【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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平ジェネFINAL観ました。名作でしたね。各ライダーのキャラを活かした展開が多くてどのライダーのファンも満足できる内容だったと思いますが、やっぱり特にオーズはすごく良かったです。これから見に行く方はアンクの最後の表情に注目してみてください。

そして一緒にいった心理学部の友人とデク&かっちゃんの関係性について議論しました。心理学の観点で目から鱗なアドバイスをもらえた気がします。この作品で活かせるかな…活かせるといいな……


EPISODE 8. デッドオアマッスル 3/4

「……やられたね」

「……ええ」

 

 河岸の山道に、沈痛な面持ちで立ち尽くすふたりの青年――ヒーロー・インゲニウムこと飯田天哉と、警視庁刑事・森塚駿。大人と子供ほどの身長差がある彼らの見る光景はまったく同じもの――ぐしゃぐしゃになった鉄塊だった。モノトーンのカラーリングが、それがつい数十分前までパトカーだったことを主張している。

 

 鉄塊に混ぜ込まれた肉塊に手を合わせたあと、森塚はガードレールから身を乗り出して下を覗き込んだ。

 

「7号はかんっぜんに行方不明か……ルパンばりに逃げるねぇあいつら」

「こんなときまでそのような……一刻も早く7号を見つけ出さなければ!これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないでしょう!?」

 

 背丈ばかりか体格でも圧倒的に勝る飯田に詰め寄られ、森塚は「ひー」と演技がかった怯え声を発する。

 

「ま、まあまあ、そう肩肘張らずにさあ……。一応県内のトラックは運転自粛させてるし、焦らず対策考えようよ。要するに、人里に下ろさなきゃいいわけですし」

「それはそうですが……」

 

 こんなときまで飄々としている森塚に飯田が頭を悩ませていると、徐にサイレン音が近づいてきた。ほどなくして、一台のパトカーが現れる。

 

「!、あれは……」

「おー、鷹野さん」

 

 停車したパトカーの運転席から鷹野警部補が舞い降りる。同じ刑事でも森塚とは異なり、彼女の表情は険しかった。

 

「7号は!?」

「……いえ、我々が駆けつけたときにはもう」

「エンデヴァーのヘルフレイムでも短時間活動を停滞させるのが精一杯とはね……あれ、そういえばエンデヴァーはどうしたんです?」

 

 鷹野のパトカーを覗き込みながら、森塚。飯田もそういえばと思った。鷹野はエンデヴァーを伴って行動していたはずだ。

 

「彼なら病院に送り届けたわ。塚内管理官の命令でね」

「病院って……なんで?」

「……そうでしたか」

 

 首を傾げる森塚に対し、どこか予期していたような様子の飯田。――勝己だけでなく、彼も知っていたのだ。エンデヴァーがもう、長く戦える身体でないことを。

 

(轟くん……こんな大事に、きみはどこで何をやってるんだ……!?)

 

 彼がヒーローとしてあったなら。エンデヴァーが傷ついた身体を押して戦うことはきっとなかったし、何より4号ひとりに頼らずに殺戮を止めることができていただろう。

 しかし、そんな彼を失った責任は自分にもある。友人である自分が、もっと彼の力になってやれていれば――

 

 もはや、すべては過去のこと。いまは目の前の使命を果たすしかないのだと自分に言い聞かせながら、飯田天哉は拳を強く握りしめていた。

 

 

 

 

 

 トライチェイサーを駆る緑谷出久は、怪訝な思いにとらわれていた。

 

 彼はいま、目の前を走る黒塗りの自動車を追いかけている。幼なじみの爆豪勝己が運転している車だ。

 

(かっちゃん、どこに向かってるんだろう……?)

 

 「ついてこい」と言われおとなしく従ってはいるが、行き先をいっこうに告げてこないのが解せない。7号を発見したならお茶子から離れた時点で無線で伝えてくるだろうし、他の目的地があるにせよ――

 

 そのうちに車両は造成地に入っていく。舗装されていない砂利道に車体がぐらついているのに対し、高性能なオフロードマシンであるトライチェイサーはまったくものともしていない。流石だ、なんて出久が感心していると、岩肌のそばで車両が停車した。出久も慌ててブレーキを捻る。

 運転席から降り立った勝己が、軽く伸びをしながらつぶやいた。

 

「ここならいいだろ」

「あの……かっちゃん?」

 

 ここに一体なんの用事があるのか、さすがに訊かずにいられなくなった出久。しかし、応答の代わりに返ってきたのは、

 

「デク、変身しろ」

「えっ!?」

「さっきのクソ鎧のやつにだ」

「いや、ちょっと……な、なんで?」

 

 見たところここにはかのグロンギの影も形もない。ゆえにその問いが発せられるのは当然のことであった。

 頭の回転が速い勝己がそれをわかっていないはずがない。だが、わかったうえでこう言うのだ。

 

「いいから早よしろ」

「……ッ」

 

 そう凄まれれば、出久はもう従わざるをえない。これ以上ごねれば爆破が待っているに決まっているのだから。

 仕方なく、出久は変身の構えをとり、

 

「……変身!」

 

 アークルの中心の霊石が紫色に発光し、出久の全身がふた回りも巨大化する。筋肉で膨れあがった胴体を覆うように分厚い鎧が現れ、

 

 出久はクウガ・タイタンフォームへの変身を完了した。

 

「………」

「あ、あの……かっちゃん……」

 

 じろじろと全身眺め回してくる勝己。とにかく居心地が悪い。

 しかし、そんな時間は長くは続かなかった。ふう、と小さく溜息をつくと、勝己は思わぬことを言い放ったのだ。

 

「よし。デク、俺と戦え」

「……え?」

 

 こんなときに一体何を言っているのか。あるいは、自分が彼の意図をきちんと受け取れていないだけか。

 

――直後、勝己が地面を蹴って襲いかかってきたために、自分の耳も理解力も至って問題ないことがわかってしまった。

 

「オラァッ、死ねぇぇ!!」

「うわぁっ!?」

 

 目の前に突き出された掌。烈しい爆発を起こされ、ぎょっとしたクウガは思わず尻もちをついてしまった。

 

「ななな、な……ッ、何すんだよ、かっちゃん!?」

「ウルセェ!戦えっつっただろうがあああ!!」

 

 理由も語らず、勝己は鬼の形相で爆破をぶち込んでくる。情けなく地面を転がって躱しながら、出久は必死に幼なじみの暴挙の理由を分析しようとする。

 

(な、なんか怒らせるようなことしたっけ?あいつ逃がしちゃったから?そのあと連絡しなかったから?いや、もしかして何もかも?僕がクウガであること自体やっぱり許せなくなったとか!?)

 

 いくら考えてもわからない。そもそも、出久には昔から勝己の心がまったく読めなかった。きちんと読めていたなら、そもそもあんなに関係が拗れることはなかっただろう。

 

 思考をめぐらせている間にも、勝己はどんどん爆炎とともに迫ってくる。鈍いこの形態では避けきれない。ひとまず青になろうかと考えはじめたそのとき、それを見透かすかのように彼は叫んだ。

 

「姿変えんなやッ、意味ねえだろうが!!」

「ハァ!?」

「理不尽だと思うんならよォ……逃げてねえで向かってこいやクソナードォ!!」

「……ッ」

 

 "理不尽"――いましていることがそうなのだと、勝己自身よく理解している。ならばこの行動は、感情にまかせたものではないということか。

 

「ッ、知らないぞ、どうなっても……!」

 

 態勢を立て直し、言われたままに向かっていこうとするクウガ。瞬発力はどん底レベルでも、まっすぐ前進するぶんにはこの姿でも常人より遥かに速い。マッシブな巨体が闘気をまとって迫ってくるのだから、流石の勝己も本能的に恐れをなして退がるのではないか。

 

「――甘えんだよ、テメェは」

「ッ!?」

 

 勝己が跳躍し、目の前から消える。クウガが声をあげる間もなく急降下、そして――

 

榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)ッ!!」

 

 最大出力の爆破が、彼に浴びせかけられた。

 

「うああっ!?」

 

 恐れをなしたのはクウガのほうだった。横に跳んで躱そうとして、重い身体を制御できずにバランスを崩して地面にダイブする。砂利が銀と紫の鎧を汚した。

 

「く、そぉ……!」

 

 直撃はぎりぎり避けたし、頑丈になった身体のおかげでほとんどダメージはない。だが、こうして地べたに這いつくばっている現況は――彼に、敗北感を与えるに十分すぎた。

 

(ッ、どうすりゃ……いいんだ……!?)

 

 思わず砂利を握りしめるクウガの頭上から、勝己の冷徹な声が飛ぶ。

 

「弱ぇな、テメェは。()()()()と変わっちゃいねえ」

「……!」

 

 それがいつを指しているのか、出久には一瞬でわかった。人質になった幼なじみを見捨て逃げ出した、僕はヒーローになれないと思い知ったあの少年の日。

 

「ち、違う……僕はもう、あのときとは――」

「力を手に入れたからか?――テメェのそのへっぴり腰の戦い方で、クウガの力ァ活かせてるって?」

 

 「笑わせんな」と、勝己は冷笑する。

 

「いくら強い力もってようが、自分の力を信じられねえヤツは弱ぇんだよ。自分も信用できねえ弱っちい人間に他人が救えると思うんか、テメェは!?」

「……ッ」

 

 そうさせたのはきみじゃないか。――しかしそれを差し引いても、勝己のことばは正しいと出久には思えた。

 

(そうだ……。自分の心も救えない人間に、誰かを救えるわけがない……!)

 

 みんなの笑顔を守りたい――その想いを、かなえられる力。その力によって自分はいま、かつて憧れたヒーローのごとき屈強な肉体を手にしている。

 この腕を、脚を、鎧を――"筋肉"を、信じる!

 

 徐に立ち上がった紫のクウガは、再び幼なじみめがけて前進を開始した。ただし、今度は走らない。どっしりと、地面を踏みしめるようにして歩を進める。

 

「オラァッ!!」

 

 容赦ない爆破も、再び。やはり反射的に避けようとする身体を、出久は懸命に制した。力を、信じる――そう決めたがゆえ。鋼鉄と筋肉の鎧がきっと、すべての攻撃を受け止めてくれる――

 

 実際、タイタンフォームの身体にはそれだけのポテンシャルがあった。ダイナマイトの爆発を至近で受けようと、その鎧には傷ひとつつかない。鎧に守られていない部分とて、それに次ぐ防御力をもつ。――そもそも、敵の攻撃から逃げる必要自体なかったのだ。すべて受け止め、突き進めばいい。

 

「ハッ……クソ固ぇじゃねぇか……」

「………」

 

 本気の爆破を浴びせかけようとも迫ってくるタイタンフォームを前に、勝己は不敵に笑う。

 

「見せてみろやデク、テメェの……本気をよぉ!!」

「!」

 

 顔面を掴まんばかりに突き出した掌から――最大級の爆破を放つ。出久に限らず、ふつうの人間なら必ず反射的に避けてしまうであろう顔めがけての一撃。

 それでも彼は、

 

(逃げるな……突き進めッ!!)

 

 視界を覆う閃光と火炎にも怯むことなく、拳を突き出した。7トンにも及ぶ威力のパンチに、疾風が巻き起こる。

 

「………」

「………」

 

 暫し、沈黙が続く。勝己の掌と、クウガの拳。互いが互いの目前に凶器をつきつけている。

 やがて我慢がきかなくなったのは、異形ゆえ表情のまったくない鋼鉄の戦士のほうで。

 

「――これで、いいんだよね……かっちゃん……?」

「……自分で考えろや、クソボケナード」

 

 冷たく突き放した物言い。しかしそこに失望の色はない。勝己なりの肯定のことばなのだろうと思うと、急に身体から力が抜けた。

 

「ありがとう、って言いたいけど……やり方が乱暴だよかっちゃん……」

「うるせえ、ベルトむしり取んぞ」

「そのフレーズ前にも聞いた……」

 

 ともかく、欠けていたピースはこれで完全に埋まった。桜子の解読結果と合わせて、もうタイタンフォームは完璧に使いこなせる――

 

 と、そのときだった。クウガが出久の姿に戻ろうとしていたちょうどその瞬間に、勝己の覆面パトカーの無線が鳴ったのである。

 

「!」

 

 疲労など微塵も見せず、颯爽と駆けていく勝己。クウガもまたトライチェイサーのパネルを操作し、無線を傍受することにした。

 

『こちらインゲニウム!爆心地、応答してくれ!』

「俺だ。見つかったんか?」

『いや……』

 

 否定しておきながら切迫する飯田が告げたのは、思わぬ状況の変転だった。

 

『第7号を誘き出すためのトラックを借り受けられないか、近隣のレンタカーの店舗に協力を要請していたんだが……そのうちのひとつから"ブレイバー事務所所属ヒーロー・ウラビティ"を名乗る女性がトラックを借りていったという情報を貰ったんだ』

「!、あいつが……!?どういうこった、そりゃあ!?」

『ぼ、俺に訊かないでくれたまえ!無論なりすましの可能性もゼロではないが、話を聞く限り外見的特徴なども一致しているし……』

「……もういい、間違いなくあいつだ。それで、そのトラックはどこにいる?」

『あ、ああ。聞き込みによると――』

 

 飯田からトラックの推定現在地を聞き出し、通信を打ち切ると、勝己はちらりとクウガに目配せした。すべて聞いていたことを示すべく、力強くうなずく。

 そして暗証番号を打ち込んでトライチェイサーをゴールドヘッドへと変身させると、勝己に先んじてフルスロットルで出陣した。

 

(麗日さん……!)

 

 彼女が見せたあの笑顔。必ず、守ってみせる――

 

 




キャラクター紹介・グロンギ編 ズゴゴ

バッタ種怪人 ズ・バヅー・バ/未確認生命体第6号

「キョグギンジャンママ、ズ・バヅー・バザ(驚異のジャンパー、ズ・バヅー・バだ)」

登場話:
EPISODE 3. エンカウンター
EPISODE 5. 沢渡桜子:ブルース~EPISODE 6.吼えよドラゴン
身長:204cm
体重:185kg
能力:発達した筋肉が生み出す跳躍力
  (ひと跳び25m)
  ※総合的に高い身体能力を誇る
活動記録:
人間体は枯木色のライダースーツを纏った青年。未確認生命体第1号(クモ種怪人 ズ・グムン・バ)や第3号(コウモリ種怪人 ズ・ゴオマ・グ)のように復活直後から殺人を行うことはなく、人間体の姿で都内を徘徊する。その際、硬貨に興味を示していた。
第5号(ヒョウ種怪人 ズ・メビオ・ダ)の死の翌日、ついに行動を開始。品川区から杉並区までを移動しながら人々を墜落死させる殺人行為を実行した。杉並区阿佐ヶ谷にて第4号(赤のクウガ・マイティフォーム)と交戦、赤から青に変身して戸惑う彼を高層ビルの屋上から突き落とし追い詰めるも、爆心地とインゲニウムに妨害され、さらに工場の煙を嫌って一時撤退する。
翌日、再び杉並区内に出現。警官4名を殺害するものの、付近を警戒中だった爆心地らと交戦。その烈しい攻撃に怯んで逃走するも、第4号(青のクウガ・ドラゴンフォーム)に遭遇。戦い方を見出した彼にロッドで叩きのめされ、爆死した。

作者所感:
バッタモチーフにマフラー……警視総監が反応したこと間違いなしの姿でしょう。幸か不幸か出てきませんでしたが。
初めてのマイティでは勝てない強敵でしたが、力押しではなく己の特性を活かせるフィールドを選んで戦える知能もあるようで。マジで獣に近い他のズ族とは一線を画していると思います。のちのジャモルなどに比べると殺害人数も段違いですし。
双子のアニキとの格差は一体……。

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