【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
淫がモーホー…もとい因果応報です
科警研を飛び出し、疾走するトライゴウラム。エンジンはもちろんのこと、その他のシステムもすべて問題なく復旧している。当然、無線も。
『デク。奴は国道14号を西に移動してる、浅草橋で待ち伏せしろ』
「わかったよ、かっちゃん!」
勢いこんで了承し――「変身!!」と叫ぶ。出久の身体が一瞬にして変化し、クウガ・マイティフォームのそれに変わる。
クウガはさらにスロットルを強く捻り、超速で浅草橋へと向かう――
*
メ・ギャリド・ギの操る大型トラックは、台東区内を暴走していた。無法の極みのごとき走りに比して、ギャリド自身の機嫌はあまりよくなかった……というより、焦っていた。トラック強奪からすぐに5人殺せたはいいが、それ以上は警戒中のヒーロー・警官隊にことごとく阻まれてしまっている。
「ザジャブボソガバギド……ラビガパ、ベゲ……」
苛々とハンドルを指で叩いていたヤドカリ怪人は、やがてサイドミラーに映る奇妙な影に気づいた。宵闇に鮮烈な輝きを放つ黄色い車体。あれは――
「クウガ……ギジャ、ヂバグ!?」
それはクウガとそのマシン――ではなかった。黄色を基調とした車体、何より特徴的なのはカウル部にひときわ輝くSDチックな瞳。
――"
『よ~しッ、18号捕捉!』
そして彼に跨がるライダーは、
「森塚、あと四キロ減速!振り落とさないでよ!」
『わかってますって鷹野さん!』
鷹野警部補。彼女は走行するバイクの上で、無謀にも両手でライフルを構えていた。その切れ長の瞳が猛禽類のごとき光を放つ。彼女もまた個性――"ホークアイ"を発動させたのだ。
そして、
「ふ――ッ!!」
引き金が引かれ、砲口から鉛の塊が放出される。それは回転を続けるタイヤを撃ち貫き、一瞬にしてパンクさせることに成功した。
さらに、間髪入れずにもう一発。後輪が完全に使いものにならなくなったトラックは、ガタガタと車体を揺らしながら停車した。
「よし、離脱よ!」
『りょーかいッ、爆走!激走!独走!暴走!ってね!!』
テンションとともにスピードも上げた駿速が、動けなくなったトラックの横をすり抜けて走り去っていく。
「ギギギギィッ、ガギヅサァ……!」
癇癪を起こすギャリドだったが、彼にとっての悪夢はこれからだった。
遠ざかっていく駿速とすれ違うようにして、前方からひとまわり巨大なマシンの影。カウル部にはSDの瞳……ではなく、"戦士"を表す古代文字。ライダーは黒いボディ、真っ赤な眼。あれは――
「ボンゾボゴ、クウガ!?」
迫りくるクウガとトライゴウラム。減速するどころか、ますますスピードを上げていく。
ちょうどそのとき現場に到着した勝己は、驚愕とともにその光景を見つめていた。
「あいつ、突っ込む気か……!?」
そのとおり――だが、ただ突っ込むのではない。前部の牙状のパーツがさらに巨大化し、熱を、火炎を纏う。根元から開いたそれが、トラックの車体をくわえ込み――
――容易く、持ち上げた。
「バンザボセパ!?バンザボセパ!?」
車内でわめくギャリド。しかしもう遅い、牙から伝わる熱は、アマダムから伝わったもの。そこには封印のエネルギーも込められている。牙はその溢れるパワーでトラックの車体をひしゃげ、潰しながら、着実にエネルギーを流しこんでいく。
「ウギッ、ギィ……!?ギアァァァァ……!?」
「………」
ギャリドが苦悶の声をあげ、のたうちまわっている。車内がどんどん潰されていくことに、封印エネルギーが全身を蝕むことに恐怖している。やがてその手が、クウガのほうへと弱々しく伸ばされて。
「タ……スケテ……クレェ……!」
「……!」
救けを求める声、手。ヒーローであるならば、相手が誰であれ絶対に見殺しにしてはいけない――いままではそう思っていたけれども、
「……無理だよ」
緑谷出久は、それを曲げることを選択した。
刹那、牙が完全にトラックをスクラップにする。もろとも潰されたギャリドの身体はほどなくして爆発を起こし、鋼鉄ともども四散したのだった。
「………」
爆風を至近距離で浴びたにもかかわらず、トライゴウラムは無傷だった。その巨大な車体に守られたクウガも。
おもむろにマシンから降り立ったクウガは、暫し爆炎の前に立ち尽くしていたのだが、
「デク!」
「!」
勝己の呼びかけに我に返ったように振り向いた。異形の顔に表情はないが、肩から力が抜けるさまは見ていてわかった。
「かっちゃん……やったよ、今度こそ」
「……おぉ」
それは間違いないだろう。勝己もまた、ギャリドが潰れていくさまをその目に焼きつけていたから。
「……デク、」
変身を解かぬまま立ち尽くす幼なじみにことばをかけようとしたときだった。――トライゴウラムが、鈍い光を放ったのは。
「!?」
ぎょっとするふたりを前に、化石色に戻ったその身がぼろぼろと剥がれ落ちていく。すっかり元どおりの形に戻ったトライチェイサーが現れた。
「えっ、な、なんで……!?」
「……科警研に逆戻りだな」
ふたりが破片を呆然と見つめていると、
「爆心地!」
鷹野と駿速が戻ってきた。ある程度離れたところに停車すると、駿速が森塚の姿に戻る。軽く腰をさすっている。
「バッチリ仕留めたみたいだねぇ、さすが4号氏!」
「え……あ、あぁ、どうも……」
まさか刑事からそんな気安いことばをかけられるとは思っておらず、クウガは面食らいながら頭をかくほかなかった。が、
「………」
「……!」
森塚とは対照的に、鷹野が険しい表情でこちらをねめつけている。彼女には何度か銃を向けられている――そのことを思い出したクウガは自然後ずさりしてしまうのだが、
「森塚、帰るわよ」
「え~もうちょっと~」
「……かわいくないっての」
銃を向けられるどころか、以前のように「トライチェイサーを返せ」と迫られることすらなく。後輩を引き連れ、鷹野は去っていった。
(……認められてきた、のかな)
蛙吹とともに戦ったときも思ったが。それが目的ではないにせよ、認められ頼りにされるというのはやはり嬉しい。それだけ自分が人を守れているということだから。
と、感慨に浸っていたクウガの背中を、勝己が思いきり蹴り飛ばした。
「う゛わっ!?なっ、かっちゃん、何す……」
「ウドの大木みてーに突っ立ってんじゃねえよ邪魔くせぇ」
「ウドの大木……」
確かに勝己よりも圧倒的に長身にはなってしまうが、クウガの姿だと。
「もう用もねえだろ、とっとと帰れや」
「う、うん……わかったよ」破片を踏まないように注意しつつ、トライチェイサーに跨がる。「あ、そうだかっちゃん、」
「ア゛?」
「光己さん、8時半の新幹線で帰るって。僕、見送りに行くけど……」
「あっそ。好きにしろや」
最後まで言いきらせないよう被せて、勝己はシッシッと追い払うようなしぐさをする。出久としても一応伝えるだけのつもりだったので、それ以上食い下がるつもりはなかった。仮にそうしていたら爆破をかまされただろうが。
*
――東京駅
「ハァ~、全然動いてないわりにすごく楽しい一日だったわ。ふたりとも、ありがとね!」
幼なじみないし同級生の親に笑顔で礼を述べられて、出久もお茶子も揃って恐縮しきりだった。
「い、いやそんな、こっちこそいろんな話聞かせてもらって……」
「僕に至ってはほとんど離脱してましたし……」
「細かいことは気にしないの!あたしが楽しかったって言ってるんだから」
「アハハ……」
こういう物言いを聞くと、やはりあの青年と親子なのだと実感する。受ける印象はまったく異なるが。
「じゃ、そろそろ行くけど……。――出久くん、」
「?、はい」
「……ううん、なんでもない。身体と、あと未確認生命体にも気をつけて、元気にやるのよ。お茶子ちゃんもね」
「はい!」
「お母さんもお元気で!」
別れの挨拶を済ませ、光己は手を振りながら改札の向こうに消えていった。それを見届けてから、
「僕らも帰ろっか。送ってくよ」
「え!?わっ悪いよ、デクくん疲れてるみたいやし……ココロノジュンビデキテナイシ……」
「え?」
「ななななんでもない、なんでもないよ!……あのさ、デクくん」
「なに?」
「爆豪くんのこと……さ、恨んで、ないの?」
「……!」
元々大きな瞳をさらに見開く出久。それが一瞬、地を舐めるように伏せられたあと、
「……光己さんに聞いたの?僕とかっちゃんの、昔のこと」
「う、うん……。ごめんね、勝手に……最初はただ、ふたりの思い出話とか聞こうと思っただけなんやけど……」
「いや……うん、そうだよね」
あれだけの長時間入り浸っていたのだ。そういう話をしていても何ら不思議ではない。
俯いたまま、出久は率直に答えた。
「……あったよ、恨んだこと」
「………」
「結局、ヒーローになるって夢をあきらめてさ、僕には本当に何もなくなっちゃって。そうしたらぽっかり空いた穴の底から、それまで抑えつけてきたどろどろしたものが溢れてくるんだ。……あいつさえいなければよかったのに。そうすればあんなつらい目に遭わずに済んだかもしれないのに。何より……こんなふうにかなわない夢を見ずに、もっと早くから分相応な生き方ができたかもしれないのに……って」
"ヘドロ事件"のあと、勝己といっさい関わらなくなって――友達と呼べるほどではなかったけれども、ふつうに話くらいはできる相手が何人かできたりもした。無個性のくせにヒーローになるなんて分不相応な夢をもっていなければ、爆豪勝己との歪んだ
「でも、」
「やっぱり、僕の中にかっちゃんはいるんだ。どうしようもなくいちゃうんだ。強くてカッコよくて、唯一無二の……ヒーローとして」
「だからせめて、精一杯の自分でいたいんだ。かっちゃんにも胸を張れる……ほどではないかもしれないけど、恨んで、嫉んで生きていくよりはずっと、憧れに近い生き方だと思うから」
「デクくん……」
吐露を終えた出久は、へらりとした笑みを顔に貼りつけた。そこには幾ばくかの寂寥めいたものも浮かんでいたけれども。
「ごめん……なんか、色々。どの口が言うんだって感じかもしれないけど、幻滅しないでほしいな、かっちゃんのこと。きみが三年間見てきたのも、本当のかっちゃんだと思うから」
「……うん、わかっとる。ねえデクくん、」
「ん、」
「爆豪くんの中にも、さ。ずっといるんだと思うよ……デクくんが」
「……僕が?」
「うん」
出久は暫し考え込んだあと、
「そうだったら、いいね」
ごちるようにそう言って、力なく微笑んだ。
*
また発目に連絡してゴウラムの破片回収を済ませた爆豪勝己だったが、彼の仕事はまだ終わっていなかった。
「………」
珍しく淡々とした表情でPCのキーボードを叩く勝己。彼は報告書の作成を行っていた。そうした事務仕事も社会人である以上避けられないのである――まして彼は唯一4号と接触し、その動向を把握しているのだから。
作業を続けていた勝己は、ふと腕時計を確認した。そのまま暫し考え込んでいたのだが……やがて、スマートフォンを取り出し――
――同時刻 東海道新幹線内
過ぎゆく夜景をぼんやりと見つめながら今日一日を回想していた光己は、そばに置いたスマートフォンが振動するのに気づいた。
電話。家で帰りを待っている夫からだろうか――そんな予想をたてていた彼女は表示された名前に驚き、次いでほんの少しだけ口許をほころばせた。
デッキに出て、電話を受ける。聞こえてきたのは静寂だったのだが、光己は不審には思わなかった。
「もしもーし?」
こちらが声をあげると、ようやく相手の声が響いてくる。「……おぉ」という、発信者とは思えないか細い声だったが。
「なぁ~に、どうしたの?」猫なで声を出す。「もしかして、やっぱりママが恋しくなっちゃった?今ごろ遅いわよ~もう新幹線乗っちゃったモン」
『ハッ、寝言は寝て言えや。ヒーローはンなヒマじゃねぇんだよ』
「ふ~ん、そう。だったらこんなことしてるヒマもないんじゃない?」
『あぁ、まったくだわ』
「でしょ」
暫し、沈黙が流れる。それを破ったのは、発信者のほう。
『……じゃあな』
「うん、おやすみ」
通話が、切れる。――傍から見れば、互いにあまりにも素っ気ないやりとり。
この母子は、それでよかった。それだけで十分だったのだ。その証拠に、互いの口許にはやわらかな笑みが浮かんでいたのだった――
つづく
RG「はいこんにちは、リカバリーガールだよ。ヒロアカあるある?言いたかないよ別に。それより、クウガの緑谷もなかなかケガが多いようだね、あたしの知ってる緑谷よりはマシとはいえ。しかし緑谷といい俊典といい、若い子はどうしてこう死に急ごうとするのかねぇ?あたしみたいにいつ死んでもいいような年寄りになると命が惜しくなるっていうのに。難儀なもんさね」
EPISODE 15. 死命
RG「プルスウルトラは結構だけど……三途の川は、渡るんじゃないよ」