【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
なかなかこう、いいのが出てこないすねぇ…
3話の「エンカウンター」みたいなシリアス寄りならいいですけど、人がいっぱい死んでるのに「いいぞガンバレ飯田くん」みたいなのはマズイですし、そもそも自力じゃ思いつかねーですし
カッコイイのだけでなく、なんならちょっとふざけた感じのサブタイを次々思いつける堀越先生はスゴイと思います、はい
休館中の水族館。大小の水棲生物らの独擅場と化したその空間に、複数の男女の姿があった。枯木色のライダースーツを纏ったアフロヘアーの男や、黒と赤のドレス姿の美女など――いずれも奇抜な恰好をしており、とても水族館の職員とは思えない。
実際、彼らは職員ではない。それどころか、人間ですらなく――
「ズガギバギバロ、メビオ」ライダースーツの男――ズ・バヅー・バが毒づく。「ガセギビンゲゲル、ゾ、ブシガゼビバギドパ」
ドレス姿の――額にバラのタトゥを印した女は、そのことばに眉ひとつ動かさない。鋭い爪状の装飾が施された指輪を撫でながら、彼に目をやることすらなく言い放つ。
「ゴラゲンダンザ、バヅー」
「!」
目の色を変えて、バヅーは立ち上がった。と同時に、その全身が歪み出す。枯木色のライダースーツと素肌の境界が失われ、筋肉質なキチン質の肉体に。とりわけ下半身の変化は顕著で、上半身よりも長く細く、まるで飛蝗の脚のような形状と化している。首から上も飛蝗に似た、触覚のある頭部に変貌している。――"ような"ではなく、彼は本当に飛蝗の特性をもつ怪人だった。白いマフラーが首元でたなびく。
2m超も背丈のある異形に対して、バラのタトゥの女はなんの躊躇もなく歩み寄っていく。そして、
「ドググビヂゼ、バギングバギンビンザ」
頷くバヅー。それを認めると、女は指輪の爪を彼のベルトのバックルに押しつけ、く、と捻る。なんらかのエネルギーが注入され、バヅーの姿が一瞬歪む。
その直後、バヅーの背後から声がかかった。
「バギングバギンビンザゾ!?」
黒づくめの男の声。それに対してバヅーは、振り向くこともせず「サブショグザ」と啖呵を切ってみせた。そして、その場から去ってゆくのだった。
恨めしげにそれを見送った黒づくめの男――既に警察・ヒーロー界隈で"未確認生命体第3号"と呼称されているズ・ゴオマ・グ。彼は算盤のような備品を机に置くと、ニヤニヤと卑しく笑いながら女に歩み寄っていく。
「ヅギパ、ゴセザ――」
最後まで言い切ることはできなかった。ゴオマは女に殴り飛ばされ、あまつさえ俯した頭をハイヒールで踏みつけられたのだ。
「グェェ……」
「馬鹿が」
日本語でゴオマを罵り、女は唇を歪めて嗤った――
*
爆豪勝己は珍しくテレビに釘付けになっていた。映し出される、朝の情報番組。政治や事件からグルメまで多彩な話題を普段提供しているそれは、この日はほとんどワンイシューでもちきりになっていた。
――未確認生命体。警察とヒーローでのみ共有されていた
勝己はあまりマスコミが好きではない。むしろヒーローの中では一、二を争うマスコミ嫌いとして知られている。元々自分の目で見たもの以外信用しない性格だというのもあるが、高校時代のあるできごとがそれに拍車を掛けていた。できればひと言も彼らとは口をききたくなく、いままでは相棒にすべて押しつけていたのだが……別れ別れになった以上、それもできない。
(チッ……面倒くせぇ)
小さく溜息をつきつつ、勝己はスプーンをカレーのルーの中に沈めた。掬い上げて舌に乗せると、ピリッとした香辛料の辛みが口の中に広がる。
「どう?美味しい?」
カウンター越しに正面に立つ小柄な中年男性が問いかけてくる。勝己は躊躇うことなく「美味いっす」と応じた。偽らざる本音だった。
「そうかいそうかい、そりゃよかった!爆心地さんは辛いものが好きってなんかで見たもんでねえ、普通のポレポレカレーより気持ち辛口にしてみたんだよ!」
「そうすか。ありがとうございます」
「やっぱりね、カレーは辛いほうが美味しいよねえ。"カレー"は"辛ぇ"ほうが美味しい、わかる?」
「………」
この喫茶店――"ポレポレ"というらしい――のマスターは、そう言ってひとりで笑っている。勝己は呆れてことばも出ない。あまりにコテコテすぎて不快感すらもたらさないのが救いか。
「まあ、それはそれとして。来ないねえあいつ。いつもは朝早くても遅刻なんかする奴じゃないんだけどねえ」
そうだろうな、と勝己は内心思った。こうして待ちぼうけている"あいつ"は、小中学生の頃から一貫して無遅刻無欠席――流石に病欠はあったが――を貫いてきた男だ。そこだけは率直に認めている。
と、勝己を退屈させないようにと思ったのか、マスターがさらに話しかけてきた。
「そういや爆心地さんはさあ、登山も趣味なんだっけ?」
「ええ」
「実は僕も趣味でねえ、登山……っていうか冒険?特に海外の名のある山は大体登ってるのよ、たとえばそう……チョモラ
「そうなん――……?」
違和感を覚えた勝己が思わずカレーから顔を上げるも、マスターは構わず話し続ける。
「いやあチョモラマンは大変だったなぁ。ほら、あの写真」壁に掛けてある山の風景写真を指差しつつ、「英語だとエベレストなんだけど、結構いるよね、
「………」
「それとも、周りはチョモラマンが主流だった感じかな?」
「……いや、別に」
いままでに会ったことのないタイプの人間である。面白いといえば面白いが、厄介といえば厄介。どう対応したものか勝己が思案していると、からんころんという音とともに背後の扉から入店してくる者があった。
「す、すいませんっ、遅くなっちゃって……!」
慌てた、やや甲高い青年の声。目当てのそれに勝己が反射的に振り向けば、彼はその場で硬直した。
「……やっと来やがったか」
「え、か、かっちゃ……な、ナズェに……?」
パニックでも起こしているのか、口が回っていない。顔を赤くしたり青くしたり、おろおろとしている出久をカレーを食べつつ見物していると、マスターがカウンターから出てきて出久の肩を叩いた。
「出久、おまえな……」
「ハッ!?あ、おお、おやっさん、すいません、寝坊してしまって……」
「おまえが?珍しいな……いや、とりあえずいいんだよそんなことは!どうして言わなかったんだよ、あの爆心地と幼なじみだったなんてさあ」
「へぁ!?」
青年――緑谷出久の怪物を見るような目が勝己に向くが、当の本人はふいと目を逸らして残りのカレーに専念することにしたようだった。
仕方なしに、出久はマスターに訊くことにした。
「あの……彼は一体、なぜここに?」
「ん、なんか大事な用があるらしいけど。そういうわけだからおまえ、今日は休みでいいよ」
「へあっ!?」二度目である。「いや、困りますって!」
「大丈夫、ちゃんと時間給は出すからさあ」
「そういうわけには……ってか、そうじゃなくて!」
「心配いらないって!プライスレスなものを爆心地からいただくから!」
出久の主張を最後まで聞くことなく、マスターはちょうどカレーを食べ終わった勝己のもとに歩み寄っていく。ふた言三言ことばをかわしたあと、マスターが色紙とペンを持ってきた。勝己はまごつくことなく流れるように何かを書いていく。
(さ、サイン……?)
出久が呆気にとられているうちに書き終わったのだろう、勝己がおもむろに立ち上がる。代金とサインをまとめて渡すと、固まって動けない出久のもとへやってきて――敵まがいの悪辣な笑みを浮かべてみせた。
「ヒィ……」
「また来てちょうだいねー!」
マスターのことばに頷くと、勝己は出久の首根っこを引きずって外に連れ出したのだった。
「変わった人だな、ここのマスター」
「!、う、うん……そうなんだよね……あ、駄洒落とかギャグとか言ってなかった?」
「言ってた。"カレーが辛ぇ"と、チョモラマン」
「あぁー……」
説明しなくてもわかるらしい。出久はしきりに頷いている。
「こういうとこでテメェが働いてるなんてな」
「うーん……僕も不思議なんだけどね、大学入りたての頃に偶然ここ見つけて、カレーとコーヒーがすごくおいしくて。通いつめてるうちに、いつの間にかこうなっちゃって……」
「……ふぅん」
興味なさげに鼻を鳴らしていると、出久が「……あの、」と切り出してきた。
「今日は、何しに?っていうか僕のバイト先、どうやって知ったの?」
「後半の質問には答えてやる。切島に聞いた。今日は土曜だから早くからバイトに出てくると思って待ってた。――以上」
「な、なるほど……でも僕のアパート知ってるんだから、そっちに来ればよかったのに」
「テメェの部屋訪ねるとか気色わりぃわ。二度とやりたかねえ」
「そ、ソウデスカ……」
推理力は流石だが、動機があまりに酷すぎる――と、出久は切実に思った。
「えっと、前半は……?」
「それは自分で考えてみろや、ナードくん?」
「うっ……」
そちらのほうが肝心なのに、と出久は思ったが、だからこそ勝己は試しているのだろう。昔に比べればずいぶん微笑ましい意地悪だが、厄介なことには変わりない。
懸命に考え込んだあと、
「……トライチェイサーを取り返しに来た、とか?」
駐めてあるトライチェイサーの漆黒の車体――マトリクス機能によって、白バイ仕様からカラーリングを変えてある――を見遣りながら、恐る恐る訊いた。あの場は勝己にもそう命じられたので逃げ出してしまったが、本来メビオを倒した時点で返しているべきものだったのだ。勝己の私物ならまだしも、これは警察の備品なのだから。
しかし勝己は一瞬目を丸くした。すぐにまた意地悪な笑みを浮かべてみせたが。
「ほぉ?ワンオフ機手に入れてはしゃいでやがるかと思ったが、少しはわかってるみてぇじゃねえか、自分の立場」
「そりゃ、まあ……っていうか、違うの?その言い方だと」
「……移動手段は要るだろ。今後も戦うならな」
「!、かっちゃん……」
昨日自分に戦いを委ねてくれたのは、一時の気の迷いなどではなかったのだ。出久の胸に熱いものがこみ上げる。
「チッ、勘違いすんなよ。俺が認めたのは"クウガ"の力であってテメェじゃねえ。テメェがテコでも手放さねぇっつーから妥協してやってんだ、クソナードが」
「あ、アハハ……」
"妥協"などと口にしている時点で、本来それと最も縁遠い男の口実としては論外だと思うのだが。指摘するわけにもいかず、出久は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「ほれ、とっとと当ててみせろや」
「え、えっと……事件!……なわけないよね、だったらこんなまったりしてられないだろうし……。えー、あー、ぼっ、僕の顔が見たくなったとか!?」
冗談のつもりで言ったのだが、これが地雷であることは発言した瞬間に悟ってしまった。勝己の表情から笑みが消え失せ、眉間の皺が一段と濃くなる。
「……テメェ死にたいんだってなァ。望みどおりにしてやろうか?」
「アッアッアッ、ごめんなさい許してください!」
「……クソボケナードが。面倒くせぇから言うわ」
最初からそうしろよ、と思ったのだが、当然口にできるわけもなく。出久は身を縮こまらせて勝己の答えを待った。
そして、
「――デク。テメェを病院に連れていく」
「……病、院?」
*
沢渡桜子は憂鬱に沈んでいた。一応研究室には出てきて、PCの前に座ってはいるが、もはや自分以外に取り組む者のない古代文字の解読も進める気が起きない。やらなければならないのは、わかっているのだけれども。
(どうして変身なんかしちゃったのよ……出久くん)
公表されたばかりの未確認生命体関連の報道を見る限り、彼が変身した未確認生命体第4号ことクウガはまたしても戦い、第5号を相手に勝利を収めたようだった。
しかし、そんな彼に対して好意的な報道は少ない。ごく一部では"ヴィジランテ"――無免許のヒーローなのではないかという意見もあったが、多くは警察の公表に従い、単なる仲間割れ、同族殺しとして扱うようだった。それゆえにむしろ他の未確認生命体よりも激しい闘争本能を有しているのだとすら言われていて、桜子は憤慨した。確かに緑谷出久はかつてヒーローに憧れていたが、誰にでも優しく、人の痛みがわかる青年だ。それがただの闘う獣であるかのように言われて、どんなにか悔しいか。
やっぱり、出久は戦うべきではない。一刻も早く説得して、やめさせなければ。そう決心した桜子は、今日彼が朝からバイトであることを思い出し、ポレポレに電話をかけた。
『は~い、オリエンタルな味と香りの喫茶ポレポレです!ご予約ですか?あっ、まことに申し訳ないんですけど、都合により本日は出前はできませんだみつお!』
「……あの、もしもし。沢渡桜子ですけど」
『あっ、桜子ちゃんか!もしかして出久?』
わかってくれているなら話は早い。と、思ったのだが……。
『あ~惜しいなぁ!ついいまだよ、いま!ヒーローの爆心地とねえ、いっしょに出てった!』
「えっ、爆心地と!?」
桜子の驚きを曲解したのだろう、マスターは嬉しそうに続ける。
『いやあ、出久の奴ね、爆心地と幼なじみだったらしいんだよ!桜子ちゃん、聞いてた?』
「……え、ええ、まあ。それで、ふたりはどこに?」
『ああ、なんか関東医大病院に行くとか言ってたねえ。誰かのお見舞いかね?そのせいでワンオペになっちゃったけどさあ、引き換えに爆心地からサイン貰っちゃって。今度見においでよ桜子ちゃんも』
失礼ながら後半は適当に応対して、早々と電話を切った。今度は出久の携帯にかけてみるのだが、繋がらない。件のバイクにでも乗って移動中なのだろうか。
「………」
桜子は一度決めたらすぐに行動に移す女性だった。出久から折り返し電話がかかってくるのを待つことなく、彼女は関東医大病院へと向かったのだった。
キャラクター紹介・グロンギ編 ドググ
コウモリ種怪人 ズ・ゴオマ・グ/未確認生命体第3号
「カカカカカッ……、ラズギヂザ(まずい血だ)」
登場話:EPISODE 2. 緑谷出久:クウガ~
身長:206cm
体重:167kg
能力:120km/hでの飛行
鋭い牙による吸血
(弱点)光に異常に弱い
活動記録:
未確認生命体第1号(クモ種怪人 ズ・グムン・バ)同様、復活後いち早く行動を開始する。荒川区南千住にあるサン・マルコ教会に侵入して神父を殺害、成りすまして潜伏し、夜になると街に出て通行人の血を吸い尽くして殺害していた。交戦した警官3名を殺害したあと、遭遇した爆心地&烈怒頼雄斗、および第2号(白のクウガ・グローイングフォーム)を圧倒するも、爆心地の放った閃光弾に恐慌をきたし逃走する。
その後教会に突入してきた爆心地を第1号とともに襲うも、第4号(赤のクウガ・マイティフォーム)の参戦によって第1号が倒され、自身も爆心地の猛攻に恐れをなして逃げ去った。
その後はバラのタトゥの女と行動をともにしているようだが、ことあるごとに逆鱗に触れて顔面をハイヒールで踏みにじられるなど、手酷い扱いを受けているようだ。
作者所感:
ネットではクウガにおけるネタキャラ認定を受けているお方。とはいえ当時幼児だった作者は普通に怖かったので、「人を殺す怪人」としては破綻してないと思います。演者の藤王氏の怪演もポイント
原作では非業の最期を遂げましたが、拙作ではどうなっていくかひとつの楽しみにしていただけたらと思います