【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
全然関係ないですが、最近幻想水滸伝シリーズをプレイ中なので面構署長がアツイです。あふれるコボルト感……でも常闇くんを見る限り首から下は普通のおじさんなんだろうか?
鮮血が、滴り落ちる。
その脚力で追跡から逃げおおせた豹の未確認生命体は、薄暗い地下道に身を潜めていた。壁に背をつけて座り込み、しきりに唸り声をあげている。
ズ・メビオ・ダにとり、返り血を浴びることはあれ、自らが血を流すのは久方ぶりの経験であった。まして、瞳という重大な器官に風穴を開けられたことなど、初めてのこと。
「ガンリント、ゾロ……ババサズ、ジビガギデジャス……!」
ぼたぼたと垂れてコンクリートを汚す血と、その中心に居座る弾丸。それを何度も踏みつけ、粉々にすると、彼女は夜空に向かって獣の咆哮をあげた。
*
良いやつだったな、と、切島鋭児郎は出久のことを評価していた。
話が弾んでしまったこともあり、中途半端なところで降ろすよりはと彼は出久をアルバイト先の喫茶店近くまで送っていった。ヒーローをタクシー代わりにするなんてと恐縮しきりだった彼はいかにも小市民的だったが、ただ温和なだけでないことは"みんなの笑顔を守りたい"ということばから十分に伝わってきた。あれは決してでまかせではないと、切島は思った。
(さて、と)
事務所に戻ると、眉を吊り上げた相棒が地下駐車場で待ち受けていた。ここに来るまでに連絡をとった結果の産物なので驚きはないが、苦笑しつつ駐めた車から降りる。
「わり、待たせた」
「……ああ、散々待ったぜ。電話で話しゃあいいものを、勿体ぶりやがってこの野郎……」
ここに戻るまでに切島は勝己に連絡し、4号を保護した旨を伝えたのだ。当然、勝己は物凄い剣幕で説明を求めてきたのだが、
「悪かったって……電話だと、万一盗聴でもされてたらマズいだろ?」
詳細をやりとりすれば、"4号=緑谷出久"にも触れざるをえない。それが外部に漏れることは、彼のためにも絶対に避けなければならないと思った。
実際、勝己も頭では理解しているのだろう。それ以上は食ってかかってこない。
その代わりに、絞り出すような低い声で切り出した。
「……見たんか、あいつの正体」
「……見たよ。――緑谷出久、オメーの幼なじみなんだってな」
予想はできていたのだろう、勝己は驚くことなく、ただ渋面をつくって目を伏せただけだった。
「正直さ、妙だとは思ってたんだ。2号と4号の話題が出たときのオメーの態度」
何度も自分たちを救っているから――ただそれだけではないように、切島は当初から感じていた。
それに、
「オメー、昼間俺が電話で2号と4号のことどう思ってるか訊いたとき、言ってたろ」
――証明できなきゃ覆しようもねえ、アレが奴らと同じ害獣だって評価はな。
「……それがなんだってんだ?」
「俺、二匹いる前提で話してたんだぜ。同一個体説も出てたとはいえ……オメー、確信もって"アレ"っつってたろ?だから、2号と4号が同じヤツだって知ってる……つまり、変身する前の姿を知ってるんじゃないかって、そう思った」
「それが同い年の学生で、オメーの幼なじみだとは思わなかったけどな」と続けて、切島は苦笑した。この男は馬鹿ではないと、勝己は改めて認めざるをえなかった。
「そのこと、他には」
「あ?ああ、もちろん話してねえし、話すつもりもねえよ。このことは胸にしまっとく……ああでも、現場で会ったりしたら、あいつが警察とか他のヒーローから攻撃されないようにそれとなくサポートしてやるつもりではあるけどさ」
「……そうかよ」
渋面をつくったまま、勝己は踵を返した。切島の説明に十分納得できたのだろうか。とてもそうは思えない雰囲気だが、それにしては何も追及してこないのが解せなかった。彼らしくない。
それともうひとつ、切島には疑問があった。
「なあ、爆豪!オメー、あいつのこと嫌ってたらしいけどさ、一体どうしてなんだ?あいつ、すげぇ良いヤツじゃねえか!元々無個性で、ヒーローの夢あきらめて、それでも偶然手に入れた力をみんなの笑顔を守るために使おうって思ってるヤツなんだぜ?」
そんな青年をどうして否定できるのか、切島にはわからなかった。でも、勝己の内面には切島にも踏み込むことを許さない鬱屈とした何かがあって、雄英で出逢うまでに体験したことで得たもの、失ったものがそこにあるのだろうと思っていた。いままで、親友として安易に触れるまいと心していたが、幼なじみだという元・無個性の青年と出会って、ことばをかわして、その一端を垣間見たような気がした。
出逢ってちょうど五年。もう、知ってもいいのではないか。ただの友人であるだけではなく、戦友として、相棒として、ずっとともに駆け抜けてきた日々を思えば。
――だが、勝己は、
「……テメェにはわからねえ」
ただそれだけ、吐き捨てるように呟くと、そのまま事務所の中へと消えていった。無言の拒絶を、背中で語って。
「爆豪……」
彼なりに友情を感じてくれていると、切島は信じている。それでも最後の一線だけは許されないことが、寂しいと思った。
切島を置いて事務所に戻った勝己は、報告を行うために足を運んだ所長室で、予想だにしない命令を受けることとなった。
「合同捜査本部……?」
「そうだ。翌々日付けで正式に発足するらしい。爆心地、きみにも参加要請が来ている」
未確認生命体事件合同捜査本部――所長の説明によると、収まるどころか激化しつつある未確認生命体による事件に迅速かつ的確に対応すべく、警視庁の警察官と、全国から招聘されたヒーローが未確認生命体対策専門チームとして編成されるのだという。
ヒーロー側の候補者のひとりとして、自らが選ばれた――確かに予想外ではあったが、なってみれば理由は推察できた。自分の実力には絶対的な自信があるし、それを抜きにしても未確認生命体との戦闘経験は文句なく全ヒーローの中でもナンバーワン。それを買われた、ということなのだろう。
ただ、勝己がすぐに納得できたのはここまでだった。所長の伝達には続きがあった。
「参加は当然任意だ、断ることもできる。ただ、参加の暁にはきみに新型白バイの試作機を使用させるとのことだ」
「新型白バイの、試作機?」
「ああ。詳細なスペックまでは知らないが、最新型の試作機だからね。コストを考慮せず最先端の技術を詰め込んだと聞く。なかなか面白そうじゃあないか」
所長は目を輝かせて手許の資料を眺め回している。彼が単車オタクだと勝己は初めて知った。
ともあれ。
そこまで厚遇される理由は読めないが、全体として悪くない話だと思った。彼の頭の中はいまやほとんど未確認生命体と、緑谷出久のことで占められている。それでもヒーローという職業上、管轄外の未確認生命体事件にかかわるのは難しいし、他の敵への対処もしなければならない。合同捜査本部に所属し、対未確認生命体に専念できるなら、これ以上のことはないと思った。
「受けていいね?」
勝己の表情から大体を察したのだろう、所長が確認というかたちで問うてくる。
それを裏切ることなく、勝己は躊躇なく頷いたのだった。
*
かりそめの平穏が降りた夜が明け、太陽が東の空に輝く朝が訪れる。
東向きに窓があるために、朝日がよく降り注ぐワンルームアパートの一室にて。ひとりの青年が、洗面台で顔を洗っていた。緑がかった癖毛と、やたら大きな卵形の翠眼。エメラルドカラーは美しいといえば美しいが、この個性社会においては特徴とまでは言い難い。ごく平凡な風貌。
彼――緑谷出久は、そんな自分がクウガという異形の戦士へと変身し、同じく異形の殺人者たちと戦う宿命を背負った存在であることを、四日目にして日常のものとして受け容れつつあった。
(とはいえ、昨日は大変だった……)
寝不足の状態で講義を乗り切り、そのままノリで心操から三時間もマーシャルアーツの手ほどきを受け、慌ててアルバイト先の喫茶店に向かえば未確認生命体と遭遇し。変身して戦いはじめた途端、警官隊に囲まれて危うく射殺されかけた。
(結局、めちゃくちゃ遅刻だったし……)
不幸中の幸い、茗荷谷駅近くで騒ぎがあったことはマスターも知っていたようで――未知の怪物ではなく、敵の起こした事件としてだが――、それに巻き込まれかけたと思われたのだろう、彼は怒るどころか出久を心配してくれた。確かに虚偽ではないのだが、やはり罪悪感は募る。
ただ、良いこともあった。烈怒頼雄斗――切島鋭児郎という理解者を得ることができた。積極的な協力にまで至るかは微妙なところだが、少なくとも彼がいる現場なら昨夜のような攻撃を受けるリスクは軽減されるだろう。何より、ヒーローに理解者がいるというのは、その事実だけで非常に心強い。
「……よし!」
精神的なよりどころを得た出久は、身支度を整えて家を出た。向かう先は、大学……ではなく。
彼は今日一日を、昨夜は結局逃がしてしまった第5号――ズ・メビオ・ダの捜索に費やすつもりでいた。大学を休むことに躊躇がないではなかったが、自分が勉学に励んでいるうちに誰かが襲われることがあるとしたら、それらは秤にかけるまでもない。一応、一緒にとっている講義に関しては、あとで心操に教えてもらえるよう頼んである。快諾してくれた友人にはあとでお礼をしなければと、出久は固く心に決めていた。
*
同時刻。珍しくヒーローコスチュームと事務所のジャンパーの組み合わせではなく、グレーを基調とした背広といういでたちに身を包んだ爆豪勝己が、警視庁を訪れていた。
合同捜査本部の正式な発足は翌日。しかし、迅速に活動を開始するためには事前に準備しておかなければならないことが山ほどある。まして、ヒーローと警察官という、本来職掌の異なる者たちが連携することになるのだから。
メンバーの顔合わせなどもあるのだろうか。警察側には顔見知りの塚内警視や森塚巡査の名も記されていた。ヒーロー側は、直接面識のない者がほとんどながら、雄英時代のクラスメイトの名がひとつ発見できた。風貌も振る舞いもくそ真面目そのものの委員長タイプ――実際、クラス委員だった――の青年で、勝己との相性は推して知るべし、であるが。
それと、
(あの野郎の親父、か)
恐らくヒーローたちの元老的な役割を期待されたのだろう、ベテランヒーロー"エンデヴァー"の名前。その息子のことでまたひとつ鬱屈を抱える羽目になっている勝己は、複雑な思いにとらわれていた。
「――爆豪くん!」
「!」
呼び声に我に返ると、ロビーの片隅で体格の良い背広姿の男性が「こっちこっち!」と手を振っている。彼と予め待ち合わせていたことを思い出し、勝己はそちらへ足を向けた。
「おはよう、爆豪くん。ようこそ警視庁へ、歓迎するよ」
「……ども」
学生時代、教師にはため口だった勝己だが、最低限の礼儀は弁えている。憮然とした会釈で済ませてしまうのだから、いち社会人としてはおよそ不足であるとしか言えないが。
もっとも、彼――塚内直正はそうしたことが気に障ったりはしないようで、年齢の割には若い顔立ちに笑みを貼りつけたままだ。勝己がもっととげとげしかった頃からの顔見知りだから、というのもあるかもしれない。
「まともに顔を合わせるのは敵連合の件の後始末以来か。積もる話もあるけど……時間もないからね。"プレゼント"のところに案内するよ」
プレゼント――昨夜、事務所に届いていた資料を何度も読み返し、どのようなものかは既に把握している。白バイの最新鋭機の試作機、ということになっているそれは、量産型としてはおよそ採用しがたい高スペックと特殊機能を与えられていることがよくわかった。
だからこそ、疑問が湧く。
「どうして、俺なんすか?」
昨夜からずっと考えていて、結局答えが出なかった。二輪の免許は当然とっているが、普段の移動は自動車が主で、バイクの扱いにさほど精通しているわけではない。そりゃ才能マンと呼ばれるくらいなんでもこなせる能力はあるが、バイクに限ればもっと適任がいそうなものだった。
適性でないなら、物で釣る魂胆か?いや、そうまでしなければ自分が断ると思われていたとは考えにくい。実際、未確認生命体への対処は、彼の中では最優先課題なのだから。仮に出久のことがなかったとしても、それは変わるまい。
だが、知ってのとおり塚内はその答えを持ち合わせてはいない。だから特に隠しだてすることもなく、いまの彼にできる最大限の回答を返した。
「残念ながら、私にも理由はわからない。この件は総監のねじ込み……失礼、意向が強く働いていてね。私のような中間管理職は黙って言うことを聞くしかないんだ、ハハッ」
警視総監の?勝己の疑念は、ますます深まる。そこまでいくと何か政治的な意図があるのだろうか。ならば、有能で実直な警察官として評価され、叩き上げながら40歳にして警視階級で本庁に勤務している塚内ですら与り知らぬというのも納得はできるが。
そうした難しい方向に思考をもっていってしまったために、勝己はそれ以上の推理を放棄してしまった。若いうえに人間関係に極めてドライ、現場にしか興味がない彼に、上層で行われる謀を読み解けというほうが無理な話だった。
それに、軌道修正のうえでの再検討を行う間もなく、試作機のある保管庫にたどり着いた。
「あれだ」塚内が"それ"を指さす。「ま、資料は送ってるからわかるかな」
従来の白バイと異なり、丸みのまったくない鋭角的なデザイン。某とかいうトライアルマシンをモデルにデザインされたと資料にはあったが、確かに白バイというよりはそちらに近い形状をしている。いち官僚機構である警察において、よくここまでの革新が実現したものだ、と珍しく勝己は殊勝なことを考えていた。
「トライチェイサー、きみのマシンだ」
狭い保管庫に、塚内警視の声が反響した。
キャラクター紹介・グロンギ編 パパン
「ボン、ズ・グムン・バ、ンパザゾ、リソ(このズ・グムン・バの技を見ろ)」
クモ種怪人 ズ・グムン・バ/未確認生命体第1号
登場話:EPISODE 1. 緑谷出久:リユニオン~EPISODE 2. 緑谷出久:クウガ
身長:198cm
体重:196kg
能力:鋼鉄以上の硬度をもつ糸を口から吐き出す
垂直な壁を易々と登る身体能力
活動記録:
復活後、いち早く行動を開始し、コート姿の男の姿となって都内に潜伏。正体を現すと手の甲から生えた爪で蜘蛛の巣に捕らえた市民を殺害した。ヒーロー・爆心地や烈怒頼雄斗との戦闘では怯みつつも猛攻に耐えきり、一瞬にして全快する驚異的な回復力を見せつけた。その後、現れた未確認生命体第2号(白のクウガ・グローイングフォーム)を圧倒するも、爆心地の不意討ちを受け撤退。
その後は第3号(コウモリ種怪人 ズ・ゴオマ・グ)とともにサン・マルコ教会に潜伏し、突入してきた爆心地を殺害しようと試みるも、第4号(赤のクウガ・マイティフォーム)に阻まれ、最期はそのキックを受けて爆死した。
作者所感:
記念すべき平成ライダー初の怪人というありがたい称号をもつお方。後年のディスパイダーやスパイダーアンデッド、タランチュラアンデッドなどに比べるとビジュアル的にはあんまりな感じ……本編と特別篇で微妙に声変わりしていたのはなぜ?