【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

57 / 187
緑谷出久
攻略難度:☆☆☆☆☆

全ルート攻略の隠れた障害になるのがコイツ!優しいしウブだから楽ちんかと思いきや実は全キャラで一番ハッピーエンドを見辛いぞ!
人間としてまっとうな選択肢を選べば親密度は上がるので友達になるのはカンタンだ。しかし愛情度は極めて上昇し辛い!プレゼントをあげようがデートに誘おうが肩に寄り掛かろうがなかなかそういう目で見てくれないし、やっと愛情度が高まってきたかと思うとそれまでのほのぼのが一転、バックボーンにまつわる鬱展開に突入……明らかにバッドエンド一直線に思えるストーリーが続くが、あきらめずアタックし続けるとやがて光明が見えてくるのでがんばろう!
ただし終盤は少しでも選択肢をミスると 死 ぬ 。緑谷死すでガチなバッドエンドである!その地雷っぷりにユーザーからは「かっちゃんのほうがまだマシ(攻略しやすい)」との声を多数いただいてます!!


「私のヒロインアカデミア♡」攻略の際には是非参考にしてください(大嘘)
ちなみに他に☆5つなのはオールマイトとグラントリノだけです。特に後者はランダムで「誰だ君は!?」が発動して親密度&愛情度がリセットされるうえ、うまく仲良くなっても寿命ENDに引っ掛かる可能性がある鬼畜仕様となっております


EPISODE 15. 死命 2/3

 沢渡桜子はいつもどおり考古学研究室で古代文字の解読にあたっていた。馬の鎧となるクウガの僕・ゴウラム――その存在理由を示すもの以外にも、その身にはたくさんの碑文が刻まれている。一刻も早くその全貌を明らかにすることこそ、自分の責務だと思っていた。

 それにしても、

 

(出久くん、デートかぁ……)

 

 本人は頑として認めていなかったが、誘ったお茶子のほうが明らかに好意をもっている様子な以上、デートと言うほかないだろう。その事実に思うところがないではなかったが……何より出久とそういう関係になる難しさは、彼女自身がよく知っている。お茶子にとっての試練はまだこれからだと、桜子は未だ直接面識のない新米ヒーロー(謹慎中)に思いを馳せた。

 そうしてインスタントコーヒーを啜っていると、携帯が鳴った。液晶に"爆豪勝己"の名が表示されている。それだけで胸騒ぎを覚えながら、桜子は電話をとった。

 

「もしもし……どうしたんですか?」

『……落ち着いて聞いてくれ。デクの奴が――』

 

 勝己から告げられた事実に、桜子はスマートフォンを取り落としそうになった。

 

「出久くんが……!?」

『いまから関東医大の椿医師ンとこに運びます。ただ、俺は現場を離れられねえ……だから、』

「……わかり、ました。すぐ関東医大に向かいます」

『……頼みます』

 

 通話はそれだけだった。勝己の声は終始平静を装っていたが……最後の頼むというひと言だけは震えているように、桜子には思われた。

 勝己の思いに心を寄せるのはあとだ。桜子はとりあえず手近な手荷物だけ抱えて研究室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 その頃、椿秀一医師は洒落たイタリアンレストランでランチの真っ最中だった。当然ひとりではなく、美女を伴って。平日はややマッドなドクターである彼も、休日はこのように社会的地位と恵まれた容貌を最大限に活かしたプレイボーイなのであった。

 

「どう、イケてるだろこの店?」

 

 椿の問いかけに、向かいでパスタに舌鼓を打つ女性はうんうんとうなずく。

 

「うん、いい味してる♪」

 

 それに対し、

 

「きみはいい鎖骨をしてる」

「さ、鎖骨……?」

 

 女性は流石に困惑を隠しきれていない……が、椿は意を介さない。

 

「ああ、鎖骨だ。鎖骨だけじゃない、脛骨のカーブも素晴らしい」

「へ、へぇ……変なの」

 

 明らかに引かれている……のだが、椿はそんなことには気づかず。むしろ「うまく口説けた」と悦に入っている。彼にとっては自然に滑り出した、偽らざる本音だったからだ。私生活でもマッドなのは変わらないのだった。

 と、そこに携帯が鳴った。やはり相手は爆豪勝己だ。

 

「……なんの用だ、こんなときに」

 

 やや不機嫌に通話を受けた椿であったが……「デクが敵にやられた」という報告を受けて、やはり取るものも取りあえず飛び出していった――

 

 

 

 

 

 桜子に宣言したとおり、勝己は現場を離れることができずにいた。捜査本部の面々でもいの一番に駆けつけたヒーローとして、他の捜査員・ヒーローらに状況を説明、また引き続き捜査にあたっていた。

 

「またがらりとやり口変わったねー、今度のヤツは。状況からいってガイシャの死因は毒物だろうけど、どういう類のものかが掴めない」

 

 コツコツと万年筆で手帳を叩きながら、森塚がごちている。口腔から恐らく体内――臓器まで、一瞬にして腐食させる。とにかく凶悪な毒物であることに違いはない。

 だが、それがいかなる性質をもつものなのか――当然追及し、解明する必要はある。あるいはウィークポイントも掴めるかもしれないから。

 

「これは……」

 

 と、傍らにしゃがみ込んでいた鷹野が何かに気づいたような声をあげた。

 

「どうしたんです?」

「これ、見える?」

 

 鷹野が被害者の遺留品であろう落ちていた眼鏡を差し出してくる。ふたりがかなり目を凝らして、ようやくレンズにふつうの汚れとは異なる粒子状の物体が付着しているのがわかった。

 

「おー、流石ホークアイ……」

「……これは?」

「見ただけじゃわからないわね。科警研で分析してもらいましょう」

 

 そのことばに、勝己は「なら俺が」と手を挙げようとした。置き去りにされているトライチェイサー、これが回収されてしまう前に自ら乗って科警研へ行き、発目明に預ける好機だと思った。4号の正体をよく知る彼女のもとにあれば、復帰し次第また出久に渡すことができる――

 

 が、声を出しかけた勝己に先んじて、「では自分が持っていきましょう!」と威勢の良い声をあげた者がいた。捜査本部でそんな人間はひとりしかいない――インゲニウムこと飯田天哉である。

 

「なぜあなたが?」

 

 鷹野が怪訝そうに訊く。勝己のような思惑でもなければ、同じ警察組織の人間が持っていくほうが自然だ。ヒーローはやはり戦闘が本分なのだから。

 つまり飯田には飯田の、別の思惑があるということだ。

 

「ひとつ、別の用事がありまして。……よろしいでしょうか?」

「まあ、そういうことなら。頼むわね」

 

 証拠品を受け取り、相変わらず大ぶりな動きで車に戻っていこうとする飯田。こうなれば是非もないと、勝己はわずかな逡巡ののちに彼を呼び止めた。

 

「?、どうした、爆豪くん?」

「……科警研行くなら、あれ乗ってけ」

 

 勝己が顎をしゃくった先に漆黒のトライチェイサーがあるわけだが……飯田は首をひねった。

 

「あのバイクは?」

「TRCS」

「!、そ、そうか言われてみれば……。真っ黒だからまったくわからなかったぞ」

(……それが目的だからな)

 

 そのためのマトリクス機能である。地味な色合いにしておけば、クウガの乗るあの派手なゴールドヘッドと同一車両には見えないから。見る人が見ればすぐ看破されてしまうだろうが。

 

「しかし……TRCSがここにあるということは、4号くんは既に戦ったのか?どこに行ったんだ?」

「!、………」

 

 当然の疑問。なのだが、勝己は現時点でそれに答えるつもりはなかった。

 

「……いいから早よ行け。グズグズすんなや」

「!、あ、ああ……そうだな。マシンは発目くんに預ければいいのか?」

「ああ」

「わかった」

 

 表情から何かを察したのか、飯田はあまり詮索しないでくれた。勝己の意図もきちんと読んでくれている。やはりあの濃厚な三年間の重みというものはあると実感せざるを得ない。

 

「……ッ」

 

 とにかく、自分にできることは一刻も早く19号――ギノガを見つけ出し、倒すことしかない。出久のことを強引に頭の片隅に追いやった勝己は、じめじめとした温風を吹きつけてくる室外機を鋭く睨みつけた。

 

 

 

 

 

 関東医大病院に一台の担架が運び込まれていく。そこに乗せられているのは――緑谷出久。双眸は見開かれたまま、呼吸器をつけられ、時折身体を痙攣させている。かろうじて命は繋ぎとめているが、これまでのように快方へ向かっている様子は微塵もない。予断を許さない状態のままだった。

 

 と、ちょうどそこに大急ぎで駆けつけてきた椿医師が遭遇した。出久の姿を認めるや、大急ぎで走り寄り、救急隊員に訊いた。

 

「バイタルは!?」

「発汗が著しく瞳孔は縮小、意識レベルは200です!」

 

 つまり、ふつうのやりとりどころか反射すらほとんど機能していない状態――担架とともに走りながら、椿は顔を顰める。

 

「ッ、緑谷……!」

 

 出久の手を強く握りながら、椿は「大丈夫、必ず救けてやるからな」と何度も繰り返し続けた。まるで自分に言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

――千葉県柏市 科学警察研究所

 

 実験室のひとつに、巨大な甲虫の像が安置されている。中心の翠の鉱石だけが鮮やかな輝きを放っているそれは、昨日東京の空を飛翔、さらにはトライチェイサーと合体してギャリド打倒にひと役買ったあの装甲機と同一の存在とは思えない。

 しかし現実に、この文字どおりの遺物こそゴウラムなのである。研究員一同その組成を余すことなく分析し、可能ならもとの姿に戻してやりたいと考えてはいたのだが……有効な方策が思い浮かばないのが実情であった。

 

「困ったなこれは……何をどうすればいいのか」

 

 ああでもないこうでもないと議論をかわす研究員たちを尻目に、ゴウラムを360°眺め回す若い女史の姿があった。――発目明。あるプロジェクトを任されている客員研究員である。

 元々研究畑ではなく、あくまで開発者――ヒーロー用のサポートアイテムの開発を生業としてきた女性なだけに、この場は完全アウェーなのだが、そんなことはまったく意に介していない。また、他の研究員たちも本来なら持て余すところなのだが――

 

「やっぱり昨日の彼かな……発目くん、知り合いなんだろう?」

「緑谷さんのことですか?ええ、故あって!」

「彼がこれに触ったら計器が反応しましたしね……。彼、まさかと思うけど……」

「お待ちを!」

「!?」

 

 いきなり発目が大声を出したものだから、研究員たちは息を呑むほかなかった。

 

「詮索なさらないほうが身のためかと。何されるかわかりませんよ……爆心地に!」

「ば、爆心地に?」

 

 あの悪鬼羅刹のごとき表情と笑い声は、彼らもよく知るところであった。ゆえに困惑していると、扉が遠慮がちにノックされて。

 

「失礼いたします!」

 

 そんな威勢の良い声とともに入室してきたのは、発目のよく知るヒーローの青年で。

 

「!、飯田さん……」

「………」

 

 吃驚した様子の発目をなんとも言えない表情で一瞥すると、飯田は同じく呆気にとられている研究員たちに四角張って声をかけた。

 

「発目研究員がこちらにいるとお聞きして参りました!少しの間彼女と話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「え、あ、ええ……よろしいです」

 

 そもそもゴウラムについては、彼女は「後学のため」と称して物見に来ているだけだから、彼らからすれば何時間借りっぱなしにされようが構わないのだった。

 

 

――と、いうわけで。

 

「突然すまないな、発目くん。いま発生している未確認生命体第19号事件の証拠品を届ける役目を請け負ってここに来たんだが……実はきみに話があってな」

「私にお話……ですか。珍しいですね、飯田さんのほうからそんな」

「そうだな……否定はしないが」

 

 雄英時代――発目は飯田にとり、ある意味因縁の相手だった。1年生の体育祭で無断で彼女(とその"ベイビーちゃん"たち)の宣伝道具にされて以来、どうにも苦手意識をもってしまっていた。それでもヒーロー志望にとりサポート科の支援は必要不可欠、その関係は切っても切れないものだったのだが、近年は発目が科警研に招聘されていることもあり顔を合わせていなかった。マイペースな発目も彼に苦手に思われていることは自覚していたので、もう会うこともないと思っていたのだが。

 

「それで、話というのは――」

「!、はい」

「うん、きみが担当している例のプロジェクトのことなんだが、あとどのくらいで完成しそうなんだ?」

「そうですねぇ、完成の意味合いにもよりますけど……使いものになるというだけでしたら、今月中にはそうなるかと。無論そこから調整を行う必要があるので、正式な配備はだいぶ先になるとは思いますが」

「そうか」

「まあでも、配備されれば未確認生命体と戦っていくうえでも役立つこと間違いなしですからね!大急ぎでがんばってますよウフフfFFF!」

 

 ことさら明るい声でそう言うと、再び「そうか」とうなずく飯田の表情が少しばかりほぐれた。それも一瞬のことで、次の瞬間にはきりりとしたいつもの顔に戻っていたのだが。

 

「当然、"候補者"の選定も進めているんだろう?」

「ええ、やはり実戦データを集める必要がありますから。それが何か――」

「その中に、俺も入れてはもらえないだろうか?」

 

 ほとんど被せるように放たれたことばは、発目を驚かせるに十分だった。

 

「飯田さん、それは……」

「無理は承知だ、きみの一存で決められるものでないことも。……だが、いまのままではいけないんだ。4号くんや爆豪くんに頼りきりで、何もできないいまの僕では……」

「いや、その……なかなか選定も難航してますし、ヒーローであるあなたが名乗り出てくださるのはありがたい話ではありますけど……。つまりは実験台になるということですよ?もしかしたら危険もあるかもしれませんし……」

 

 そのように扱われたことが遺恨となっているのではなかったか。ゆえに発目は訊いたのだが、

 

「わかっている」飯田はまっすぐ彼女を見つめ、「僕はヒーローだ。市民の安寧を守るためなら命のひとつやふたつ……いやひとつしかないけども、とにかくきみに預けてやるさ!」

「飯田さん……」

 

 飯田は再び笑みを浮かべた。先ほど一瞬見せた柔和なものとも違う、迷いのかけらもない誠の笑顔。それを目の当たりにして、発目の腹も固まった。

 

「……わかりました、私からあなたのことを推薦してみましょう!私のドッ可愛いベイビー、信頼のおける人にお預けできるに越したことはないですからねぇウフフfF!!」

「そうこなくては!……おっと忘れるところだった。発目くん、爆豪くんからTRCSを預かってきたぞ。なんでもきみのところに置いておいてほしいとか」

「?、TRCSを?みど……4号さんはどうしたんです?」

「いや、ぼ、俺も詳しくはわからないが……」

 

 彼の身に何かあったのか――そんな予感はあったのだが、ふたりとも予感に沈んでいるだけの暇はないのだった。

 

 

 

 

 

 出久はICU――集中治療室に入れられていた。意識も未だ戻っておらず、予断を許さない状況は続いている。

 

「――以上のような状況ですが、希望は捨てないでください」

 

 椿の説明に、駆けつけた沢渡桜子は深刻な表情でうなずく。その手がわずかに震えているのを、彼は見逃さなかった。

 

「あの……出久くんのところ、ついててあげてもいいですか?」

「ええ。あ、でも、中には入れないので……」

「わかってます。……すみません、」

 

 会釈とともに桜子が席を立ったあと、椿もまた奥に引っ込んだ。備え付けの電話を手にとる。

 

「――爆豪か?あぁ、さっき検査が終わったところだ」

 

 結果はどうだったのか、淡々と尋ねる声が返ってくる。動揺はないように聞こえる――表面上は。

 その問いに直接は答えず、

 

「被害者の解剖結果は聞いてるか?」

『いや、』

「特定不明の毒素のために、全員内臓が腐食、半ば融解してる。現場から搬送する途中に身体が崩れ落ちたという報告もある」

『!、……デクは、』

 

 出久の肉体が腐り落ちる……その光景を想像してしまったのだろう、努めて平静を保っていた勝己の声が明らかに震えるのがわかった。

 

「いや、たぶん例の石の力だろう、白血球の数が通常の二〇倍にまで増えて毒素に対抗してる。だからいまのところ体内の腐食は食い止められてる」

『そう……っすか』わずかに安堵が滲む。

「ああ。とはいえ、緑谷の腹の中の石はこれまでにない変わり様だ。これまでにも何度か変化は見られたが、今回はそれが回復する兆しが見られない」

『ッ、……助かるんすか?』

「……正直、楽観はできない。いま俺に言えるのはそれくらいだ」

 

 電話を介しているゆえに、勝己がどんな表情でこの残酷なことばを聞いているのかはわからない。でも受話器越しに耳に当てられるその息遣いは、様々な想いの奔流に揺れ動いているように、椿には思われた。

 やがて、絞り出すように、

 

『……デクに、伝えてもらえますか』

「ああ……なんだ?」

 

 

――踏み倒しやがったらぶっ殺す。

 

 籠手の借りをポレポレカレー百食で返す――未だ果たされていない約束。それを知らない椿は当然怪訝に思ったが、勝己の意を汲んで「わかった」と了承したのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。