【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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イブに男3人で熱い(平ジェネFINALの余韻的な意味で)夜を過ごす予定


EPISODE 8. デッドオアマッスル 1/4

 

 未確認生命体第7号――ズ・ザイン・ダの凄まじいパワーの前に、追いつめられる戦士クウガ。それに匹敵する力を求めた彼は、銀と紫の逞しき戦士、タイタンフォームへと変身を遂げる。その堅牢な鎧、ひと回り太くなった四肢を信じ、彼はザインとのデスマッチに臨む――

 

 

「………」

 

 異形たる者たちの演じる肉弾戦。その様子をじっと見物する複数の影があった。

 ショートカットの美女に、ふたりの男、ひとりの少年。まとまりのない取り合わせの四人は、しかしいくつか共通点があった。まずひとつは、いずれも街では見かけないような、奇異な服装をしているということ。しかも、腕や手の甲などに生物を模したタトゥが刻まれている。

 そしてもうひとつは、

 

「ババババダボギゴグザバ、ザイン」

「ザベドガンラシ、ガゴンゼスド……ジバンギセビバチャチャグジョ?」

「ゴセパパサゲスバ」

「………」

 

 いずれも、日本語とは似て非なることばで会話している。――彼女らがザインの同族……グロンギの一員であることを如実に示していた。

 

「ザグ……()()()()()()、クウガ……」

 

 唯一日本語でつぶやいた女の視線は、ただクウガのみを射抜いていた。

 

 

「うおおおッ!!」

 

 雄叫びをあげながらザインを殴りつけるクウガ・タイタンフォーム。その拳が顔面を打ち、ザインは「グワァ!?」と声をあげてよろける。――この形態のパンチ力は、マイティフォームの二倍を優に超える。いくら全身鋼鉄のようなザインであっても、ノーダメージというわけにはいかなかった。

 しかし、その防御力が侮れないのもまた事実。ザインはすぐに立ち直ると、お返しとばかりにラリアットを見舞おうとする。

 

「ッ!?」

 

 思わず一歩退いてしまうクウガ。それでも即座に態勢を立て直し、再び攻撃を仕掛ける。だが今度の攻撃は腰が入っておらず、さほどの効果をもたらすことはなかった。

 一進一退の勝負が続く。戦況はほぼ互角。しかしながら、変身する出久に当初感じていたような高揚感はなかった。

 

(ッ、う、動きにくい……!)

 

 先ほどまで身軽なドラゴンフォームの姿をとっていたことも影響しているのだろうが、あまりに身体が……というより鎧が重かった。敵の攻撃が掠ったくらいではびくともしないとはいえ、思いどおりに動けないことは出久の心に恐怖を生み出していく。

 

 それでも、パワーと防御力に長けたこの形態で戦うしかない。そうしてクウガとザインの果てしなき肉弾戦が続くなか、リングであるこの工場内にサイレンの音が複数近づいてきた。

 

「!、あれは……」

 

 先駆けて現れたパトカー。その運転席から飛び出したのは、ヒーロー・爆心地こと爆豪勝己。異形と化した幼なじみの戦いを見やる彼の心境を見透かすかのように、次いで現れた大柄なヒーローがつぶやいた。

 

「また姿を変えたようだな、第4号は」

「!」

 

 すぐ後ろを追ってきたパトカーに乗っていたのは、エンデヴァーだったらしい。運転手を務めたのだろう鷹野警部補が無線で連絡をとっている。彼女はともかく、言い争って間もないベテランヒーローの登場に苦虫を噛みつぶす勝己。

 そんな彼の情念など一顧だにせず、エンデヴァーは言い募る。

 

「あの姿……パワーに特化した姿か。だが――」

 

「――逃げているな」

「……!」

 

 そのひと言に、勝己ははっとする。一見がむしゃらに殴り合っているように見える二体。ザインは確かに殴られることにほとんど無頓着のようだが……クウガは、そうではなかった。相手の拳が迫る度、わずかに腰が引けてしまっている。そのせいでカウンターの威力が殺されてしまっているようだった。

 

「チッ、あのボケが!」

 

 見ていられなくなった勝己は、爆速ターボの構えで参戦しようとする。しかし、

 

「待て、爆心地。ここは私が行く」

「あ?何言ってんだ、あんたは――」

 

 勝己の声などもう耳に入っていないようだった。エンデヴァーは一歩進み出――刹那、全身に火炎を漲らせる。"ヘルフレイム"――炎を扱う個性の中でも、最強クラスに位置付けられている。彼が繰り上がりとはいえナンバーワンの座に上りつめた最大の所以だ。

 

「!」

 

 そんな猛火が至近距離で発生して、目の前の敵だけに意識を集中していた異形たちは、流石に彼の存在に気づいた。クウガなどは「エンデヴァー!?」と声をあげ、反射的に腕で顔を庇っている。

 そんな挙動すらもまったく無視して、ベテランヒーローは己が力を振るった。放たれた獄炎は、ザインにのみ向かっていった。

 

「グオアァッ!?」

 

 一瞬にして火だるまになり、転げ回るザイン。対して、クウガはわずかに火の粉を浴びるだけで済んだ。

 

「ガ、ガヅギ、ガヅギ……――ゴボセェェッ!!」

 

 全身の皮膚を焼き尽くされる苦痛はその軒昂な戦意を喪失させるだけの効能をもたらした。炎上しながら、それでもザインは逃走を開始する。この工場のすぐそばには崖があり、下は川になっていた。そこに飛び込んだのだ。

 

「ふん、逃げるか。――鷹野警部補、応援を流域の捜索に充てるよう提案する」

「はっ!」

 

 ヒーローの"提案"を承った鷹野が、その旨を無線で伝達する。いますぐ飛び込めば自分たちでも捕捉できる。そうしなかったのは言うまでもない、彼自身も勝己も水場ではほとんど機能しない個性だからだ。

 単純な戦闘能力だけでなく、冷静沈着な判断力もすぐれているところを見せつける。それに、ヒーローと警察の関係性を尊重する抜け目のなさも。

 弱点などない――あくまでヒーローとしては――ように見えるエンデヴァー。しかしいまの彼には致命的な弱点があることを、既に勝己は知っていた。

 

「!、ぐ……」

 

 突然左肩を押さえ、その場に片膝をつくエンデヴァー。その表情が、苦しげに歪む。

 

「エンデヴァー!?」

「チッ……だから言わんこっちゃねえ」

「ッ、黙……れ。きみなどに心配されるような、ことでは……」

 

 立ち上がろうとするエンデヴァー。その烈しい炎の瞳に射すくめられ、クウガははっと我に返った。憧れの"平和の象徴"オールマイトに次ぐヒーローの敵意を浴びて、恐怖に似た、しかしそれとは異なる感情が身体を震わせる。

 そんな彼の様子に気づいた勝己は、一見エンデヴァーと同じように睨みつけながらも、無言で顎をしゃくった。その先には、倒れたままのトライチェイサーが放置されている。

 

「……ッ」

 

 クウガはその姿を赤に戻すと、トライチェイサーに向かって駆けた。車体を起こして跨がると、即座に発進させる――

 

「ッ、待ちなさい!TRCSを……!」

 

 遠ざかる背中に鷹野が拳銃を向ける。反射的に制止しようとした勝己だったが、それよりエンデヴァーが先んじた。

 

「……やめたほうがいい、警部補」

「!、しかし……」

「焦らずとも奴はまた必ず現れる。貴重な弾丸一発、きみほどの刑事が無駄撃ちすることもあるまい」

「……了解しました」

 

 エンデヴァーの声はすっかり元の調子に戻っていた。手助けもなく颯爽と立ち上がると、鷹野の端末で下を流れる小貝川の周辺マップを確認、早くも捜索班の配置を検討している。

 

「………」

 

 先ほどの変調などまるでなかったかのような平然とした様子。しかし勝己は知っていた。それこそが、エンデヴァーが一時引退を決意した最大の原因であるのだと。

 

 

 

 

 

――同時刻、つくば市内

 

 行動開始からたった数時間で数十人を虐殺した、ズ・ザイン・ダの残した爪痕は大きかった。

 トンネル内は、横転したトレーラー、それに巻き込まれた車両などが玉突き事故を起こし、凄惨な二次被害を発生させていた。潰れた車に閉じ込められた者、逆に投げ出されて下敷きになってしまった者――大勢の被害者の苦痛の呻き声にあふれている。

 

 しかし、それだけではない。既に現着し、救助活動に従事する人々の姿もある。地元の消防隊及びレスキューヒーローチームの面々だ。

 地元だけではない、大規模な災害となったこの案件には、都内に拠点を置くブレイバー事務所の所属ヒーローたちも総動員されていた。これは地元の事務所の所長とブレイバーが高校時代の同級生であることによる。

 召集されたウラビティこと麗日お茶子もまた、この場で忙しく走り回っていた。

 

「もう大丈夫です、いまどかしますから!」

 

 車の下敷きになった男性にそう声をかけ、指の肉球で車に触れる。すると、まるで無重力下のように車が浮き上がってしまった。――彼女に触れられたものは、皆、無重力と同じ状態となるのだ。

 車が浮き上がっている間に救助隊が駆けつけ、男性を担架に乗せて運んでいく。周囲から人が離れたところで、個性を解除――

 

「……ふう」

 

 そんなことを何度も繰り返し、彼女は深い溜息をついた。幸いキャパオーバーによる吐き気はまだ催していないが、間違いなく疲労は蓄積しつつある。

 しかし、

 

「ウラビティ、休むのは全員救出してからにしろ!次はこっちだ!」

「!、はっ、はい!」

 

 先輩ヒーローの叱責が飛んでくる。はっと我に返ったお茶子は流れる汗を乱暴に拭い、再び駆け出した。

 

 

 

 

 

――城南大学 考古学研究室

 

 沢渡桜子は気もそぞろだった。

 

 研究室内に設置されたテレビ。そこに映されているのは本来この時間に放送されている昼のワイドショーではなく、未確認生命体出現を伝える報道番組。茨城県内に出没した第7号の動向をリアルタイムで伝え続けている。

 茨城県と文京区にある城南大学は隣接しているとはいえかなりの距離があり、7号ことザインが近場に出没する可能性はひとまずないと言っていい。

 にもかかわらず彼女が気を揉んでいるのは、友人以上の関係にある年下の青年・緑谷出久が未確認生命体第4号――クウガであり、つい先ほどまでザインと交戦していたことが明らかになっているからだ。

 

 いまはどちらも逃走中とのことだが、それ以上の具体的な状況は知るすべもない。出久が無事なのか知りたいのはもちろんのこと……一刻も早く、伝えたいことがあった。

 

 と、そんな彼女の願望に応えるように、遂に電話が鳴った。弾かれたようにスマートフォンをデスクからぶんどる。発信者は――緑谷出久!

 

『あ……もしもし』

「もしもしっ、大丈夫!?7号と戦ったんでしょう?」

 

 出久の戦いを応援し、またサポートしていくと決めたとはいえ、心配なものは心配だった。もっとも、こうして自力で連絡してくる以上、それほどの大怪我にはなっていなかろうが。

 

『うん、一応無事かな……ただ、奴はすごく強くて。赤でも青でも敵わなくて――それで、今度は銀、いやあれは紫なのか……?』またブツブツと始まりかける。

「あーもう、なんでもいいから!」

 

 桜子が軽く叱りつけると、出久ははっと我に返ったらしい。「すいません!」と謎の空を切る音とともに謝罪のことばを叫ぶと、気を取り直して続けた。

 

『えっと、また違う姿に変身したんだ!パワーがすごくて、鎧も分厚くて、その代わり動きも鈍い……って感じの姿なんだけど、解読でそれっぽいのが出てないかな……と思って』

「!、ちょうどよかった……。実はそれらしい解読結果が出てて、早く報せたかったの」

『ほんと!?』

「早速読むね、いい?」

『うん』

 

――解読結果を伝える……と、出久は暫し沈黙していたが、

 

『……ありがとう。なんとなく戦い方が見えてきたよ』

「それならよかった。……でも、無理しないでね?」

『はは……なるべくがんばるよ。それじゃ、また』

 

 ぷつっ、と音が鳴り。電話を置いた桜子は、深々と溜息をついた。新たな形態のとるべき戦法がわかれば、きっとクウガは勝てる。――出久は、生きて返ってくる。

 

「それなら、徹夜した甲斐もあるってもんよね……」

 

 スマートフォンの隣に置かれた栄養ドリンクの瓶を眺め、桜子がしみじみつぶやいていると、研究室の大きな扉が突然開かれた。

 現れたのは190センチ近い長身の、白皙の青年だった。人なつこい笑みが顔に浮かんでいる。

 

「Bonjour、桜子サン」

「あっ、ジャン先生」

 

 ジャン・ミッシェル・ソレル――考古学研究室に籍を置く若きフランス人講師である。

 

「また徹夜デスカ?お肌に悪いヨ」

「あはは……大丈夫です、若いから」

 

 ところで、と桜子は話を切り替える。

 

「発掘調査のほう、何か出ましたか?」

 

 ジャンはいま、九郎ヶ岳遺跡周辺の発掘調査を担当していた。遺跡、とひと口に言っても、そう呼ぶべきものは周辺地域に点在している。何も起こっていなければ夏目教授ら調査団が引き続き行っていたであろう調査、それを事件当時休暇で母国に一時帰国していたジャンが引き継いだのである。

 

 桜子の質問に対し、意を得たりとばかりにジャンがにやりと笑う。

 

「それがネ、トンデモナイもの、ドンドン出てきてマスヨ」

「とんでもないもの?」

「Oui!」

 

 

――その一方、桜子から解読結果を聞いた出久はというと、

 

「……はぁ~」

 

 溜息とともに、ずるずると石段に座り込んだ。彼は一旦逃走したのち、道中にあった鄙びた神社で休憩をとることにしたのだ。

 正直に言って、疲労困憊だった。流石に第6号――ズ・バヅー・バにビルから突き落とされたあとのような辛さはないが、全身に鈍い痛みが残ったままだ。

 

 無論、いつまでもここで燃え尽きているつもりはない。第7号発見の報が入れば、即座に動き出すつもりだ。そこで、紫――複眼とアークルの色からそう判断した――の戦士の、真なる戦法で挑む。

 

「……"切り裂く"かぁ」

 

――邪悪なるものあらば、鋼の鎧を身につけ、地割れのごとく邪悪を切り裂く戦士あり。

 

 桜子の口から語られた碑文。切り裂く、ということは、武器は恐らく剣なのだろうが。

 

「剣……斬る、突き刺す……」下唇に手をやる。「あいつは恐らく自分から突っ込んでくる……だけどあの重い身体で、その猛攻をかいくぐるなんて、僕にできるのか……?」

 

 ザインの突進はそれこそ本物の犀のような烈しさ。文字どおり猪突猛進ゆえ、隙を見つけることは難しくはないだろうが……そこからこちらの攻撃に繋げることが自分にできるのだろうか?

 古代の戦士は、きっとそれをしていた。クウガの力にもそれだけのポテンシャルはある。――だが出久は、そこまでの自信がもてなかった。他ならぬ、自分自身に。

 

「……ッ」

 

 そんなことで、苦悩している場合でないのはわかっている。だが、それでも――

 

 

「――あれ、緑谷……さん?」

「!」

 

 心なしか力ない、それでもかわいらしい女性の声。はっと顔を上げた出久の前に立っていたのは、ボディラインの出る特徴的なヒーロースーツに身を包んだ女性で。

 

「麗日……さん?」

 

 一日のうちで二度目の、予想だにしない邂逅だった。

 


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