【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
ここの出久もムキムキになれるのだろうか…
[修正]
地の文での麗日さんの呼び名を「お茶子」に直しました
――茨城県 山間部
閑散とした山道を、一台のトラックが走行していた。その他に車両も、さらには通行人もいない。注意すべきことといえば、せいぜい野生動物の飛び出しくらい。ゆえにドライバーの男は油断していた。外がそうなのだから、ましてこの車内は聖域だと、そう信じきっていたのだ。
次の瞬間、凄まじい衝撃とともに、視界がぐるりと回転するまでは。
何が起きたかわからなかった。考えようにも、脳まで激しくシェイクされているために何ひとつ思考できない。男は混乱の極みにあった。
もしも通行人がそこにいれば、なんらかの外力によってトラックが横転、いや道路上を何回転もさせられる光景を目撃することになっていただろう。
結局、トラックは自力で回転を止めるはできず、コンクリートの山肌に激突することでようやく静止した。
「う……うぅ……」
物がぐちゃぐちゃに散乱し、半ば潰れかけた車内で、それでも男は生きていた。かろうじて開いた瞼、ぼやけた視界に、大柄な影が差す。
あぁ、よかった。人などいないと思ったが、早速助けが来てくれた。薄れゆく意識の中で、男はほっと胸を撫でおろしていた。
その胸を、影が生やした鋭い一本角が貫き。男の意識は、永遠に刈りとられることとなった。
「………」
動かなくなった男を見下ろす影――ズ・ザイン・ダ。彼は屋根に飛び移ると、己の拳をもってトラックを亡骸もろとも徹底的に叩き潰した。
それでも怒りがおさまらないのか、スクラップを蹴り飛ばし――吼える。
「ボンバロボ……グデデゴセ、グザバギ、ギデジャス!!」
その叫びがこだましてから一時間ほどのち、入れ替わるように山にはサイレンの音が鳴り響いていた。原型をとどめないスクラップの周囲に数台のパトカーが駐まり、周囲を制服警官や刑事、鑑識員らが慌ただしく動き回っている。
「酷でぇな、こりゃ……」
スクラップの中を覗き込みながら、ベテランの年かさの刑事は思わずそう呟いていた。長いキャリアの中で惨殺死体も散々見てきたが、目の前の光景はその中でも五本の指に入る凄惨なものだった。
「ここまで完璧にぺしゃんこにされちまってるっつーことは、個性犯罪か、あるいは……」
彼が独り可能性を探っていたとき、背後から若い刑事が駆け寄ってきた。
「主任、数キロ先の麓でも同様の事件が!」
「何?――目撃者は!?」
麓なら、ここよりは交通量も人通りも多い。目撃者がいるのではないか。彼の推測は当たっていた。
「ええ、犯人から逃げ延びた生存者が。話によると、犯人は極めて大柄で……異形の姿をしていたと」
「異形型の個性か?」
「いえ。あちらの捜査員に記憶を読み取る個性の者がおりまして、その生存者の記憶を読みとったところ……未確認生命体の可能性が」
「未確認生命体、だと……!?」
遭遇の経験はないかの刑事も、その名前は当然耳にしていた。ヴィランたち以上に凶悪で強力な怪物、そんなものが突如として現れ、人間を襲っているのだ。知らないわけがなかった。
が、
「奴らは都内にしか現れないんじゃなかったのか?」
「それは……」
「……いや、移動してきた可能性も十分ありうるか。確か警視庁に捜査本部が設置されてたはずだ、応援を要請しよう」
その判断は極めて迅速だと、客観的には評価されるべきだろう。しかし既に、未確認生命体――ズ・ザイン・ダによる犠牲者は十数人に上っていた。
*
事件現場からおよそ70キロメートル離れた喫茶店・ポレポレには、開店前にもかかわらず鬼のようにカレーを貪り食う少女の姿があった。その細身のどこにそんな量が入るのかと問いただしたくなる食いっぷりである。顔はお餅のごとき丸顔であるが。
それをカウンターの中から見るエプロン姿の青年はというと、ゆで卵型の瞳を見開いて釘付けになっている。時折ルーの入った鍋に視線をやりつつ。
ほどなくして少女は大盛りのカレーをごはん粒ひとつ残さず平らげ、ふうう、と深く息をついた。たまらず青年――緑谷出久が尋ねる。
「え、えっと……おいし、かったですか?」
相手が異性で、しかもヒーロー。緊張のために、自ずから声がぼそぼそとしたものとなってしまう。そのせいか、相手の反応はない。もう一度声をかけ直そうとした瞬間、急に彼女は顔を上げた。
「うわっ!?」
「……おいしかった」
「は、はい?」
出久は気づいた。彼女の大きな瞳には、なぜか涙がいっぱいに溜まっている。
「こんなおいしいもの食べたん何年ぶり、いや生まれて初めてかもしれへんわぁ……!」
「そ、そんなに!?いや、確かにここのカレーはすごくおいしいけども……」
流石に誇張しすぎではないかと思ったのだが、彼女はきらきらした瞳で鍋を凝視している。そこに無言の圧力を感じとった出久は、やむをえずおたまに手を伸ばしたのだった。
――数分後
もう一杯完食してようやく落ち着いた少女は、今度はカウンターに額をこすりつけんばかりの勢いで頭を下げた。
「ホントにっ、おいしかったです!ごちそうさまでした!!」
「い、いえいえ、ヒーローにお褒めいただいて光栄です……」
「!、私がヒーローだって知っとるん!?」
びっくりしたような少女――ヒーロー・ウラビティの問いに、むしろ出久のほうがびっくりしてしまった。
「そりゃもちろん!ウラビティ…さん、個性は触れたものの引力をゼロにする"
「お、おぉ……ってか、本名まで!?」
「あっ」
我に返った出久は焦った。ヒーローは基本的に本名までは公開していない――ネット上などで流れてしまうことは多々あるが――。それを知っているとなると、色々な意味でのあらぬ疑いがかかってしまうと思ったのだ。
「いや、ほらあの、雄英体育祭見てまして!毎年最終種目まで残られてて、活躍されてたので……」
「あ、ああなるほど……そうですよね!ごめんなさい、変な反応してもうて!」
「い、いえ気にしないでください!僕、ヒーローオタクというか、人からすると知りすぎってくらい知っちゃってるみたいなので……」
最後のほうの言い訳は蚊の鳴くような声になってしまったのか、聞き取ってもらえなかったらしい。唐突に自分の顔をバシバシ叩くと、お茶子は手袋をはめた右手を差し出してきた。
「え~っと、一応改めて……麗日お茶子です、ヒーローやってます。よろしく!」
「あ、はい……緑谷出久です」顔を赤くしながら右手を握りつつ、「城南大学に通ってます」
「えっ、大学生なん!?」
再びびっくりした様子のお茶子。そういう反応には慣れている出久は「見えないですよね」と苦笑しつつ、実年齢を告げようとしたのだが、
「待った、当てさせて!」
「へ、あ、はい……?」
「んーと、んーと……たぶん3年生ってとこやな!」
「!、よ、よくわかりましたね!?確かに3年生ですけど……」
「ふふん、やっぱりね。私もほら、幼く見られがちやから……あえて1、2年生は外してみたんよ。ってかすごいね城南大学なんて、めちゃ秀才やん!」
「なるほど……いや、まったくもってそんな……」
出久が秀才かどうかはともかく。確かにお茶子はお茶子で幼く見える。少なくとも、実年齢を知らなければ成人しているとは信じがたいだろう。自分と並んで歩いたら高校生のカップルにも見えそうだ……なんてその光景を想像しかけて、出久は頭が沸騰しそうになった。
「そっかぁ、同い年か……あ、そんならお互い敬語やめへん?ってか、私はもうやめちゃってるけど……」
「あ、僕は全然……――じゃあ、そう、しよっか……」
そういえばこの前、烈怒頼雄斗こと切島鋭児郎ともこんな会話をしたなと思い出しつつ。そのときよりぎこちなくなってしまうのを出久は自覚していた。
その修正に努めつつ、ずっと疑問だったことを口にする。
「えっと、訊いていいかな?なんでここで行き倒れてたのか……」
いまの様子を見ていれば、怪我や病気が原因でないことは一目瞭然である。お腹が空いていた、というのもまた同じ。倒れるくらい空いていたというのだろうか……ヒーローが?
「実は……」麗日は目を伏せて、「最近、ちゃんとしたもん食べれてなくて……」
「えっ……忙しかったとか?」
首を振る。
「わ、笑わないんでほしいんやけど……」
「笑わないよ、絶対」
「ありがとう。……実は、おか――」
お茶子がそのわけを語ろうとした途端、からんころんという音とともに扉が開いた。反射的に会話が中断される。
入ってきたのは、40代半ばから後半の男性。両手をパンパンのレジ袋でいっぱいにしている。出久は彼が"おやっさん"ことこのポレポレのマスターであると当然知っていたし、お茶子にもすぐそれがわかった。
「いやー買った買った。バーゲンとはいえちょっと買い杉良太郎……あれ?」お茶子に気づき首を傾げる。「なんだ出久、もうお客さん入れちまったのか?っていうかどこかで見たことあるなあ、その美女……」
「あ、実はですね――」
彼女がヒーロー・ウラビティであること、空腹のあまり玄関に倒れていたこと、カレーを食べさせてあげたことを話すと、おやっさんは「ありゃりゃ」と気の抜けた声をあげた。
「そりゃ災難だったねえ。ダメだよヒーローが食事疎かにしちゃ、身体が資本なんだ唐沢寿明……こりゃちょっと新しすぎるか」
「新しすぎるってことはないと思いますけど……」
「面目ないです……」
ふたりがそれぞれ別のところに反応を示している――と、不意に出久の携帯が振動した。発信者の名前を確認した出久の表情が変わる。すっかり麗日を自分のペースに巻き込んでいるおやっさんに「ちょっとすいません」と断りつつ、カウンターの隅に移動し、
「――もしもし」
『7号が出た。場所は茨城県、常総市新石下だ』
「わかった」
あまりに簡潔で事務的すぎるやりとり。もっと詳しく聞き出したい部分がないではなかったが、電話ではこんなものだと出久も割りきった。向こうもこちらも、悠長に電話で話していられない状況にある。
通話を終えると、出久は「すいません、急用ができました!」と思いきり頭を下げ、呆気にとられるふたりに背を向けて店を飛び出した。ほどなくして、バイクの走行音が遠ざかっていく。
「二度目だこりゃ……いや三度目か?」
「え、そうなんですか?」
「そうなんだよ、しかもこの一週間で。事情訊いてもはぐらかすし。なんかよくないことにかかわってなきゃいいけどねえ……」
「………」
電話で呼び出されて、何を置いても駆けつける――ヒーローならばよくあることだが、一般市民がそうする必要に迫られているとなると確かに"よくないこと"に巻き込まれている可能性を思わざるをえない。お茶子は少しだけ出久のことが心配になった。自分にそんな資格はないと戒めながらも。
と、出久に連動したわけではないだろうが、今度は彼女の携帯も鳴った。確認すると、所属事務所の先輩ヒーローの名前が表示されている。今日はオフ、にもかかわらず連絡してくるということは――
予感は当たった。所属ヒーローを総動員しての救助活動――となれば、オフだからと安穏としてはいられない。
「すいません。私ももう行かないと」
「お仕事?大変だねえ、がんばってね」
その優しいことばが胸に沁みる――が、それを噛みしめたまま去るわけにはいかない事情もあって。
「あ、あの……カレー二杯もいただいちゃったんですけど……実は私、いま持ち合わせがなくて……」
「ありゃ、そうなの。まあその可愛さに免じてねえ、出世払い+サインで勘弁してもいいよぉ」
「いやそういうわけには……。また今度来たときにまとめてお支払いしますんで、とりあえず――」所属事務所などが記された名刺を渡す。「ほんっとにごめんなさい!では!」
本当なら皿洗いでもして返したいところだったが、いまは急がねばならない。麗日は慌ただしく店を飛び出していった。
「……色々抱えてるねえ、最近の若人は」
つぶやきつつ、ひとまず買い込んだブツの収納から本日の仕事を始めることにしたおやっさんであった。
キャラクター紹介・リント編 ズゴゴ
切島 鋭児郎/Eijiro Kirishima
個性:硬化
年齢:20歳
誕生日:10月16日
身長:178cm
血液型:O型
好きなもの:硬派なもの・肉
個性詳細:
硬くなる。とにかく硬くなる!全身バリカタになる!!もちろん一部だけ硬くすることもできるぞ!(下ネタじゃないよ!)持続時間は連続一時間(学生時代より伸びた)。切れてもひと呼吸置けばまた使えるぞ!隙をカバーできれば実質無制限だ!
一見地味で単純だけれども、だからこそ守るも攻めるも万能な実はスゴい個性だ。しかし本作では1話から早々、敵の強力さを表すために破られてしまっている。ありがちな展開に本人はだいぶ不満を抱えているものと推測される。まことに申し訳ございません!
備考:
ヒーローネーム"烈怒頼雄斗(レッドライオット)"。"爆心地"こと爆豪勝己とは雄英高校の同級生であり、卒業後も彼と同じ事務所に所属するなど行動をともにしている。「"あの"爆豪の隣に立つことを認められた男」と一部からは畏敬の念をこめてあだ名されている。しかし傍若無人な相棒のために気苦労は絶えない。胃痛と引き替えにフォロー・調整力を得た苦労人だ!支持層は幅広いが特に社会の荒波に揉まれたオジサンが多く、当人としては複雑だぞ!
爆心地に結構ぞんざいに扱われても仔犬のようについていく姿、インタビューなどで端々からにじみ出る好き好きオーラなどから、巷ではM疑惑が持ち上がっているとかいないとか。
作者所感:
なんかもう……色々まぶしいです。ただの熱血馬鹿かと思いきや気配りもできるし分け隔てないし、かっちゃんに信頼されるのもわかる気がします。過去を見る限り男気に関してはつくってる部分もあるんでしょうが、あの良い人っぷりはつくれないだろうと……まぶしすぎてせっかく話しかけてくれてもかえって遠ざけてしまいそうです、作者は
クウガ原作で言うと亀山巡査ポジションで、残念ながら捜査本部入りは果たせませんでしたが、今後出番あるといいなぁ……と思ってます
2話1/4のあとがきでストレスに晒される切島くんの頭髪に触れた際、中年かっちゃんがミスをした中年えいじろーを「この○ゲー!!」と罵倒する姿が浮かんだのはここだけの話……