いまでは殺しきることができず、身体を激しく押しやられ、そのまま壁に激突する。――粉塵が、辺りに散らばる。

 

「ガリマ……!」

 

 勝己の口からは、自ずから彼女の名前が飛び出していた。幾度か訂正されても、覚えてやる気など更々なかったと言うのに。

 

「ッ、何を、している……!」

「……ッ、」

「早く行け――爆豪、勝己……!」

 

 応えるように名を呼ばれて、勝己の足は先へ進んでいた。その心には葛藤が生まれ、幾度も立ち止まり、振り返りそうになる。

 

 だが結局、彼はそれを実行することはなかった。彼女は自分と同じ、戦士。この戦いを引き受けると決めた彼女の意志を容れて、己に託された責務を果たすと決意したのだ。

 

「そうだ……それでいい、」

 

「振り向くな……!」

 

 勝己を送り出したガリマは、壁に手を突きつつも立ち上がった。痛む身体を叱咤して、ガドルと対峙する。

 

「爆心地を逃がしたか。貴様ひとりでは勝ち目などないとわかっていて、なぜそうまで奴を庇いだてする?」

「……さぁな」ふ、と息を吐き出し、「その意味を知っているかどうかが、私たちとリントの違いなのだろう」

「そうか。――くだらんな」

 

 吐き捨てて、踏み出す。ガリマは構えながら、躍起になって思考を巡らせていた。簡単に殺されてやるつもりなどない、まだ実加の演奏をもう一度聴くという目的を果たせていないのだ。

 ガドルとの間に隔絶した実力差があることは、既に痛いほど身に滲みている。この絶望的な戦いに、勝機を見出だす術があるとしたら――

 

「………」

 

 ガリマはゆっくりと腕を広げ、その身に力を込めた。やがてダークグリーンの皮膚が粟立ち、筋肉が痙攣を始める。

 

「く、……ぐ、うぅぅ……ッ!」

「……?」

 

 相手の様子が変わったことに気づいて、ガドルは前進をやめた。

 "何か"を、自身に起こそうとしているガリマ。次第に苦痛が増し、うめく声もいっそう激しいものとなる。

 

「う、うぅッ、うぁぁぁぁ――!」

 

 曖昧になりかかる意識を、ガリマは全身全霊で押しとどめた。ゴの戦士として、ふさわしい力を。この強敵に、打ち勝てる力を――

 

――ベルトのバックルが、鈍い輝きを放った。そこから全身に伸びた神経組織がにわかに活性化し、ガリマの姿かたちを変化させていく。女性的な丸みがほとんど失われ、より筋肉質に。肌の色もまた、その漆黒の度合いを増した。

 

 さらなる変身を遂げ、いまのガドルと同じ"剛力体"となったガリマは、手首から生えた鎌を半ば強引に引きちぎった。それも両方。鋭い痛みが奔るが、そんなものは覚悟のうえ。

 ふたつの鎌の付け根を合わせれば……その継ぎ目同士が融合し、巨大化する。それはガリマの背丈以上もの、長大な大鎌へと変化を遂げたのだ。

 

「新たな力を得たか……。素晴らしい、と言いたいところだが」

 

「ひび割れているぞ」

「!、………」

 

 ガリマは己の腹部を見下ろした。そこにあるベルトのバックルに……ガドルの言うとおり、ヒビが入っている。

 ただ、彼女に動揺はなかった。こうなることは半ば予想できたことだったからだ。

 

 先の戦いで放たれたガドル"射撃体"のボウガンの弾丸は……ガリマのベルトを貫いていたのだ。その一撃で受けたダメージは、肉体へのそれと異なりそう簡単には回復しない。そんな状態であるにもかかわらず超変身能力を引き出したために、バックルに内蔵された魔石"ゲブロン"はもはや崩壊寸前となっている。次に一撃受けようものなら、間違いなく――

 

(だとしても……勝つッ!)

 

 勢い込んで、ガリマは吶喊に打って出た。ガドルやクウガ・タイタンフォームと異なり、元々敏捷性に長けた彼女は剛力体となっても十分にスピードを発揮することができる。少なくとも、ガドルの反応速度を瞬間的に上回った。

 

「ヌゥッ」

 

 大剣で迎え撃とうとしたガドルだったが、リーチでは大鎌に軍配が上がった。刃が届かない距離からがむしゃらに押しやられ、後退させられる。押しとどまろうと下半身に意識を集中させたところで、わずかに気が逸れた大剣を標的にされた。

 

「!」

 

 一閃。柄から上が……切断されていた。

 

「ボセパ――」

「――ハァアアッ!!」

 

 武器を失って一瞬狼狽した隙を逃さず、ガリマは大鎌を一閃――袈裟懸けに、ガドルの胴を切り裂いた。

 

「グァ……!」

 

 短いうめき声とともに、その身から鮮血が勢いよく噴き出す。それらは大鎌はおろか、ガリマ自身の身体をも赤く染めあげた。

 なおもガドルは立ち続けようと執念を剥き出しにしていたが……一度、二度とよろけたあと、ついにこらえきれなくなって床に膝をつき、そのまま俯せに倒れ伏した。

 

「………、」

 

 ガリマは思わず息を詰めた。――勝った。

 

 しかしそれは、倒せた……殺せたことと同義ではない。この程度のダメージでは、ガドルを相手に即死とはいくまい。

 グロンギ、ましてゴともなれば規格外の頑丈さと回復力で、クウガのもつ封印エネルギーによらない攻撃では死に至らしめるなど不可能に思える。

 だが、一撃で即死級のダメージを与えれば。リントにそれができて、自分にできないはずがない。気絶したガドルを仰向けに転がすと、ガリマはその首もとに得物を突きつけた。首と胴体を切断すれば、いかなるグロンギであれ死は免れない。

 

「……さらばだ、ガドル」

 

 勢いよく大鎌を振り上げる。

 

――刹那、彼女の脳裏に、かの音色を奏でる少女の姿が浮かんだ。彼女は……泣いていた。

 

「……!」

 

 その幻想のためにガリマは一瞬、ほんの一瞬だけ得物を振り下ろすのを躊躇してしまった。

 しかしその泣き顔は、彼女にとって死に神の微笑みと同義となってしまった。密かに意識を取り戻したガドルはその隙を逃さず身を躍らせ、ガリマのバックルを蹴りつけたのだ。

 

「ウウッ!?」

 

 その衝撃に、バックルは耐えられなかった。破片があちこちに飛び散り、ガリマの肉体は想像を絶する苦痛に襲われる。――それは彼女が、グロンギとして終焉を迎えたことに他ならなかった。

 

 よろけながらも、倒れないガリマ。しかしガドルはどこまでもグロンギだった。やおら立ち上がりながら再び大剣をつくり出し、 

 

――その刃で、彼女の腹部を貫いた。

 

「………!」

 

 みるみる縮んで人間の姿に戻ったガリマが、口からごぼりと赤黒い血を吐き出す。そのまま壁に背をつけ……ずるずると、座り込む。

 

「愚かな。あと一歩で俺を仕留められたものを」

「………」

 

 先ほど自分がそうしていたように、大剣を首もとに突きつけられる。形勢は完全に逆転した……否、ゲブロンが崩壊し、彼女にはもう怪人としての力は残っていない。このまま放っておかれたとしても、運命は変わらないだろう。

 そんな状態であって……彼女の心は、ひどく凪いでいた。夏目実加の演奏をもう一度聴くのだという、大願を果たせないことが確実となったにもかかわらず。

 

(……最初から、わかっていた)

 

 大勢のリントを殺した、グロンギ。そんな自分に演奏を求められることは、彼女にとってひどく苦痛であろう。そんなことは関係ない……そう思ってここまで来てしまったけれど、やはりそれではだめなのだ。

 

 実加の、気持ちを想うならば。

 

「貴様はリントの戦士として、俺の"最初の"獲物にしてやる」

「……そうか。それもいいかもしれないな」

 

 グロンギにとっては、リントとして葬られるなど最大の侮辱であったはずなのに。むしろそれが嬉しいとすら感じる自分がいることに、ガリマは気づいた。

 

(あぁ、そうか)

 

(これで……私は、)

 

 

――そして、剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 ひとり奥へ進んだ勝己は、どこからか漂ってくる薔薇の香りを辿ってアリーナ内部に至った。

 

「………」

 

 ガリマの安否がどうなったか……気に掛からないといえば嘘になる。彼女らの戦いには自分のような派手さがないから、離れると状況がまったくわからないのだ。

 ただ彼女の想いを汲むならば、振り向いてはいけない。――引き返すことがあるとすれば、それは己の責務を果たしたときだ。

 

 広大なアリーナに、生けるものの姿はひとつもない。だが視覚のうえではそうでも、気配と強い香りを消すことなどできはしない。勝己は、声をあげた。

 

「――出てこいや、バラ女」

 

 いつものようにがなりたてずとも、声は四方八方を跳ね返って響き渡る。

 刹那、

 

 真っ赤なドレスと艶やかな黒髪を翻して、かの女は姿を現した。

 

「来ると思っていた、――爆心地」

 

 まるで古い友人と出逢ったかのように、女――ラ・バルバ・デは女神のような微笑を浮かべて、そこに在った。

 

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギングドググドズガギ

バッファロー種怪人 ゴ・バベル・ダ/未確認生命体第45号

「キュグキョブンジャリゾロダサグンパ、ボン、ゴ・バベル・ダザ……!(究極の闇をもたらすのは、このゴ・バベル・ダだ……!)」

身長:213cm
体重:223kg(格闘体)/248kg(剛力体)
能力(武器):メリケンサック(格闘体)/ハンマー(剛力体)

行動記録:
"ゴ集団"の中でも群を抜いた戦闘能力をもつ、三強のひとり。その中ではやや野性味あふれる言動を見せるものの、クウガを皮肉るような発言をするなど知力も高い。
「出入口を大型車両等で塞ぐなどして閉じ込めた人々を、次々と殴り殺す」という凄惨なゲリザギバス・ゲゲルを行い、4回の犯行で682人を殺害するという成果を挙げた(その際の発言から、規定人数は729人だったようである)。
そうした剛胆さは群を抜いたパワーに裏打ちされたものであり、基本の格闘体においてもメリケンサックひとつでマイティフォームの装甲を損壊させたほか、ジャーザ同様に超変身できる剛力体に至っては"GA-04 アンタレス"の強靭なワイヤーを引きちぎり、ハンマーを用いてタイタンフォームの装甲に穴を開けるというこれまでのグロンギにはない破壊力を見せつけた。
しかし帰還したアギトと爆心地の奇襲を受け、さらにG3の新たな武器"GGX-05 ニーズヘグ"のミサイルランチャーを浴びて甚大なダメージを負ったことで形勢は逆転――アギトのライダー・トライシュート、クウガ・ライジングマイティフォームのライジングマイティキックを立て続けに喰らい、耐えきれずに死に至った。

作者所感:
グロンギ最速の前編のAパートでやられるという不憫さを見せた殿方でございますが、三強(笑)とならないのはやはり短い時間でこれでもかとクウガを追い詰めたからか。
拙作でも作者が後編に力を入れていたためそんな感じの扱いとなりやした。何より着ぐるみがジイノの改造ってのがもう……。

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