【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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収拾がつかなくなった。


EPISODE 46.5. 紅白頭はトラウトサーモンの夢を見るか? 3/3

 

 やはりなんやかんやあって、戦場はいつの間にかどこぞの採石場に移動していた。

 

 入口付近に駐車されたGトレーラー。そこからG3の鎧を纏い、メットだけ小脇に抱えた心操人使が出てきて、既に並んで待っていた焦凍と出久の隣に進んだ。彼らと数メートルの距離で対峙するサモーン。

 そしてなぜかここにも運ばれてきた屋台で、割り箸を片手にざるそばを睨みつけている勝己。

 

 彼が割り箸を割ると同時に、3人の戦士は動いた。

 

「――変身ッ!!」

 

 出久のアークルが光を放ち、彼はクウガ・マイティフォームに。

 

「G3、装着!」

 

 メットを被り、装着シークエンスを完了させる心操。トレーラー内で完了させろと言ってはいけない。

 

 そして、

 

「変……、――身ッ!!」

 

 オルタリングが光を放ち、焦凍の身体を包み込む。彼もまた、アギトへと"進化"を遂げた。

 

 

 ひゅう、と北風が吹きすさぶ。対峙を続ける3人の仮面ライダーと、グロンギ怪人。

 

「……いただきます」

 

 両手を合わせた勝己が、ざるそばをすすりはじめる。――それが、戦闘開始の合図となった。

 

「喰らえェイクラ爆弾!!」

 

 身体に付着したイクラをちぎっては投げ、ちぎっては投げてくるサモーン。"爆弾"の名称に違わずそれらは接地と同時に爆発を起こす。

 

「ッ!」

 

 地面を転がり、爆炎を避ける3人。先陣を切って反撃に動いたのは、G3だった。

 

「そんな攻撃で……――今度はこっちの番だ!!」

 

 すかさず"GM-01 スコーピオン"を構え、弾丸を発射する。それらは正確にサモーンのイクラを捉えることに成功していた。ぶしゅうと音を立てて、割れていく半透明の赤玉たち。

 

「ああっ、イクラが!?未来のシャケちゃんたちが壊れていくぅ!!」

「次はおまえ自身だ」

「何ィ!?」

 

 スコーピオンの銃口に専用のアタッチメントを取り付け、

 

「"GG-02 サラマンダー"――発射ッ!!」

 

 グレネードランチャーが火を噴き、サモーンを直撃する。「ぎゃわらばッ!?」という悲鳴とともに、彼は大きく吹っ飛ばされた。

 

「ぐぐぅぅ……まだまだぁ……!」

「なら、次は僕の番だ!」クウガが跳躍する。「マイティ、キック!――うぉりゃあぁッ!!」

 

 クウガの必殺キックが炸裂し、後方へ押しやられるサモーン。しかし彼は倒れない。踏みとどまり、踏ん張っている。

 

「さあ轟くん、とどめだ!」

「決めろ、轟」

「……ああ!」

 

 万感の思いを押し殺し、構えるアギト。母より受け継いだ"右"の冷気、父より受け継いだ"左"の燃焼、

 

 そして師より受け継いだ"ワン・フォー・オール"を、すべて同時に発動する。黄金の角が、陽光を浴びて光を放った。

 

「はぁああああ……――ッ!」

 

 そして、跳躍。両足に、すべての力を集中させる――

 

「ライダー……トライシュート――ッ!!」

 

 最大の一撃が、サモーンの胸元を捉えた。火炎が、氷雪が、光の粒子が辺り一面に散らばり……その身を、打ち砕いた。

 

「う、ウゴォォォォ……!」

「………」

 

 絶壁に叩きつけられ、うめくサモーン。やがて彼は、かすれた声を発した。

 

「どうせ、爆発するなら……シャケを食べすぎてパンパンになった腹に……なぜか飛んできたキツツキが、激突してくれればよかったァ……!」

「……サモーン」

「アスタキサンチン、ポクポクチーン……!」

 

 そのことばを、辞世の句として。サモーンの身体がゆっくりと前のめりに倒れ込んでいく――そして、

 

「成仏!!」――そんな叫び声とともに、大爆発が起きた。

 

「………」

 

 大量の焼け焦げた鮭が辺り一面に降りそそぐ。その光景を見つめて立ち尽くすアギト、そしてクウガにG3。ざるそばをすすり終え、「ごちそうさまでした」と手を合わせる爆豪勝己。

 

(サモーン……おまえとは、わかりあえる気がした)

 

 心の底から、焦凍はそう思った。結果はこのとおりだったが。自分は対話のスキルが致命的に欠落していると彼は自覚していた。それがあればもっと、という思いにも駆られる。

 俯く焦凍……と、見下ろした地面に、びちゃりと音をたてて何かが落下してきた。ビチビチと跳ね回る元気なそれは――鮭。爆炎に呑み込まれずに済んだのだろう、鮭の稚魚だった。

 

 

 

 

 

 数分後。付近を流れる河川に、焦凍はかの稚魚を放流していた。

 

「達者でな……サモーンJr.」

 

 下流に向かって泳ぎはじめるサモーンJr.。彼(彼女?)が荒海に出て、立派な鮭になるまで生き残ることができれば……あるいはサモーンの望んだように、食卓に並ぶ日が来るかもしれない。

 

 せせらぎを聴きながら流水を見つめていると、背後から「ショート!」と呼ぶ声がかかった。

 振り返ればそこには、仲間たちの姿があって。

 

「みんな……」

「ショート!」

「ショート」

「ショートォ!!」

 

 下の名前と響きのまったく同じヒーローネーム。友人たちにそう呼ばれるのは、呼び捨てにされているようでなんだかこそばゆい。下の名前で呼び捨てにするのなんて、家族を除けばグラントリノくらい――

 

「ショート、」

 

「……しょうと」

 

 

「起きんか焦凍ぉ!!」

 

 刹那、世界がぐるりと回転して――

 

 

「はっ!?」

 

 友人たちの声がいきなり老人のそれに変わったかと思えば、野山の風光明媚な風景が慣れ親しんだ自宅の天井へと様変わりしていた。

 

「ったく、ようやっと起きたか。もう夕方だぞ」

「……ぐらん、とりの」

 

 「午後まるまる寝おって」と、呆れきった様子の老人――グラントリノ。そのひと言でようやく、焦凍は記憶を手繰り寄せはじめた。今日は朝から買い出しに出て、帰宅してから蕎麦を打って――

 

――……シャケは?

 

「シャケぇ?」ばっちり口に出していたようだ。「何言っとんだ、寝ぼけとんのか?」

「寝ぼけ……」

 

 蕎麦打ちに専心した午前。爆睡してしまった午後。――ここから導き出される、答はひとつ。

 

 

「……なんつー夢だ」

 

 

 

 

 

 1年最後の日没が訪れた。

 

 喫茶ポレポレの扉には"CLOSED"のプレートが掛けられていたが、施錠はされておらず、店内には灯りがついていた。正月を迎えるための装飾も店の周囲に施されており、営業していなくとも賑々しさを振り撒いている。

 

 バイクを飛ばして店の前に到着した焦凍は、その明るい雰囲気を感じとってほっと息をついた。常連と言えるほど通いつめていない自分のことも、ここはいつだって歓迎してくれる。

 

 紙袋を抱えてドアを開けると、からんころんというカウベルの音とともにエキゾチックな装いの店内が視界に飛び込んでくる。スパイスの香りが、鼻腔をくすぐる。

 

「あ、轟くん!」

 

 カウンター席に座って談笑していたふたりの青年が、立ち上がって迎え入れてくれた。先ほどまで夢の中でダイカツヤクだった、緑谷出久と心操人使だ。

 

「わり、遅くなった。腹減っちまっただろ」

「うー……まあね」

「いい蕎麦は打てたのか?」

 

 「もちろんだ」と、サムズアップで応える。無表情のまま。心操が軽く噴き出し、出久がくすりと笑う。そういう反応にももう慣れた。

 

「ちょっと途中でスーパーに寄っててな、遅れちまった。つーわけで、これ」

「刺身?気がきくな」

「でも……なぜにサーモン?」

 

 焦凍が買ってきた刺身はサーモンづくしセットだった。こういうときは色々な種類の盛り合わせを買ってくるほうがポピュラーなので、不思議がられるのも無理はないが。

 

「ちょっと……供養してやりたい奴がいてな。さっき俺の夢に出てきたシャケの怪人で、とにかくシャケを食べてほしがってた」

「???」

 

 「なに言ってんだこいつ」みたいな表情をふたりが浮かべるのも無理はない。ただ、焦凍はあくまでも本気だった。自分の頭の中にしか存在しないもの、それでも夢の世界で感じたことは幻ではない。

 

「……轟、ひとつだけいいか?」

「なんだ、心操?」

「シャケっつってたけど……これ、トラウトサーモンだぞ?」

「?」

 

 首を傾げる焦凍に対し、心操はやけに優しい声で「ググってみろよ」と告げる。言われた焦凍ばかりか、出久までそんな行動をとりはじめた、なぜか……は考えるまでもないが。

 そして――ふたりの「あっ」という声が重なる。液晶ディスプレイには、揃って"ニジマス"の文字が躍っていた。

 

「な?」なぜかどや顔の心操。

「シャケじゃ……ねえのか……」

 

 夜空のお星様となったサモーンが、「コラ~!!」と喚いている姿が目に浮かび、焦凍はがっくり項垂れた。

 

「とッ、轟くん!」出久が慌てた声を発する。「な、なんかよくわかんないけど、元気出しなよ!ほら、お蕎麦食べよう?僕らお腹ぺっこぺこだしさ!ね、心操くん?」

「だな、今日くらい楽しくいこうぜ。せっかくおやっさんが特別に貸してくれてるんだしさ」

 

 休業している今日この日、出久たちが自由に出入りを許されているのはひとえにおやっさんの厚意によるものだ。ちなみにそのおやっさんがいまどこにいるかというと、遥か海を渡った南アジアはネパール連邦民主共和国。急に冒険の虫が湧き出したとかで、つい先日急遽旅立っていった。身代わりにと、妖しげな笑顔を浮かべたプリクラを店のすべての座席に残して。

 閑話休題。

 

「……そうだな」ふっと微笑む焦凍。「すぐ準備する、待っててくれ」

「うん!」

 

 また、先ほどの夢を思い出す。サモーンを唸らせたように、このふたりにも……と思う。現実の自分には、"究極の蕎麦"と言えるほどのものを打てる技術はないけれど、それでも――

 

(……がんばれ、俺)

 

 

 しばらくして。

 

「おぉ~……」

 

 目の前に供されたざるそばを見下ろして、出久と心操は揃って感嘆の声を漏らしていた。焦凍お手製の蕎麦が目の前にある。店頭に出しても遜色ない外観と香り。肝心な味のほうであるが、果たして――

 

「んっ!」

 

 早速口をつけた出久が喉から声を発する。焦凍はびくっと肩を揺らした。

 その過敏さに苦笑しつつ、

 

「すごく美味しいよ、轟くん!」

「!、ほ、本当か?……心操はどうだ?」

「……まあ、腹空かして待ってる甲斐はあったかな」

 

 言いようは違うが、それは彼らの性格の違いによるものであって……ふたりとも、本心から「美味しい」と思ってくれていることが伝わってきた。個性を使ったわけでもないのに、胸のあたりが温かくなるのは気のせいだろうか。

 

「……そう言ってもらえて嬉しい。ありがとな、ふたりとも」

 

 

――焦凍は、思う。自分は蕎麦が好きで、皆にもその美味しさをもっと知ってもらいたい。

 

 けれど何より、彼らの……大切な人たちの笑顔をこうして見られることが、何よりうれしい。

 

(……おまえたちに出会えて、よかった)

 

 この風景を守るために、これからも戦い続けよう――人間として、ヒーローとして……アギトとして。

 

 

 そうして"仮面ライダー"と呼ばれる彼らの激動の1年は、穏やかに終わりを告げようとしていた――

 

 

 

 

 

 

『シャーケッケッケッケ!!イイ話っぽく締めようとしても、そうはイカの金目鯛!!』

「!?」

 

 つけていなかったはずのテレビから、突如として響いた声――それは果たして、夢か現実か?

 

 

 年越しは、未だ遠い……のかもしれない。

 

 

To be Continued……?

 

 





サモーンの存在が正夢になったのか(予知夢?)、それとも轟くんがまだお昼寝中なのかは皆さんのご想像にお任せいたしやす。



次回より最終章に入ります。

残り5話……あと少しお付き合いくださいませ。


ちなみに最終話のタイトルだけは既に決定しています。
どんなものになるか……ヒントはEPISODE 1!

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