【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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あれ?1話飛ばした?

そう感じるような展開もまた原作リスペクトでやんす。


EPISODE 49. ワン・フォー・オール 1/3

 

 降りしきる雨の中で、劫火が燃えさかっている。

 

 炎は街を包み込み、有機物無機物とを問わず崩壊させていく。──人間も、また。

 

 "彼"はそれを見ていた。ただ見ていることしかできなかった。己も炎に巻かれ、次第に意識が遠のいていく。誰も救えない、無力感とともに。

 

 

『──緑谷、少年』

 

 懐かしい、声だった。

 

 

 *

 

 

 

 緑谷引子はガラス越しに外界を見つめていた。未だ降り続ける滝のような雨。見慣れた風景であるはずなのに、まるで別世界のような気さえする。住み慣れたこの団地の一室は、切り離されて存在しているかのようだった。

 

 視線を戻せば、薄い板に映し出されたブルーバックに複数の名前が表示され、淡々とした男性の声が後れてそれらを読み上げていく。離れて暮らしている最愛の息子の名がそこにあったらと思うと、この数日は生きた心地さえしなかった。

 しかし、

 

「!」

 

 鳴り響いたチャイム。我に返った引子は、一も二もなく駆け出した。家の中とはいえ走るのなんて久方ぶりのことで、時折足がもつれてしまう。年月とともに蓄えてしまった脂肪が、いまは恨めしく思われた。

 

 永遠とも感じる数秒のうちに、玄関へとたどり着く。手間取りながらも鍵を開け、扉を──

 

 

──そこには、待ち望んだ青年の姿があった。

 

「出久……!」

「………」

 

「──ただいま、母さん」

 

 ずぶ濡れの姿で、出久は笑った。

 

 

──それから、四半刻ほどして。

 

「ごめんね母さん。久しぶりに帰ってきて、いきなりお風呂もらっちゃって」

 

 頭からほかほかと湯気をたてながら、リビングに現れた出久。こんな真冬の大雨に打たれながら、東京からこの折寺までバイクで帰ってきた──久しぶりに会った息子の破天荒ぶりは、母に大きな衝撃を与えるに至ったらしかった。風邪引いちゃうから、とにかく温まりなさいと浴室に押し込まれ、素直に従うことにした。胸がくすぐったくなるような、懐かしい感覚がここにはあった。

 

「お礼なんて言わなくていいんだよ!ここは出久の家なんだから」

「!、……そうだね」

 

 先ほど覗いてきた、自室。上京してからは数えるほどしか使ってこなかったけれど、いつも掃除が行き届いていて、埃ひとつない。

 母はいつだって、そうやって自分の帰りを待ってくれている。わかっている、わかっているけれど──

 

『死者・行方不明者は、合わせて3万人に達しており──』

「………」

 

 あまりに現実離れした数字が、淡々とした口調で語られる。テレビの前に立ち尽くしたまま、出久はそっと拳を握りしめた。右手に走る傷痕が、じくりと膿んだように痛む。

 

「出久?」

「!」

 

 気づけば、マグカップを持った母が気遣わしげにこちらを見つめていた。慌ててソファに腰掛け、へらりと笑みを浮かべてみせる。

 

「ごめん、ちょっと見入っちゃって……──それ、ココア?」

「うん。コーヒーのほうがよかった?」

「大丈夫だよ、ありがとう」

 

 マグカップを置くとともに、引子もまた傍らに腰を下ろした。その視線が一瞬テレビを捉え……すぐに、外される。

 

「……なんだか、大変なことになっちゃったね」

「……うん」

 

 他人事のような響きをもったつぶやきだったが、そうではなかった。ただ母のような平凡な主婦が把握するには、大きすぎる事態。あるいは平凡な学生のままだったら、自分もそうだったかもしれないと出久は思った。

 

「母さん」

「なに?」

「電話……なかなか出られなくて、ごめん」

「………」

 

 表情が、翳る。数日間に渡って履歴を埋め尽くした母からの着信。出られなかったのには明確な理由があるのだけれども、それを伝えるわけにはいかない。ゆえにただ、謝ることしかできない。

 ややあって、母は困ったような笑みを浮かべた。

 

「もう……お母さん、一睡もできなかったよ」

「……ごめん、本当に」

 

 ふ、と、自嘲めいた笑みが漏れる。

 

「僕、心配かけてばっかりだね……昔から」

「出久……」

「多分これからも、色々なことで心配かけちゃうと思う。……それでも、いいかな?僕を、子供でいさせてくれる?」

 

 それは、縋るような問いかけだった。いつの間にか息子は青年となり、己の庇護するところではなくなったものだと思っていた。しかし、いま自分を射抜く瞳は、ヒーローごっこでいつも颯爽と救けに現れてくれたあの幼い面影をそのまま残している。

 引子はそっと、出久の頬に手を伸ばした。

 

「出久。お母さん、謝ってばかりで……もしかしたらあなたに、勘違いさせてしまってたかもしれない。あなたの母親は幸せじゃないって……そう思ったこと、あるでしょう」

「!、………」

 

 図星だった。流石にいまはほとんどなくなったけれど、無個性が判明してから──母がただ謝り続けたあの日から、ずっと頭の片隅に燻り続けていた思い。

 

──自分がいないほうが、母は幸せだったのではないか。

 

「そんなふうに思わせて……お母さん、ダメな母親だね」

「そんなこと──」

「ううん。でもね、これだけは自信をもって言えるの」

 

「私、あなたのお母さんになれて、よかった」

「!」

 

 その気持ちをいままで、息子にきちんと伝えてあげられなかった。けれど一度たりとも揺らいだことのない気持ちであることを、引子ははっきりと示したのだった。

 

「……ありがとう、お母さん」

 

 目に涙を浮かべて、出久は母の抱擁を受け入れた。こんなふうに抱き締められるのは、何年ぶりのことだろう。少なくともこれ以上、問いへの答を求める必要はなかった。

 

 

 そして出久は、最愛の母にフェアウェル(さよなら)を告げる覚悟を固めた。

 

「……僕、そろそろ行かなきゃ」

「!、東京に……戻るの?」

「うん、やらなきゃいけないことがあるんだ」

 

 母の視線が、所在なく虚空をさまよった。

 

「それは……あなたがやらなきゃ、ダメなことなの?」

「………」

 

 一瞬の躊躇のあと、

 

「うん。──みんなが、僕を待ってる」

 

 仲間たちの顔が、次々に浮かぶ。最後に、鋭い赤目の幼なじみの姿。

 

「出久、………」

 

 暫し逡巡を繰り返した引子は──やはり、出久の母親だった。

 

「勝己くんと、仲良くね」

「!」

 

 目を丸くした出久は、ややあって微笑みながらうなずいた。そして踵を返し、部屋を出ていく。玄関まで送ってやることは……できそうもなかった。

 

 やはり自分は、だめな母親だ。けれどそれでも、出久のたったひとりの母親。

 大雨に打たれながらバイクで走り去っていく息子を、己を叱咤して窓越しに見送る。長らく触れていなかったその身体は硬く、逞しいものとなっていた。それに、右手の傷痕。

 

 無機質な液晶ディスプレイに、未確認生命体第4号──クウガの姿が、いかめしく映し出されていた。

 

 

 *

 

 

 

 捜査会議の場は、静寂に包まれていた。

 いつもは厳粛ながらも侃々諤々としたやりとりがかわされているけれど……いま起きている事態を前にしては、彼らのもつ活気が鳴りを潜めるのも無理はない。

 

 そんな状況を打開すべく、長である面構犬嗣が口を開く。

 

「X号検知システムの進行状況は、どうなっている?」

「──はい、」

 

 その問いに応じたのは、No.2である塚内管理官だった。

 

「気象庁による支援体制を強化してもらったおかげで、予定より2時間早い午後7時に完成を見込んでいます」

「いよいよ、奴に遅れをとらずに済むということか」

 

 エンデヴァ──―轟炎司がつぶやく。もう自身は戦える身体でないとはいえ、チームとしても何もできないのは忸怩たる思いがあった。まして、

 

──親父……ごめん。

 

「……ッ、」

 

 拳を震わせる炎司を気遣わしげに見つつも、面構は本部長として続けた。

 

「だがそれまでは、X号がいつどこに現れるかわからない。皆、くれぐれも油断せず情報収集に努めてほしいワン」

 

「いま戦えるのは……ここにいる皆だけだからな」

「………」

 

 そのことばを、当然のものとして受けとる一同。"X号"と戦った、ふたりの仮面ライダーがどうなったか。

 

──かっちゃん。

 

 

──僕、決めたよ。

 

 幼なじみのことばを、爆豪勝己は思い出していた。彼が何をするつもりでいるのか──"それ"をしなければ、すべては終わらないであろうこともわかっている。

 

 だが、終わらせるための足掻きをやめるつもりはなかった。

 出久ひとりに、背負わせない。ここにいる全員、同じ思いで立ち上がった。

 

 

 *

 

 

 

 同時刻、関東医大病院。

 

 その一室で、ひとりの青年が目を覚まそうとしていた。

 固く閉じられた瞳がやおら見開かれ、左右種類の異なる宝石のようなオッドアイが露になる。

 

(ここ、は)

 

「目ぇ覚ましたか、焦凍」

「!」

 

 傍らに立つ小柄な老人。もうひとり、すらりと背の高い逆立った紫髪の青年。首に巻いたサポーターの意味を知っていれば、痛々しい思いに駆られるのは避けられない。

 

「……グラントリノ、心操」

「ついさっきまでおまえの家族が見舞いに来とったぞ。ったくおまえ、あんな美人なおふくろさんと姉ちゃんを泣かせおって」

「泣いて、たんですか……」

「たりめーだろう、末っ子がこんなことになっちまったんだ」

 

 それもそうか、と焦凍は思った。母も姉も、ふつうの女性なのだ。本来ならば戦いなどとはかかわりないところで、穏やかに生きているべき。

 

 暫しぼうっと天井を見上げたあと、焦凍は再び口を開いた。

 

「緑谷……あいつは、どうなりましたか」

「……おまえって奴ぁ、いきなり他人のことか」

 

 グラントリノは思わずため息をついた。呆れる気持ちは当然あるとして、実は出久がいまどうしているかは詳しく知らないのだ。家族が見舞いに来ていたというつい先ほど、ここにまっすぐ駆けつけてきたばかりだからなのだが、はにかみ屋な性質のためそれを伝えるのは憚られる。

 老人はちら、と隣の青年を見た。その視線の意味を察して引き継ごうとした心操だったが……そこで思い直した。自分はもう、声が出せないのだ。

 すると、グラントリノが所在なさげに言った。

 

「手話覚えとんのだろ。俺もわかるから、翻訳してやる」

「!、………」

 

 確かに以前ボランティアに参加した際に学習したのだが、なぜそんなことをこの老人が知っているのか。一瞬疑問に思った心操だったが、そういえば焦凍に雑談の中で話したことがあるのを思い出した。そこから伝わったのだろう。

 小さくうなずいた心操は、おずおずと手を動かしはじめた。

 

「フム……"緑谷はもう退院した。皆のところを、回るつもりらしい"」

「皆のところを……そうか」

 

 その意味するところを、焦凍は悟っていた。逆の立場だったら、自分も同じことをしていただろう。

 同時に、自分が出久にしたことを思う。自分の身体を思えば、ああするより他になかった。それで出久を救うこともできた……肉体的には。しかしそのために、彼はひとりででも行こうとしている。

 

(頼む、あいつをひとりにしないでくれ。皆、爆豪……)

 

(──オール、マイト)

 

 自分には……少なくとも今しばらく、それができなくなってしまった。

 立ち上がり、彼のもとへ走ることはできる。でも、それだけだ。拳を振るうことは、もうできない。

 

 

──両肘から先を、彼は失っていた。

 

 

 *

 

 

 

 マグカップに描かれたオールマイトが、ガラスの向こうで燦然と笑っている。

 

 土砂降りの雨音を背後に聴きながら、沢渡桜子はそれを複雑な表情で見つめていた。想うのは、これを愛用している青年のこと。

 

「………」

 

 踵を返し、自身のデスクに座る。ディスプレイに表示された、古代文字の羅列。最初に解読を行ってから、幾度となく見返してきた──"凄まじき戦士"に、まつわる碑文。

 それを凝視しながらキーボードを叩いていると、長身の白人男性が入室してきた。

 

「Bonjour!」

「おはようございます、ジャン先生」

 

 どんなときでも陽気なジャン・ミッシェル・ソレルの挨拶。いまこの研究室にいるのは自分たちふたりだけなので、尚更雰囲気が明るくなったような気がする。

 

 再びデスクトップに意識を戻して作業を続けていると、

 

「桜子サン、」

「はい?」

「緑谷クンに……最近、会いマシタ?」

「……どうしてですか?」

 

 コーヒーを淹れて、ジャンは椅子に腰掛けた。

 

「未確認にやられタ傷、酷いのカナって思っテ」

「………」

 

 殺戮を繰り返すダグバ──死柄木弔に対し、果敢に戦いを挑んだ出久と焦凍。後者は両腕を失った。前者は取り返しのつかない身体の損壊こそなかったが、それゆえに──

 

「傷はもう、大丈夫だと思います。ただ……X号を止める方法をずっと考えてて、多分、答を出してる頃じゃないかな」

「コタエ?」

「はい。──"凄まじき戦士"に、なるっていう」

「!?」ジャンが驚愕を露にする。「でも、それっテ……」

 

 なってはいけない姿のはずじゃないか。ジャンの疑問は尤もだった。

 桜子も、最初はそう思った。しかし出久は、もう──

 

「………」

 

 

 雨は未だ、止む気配がない。

 

 

 *

 

 

 

 人気のない道を、青年が傘も差さずに歩いていた。目元まで垂れた白髪に、服の上からでもわかる痩せた身体──ふらふらと、幽鬼のような足取り。まるでこの世のものではないかのようなその姿とは裏腹に、彼は既に万単位の人命を奪っていた。

 

 彼が何者であるかを知っていながら、進路に立つ女の姿があった。

 

「楽しんでいるようだな、ダグバ」

「………」

「いや……記憶を取り戻したのだ、死柄木弔と呼ばれたいか?」

 

 かつてのグロンギの王──ン・ダグバ・ゼバの名を継いだ、死柄木弔。彼はぎょろりとした赤い瞳を歪めて、目の前のラ・バルバ・デを睨みつけた。

 

「記憶なんてどうでもいい……。俺は俺であって、何者でもない」

 

「何もかも、壊すだけだ──あんたも」

 

 弔の手が伸びようとする。その指先が首筋に触れようかという瞬間、バルバの姿は花びらと化していた。

 

「!」

「それでいい。この世のすべては、おまえの望みのままに」

 

 いつの間にか、バルバは背後に回っていた。殺意を向けられてなお、彼女は妖艶な笑みを浮かべている。

 

「だがおまえは、クウガもアギトも殺さなかった」

「………」

「クウガはもうすぐ、おまえを殺しに来るかもしれない」

 

 バルバの脳裏に、超古代の戦いの記憶が甦る。かつてのクウガは殺すことを知らず、グロンギを次々に封印し続けた。だが、唯一の例外が存在して──

 

「そうしたら、そのとき殺してやるよ」

 

 心底愉しそうな声で、弔はそう宣言した。

 

「来ないなら、最後に殺す。……どっちでもいいんだ、俺は」

 

 そしてその果てに、世界は滅びる。そうすれば、あの完全無欠の英雄面した男の魂もようやく消え失せるのだ。

 甘い陶酔に、弔は身を震わせた。

 

 

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギングドググドゲヅン

コンドル種怪人 ラ・ドルド・グ/未確認生命体第47号

「ラブパラザ、ゴギデギバギ(幕はまだ、降りていない)」

身長:213cm
体重:188kg
能力(武器):トンファー・神経毒の仕込まれた羽根

行動記録:
ゲゲルの管理者としての役割を負う"ラ"の称号をもつグロンギ。ゴ集団の行う"ゲリザギバス・ゲゲル"に付き従い、算盤"バグンダダ"で殺害数を計測してきた。
一方でラ・バルバ・デの進める計画に賛同し、轟焦凍のアギト完全覚醒直後、彼の滞在していたあかつき村近くの病院を襲撃するなど、初期は実働役もこなしていた。
冷静かつ理知的な性格であり、グロンギにしては好戦的ではないが、いざ戦闘となればゴ集団最強のゴ・ガドル・バとすら互角に戦うほどの実力を垣間見せる。また、神経毒の含まれた羽根を乱舞させる戦法も得意とした。
常に悠然と振る舞いながら暗躍を続けていたドルドだったが、ガドルのゲゲルの際にヒーロー・爆心地=爆豪勝己の不意打ちによりバグンダダを破壊されるという失態を犯す。その償いのためガドルと繰り広げることになった死闘では、羽根による撹乱が通用しないとみるやトンファーを武器として上述のような戦いぶりを見せつけるが、動きを見切られ片翼を毟られてしまう。不利を悟って逃げ出した彼に引導を渡したのはガドルではなく、まったく眼中になかったいち刑事たちだった。"真なる究極の闇を見届ける"という望みに執着しながら、彼は神経断裂弾によって内臓をずたずたに破壊されて死を遂げたのだった。

作者所感:
モモタ…ラウ・ル・クルーゼをモデルにしました。言動もそうですし、飛び交う羽根は完全にプロヴィデンスのドラグーンだし……。
ジャラジもそうですが、こういうなんでも自分の掌の上と思っている手合いにはまったくの誤算な結末を迎えさせたいんですね。ドルドの場合、ライダーやガドルにやられるならまだ予想の範疇にはあったでしょうが、まさか一般刑事に射殺されるとは夢にも思ってなかったでしょうし。
素顔はイケメン。きっとイケメン。

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