【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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10連休もあっという間に終わっちまいますな。

令和になってもう5日も経つというね。


EPISODE 48. HEROES 1/4

 

 

 "グロンギの王"が、遂に出久たちの前に姿を現した。

 

 狼の能力を得た屈強な肉体のあちこちを、黄金の鎧で覆ったその姿。宝石のように輝く翠眼が、相対する者たちを睨みすえている。

 

「おまえ、は……」

 

 圧倒的な威圧感を前に、出久たちはそれ以上のことばを発することができなかった。呼吸さえも詰めていなければ、そのまま押し潰されてしまいそうな錯覚があったのだ。

 悠然と歩を進めてきた狼の王は、ある程度距離を保ったまま足を止めた。そして、口を開く。

 

「我はン・ガミオ・ゼダ。グロンギの王にして、究極の闇をもたらす者」

「……!」

 

 幾度となく耳にしていたその称号に、一同は戦慄を露にするほかなかった。ということは、つまり――

 

「おまえが、第0号……!」

 

 九郎ヶ岳遺跡より最初に甦り……夏目教授をはじめとする、調査団の面々をひとり残らず惨殺した張本人。

 ずっと示唆的にばかり語られていた存在が、いま目の前に、その姿を晒している――

 

 第0号――ガミオはもう一度、幼児に語りかけるような口調で言い放った。

 

「我が究極の闇を妨げる者は、葬り去らねばならぬ」

「ッ!」

 

 宣戦布告。それ自体は予想しえたことではあったが、

 

「みんなをグロンギにしたのは、おまえの力だっていうのか……!?」

「そうだ」

 

「我が黒煙を吸い込んだ人間は死に至り……その遺骸は、我らと同じ存在となる」

 

 なんの躊躇もなく語られた真実は、一同の心に大いなる楔となって突き刺さる。――この人間だったグロンギたちはもう……死んでいる。

 

「やがてはすべてのリントがグロンギとなり……我が究極の闇が、もたらされるのだ」

「――ッ、」

 

「そんなこと……させるかぁあッ!!」

 

 鬼気迫る勢いで、ガミオへ飛びかかっていくクウガ。アギトは鷹野に対して勝己を病院へ運ぶよう言い含める程度の冷静さは残していたが、それでも即座に追随する猪突猛進ぶりは変わらない。

 

「うぉりゃぁああああッ!!」

「ワン・フォー・オール――KILAUEA SMAAAAASH!!」

 

 ライジングドラゴンロッドを振りかざすクウガと、炎を纏った拳を叩きつけようとするアギト。通常のグロンギであれば、一発で消し飛んでしまうような攻撃。

 そんなものが迫っているにもかかわらず、ガミオはなんの対策も講じようとはしない。ただそこに立ち尽くしている。ゆえに当然、ふたりの仮面ライダーの攻撃が炸裂する――

 

 そこまで、だった。

 

「……!?」

 

 ふたりは唖然とした。貫き、あるいは殴りつけたにもかかわらず……標的は微動だにしない。踏ん張っているような素振りも、微塵もなく――

 

「……フ、」

 

 ため息を吐き出すガミオ。刹那、彼の全身から黒い波動が放たれる。

 

「うぁッ!?」

「ぐッ!?」

 

 それは衝撃波のようなものだった。たちまち吹き飛ばされるふたりは、着地には成功しながらも激しい焦燥を覚えた。

 

「ッ、こいつ……」

「……ああ。いままでのグロンギの比じゃねえ」

 

 "グロンギの王"の称号は伊達ではない。この敵は、それこそ3人の仮面ライダーを相手取って一度は勝利した第46号――ゴ・ガドル・バすら遥かに凌ぐ実力を隠している。既に歴戦といえるだけの経験を積み重ねてきたふたりは、肌でそれを感じとっていた。

 一方、ガミオは突き刺さったロッドをあっさり引き抜き……握り潰していた。ぐしゃりと音をたて、粉々に破壊される。武器はいくらでも創れるといえど、その行為は敵に大いなるプレッシャーを与えるものだった。

 

「最早、どんな抵抗も無意味だ」

「ッ、ふざ、けるな……!」

 

 その返答に、再びガミオは溜息をついた。それは深い愁いすら、帯びたもので。

 

「……まだ、苦しみたいか」

 

 そして再び、黒い雷が落ちた。無数に降りそそいだそれらは爆炎を巻き起こし、ふたりの異形の身体を呑み込み喰らう。

 その光景を歓喜するでもなく見つめていたガミオだったが、ほどなくして炎の中から浮かぶシルエットを認めた。

 それは、赤の金――ライジングマイティフォームへと姿を変えたクウガだった。炎に染め抜かれたような真紅の鎧と瞳に、雷を表す黄金。それらすべてを、さらに大量の雷が覆い尽くす。

 

 そして、新たにその身を彩る漆黒。ゴ・ガドル・バを単身で打ち砕いたアメイジングマイティフォーム――切り札たる姿となって、ガミオへと迫る。"雷"を意味する古代文字が描かれた拳を握りしめ、突き出す――!

 

 刹那、

 

「ウォオオオ……!」

「――!」

 

 王を庇うようにふらふらと飛び出してきたのは、メ・ガドラ・ダに似たグロンギ。――人間、それも幼い子供だった、あの。

 

 その事実に思い至った瞬間、クウガの拳は止まっていた。グロンギの眼前、数センチというところで、ぶるぶると震えている。

 

「……ッ、」

「どうした、なぜ止める?」

 

「"それ"はとうに息絶えたリントだぞ」と、他人事のように言い放つガミオ。殴れないのは、このグロンギが自分たちを欺こうとしているかもしれないから。

 

 いや、違う。

 

 このグロンギの王が真実しか語っていないことは、頭のどこかで理解していた。攻撃を止めてしまったことに、なんら理屈もポリシーもあるものではなかった。

 それを察知したのか、ガミオは力なく首を振った。どうしてか、その所作には失望めいたものが垣間見えた。

 

「……やはり貴様らには、究極の闇を止める資格はないようだ」

 

 直後――ガドラの背後から、ズ・メビオ・ダが飛び出してきた。

 

「ガァアアアッ!!」

「!、ぐッ!?」

 

 鋭い爪の一撃が炸裂する。反応が遅れてまともに喰らってしまったものの、強化に強化を重ねた鎧は傷つかない。むしろ攻撃したメビオのほうが、自らの爪を傷つける結果となった。

 

「グァ……アァァァ……!」

 

 その痛々しいうめき声――それがまぎれもない"人間だったもの"の発する声なのだと思うと、それだけで胸がずきりと痛む。

 と、

 

「消えうせよ――クウガ」

「!!」

 

 突如として宙に浮かび上がったガミオが、己の肉体から発する闇の波動を掌に集めていく。凝縮したそれを弾丸のようにして――撃ち出した。

 

「が――」

 

 我に返って回避せんとしたときにはもう、弾丸が鎧にめり込んでいたのだ。気づけば彼は、そのまま後方へ弾き飛ばされていた。勢いは衰えることなく……背後に現れた氷山によって、ようやく静止することができた。

 

「ッ、痛……!」

「緑谷、大丈夫か!?」

 

 氷山をつくり出した張本人である、アギトが駆け寄ってくる。その気遣いに――鎧から白煙を発しながらも――うなずきつつ、

 

「大丈夫、だけど………」

 

 再び敵陣を見遣る。ン・ガミオ・ゼダと名乗ったグロンギの王に、仕える騎士のごとく両脇を固めるガドラ、メビオに似たグロンギ。彼ら以外にも、焦凍が"半冷"の個性で身動きを封じたグロンギたちも大量に残っている。

 そのほとんど……否、ガミオ以外すべてのグロンギに対して、自分は拳を振るえない。

 

(あいつを倒せれば……でも……)

 

 頭脳をフル回転させて考えるが、答は出ない。ガミオの発言が事実なら、倒したところでそれ以上の被害を食い止められるというだけ。――死んだ人間は戻ってこない。だったら結局、誰かがとどめを刺さなければならない。でも、理屈でなくそれを躊躇う自分がいて……。

 

「……緑谷、」

 

 友人の葛藤は、焦凍にも痛いほどよくわかる。ただ、理解はしても実際の精神状態は彼とはまた異なる。もし彼が戦えないというなら、自分が――

 

 しかし次の瞬間、ガミオの様子が変わった。突然口元を手で押さえたかと思うと、激しく咳き込みはじめたのだ。すぐに収まりはしたものの、これまでのグロンギにはみられない行動だった。

 

「……ジャザシ、ボンバロボバ」

 

 どこか諦念の混じった口調でそうつぶやくと、ガミオは改めてふたりの仮面ライダーに向き直る。

 本格的な攻撃を警戒するふたりだったが、彼が放ったことばは予想だにしないものだった。

 

「ジャラジが動いている」

「!」

「貴様らの友人が、危機に瀕しているようだ」

「なに……!?」

「どういう意味だ、それは!?」

 

 言うだけ言って、ガミオは質問に答えようとはしない。それどころか、その身からあの黒い霧を噴出しはじめた。

 

「!?」

「ッ、緑谷、離れろ!」

 

 巻かれてしまったら、自分たちといえどもどうなるかわからない。ゆえに距離をとろうとするのは当然だった。

 しかし今回のそれは、グロンギの数を増やすことを意図するものではなかった。その証拠に色濃い霧は当人や周囲のグロンギを覆い隠すのみにとどまり……彼らを、消し去ったのだ。

 

「消えた……!?」

「……逃げたんだろう。ッ、なんなんだ、あいつ……」

 

 禍々しい能力に、尋常でない風格。裏腹に、言動から悪辣さや残虐性は感じとれない。方向性はまったく異なるが、引退間近のオールマイトのような雰囲気を焦凍は感じていた。いつかの自分自身を、懸命に演じているような――

 

 一方で出久は、奴が最後に残したことばが気にかかっているらしかった。

 

「あいつの言ってたこと……どういう意味だと思う?」

「……前に死柄木が、42号のことを"ジャラジ"って呼んでた覚えがある。もし42号がまたなんかしてるっつーなら……」

「僕らの友人……――!」

 

 そこで、ようやく思い至った。――戦闘開始からそれなりの時間が経過したにもかかわらず、とうに出撃したはずの心操人使が現れる気配がない。

 

「まさか……!」

 

 すぐさまビートチェイサーに駆け寄る――と、まるで図ったかのように無線が鳴った。即座に受ける。

 

『本部、塚内だ。緑谷くん聞こえるか?』

「はいっ!ちょうどいま連絡しようと思ってたところなんです、心操くんのことで……」

『……そうか。こちらもその件で連絡した』

 

 どくり。心臓が嫌な音を立てるのが、自分でもわかった。

 

『……警視庁を発ったGトレーラーが第3号と思われる怪物に襲撃を受けた。心操くん……G3が、現在単独で交戦中だ』

「……!」

 

 

――G3を装着した心操人使はいま、G2ごと強化改造されたズ・ゴオマ・グを相手に孤独な戦いを強いられていた。

 

「グォアァァァァッ!!」

「ッ、く……!」

 

 翼を持ち、高速で空を飛び回ったかと思えば急降下して爪を振りかざしてくる。それを懸命に避けつつ、スコーピオンのトリガーを引き続ける。だが半分はかわされてしまい、もう半分は命中するもG2の堅固な装甲に弾かれてダメージが通らない。

 突破口があるとしたら他の武器――しかしどれも隙が大きく、完全に釘付けにしたうえでなければリスクが大きすぎる。心操は必死に頭を働かせた。どうすれば……どうすればこの戦いを生きて切り抜けることができる?

 

 

 *

 

 

 

 自ら"つくり出した"グロンギたちを率いて退却したガミオは、洞穴の暗がりに身を潜めていた。

 

「ウ……ゴホッ、ゴホッ!……カハッ!」

 

 敵前ではこらえていた咳が、より激しい形で繰り返される。口元を押さえた手の隙間から数滴、ルビーのような液体がこぼれ落ちた。

 

(やはりか……)

 

 その場に片膝をつき――人間の姿に戻る。グロンギといえど、やはり老いに抗うことはできない。屈強な肉体も、内側から蝕まれ、やがては朽ちていく。

 力――腕力に限らず、獲物を狩るための能力全般――を尊ぶ彼らグロンギ。ゆえにゲゲルのプレイヤーであることを許された者たちは皆、若く血気盛んな者たちだった。

 彼らの頂点に立つ王が自分のような老人とは、笑い話にもならない。

 

 自分がそんな矛盾を孕んだ存在と化してしまった理由は、ただひとつ。

 

(ダグバ……)

 

 真なるグロンギの王――ガミオの、たったひとりの息子。

 

 ガミオは静かに目を閉じた。再び、過去の記憶が甦ってくる。

 

 

 グロンギという種族が、力を尊びながらもただの人間であった頃。まだ若かったガミオは族長として、名実ともに彼らを統率していた。周囲の反対を押しきり、友人であるザジオを右腕として。

 いまにして思えば、それはぬるま湯のような日々だった。わずかな不安や違和感など溶かし呑み込んでしまうような、血生臭くとも穏やかな時が続いていた。あのまま友とともに何事もなく年老い、死んでいけたのなら、どんなにか幸福だったろう。

 

 しかし、運命の日が訪れた。――彼らの集落のはずれに、隕石が墜ちてきたのだ。

 不幸なことに、そこは子供たちの遊び場でもあった。

 

『ダグバ……!』

 

 大地を抉ったような巨大なクレーターの前に立ち尽くし、呆然と我が子の名を呼ぶ青年のガミオ。周辺に子供たちの姿はなく、もうもうと立ち込める土煙の底で物言わぬ骸となっていることは否が応なく確信せざるをえない。

 

 半身を喪った肉体が悲嘆の慟哭をあげようとしたとき、不意に土煙が晴れた。

 

『――!』

 

 そして彼は、見た。砕けた隕石と原型をとどめぬ死屍累々の中心に、ひとりの少年が立っているのを。

 

『ダグバ……なのか……?』

 

 それは確かに、最愛の我が子の姿だった。服があちこち破け、露になった素肌は血にまみれている。他の子供たちと同じく隕石の餌食になったとおぼしき姿。にもかかわらず、彼は生きていた。――そしてその幼い顔立ちに、天使のような笑みを貼りつけて、父を見上げている。

 息子の生存を喜ぶ気持ちはあった。ただそれ以上に、何か取り返しのつかないことが起きたあとのような喪失感があった。

 

――そう。すべてはこの瞬間に終わり、始まった。

 

 最愛の息子(ダグバ)が魔石に魅入られ、異形の怪物となった、この瞬間に――

 

 

 




キャラクター紹介・リント編 バギンググシギドドググ

死柄木 弔/Tomura Shigaraki

個性:崩壊
年齢:25歳
身長:175cm
個性詳細:
5本の指で触れたものを粉々に崩すという恐ろしい能力だ!しかも本人の意志に関係なく発動するというオマケ付き!彼が人間に触れればどうなるか……その先は言うまでもあるまい。
備考:
かつて社会を震撼させた犯罪者集団、"敵連合"のリーダー格だった青年。真の首魁であるAFOからは後継者と目されていた。その正体は"志村転弧"、オールマイトこと八木俊典の先代OFA保持者、志村菜奈の孫である。
敵連合の崩壊に際してなんらかの理由から記憶喪失・幼児退行を起こしており、警察病院の奥深くで"幸せに"暮らしていた。訪ねてきた宿敵、轟焦凍を認識できないどころか、かつてあれほど憎悪していたオールマイトのビデオを見て喜ぶほど人格が壊れてしまっていた。
しかし彼と向き合おうと決意した焦凍が訪ったその日に、ラ・バルバ・デによって拉致され、身体に魔石ゲブロンを埋め込まれてグロンギと化した。その後の彼は、グロンギたちから"ダグバ"と呼ばれるようになる。ン・ガミオ・ゼダの息子である"ダグバ"との関係は不明。

作者所感:
なんかもうネタバレ云々言わずともラスボス丸出しですが、当初は出す予定じゃなかったという後付け兄さん。やっぱりヒロアカである以上は出さなきゃと思ったのと、個人的にどうしてか"白"のイメージがあったので、第0号はガミオにしてこちらをダグバにしようかと。ミラージュアギトとして第三勢力にする案も考えてました。
デクのヴィラン堕ちと対照的に、何かが違っていればヒーロー側にいたんだろうなと思うと……。

ダグバになってからの解説は(リントじゃなくなってるので)最終話に持ち越す予定です。

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