【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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作者はクリスマスより大晦日エピソードが好きです。


EPISODE 46. 散華 4/4

 セントラル=アリーナの中心で対峙する、爆豪勝己とラ・バルバ・デ。極限まで張り詰めた空気の中で、しかし敵意を剥き出しにしているのは前者のみ。後者の女は、むしろ歓迎するかのようにたおやかな笑みを浮かべてすらいる。

 

 攻撃を仕掛けんとして姿勢を低くしていく勝己に、バルバは親しげに話しかけた。

 

「やはりおまえは、我々に近い存在のようだな」

「!、………」

 

 そのことばに一瞬息が詰まったが、動揺にまでは発展しなかった。客観的に見て自分がどういう人間か、どう思われているかは今さら思いをいたすまでもなくよく存じている。殊更に否定する必要などどこにもない、ましてグロンギを相手に。

 

「おまえたちリントが、我々に近づきつつある。一方で、ガリマのようにリントと通じあうグロンギもいる。……我らはいずれ、まったく区別のつかない存在になるのかもしれないな」

「……ウゼェなさっきから、意味ねえことべらべらと。そうなる前にテメェらまとめて滅ぼしたるわ」

「ふ……、」バルバは再び笑ったが、それは嘲笑ではなかった。「それも絵空事ではないようだな。――ヒーローですらないおまえの仲間が……いま、ドルドを殺した」

「なに……?」

 

 

 バルバの察知したとおりだった。

 

 同じ頃、アリーナ付近の河川敷にて、鷹野藍と森塚駿はついにラ・ドルド・グを捕捉することに成功していた。万全の彼が相手であったらば容易く飛び去られていただろうが……いまの彼は片翼の大部分をガドルによって毟りとられ、本来のスピードを出せないばかりか長く飛行できない状態だったのだ。それに対して追う側は森塚の個性"駿速(レーザーターボ)"があり……あとは言うまでもあるまい。

 

 ドルドが降下したところで、"ホークアイ"の個性をもつ鷹野がすかさず狙いを定め、神経断裂弾を撃ち込む。

 

「グガッ!?」

 

 取り繕えないうめき声をあげるドルド。かの弾丸はグロンギの硬い表皮を容易く破る貫通力をもつ。そうして体内に潜り込んだところで、

 

――爆発。それも連鎖して。

 

 体内を焼けつくような激痛が襲い、悶えるドルド。当然再び飛翔し、逃げ出すことなどできようもない。そこを狙って、今度は森塚が引き金を引いた。すかさず鷹野、また森塚。やがて交代ではなく、ほとんど同時にふたりは弾丸を放っていた。

 結果、計10発近い弾丸が、ドルドの内臓を破壊し尽くしていた。

 

「ガッ……アァァ、ガ………」

 

 それでも"ゴ"を通過して"ラ"に至ったドルドは即死には至らない。しかしいずれにせよ時間の問題で……むしろ想像を絶する苦痛から逃れられないいまの状況こそ、よほど悲惨と言わざるをえない。

 

 大量の羽根が舞う中で……怪人体を保つこともできず、ドルドの姿は人間のそれに戻った。己の身が確実に死へ向かっていることを知覚しながらも、彼は足を引きずるようにして歩き出す。

 

(ここまでなのか、)

 

(ッ、まだだ……!)

 

(こんなところで私ひとりが死ぬなど……。真なる"究極の闇"を、目にすることなく死ぬなど……!)

 

 呪詛のようなことばを胸中で唱えながら、川に向かって進み続けるドルド。その背中を目の当たりにした鷹野はなおも発砲しようとするが、森塚がそれを阻んだ。

 

「森塚……?」

「……もう、必要ないですよ」

 

 

――彼の言うとおりだった。

 

「グォ……オォォォォォ………!」

 

 くぐもった断末魔を発しながら、赤い空目掛けて両手を伸ばすドルド。彼はそのまま水中に俯せに倒れ込み……二度と、起き上がることはなく。

 もがくようにゆがんだ両手。そして、外れて転がった仮面。露になった青い双眸はかっと見開かれたまま、あらぬ方向を見据えていた。

 

「……死んだ、の?」

 

 思わず鷹野は、そうつぶやいていた。神経断裂弾、未確認生命体をも殺せる武器。そうとわかっていて使った――ゆえに待ち望んだ瞬間だったけれど、未だ現実感がなかった。あれほどクウガやアギトを弄んだ強力なグロンギを、いち警察官にすぎない自分たちが――

 

「こんなもんですよ」

 

 ほとんど独白に近い、森塚のつぶやき。彼の童顔にいつものへらりとした笑みはない。少なくとも自分たちの手で初めてグロンギを仕留めたのだという興奮は、微塵も窺わせないのだった。

 

 

――戻って、対峙を続ける勝己とバルバ。

 

 

「……テメェの話が本当なら、」歯を剥き出しにして笑う勝己。「あとはテメェと46号、42号に3号、それに0号をブッ殺しゃ全部終わるわけだ」

「ひとり足りないようだが?」

 

 すかさず切り返すバルバ。しかし勝己はもう、これ以上会話を続けるつもりはなかった。

 

「どっちにしろテメェはここで殺す!!」

 

 背後へ向かって爆破を起こし、一気呵成にバルバと距離を詰める勝己。唐突に気短を起こしたようだが、これも計算のうち。不意を突かなければ、バルバに攻撃を当てることなど不可能と割りきったのだ。

 その場に立ち尽くしたままの女の顔めがけ、

 

榴弾砲(ハウザー)――着弾(インパクト)ッ!!」

 

 最大火力を解き放つ。その姿が一瞬、爆炎に溶けるようにしてかき消えてしまった。

 しかし勝己はまざまざと感じていた。――手応えが、ない。

 

 その勘は的中していた。炎のあとには、焼け焦げた薔薇の断片しか残されていなかったのだ。

 

「ッ!」

 

 後ろだ!悟った勝己は瞬時に振り向き、同時に爆破を仕掛ける。なるほど今度こそバルバはそこにいて、まさしく背後から襲いかかろうというところだった。その手が、蔦を纏ったかのように変化している。

 バルバは一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを貼り付けて爆炎を振り払った。彼女の身体には、傷ひとつつかない。

 

「チィ……ッ!」

 

 舌打ちを漏らしつつ、勝己は素早く距離をとった。ドルド以上に本気で戦う素振りを見せない――怪人体に変身したことすらない――この女は、果たしてどれだけの力を隠しているのか。自分ひとりで、どこまでやれるか。

 

(どこまでもクソもねえ、俺が殺すっつってんだ)

 

 そのためにガリマを置いてまでここに進んできた。絶対に、やり遂げる――!

 

「――オラァアアアアアッ!!」

「………」

 

 覚悟を決めて、吶喊する勝己。バルバは動かず、ただ唇を歪めている。――ここでの自分の役割はもう終わったと、彼女は悟っていたのだ。

 

 刹那、

 

「フン――ッ!」

「!?、がぁッ!!」

 

 突如傍らから飛来した漆黒の塊がものすごい勢いでぶつかってきて、勝己はなすすべなく吹っ飛ばされた。そのまま床に叩きつけられ、全身に激痛が奔る。呼吸が整わず、視界がぼやける。

 

「ぐ……あ……ッ」

「………」

 

 そんな己の肉体を叱咤して、無理矢理頭を上げ、目を凝らす。対照的に軽やかに着地してみせたのは……あの、甲虫の異形だった。

 

「46号……!?テメェ……」

 

 ガリマはどうした、そう声をあげかけて……奈落の底に突き落とされたような感情にとらわれる。こいつがここに現れたということは、答はひとつしかない。

 そしてそれを、ゴ・ガドル・バも肯定した――グゼパを見せつけるという形で。

 

「ビガラグ、ドググビンレザ」

「……ッ、」

 

 大剣を構えて迫るガドル剛力体。その背に守られるようにして、バルバは悠然と去っていく。勝己の心は憤懣と焦燥に満たされていたが、身体はもう万全には動かない。ただでさえ、元々蓄積していたダメージがあるのだ。

 

 彼が握り拳を固めた、そのとき。ガドルの背中に、火花が散った。

 

「!」

「ム……」

 

 振り向いたガドルが目にしたのは……こちらに銃を向けている逆立った紫髪の青年と、そんな彼の背中を支える鎧姿のヒーロー。

 

「飯田、心操……」

 

 彼らの名前を、勝己は思わず呼んでいた。飯田天哉はまだしも、G3が出撃不可能な状況でなぜ心操が。それもアンダースーツに四肢のパーツを纏っただけという、あまりに心許ない姿で。

 

「爆豪、下がれ!」心操が叫ぶ。「これでもせめて、時間を稼ぐくらい……!――飯田、頼むぞ」

「任せてくれ!」

 

 全力でサポートするとは言ったが、まさか物理的に支えることになるとは。しかし反動の大きいスコーピオンを扱うには、これが一番いい。幸いにして飯田は重装備だった。

 

 万全の支えがあるのをいいことに、心操は心おきなく引き金を引き続ける。四肢のパーツによる軽減があるとはいえ、筋肉にはほとんど直接反動が伝わり、引き攣るような痛みが襲ってくる。それに対して、弾丸を受けるガドルにはほとんどダメージがない。

 

「ぐ、う……ッ」

「心操くん……!」

「ッ、平気だ、まだ……!」

 

 口ではそう言っていても、頬を流れ落ちる脂汗は止まらない。だがそんな彼を制止することは、飯田にはできなかった。勝己を生かし、自分たちも生き残る。そのためには、これしかない。

 

 そんな青年たちの気迫を、ガドルは買った。

 

「愚かな……だが面白い。まずは貴様らから葬ってやろう」

 

 標的を変え、迫る。射撃体にならないのは矜持によるものか、弾丸にかすかな痛みすら感じないからか……その、両方か。

 一方で心操は、ついに限界を迎えていた。両腕を激痛が襲い、たまらずスコーピオンを取り落とす。

 

「……ッ、」

「大丈夫か心操くん!?」

 

 スーツの上からではわからないが、心操の両腕の筋肉は炎症を起こして真っ赤に腫れ上がっていた。脚はまだましだが、まともに動けないことに変わりはない。そんな彼を守るのは自分の役目だと、今度は飯田が前面に出た。

 

「俺が相手だ……!葬れるものなら、葬ってみろ!!」

 

 ふくらはぎのエンジンが唸りをあげる。いちかばちか、彼は特攻を仕掛けるつもりだった。このまま座して死を待つくらいなら。

 しかしそれをよしとせず、勝己もまた立ち上がろうとしていた。

 

「ざけんなクソメガネ……!テメェひとりに、やらせるか……ッ」

 

 ふたりのヒーローの、悲壮な覚悟。それを見た心操は、満身創痍の身体を押してなおもスコーピオンを拾い上げようとしている。――遠からずして、彼らは死ぬ。

 

 

 その運命を打ち破れるとすれば……いまこの瞬間、彼を置いてほかにはいない。

 

 突如として唸りをあげるエンジン音。それとともにアリーナに飛び込んできた蒼と銀のマシン――ビートチェイサー。駆るライダーは、一見するとさほど屈強には見えない。しかし勇猛果敢に、躊躇なく、標的めがけて突進していく。

 

「グ――ッ!?」

 

 高速の闖入者には対処しきれず、ガドルはビートチェイサーの体当たりをかわしきれずに撥ね飛ばされた。それをブレーキ代わりに、マシンも停止する。

 すかさず飛び降り、ヘルメットを脱ぎ捨てるライダー。フルフェイスに隠されていた地味な童顔と、その中にあって際立つ大きなエメラルドアイが露になる。

 

「――デク……!」

 

 幼少期に自分がつけたあだ名を、思わず勝己は呼んでいた。デク――緑谷出久は振り向き、笑みを浮かべて応える。この場にいる傷ついた者たちを、安心させるかのように。

 

「ごめん、お待たせ!」

「ア゛ァ!?待っとらんわクソナードが!!」

 

 反射的に怒鳴る勝己に、一瞬首をすくめたあと苦笑いを浮かべる出久。もはや定番となってしまったやりとりさえも、仲間たちには頼もしく感じた。

 ただ、

 

「大丈夫なのか、緑谷くん!?」

 

 出久の身を案じて、飯田は叫んだ。彼がどういう経緯で復活してきたかおおよその見当はついているが、いずれにせよ病み上がりなのは違いないし……何より、ガドルはクウガとアギト、G3の3人がかりでも勝てなかった相手だ。

それを、

 

「大丈夫!」

 

 ためらうことなく、出久はそう応じた。すべては勝って、救けるため――そのためにここへ来たのだ。

 立ち上がるガドルを一転厳しい表情で見据えると、彼はいよいよ変身の構えをとった。輝きとともに、腹部からアークルが顕現する。

 

「――変、ッ身!!」

 

 そしてその輝きは、アークルの中心部――モーフィンクリスタルに集合した。それは赤でも青でも紫でも緑でもなく……黄金。

 出久の肉体には戦うための変化とともに絶えず電流が流れ、"変わった"あとの身体の一部をやはり黄金に染めあげていく。

 

 その姿は"赤の金"――クウガ・ライジングマイティフォーム。いままでならば30秒しか維持できず、決着を志す場合にのみ露とする形態だったのだが。

 

(ずっと金でいける……気がする!)

 

 受けた電気ショックの効果が、早くも現れはじめている。己が望みを鑑みれば、そんなものはまだ序の口だろうが。

 

「クウガ……。ボンゾボゴ、ビガラゾビス」

 

 戦線復帰したクウガの存在にたじろぐこともなく、ガドルが斬りかかってくる。

 

「くっ!」

 

 斬擊をかろうじてかわし、拳を叩き込む。ガドルは一瞬怯んだ様子を見せるが、すぐに態勢を立て直す。とりわけ頑丈な剛力体を相手にしては、ライジングマイティの拳も小手先のものとしかならない。

 しかしガドルがそうであるように、クウガも複数の形態をもっている。

 

「――ッ!」

 

 すかさずビートチェイサーからトライアクセラーを引き抜き、振り向きざまに刃を受け止める。特殊な合金で造られたそれは、ガドルの大剣をもってしても両断されることはない。

 そして、

 

「――超変身ッ!」

 

 ライジングマイティの肉体が一瞬光に包まれ、次いで筋肉質なものとなる。紫の複眼と鎧――ライジングタイタンフォーム。

 同時にトライアクセラーも、黄金の刃をもつ大剣"ライジングタイタンソード"へと変化を遂げた。

 

「ふ――ッ!」

「ヌゥ……!」

 

 同時に剣を振りかざす、ふたりの剣士。パワーではほぼ互角。しかし武器の性能では、クウガに軍配が上がった。

 ガドルの剣が弾き飛ばされる。敵を丸腰としたことに満足せず、クウガはすかさずそれを拾い上げ、もう一本ライジングタイタンソードを創りあげた。

 

「ぅおりゃあッ!!」

「グォッ……」

 

 ふたつの剣で、ガドルの身体を交差するように斬りつける。血を噴き出しながら、たまらず後退するガドル。その胴体にふたつ、封印を表す古代文字が浮かぶ。

 

 しかしガドルはさるもの、傷もろとも古代文字をかき消してみせた。さらに瞳を緑へと変える――"射撃体"となって、ボウガンを生成する。

 

「フン――!」

 

 放たれる空気弾。それはライジングタイタンの身体を押しやることには成功したが、堅固な鎧を傷つけるまでには至らない。

 一計を案じたクウガが振り向いた瞬間にはもう、勝己は己の象徴ともいえる手榴弾型の籠手を投げつけていた。

 

「デク!!」

「うん――ッ、超変身!!」

 

 それを手にすると同時に……鎧と瞳とが、緑へと変わる。同時に籠手もまた、黄金のブレードに飾りたてられた"ライジングペガサスボウガン"へと姿を変える。

 感覚が常人の数万倍にまで研ぎ澄まされたこの形態においては、敵の放つ空気弾の軌道を鮮明に、まるでスローモーションのように視認することができる。スピード自体は平凡であっても、その力によって機敏な回避行動をとることを可能にしているのだ。

 

 素早く地面を転がり、片膝をついた状態でトリガーを引く。今度は、こちらが射つ番。

 しかもライジングペガサスボウガンは、一度に5発もの空気弾を放つことができる。――うち4発はかわされてしまったが、ひとつだけはガドルの胸を捉えた。

 

「ウグゥ……――ヌゥゥン!!」

 

 身体に力を込め、現れた古代文字を強引に消し去る。先ほどよりはダメージを受けている様子。ならばと射撃を続けるライジングペガサスに対し、ガドルは青い瞳の"俊敏体"へと変身することで応えた。目にも止まらぬスピードで弾丸をかわしながら、ハルバード片手に迫ってくる。

 

――得物が振り下ろされる瞬間、クウガもまた青の金、ライジングドラゴンフォームへと姿を変えた。ボウガンがそのまま、両端にブレードを装着した"ライジングドラゴンロッド"へと大きく形状を変える。クウガのモーフィングパワーが、この戦闘の中で加速度的に強化されつつあるのだ。

 

「はっ!」

 

 勢い込んで跳躍するライジングドラゴン。ガドル"俊敏体"もそれに追随する。彼らは単に身軽なだけでなく、ジャンプ力もまた大きく強化されるように筋肉が発達している。遥か高いドーム状の天井にぶつかってしまうのではないかというほどの高度にまで到達し、

 

 同時に、得物を振りかざす。そのまま交錯し、弧を描くようにして着地するふたりの戦士。

 刹那……互いのいずこかが裂け、血が噴き出した。

 

「ッ、く……!」

 

 ただそれは、決して致命傷ではない。痛みにうめきながら、それでも立ち上がるクウガ。ガドルもまた同じだった。考えていることも。

 武器を打ち捨て、振り向きざまに走り出す。――ガドルの瞳が橙に、クウガの鎧と瞳が……再び赤と金へ、変化を遂げる。いずれも己の身ひとつ武器とする形態、それを選ぶことが彼らの結論だった。

 

「ウオオオオ――ッ!!」

 

 雄叫びとともに、拳を突き出すのが同時。その一撃は互いの頬を打ち、互いの鍛えあげられた肉体を吹っ飛ばした。

 

――そのさまを見守っていた、心操がつぶやく。

 

「緑谷……あいつ、46号と互角に……」

「ああ……。だが――」

 

 封印の力が効いていないのには変わりないと、飯田はやや悲観的な思いを抱いた。しかし希望がないわけではない。電気ショックによってさらなる力を得た出久には、まだ切り札があるのではないか。

 

 

「ビガラダヂグ、ヅブダダヂバサゼ……ボソギデジャス!」

「!」

 

 立ち上がったガドルの全身に電撃が奔り、胴と瞳を黄金に染め上げていく。一度はライジングマイティを破った形態を再び露として、彼は必殺キックの構えをとった。

 

「……来い」クウガもまた、構える。「僕は……勝つ!」

 

 その強い想いを、ことばとしたとき。既に雷の力を得ているはずのライジングマイティの肉体に、さらに鮮烈な電撃が奔った。右脛を彩る黄金のアンクレット――それと同じものが、左の脛にも現れる。

 

 そして、眩い光が彼の全身を包み込み、

 

「!?」

 

 仲間たちは思わず、は、と吐息を漏らしていた。

 

「黒く、なった……?」

 

 クウガのあらゆる装甲が、赤から漆黒へと変わっていた。ただ頭の大部分を占める巨大な複眼だけは赤のまま……否、ライトアップされたかのようにより鮮烈な煌めきを放っていた。

 仲間たちをも驚愕させるさらなる強化形態――まさしく"アメイジングマイティ"。

 

 ただそういう意味では、唯一の敵に対してはあまり効果を表さなかったようだ。周囲に電光を撒きながら、全速力で向かってくるガドル。――それならそれで構わない、この姿はこけおどしではないのだ。

 黒の金のクウガもまた、敵に向かって走り出す。ライジングマイティでは右足からのみ放出されていたエネルギーが、いまは両足から溢れている。身を焦がすような灼熱を感じながら……彼は、跳躍した。

 

「フン――ッ!」

「ぅおりゃぁぁぁッ!!」

 

 必殺キックが激突し……辺り一面を、閃光と旋風とが覆い尽くす。

 

「――ッ!」

 

 常人である――というにはやや規格外だが――勝己も飯田も心操も、直視することもできずその衝撃に耐えるしかない。

 やがて光球の中心から、ふたつの影が地上へ墜落してきた。ガドルにアメイジングマイティ――どちらも倒れ込み、動かない。気絶してしまっているようだ。

 

 3人が固唾を呑んで見守る中、立ち上がったのは――

 

――ガドルだった。

 よろけながらも、彼はゆっくりとクウガへ迫っていく。

 

「そん、な……」

 

 飯田は思わずそう漏らしていた。新たな力であるアメイジングマイティでさえも、ガドルには敵わなかった?

 

「待て、」心操が声をあげる。「様子がおかしい」

 

 彼の言うとおりだった。突然ガドルが歩みを止め、腹を押さえて苦しみ出す。手の隙間からあふれる光は……飯田たちにとって、希望の象徴とも等しいもの。

 

――その光は、時間を置いて浮かび上がった封印の紋により放たれたものに違いなかった。しかも、ふたつ。

 さらに喜ばしいことに、目を覚ましたクウガがやおら立ち上がった。昼の戦いのときほどの致命的なダメージを、彼は受けていない。

 

「グ、グゥ……ッ、グ、オォォォ――ッ!」

 

 苦悶の声をあげ続けるガドル。古代文字から奔る亀裂がベルトのバックルへ到達した時点で、彼の運命は決していた。

 

 そして、爆炎が巻き起こる。烈しく拡大する灼熱は、勝己が放つそれにも劣らぬもので。

 至近距離で巻き込まれながらも、クウガは無事だった。己の手をじっと見下ろし、その変化を実感する。

 

(黒……)

 

 全身黒一色の――凄まじき戦士。それを思い起こさないといえば嘘になる。それでも緑谷出久の心は凪いでいた。この力は、仲間たちのおかげで得ることができたものだ。憎悪とは、対極にある。

 

「緑谷くん……」

 

 どこか不安を感じさせる面持ちで、こちらを見つめている飯田、心操。彼らを安心させるように、サムズアップをしてみせるクウガ。――大丈夫、

 

 そう伝えようとしたら、もうひとり……爆豪勝己が、いきなりアリーナを飛び出していった。

 

「!」

「爆豪くん!?」

 

 身体を引きずりながらも、全速力で。尋常でない様子を察したクウガ――出久もまた、すぐにあとを追いかけた。

 

 

 その先で目の当たりにしたのは、立ち尽くす彼の背中。

 

――そして床に倒れた、女性の姿。首と胴が綺麗に分かたれているその肉体に、彼女の魂は残されていない。ただ凄惨さを感じないのは、眠っているように安らかな表情を浮かべているからか。

 

「……ガリマ、」

 

 勝己はただ、彼女の名をつぶやくように呼んでいた。これから先、こたえが返ってくることは永遠にないのだとわかっていながら。

 

(……本当に、これで良かったンか)

 

 結局、夏目実加の演奏を聴けないままで。

 ただ、己の欲望を打ち捨てて勝己を先へ進ませたこの女はもう、邪悪なグロンギなどではないと思った。

 

「ガリマ……」

 

 もう一度、その名を呼ぶ。――と、視界の端に緑色の塊がちらついた。反射的にそちらに視線をやって……勝己は思わず、目を見開いていた。

 

 隣に立ち尽くす出久の大きな翠眼から、大粒の涙がこぼれている――いくつも、いくつも。

 

「……ンで、テメェが泣いてんだ」

「ッ、だって……っ」

 

「きみが……泣かないから……っ」

 

 それからはただ、出久は嗚咽を漏らすばかりだった。それだけのことが、勝己の心をざわめかせる。

 

「……そういうとこだわ」

 

 

 遅れて追いついてきた飯田と心操――彼らが見たふたりの青年の背中は、あまりに切なく、侘しかった。

 

 

 

 

 

 宵の帝都は、まぶしく輝いていた。

 

 クリスマスイブを祝い、華やぐ街並み。未確認生命体の脅威が潜んでいようとも、繰り返される人々の営みは変わることがない。

 

「――ガドルも殺された」

 

 それらを見下ろすラ・バルバ・デが、冷たくつぶやく。と、

 

「ならば我が、この世に"究極の闇"をもたらす……!」

 

 応える老人――グロンギの王。その姿が、狼の異形へと変わる。

 すべてを滅ぼす咆吼が響き渡るその瞬間が訪れるまで、この世界に猶予は残されていないのだった。

 

 

つづく

 

 

 




轟「街を覆い尽くす黒い霧。その中から現れる、倒したはずの無数のグロンギ」

轟「今度こそ、俺は戦う……。あいつらと一緒に……どんな敵とだって!」

EPISODE 47. 死を呼ぶ咆吼

轟「さらに向こうへ……プルス・ウルトラ!!」







???「ちょーっと待ったァ!!!」
轟「!?」
サモーン「オレの名はベ・サモーン・ギ!物語がクライマックスに向かっているところでナンだが、大晦日にはシャケを食え!!」
轟「なんだコイツ……っつーか大晦日に食うのは年越し蕎麦に決まってんだろ」
サモーン「愚かなリントめ!このオレ様が目覚めたからには貴様らに蕎麦は食わせねえ、ノーモアおソバ!イエスシャケ!!この世から蕎麦を消し去ってやるぅ~!!」
轟「……そんなことはさせねえ。蕎麦の素晴らしさ、俺がおまえに教えてやる!」

EPISODE 46.5 紅白頭はトラウトサーモンの夢を見るか?


サモーン「って、トラウトサーモンはシャケじゃねえ!サケ目サケ科サケ属であることは確かだが!!」
轟(マジか)


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