【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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17年前のちょうど今日、クウガが最終回を迎えました。
2000~01と2017~18は日付と曜日が合致するので、去年から今年にかけては「今日は第○号が出現する日だな~とずまりすとこ」とか考えながら生きてます


EPISODE 10. ディープ・アライアンス! 2/4

 出久は漆黒の覆面パトカーの助手席に乗せられた。走る車両。その運転手は淡々とした表情でハンドルを握っている。

 

(普段の運転は意外と穏やかなんだよな、かっちゃんって……)

 

 そんなことを密かに思っていると、唐突に血の色をした瞳がこちらに向けられて、

 

「……なんかクソ余計なこと考えてやがるな、テメェ」

「!?、なんでわかっ……あ、いや、そんなことは……」

「テメェが静かなときは大体そうなんだよ、モジャ髪アフロにすんぞクソナードが死ね」

「そこまで言われるようなことしたんでしょうか……」

 

 なぜこうもお見通しなのか。こちらは全然なのに。

 忸怩たる思いを誤魔化すかのように、出久は努めて声を張り上げた。

 

「あっ、そ、そういえば、トライチェイサーは?あそこに置きっ放し……だよね?」

「いや。切島に言って、これから行くとこに運ばせてある」

「えっ、切島くんに!?」

「おぉ」

 

 何か文句でもあるのか、とばかりの首肯。さすがにこれには出久もあきれた。

 

「……同級生のヒーローにパシリまがいのことさせるの、世界中見渡してもきみくらいだと思うよ。百歩譲って大御所が新人サイドキックにやらせるなら……わからなくもないけど」

「フン」

 

 自分が何を言っても勝己は反省しないし、何より切島も断らないのだろう。彼の苦労を偲ぶほかない。いや、あとで僕からお礼くらいしなければ――出久は決心した。

 ひとまず切島のことは隅に置いて、もうひとつ。

 

「ところで、"これから行くとこ"って……?」

「……あァ、そういや言ってなかったか」

 

 怠そうに溜息をつきつつ、勝己はその行き先を告げた。

 

 

「――"科警研"だ」

 

 

 

 

 

 一方、品川区八潮の某倉庫。

 

 その内部を根城としていた未確認生命体――グロンギたちも、警察やヒーローたちに周りを囲まれていることに気づきつつあった。

 

「バンバンザ、ガギヅサパ?」

 

 小窓から外を覗いていたバヂスが、苛立ちを露わにしながら独りごちる。攻め込んでくるでもなく、何かを待っているかのように包囲が続いている状況。彼には外の人間たちの思考が読めないのだった。

 他のグロンギたちはというと、

 

「ギバギ、バゼパバダダ?」

 

 腕組みしつつ、台に腰掛けたショートカットの女が訝しげに首を傾げる。

 答えたのは、バラのタトゥの女で。

 

「パセサンビゴギゾ、ゴパセダンザソグ」

「リントゾロビ、ゴンバボドグ?」

「リントも無能じゃないってことだよねぇ」愉快そうにガルメ。「前とは違うよ、あいつらも。……ガゴビガギグ、ガシゴグザ」

「………」

 

 ゴオマは沈黙していたが、その手は時々ぷるぷると震えていた。気持ちが逸る。太陽さえ出ていなければ、外に飛び出していって皆殺しにしてやるのに――

 

 

 いずれにせよ、グロンギたちは外の人間たちを脅威とは感じていなかった。彼らがなんの対策もとらずにいるうち、遂に作戦の準備が整っていた。

 到着したいかめしい装甲車から、専用防護服を纏った隊員たちが降りてくる。それを認めた飯田が、やや緊張した面持ちでつぶやく。

 

「いよいよ、ですね……」

「うん。……終わらせたいところだね、なんとしても」

 

 珍しく森塚も冗談めかした態度をとらない。これが決戦となるかもしれない――いや、しなければならないのだ。張り詰めた空気が、場を支配する。

 

 特殊ガス弾を手にした隊員たちが、先んじて倉庫の前へ走る。ガス弾の安全装置を解除すると、わずかに開いたシャッターの隙間から、それらを力いっぱい投げ入れた。

 床を滑っていくガス弾の群れは、ほどなくして奥にいるグロンギたちのもとにまで到達し、

 

「?」

「バンザ……?」

 

 訝しむ彼らの眼下で――爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 科学警察研究所(通称:科警研)は千葉県柏市に所在する警察庁の附属機関である。科学捜査・犯罪防止・交通警察に関する研究・実験を行うとともに、警察内外の関係機関から依頼された証拠物等の科学的鑑識・検査を行うことを主な任務としている。

 そんな、警察組織となんらかかわりない人間であればおよそ訪れることのない施設に、緑谷出久はいま足を踏み入れていた。

 

「………」

 

 すたすた歩いていく勝己のあとを、出久は黙って追いかける。そうするよりほかにないのだが……すれ違う所員の視線があまりに痛い。スーツでも着ていればまだしも、私服では逆立ちしたって社会人には見えないのだから、彼は。

 ひたすらプレッシャーに耐えながら歩くこと数分、とある扉の前でようやく勝己が立ち止まる。出久はぎょっとした。

 

「か、かっちゃん……これは一体……?」

「………」

 

 彼が呆気にとられるのも無理はなかった。白い無機質な扉が、大量の規制テープその他もろもろが貼りつけられて変わり果てた姿と化している。"KEEP OUT""関係者以外立ち入り禁止""近寄るな キケン"――最早カオスの領域だが、とにかくこの扉の向こうが伏魔殿なのだろうことは容易く想像がつく。

 

 出久とは対照的に、勝己は至って平静だった。理由は単純明快、予想がついていたからだろう。伏魔殿の主は、勝己と旧知の仲なのだから。

 

(とはいえ大丈夫なのか、これ……?)

 

 出久の心配をよそに、勝己は扉をノックするや勢いよくそれを押し開けた。ノックの意味があまりない。

 部屋の中は薄暗かった。金属製の棚に怪しげな薬品やら機材が大量に置かれている。さらに壁は意味不明なメモの群れで埋め尽くされている。元々は官公庁らしく無味乾燥とした部屋であったことが推察されるのだが、いまでは訪れる者に凄まじい圧迫感を与える、ダンジョンのごとき空間に様変わりしていた。

 

「う、うわぁ……」

「テメェの部屋もこんなだったろ」

「さすがにここまでじゃなかったよ……いまはちゃんと片付けてるし」

 

 それに、出久のオタク部屋とこれはまた様相が異なる。不気味。マッドサイエンティストが根城にしていそうだ――

 

 そんなことを内心思いつつ、ふと視線を感じて視線を滑らせる――と、棚越しにぎらぎらと輝く一対の黄金が浮かび上がっていて。

 

「うわぁっ!?」

「!」

 

 幼なじみの悲鳴に、反射的に振り向く勝己。彼もまた黄金の双眸を認めたが……出久のように、驚いたりはしなかった。

 

「いるなら声かけろや発明女」

「ウフフfFFF、ご挨拶ですねぇ……」

 

 "発明女"と呼ばれた女性が、棚の向こうからヌッと出てくる。額にかけた大きなゴーグルに羽織った白衣、科学者……というよりは勝己の言うとおり発明家のテイストが強いかもしれない。それは彼女の個性(常用の意味での)としてなんら問題はないが、初心な出久には白衣の下がボディラインの出るタンクトップ一枚というのが非常にまずかった。胴の真ん中から少し上の、突き出したふたつの果実を直視できない。

 そんな彼の挙動不審ぶりを一切気に留めることなく、彼女はさらに衝撃的なことを言い放った。

 

「おや爆豪さん、ひょっとしてこの人が4号ですか?」

「!?」

「だから連れてきたんだろうが」

 

 出久は彼女のプロポーションどころではなくなった。正体を知られている――しかも口ぶりから言って、勝己が教えた?

 

「ちょっ、かっちゃん!どうして僕のこと……!?」

「こいつの協力を得るために必要だったからだ。なんか文句あっか」

「いや、わかるけど……せめて本人にひと言あったらなあと……ハイ」

 

 最後のほうはほとんど消え入ってしまった。無論、勝己も明らかにする相手はきちんと選んでくれているのだろうが。

 一方、発明女史はどこまでもマイペースであった。白衣のポケットをごそごそとやっている。

 

「えっと、名刺、名刺……あった。――ハイこちら、どうぞ」

「えっあっ」

 

 半ば強引に名刺を押しつけられる。"科学警察研究所総務部付特別研究員 発目明"と印字されている。なんだかよくわからない肩書きである。

 

「えっと……発目、さん?」

「ですです!今後ともよろしく4号さん!」

「アハハ……緑谷出久です、一応……」

 

 本日二度目の自己紹介であるが、蛙吹のときとはテンションが違いすぎて困惑するほかない。未変身とはいえ未確認生命体第4号が目の前にいることになんの拒否反応も示さないあたり、ヒーローである彼女と同等以上に肝が据わっていることは間違いないだろうが。

 

 と、案の定ここで勝己が口を挟んだ。

 

「んなことより、例のもんは?」

「もちろん用意してありますとも!いきなり連絡してきて『いまから行くからよこせ』だなんて、まったく相変わらず傍若無人ですね~爆豪さんは」

「言ってろ」

 

 ことばこそ愚痴ながらしっかり笑みをたたえた発目は、自身のデスクに戻ると何やら乱雑に置かれた段ボールのひとつをがさごそ漁りはじめた。ややあって、抱えるようにして黒光りする巨大なオブジェクトを取り出してくる。出久は目を瞠った。

 

「それって……」

「ウフフフfFFFF!私のドッ可愛いベイビーちゃん……"潜れるくんバトルタイプ・試作品バージョン"です!!水中戦にどうぞ!」

 

 成人男性の胴体ほどあるそれは亀の甲羅のような形をしている。付属品として酸素ボンベ、エンジン、なんだか物騒な砲口……などなど。一見とんでも装備だが、出久には見覚えがあった。

 

「あっこれ知ってる!最近、いろんな水難ヒーローが装備してるよね!」

「おぉご存知でしたか!」発目の声が一段大きくなる。「船舶相手でも戦える威力とスピードが売りでして、海賊ヴィラン対策にお困りのヒーローの皆さんにはボッコボコご愛顧いただいてますよ!救助専門の方にもレスキュータイプを!!」

「ボッコボコって擬音はどうかと思うけど……なるほどそうか、船を相手にできるスペックがあるなら未確認生命体を相手にしても……フロッピーはこれであいつを撃退して僕を救けてくれたのか……ん?かっちゃんが僕を連れてこれを受け取りに来たってことはつまり……?」

「……クソうぜぇ」毒づきつつ、「テメェがこれ着てあのピラニア野郎とやりあうんだよ」

「あ、やっぱり……」

 

 相手が水中を得意なフィールドとするなら、こちらはそれ以上に適応して正面からぶつかるまで。実に単純明快である。

 

「実は皆さんご利用の潜れるくんは意図的にスペック落としてまして、御しきれないとかで。しかし4号さんの超人的ボディならこちらのオリジンベイビーちゃんでも十分使いこなせるでしょう!」

「う~ん……ど、どうかな……」

「ご心配なく、操作はカンタン親切設計ですから!バイク運転できるなら無問題ですよ!まあ説明書お渡ししときますから、あとでゆっくり読んでみてください」

「は、ハイ」

 

 捲したてられると、うなずかざるをえない。製作者本人が言うのだから信憑性はあるといえばあるが。

 出久に対して熱弁を振るったあと、発目はぎょろりと勝己に照準を合わせた。

 

「これでご依頼は果たしましたよ爆豪さん。約束どおり、今後4号さんをいつでもお借りしていいんですよね!?」

「おぉ、好きにしろ」

「へぁ!?ちょっ……」

 

 お借りしていい……いつでも。またしてもとんでもない約束が当人の頭越しに結ばれている。さすがに激怒してもおかしくない。"当人"が緑谷出久でなければ。

 

「あ、あのさ……僕にも人権というものがあるわけでして……ちゃんと日本国憲法で保障されている……」

「おぉ、だから嫌なら拒否ればいい。その代わり俺ぁテメェのこと上に報告すっけどな」

「か、かっちゃん……きみって人は……」

 

 昔の勝己なら「テメェに人権なんざねえ」と怒鳴ってきただろうに。蛙吹の言うとおり確かに大人になっている……悪い意味でも。

 肩を落とす出久に対し――フォローする意図があるのかは怪しいものだが、発目が朗らかに笑いかけてくる。

 

「安心してください。四六時中拘束して人体実験を繰り返したりなど、そんな非人道的なことはいたしません!」

「えぇ……」

 

 まったく安心できない。一体自分に何をさせるつもりなのか、せめて聞き出して心の準備くらいはさせてほしかったのに、勝己が会話を打ち切ってしまったためにそれすらかなわなかった。

 

 

 帰路は発目から受け取った"潜れるくん"の箱を台車に載せて運ぶことになった。来たときよりさらに視線が痛い。出久は嘆息を禁じえなかった。

 その意味を誤解したのか、勝己は珍しくややばつの悪そうな声を向けてきた。

 

「……心配せんでも、あいつはああ見えて最低限の良識は持ってる。テメェに危害を加えるようなことはしねぇよ」

「そう……うん、そうだよね。わかってるよ」

 

 出久がうなずくと、「クソ強引だけどな」と付け加え、勝己はほんのわずかに唇をゆがめた。そこに見え隠れするものが、やはり羨ましく思われる。

 それを押し殺して、

 

「……そういえば、未確認生命体はどうなったんだろう?まだ見つからないのかな?」

「連絡来ねえっつーことはな。荒川は関東圏内ほぼ全域配備が完了してる、事件の報告もねえ以上、十中八九人間体になって地上に潜伏してんだろ。魚雷でやられてるしな」

「そっか……。でも、なるべく僕らが見つけてすぐ戦えるようにしたいよね。この前の麗日さんじゃないけど、おびき出すとかして……なんかいい方法はないものだろうか……」

「テメェに言われんでも考えてあるわ」

「ほんと!?」

 

 勝己がうなずきかけたそのとき、彼のスマートフォンが振動した。素早くそれを取り出し、スピーカーホンに設定したうえで「椿先生だ」と相手の名を告げてきた。おまえも横で聞け、ということなのだろうと思い、耳を寄せる。

 

「はい、爆豪」

『おう。相変わらずぶっきらぼうな声だな、せっかくの完璧なビジュアルが勿体ないぞ?』いきなりこれである。

 

 勝己はもはや癖になっている舌打ちを放ち、

 

「ンなことより解剖の結果、出たんでしょう?」

『……ああ。おまえの要望どおり、浦和の架橋工事の作業員の遺体から解剖した。まず死因は失血死、全身に噛みちぎられたり切り裂かれた痕が大量にある。いまんとこ全員形状は一致してる、おまえの言ってた8号の牙や腕のカッターでやられたんだろうな』

「………」

 

 横で聞いている出久が密かに拳を握りしめるなか、椿の報告が続く。

 

『で、その中のひとりに……あったよ。おまえの推測どおり、8号によるものでない傷がな』

「!」

『その傷は生前にできたもの……断定はできないが、8号に襲われる前に負ったと考えても不自然じゃない。ま、俺から言えるのはそれくらいだな』

「……ども、ありがとうございます」

 

 きちんと礼を言ってから、勝己は電話を切った。"勝己の推測"というのが一体なんなのか、出久には当然わからない。

 

「どういうこと?8号に襲われる前に負った傷、って……」

「あぁ。8号はあの場所に現れる前、付近にいた釣り人を狙ってた。それが突然、何かに吸い寄せられるように標的を変えた。――何に吸い寄せられたと思う?」

「え……えー、と……」

 

 作業員のひとりが負った傷――それがヒントということなのだろう。顎に指を当てて、出久は考えた。

 

「傷……って、切り傷、だよね?」

「そうだ」

「ってことは……――そうか……血、かな?」

 

 「正解」と、勝己はニヤリと笑う。

 

「これで奴をおびき出せる。俺は準備があっから、テメェは先にあいつと合流しろ」

「え、あいつって?」

「決まってンだろ」

 

 告げられた名に、出久がただでさえ丸い翠眼をさらに丸くする。それに対して、勝己の笑みはますます深まった。

 




かっちゃんと発目さんがもし恋愛関係になったら、爆豪×発目……


略して"爆発"ですね!
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