【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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しかし本エピソード、出久がしゃべってくれないせいか全体として短めです
4/4の戦闘シーンは原作に比べてたっぷりとれたのでまあ良いかと自分を納得させつつ3/4ドゾ~


EPISODE 16. 英雄の眠り 3/4

 夜も深まった資材置き場に、四つの人影があった。女性のものがふたつ、痩身の男のものがひとつ、少年がひとつ――もはや詳しく語るまでもないだろう、グロンギの面々である。

 

「クウガは倒せタ、が、ウェ、ゲホッ、ゲホッ!……ギノガはもう、ダメだナァ」

 

 痩身の男――ゴオマがゲホゲホと咳き込みながら毒づく。ギノガの死の口づけを受けたダメージは、あれから数時間が経過したいまでも完全には癒えていないのだった。

 それに対し、相変わらず携帯ゲームに興じるガルメが、

 

「そうなりゃ世話ないんだよねぇ」

「……バビ?」

「奴は打たれるほど強くなる……伊達に"メ"なのではないということだ」

 

 やすりで爪を削るガリマの忌々しげなことばを受けて、ゴオマは憮然と黙り込むほかなかった。ギノガが"権利"を放棄すれば、それが自分に回ってくるかもしれない――そう思ったのだが。

 

「ま、好きにやらせりゃいいんじゃねーの、クウガも始末してくれたわけだし。……キモイから時間切れであいつも死んでくれりゃ最高っスけどー」

「クウガめ……情けない。まあいい、ヒーローとやらの手並み、期待させてもらうとしよう」

 

 クウガの死を確信し、ギノガのあとに待っているであろう己が"ゲゲル"に思いを馳せる一同。

 

「……クウガは、そう簡単に終わるかな?」

 

 小声で呟かれたバラのタトゥの女のことばは、降り始めた雨音にかき消され、彼らに届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 出久が生き返るかもしれない――桜子からの連絡でそんな光明を見出した椿は、彼の遺体が安置されたままの集中治療室に足を向けていた。本当なら今頃は霊安室に移されていたところ、椿が強硬に抑えたのだ。一部始終を見ていたスタッフや他の医師からは精神状態を心配されてしまったが、とにかく暫くの猶予は与えられた。

 魂の消えうせた骸は朽ちていくだけだ。出久もその例には漏れない。――だが、もしもベルトの……霊石"アマダム"によるなんらかのトリックがあるのだとしたら。むしろ、快復の兆しがあるのではないかと思われた。

 

「………」

 

 室内に入り、横たわる出久と再び対面する。彼は身じろぎひとつせず、固く瞼を閉じたままだ。血の気の引いた頬は青白い。見た目には、やはり死人のそれとしか思えないが。

 

 椿は恐る恐る出久の首元に手を伸ばした。顎の下にそれを差し入れ、手の甲をぐっと押しつける――

 

「……!?」

 

 椿は、思わず息を呑んだ。――温かいのだ。

 既に死亡が確認されて数時間が経過している以上、生前にあった熱の残滓など残っているはずがない。ただのモノとして、この室内の気温と同程度の冷えた感触しか与えないだろうに。出久の身体は、むしろ死亡確認時よりも熱をもっているように感ぜられた。

 

「緑谷、おまえ……」

 

 掛けられた布団を剥ぐと、今度は出久の腹部に手を当てる。そこに埋め込まれた霊石が、やはり何か――

 

――と、不意に部屋備えつけの電話が鳴った。よもやと思った椿は、素早く動いて受話器をとった。相手はやはり沢渡桜子で。

 

「どうしました?」

『碑文の他の部分に、さっきのものに似た警告文みたいなものがあったんです』再び碑文を読み上げはじめる。『"戦士の瞼の下、大いなる瞳になりしとき、何人もその眠りを妨げるなかれ"……戦士がたとえ死んだように見えても、誰も何もするなってことでしょうか』

「!、だとしたら、俺がやったことはかえってまずかったってことか……?」

 

 霊石が蘇生措置を行っているのだとしたら。電気ショックはむしろ、それに不具合をもたらしてしまったのでは――そんな懸念が頭をよぎる。

 だがそれでも、わずかに差し込みつつあった光明が、より鮮明になっていくように思われた。

 

「そうだ、緑谷の体温が上がっているようなんです」

『本当ですか!?』桜子の声にも希望がにじむ。

「ええ、とにかく暫くこのままにしておいてみます。……じゃあ!」

 

 受話器を置き、ひとつ息をつく。そのうえで、再び出久に視線を向ける。

 

「緑谷……ちゃんと帰ってこいよ。信じてるからな……」

 

 最後にそれだけ言い残して、椿は集中治療室をあとにした。――去り際、部屋の灯りを点したうえで。

 

 

 

 

 

――板橋区 深夜

 

 日付が変わって暫くが経過した深夜の街路も、ここが都市の一角である以上完全に眠ってしまうことはない。陽気な音楽とともに踊り狂うストリートダンサー、カップル、飲み会終わりの酔っ払いサラリーマンなど、多種多様な人々が行きかっている。

 

「新宿じゃあ大変みたいだねぇ、未確認でぇ……」

 

 酔っ払いの片割れがそんな発言をする。それに対しもう一方が「みたいだねぇ」と応じる。同じ都内であるにもかかわらず彼らは完全に他人事だった。それも無理からぬこと、未確認生命体は基本的に一度に一体しか現れない。出現地域内ならまだしも、そこから多少離れたところで偶然にも遭遇してしまうなんてこと、考えもしない。人は自らが実感するかたちで脅威に直面しない限り、どんな恐ろしい事件であっても他人事でしかないのだ、所詮。

 

 

――だから、彼らはただ運が悪かっただけだ。新宿に潜んでいるはずの第19号、メ・ギノガ・デがこの板橋区にまで移動してきていて、彼らを既に標的と見定めていたなんて。

 

「こっちも大変になるよ」

「へ……?」

 

 背後からの声に振り向いた酔っ払いたちが見たのは、白い長髪を赤い帽子で覆った男とも女ともつかぬ風貌の人間――声色からして男なのだろうが――。彼は妖しげな微笑みを浮かべると、ふっと吹きかけるように息を吐き出し、

 

「!?、う゛ぇ――……ッ」

 

 忽ち酔っ払いたちは、呼吸困難のようになってその場に昏倒する。いや、彼らだけではない。ダンサーたちをはじめ、その場に居合わせた人々はすべて、短い断末魔とともに倒れ伏していく。彼らは一様に体内が腐食し、絶命していた。

 

「……フフッ」

 

 自らが築いた死体の山を歩きながら、彼は……ギノガは妖艶に笑う。銀のブレスレットに填めた珠玉を、次々に移動させながら。

 

 

 

 

 

 一方、警視庁未確認生命体関連事件合同捜査本部もまた眠ってはいなかった。朗々とついた灯りのもとで捜査員らが慌ただしく動き回り、会話をしている。彼らはいま、次なるギノガの出現地点を予測しているところだった。

 

「西新宿の高層ビル群のあたりは室外機も多いし、可能性は高いんじゃないか?」

「いやでも、室外機だけに限っていいものかどうか……」

「やり方を変えてくることも考えられますしね」

「なんにせよ朝までに決着つけないとまずいぞ、あの辺りの稼働を完全に止めることなんてできないからな……」

 

 こんな調子で、検討に検討が重ねられていく。爆豪勝己も一応参加はしていたが……いつも以上にことば少なだった。彼が心情を押し殺していることもあって、その様子に気づく者はいなかったのだが――ひとりを除いて。

 

(爆豪くん……)

 

 彼――飯田天哉だけは、勝己が何を思いつめているのかを吐露されている。だがあれ以上、なんと声をかけていいのかもわからない。こんなとき彼の親友であり相棒でもあった切島鋭児郎なら、多少なりともその心を癒すようなことばを吐き出せるのだろうか。……そこまで考えて、「自分はそんな出来の良い人間ではない」と思い直した。唯一の親友である男にすら、自分は何もしてやれなかったのだから。

 

 飯田の憂鬱をよそに、勝己はかかってきた電話に出たところだった。――相手は科警研の発目明だ。

 

『TRCSの整備、簡単にですがやっておきましたよ~』

「ヘンな魔改造とかしてねぇだろうな?」

『……あのですね爆豪さん。私もヒマじゃないんですよ、だからこんな時間まで缶詰めになってるわけでして……。ハァ、眠気がすっと吹っ飛ぶようなおクスリが欲しいです……』

「何キメようとしてんだカス」

『ウフfF、冗談です冗談。――ところでずっと気になってたんですが、緑谷さんはどうしたんです?結局なんの音沙汰もないですけど』

「!、……あぁ」

 

 そういえば、発目にはまだ話していなかった。いま話すべきか、時を改めるべきか――再び葛藤が生まれる。昨夜からずっと自分らしくない躊躇ばかりだと思った。出久の母親にも、未だ連絡できていないままだ。

 

『爆豪さん?』

 

 発目が怪訝そうな声を発したそのとき、捜査本部の設置された会議室に飛び込んでくる姿があった。――塚内管理官だ。

 

「皆、聞いてくれ。板橋で19号によると思われる事件が発生した」

「!?」

「板橋!?新宿じゃないんですかッ?」

 

 皆一様に驚愕を見せるが、次の瞬間には慌ただしく出動しはじめた。どこに移動していようが、それが現実である以上は対応するほかない。勝己もまた例外ではなかった。

 

「事件だ。切るぞ」

『あっはい。そうだ、なにやら成分二倍の超強化ガス弾ができたらしいですよ。19号、仕留められるといいですね!』

「いいですねじゃねえ、やるんだよ。――じゃあな」

 

 今度こそ電話を切ると、勝己もまた走り出した。待っていても出久は来ない、であれば自分たちが本来の役目を果たすだけ――このときは、そう思うほかなかった。

 

 

 


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