【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
2/4は水曜18時
3/4は土曜19時半
4/4は日曜8時
に予約をセットしましたのでご参考までに
未確認生命体第6号――ズ・バヅー・バとの戦闘のさなか、身軽な青の戦士ドラゴンフォームへと変身を遂げたクウガ。しかしスピードでは勝ろうともパワーで及ばず、肉弾戦では不利な状況に陥り――
――そして彼は、バヅーによってビルの屋上から投げ飛ばされたのだった。
「ッ!?」
90キログラムしかないドラゴンフォームの身体は、いとも容易くビルの屋上から投げ出される。そんな状態では態勢を整えることができるわけもなく、彼は地面に叩きつけられた。
「か……っ、あ……!」
暫し呼吸ができなくなるほどの激痛が走る。びくびくと全身が痙攣し、意識が飛びそうになった。――それをかろうじてこらえたのは、気を失えば確実に殺されるから。
だが、彼にできたのはそこまでだった。もはや、身体に力が入らない。立ち上がることもできそうにない。
その様子を見下ろしていたバヅーは、
「クウガパ、ジョパブバダダバ……」
露骨に落胆のことばを口にすると、ビルから跳躍、クウガの顎を蹴り飛ばした。
「かッ……」
衝撃のまま、仰向けに倒れ込む。脳が激しくシェイクされ、いよいよ彼はまともに動けなくなった。
「ゴパシザ!」
「ぐ、あぁ……ッ」
何度も胴体を踏みつけられ、首を掴まれて絞めあげられる。今度こそ意識が薄れる。そんななかでうっすらと耳に入ってきたのは、パトカーのサイレン音だった。
彼らのすぐそばまで駆けつけてきたパトカー。その搭乗者は警察官ではなかった。
「……!」
「!、爆豪くん、あれは……」
爆心地とインゲニウム――爆豪勝己と飯田天哉。捜査本部の一員となった彼らは、パトカーの使用も許可されていた。それで真っ先に駆けつけてきたわけだが。
「第4号なのか?しかし、なぜ青いんだ……?」
呆気にとられた様子で飯田が呟く。それを訊きたいのは、勝己とて同じだった。
が、考えているゆとりはない。クウガは見るからに追いつめられている状況だった。気を取り直した飯田が他の捜査員らに通信しようとしたときには、勝己は既に走り出していた。
「オラァアアアアッ!!」
「!?」
クウガを害することしか頭になかったバヅーは、不意打ちの爆破によって呆気なく吹き飛ばされた。解放されたクウガが、力なくその場に倒れ伏す。
「ッ、ビガラ、ガンドビン……」
焼け爛れた身体の一部を修復させつつ、バヅーは勝己を見て何ごとかを呟く。それにはなんら応じることなく、勝己はただ烈火のごとき猛攻を繰り出していく。
元々烈しい彼の性情を知っている飯田ですら、それは尋常でないと感じるもので。
(爆豪くん、怒っているのか……?やはり、彼を傷つけられたから?)
倒れたクウガを介抱しつつ、飯田は暫し戦況を見守るほかなかった。しかし守勢に回っていたバヅーが一瞬の隙を突いてビルの屋上へと跳躍すると、状況が変わった。
「ギベッ、リント!!」
「!」
一旦姿を消したかと思えば、再び降下してジャンプキックを仕掛けてくる。それを目の当たりにした飯田は、咄嗟に勝己を庇いに入った。
「やらせるものか――ッ!」
エンジンを嘶かせながら駆け抜け、迫りくるバヅーにストレートパンチを放つ。それは直撃には至らないまでも、キックの軌道を変えることには成功した。
「ッ、ビガラ……」
「我々ヒーローを舐めてもらっては困る!」
堂々と宣言する飯田。一方で「余計なことしやがって」と毒づく勝己だが、彼と協力することに異論はないらしい。ふたりのヒーローと一体の怪物が対峙する――そんな構図が出来上がる。
「フン、リントグ……。ラドレデゴサバサ、ダダビヅンデジャス」
ヒーローふたりにもたじろぐことなく、バヅーは挑発するようなことばを吐く。彼は目の前のヒーローたちばかりでなく、その背後で虫の息になっているクウガにもとどめを刺すつもりでいる――勝己も飯田もそう思ったし、実際バヅーはそのつもりだった。
しかし、
「――!」
首元の白いマフラーが風にたなびいた途端、バヅーは唐突にゲホゲホと咳き込んだ。不快そうに何かから顔を背ける。
「チッ……ブガギバ」
「あ?」
「ギボヂヂソギギダバ」
突然様子の変わったバヅーを怪訝な面持ちで見ていたふたりは、次の瞬間驚愕した。彼はそのまま踵を返すと、ビルの上へと跳躍したのだ。
「逃げる気か!?」
「ッ、ざけんなコラァ!!」
激昂した勝己が爆破を仕掛けようとするが、いくらなんでも上空20メートル超のビルの屋上にまでは届かない。ならばと爆速ターボで追おうとするが、それは飯田によって制止された。
「!?、放せやテメェ!なんのつもりだ!?」
「落ち着け、奴は俺が追う!彼を放置しておくわけにもいかないだろう!」
「……ッ」
クウガ――出久は自力で動けないくらいに衰弱してしまっている。このまま置いていって、捜査員らに発見されればどうなるかわからない。射殺対象からはまだ外されていないのだから。
それに、彼の正体を知らない自分が介抱するよりはと、飯田は考えたのだ。
「……チッ、」舌打ちは、不承不承ながら勝己に反論の意志がないことを示していて。「逃がすんじゃねえぞ」
「わかっている。では!」
言うが早いか、飯田は全速力で走り出し、バヅーを追った。それを見届けたあと、勝己もまた即座にクウガに駆け寄る。
「デク!!」
「かっ……ちゃん……」
かろうじて意識はある。こちらの認識もできているようだ。だが、勝己が来たことで緊張の糸が切れてしまったのか、アークルは遂に光を失った。青い身体が一瞬白を経由し、緑谷出久のそれに戻る。
「おい、何やられてんだこのクソボケカス!オラ立て、戦えねえならとっととこの場離れんぞ!」
バヅーの跳躍力とこれまでの殺人方法から推察するに、彼もまた高所から突き落とされたのだと容易にわかった。クウガの身体でもそれは相当の深傷だろう。見た目にわからないだけで、もしかしたら致命傷にも及んでいるのかもしれない。
まともに歩けない出久をおぶって車の後部座席に乗せ、勝己はアクセルを踏んだ。目的地は定まっている。――病院、それも出久の身体のことを知る医師がいる病院だ。
(クソが……)
サイレンを鳴らしてパトカーをかっ飛ばしながら、勝己は無性に苛立っていた。ヒーローである自分が幼なじみのお守り役をさせられていること、いくら速くとも地上を走るしかない飯田ではバヅーを捕捉できないであろうこと――受け入れやすい言い分はいくらでも思い立つ。
しかし一番の理由、心の芯から湧きたつものはそうではないのだと、勝己は既に知ってしまっていた。
*
浅い眠りから覚めた沢渡桜子が机から顔を上げると、空はすっかり暗くなっていた。元々憂鬱だって気持ちがさらに沈み、彼女は小さく溜息をつく。
スマートフォンを手にとり――出久からのメッセージを確認する。連絡していいかと訊いてきたのを最後に、彼からのコンタクトはない。なんとなく胸がざわつくのに従って"未確認生命体"と検索してみると、品川・港・杉並の各区に第6号が出現したというニュースがあった。第4号も。双方逃走中となっているが、出久がいまどうしているのか、そのワードだけでは掴めない。
こちらから連絡するのはやはり抵抗がある。まだ出久の気持ちを認めたくはないのだ。しかし、彼の安否は気にかかる。
葛藤を抱きながら、桜子はゆっくりと通話に指を伸ばしていく。それがいよいよ触れるかという瞬間、
唐突に画面が変わり、着信音とともに発信者の名前が表示された。それは、まさしくいまかけようと思っていた相手で。
自分からかけようとしていた以上、かかってきたものに出ることに躊躇う必要はなかった。
「もしもし……」
しかし、返ってきたのは、
『……爆豪です』
「え……爆心地……?」
どうして出久の携帯で勝己がかけてくるのか。その疑問を桜子が発するより勝己が先んじた。
『いま碑文を解読し終えている範囲で、"青い戦士"って記述はありませんでしたか』
「青い、戦士……?」
『実は、デクの奴が――』
勝己から、出久が戦いのさなかに青い戦士に変身したと聞かされ、桜子は絶句した。変わったこと自体というよりは、その結果がどうなったのか――
『かなりのダメージを受けて、いま関東医大にいます』
「……!」
予感はしていた、しかしあってほしくはなかった最悪の事実。それを知った桜子は、一分もしないうちに自宅を飛び出していた。
*
桜子が関東医大病院にたどり着いたのは一時間近くが経過したときのことだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
息も絶え絶えで薄暗いエントランスに駆け込む。ここまでで新たな連絡は来ていない。最悪の事態にはなっていないということなのだろうが、楽観はできなかった。早く出久のもとへ行って、自分の目で状態を確かめなければ――
「あれ、沢渡さん?」
「!」
不意にかかった声は、桜子を驚愕させるに十分すぎるもので。
「い、出久くん……!?」
「えーっと……ど、どうも……」
親しくなっても相変わらずぎこちない会釈だが、そこに言及する余裕はいまの桜子にはなかった。
「かっちゃんが電話したんでしょ?困っちゃうよね、人のスマホ勝手に……」
「そうだけど……それより大丈夫なの!?身体は……」
「あ、うん。わざわざ来てくれたのにごめんね、僕、明日も朝からバイト入れちゃっててさ……もう帰らないとなんだ」
「……いいよ、元気なら」
桜子がか細い声でそう応じると、出久は「ほんとごめん、かっちゃんが送ってくれると思うから!」と念を押して小走りぎみにエントランスから飛び出していった。
それを見送っていると、背後からふたつの足音が走ってくる。――勝己と、椿医師だった。
「デクは!?」
「え、いま……」
外に視線を戻すと、ちょうどトライチェイサーに跨がった出久が走り去っていくところだった。エンジン音があっという間に遠ざかっていく。「あのバカが」と、勝己が沈痛な声で毒づいた。
怪訝な面持ちの桜子に対し、椿がことの真相を説明した。
「……全身打撲、本当なら死んでてもおかしくないような状態だったんですよ。強化された身体のおかげで幸い命に別状はありませんし、回復も速いでしょうが……それでもいまのところは全治一ヶ月くらいの怪我には間違いないはずです」
「!、そんなに……?」
実際、ちょうどこのとき、停止したトライチェイサーの上で出久は苦痛に耐えていたのだが、桜子がそれを知るよしもない。
「……すいませんでした」
椿が奥に引っ込み、ふたりきりになったところで、勝己は率直にそう言って頭を下げた。絶対に謝罪などしないと思っていたヒーローの行為に、桜子は目を丸くする。
「結局、あんたの言ってたとおりになっちまった」
「………」
だがそれでも、桜子は受け入れきれない。だって、わかっていたんじゃないのか。出久が他人のために命を捨てるような男だと、ある意味ただの仲良しよりずっと根深い関係にある彼が知らないはずがないのだから。
と、桜子の気持ちを見透かしたのだろう、顔を上げた勝己がとんでもないことを口にした。
「――鍵付きの地下室に鎖で繋いで監禁する」
「え……?」
人気がないとはいえ病院の待合で、いきなりなんて物騒なことを言うのか。流石に桜子も呆気にとられたが、
「あんた、誰かをそうしたいと思ったことあるか?」
「ないですそんなの……――あるんですか?」
「俺はある」
「……出久くんを?」
「ああ」あっさりと肯く。「あいつは言ってもききやしねえし、殴っても爆破してもその場はビビるが意地でも改めねえ。一見おとなしくて従順そうで、実は信じられねえくらい意固地で頑固なのは……あんたも知ってるだろ」
クウガのことを抜きにしても、思い当たるふしはあった。普段の自己主張は少ないが、出久の心の中には彼なりの核心があるようで、そこに触れるような事物については妥協を許さないのだ。
「だから、いっそのことそうしちまえばいちいち手を患わされずに済むと思った。……思って終わりだったけどな。実行すりゃ犯罪者だし、そもそも地下室なんて家になかったし」
「………」
桜子がなんともいえない表情で沈黙しているのを見て、勝己は小さく溜息をついた。余計なことを喋りすぎたと思ったらしい。
「とにかく、それくらいやらなきゃあいつは止められない。力をもっちまった以上、たったひとりでも突っ走ってくんだ」
あのとき逃げ出したくせに――いや、逃げ出したから尚更なのかもしれない。そうして一度捨てた夢を再び拾い上げた以上、出久にはもう逃げ出せる場所はないのだ。
「俺はヒーローだ。相手が誰であれ、救けるためなら最善を尽くす……自分の気持ちを殺してでも。どんなに力があろうが、そうしなきゃならないときが必ずある――嫌んなるくらい学んできたことだ」
要するに、勝己はあきらめたのだ。出久をこの戦いから退かせることを。引き換えに彼は高いプライドを抑え込んで、互いに遺恨まみれの幼なじみを支えると決めた。――そのことに、桜子はようやく気づいた。
「……すいません、長居させちまって。送ります」
「いえ……ひとりで帰れます」
しかしまだ、勝己の気遣いに甘える気にはなれなかった。
キャラクター紹介・リント編 グシギ
沢渡 桜子/Sakurako Sawatari
個性:不明
年齢:23歳
誕生日:10月30日
身長:161cm
血液型:B型
好きなもの:徹夜・ブラックコーヒー
備考:
城南大学大学院修士課程、考古学研究室所属。古代文字の解読を進めて出久をサポートしてくれる……はずだが本人は未だ乗り気でない。それもすべて出久を心配するがゆえだ!こんな気立てのいい大人の美女に想われて出久も隅に置けないぞ!しかし実のところは友達以上恋人未満くらいの関係だとか……ヒトヲオチョクッテルトブットバズゾ(#0M0)
作者所感:
原作から設定を変えなかったため出久よりおねーさんになりました。元々特撮ヒロイン勢の中でもわりと大人なのでよかったんじゃないかと。童顔の出久と並べるとちょっとおねショタっぽくなりそう……あと地味に麗日さんと髪型が被ってることに最近気づきました
個性はすいません、思いつきませんでした。今後何かすごいのが出るかもしれないし、何もなく終わるかもしれないし……あ、個性:徹夜?