【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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祝・お気に入り893件!
平成ライダーファンなら893といえば言うまでもなくあの方とわかるでしょう。クウガにもがっつり関わってらっしゃるので祝ってみました。

さて、当然ながらこれが年内最後の投稿になります。
来年は春から社会人になるので色々と大変な年になりそうですが(前厄だし)
完走までがんばるぞ~!




EPISODE 8. デッドオアマッスル 4/4

 ヒーロー・ウラビティこと麗日お茶子はトラックを走らせていた。畑や水田に囲まれたのどかな景色を抜け、舗装されていない獣道へと入っていく。

 暑くもないのにひとすじ汗をこぼしながら、お茶子は思う。

 

(7号は絶対、私が抑えたる……!)

 

 勝己や飯田ですら倒すことはできない怪物だ、自分の個性で正面きって戦えるとは思っていない。だが、時間稼ぎくらいならできる。――これ以上一般市民にも警官にも犠牲を出さないための、彼女の独断だった。

 

 このあたりなら。そう判断し、トラックを停車させる。周囲に目を配りつつ、スマートフォンを手にとった。

 

「……うわ」

 

 百件近くの着信が表示され、お茶子は思わず顔をしかめていた。相手がどんな気持ちでかけてきているのかを想像すると、さすがに申し訳ない気持ちも湧く。

 だがもう、後戻りはできない。お茶子は着信履歴の中から――ほとんどが事務所系で埋まっている――ふたりの同級生の名を探り出し……少しの逡巡ののち、"爆豪勝己"の名をタップした。

 

 

「――!」

 

 お茶子の乗るトラックを追って覆面パトカーを走らせる勝己は、スマートフォンと接続されているカーナビにお茶子の名が表示されるのを見て目を剥いた。乱暴な手つきで受話を押し、ほとんど同時に叫ぶ。

 

「丸顔テメェッ、何考えてやがんだコラァ!!」

『――ッ』

 

 スピーカーの向こうで息を詰まらせる微かな声。思いっきり怒鳴り散らしてやったのだから当然だろう。

 が、向こうはすぐに気を取り直したようで、

 

『も、もっともな怒りだとは思うよ!でも私――あぁもうっ、やっぱ釈明はあと!爆豪くん、4号に連絡とれるんやろ?』

「……チッ」

 

 一から十まで言われずとも、お茶子が4号を呼んでほしいと考えていることはわかる。自分でなくあの幼なじみが頼みにされていることは凄まじく腹立たしかったが、それで臍を曲げるほど、勝己はもう子供ではない。

 

「……あとでその餅みてえな顔面、煎餅になるまで爆破してやるから覚悟しとけよ」

『ひっひどい!女の子相手に――きゃあっ!?』

「!?」

 

 突然の悲鳴。と同時に耳をつんざくような轟音が響く。

 

「麗日、どうした!?おい、麗日ッ!!」

 

 呼びかけるが、応答はない。なんらかの衝撃で、あちら側から通話が切れてしまったようだった。

 

「っ、クソが……」無線に切り替え、「デク!!」

 

 

「っ、う……」

 

 突然の強い衝撃に車体がシェイクされたのち、お茶子はどうにか立ち直った。揺さぶられたせいで吐き気を催している。それどころか、シートベルトを締めていなければフロントガラスに突っ込んで血まみれで投げ出されていたかもしれない。

 一体何が起きたのか――前を向いた瞬間には、それがわかった。車の目の前に、筋骨隆々の大男が立ち塞がっていたのだ。

 

(!、この人……)

 

 いや、ヒトではない。その血走った獣のような目を見た途端、お茶子は瞬間的にそれを察知した。

 

「ヅギンゲロボザ……グオォアァァァッ!!」

 

 そして、その身体が大きく変貌する。サイ種怪人、ズ・ザイン・ダ――

 

 お茶子が対応するより、ザインのほうが一歩先んじた。フロントガラスに飛びかかり、鼻から生えた一本角を突き立てる。

 

「きゃあっ!?」

 

 ガラスが粉々に砕け散り、車内にも降り注ぐ。もはや安全地帯でないことを悟ったお茶子は即座にドアを開け、車外へとダイブした。

 

「……ッ」

 

 ザインと距離をとりつつ、格闘の構えをとる。脚が震えそうになるのを懸命にこらえながらも、お茶子は目の前の異形を睨みすえた。

 

「来るなら来いッ、バケモン!!そんな人殺しがしたいなら、まずこのウラビティを殺ってみぃやッ!!」

「………」

 

 そのことばに応えるかのように、ザインは足下の砂を蹴り、突撃の姿勢を見せている。――自分の命が風前の灯火であることを自覚しながら、それでもヒーロー・ウラビティは不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 疾走するトライチェイサー。それを駆るクウガ――緑谷出久の焦燥は、さらに深まっていた。

 

(ッ、間に合ってくれ……!)

 

 勝己からの無線。どういう意図かは不明だが、お茶子はとにかくザイン誘き出しを単独で実行し、その結果いまこのとき襲われているかもしれない。

 彼女はヒーローだ。である以上は、確かに、一般市民の命を守るためその命を懸けるべきときがあるかもしれない。

 

 でも、だからといって――

 

「……!」

 

 いよいよトラックの推定位置に接近したそのとき、クウガの複眼がふたつの影を捉えた。特徴的なヒーロースーツを纏った小柄な女性と、犀に似た筋骨隆々の異形――

 

「麗日さん、7号……!」

 

 麗日お茶子と7号――ズ・ザイン・ダが、格闘を繰り広げている。いや、格闘といえば聞こえはいいが、実質的にはザインの猛攻をお茶子が体格を活かしてうまく躱しているにすぎない。彼女は己が個性で敵を浮かせてしまい、攻撃の勢いを殺ごうと考えていたのだが――少しでも触れれば吹き飛ばされてしまいそうなパワーに、個性を発動させることすらままならない状態のようだった。

 

「ッ、はぁ……はぁ……っ」

 

 常人の数十倍にまで強化されたクウガの聴覚が、お茶子の荒ぶった呼吸をとらえる。体力も限界なのだろう。一方で、ザインの獣のような突撃にまったく衰えはない。――もう、時間の問題か。

 

(やらせるか……!間に合え、間に合え――ッ!!)

 

 クウガがスロットルを壊れる寸前まで引き絞るのと、お茶子の足がもつれるのがほとんど同時。バランスを崩したお茶子の胴体に、ザインの角が――

 

 

「麗日さんッ!!」

「――!」

 

 その声にお茶子が顔を上げたときには、弾丸のごときホイールの一撃がザインを弾き飛ばしていて。

 砂塵を巻き起こしながら、黄金と赤に彩られた鋼鉄の馬・トライチェイサーがその場に停車した。

 

「………」

「4号……き、来てくれはったんや……」

 

 クウガの姿を認めて安堵したのか、へなへなとその場に崩れかかるお茶子。自分の存在が、恐怖でなく恃みの対象とされている。それが嬉しくないといえば嘘になる。

 

――だからこそ、全力で。いま自分に、できることを。

 

「うらら……ウラビティ」

「!」

 

 4号に名を呼ばれた――その事実に、お茶子は目を見開く。

 

「下がってて。――あいつは、僕が倒す」

「4号……さん……」

 

 いまの自分になら、それができる。ゆっくりとトライチェイサーから降り立ったクウガは、グリップ兼特殊警棒"トライアクセラー"をスロットルから引き抜いた。

 

――邪悪なるものあらば、鋼の鎧を身につけ、地割れのごとく邪悪を切り裂く戦士あり。

 

 いつかのように、脳裏に声が響く。その声にしたがって、剣で敵に切りつけるイメージを描く。

 すると、右手に掴んだトライアクセラーが一瞬熱を帯び――刹那、その姿を大きく変える。タイタンフォームと同じ紫の大剣、"タイタンソード"。鋭く伸びた刃先が、鈍い光を放つ。

 

「クウガァ……!」

「………」

 

 早くも態勢を立て直し、憎々しげにこちらを睨むザイン。それを受け止めるクウガは、至って静謐。――あふれる感情はすべて、剣を握る拳にこめて。

 

「行くぞ……!」

 

 ゆっくりと、歩き出す。その逞しい背中には、自分の知るどんなヒーローにもない強さと弱さが同居しているようにお茶子には思われた。でも、それを感じるのは初めてではない――

 

 と、サイレンとともに覆面パトカーが突入してくる。その運転席から件の同級生が飛び降りてきたことで、お茶子は我に返った。

 

「ば、爆豪くん……」

「麗日テメェコラァ……」

 

 悪鬼羅刹のようなその表情。宣言どおり顔面を煎餅にされることを覚悟したお茶子だったが……流石に状況を考慮してか、彼は低く唸るような声で問い詰めてくるだけだった。

 

「……どういうつもりだ。もっと他にやりようあっただろうが」

「………」

 

 まっとうな疑問だと思った。同時に、その声音に不器用な気遣いが含まれていることも。

 だから怒鳴られても、呆れられても、本当のことを言おうと思った。

 

「これやったら、もう誰かが犠牲になることもない……そう思ったら、身体が勝手に動いてた。気づいたらトラックに乗ってたんよ」

「………」

「爆豪くんたちに任せといても、結果は同じだったかもしれない。でもそんときは、そんなことすらも考えられんくて……ごめんなさい」

 

 深々と頭を下げるお茶子は、自らのしたことの危うさ、拙さを自覚しつつあるのだろう。顔色がみるみるうちに青くなっている。

 しかし、その瞳にひとつだけ浮かばぬものがある。――後悔。最もヒーローらしからぬ、それでいて最もヒーローらしい自らの行為を、彼女は一生恥じ入ることはないのだろう。

 

「……この、クソ馬鹿野郎()が」

 

 やり場のない感情を得た勝己がにらみつけた先では、クウガ・タイタンフォームとズ・ザイン・ダがいよいよ激突しようとしている。

 

「――ヌウゥゥゥンッ!!」

 

 先手必勝とばかりにラリアットをかますザイン。常人がまともに受ければその瞬間に四肢がちぎれ、ひしゃげた肉塊となるであろう一撃。そんなものが迫ってくるのだ、元はただの学生でしかない出久が、避けたいと思わないはずがない。

 しかし、彼は湧き起こる恐怖に耐える。耐えて前進を続ける。

 

(僕はもう逃げない……この"筋肉"を、信じるッ!)

 

 直後、ザインのボディがクウガに激突する。戦いを見守るお茶子の、悲鳴にも近い声が響く。

 しかし、それに見合った悲劇が起こることはなかった。四肢がもげるどころか吹き飛ばされることすらなく、クウガはその場にとどまってみせていたのだから。

 そして、

 

「――はぁッ!!」

 

 勇ましい声とともに、空いた左拳でザインの顔面を思いきり殴りつける。グォ、と低いうめき声をあげ、その巨体がよろよろと後退する。だが、決定的なダメージではない。即座に態勢を立て直そうとするザイン。

 そうはさせじと、クウガはその腹部に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「グガッ!?」

「……!」

 

 硬く鍛え上げられた腹筋の奥で、何かが砕ける感触。それは決して気持ちのいいものではなかった。相手を痛めつけ、ゆっくりと死に追い込んでゆく――その残酷な行為を、しかし唯一無二の仮面の英雄としてやり遂げなければならない。

 剣を握る拳に、いっぱいに力がこもる。その一方で、ザインは血反吐を吐きながら、一本角を振りかざして距離を詰めてくる。追い詰められていると自覚しているのか、そうではないのか――いずれにせよ、決着をつけるつもりなのだ。

 

 だからクウガは、全身全霊でそれに応えた。

 

「ウオオオオオオオッ!!」

「うおぉりゃあぁぁッ!!」

 

 ふたつの雄叫び、次いで肉を貫く鈍い音が、辺り一面に響き渡る。

 

「………」

 

 密着した状態で硬直する、ふたつの異形。勝利を得たのはどちらなのか。位置の関係でクウガの背中しか見ることのできない勝己とお茶子は、固唾を呑んで見守るほかない。

 

「……ッ」

 

 ザインの角を見事に鎧で受け止めきったクウガ。

 そして、

 

「グオ……」

 

 殴打で傷ついた腹部を、タイタンソードで貫かれた――ズ・ザイン・ダ。

 

「グオッ、オッ、グアァァァ……!」

 

 刃が喰らいついた箇所に、封印の紋様が浮かんでいる。いかに絶大な回復力を誇るグロンギの怪人であれ、こうなればもはや助かるすべはない。紋様からヒビが下腹部、そしてベルトのバックルへと走り――

 

「ウグゥゥゥッ……――グオアァァァァァッ!!」

 

 雄叫びにも似た断末魔とともに、遂にザインの身体から爆発が起きた。筋骨隆々の肉体も、自慢の一本角も、何もかもが一瞬にしてばらばらに吹き飛ばされていく。

 

「……!」

 

 爆炎に呑み込まれたクウガを目の当たりにして、お茶子は息を呑み、勝己はただ静かに見守り続ける。そして炎が収まれば、そこには堂々と立つ銀と黒の背姿が残されていた。勝利を噛みしめるかのように、大きな背中が動く。深いため息が吐き出される。

 やがて振り返った彼は、鋒が血に濡れた剣とともにこちらへ戻ってくる。紫の複眼が一瞬お茶子へ向けられたものの――どこか気まずげに逸らされ、その身はトライチェイサーへと跨がった。

 

「あ……」

 

 このまま、彼を去らせてはいけない。わけもなく、お茶子はそう思った。

 

「4号さん!」

「――!」

 

 感情のしまい込まれた無機質な瞳が、再び、弾かれたように向けられる。

 

 

「救けてくれて………ありがとう……!」

 

 そのことばに、目の前の異形は暫し呆然としているようだった。顔に表情が浮かぶことのなく、それゆえどんな感情が湧き起こっているのか判別しにくい。しかしその大きな手が震えはじめたことに、お茶子は気づいた。

 やがてその震えを抑えながら、彼は徐に親指を立てた。お茶子が精いっぱい述べた感謝のことばに、応えてみせるかのように。

 

 そしてソードから戻したトライアクセラーをグリップに押し込み、クウガはマシンを発進させた。獣道の彼方に、白銀と黄金の陽炎が消えていく。

 

 お茶子は悟った。未確認生命体第4号――彼は完成された全知全能の守護神でもなければ、まして闘争本能のままに同族殺しを続ける戦闘マシーンでもない。弱さを抱えながら、それでも他者を守るべく強くあろうとする、そんなひとりの人間なのだと。

 だからこそ、きちんとお礼を言えてよかった。これでもう、このあとどんな代償が待ち受けていたとしても、後悔する必要はない――

 

「おい」

「!」

 

 はっと振り向くと、そこには凄絶な笑みを浮かべたヒーロー・爆心地が。

 

「さぁて、麗日……。俺の言ったこと、忘れてねえよなァ……?」

「えっ、あっ、う……な、ナニカ、オッシャッテマシタッケ……?」

 

 三日月型に持ち上がった唇が、ゆっくりと四文字を紡ぐ。――せ・ん・べ・い。

 

 前言撤回。この瞬間だけは、時計の針を戻したいと思うのもむべなるかな。

 

「ヒィイイイイッ、か、勘弁してやもおぉぉぉッ!?」

「待ちやがれ丸顔コラアァァァァ!!」

 

 

 その鬼ごっこは、飯田や森塚たちが到着するまで続けられたという……。

 

 

 

 

 

 警察(+勝己と飯田)に絞られ、所属しているブレイバー事務所にはもっと絞られ、絞りカスになったお茶子が解放されたのは深夜も深夜になってからだった。

 

「ハァ……」

 

 丸二十四時間前と同じように、ふらつきながら夜道を歩く。時間もそうだし、何より心身ともに疲労困憊の状態だから本当はタクシーを使うべきなのだろうが――そうしない理由は、もはや語るまでもあるまい。

 

(……流石に、しんどいなあ)

 

 絞りカスにされたのは自業自得であるし、何より第4号という正体不明の異形のヒーローの戦いに励まされもしたのだけれども。この寂しい暗闇の途に、帰り着いても誰も迎えてはくれないであろうひとり暮らしの狭いアパートに、くじけそうになる気持ちを堪えられそうもない――

 

 

――いいんだよ、つらいときや悲しいときは素直に吐き出したって!

 

――きみは、それだけ心配してくれる人の前で泣かなきゃダメだ。

 

「……ッ」

 

 今日出会ったばかりの同い年の青年の、優しくもまっすぐなことばが脳裏に響く。――立ち止まったお茶子はバッグから携帯電話を取り出すと、"実家"と登録した番号へ発信した。

 もう家族は熟睡しているであろう時間帯、最悪出てくれないだろうとも思った。朝になって、気づいて折り返しかけてきてくれれば御の字だとも――

 

 それなのに、たった数回のコール音のあと、電話口から聞こえてきたのは母の声で。

 

『もしもし、お茶子?』

「あ……母、ちゃん……ごめんな、こんな遅くに……」

 

 声が震えてしまう。それに気づかない母ではなかった。

 

『ええよ、そんなん。何かあったん?』

「………」

『話してごらん。母ちゃんと父ちゃんは、いつでもあんたの味方なんやから』

 

 電話越しの声は、コードブックから選び出された合成音でしかない。それなのに、こんなにも優しく耳に響くのはなぜだろう。

 堪えきれなくなったお茶子はしゃくりあげながら、声を詰まらせながら、ひとりで抱えてきたものを告げた。

 

『かあ、ちゃん……私……私……ッ、実はね――』

 

 

 

 

 

 数日後。開店前のポレポレに出勤した出久を出迎えたのは、マスターであるおやっさんだけではなかった。

 

「あ、おはよう!」

「おは……え、麗日、さん……?」

 

 麗日お茶子。朗らかな笑みを浮かべた彼女は、なぜかおやっさんの隣――つまりはカウンターの中にいて。

 

「実はね、ここでバイトさせてもらうことになったんよ」

「え!?」

「へへ、いいだろぉ?」お茶子の肩にセクハラぎみに手を置きつつ、「ウチはこう、やっぱり華やかさが足りないからねえ。可愛い子、しかもヒーローに働かせてくれなんて頼まれたらもう採用するしか内藤やす子!」おやっさんの発言。

 

 お茶子がここにいる理由はわかった。しかしここで働きたいと思った理由がわからない。出久が困惑を隠せずにいると、お茶子が歩み寄ってきて、

 

「あのね、実は私……やめたんよ」

「え……!?」

 

 まさか、事務所を?あの独断専行が、それだけ重い罪になったのか?それともやっぱり、ヒーローでいたくなくなって?

 

 顔面蒼白になりかける出久。しかしそれは性質の悪い倒置法でしかなかった。

 

「仕送り!」

「しおく……あっ、なんだ……仕送りか……」

「そ。とはいえ、あのあと無茶しちゃってなあ……しばらく謹慎になっちゃったんよ。その間当然給料ゼロやし、バイト増やさなきゃ~てなって……そんときに、ここしかない!って思ってさ!」

「な、なるほど……」納得はできた、一応。「そういうことなら、これからよろしくね」

「うん、こちらこそよろしくね――デクくん!」

「えっ!?デク、って……」

 

 出久が素っ頓狂な声をあげると、お茶子はこてんと首を傾げた。

 

「あれ、名前で呼ばれるのイヤやった?」

「そ、そんなことないけど……そうじゃなくて、僕の名前、出久なんだけど……」

「えっ!?だって爆豪くんがそう呼んどったから……」

「あれはあだ名だよ……思いっきり蔑称というか……」

 

 しかも、最初にきちんと自己紹介したはずなのに。あのあと色々あったせいで忘れてしまい、勝己の呼び方に上書きされてしまったのかもしれないが――

 

「そ、そうだったんだ……ごめんっ!」

「いや、気にしなくていいよ、全然!」

「でも……あ、でもさ!」不意にお茶子は笑顔を浮かべ、「"デク"って……"頑張れ"って感じでなんか好きだ、私!」

「!!!」

 

 好きだ、好きだ、好きだ――

 

「――デクです!」

 

 嗚呼、コペルニクス的転回。

 

「……甘酸っぱいねえ、いつの時代の若人も」

 

 相変わらずじじくさいことを独りごちながら、おやっさんは本日のポレポレカレーを味見するのだった。

 

「うーん、辛ぇ」

 

 

つづく

 

 

 




蛙吹「ケロ、次回予告よ」
峰田「チックショオオオオオなんだよ緑谷のヤツゥゥゥゥ!!表向き一般人のくせして両手に花じゃねえかよ、主人公だからってよォ!?俺なんてヒーローになってもモテてねえのによぉぉぉぉ!!」
蛙吹「違うわ峰田ちゃん。緑谷ちゃんは主人公だからモテるんじゃない、男女関係なく、下心なしに他人の気持ちに向き合ってあげられるから主人公なのだし、モテるのよ」
峰田「なんだよそれェ、エロ漫画の主人公は主人公じゃねーとでも言うつもりかよ梅雨ちゃあん!?」
蛙吹「ケロ……緑谷ちゃんは少年漫画の主人公だもの。……次回私は三つ目のお花になれるかしら?」
峰田「!、そうか、次回出てくるのはあのピラニア怪人だもんな!水中戦じゃ不利だぞ、どうする緑谷、爆豪!?」

EPISODE 9. 血漑戦線

峰田「あぁ、鷹野警部補とプルスウルトラしてえなぁ……」
蛙吹「ヘッドショット不可避ね峰田ちゃん」


皆様、よいお年を!

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