【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
あと出番があることが(ほぼ)確定してるのは尾白くんくらいです。あとの面子のファンにはごめんなさいしたい。
出久たちがポレポレに戻ったときには、誕生日会開始時刻を回っていた。店の駐車場も車やバイクで埋まっていて、既に相当数が集まっているのがわかる。
「少し遅くなってしまったか……。この様子だと全員揃っているかもしれないな」
飯田のことばに、出久はごくりと唾を呑み込む。
「ど、どうしようまた緊張してきちゃった……」
「そんな緊張することねえだろ。おまえだってクウガなんだから、実質的には同じようなもんだ」
「そうかもしれないけど、そういう理屈じゃなくて……」
「緊張するのはいいが緑谷くん、竦んでいても仕方がないだろう!プルスウルトラ、しよう!」
「プルスウルトラ……うん、プルスウルトラ……!」
「プルスウルトラァ!!」と叫びながら、勢いよくポレポレの扉を開け放つ出久。傍から見るとちょっと危ない感じが出てしまっていると、雄英OBふたりは感じたのだが。
「あっ、デクくんおかえり!」
迎えることばを放ったのは麗日お茶子。彼女、そして元々いたおやっさん、桜子、心操のほかに――
「おっ、来たな緑谷!」
「待ってたわ、緑谷ちゃん」
面識のある切島、蛙吹を筆頭に、雄英OB、OGのヒーローたちが次々と立ち上がる。
「お初にお目にかかります緑谷さん、わたくし八百万百と申します。以後お見知りおきを」
「俺、峰田実、ヨロシク!早速だが緑谷、好きな女体のタイプを教えてくれ!!」
「あんた初対面の人相手に……。耳郎響香です。で、こいつがバ……上鳴電気」
「響香おまえ、いまバカミナリって言おうとしたろ!?俺言うほどバカじゃねえからな!?そこんとこよろしくな緑谷!」
早速なんだか個性豊かな四人衆に囲まれてしまい、出久の緊張はマキシマムにぶり返してしまった。
「ひゃひゃひゃいっ、よよよよろしくおねがいしゃしゅっ」
「ギャハハハ!話にゃ聞いてたけどすげーテンパり方だな!おまえあの爆発さん太郎の幼なじみなんだろ?俺らともフツーに仲良くしようぜー」
「爆発……さん太郎……!?」
誰を指しているかは明白だが、あの悪鬼羅刹を相手にそんないじり方ができるとは。やはり恐るべし雄英。
そんな出久の所感をよそに、上鳴は「俺のことも"でんちゃん"って呼んでいいぜ!」なんてのたまい、肩まで組んでくる。相手が同性なのにもかかわらず出久は顔を真っ赤にした。当然、相手がプロヒーローだからというだけなのだが、悲しいかなお茶子にかの疑惑を思い出させてしまうのだった。
「――上鳴、その辺にしとけ。緑谷が困ってる」
「!」
出久の後ろからひょこりと現れた焦凍の姿を認めて、一同、一瞬固まった。
そして、
「――ひっさしぶりだな轟ィ!!行方不明になったときはマジで心配したぜ!」
「電話にくらいは出てほしかったわ、轟ちゃん」
「悪ぃ、色々迷惑かけた」
出久のことに軸足は置きつつ、焦凍にも絡んでいく同級生の面々。
とりわけ、彼女は――
「ほら、百」
「!、………」
耳郎に促され、比較的控えめだった八百万が進み出てくる。さすがに空気を読んだ切島たちが引き、彼女は焦凍と一対一で向かいあうことになった。
「……お久しぶりです、轟さん」
「……ああ」
それきり、互いにことばが出てこない。言いたいことはたくさんあるのに、複雑に絡みあう感情がそれを形とすることを許してくれないのだ。
だが……だからこそ焦凍が、声をあげた。
「――ごめんな」
「……!」
あらゆる言い訳の前に、まずそれだけは言わなければと思った。
目を見開いた八百万は……その想いの奔流を抑えて、笑みを浮かべる。
「いいんです……ここにこうして、いてくださるだけで……」
「八百万……」
「おかえりなさい、轟さん」
「……ただいま」
これからは好きなだけ、ことばをかわしあうことができる。だからいまのふたりには、それだけで十分だった。
――ただひとり、峰田実だけは「めでたしめでたし」からは程遠い表情を浮かべているのだが。
「なんだよイケメンがよォ……そんななんでもねえふうにヤオヨロッパイを掻っ攫ってくのかよォ……!」
「峰田おまえ、さすがに空気読めってー。一応はこう、感動的な空気だったんだからさ」
上鳴が笑いながら窘めるが、これがかえって火に油を注ぐ結果となった。
「ウルセェよバカミナリ!!おまえだけは仲間だと思ってたのに、ちゃっかりリア充になりやがって……この裏切者がぁ!!」
「裏切者っておまえ、そんなヴィラン堕ちしたみたいな言い方……」
「似たようなもんだ!これが終わったあとだってどうせ、耳郎と一発しっぽりイクんだろブベラッ!!?」
蛙吹の舌の一撃が決まった。
「初対面の人がいる前で……さすがに目に余るわ、峰田ちゃん」
「う゛ぅぅぅぅ……チクショウ、チクショウ……!」
「……なんかごめんな、峰田。今度カワイイ娘紹介してやるから……」
「――マジで!?」
早速、復活を遂げる峰田。問題はあるにせよ、湿っぽい空気を吹き飛ばしてくれたのは間違いなかった。
「あ、ハハハ……気を取り直して、パーティーはじめよっか!デクくんもほら、席座って!緊張しちゃうだろうから、最初は心操くんと沢渡さんの隣でいいかな?」
「う、うん。ありがとう麗日さん」
カウンター席の真ん中に案内され、座る。お茶子、そしておやっさんの店主としての挨拶を皮切りに、ついに出久の誕生日会が開始された。まず皆から出久へのプレゼント贈呈――これは事前に相談して決めたらしく、それぞれのヒーローネームと本名が併記されたサイン色紙。「高価なものだとデクくん受け取ってくれないと思って!」とはお茶子の言。そのとおりなのだが、そもそも彼女の資力ではどだい不可能なのだった。
「あっ、ありがとうみんな……!一生大事にするよ、でも九人分もどこに飾っておけばいいだろう、アパートも実家もそんなにスペースないし、なら厳重に保管しておくべきだろうかでも目につくところに置いておきたいしああどうしよう悩ましいなぁぁぁぁ!!」
恒例のブツブツが始まった出久に対し、
「緑谷……さすがにみんな引いてる」
そういう心操も、少しだけ引いていた。
次いで欠席した面々からのメッセージ――勝己を除いて全員が送ってきた――をお茶子が読み上げ、出久を感涙させたあと、ポレポレオリジナルパーティーカレーに皆で舌鼓を打ち。その間隙を縫って出久を取り囲んでの歓談が続く。約一名、懲りずに桜子を口説こうとして撃沈してしまった者もいたが。
「モテモテだな、緑谷」
「……からかわないでよ、心操くん。大体、きみだって結構絡まれてるじゃないか」
「まあな。そういう連中なんだよ、こいつら」
そういう連中――もしも自分が雄英に入学できていたら、そのひとりになれていたのだろうかと出久は思う。たとえば焦凍ではなく、ヘドロ事件の直前に邂逅した自分が、オールマイトからワン・フォー・オールを継承していたら。
(いや……やっぱりやめよう)
そんな「もしも」を考えたところで仕方がない。右に進むか左に進むか、たったそれだけの選択でも世界は変わる。無限に枝分かれする可能性のひとつに、ことさらかかずらっても仕方がないのだ。大切なのはいまを生きること、そして未来を自分の責任で選びとっていくこと。
ふと視線を感じて、出久は右隣を振り返った。――そこに座る桜子と視線が交錯する。彼女は目を細めて笑っている。
(そうだ、)
もしもヒーローになれていたら。心操はともかく、桜子とこうして親しくなることはなかったかもしれない。この出会いはヒーローになれなかった、でも生きることをあきらめず、身の丈に合った生き方を一生懸命してきたがゆえに勝ち取ったものだ。それでもヒーローとなった彼らに出会えたことも……幼なじみと、再会できたことも。
出久がその事実を噛みしめていると、再び心操から「緑谷」と声がかかった。
「ん、なに?」
「いや……フードの中、何か入ってるぞ」
「えっ?」
「取っていいか」と尋ねられたのでうなずき再び後ろを向くと、心操の手がフードの中から何かを取り上げた。
「オールマイト、チョコ……?」
「へっ?」
慌てて振り向いて見遣ると、確かにそれはあの懐かしき輝く笑顔に包まれた直方体だった。
様子に気づいた一同も寄り集まってくる。
「うお、オールマイトチョコじゃねえか。懐かしい!」
「ケロ……確かこれ、再販しているのよね。でも、どうして緑谷ちゃんのフードから出てくるのかしら?」
「!、電気……アンタか」
「は!?違ぇよ!いきなりンな悪戯しねえよ、渡すんならフツーに渡すし!」
だが、上鳴にはいまにして思えば怪しい行動があった。ガチガチに緊張している出久を引き寄せ、肩を組んだ。その際さりげなく差し入れることは可能ではないか。――焦凍がそれを指摘したせいで、皆の疑いの目が突きつけられる。
だが、
「――違う、上鳴くんじゃないよ」
「え?」
「緑谷!」
救けに来たヒーローを見るような目を向けてくる上鳴に苦笑しつつ、
「多分、ここに来る前から入ってたんだ」
「心当たりあるの?」桜子が訊く。
「……うん」
オールマイトチョコ――4歳の誕生日、彼が自分に贈ろうとして果たせなかったもの。
(覚えてないなんて………かっちゃんの、うそつき)
批難のことばは、己の胸の中で柔らかく響く。出久はそっとチョコを手で包み、胸に当てた。勝己のぬくもりが、まだ残っているような気がして。
「!、もしかして緑谷くん、それはばくごむぐっ」
「……飯田、気づいても言わねえほうがいいやつだ。俺にもわかる」
飯田の口を押さえた焦凍。ふと切島と目が合う。苦笑いしているところを見るに、彼もまた察したらしい。さすがは相棒である。
「にしても、バイク乗ってきたのによく落とさなかったな」
「うん……」
どこかで落ちて、出久が気づかなかったら。それまでだと、勝己は思ったのかもしれない。――それもまた、彼らしい。
「出久」おやっさんが声をかけてくる。「せっかくだしそのチョコ、ケーキに乗せてやろうか?」
「あ……そうですね。お願いします」
皆、カレーもあらかた食べ終わり、酒も飲み――そろそろこの誕生日会の要に移行する頃合いとなっていた。
買ってきたホールケーキに、オールマイトチョコが乗ったものが出される。「砂藤くんが来られたらケーキも頼めたんだけどね~」とはお茶子の言。確かに彼はお菓子作りを趣味と公言していて、動画サイトでもそれにちなんだ公式配信を行っている。朴訥でマッチョなビジュアルとは裏腹に女性ファンが多いのもそのためだ。
「じゃあ皆さん、一曲ヨロシク!」
おやっさんが懐かしのラジカセの再生ボタンを押すと、幼少以来の軽快な音楽が流れ出す。
「Happy Birthday to you」――出久に向けられる祝福の詞。自分はいま、こんなにもたくさんの人と出会うことができた。
(あぁ、僕はこんなにも、)
(こんなにも……幸せだ)
「――誕生日、おめでとう!!」
響く、声。その中にここにいないもうひとりの声色も混ざっているように思われて、出久は笑う。
そして彼は――灯火揺らめく21本の蝋燭を、思いっきり吹き消したのだった。
――Happy Birthday、デク!