【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
――幕張 犯行現場
ヒーロー・爆心地からの連絡を受け、捜査本部の面々はこの場を所轄に任せて新港に向かう準備をしているところだった。
「トラックなんて使ってくるから一時はどーなるかと思いましたけど、案外あっさり片付きましたね」
自身の乗ってきたシルバーの覆面パトカーの前でぐう、と伸びをしながら、森塚。彼の表情にはことばどおり露骨な安堵が滲み出ている。
そんな小さな後輩の背姿を前に、鷹野警部補は露骨に顔を顰めた。
「そんな言い方はやめなさい、少なからず犠牲が出てるのよ。大体、私たちはまた何もできなかったんだし……」
後半は特に、彼女にとっての懸案事項であるようだった。以前の第14号もそうだったが、今回も未確認生命体に相対すらできていない。後追いで犯行現場を回っているうちに、第4号が倒してしまった――
「まあわかりますけどね。インゲニウムなんてスゲー複雑そうなリアクションでしたし」一応理解は示しつつ、「僕らは僕らの最善を尽くすしかないんじゃないですか?たとえばそう……いっそ開き直って、4号氏のサポートに回るとか!これは胸熱展開ですよ~」
「………」
てっきり文句が出るかと思った森塚だったが、意外にも鷹野は何も言わない。噛みしめるような表情が印象的だった。
やがて、
「……まあ、これ以上は酒でも飲みながらにしましょう。これなら今日は飲みに行けそうだし」
「え゛……アニメ、消化……」
「……私の酒はアニメに劣るってぇの?」
「いやぁ……じゃあお付き合いしますよ、ハイ」
いくら美女であっても、こういう先輩とはやりにくい――切実にそう思う森塚なのだった。
*
ところ代わって、人混みの極みとでもいうべき新宿駅構内。
その中心で、やや目立つ恰好の男女が密会していた。片や漆黒のドレスに真紅のファーを纏った美女に、片や黒づくめのコートの病的な男。取り合わせも奇妙といえば奇妙だった。もっとも都心部、異形型の通行人も多いなかで、服装だけでは"目をひく"とまではいかないのが実情ではあったが。
「空を飛ぶ、アレが出たか」バラのタトゥの女が先んじて口を開く。
「そんな、ニ、すごイ、モノなのカ?」
片言の日本語でゴオマが訊ねる。彼は空を飛ぶグロンギでありながら、超古代においてゴウラムと直接相対したことはなかった。ゴウラムが出てくるまでもなく、ペガサスボウガンで撃ち墜とされて封印されてしまったのだ。
バラのタトゥの女はうなずきつつも、仲間のことに話題を変えた。
「それより、ギャリドはどうした?」
「……戻らな、イ」
「………」
やはり、クウガとの戦闘で倒されたか。だとしても彼女はなんの感慨も抱くこともなかったが……ゴオマは違うようだった。忸怩たる表情を浮かべている。
彼がギャリドに個人的な親しみを覚えているとは思えなかった。そもそもグロンギという種族のほとんどはそういう感情をもたない。メ・ビラン・ギはそれに近いことをしていたが、それとて自分の"ゲゲル"に比べれば遥かに些末なことのようだった。
と、なれば――彼女はゴオマの心のうちを瞬時に見抜いていた。
「おまえも興味をもっていたか、リントの道具を利用するギャリドのやり方に」
「!」
図星のようだった。
「リントを学ぶことは悪くない……まして、おまえのような"ズ"が生き残ろうと思うのならばな」
「……!」
「だが……次のムセギジャジャはもう決まっている。――"ギノガ"を呼べ」
そう言い残すと、バラのタトゥの女は踵を返して去っていった。ゴオマはその姿が雑踏に消えるまで見送ったあと、やはり命令を遂行すべくその場を去ったのだった。
*
トライゴウラムが運搬されるに合わせて、緑谷出久と爆豪勝己は科警研を訪れていた。待ち構えていた発目明によって、たどり着くなり半ば強引に彼女の研究室に連行されてしまったのだが。
「まったくもう、大変だったんですよぉ爆豪さん!ああいうの調べる担当は全然違う部署なんですから」
プロジェクトに関わっている他の職員にも協力してもらい、なんとか協力を取りつけることができた、と発目。常に危ない笑みを絶やさない彼女が珍しく本気で疲弊した表情を浮かべている。そういう根回しのようなことは、彼女にとっては発明で何徹もするよりよほどきつかったのだろう。
文句をぶつけられた勝己が「フン」と鼻を鳴らして冷たくあしらうばかりなので、代わって出久が両手を合わせた。
「ごっ、ごめんね発目さん、苦労かけちゃって……!でも本当に助かったよ、ありがとう」
「……ま、いいでしょう。私としてもこう、なかなか興味深い研究材料ですしねウフfFF!」
早くも元の調子に戻った発目がカタカタとキーボードを叩く。と、トライゴウラムの調査が行われている実験室の映像が表示された。車体のあちこちにコードが繋がれ、種々の計器とつながっている。文系の出久にとってはドラマなどでしか見ない光景だった。
「ただいま非破壊検査をやってます。そのデータがここにも届くようにしといたんですよ~ウフフfF」
「ひ、ひはかい……?」
「ググれカス」
出久をあしらいつつ、ふぅ、と溜息をついた勝己は発目に対して「本庁に戻る」と告げた。
「え、かっちゃん帰っちゃうの?」
「俺がここにいてもしょうがねえだろ。つーかテメェは帰らねえのかよ」
「あ、うん、やっぱり気になるし……」
「そーかよ。ま、好きにしろや」
もしかして送っていってくれるつもりでいたのか、と出久は気づいたが、無駄に火に油を注ぐだけなので口にはしなかった。
「えっと、じゃあねかっちゃ――あっ、そ、そうだ、」
「?、ンだよ」
「忘れるとこだった……。あのね、光己さんのことなんだけど――」
「!、……あのババア、テメェんとこに行ったんか?」
「う、うん。とりあえずポレポレで一緒にお昼食べたんだけど……あれから三時間近く経ってるし、どうしたかな……確認してみようか?」
「……テメェですんのは勝手だが、俺は知りたくもねぇ。もしまだこっちにいやがるようなら、とっとと帰れっつっとけ」
「そ、そう……相変わらずだね、きみたち……」
そのことばはほとんど無視して、勝己は足早に去っていった。
「……事件も解決したんだし、ちょっとくらい会ってあげればいいと思うんだけどな。発目さんはどう思う?」
「どーなんですかねぇ。まあ人生色々、親子関係も色々ですからねぇ」
「ハハ……な、なるほど……」
一理あるといえばあるが、はぐらかされたような気がしなくもない。この女史はそういうことには立ち入るつもりがないようであった。
ならばと、出久も話題を切り替えることにした。
「ところでバイクのことなんだけど、すぐ近くで見ることってできないかな?」
「?、どうしてです?」
「バイクっていうか、くっついてる甲虫なんだけど……すぐそばで見れば、何かわかりそうな気がするんだ。お腹の中の石が教えてくれるかもしれないし」
「ふむふむ……おっしゃりたいことはわかりました。私とセットで入ればなんとかなると思います、多少難色を示されるかもわかりませんがココは押しきってみせましょう!」
「た、助かりますっ!……っとと、その前に電話しとかないと」
光己に――その前に、桜子に。ゴウラムのことを早く報告しておかなくては。
「あっ、もしもし沢渡さん?いまって研究室?うん、実はね――」
「――え、"馬の鎧"が?」
出久から「例の甲虫……"馬の鎧"が現れた」という報告を受けて、沢渡桜子は思わず大きな声をあげてしまった。しかもそれがトライチェイサーに融合したというのだから。
「それ、本当……?くっついちゃったって、どんな感じになってるの?」
『あぁ……なんて言うかな、完全に別のバイクになっちゃったみたいなんだ。あとで画像送るよ』ところで、と続く。『解読のほう、何か新しいの出てないかな?』
「うん、出てる出てる!えっとね……その甲虫はリントにとって、神の遣いだったみたい」
『ってことは……ありがたいもの、ってこと?』
「まあそういうことね」
『そっか!そうだといいなって思ってたんだ』
「ふふ……あとね、甲虫の名前っぽいのも出てきたよ。――"ゴウラム"って言うみたい」
『ゴウラム……ゴウラムか、なるほど』
明るい声の「ありがとう」を聞いて、桜子は通話を終えた。ともあれひと安心とほっとひと息ついていると、フランス人講師のジャン・ミッシェル・ソレルが入室してきた。
「あ、お帰りなさいジャン先生 」
「………」
返答はない。その表情はまるで大切な人を亡くしてきたかのように暗く沈んでいる。その理由は、桜子にも察しがついた。
――彼もまた約束していた。バヂスをクウガが撃破したあと、勝己に連れられて城南大学に戻ってきた夏目実加に。お父さんの遺志は自分たちが継ぐ、その研究を必ず役立ててみせる……と。
ゴウラムを失ってしまったことで、その約束を守れなくなってしまった。ジャンはそう思っている。
その憂鬱を払拭してあげるために、桜子は電話口の出久よろしく明るい声をあげた。
「元気出してください、ジャン先生。例の破片、無事回収されていま科警研にあるって」
「ホントデスカ!?」ぱっとその表情が切り替わる。「無くなってなかったんデスネ……ヨカッタ……」
こちらもこちらで反応がわかりやすい――彼と出久が地味に親しい理由がわかった桜子だった。
*
電話を終えて、出久は発目とともに実験室に移動した。彼女の言うとおり関係者ではない出久が入室することには強い難色を示されたのだが、これまた言うとおり出久をクウガだと明かすことなく押しきってくれた。有言実行――ヒーローの基本中の基本たる心構えであるが、発明家である彼女にもそれが身についているようである。あくまで己の関心が第一の理由であることはこの際ご愛嬌だろう。
「よし、写真を撮って……と」
実験室に入って早々、トライゴウラム目がけてスマートフォンを向けた。電話で言ったとおり、桜子に画像を送る――それを実行するためというのも無論あるが、何よりきちんと記録に残しておきたかったのだ。いつまでこの状態が保たれるかもわからないから。
「おっ、いいですねえ~緑谷さん。あとで私のタブレットにも送ってください!」
「えっ、うん、いいけど……発目さんは自分でデータもってるんじゃないの?」
「それは業務用ですからねえ……プライベートの端末にコピーしたら怒られちゃいますし。緑谷さんから送ってもらうならセーフです!」
「う~ん、それはセーフなんだろうか……。まあ気持ちはわかるけどね」
自分がこうして撮影していても制止はされないようだし、そういうことにしておこう――ひとまず自分を納得させつつ、改まって出久は訊いた。
「ところでどう思う?このバイク……」
「そうですねぇ……正直私の専門からは微妙に外れるので難しいことは言えませんが、科学的反応にせよ生物学的現象にせよかなりムチャなことが起きてるのは確かでしょうね。もうTRCSからして面影がほとんどなくなっちゃってますし。別の車種ですよもはや」
「確かに……パンペーラがV-MAXになったくらい違うよね」
具体的な車種については完全に専門外だったらしく、これは完全にスルーされてしまった。心操だったら同意してくれたのだろうが。
「それにしても大丈夫なんですかねぇ、ここまで変形しちゃって。虫さんが剥がれたら最悪動かなくなっちゃうかもしれませんよ?」
発目が珍しく真剣な表情でそんな懸念を口にする。確かにそれは、ふつうなら憂慮すべきことであったかもしれないが。
「いや、それは大丈夫……だと思う」
「どうしてです?」
「ほら、クウガの武器も近い形とか性質のものを変化させて戦うわけじゃない?紫の剣に変えたトライチェイサーのグリップとか、緑の弓にしたかっちゃんの籠手とか……僕が変身を解けばもとの形に戻って、問題なく使えてるからさ」
「つまり、TRCSももとに戻ると?」
「うん」
うなずきつつ、いったんマシンから離れようとした出久だったが……段差に引っ掛かって少しつんのめってしまった。幸い転倒するほどではなかったが、その際、手が車体に触れてしまった。ほんの少しではあるが。
――だがその瞬間、驚くべきことが起きた。尾部に融合したゴウラムの霊石がわずかに光を放ち、種々の計器に表示された数値が激変を見せたのだ。それは出久が触れている間のみの現象であった。
「いまのは!?」
解析を行っていた研究員たちが一様に驚きの表情を見せる。そのまま視線が出久に集中し、彼は同様の驚き以上に妙な緊張を強いられたのだった。