【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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今日のニチアサはドラゴンづくし!
ビルドは仮面ライダークローズ登場でキュウレンジャーはリュウコマンダーことショウ司令の主役回です!

…惜しかった。今日3/3投稿できればなあと悔しい思いでいっぱいです


EPISODE 5. 沢渡桜子:ブルース 2/3

――関東医大病院

 

 検査衣に着替えさせられた出久は、CTスキャンにかかっていた。その様子を窓越しに、ふたりの男が見つめている。ひとりは背広姿の若い青年――ヒーロー爆心地こと、爆豪勝己。もうひとりは、30歳くらいの白衣の男。彼は名前を椿秀一といい、ここ関東医大病院に勤務する監察医であった。

 

「オイオイオイ、なんだよこれ」椿が呆気にとられたように毒づく。「せっかく監察医務院の嘱託から戻って脳無だなんだバケモンから解放されたと思ったのによ、今度は俺をこんな危ない奴の仲間にするつもりかよ」

「………」

 

 発言だけ聞けば極めて無神経だが、出久には聞こえないよう声をひそめてはいるし、精神(なかみ)でいえばこの男のほうがだいぶ危ない。ゆえに勝己は一旦受け流した。

 しかし、次の発言は看過できるものではなかった。

 

「そもそも俺は死体の解剖専門だぞ。それを無理に病院の設備借りて見てやったら……思わず解剖してじっくり見たくなるくらいとんでもないぜ」

「……どういうことっすか?」

「同じなんだよ。例の奴らと」

「……!」

 

 勝己が二の句を継げずにいると、検査を終えた出久が戻ってきた。最後の部分は聞こえていたのだろう、「同じって?」と、恐る恐る椿に尋ねる。

 

「科警研から回してもらった未確認生命体第1号の体組織と同じ特徴が、きみの身体にも現れている。具体的には、腹部の装飾品から全身に特殊な神経組織が伸びていて、また筋肉組織も発達してる……って感じだな」

「ああ、なるほど……やっぱりすごく強くなってるんですね」

「吞気か、テメェは」

 

 勝己がすかさず突っ込みを入れる。笑いを噛み殺しつつ、椿は続けた。

 

「特に右脚の変化は著しい。心当たりはあるか?」

「あ、はい。戦ってるとき、右脚が熱くなることがあって……そこで蹴りを入れると、奴ら爆発するみたいなんです」

「そういや、1号も5号も爆死してたんだったな。それも超古代のオーバーテクノロジーのなせるわざ、ってわけか」

「だと思います。ただ、古代の戦士はあいつらを封印してただけみたいで、だからこそ甦っちゃったわけで……違いはなんなんですかね?」

「それを俺に聞かれてもな……まあ、奴らの死体や遺留品を調べていけば追々わかるかもしれないが」

 

 会話を遮るように、勝己は声を張り上げた。

 

「それより、こいつの身体に悪影響はないんすか?」

「!」

 

 出久がはっとする。椿はふいと目を逸らした。「いまのところはな」――明らかに、含みのある口調だった。

 

「腹部の異物から伸びた神経組織、それがきみの意志に応じてなんらかの信号を発し、身体を急激に変化させるんだろう。いまはまだいいが、もしそれが脳にまで達すれば、最悪の場合――」

 

 

「――奴らと同じ、戦うためだけの生物兵器になる」

「……!」

 

 出久は、ことばを失っている。勝己もまた、かつて敵連合が使役していた脳無の姿を思い起こし、拳を握り締めるほかなかった。

 

 

「………」

 

 椿に暇を告げて、幼なじみのふたりは関東医大を出た。出久も勝己も、ひと言も発しない。"戦うためだけの生物兵器"――そのことばが、頭の中をずっとぐるぐる回っている。

 

 やがて沈黙を破ったのは、勝己のほうだった。

 

「気持ちは変わんねえのか」

「え……?」

「心まで人間じゃなくなるとしても、テメェの気持ちは変わんねえのかって訊いてる」

 

 声音は穏やかだった。昨日の、怒りを押し殺したような声とも違う。単身赴任をしていた父親がたまに実家に帰ってきて、自分に話しかけてくるときも、こんなふうだったと思う。

 

「……怖いよ、正直」

「………」

 

 だから、それはまごうことなき本音だった。緑谷出久という存在がなくなる。人の笑顔のために戦えるヒーローですらなくなるかもしれない。そうだとしたら自分は、なんのために力を得たのだろう。

 だけれども、

 

「でもやっぱり、僕の気持ちは変わらない。戦うよ、これからも」

「………」

「それにさ、」安心させるように微笑む。「お腹のこれは、僕の心に応えて力を発揮してくれるんだ。"人の笑顔を守りたい"って気持ちを強くもって戦ってる限り、きっと、そんなふうにはならない」

 

 出久がそっと腹を撫でる。そのしぐさを勝己は暫し複雑な面持ちで見つめていたが、やがて「そうかよ」とだけ呟いた。結果的にその決意を受け入れてしまったのだから、自分は。

 

「あっ、もうお昼だけど……どうする?どこか寄ってく?」

「……ア゛ァ?何ちゃっかり仲良くしようとしてんだ、テメェ」

「えっ!?いや、ほら、一応はこう、いっしょに戦わせてもらえるわけですし……どうせなら……」

「調子こいてっとベルトむしり取んぞ」

 

 ふたりが傍から見れば気の抜けた会話を繰り広げながらそれぞれ車とバイクに乗ろうとしたそのとき、突然、女性の声がかかった。

 

「どうして簡単にそんな気持ちになれるのよ!?」

「ッ!?」

 

 ぎょっとして振り向いた出久が見たのは――よく見知った、女性の姿。

 

「………」

「さ、沢渡さん……?」

 

 なぜここに――出久が訊くより早く、桜子が詰問してくる。

 

「出久くん。何よ、そのバイク?」

「あ、ええっと……これは……」

 

 出久が目を泳がせていると、

 

「警察の秘密の試作車です。俺がそいつに渡しました」

「え!?」

「かっちゃん……」

 

 憮然とした様子ながら、勝己がきっぱりと宣言した。当然、桜子の怒りは彼に向かう。

 

「どうしてそんなことになっちゃったんですか!?私、止めてって言ったのに!」

「………」

 

 勝己は何も言い返さない。なんの抵抗もせず、詰め寄ってくる桜子の前で目を伏せて立ち尽くしている。

 だめだ、彼ひとりを悪者にしてはいけない。咄嗟にそう思った出久は、横から「沢渡さん!」と割り込んだ。

 

「僕がクウガとして戦うことで、たくさんの人を救けられるんだ。僕はそうしたいんだ」

「そんな……だからって、出久くんが命まで賭けることないじゃない!」

 

 現代にはヒーローが飽和状態になるくらいたくさんいる。なのに、どうして一般市民でしかない出久が最も危険な戦いに身を投じなければならないのか。――それがやりたいことだなんて、悲しすぎる。

 

「憧れちゃったんだから、しょうがないじゃないか……わかってよ、沢渡さん」

「……ッ」

 

 一瞬泣きそうに顔を歪めた桜子は、出久をキッと睨みつけると、「帰る!」と宣言した。出久の「送るよ」という気遣いにも耳を貸さず。

 

 立ち去っていく桜子。それを見送る勝己の表情には、わずかに罪悪感めいたものが滲んでいる。出久は幼少期の彼を思い出した。その頃から彼は傍若無人だったが、自分がした約束を破ることだけはしなかったのだ。

 

「……俺は捜査本部に戻る。何かあったら連絡する」

「あ、うん……」

 

 車に乗り込もうとする勝己。はっとした出久は、慌てて彼に声をかけた。

 

「あっ、あのさ、かっちゃん!」

「……ンだよ」

「沢渡さんのこと……僕なんかより全然頭がよくて、ものごとがよく見えてて、やるべきことをきちんとやってくれる人だから。その……嫌いにならないであげてほしいんだ」

「………」

 

 勝己は暫し、ドアに手をかけたまま沈黙していたが……やがて車に乗り込むと、そのまま去っていってしまった。是、と捉えていいのだろうか。

 

 いずれにせよ、出久はひとつ悩みを抱える羽目になった。理解なくして、協力は得られない。これから戦い続けていくためには、間違いなく桜子の力が必要になるのだ。

 いかにして彼女を説得するか――そればかりに思考を囚われていた出久には、いま別れた幼なじみがいかほど危うい立場に置かれているか、想像だにしていないのだった。

 

 

 

 

 

 警視庁に戻った勝己は、未確認生命体関連事件合同捜査本部の管理職ふたりに対して弁明を強いられていた。

 

「とんでもないことをしてくれたな……爆心地?」

 

 捜査本部長となった犬頭の面構警視長が、呆れたように言い放つ。彼の手許には一枚の写真があった。――トライチェイサーを駆り、疾走するクウガの姿。

 

「しかも、鷹野警部補からの報告によれば、きみは第4号を庇ったそうじゃないか。――らしくないな、正直」

 

 塚内警視のひと言。反論はなかった。らしくない行動をとったことは、自分自身が一番よくわかっている。

 

「それなりの理由があっての行動なのは我々も理解する。しかし、詳しい説明がなければ協力はできないワン」

「話してくれ、爆心地」

 

 詳しい説明――第4号が何者であるかも含めて、ということだろう。

 彼らが信頼に足る人間であることは、勝己もわかっている。一瞬、出久のことを話してしまおうかとも思った。しかし実直な警察官である彼らは、だからこそ得た情報を自分たちだけで握りつぶしたりはしないだろう。やはり、だめだ。信頼できるからこそ、話すことができない――

 だから、決然とした口調で言い放った。

 

「4号のことは、俺に一任してもらえませんか」

 

 警察官ふたりが渋い表情で視線をかわす。

 

「……きみが警察官だったら懲戒ものの発言だと、わかっているのか?」

 

 塚内が脅しつけるようなことを言うが、それでも折れない。

 

「あいつは人間に危害を加えていない。それに、これから加えようとすることもありません。……万一そんなことになれば、俺が抹殺します。だから――」

 

 

「――お願い、します」

 

 そう言って、勝己は地面に平行になるほどに背を折った。彼がこんなふうに謝罪や懇願をする姿は、これまでそれなりに親交のあった塚内ですら初めて見るもの。話せないなら、せめて、頭を下げることで最低限の誠意を示さなければならない――勝己なりの矜持だった。

 

 面食らったふたりの警察官が、再び目配せしあう。面構が頷くのを確認して、塚内は口を開いた。

 

「実はつい一時間ほど前、同じように深々頭を下げてきた男がいたよ」

「……は?」

 

 怪訝な表情を浮かべた勝己に対して、塚内はニッコリと笑みを浮かべてその男のフルネームを告げた。――"飯田天哉"。

 

「……!」

「彼もやはり、4号についてきみに託すよう請うてきたんだ。自分も4号に救けられたからと、きみの判断を擁護してもいた」

 

 飯田が、そんなことを。確かに彼は救けられたからと出久を庇ってはいたが、同時に出頭するよう促してもいた。なんなら抗議のひとつくらい受けると思っていたのに、まさか説得もなしに支持を得ることになろうとは。

 

「ま、我々も若手スターに次々頭を下げさせるのは本意じゃないんだ。――ね、本部長?」

「うむ。……4号の件については是認しがたいが、きみが詳しい報告を拒むというのなら仕方ない。きみの責任と能力の範囲で、好きにやるといいワン」

 

 是認はしないが、黙認はする。そんなに4号を守りたいなら、ひとりでなんとかしてみせろ。突き放された形ではあるが……それが組織人たる彼らの精一杯の温情であるとわからないほど、勝己は子供ではなかった。

 もう一度深々と頭を垂れると、勝己はその場を立ち去ったのだった。

 

「………」

 

 一方、残されたふたり。彼らは、勝己や飯田にも伝えていない事実を抱えていた。

 

「爆豪くんにはああ言いましたが……2号と4号が抹殺対象から外れるのは時間の問題でしょうね」

「うむ……――TRCSの捜索命令が下りてこないという話、聞いたか?」

「いえ。でも、驚きはないですね……正直」

 

 警察の最新鋭機、それも極秘の試作機が未確認生命体に奪取されたとなれば、血眼になって捜すのが常道ではないか。しかし実際には、まるでそんなもの最初からなかったかのように黙殺されている。上層部の保身だとすれば、あまりにお粗末すぎるやり方だが。

 

「総監がおっしゃっていた"別の期待"とは、そういうことだったのか……?しかし、彼と4号にそこまでの信頼関係があることをどうやって?」

「……あまり詮索しないほうが、身のためだと思うワン」

 

 あの独特のダンディな笑い声を思い出し、ふたりの中年男は揃って溜息をついた。

 

 

 

 

 

 解放された勝己が合同捜査本部の割り当てられた会議室に入ると、まず大仰なしぐさで出迎えてくれたのはかつての同級生だった。本人はそんなつもりはないのだろうが、やたら良い体格とその動きのせいで奇妙な圧迫感がある。勝己は盛大に舌打ちを漏らしたが、様式美だと思われているのか容易く流されてしまった。

 

「……ンだクソメガネ、俺の前に立つなや」

「相変わらずきみは口が悪いな!それより、大丈夫だったのかい?」

「じゃなきゃここに来ねーわ」

「それもそうか!いやはや、良かった……未確認生命体と戦っていくにあたり、きみの力は必要不可欠だからな!これから力を合わせて、市民の安寧を守っていこう!」

 

 四角四面にそう言って、飯田は手を差し出してきた。勝己が応じないことはわかっているだろうに。

 あえて握手して驚かせてやろうかとも一瞬考えたが、すぐに却下した。それよりも、訊くべきことがある。

 

「……聞いたぞ。テメェも頭下げに来たって」

「!、ああ……第4号は間違いなくこちら側の存在だと俺は判断したからな。当然のことをしたまでだ」

「だが、テメェはアイツを突き出す気だったろうが。俺に任せて本当にいいのか?」

「うむ……そこは俺も葛藤があった……」

 

 第4号を認めるということはすなわち、法律違反を見て見ぬふりするということ。それは彼の理想とするヒーローではない。天哉は悩みに悩んだ。ヒーローを引退して久しい兄・天晴に相談しようかとも思ったが、結局一人前のヒーローとして葛藤し続けることを選択し、そしてひとりで結論を出したのだ。

 

「何より大事なのは、ひとつでも多くの人命を救うことだ!そのためなら……いまは、仕方あるまい……!」

「飯田……」

「ただ、事件解決の暁には、ぜひ自分から出頭してもらいたいと思っているがな!爆豪くんも是非、彼にそう伝えてくれたまえ!」

「……考えとくわ」

 

 相変わらずの男だ、と思う。いかにも水と油の対照的な性格で、それゆえ学生時代はぶつかることも多かったが……模範的なヒーローたろうとする固い信念は、三年の間で知り尽くしている。

 

「そういうわけで爆豪くん、改めてよろしく頼む!」またしても手を差し出してくる。

「テメェマジでしつけーな……どんだけ握手してーんだよ」

「幸先のよいスタートを切るためには重要だろう!それにほら、俺たちは出会い方が残念であったからして……」

 

「――おふたりさーん、そろそろよろしいですかー?」

「!」

 

 いきなり下方から声がかかり、ふたりはぎょっとして反射的に視線を下げた。飯田の胸くらいまでしか背丈のない童顔の刑事が、人を喰ったような笑みを浮かべてふたりを見上げている。

 

「やっほう」

「これは森塚巡査!大変失礼いたしました!!」

「うーん、あんまりデカい声で巡査呼ばわりはやめてほしいんだけどなー、銭形気分が萎えちゃうからさあ」

 

 いい歳の大人とは思えない――外見からしてそうなのだが――放言。それは勝己にも向けられる。

 

「そういや爆心地、4号氏にトライチェイサーあげちゃったんだって?いやはや思いきったことをしますなぁ」

「他人事みたいに言うんすね」

「そういうわけじゃないですけど……あの場ではね、その判断は間違ってなかったわけですし?」

 

 トライチェイサーを手に入れたクウガは見事にズ・メビオ・ダを倒し、それ以上の死傷者の発生を食い止めた。人命を第一に、という観点からみれば、彼のような意見を持つ者が警察内にいるのもおかしくはなかった。

 

「ま、開発に携わってた経験もある僕といたしましては、4号氏が大事にしてくれることを祈るばかりだね」

「森塚じゅ……刑事も携わってらしたのですか?確か、捜査一課に所属されていたのでは……」

「うん、だからほんの一時期だけね。個性の関係で」

「そうでしたか」

 

 一般の警察官には現場での個性使用が原則認められていないとはいえ、使用資格を取得して日常業務に役立てる者は数多くいる。森塚の個性はまだ見たことがなかったが、開発に資するものなのだろう。

 と、森塚がひとつ咳払いをして背筋を伸ばした。ここからが本題だという予感がして、勝己と飯田は揃って居住まいを正す。

 

「さて、与太話はこの辺にして。ちょっと不穏な空気が漂ってますよ、わが帝都は」

「何か起きたんですか?」

「起きてる、が正しいかもね。――昼ごろから港区と品川区で墜落事故が多発してる。わかってるだけで九件だ」

「!」

 

 そんな狭い地域で、たった二時間ほどの間に?確かに事故にしてはあまりに不自然だ。事件、だとすれば――

 

「もちろん、敵による連続殺人という線もあるけどね」

「……そうは思ってないんだろ、あんたは」

 

 「バレたか」と悪戯っぽく笑う。

 

「ま、着替えて準備はしといてくれよ。まだヒーロー組は揃わないし、きみたちが主戦力になるからよろしくね」

「はい!」

「わかってます」

 

 「よろしい」と頷いて、森塚はソフト帽を被りながら会議室を出ていった。既に出払っている刑事たち同様、捜査に加わるのだろう。

 自分たちも出動態勢を整えるべく、勝己と飯田はヒーロースーツを携えて更衣室に向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 

――杉並区 阿佐ヶ谷

 

 その警官は、自転車に乗って定期パトロールを行っていた。慣れ親しんだ街は平穏を保っているものの、その平穏の影で未確認生命体が暗躍している可能性もある。彼のような末端の警官まで、いまや厳戒態勢を強いて警邏に当たっていた。

 そんな彼が、とあるビルの前を通り過ぎた次の瞬間、

 

 背後から、質量のあるものがコンクリートと激突する音が響いた。

「!?」

 ぎょっとした警官は、自転車を止めて反射的に振り返る。そこで見たものは、半ば身がつぶれ、体液をまき散らした人型の肉塊だった。

 警察官という職業柄そういったものに多少の耐性がある男は、()()のもとに慌てて駆け寄っていく。「大丈夫か!?」と声をかけるが、当然反応はない。無線で応援を呼びながら、ふと視線をビルの上にやったそのとき……もうひとつ、人影がダイブしてきた。

 

「な……!?」

 

 まさか、集団自殺?あるいは無理心中か何かか?瞬時にそう推測した警官は、直後信じられないものを見た。

 飛び降りてきたふたり目の男は……驚くべきことに、着地に成功したのだ。さも当然であるかのように、乱れた枯木色のライダースーツを整え直している。

 

「バギング、ドググゲギド」

 

 謎のことばを呟き、ブレスレットの珠玉をひとつ動かす。愉しげな笑みが、口許に浮かぶ。

 

「……!」

 

 警官は思い出した。伝えられていた、未確認生命体の特徴。人間の姿に擬態してはいても、日本語と似て非なる謎の言語で会話をすること――

 

「おっ、おまえ、未確認生命体か!?」

 

 詰問とともに、携行していた拳銃を引き抜き、安全装置を外して銃口を向ける。いままでなら、敵の疑いがある人物に対してだっていきなりこんな過激なまねはしなかったが。

 

 一方、銃口を突きつけられた青年は、まったく動じる様子がない。それどころか、

 

「チョグドギギ。ゴラゲグバギング、グシギビンレザ」

 

 青年の身体が一瞬歪み、瞬く間に飛蝗に似た異形の怪人へと変貌する。バッタ種怪人ズ・バヅー・バ――彼は、目の前の警官を27人目の獲物と定めたのだった。

 

 




椿先生は代替キャラが見つからなかったのでそのまま入れました
脳無の解剖など敵連合絡みの業務に携わっていたためにかっちゃんとも顔見知りになった…と思ってやってください

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