【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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心操くんほんとすき
こういう思いつきで登場させることにしたキャラが活躍したり重要な役割を果たしたりする傾向が強いです、自分の作品



EPISODE 6. 吼えよドラゴン 4/4

 本能の赴くままに、緑谷出久はトライチェイサーを走らせていた。

 走行中もマシンが警察無線を傍受してくれるおかげで、バヅーの現在位置は相当正確に掴めている。あとは、アークルの胎動に従ってその姿を見つけ出すだけ。

 

 避難勧告&外出規制によって人気のなくなった道路を走り続けていると、不意に進行方向のビルの屋上に飛蝗に似たシルエットが現れた。――バヅーだ。しきりに周囲を見回している。次に飛び移るビルを物色しているのだろうか、こちらに気づいた様子はない。

 出久はトライチェイサーを路肩に停車させると、即座に変身の構えをとった。腹部にアークルが顕現する。

 

「――変身ッ!」

 

 叫ぶと同時に、ベルトの中心――霊石が青い光を発する。途端に出久の皮膚は漆黒に変化し、胴体には薄い青の装甲が現れた。クワガタに似た頭部の巨大な複眼もまた、青く発色する。

 

「!、いきなり青か……」

 

 初めての事態――ドラゴンフォームへの変身自体昨日が初めてなのだが――に戸惑う。しかし、即座にバヅーに追いつけるジャンプ力とスピードを彼が望んでいたことは事実だ。その希望に、アークルはきちんと応えてくれたらしい。

 「よし」と気合を入れて意気込んだクウガは、バヅーのいるビルの屋上目がけて跳躍した。ひと跳びで身体が高く舞い上がり、一瞬にして目的地に到達する。

 

「!?、クウガ――」

「はぁッ!」

 

 虚を突いての飛び蹴り。しかし右脚が熱くなるあの感覚が念じても来ない。それでもパンチよりは多少ましだったのか、バヅーは怯んだ様子で数歩後退した。

 この姿は、そもそもキックでとどめを刺すようにできていないのかもしれない。赤に戻らなければ敵を倒せないのか、それともやはり別の方法があるのか。

 ともかく、この姿でまともに殴り合いはできない。学習した出久は、拳を握らずにカンフーのような構えをとった。中身は素人である以上、本当に"ような"でしかないが。

 

「ボンゾボゴ、ドゾレゾガギデジャス!」

 

 襲いくるバヅー。とにかくその攻撃を喰らわないことに意識を集中する。幸い動きが相当スピーディーになっているため、それは容易くはあった。受け流しつつ、掌打でその身を押しやる。

 

「ッ!」

 

 ダメージはなく、バヅーは再び距離を詰めてきて攻撃を繰り出してくる。再び躱す、ジャブを入れる。再び攻撃が――その繰り返し。

 

(だめだ、このままじゃ……)

 

 徐々に焦りが滲んでくる。確かにダメージは受けずに済んではいるが、こちらもまったくと言っていいほどダメージを与えられていない。しかも、こちらは一発でも喰らえば致命傷になりかねないのだ。

 ここは赤に戻って戦うべきか。念じれば戻れるのか。しかし戻ったところで敵が他のビルに飛び移ったら追いかけられなくなってしまう。彼が思考の海に沈みかけたところで、バヅーの蹴りが目の前に迫った。

 

「!、うぐッ!?」

 

 咄嗟に腕で防ぐものの、筋力の貧弱になった細腕はその威力に悲鳴をあげる。よろよろと後退したクウガは、これ以上の追撃を避けるべく一旦自ら地上に飛び降りるしかなかった。

 

「……ッ」

「フン、ゾンデギゾバクウガ!」

 

 頭上でバヅーが勝ち誇っている。悔しさに拳を握りしめる異形の戦士は、しかし勝利を掴むための糸口を掴めずにいた。

 

(わからない……どうすればいいんだ……!?)

 

 

 

 

 

 心操人使の運転する大型バイクは、後部に沢渡桜子を乗せて井荻に向かって飛ばしていた。

 杉並区に入り、暫く走り続けていると、前方にパトカーの赤いランプが複数見えた。その前を制服警官らが固めている。

 

「検問……じゃないな、封鎖か」

 

 独り言のように呟くと、腹に回された桜子の腕にぎゅっと力がこもるのがわかる。交通規制が行われているであろうことは、未確認生命体の出現情報が出た時点で読めたことのはずだ。――自分も含めて。

 

(マズいんだけどな……一応警察官志望だし)

 

 だが、ここまで来て止まれる心操ではなかった。友人の大切な人が、何かを為すために助けを必要としているのだ。自分がその助けになれるなら、その後の人生と秤にかけることはしない。ヒーローになるという夢をあきらめたって、憧れまでも捨てたわけではないのだから。

 

「そのまましっかり掴まっててくださいよ」

 

 だから心操は、止まるよう促す警官たちの合図に反して、スロットルを思いきり捻った。

 バイクはスピードを上げ、予想外の事態に混乱する警官たちのど真ん中を突っ切っていく。「止まれぇ!」という慌てた声に対して、心操は、

 

「緊急車両です」

 

 あっけらかんと、そう言ってのけた。

 

「心操くん……」

「すいません。でも、止まるわけにはいかないでしょう?」

 

 一刻も早く"彼"のもとにたどり着き、そして伝えねばならない。詳しい事情は知らずとも、桜子の心情をよく理解したがうえの行動だった。――自分にも大きなリスクがあるとわかっていて、彼はそれを選びとったのだ。

 

「あなたも……やっぱり、()()なんだね……」

「何か言いましたか?」

「ううん、なんでもない。――このまま、お願い!」

 

 封鎖のおかげで道路には通行人も車両もない。さらにスピードを上げ、杉並区内の閉鎖区域を爆走する。

 

 と、遥か前方に青い影が転がってくるのが目に入った。心操は咄嗟にブレーキパッドを捻り、マシンを減速させる。

 

「ッ、あれは……」

 

 見覚えのある異形。それが未確認生命体第4号であると気づくのに、時間はかからなかった。

 4号――クウガはよろけながらも態勢を立て直し、次いで現れた第6号――ズ・バヅー・バの攻撃を回避する。しかし後者が前者を圧倒していることは、まだ状況を把握しきれていない心操にも容易く読めた。青いクウガの反撃はほとんど効いていないのに、バヅーの攻撃は掠っただけでダメージをもたらしている。

 クウガが人間を襲わず、殺人を行う同族ばかりと戦っているという情報をもっている心操は、一瞬どうすべきか迷った。どこか既視感のある挙動で必死に戦っているクウガ。できることなら助力してやりたい、という気持ちがよぎる。しかし自分にそれができるだろうか。未確認生命体という怪物相手に、自分の洗脳の個性が通用するかはわからない。万が一効果がなければ、自分ばかりか桜子まで危険に晒してしまう――

 

 しかしその桜子が、予想外の行動に出た。

 怪物たちに恐れをなして逃げ出すどころか、むしろその戦場へ走り出そうとするではないか。これには驚愕した心操は、慌ててその腕を掴んだ。

 

「何してんだっ、沢渡さん!!」

 

 

「――何してんだっ、沢渡さん!!」

「!?」

 

 聞き覚えのある声で、聞き覚えのある名前が叫ばれ、クウガはぎょっとした。その方向に咄嗟に顔を向ければ、予想とおりのひと組の男女の姿。

 

(沢渡さんに、心操くん!?なんでこんなところに……!)

 

 いや、理由なんてどうでもいい。早くこの場から離れさせなければ。

 しかし、彼が叫ぶより寸分早く、桜子の声が響いた。

 

「――水の心の戦士!」

「えっ……」

「長きものを手にして敵を薙ぎ払え!」

 

 一瞬、呆けてしまう。桜子のすぐ後ろにいる心操も、ただただ困惑しているようだった。

 しかし、

 

「わかった!?」

 

 その問いを訊いて、クウガは悟った。彼女が言ったのは、恐らく解読した碑文の一部。水の心の戦士――つまりはこの姿(ドラゴンフォーム)の戦法を教えてくれたのだ。

 

「長きもの……ぐぁっ!?」

 

 次の瞬間バヅーのラリアットを喰らい、クウガは大きく吹っ飛ばされた。しかしその先で金属製の手すりが目に入って、遂にすべてを理解した。

 

「――そうか!」

 

 勝機を見出したクウガは即座に立ち上がり、その手すりを思いきり蹴り上げる。力が弱いとはいってもその威力は3トン、常人の比ではない。結果、固定されていた手すりは天高く舞い上がり、そしてクウガの手許へと移った。

 棒術をイメージしてそれを振り回すと、一瞬掌がかあっと熱くなる。その熱が手すりに伝わり、形状を一瞬大きく歪めた。

 

 そして、身体と同色の青い棒状の武器へと変化した。"来たれ、海原に眠る水龍の棒よ"――古代文字でそう記されている。名を、"ドラゴンロッド"。

 

「よし……!」

 

 突進してくるバヅーに対し、ロッドを思いきり叩きつける。1メートル超の長さがあるそれはリーチも長く、反撃を受けない位置からの攻撃が可能だった。しかも、打撃力は十全にあるようで、パンチやキックでは怯まなかったバヅーが呻き声をあげた。

 

「グゥ……ッ」

(効いてる……!)

 

 このチャンスを逃してはならない。そう判断したクウガは、攻撃の手を緩めることなくバヅーを叩き伏せた。ドラゴンフォームのスピードに乗って自由自在に跳ねる棒。その先端に顔を、胸を、脚を叩かれ、バヅーは着実に体力を奪われていく。もはや、形勢は完全に逆転していた。

 

「あれが……4号……」

 

 流麗なその姿に、心操は目を奪われていた。躍動する青い瞳の奥には、何かを守ろうとする強い想いが宿っているように感じる。もしも友人の緑谷がヒーローになったら、きっとこんなふうに戦うのではないか。

 そういえば、桜子はクウガに何事かを伝えていた。それが目的でこの危険地帯に突撃したのか。――彼女は、何かとても重大な事実を知っているのではないか。

 

 心操がそれを口に出して尋ねようとしたとき、背後からバイクのブレーキの音が響いてきた。振り返った彼が見たのは、黄色い車体の明らかに市販ではないオフロードマシンと、それを操る爆弾魔(ボマー)のようなコスチュームのヒーロー――

 そのヒーロー――爆心地こと爆豪勝己はふたりの姿を認めた途端、血相を変えて駆け寄ってくる。

「沢渡さん――に、テメェ普通科の……心操、か?」

「……覚えてたのか、俺の名前」

 

 クラスメイトですらなかなか覚えず、独自につけたあだ名――殆ど悪口――で呼んでいた男に覚えられているのは、かなり意外で。同時にやや複雑な気分でもあった。

 しかし、勝己の関心はすぐに逸れた。ドラゴンロッドを操りバヅーを圧倒するクウガ、彼もやはりその姿に釘付けになっているようだった。――ついでにバイクから元に戻った森塚も。

 

「えっ、民間人……避難……あっ、4号と6号もいるし……っていうかこの人ら、爆心地の知り合い?」

「………」

「無視ですか……。まあいいや、こんがらがってきたしひとまず4号氏を応援しよっと。よんごー!がんばえー!」

 

 いい歳の成人男性――見た目は未成年とはいえ――の気の抜けた応援が届いたのか否か、クウガは遂に最大最後の一撃を放とうとしていた。ロッドを振り回しながら空高く跳躍。そして、降下とともに、

 

「――おりゃあッ!!」

 

 バヅーの胸ど真ん中に、ロッドの先端による打突を喰らわせることに成功した。

 

「ウグッ……ガッ……!」

 

 苦悶の声をあげるバヅー。その胸には、マイティフォームのキックのときと同様の古代文字が浮かび、腹部に向かって放射状のヒビを走らせていく。バヅーは抵抗するかのように必死にもがくが、もう取り返しはつかない。ヒビはあっという間にバックルまで到達し――

 

 そして、大爆発を起こした。頑丈かつ異様なまでの回復力をもつはずの肉体は一瞬にして粉々に粉砕され、四方八方に破片が散っていく。ズ・バヅー・バという存在は、この世界から完全に消滅したのだ。

 

「………」

 

 そのさまを見つめながら、クウガはおもむろにロッドを下ろした。そして大きく息を吐く。――手から、白煙が噴き出ている。

 

(……デク、)

(出久くん……)

 

 勝己も桜子も、本当はその名を呼びたかった。しかし心操と森塚がこの場にいるから、それもできない。

 そのうちに、彼はゆっくりとふたりを振り向いた。表情のないその瞳。しかし海原のような深い青が、何かを訴えかけている。特に、桜子に対して。

 それに応えてやらねばならないと思った。緑谷出久という優しい青年の友人として。何よりこれから先、ともに戦っていく仲間として。

 

 だから桜子は胸元で、かすかに、本当にかすかにだが、握った拳から親指を立ててみせた。サムズアップ。出久の戦いに、最大級の労いを与えたのだ。

 それを目の当たりにしたクウガは暫し呆然としていたが……やがて、自らもサムズアップを向けてみせた。ありがとう、沢渡さん。そのことばを口では伝えられない代わりに。

 

 

 もう出久は逃げられない、逃げる気もない。だからこそ、前へ進む彼を全力で支える。

 その決断の果てに何が待っているのか――抜けるような青空だけが、それを知っているような気がした。

 

 

つづく

 

 





砂藤「遂に俺たちが次回予告を担当だ!」
障子「早くも、だな」
口田「――、―――」
砂藤「次回出てくる未確認はあのムキムキ野郎!大変だ緑谷、赤も青も奴の筋肉には太刀打ちできねーぞ!」
障子「対抗手段はひとつしかないな」
砂藤「おう、筋肉だ!いまの緑谷には筋肉が足りねえ!」
口田「――、―――?」
障子「こうなったら我々筋肉同盟※が緑谷を鍛えるべく登場して……」
口田「――!――、―――!」
障子「……何、紫のクウガ?」

EPISODE 7. 無差別級デスマッチ

砂藤「さらに!」
障子「向こうへ!」
口田「―――、――――!!」


砂藤「あっ、"アイツ"がポレポレの前で行き倒れてるぞ!」
障子「嵐の予感だな……」
口田「――……」

※作者オヌヌメの某ヒロアカ二次創作のネタです。ああいう神作品を書けるようになりたいと思いつつ障子ん(精進)……

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