【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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本日から七日間連続うpという自分にできるだけの無理をしてみたいと思います
こんなことができるのも今だけなんだぜ……働きたくねぇぜ……


EPISODE 15. 死命 1/3

 朝の城南大学・体育館。その一角で、ふたりの青年が対峙していた。

 

「来い、緑谷」

「うん。――よしっ、いくよ心操くん!」

 

 心操人使の腕――正確には腕につけた防具――に向かって、緑谷出久は勢いよく右脚を振り上げる。それらが接触を遂げた瞬間、鋭い音が室内に響き渡った。

 

「いいぞ。腰入れて、もう一回」

「うんっ、――はッ!」

 

 再び脚が振り上げられる。鋭い音。もう一度。さらにもう一度。さらに――

 

 体育会系の学生でにぎわってくる頃まで、彼らの日課となりつつあるマーシャルアーツの自主練が続けられたのだった。

 

 

 

「お待たせ心操くん!」

「ん、」

 

 出久がシャワールームから出てくる頃には、心操はもう私服に着替え終えていた。それを見た出久もいそいそと自分の着替えを取り出している。

 

「今日はやけに長風呂だったな」

「えっ、あ、う、うん、そうだね……ごめん」

「いや別にいいけどさ。……つーか、まだ腕がビリビリする」

 

 ショック吸収にすぐれた防具できっちり受け止めたにもかかわらず。心操は軽く腕をさすった。

 

「おまえどんどん上手くなってくな、まだ始めて一ヶ月そこらとは思えない」

「そう、かな?」

「うん。もう俺なんかじゃ相手にならないかもな」

 

 わざと自分を卑下してそう言うと、出久はあわあわと両手を振った。タオル一枚のまま。

 

「そっ、そんなことないよ!?やっぱりこう、経験の差が歴然というか……」

「その差もすぐ埋まりそうな感じだけどな。それなりに身体もできてきたみたいだし……。とはいえ、とりあえず服着れば?」

「あっごっごめん、お見苦しい姿を……」

 

 出久は慌てて下着に脚を通しはじめた。そのさまをじろじろ見ているのもどうかと思い、心操はその間スマートフォンで暇つぶしをしていたのだが。

 

 

「ところでさ、心操くん」

「ん?」

 

 呼びかけられて再び視線を向けたときには、出久はもう着替え終えていた。

 

「この服……おかしいところとかないかな?」

「?、いやそれは別に……さっきまで着てた謎文字Tシャツはおかしいけど。なんで?」

「いや、その……」

 

 ポッと頬を染めるさまは、人の機微に敏い心操が事情を察するに十分だった。

 

「もしかして……デート?」

「!、で、でっ……いや、デートというか、その……」ゴホゴホと咳払いをして、「麗日さんと……今日、映画観に行こうってことになってて。もし変な恰好だったら失礼だし……」

「麗日……そうか、いまおまえんとこの店でバイトしてるんだっけ」

「うん」

 

 出久が麗日お茶子と親しくなったと聞いたときは、珍しく本気で驚いてしまったものだ。爆豪勝己も幼なじみだというし、雄英に在籍していなかった身でありながらなぜここまで雄英に縁があるのだろう、こいつは。

 それはともかく、

 

「緑谷って……麗日とそうなのか?沢渡さん、なんて言ってるんだ?」

「いっいや違うよたぶんっ、まあ友達としては好かれてると思いたいけど……さすがに。沢渡さんは……『よかったね』って」

「……ふぅん」

 

 なんだか釈然としないものを感じたが、桜子には桜子の考えがあるだろうからとあまり深く考えないことにした。精神的には同年代の中でもかなり成熟した部類に入ると自覚している心操だが、三つ年上の彼女はもっと大人だ。

 

「それで長風呂だったのか。ま、いいんじゃないの。あんたも少しは女を知ったほうがいいだろうし」

「女を知るって……心操くんだって彼女いないじゃないか」

「いまはいないけど昔はいたし」

「それ、いたことない人の常套句だって聞いたことあるよ……」

「ほんとにいたっての。……まあ中学んときだけど」

「ちゅ、中学!」

 

 

 

 

 

 第18号事件が昨晩終息し、かりそめの平穏を取り戻した都内。ヴィランによる個性犯罪は続発するものの、飽和さえしているヒーローたちによりそれは未然ないしエスカレートしないうちに解決されている。敵連合が壊滅したいま、大規模な犯罪はピークから減少傾向にあることは間違いない。"平和の象徴"がいなくとも――

 

――だが、その中にあっても。超古代から甦った彼らは暗躍を続けている。ただただ、人の命を奪うという形で。

 

 

「………」

 

 よく晴れた正午前にあっても陽光が届かず、薄暗い路地裏。建物の室外機が設置され蒸し暑くもある。そこを不似合いな恰好の青年が歩いている。長身だが痩躯、白銀の長髪に薄化粧を施した優美な顔立ち――服装も相俟って中性的、いや女性的な雰囲気を纏っている。歩き方も極めてゆったりとしている。

 

 本来、彼のような人間がこのような場所を通るべきではなかった。このような場所には、表を堂々と歩けないようなそれ相応の者たちが息を潜めているのだから。

 

「オイ、おまえェ」

 

 青年の前に、突如異形のふたり組が現れた。長身の彼よりやや大柄で筋骨隆々。それぞれ牛と虎に似た獣人とでも呼ぶべき風貌である。無論この世界においてそういう分類はなく、単に"異形型"の個性持ちでしかないのだが。

 

「ココはよォ、オレたちのシマなんだけどォ?誰の許可得て通ろうとしてんだァ?」

「置いてくモン置いてくなら見逃してやらんこともないぜェ、わかるよナァ……オカマ野郎?」

 

 下卑たことば。いや、その表情から何から、すべてが下劣そのものと言うほかない。彼らはヴィランと呼ぶにもあまりに程度の低い存在で。

 それでもこの青年のような人畜無害な存在にとっては脅威――と、思いきや。

 

「………」

 

 彼は至って無表情を保っていた。ただ冷たくふたりのチンピラを見つめている。それは当然逆鱗に触れるものだった。

 

「ンだテメェ、なんとか言えやコラァ!!」

 

 虎男が青年の襟首を掴み威圧した――その瞬間、

 

 青年は虎男の背中に腕を回して抱き寄せ……その唇に、噛みつくようなキスをした。

 

「……!?」

 

 虎男も隣で見ていた牛男も、この青年がそのような行動に出るとは予想だにしていなかった。いくら相手がそういう性嗜好の持ち主らしい外見であるとて、こんな状況で。

 

 しかし牛男はともかく、虎男の思考はそれまでだった。青年の口を介して何か粉塵のようなものが体内に侵入してくる、その感覚を最後に――

 

 青年が虎男を解放する。たちまち彼はがくりと膝をつき……そのままうつぶせに、アスファルトに倒れ伏した。

 

「え……お、おいっ!?」

 

 牛男が慌ててその身体を抱き起こそうとする。しかし虎男は呆然としたような表情のままぴくりとも動かない。そして、ゆるく開かれたままの口腔は――

 

 

――歯までどろどろに融け、腐っていた。

 

「な、な……ッ!?」

 

 牛男はもはや恐慌に近い混乱をきたしていた。――死んだ?なぜ?あの青年のキスが原因で?

 

 刹那、牛男は脇腹を蹴られ、情けなく地面を転がった。

 

「ぃぎ……っ!?」

「………」

 

 仰向けにされた牛男に、青年がのしかかってくる。妖艶ですらある笑みを浮かべ、ゆっくりと唇をなぞりながら。

 

 そして彼は――優雅に、宣言した。

 

「バギング、ドググビンレ」

 

 

 

 

 

 少しゆっくりしたあと心操と別れた出久は、駐車場の一角に駐めてあるトライチェイサーに跨がろうとしていたところだった。これからポレポレへ向かい、午前中シフトに入っているお茶子と合流する。そのままお昼をポレポレで食べて、午後に映画館へ向かう――というプランである。そのあと彼女を乗せて軽くツーリングのようなこともして、良い時間になったらそれなりに洒落たところで夕食をともにして――なんて考えていながら、良くも悪くも下心はない。少なくともそこから先のミッドナイト――18禁ヒーローに非ず――についてはノープランな20歳であった。

 

「よし……っ、と」

 

 ともあれエンジンを掛け、メットを被ろうとしたそのとき。携帯が鳴った。麗日さんかな、と思いきや。

 

「!」

 

 発信者の名を認めた出久は、瞬間的に表情を険しくして電話に出た。――相手の名は、爆豪勝己。

 

「……もしもし」

『19号が行動を開始した。新宿四ッ谷だ』

「四ッ谷だね、わかった」

 

 時間にして数秒。極めてシンプルなやりとりのあと……少し迷って、出久はポレポレの番号を呼び出した。

 

 

――同時刻 ポレポレ

 

「♪~」

 

 麗日お茶子はご機嫌で働いていた。鼻歌を歌いながら踊るように客席に注文を運び、空いた席を拭き清めている。その様子を苦笑混じりに眺めていたおやっさんがひと言。

 

「浮かれてるねぇ……お茶子ちゃん」

「えぇ?そんなことないですよぉ~♪」

 

 いやいや、誰がどう見ても浮かれている。事実、ランチ中のお客さん方も皆、どこか生温かい目で彼女を見ているのだから。

 

「まあいいけどさぁ……おやっさんの魅力に気づいてくれる娘も来てくれないもんかねぇ」

 

 年齢的に犯罪すれすれな希望をのたまいながらおやっさんが独りごちていると、店の電話が鳴った。

 

「あ、私出ます!」すかさずお茶子が受話器をとり、「はい、オリエンタルな味と香りの……あ、デクくん?」

 

 相手は出久だった。受話器の向こうから申し訳なさそうな声が響いてくる。

 

『麗日さん……あの、ごめん……。今日なんだけど、実は急用が入っちゃって……』

「!、そう、なん……?」

『うん……本当にごめん!』

「い、いやええよ、急用ならしょうがないもん……」

『ごめん……あ、でも、もしかしたら一、二時間で片付くかもしれないから!』

「そっか!私は何時からでも大丈夫だよ、映画も最悪レイトショーとかあるし。無理なら別日でもいいからね!」

『うん。とにかく終わったら連絡するよ、それじゃまたね!』

「うん、また!」

 

 電話が切れ――憚る相手のいなくなったお茶子は、へなへなとカウンターの椅子に座り込んだ。盛大に溜息をつく。

 

「何、出久のヤツまた急用?」

「……みたいですー。早く終わったらまた連絡するとは言ってくれたんですけど……」

「まあアイツは嘘はつかないだろうしねぇ、急用がなんなのかは気になるけども」

「詮索できませんもん……。ハァ、午後どーしよっかなー……」

「……人手は欲してるよ?」

「欲してますか。じゃーデクくんから連絡くるまで働いちゃおっかな!」

 

 気を取り直したお茶子は、逸る気持ちを抑えるべく再び精力的に働き出したのだった。

 

 

 

 

 

 お茶子への連絡を終えて、出久は新宿区内へとトライチェイサーを走らせた。都心も都心なだけあり、車も歩行者もあちこちで行き交っている。この近辺にグロンギが潜伏しているとは思えない。

 

「……ッ」

 

 だからこそ、出久は焦った。早く見つけ出して倒さなければ、この人たちも。

 と、そのとき、

 

「……!」

 

 どくんと、腹の中でアマダムが疼いた。倒すべき、敵。すぐそばにいる。

 

 出久はマシンをその導くほうへ向けた。ガード下の通りに入る――と、傍らの歩道に、倒れている人の姿を発見した。咄嗟にマシンを路肩に停車させ、駆け寄る。

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

 見たところ外傷はない……が、呼びかけに対する反応もまったくない。そして、わずかな腐臭。

 

「!、これは……」

 

 ゆるく開いたままの口内が腐り、歯までボロボロになっていることに出久は気づいた。その腐食が、こうして見ている間にも進んでいく様子も。

 

「何が――ッ!」

 

 再び、あの感覚。反射的に振り向いた出久の前に、あの中性的な美青年が迫っていた。

 青年はそのまま出久に抱きついてきて、

 

「う゛わっ!?」

 

 珍しく嫌悪感丸出しの声とともに、出久は青年を思いきり突き飛ばした。細身がフェンスに叩きつけられ……刹那、ぐにゃりと歪む。忽ち肌色の、キノコにも似た不気味な怪人へと変化した。腹部の装飾品が、彼がグロンギであることを示している。――キノコ種怪人 メ・ギノガ・デ。

 

「ゴラゲゼバギング、ドググドドググビンレザ……ハハハッ」

「………」

 

 グロンギのことば。明確な意味はわからないが……自分を獲物と見定め、殺害を宣告していることは間違いなかった。

 だが……そうはさせない。自分だけではない、他の誰もこれ以上、殺させはしない――

 

 だから、

 

「――変身ッ!!」

 

 腹部に手をかざしてアークルを顕現させ、構えをとり。中心部のモーフィンクリスタルが、赤い輝きを放つ。

 そして出久の全身は一瞬にして変貌、クウガ・マイティフォームと化した。

 

「クウガ……!?」

 

 途端にギノガは余裕を失ってしまった。嬉々として襲いかかってきたこれまでのグロンギたちとは対照的に、慌てて逃げ出そうとしている。

 拍子抜けしかけた出久だが、当然逃がすつもりはない。すかさず跳躍して逃走方向へ回り込み、立ちすくむギノガの腹部にストレートを叩き込む。

 

「アッ!?」

 

 悲鳴をあげるギノガ。その顔面にさらにもう一発。打たれた部分がひしゃげ、血が噴き出る。

 ひたすら拳を叩き込むクウガに対し、このグロンギは呻き、おののきながら逃げまどうことしかできない。――こいつ、弱い。出久はそう確信した。

 

(これなら、いまこの場で倒して……!)

 

 ここで終わらせてしまえば、電話でお茶子に言ったとおり一時間程度の遅れで済ませることができる。彼女との約束を、守れる。

 強く念じると、また右脚が熱くなってくるのがわかる。その膨大なエネルギーを叩き込むべく、クウガは回し蹴りを見舞おうとし、

 

 躱されてしまった。わずかに態勢が崩れたところに、いきなりギノガが抱きついてきて、

 

「――!?」

 

 突然の口づけ。引き剥がすより早く、ギノガの小さな口から胞子状の粉塵が放出されて、

 

 

「かッ……ア……!?」

 

 途端に体内から絶叫のごとき激痛が奔り、クウガは全身を痙攣させた。毒のようなものを、注入された――被害者たちを殺したのと同じ。そんな思考すら、たちまち保てなくなる。

 クウガがその場に膝をつくのを見計らって、ボロボロになったギノガは這う這うの体で逃げ出す。半ば本能的に立ち上がり、あとを追おうとしたクウガだったが……そこで、限界が訪れた。

 

 倒れたその身体が赤から白に変色し、角が半分ほどにまで縮む。それでもなお苦痛はひどくなる一方、彼は絶えず全身を痙攣させ、声なき声で悲鳴をあげ続けた。

 

 

――そして爆豪勝己が現場に到着したときには、クウガの姿は緑谷出久のそれに戻っていた。

 

「デクっ!?」

 

 その尋常でない様子に気づいた勝己が、鬼気迫る様相で駆け寄っていく。抱き起こす。身体の痙攣は延々続き、卵型の眼球は血走って真っ赤になっていた。

 

「デク、おいデクっ!!……デク――ッ!!」

 

 必死に呼びかけ続ける勝己。しかし目の前の幼なじみはもう、受け答えができる状態にはなかった……。




キャラクター紹介・リント編 バギンドパパン

塚内 直正/Naomasa Tsukauchi
個性:???
年齢:41歳
誕生日:4月4日
身長:180cm
好きなもの:野球・正直者

備考:
警視庁未確認生命体関連事件合同捜査本部のNo.2であり、捜査指揮を行う管理官・警視。かつては敵連合関連事件合同捜査本部で彼らの痕跡を追っていた、合同捜査本部に縁のある男だ!無論優秀な分析力とプロファイリング能力あってのことだぞ!
なんとオールマイトとは親しい仲であり、彼の抱えていた秘密を知る数少ない人間でもあるとか……。

作者所感:
オールマイトの友人・仲間であること以外かなり謎の多い人ですね。個性が明かされていなかったり目が笑っていなかったりで内通者(黒霧)疑惑がかかっててドキドキしてます。万が一原作でそういう展開になってしまっても「ifだから……」で納得してあげてくださいお願いします。
それはさておき、今作では警部から昇進してます。福井もとい照井竜と同じ階級ですが、彼のように赤いレザージャケットを着て現場にやって来たりはしません。もちろんライダーに変身したりも……しない、かな……?ちなみに現実ではノンキャリアが40歳までに警視になるのはほぼ不可能みたいです。でも相棒の角田課長なんかは30そこそこで既に課長でしたし、現実より柔軟なんだってことでひとつ(何せ総監が元ヒーローだし)。
ガタイがいいので森塚さんのように少年っぽくは見えませんが、風貌はかなり若いですね。四十路過ぎてもまったく老けてないんじゃないかと思ってます。

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