【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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水曜の夕方の投稿後、UA&お気に入りの伸びが物凄いことになっており、率直に驚いております。ちょうど投票してくださった方が5名になって調整平均がついたことくらいしか心当たりがないんですが……やっぱりそのあたりが理由なんでしょうかね?詳しい方おられましたら是非教えてください
ともあれ読んでくださる方が増えたぶん反響も大きくなっていて嬉しい限りです。がんばって書き進めていきたいと思います

[ワン・フォー・オールについて]
複数の方から質問いただいたのでここに付記しておきます
まず、きちんと登場はさせる予定です。後継者も既に決定しています

ただ、ワン・フォー・オールの扱い方には賛否両論あるかもしれません。多くは語れませんが原作のクウガにはなかった展開になりますし、思いきりオリジナル設定が入ります。また、後継者についても登場当初は原作とかけ離れた行動をする可能性があります
読者の皆様にはぜひクウガとワン・フォー・オールを対等に並び立たせるための展開としてご理解いただけたら嬉しいです。もちろん物語として破綻しないように相当気合入れて書いていきます

長くなりましたが、登場はまだだいぶ先の話です。全部ボツってオチもありえるので(笑)、「どうせロクでもないこと考えてんだろうなー」と軽く流していただいて、本編のほうお楽しみくださいマセマセ


EPISODE 4. TRY&CHASE! 3/4

 心操人使は二限目から講義に出席する予定だった。昨夜の茗荷谷駅付近で発生した事件のために、大学付近の道路はパトカーが行き交い物々しい空気に包まれている。そもそも、昨日からして帰宅時には大変だったのだ。駅のそばの都道で敵が大暴れしたとなれば、電車はしばらく動かなくなる。結局自宅についたのは深夜だった。

 

 緑谷は大丈夫だったんだろうか。昨夜、今日の講義の件で連絡をもらったときにも訊いてみたのだが、遅刻はしたもののアルバイト先には無事たどり着けたと返ってきた。ゆっくり帰った自分より二本は早い電車に乗っていただろうから、それで助かったのかもしれない。なんにせよ、友人が事件に巻き込まれずに済んでよかった、と思う。洗脳の個性を原因とする少年期の不遇のために、斜に構えたような振る舞いが固着してしまってはいるが、それでも心操は友だち思いな青年だった。

 

 それにしても、

 

(ここ数日、敵の動きが妙に活発だな……)

 

 しかも、起きる事件はことごとく大量殺人。事件の前後には異形の怪物が目撃されたという風聞もある。いまは一般人ではあるが、雄英に在籍していた頃はヒーローを目指して独学し、プロヒーローであった教師陣ともかかわりの深かった心操である。何かきな臭いものを感じていた。

 

(久々に相澤先生に連絡してみるか?情報管制が敷かれてんなら、収穫はなさそうだけど)

 

 雄英時代、担任教師よりも親しかったヒーロー科担当のプロヒーローを思い浮かべる。彼には非常によくしてもらったし、猫好きという共通する趣味もあって話も合ったのだが、かといって彼の担当していた生徒たちにはあまり良い思い出がなかった。特に、いま若手のトップヒーローとして活躍している爆心地こと爆豪勝己。ああいう傲岸不遜な手合いは、露骨に遠巻きにしてくる人間並みに心操の苦手とするところだった。もっとも、それはわりとふつうの感性であろうが。

 

 そのルックスだけはすぐれた容貌を思い出しながら視線を滑らせると、不意に、脳裏に浮かんだのと同じ薄い金髪のツンツン頭が目に飛び込んできた。

 

「……は?」

 

 思わぬことに心操が呆気にとられているうちに、ツンツン頭の持ち主は考古学研究室のある棟に消えていった。

 

「いまの……爆豪、か……?」

 

 後ろ姿しか見ていないし、背広だったし、よく似た別人ではないか。そう割りきって忘れ去るには、心操の記憶と目にした姿があまりに合致しすぎていた。

 

 

 

 心操の目は正しかった。ヒーロー側のメンバーがまだ揃わず、特にすることもなくなり時間の空きができた勝己は、トライチェイサーの試運転がてら城南大学考古学研究室を訪れていた。ある女性に会うために。

 

 木製の扉をノックして研究室に入ると、目当ての女性はPCに向かってキーボードを叩いていた。それが勝己の顔を見た途端、指の動きが止まる。表情が、強張る。

 

「爆心地……!?一体、何しに来たんですか!?」

 

 いちおう最低限の礼儀を保ってはいるが、敵意に満ちあふれた歓迎のことば。嫌われたものだと勝己は思ったが、こういう正直な態度は不快ではなかった。

 

「デクは?」

「……出久くんなら、今日は来てません。別に毎日ここに来るわけじゃないので」

「そうすか」

 

 鉢合わせでもしようものなら、今度こそ釘を刺してやろうと思っていたのだが。今日は別にそれが目的ではない。

 

「デクの手に入れたあの力について、あんたの意見が聞きたい。そう思ってここに来た」

「私の、意見……?」

「あの力は、古代遺跡から出土したベルトがもたらしたものなんだろう。だったら、あんた以外にアレを研究してる人間はもういねえ」

「………」

 

 確かに、調査団の全滅もあり、あの遺跡関係の研究を行っているのは現状自分しかいない。勝己が何をどういう意図で聞き出したいのかは不透明だが、彼がヒーローとして未知の脅威と戦っていることだけは間違いない。自分の個人的な好悪で口を噤むことは、研究者の卵として正しくないと思った。

 

「一体、何をお話しすれば?」

「現状わかってること、全部」

「え、ぜ、全部!?」

 

 せっかく取り繕ったのに、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。勝己はさも当然だとばかりに胸を張っている。やっぱりこの人は好きになれないと、桜子は切実に思った。

 とはいえ、いまの時点ではわかっていることは少ないのも事実。それを踏まえているなら、言い方はともかくさほど無茶な要望ではない。溜息を皮切りに、彼女は昨日出久に話したことをそのまま教示した。

 

「……ふぅん」勝己が鼻を鳴らす。「じゃあ、あのベルトも怪物どもも、古代に存在していたものってわけか」

「ええ。ここからは私の推測でしかないですけど……ベルトは、あの怪物たちに対抗するために、古代人たちが創り出したものじゃないかと」

「そんなことができたって言うんすか、古代人に?」

 

 とんでもないオーバーテクノロジーである。人間を後天的に異形へと変身させる。現代においては、敵連合が似たような技術をもっていたが……その産物は"脳無"と呼ばれる自我のない殺戮マシーンである。出久は一度変身しても自分の意志でもとの姿に戻ることができているし、その人格も……大きくは、変わっていない。

 

「もちろん、力の源は人工的なものではないと思います。具体的なことは解読を進めなければわかりませんけど……古代人たちは、何か、それを加工して力を引き出す技術をもっていたんでしょう」

「……じゃあ、そうだったとして。そうやって創り出したベルトを、そいつらは誰かに使わせたのか」

「ええ。棺に眠っていたミイラ……恐らくは、古代人の中で、選ばれた戦士」

「………」

 

 その古代人の何者かが、異形の戦士"クウガ"となり、怪物たちをなんらかの方法で封じていった。

 だが、そうなると、

 

「どうしていまは、デクがその力を使ってる?」

「……それは、」

 

 押し黙る桜子。彼女も、そこまでの答えを持ち合わせてはいないのだろう。そうなったきっかけを思えば、成り行きというより他にないのだから。

 その回答を潔くあきらめた勝己は、小さく溜息をついて、質問を変えることにした。

 

「じゃあ、あの力を受け継ぐにはどうしたらいいと思う?」

「え?」

「アイツじゃない別の人間に、ベルトを移す方法。それがあれば……」

 

 出久はまた、ただの学生に戻る。使命感に駆られて戦いに出てくる必要なんて、なくなる――

 

 その問いに、桜子が何か返そうとしたそのとき――携帯が、ぶるりと振動した。

 

「……失礼」

 

 そう謝罪を述べてから、着信を承る。相手は塚内警視だった。世間話をするときのような軽さが声にない。

 

『未確認生命体第5号が行動を再開した。現在地は文京区本郷付近だ、大至急向かってほしい』

「!、了解」

 

 本郷なら、この城南大学のほとんど目と鼻の先。警官隊とヒーローに追われながら、負傷したメビオは遠くに逃げずこの周辺に身を潜めていたらしい。なんとも大胆なことだ。

 

 通話を終えて研究室を辞そうとすると、背後から「あの」と桜子の声がかかった。

 

「私、正直あなたのことは好きになれそうもありません。出久くんのこと"デク"なんて呼んだり……他にも色々、いじめに近いことをしてきたんじゃないですか?」

「………」

 

 否定は、できない。あだ名をつけただけでなく、散々彼を罵倒してきたし、ときには暴力を振るうこともあった。だが、罪悪感はない。全部アイツが悪いのだと、そう思っていた。思って、いたかった。

 しかし、勝己にそうした心情の吐露は求められなかった。桜子のことばには続きがあった。

 

「でも……ひとつだけ、共通点があります」

「……共通点?」

「出久くんを……これ以上、戦わせたくない、って……」

「!」

 

 立ち上がった桜子は、勝己の前に歩み寄ってきた。そして、頭を下げる。

 

「もし出久くんがまた戦おうとしたら、止めてあげてください。じゃないと出久くん、無茶するから……。自分のことなんて放り出して、突っ走っちゃうんですよね」

「………」

「そこだけは信じてますから。……お願い、します」

 

 言われなくとも、そうするつもりだ。だが、わざわざそんなふうにすげなく応じることはせず、勝己は小さく頷いただけだった。そして戦場へと向かうべく、研究室を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 出久は文京区内をぐるぐる歩き回っていた。片手にスマホ。時折その画面を睨みつつ、辺りをきょろきょろと眺め回している姿は、当人の冴えない風貌もあって田舎から出てきたばかりのおのぼりさんのようである。

 

「見つかんないな……」

 

 ズ・メビオ・ダ捜索はいまのところ不振だった。SNSで怪物の目撃情報なども参照しているのだが、有力なものは出てきていない。ずいぶん遠くに逃げてしまったのか、あるいはまだ人気のない場所に潜んでいるのか――

 

「前者だとすると、難しいな……。やっぱり、徒歩だと限界が――」

 

 バイクは無理でも、せめて自転車でも用意すべきか。

 立ち止まってブツブツと考え込んでいた出久だったが、次の瞬間、腹の中で何かがドクンと疼いた。

 

「ッ!?」

 

 これは、昨夜と同じ感覚。――対峙し、退治すべき敵の気配を、腹の中のアークルが教えてくれているのだ。

 そしてその察知能力の正確さは、ほとんど時を同じくして向かいから響いてきたサイレンの音で証明された。

 

――来る!

 

 ここで止めてやらねばと、少年の面影の濃い青年は勇ましくも身構えたのであるが、

 

 

 刹那、頬をビュンと疾風が薙ぎ、視界の隅を黒い塊が横切っていった。

 

「え、あ……」

 

 振り向けば、迎え撃とうと思っていた()()は既に豆粒ほどの大きさにまで遠ざかってしまっている。出久が思わず呆けているうちに、さらにサイレンを鳴らす白バイが駆け抜けていく。

 

「こちらハドソン07。未確認生命体第5号は本郷三丁目交差点を湯島方面に向かって逃走中、しかし、は、速すぎます!これでは――」

 

 ロストするのも時間の問題。そう思った白バイ隊員は応援を要請しようとしたのだが……そのために、前方への注意が疎かになってしまった。サイレンを鳴らしているのだからという、警官特有の油断もあったのかもしれない。

 

 はっと顔を上げたとき、目の前の交差点に、大型トラックが進入してきていた。

 

「うわあああっ!?」

 

 悲鳴をあげた隊員は、咄嗟にハンドルを右に大きく切る。そのおかげで辛うじて衝突は避けられたのだが、制御を失った車体は、彼を乗せたままスーパーマーケットの店先に突撃していった。

 衝突。轟音。悲鳴。慌ててあとを追ってきた出久は、その一部始終を目の当たりにすることとなった。

 

「ちょっ……だっ、大丈夫ですか!?」

 

 店先に出ていた屋台を破壊したうえにその中に頭から突っ込んだ白バイ隊員。出久が咄嗟に救けに入るが、不幸中の幸い、彼に大きな怪我はないようであった。すぐそばには、倒れた白バイと外れたメット。

 このままでは、未確認生命体を再び逃がしてしまう。出久はある意味、クウガとして戦う並みに重大な決断をしようとしていた。

 

(ごめん、母さん……。あなたの息子は完っ全に犯罪者です……!)

 

 だが、やらねばならない。他に手はない。

 意を決した出久は、咄嗟にメットを拾って頭に被ると、白バイを起こして跨がった。そして、突然のことに困惑している白バイ隊員にひと言。

 

「これ、借ります!」

 

 了承を得られないことは明白だったので、出久は言うが早いかアクセル全開、メビオの逃走した方向目がけてマシンを発進させた。我に返ったらしい白バイ隊員の制止の声が、あっという間に遠ざかっていく。

 

 白バイ強奪。一部を除いて正体が明らかになっていないクウガとしての行動と異なり、今回のそれは緑谷出久として実行したことだ。あとあとどんな理屈をつけようが、叱責では済むまい。逮捕、退学、報道――現実味ある最悪の未来が頭をよぎる。

 だが、放っておけば殺戮を続けるであろう未確認生命体を止めるのは、クウガとして何よりも優先すべき責務なのだと思った。実際、九郎ヶ岳遺跡に葬られていたミイラは、アークルを巻いたまま眠りについたのだ。彼もまた、戦士であること以外すべてをなげうったのではないか。

 

(それなら僕だって……警察に捕まるくらい……!)

 

 だが、その覚悟とは裏腹に、いくらスピードを上げても前方のメビオとの距離はまったく縮まらない。それどころか、どんどん引き離されていく。――速すぎるのだ、メビオが。

 

 このままでは見失う。どうにもならない現実に、出久は歯を食いしばるしかない――

 

 

 

 一方、爆豪勝己もまた、メビオの足跡を追ってトライチェイサーを走らせていた。

 現在普及している白バイとはまったく格の違うワンオフ機。それを思うままに操っているように見えて、勝己はその実あまり機嫌がよくなかった。

 

 多少ツーリングした程度で実戦に駆り出されてしまったために、まだ高い性能を完全に引き出せるほどに把握できていない。単純にスピードだけを追求するにしても、トライチェイサーの最高速度である時速300キロを出すには、勝己の身体がついていかない。爆速ターボとは勝手が違うし、そもそもスピードがそれとは比較にならないのだ。

 

「ッ、こんなもん宝の持ち腐れじゃねえか、クソが……」

 

 それでも傍目には相当なスピードでマシンを走らせながら、勝己は毒づいた。トライアルテクニックを存分に発揮するためには、時速300キロに耐えられるより強靭な肉体が必要だ。それが、あるとすれば――

 

 勝己がある発想に至ったそのとき、前方を走る白バイが目に入った。メビオを追跡しているのは自分だけではないのだから、それ自体にはなんの不思議もない。だが、妙なことに、ライダーは隊員の制服を身に纏ってはいない。どこにでも売っていそうな量産品のパーカーを身に着けた、あまり体格のよくない青年のようだった。

 

 その背中を、勝己は見過ごすことができなかった。

 

(まさか――!)

 

 スピードをさらに上げて白バイを追い越す。瞬間的に見えた横顔は、予想どおりのもので。勝己の胸に奔流が巻き起こる。

 

 烈しい想いのままに、勝己は強引に車体を白バイの前方に滑り込ませ、急停車させることに成功した。

 

「ッ!?」

「……何してやがる、クソナード」

 

 漆黒のヘルメットが脱ぎ捨てられ、露わになる紅い瞳。主の血の気の多さそのままのそれに射すくめられ、翠の瞳が動揺する。

 

「かっ、ちゃん……」

 

 出久と、勝己。

 

 こうしている間にも遠ざかる怪物のことすら、頭から抜け落ちてしまうほどに。その一瞬は、ふたりだけのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介・リント編 ドググ

爆豪勝己/Katsuki Bakugo
個性:爆破
年齢:20歳
誕生日:4月20日
身長:184cm
血液型:A型
好きなもの:辛い食べ物全般・登山
個性詳細:
変異した掌の汗腺からニトロのようなものを分泌し、自由に着火して爆発させることができる。汗腺が開く夏は爆発的に強いが冬はスロースターター!にもかかわらずヒーロースーツは露出多め、10~5月の活動は上着必須だ!
ほとんどデメリットなく爆発的な威力を発揮できる、本気でぶちこめばグロンギも黒焦げだ!そんなもんヴィランとはいえ人間に向けたらどう考えてもヤバイ気がするけど、いまのところ死者は出てないことから彼が意外に冷静なことがうかがえるぞ!
備考:
同期のヒーローの中では恐らくナンバーワンの実力を誇る。ただ支持率に関しては低空飛行ぎみ、熱狂的な信者とアンチの数がトントン、そんな通称『爆ギレヒーロー』。また、当人はある理由からナンバーワンとして扱われることに納得していないようだ。「クソを下水で煮込んだような性格」と高校時代は揶揄されていたが、雄英時代の悲喜こもごもとヒーローとしての経験を積んでいくらかマシになった。社会人なので敬語も使えないこともなくなくなくなくないぞ!

作者所感:クウガにおける一条さんポジションということで、出久とW主人公のつもりで書いてます。なまじ頭がいいだけに何を考えているかわからない、でもわかってあげたいと思わせる、そんなキャラ。

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