【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
再び群がる、グロンギたち。
ふたりの仮面ライダーは背中合わせに、かの怪物たちに立ち向かう──己の信ずるもののために。
「………」
ガミオは沈黙のままに、その光景を見下ろしていた。ヒーロー─―グロンギは言うまでもなく、リントにすらかつては存在しなかった者。そして他者のためにヒーローであり続けるとは、一体どういう意味なのか。
思考に囚われつつあるガミオだったが、今さら使命を放棄することはできなかった。この世に究極の闇をもたらす──そのためだけに、自分は存在しているのだ。
意見を一致させたこの幼なじみコンビを相手にしては、何を言っても勝てないことを焦凍は悟った。元々自分は、説得が巧いほうではまったくないのだ。
ならば、
「一刻も早く、テメェを倒すッ!!」
ワン・フォー・オールを発動させると同時に、宙めがけて跳躍する。当然ガミオは迎撃するが、アギトは巧みにビルの壁面と壁面を行き来してかわしつつ、距離を詰めていく。
「………」
その程度のことで狼狽えるガミオではない。迫ってくるアギトだけでなく、横からクウガが攻撃してくるか否かにも気を配ってはいる。
──しかし彼は、第三の攻撃者が現れることまでは予想しえなかった。無論、グロンギたちを引き付けている勝己のことではない。
到来に気づいたのは、その"羽音"がすぐ背後で響いたときだった。
「!、──ヌゥッ!?」
振り向くと同時に、彼の身体は巨大な牙によって挟み込まれていた。──"馬の鎧となる僕"、ゴウラムだ。
「ぐ、お、おのれ……!」
抵抗を試みるガミオ。しかし全身を硬質な外骨格で覆ったゴウラムは、一発や二発の攻撃ではびくともしない。
ただ、相手がグロンギの王である以上、限界があるのは確か。ゆえにアギトは、一気に距離を詰めた。
「KILAUEA──」
「──McKINLEY SMAAAAASH!!」
炎と氷を纏った両拳を、ガミオにぶつける。同時にゴウラムの牙は開放され、彼の身体は衝撃のままに墜落する。眼下には、構えるクウガの姿。
「ボン、デギゾゼ……!」
グロンギの王が、敗北するわけにはいかない。自尊心とも異なる焦燥が、ガミオの老いた肉体に熱を与えた。
刹那、奇怪なことが起こった。
地上にひしめくグロンギたちが突如として苦しみ出す。彼らと戦う勝己、飯田らが何事かと思ったのも束の間……彼らの肉体は崩壊し、黒煙へと変わってしまった。
発生した膨大な黒煙が、ガミオの身体へと吸収されていく。
「な……!?」
「──ウォオオオオオオン!!」
遠吼え。同時に発せられる衝撃波。渾身の回し蹴りを放とうとしていたクウガは、態勢を崩して吹き飛ばされてしまった。
「ぐあぁっ!?」
「緑谷!」
「デクッ!」
アギトと勝己が駆け寄ってくる。彼らの手を借りるまでもなく立ち上がるクウガだったが、その赤い複眼はガミオに釘付けになっていた。
「あいつ、他のグロンギを吸収した……」
「決着をつけようってわけか」
「………」
吸収しきれていない黒煙を身体中から噴出させながら、ガミオは唸り声をあげ続ける。焦凍の言うとおり、確かに彼はこれ以上戦闘を続けるつもりはなかった。クウガを、アギトを倒し、究極の闇を必ず──
「力を合わせよう、僕ら3人の。──そうすれば、絶対に勝てる!」
「……ああ!」
「チッ……やったらぁ!」
腰を落とし、キックの構えをとるクウガとアギト。クウガの両足に灼熱が宿り、アギトに至っては足下に巨大な紋様が現れ、彼の肉体に吸収されていく。
唯一ヒトの姿を保った勝己は、両手から小規模な爆破を繰り返す。自分が直接攻撃を仕掛けても、おそらくガミオには通用しない。だが、この方法なら。
「ウォオオオオオオオッ!!」
もう一度咆吼をあげて、浮遊しながら襲いくるガミオ。クウガとアギトが跳躍したのも、同時だった。
そして、
「オラァアアアッ!!」
勝己の爆破が、ふたりの仮面ライダーの背中にぶつけられる。爆風がふたりを加速させ、一気呵成に標的へと向かわせる。味方に攻撃するような手法に
突撃するガミオは面食らう。それが彼の運命を決定付けた。
「うぉりゃあぁぁぁぁッ!!」
「ハァ──ッ!!」
莫大なエネルギーを放つWキックが、ガミオと激突する。通常のグロンギならば即座に粉砕されかねない一撃、しかしグロンギの王のパワーは拮抗していた。黒煙が全身から噴き出し、捨て身となってでもガミオを前進させようとする。それは大義でも理想でもなく、矜持ですらない──背負うものがゆえの、意地の張り合いでしかなかった。
「究極の闇は……必ず……!」
「──止める……!」
「俺たちの世界を、好きにはさせねえッ!」
一歩も引かない、力と力。ゆえにその均衡は、些細な要素ひとつで破られる。
「とっとと、」
「死にさらせやァアッ!!」
忍耐の限界に達した勝己が、怒声とともに二度目の爆破を放つ──当然のごとく、クウガとアギトの背に。
想定外の一撃は彼らを驚かせたが、同時にその勢力を一瞬とはいえ増大させた。
そして──ガミオは、競り負けた。
「グアァァァッ!?」
Wライダーのキックが胴体に炸裂し、敢えなく地面に叩きつけられる。同時に、着地を遂げるWライダー。足下ばかりでなく背中からも白煙が上がっているのは、二度も爆破を受けた以上は致し方ないことか。
肉体には大きな負担がかかったとはいえ、それ以上の喜びが心中に渦巻いていた。──第0号に、究極の闇をもたらす者に……打ち勝った。
しかし、
「ヌ、グウゥゥ……ッ」
「!」
痛々しいうめき声をあげながら、立ち上がるガミオ。アメイジングマイティキックによって生じたふたつの古代文字が、やおらかき消えていく。
駄目だったのか──そう悲観しかけたのもつかの間、ガミオがごぼりと吐血した。そして屈強な狼の姿が縮んでいき、老人の姿が露になる。
「……よく、わかった。ヒーローとは、こういうものか」
ガミオのことばは、およそ多くのグロンギとはかけ離れたものだった。
「究極の闇は、これまでだ」
「!」
「……よくぞ我を破ったな、リントのヒーローたちよ」
老人の姿が、黒煙に包まれていく。「待て!」とアギトが声をあげかけたときにはもう、その姿は完全に隠されてしまっていた。
「ッ、あいつ、言うだけ言って逃げやがった……」
「……でも多分、もう長くはないと思う」
爆散こそしなかったものの、老いた肉体には致命的なダメージを受けたのだろう。己の死期を悟ったかのような響きが、彼の残したことばにはあった。究極の闇はこれまでというのも、嘘ではないと感じた。
ふたりは今度こそ自らの意志で変身を解いた。そして、振り向く。そこには間違いなく、爆豪勝己の姿があった。
「………」
彼らの間に、ことばはいらない。来ると信じていたのではない、彼が来ないことなどありえないと出久は思っていた。無理はしないでほしいという気持ちと、それはまた別のところにある。
「かっちゃ──」
万感を込めて、呼びかけようとしたときだった。
「皆ぁーーー!!」
「!」
空気を震わせるほどの呼び声。それほどの声量の持ち主といえばやはり、この場には飯田天哉しかいない。
彼も、そして森塚たちも皆、勝己の……否、ここにいる全員の生還を喜んでいた。失ったもの、守れなかったものはその比でないくらいたくさんあることもわかっている。
けれどいまは、いまだけは、こぼれる笑顔を抑えずにいよう──この戦いを乗り越えた、証として。
*
姿を消したン・ガミオ・ゼダは、山中奥深くに足を踏み入れていた。
「……ッ、うぐ、」
傷ついた身体は鉛のように重く、一歩、一歩と進むたび臓腑のはたらきが弱まっていくのがわかる。もはや自分の命も、あとわずか。であればふさわしき者に"王の証"を継承しなければならない、それが掟だった。
しかしガミオは、王の証を懐いたまま再び眠りにつくつもりでいた。ヒーローを名乗る彼らに思い知らされた、何もあきらめる必要などなかったのだと。もっと早くに気づいていれば、大勢のリントの命を……親友の命を奪うことはなかっただろう。
(究極の闇は、もう二度と──)
それだけが、唯一自分にできる償い。そして血塗られたグロンギの歴史は、ここで幕を閉じる──
「……だめだよ」
「──!」
静かな声と、それに反したおぞましい殺気。感覚が鈍っていたために、気づくのが遅れた。
──振り向いたガミオの身体を、白い手が貫いていた。
「……ダグ、バ……」
「………」
目の前の純白の異形は、とうに喪った我が子の面影を残していた。その正体が現代のリントであり、ヴィランの王だった青年であることはもちろん知っている。
青年──死柄木弔の個性である"崩壊"が、体内で作用する。老いた内臓が跡形もなく腐食し朽ちていくのが、感覚としてわかる。不思議と痛みはなかった。
とどめを刺すことまではせず、"ダグバ"は手を引き抜いた。その掌に、光り輝く勾玉のような物体が乗せられている。いまこの瞬間、新たなグロンギの王が決したも同然だった。
(ボセログン、レギバ)
"ダグバ"が王に復する──それを止める力は、自分にはもう残っていない。地べたに倒れ込み、遠のく意識のなかで……ガミオはただ、かの青年たちのことを思った。
(リントよ……闇は、晴れる──)
*
老人に引導を渡した弔は、暫しその場に佇んでいた。勾玉の輝きをじっと見下ろしていると、封じられていた最後の扉が開いていくような、そんな錯覚を起こす。──ふと、笑みがこぼれる。
彼の背後に、純白のスーツを纏ったラ・バルバ・デが姿を現した。
「次は、おまえだ」
いつか聞いたことばを背に……弔はついに、"王の証"を身体に突き入れた。
──響く、絶叫。それすらかき消す雷雨が、降りしきろうとしていた。
つづく
「緑谷少年、きみは――」
EPISODE 49. ワン・フォー・オール
「――に、なったんだね」