【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

42 / 187
お気に入りがなんと1000件を突破しました!バーも相変わらずマイティのように真っ赤っ赤で本当に嬉しいです!皆さん応援ありがとうございます!!
大晦日に893で祝って間もないのがアレですが

4ケタともなると…こう、迫力が段違いな気がします(錯乱)


EPISODE 11. 少女M 1/3

 未確認生命体第4号ことクウガは、何もない空間に向かって拳を振るっていた。漆黒のそれが突き出される度、狭い密室に旋風が巻き起こる。

 

「はッ……く、はぁッ!!」

 

 その荒ぶった息づかい、時折見せる敵の攻撃を防ぐような動作は、戦闘訓練にしてはあまりに真に迫りすぎている。それもそのはず、ヘッドギアを装着した彼の視界には、かつて敵連合が使役していた()人・"脳無"の姿が映っていた。

 

「くっ……で、やあッ!!」

 

 リアルな幻影と懸命に戦うクウガ。しかし必殺の跳び蹴りをぶつけ、目の前の脳無が吹き飛んだところで、唐突にその姿がかき消えた。グロンギたちのように爆発したわけでもなく、フッと消え去ったのである。

 

「あ、あれ……」

『お疲れさまでした、緑谷さん。これにてシミュレーションしゅーりょーですっ!』

 

 インカム越しに、有無を言わせぬ無駄に明るい声が響く。どっと疲労感を覚えながら、ヘッドギアを外すとともに彼は変身を解いた。

 すっきりした本来の視界のど真ん中に、防護ガラス越しにサムズアップを見せつける白衣の女性が映る。その姿を認めて、青年は乾いた笑みを浮かべるほかなかった。

 

 

「いや~今日はありがとうございました緑谷さん!おかげでい~いデータがとれましたよぉ!!」

「は…ハハ……それはどうも……」

 

 握手した手をぶんぶん振り回されると、いくら初心な彼でも照れるどころではない。相変わらず白衣の下は露出度が高いので、そこからはなるべく目を逸らすが。

 

 

――そもそも、緑谷出久がなぜ幻もといバーチャルの脳無と戦う羽目になったのか。それはいま現在やたら上機嫌な彼女、発目明たっての頼みによるものだった。

 そもそも彼女は"総務部付特別研究員"という肩書きからわかるように、本業を別にもちながらスカウトされた人間である。警察上層部肝いりの新プロジェクトの開発担当として、奇抜ながら質の高いヒーロー向けサポートアイテムを次々生み出してきた実績が見込まれたのだ。

 

 そのプロジェクトを完遂するために、クウガの戦闘データが必要――ということで、出久は時間をつくって科警研に通ってはバーチャル脳無と戦い、事件が発生すれば未確認生命体と死闘を繰り広げる日々を送っている。もとはいち学生であることを思えばかなりハードだが、当の本人は満更でもない。マーシャル・アーツの教練と並んでよい戦闘訓練になっているし、何より市民を守るためのプロジェクトに貢献できるというのが嬉しかった。

 

(ヒーローも警察も、こういう裏方の人たちも……みんな一生懸命がんばってくれてるんだ。僕もがんばらないと!)

 

 発目と別れ、そう意気込みながら科警研を出る。トライチェイサーに跨がろうとしたとき、電話が鳴った。発信者は――沢渡桜子。"裏方の人たち"の中では、最も出久と親しい女性だ。

 

「はい、もしもし」

『もしもし。おはよう出久くん、起きてた?』

「あはは……バリバリ起きてた。いま科警研出るとこだったんだ。さっきまで発目さんの研究に協力してて」

『そっかそっか、お疲れさま。疲れついでで悪いんだけど……これから大学来られる?』

「あ、うん、大丈夫だよ。じゃあ一時間後くらいに行くね」

『わかった。コーヒー補充して待ってる』

 

 そんなやりとりで通話を終えたあと、出久は改めてトライチェイサーのグリップを捻り、城南大学へ向け走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 都内某所。休園中の植物園に、ふたりの男の姿があった。

 ひとりは長い茶髪にサングラス、メッシュのタンクトップという恰好の大男。もうひとりは、グラデーションの派手なストライプシャツを纏い、額にゴーグルをかけた推定年齢十代前半の少年。揃って奇抜な装いである。

 不審な取り合わせのふたりは花々に囲まれた温室内の地べたに座り込み、携帯ゲームに興じていた。

 

「あっ、バヂス違うって!そっちじゃねえ、左だ左!ちょっ、なんで割り込んでくんだよ!?」

「???」

 

 少年の慌てた怒声に、バヂスと呼ばれた男はうまく対応できない。結局その操作の拙さが原因となって、ほどなくふたりのゲーム機の液晶に"GAME OVER"の文字が躍り出た。

 

「……ラベダ」

「ハァ~……」少年が溜息をつきながらゲーム機を放り出す。「やっぱオレらに協力プレイは無理かぁ……」

 

 他のゲームにしようかと少年がズボンのポケットを物色していると、不意にむせ返るような薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。

 ほとんど同時に顔を上げたふたりが見たのは、白い薔薇のタトゥを額に印した美女の姿だった。続いて、右腕にカマキリを模ったタトゥの美女、黒づくめのコートの男がやってくる。

 

「ザジレスゾ、バヂス」

「!」

 

 バラのタトゥの女のことばに、バヂスは弾かれるようにして立ち上がった。手放されたゲーム機がゴトリと音をたてて地面に転がった。それを拾いつつ、少年――ガルメが不服そうな表情を見せる。

 

「チェッ……ほんとならオレ、ビランの次にやれてるはずだったのに」

「自業自得だろう」ショートカットの女が冷たく突き放す。「ゴラゲパ、スススギザンゾギダンザバサバ」

「だからぁ、あんな犬頭がまさかリントだとは思わなかったんだって!」

「リゲグギダボドゾ……――いずれにせよ、おまえのゲゲルはしばらくお預けだな」

 

 ガルメと女が不毛なやりとりを繰り広げている間に、バヂスは黒づくめの男――ゴオマから算盤のようなボードを受け取っていた。

 

「ガダサギ、ギドドゾバ……」

「バンビンビグス?」

「ウム……」珠を弾きながら、「バギングズゴゴ、ジバンゼバギング、バギングパパンド……バギング、ズガギビンザ」

「うわっ、いろいろ中途半端!」

 

 ガルメが冷やかすが、相変わらず日本語の理解があまり進んでいないバヂスに対して挑発の効果は見込めなかった。

 

――いずれにせよ、次はこの大男……メ・バヂス・バによる殺人劇が始まる。標的たる人々が誰ひとり気づくことないままに、その幕が上がったのだった。

 

 

 

 

 

 警視庁の小視聴覚室に、ふたりの若いヒーローの姿があった。

 

「………」

 

 爆心地とインゲニウム。彼らが渋い表情でともに見つめるのは、プロジェクターに映し出された凄惨な映像。巨大な漆黒の影が、悲鳴をあげて逃げまどう人々を容赦なく蹂躙し、殺戮する。

 そして、ベルト状の装飾品を思いきり振り上げ、

 

――クウガ……!

 

 そのとき、不意にインゲニウム――飯田天哉が、ぽつりとつぶやいた。

 

「……第0号。現状、この映像以外に何も手がかりがないとは……」

 

 一番初めに人類の前に姿を現した未確認生命体――それが第0号だ。そしてそれは恐らく、偶然ではなかった。

 

「遺跡の南東にある滝の近くに、集団の墓みてぇなモンが見つかった。そこから奴らが甦った。いや……恐らく0号に復活させられた」

「……二百体以上も、か」

 

 調査により、既に未確認生命体の封じられていた場所は発見されている。――最低でも二百体を超える未確認生命体がそこから復活したことが、確実となってしまっていた。

 

「奴らの復活から一ヶ月弱……その間確認された未確認生命体が第2,4号を除いて十二体。そのうち我々の手で倒したのは一体のみ……」

「アレは倒したうちに入んねーだろ。いきなし自爆したんだからよ」

「ああそのとおりだ!不甲斐なさすぎるっ、あまりにも!!」

「………」

 

 結局、先日のアジトへの突入作戦も、数々の遺留品と引き換えに捜査員一名の犠牲を出して終わった。成果と代償を思えば、失敗と言わざるをえない。

 飯田が歯を食いしばるなか、映像はいよいよクライマックスを迎える――というところで、背後の扉が開いた。

 

「おふたりさーん」

「!」

 

 振り向けば、そこには小柄な人影。顔は影になっていてわからないが、シルエットで十分判別できた。

 

「森塚刑事……おはよう、ございます」

「うん、おはよ。0号のヤツか……ヤなスナッフフィルムだよね、マジで」

「……なんか用すか?」

 

 やや不機嫌な声で――いつものことだが――勝己は訊いた。軽薄な態度をとる青年ではあるが、人の気持ちを慮らずに茶化すような人間でないことは間違いない。

 実際彼がここに来たのは、重大な要件があったからだった。

 

「出動要請だ。確定はしてないけど、奴らの起こした事件かもって」

「!、了解しました。爆豪くん、行こう!」

「るせぇな、耳許ででかい声出すなやメガネかち割んぞ」

 

 もとの純白に戻ったプロジェクターに背を向け、ふたりのヒーローは動き出した。

 

 

――のだが。

 

 会議室の前にたどり着いたとき、彼らは応接スペースに気になる人影を認めた。

 ひとりはこの捜査本部のNo.2である塚内直正警視。向かい合うように座り、何かを懸命に訴えている彼と同年代の女性には見覚えがなかった。無論、その隣に座る中学生くらいの少女も。どことなく顔立ちが似ていることから、ふたりが母娘であることくらいは想像がついたが。

 

「ありゃ……まだいるよ」森塚が小声で毒づく。

「あの方たちは?」

「まさしくさっききみらが観てた、0号被害者……城南大学の夏目教授の奥さんと娘さんだよ。0号の捜査、早く進めてくれってさ」

 

 「お気持ちはわかるけどねえ」とつぶやきつつ、森塚は辟易したような表情を浮かべている。その捜査を迅速に進めるために、うちの管理官を長時間拘束するのはやめてほしい――そういう気持ちなのだろう。あいにく今日はトップの面構本部長が出張で不在だから、尚更だ。

 と、真摯な表情で未亡人の主張に耳を傾けていた塚内が、勝己らに気づくや「あ」とこれみよがしに声をあげた。

 

「ちょうどよかった。彼……爆心地は考古学研究室の担当の方と面識があります」

「は?」

 

 いきなり矢面に立たされて呆気にとられる勝己のもとにすたすたと歩み寄ってくると、塚内は困ったような笑みを浮かべて耳打ちしてきた。

 

「えっとね、彼女たちは夏目教授の――」

「それは僕が説明いたしゃしたー」森塚が小声で割り込む。

「なら話は早いな。おふたりが持ってきた教授の遺品に、九郎ヶ岳からの出土品らしきものがあってね。それを研究室に持っていってもらうのに、きみに同行してもらいたいんだ」

「ア゛ァ!?なんで俺、が……」

 

 声を荒らげかけた勝己は、夏目母娘がこちらを不安げな表情で窺っているのを見て口を噤まざるをえなくなった。

 その隙を突き、塚内はさらに畳みかけてくる。

 

「研究室の、確か……沢渡さんか、彼女とパイプがあるのはきみだけだろう?4号ともそうだし。だったらきみに話を通してもらうのが一番手っ取り早い。分析結果も直接聞けるしな」

「ッ、未確認は!?」

「まだ捕捉できてないから、すぐにすぐ戦闘という状況じゃない。無論、進展があればその都度連絡させる」

「~~ッ」

 

 勝己はぎりぎりと歯を食いしばったが、目の前の男に頑なに逆らうとあとあと厄介なことになりそうだった。――何より、未亡人と父を喪った娘……ふたりの女性のどこか縋るような視線を捨て置くことはできそうもなかった。仮にそうしようとすれば、飯田が「ヒーローとしてふさわしくないぞ爆豪くん!!」とでもどやしつけてきただろうが。

 

 

――そうして数分後。母娘を後部座席に乗せ、勝己は覆面パトカーを運転していた。

 

「………」

 

 仏頂面で運転手を務める若手実力派ヒーローに対し、背後から未亡人がおずおずと、

 

「あの……すみません、お手間をとらせてしまって」

「……謝んないでください。今さらンなことされてもどうにもならないんで」

 

 申し訳ないと思うなら、あの場できっぱり遠慮してほしかったものだ。さすがにそこまでは言わないが、よほど鈍い人間でもない限り伝わるニュアンスだった。実際、彼女は「そうですね……すみません」ともう一度謝罪のことばを述べたきり黙りこんでしまった。

 

「………」

 

 再びの沈黙の中、バックミラー越しに睨みつける少女の瞳が目に入った。いまの態度が気に入らない――それだけでないことは容易に察しがつく。

 

 ゆえに勝己は気づかないふりをして、運転に集中することにした。

 

 




キャラクター紹介・リント編 ゲヅン

麗日 お茶子/Ochako Uraraka
個性:無重力(ゼロ・グラビティ)
年齢:20歳
誕生日:12月27日
身長:158cm
血液型:B型
好きなもの:星空・和食(特におもち。食べること全般好き)
個性詳細:
触れたものの引力を無効化……つまり無重力下と同じ状態にすることができるぞ!人でも物でも対象は問わないが、数や重さには許容値がある。それを超えるとオロロロロロ……。自分自身も浮かせられるけど、負担が大きくやっぱりオロロロロ……。とはいえ高校時代から続けてきた訓練、何より吐いたらもったいない精神のおかげで嘔吐することは劇的に減っているぞ!
レスキューヒーローなので主に瓦礫などの除去に役立っているが、工夫によっては戦闘でも十分に活躍できる、かなりポテンシャルの高い個性だ!

備考:
ヒーローネーム"ウラビティ"。都内に拠点を置くレスキューヒーロー・ブレイバー事務所に所属している。
わりとヒーローらしからぬほんわかした性格だが、良くも悪くも男っぽい一面も。特に料理は無骨。あと家庭の事情から貧乏性&おカネにうるさいところも。
そんな彼女だが根は純粋!出久のことばに励まされ、彼を慕ってポレポレでアルバイトを始めた!慕って、のレベルは日々上昇中……果たして!?

作者所感:
原作の正ヒロインちゃん。またの名をゲロイン……銀魂の神楽との共演が待たれますね。
梅雨ちゃんもそうなんですけど、良くも悪くも裏表ないところがいいなーと思います。ヒロインなんだけど、男友達っぽさもあるというか。出久と並んでるとすごい癒されるんだなあ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。