【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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七日間連続投稿、ラスト!!

霊石の不思議な力により復活へと向かう出久、果たして彼は目覚めるのだろうか!?そして4号のいない戦場で、ヒーローたちはどのようにグロンギに立ち向かうのか!?……なEPISODE 16 結編でございます~


EPISODE 16. 英雄の眠り 4/4

――未だ、ベッドの上で眠り続ける出久。しかしその体内では、確実に変化が起きていた。朽ちていく……否。青白かったその頬は再び血色を取り戻しつつある。

 

 やがて、腹の上で組まれた手――力のこもらないはずの指が、ぴくりと動いて。

 

 

 

 

 

 河川にほど近い、板橋区内の某高架下。いつもなら早朝独特の穏やかな静寂に包まれているはずのそこは、このとき戦塵と銃声、そして人々の阿鼻叫喚の声で満たされていた。

 

 次々と拳銃の引き金を引いていくガスマスク姿の警官たち。その中心には、撃ち込まれる弾丸などものともせずに目の前にいる警官をパトカーに叩きつけるキノコ怪人の姿。――メ・ギノガ・デ。そのボディは昨日よりひと回りマッシブになっており、頭部は赤く色づいている。

 

「こ、こいつ――ッ!」

 

 増強型個性をもつ大柄な警官が後ろから押さえつけにかかるが、あっさり振り払われ足と地面に頭をサンドイッチにされる。血と脳漿とが、石と石の隙間を流れ落ちていった。

 

 独自の殺人技すら使うことなく、暴力のみで警官隊を蹂躙していくギノガ。すわ全滅かというところで駆けつけた捜査本部の面々も、その変わりように少なからず衝撃を受けていた。

 

「マジかよアレ……本当に19号か?」

「胞子も使わずにここまで……」

「……ッ」

 

 歯を噛み鳴らしながらも早速爆心地――勝己が爆発とともに突撃を敢行しようとしたところで、もう一台パトカーが入ってきた。運転手は捜査員のひとり、大きなアタッシェケースを抱えている。

 

「科警研からガス弾をお持ちしました!」

「!」

「ナイスタイミングっ!」

 

 森塚がガッツポーズをとる。彼と鷹野がアタッシェケースに入ったマガジンを受け取り、ライフルに装填する。

 

「よ~し……」

「見てなさい!」

 

 こちらに突き進んでくるギノガに銃口を向け――放つ!

 胴体に吸い込まれていった弾丸はその体表面に食い込み小規模な爆発を起こす。濃縮されたガスが一斉に流れ出す。さらに一発、二発――昨日までのギノガなら、もはや行動不能に陥っていたことだろう。

 

――昨日まで、なら。

 

「……!」

 

 ギノガは一応、その歩みを止めた。だが鬱陶しげにガスの漏れ出す胸元を払うようなしぐさを見せただけだ。まったくダメージを受けた様子はない。

 

「ログボンバロボパビ……ババギジョ」

 

 嘲るようなことばを放ったかと思うと、フッと指を口許に当て……満を持してとばかりに、胞子を放った。

 ガス状のそれに包み込まれた警官たちが、苦悶しながらその場にばたばたと昏倒していく。ガスマスクで防護しているにもかかわらず――

 

 それらは空気の流れに従い、漂いながら勝己たちにも襲いかからんとする――

 

「ッ、退避――」

「――もう遅ぇわッ!!」

 

 逃げても逃げきれない。そう判断した勝己が賭けに出た。両手から大規模な爆発を起こし、その爆炎を胞子の群れに仕向ける。昨日はこれで殺菌できた。本体が強化されているいまは――

 

 その賭けは結果的に成功した。実際、胞子もある程度強靭になってはいたものの、流石に高温の爆炎に灼かれて耐えきれるほどではなかったのだ。

 だが、ひと安心というわけにはいかなかった。だってギノガはまだ、そこに立っているのだから。

 

「ラザザジョ」

 

 さらに胞子を吐き出す。広がっていく群れ。勝己は後退しながらも爆破を続けるが、次第に処理が間に合わなくなっていく。

 

(ッ、クソが……!)

 

 この男の心に、あきらめの四文字は浮かびはしない。だが、現実として限界の二文字は存在する。このままでは、ほどなく爆破を逃れた胞子が到達し――

 

 

「――"ヘルフレイム"」

「!」

 

 突如背後から現れた劫火が、勝己の周囲に迫る胞子群を一瞬にして焼き尽くした。当然、勝己自身を傷つけることなく。

 

「苦戦しているようだな」

「!、エンデヴァー……」

 

 まったく薄くなる気配のない尖った赤髪に、炎を全身に纏った壮年の大男――捜査本部所属ヒーローのリーダー格として君臨するベテランヒーロー・エンデヴァー。

 彼が現場に現れたことに、一同驚きを隠さずにはいられない。なぜなら、

 

「大丈夫なのですか?炎を使用しても……」

 

 彼にはかつて負った古傷があった。個性を使用するたびに疼き、場合によっては激痛に苛まれる。それは彼に一度は引退を決意させたうえ、復帰して捜査本部に所属しているいまもなお、相談役のような役割と引き替えに戦場から離されている最大の理由となっていた。

 

 が、エンデヴァーはそうした心配を一蹴する。

 

「短時間なら問題ない。私の個性を活用できる相手だ、指をくわえて見ているわけにもいかんだろう」

 

 つまりは、短時間で決着をつける――齢50を過ぎてもまったく衰えることのない気迫に、20代そこそこの飯田らは圧倒されるほかない。

 ただ、結果的に並び立つことになった勝己だけは、その例外だったが。

 

「ハッ、ジジイが粋がりやがって。しゃしゃり出てくんなや」

 

 父親より年長の相手に対し容赦ない罵詈雑言を浴びせる。が、エンデヴァーはまったく顔色を変えずに言い返す。

 

「ならばあのまま無様にやられていたほうがよかったか?減らず口は状況を見て叩くんだな」

「……チッ、倒れて足引っ張んなよ」

「それはこちらの台詞だ」

 

 剣呑なことばの応酬を繰り返しているうちに、ギノガは再び胞子を噴きつけてくる。

 

「ッ!」

 

 すかさず口を閉じたふたりが、己が個性で応戦する。爆炎が、劫火が、迫りくる胞子を呑み込み、灰燼へと帰す。彼らはひと言もことばをかわすことなく、しかし最大限効率的に処理を行っていた。

 

「おぉやるねぇ……流石似たもの同士」

 

 森塚はそんな感想を小声で述べていたが、飯田はまた違うものを見ていた。犬猿の仲である勝己と見事な連携を為すエンデヴァーの背中に、彼の息子の姿を幻視したのだ。彼の息子と勝己の仲もまた良好とはいえなかったが、まれに協力して戦う際にはやはり文句のつけどころのない連携を見せていたことを思い出す。徹底的に競いあいながらも、互いの能力を最大限に高めあう――それができるふたりだった。

 

(轟くん……)

 

 飯田の感傷をよそに、掃討が続く。ヒーローに限界が来るか、ギノガが胞子を吐き尽くすか――というとき、状況が動いた。ギノガが胞子を吐くのを止めたのだ。

 

「!」

 

 尽きた!いまのギノガは格闘にも強い、その隙を逃がしてはならない。勝己もエンデヴァーも、ここで一気に攻めこもうと一歩を踏み出した。

――だが、それはギノガの策の一環だったのだ。彼は足下に倒れた警官を掴みあげると、ふたり目がけて投げつけてきたのだ。片手で。

 

「ッ!?」

 

 その警官の肉体がもうモノでしかないとわかっていても、反射的に個性を発動させようとする動きは鈍ってしまう。結局エンデヴァーがそれを受け止める羽目になったのだが、

 

「ッ、ぐぅ……!」

 

 一瞬の停滞、そして60キロ以上はある肉塊を受け止めたことが身体に古傷の存在を思い出させたのだろう、エンデヴァーがうめき声をあげてその場に崩れる。

 

「エンデヴァ――」

「ゴパシザジョ」

「!」

 

 差した影。ギノガがパトカーの上に跳び上がり、こちらを見下ろしている。――そもそも胞子は尽きていなかった。ようやく勝己はそのことに思い至ったが、もう遅い。

 

 ゆっくりと手を口許に当てるギノガの眼下で、勝己は歯噛みしながらも、せめて最大最後の爆破をぶつけようと身構える――が、

 

 不意に、ギノガが硬直した。視線は勝己ではなく、飯田たちも飛び越えたさらにその背後に向けられている。

 そして、

 

「ギビデダボ……"クウガ"……?」

「――!」

 

 勝己が振り返るまでもなく。ビュンと右半身に疾風が吹きつけたかと思うと、それをもたらした黒白のかたまりがギノガを吹っ飛ばした。

 

 パトカーの向こうで、ギノガのうめき声が聞こえる。やがて彼()が立ち上がり――遂に、全貌が明らかになった。

 ギノガを後ろから羽交い締めにしている、漆黒の皮膚と純白の鎧、そして短い二本角をもつ異形の戦士。――クウガの未完成形態、グローイングフォームだ。

 

「ッ、2号か……?」

 

 片膝をついたままのエンデヴァーが声をあげる。それに対し、

 

「いや……白い4号だ」

 

 ごちるように応えながら、勝己はあまり驚いてはいなかった。実のところ、ここに向かう途上に椿から連絡を受けていたのだ。彼が目を醒ました――と。

 

 一同が見守るなか、白のクウガは突然のことに動揺するギノガを容赦なく攻めたてていく。パトカーのボンネットに穴が開くほど強く叩きつけ、かと思えば引きずりあげて思いきり顔面を殴りつける。胞子を使う暇を与えないつもりのようだった。

 が、減退したグローイングフォームのパワーでは、初撃の猛攻で決定打を与えるには至らなかった。頭部を掴んで窓ガラスにぶち込んだところまではよかったものの、それが結果的にギノガの怒りを買ってしまったらしい。逆に腕を掴まれ引き寄せられたかと思うと、胴体に膝蹴りを叩き込まれる。「うっ」とクウガが呻いたところで、今度は顔面にストレートをかまされ、白の身体は堪らず吹っ飛ばされた。

 

「………」

 

 地に倒れたクウガへ、とどめを刺すべく迫るギノガ。――捜査本部の面々に背を向けている。「援護を」……誰しもがそう思ったが、中でも勝己よりも迅速に動いたのが、かのターボヒーローだった。

 

「――ッ!」

「インゲニウム!?」

 

 レシプロバースト。切り札を発動させ、飯田は一気にギノガとの距離を詰めていく。

 

「僕だって――」

「!」

 

 迫る疾風に気づいたギノガが振り返るが、もう遅い。

 

「――指をくわえて、見ていられるものかぁぁぁッ!!」

 

 大柄な身体にスピードの乗った蹴り――爪先が見事にギノガの頭部を捉えた。身構える暇すらなかったギノガは、その体重が比較的軽いこともあって先ほどの宿敵よろしく吹っ飛ばされる。

 

 着地したターボヒーローは、唸るふくらはぎのエンジンに負けぬ大声で勇ましく叫んだ。

 

「貴様らの敵は、4号()だけではないッ!!」

「~~ッ」

 

 日本語を解するだけの知能をもつギノガは、その宣戦布告を受け取って憤慨したらしい。苛立たしげな声をあげながら、飯田に標的を変える。が、昨日のようにクウガを戦闘不能にまで追い込んでいるわけでもなく。

 

 不屈の闘志で立ち上がってきたクウガに飛びかかられ、飯田たちから引き離される。そのまま戦場を移し、高架下から太陽の照りつける河川敷へ。雑草の生い茂る急な土手を、彼らはもつれあいながら転がっていく。

 河岸ぎりぎりまで転がったところで、先に立ち上がったのはクウガだった。遅れて身体を起こそうとしているギノガに向かって、跳躍からの渾身のパンチを放つ。その直撃を顔面に受けて、またギノガは地面にダイブした。

 

――いまだ。クウガはそう確信した。下手に時間をかけて隙を見せれば、また胞子を吐きつけてくるかもしれない。同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。

 だから――全力で跳んだ。右脚に熱が伝わっていく。その灼熱が集束した足裏を、ギノガの胴体に叩き込む!

 

「ガァッ!?」

 

 短いうめき声とともに、ギノガが倒れる。その胸元には封印の古代文字が現れている……のだが、それはあちこちが欠けた不完全なものだった。

 案の定、

 

「ボンバロボ……!」

 

 ギノガがぐっと身体に力を込めると、その文字がかき消えていく。やはりか……悔しさを覚えつつも、まったく予想できないことではなかった。不完全な白では、赤と同じようにはいかないと。

 だからたじろぐことなく、クウガは再び跳んだ。また同じ位置に必殺キックを放つ。ギノガが再び倒れる。

 

「ッ、ラザビババギジョ……!」

 

 また消えてしまう。だがクウガは、その朱色の複眼で捉えていた。封印の文字が、一度目よりは確かな形になっていた。

 二度でだめなら、もう一度。何度でも。絶対にあきらめるつもりはない――

 

 そんな戦士の闘志に応えるように――装甲よろしく白に染まっていた足首の"レッグコントロールオーブ"が、赤い輝きを放った。

 力が湧き出してくる。それを鮮明に感じとったクウガは、変身の際に似た構えをとり――走り出した。全力で駆けてギノガとの距離を詰め、跳ぶ。そして、三度目の蹴りを――叩き込むッ!

 

「グワアァァッ!?」

 

 これまでよりも痛々しいうめき声とともに、ギノガの身体が大きく宙を舞う。そのまま川に落ちた彼は、立ち上がろうとするも再び倒れる。浮かんだ古代文字は、なんら欠けることのない望月のごとく。

 放射性のヒビが、胴から腹部のバックルへと奔っていく。もはや取り返しのつかない"死"への予感のなかで、ギノガは恨み言を叫ぶほかなかった。

 

「ジュスガバギィッ、クウガァァァァ――!」

 

 刹那、大爆発。爆炎とともにギノガの全身は粉々に千切れ飛び、水没していく。残ったのは静寂と、クウガの右足に残る熱の残滓だけ。

 ふと視線を感じて、彼は振り向く。――土手の上に、かの紅い瞳のヒーローの姿があった。じっとこちらを見下ろす彼の前で……クウガは、変身を解いた。

 

「………」

 

 寝癖がついたのかいつにも増してぼさぼさの髪、エメラルドグリーンの双眸に、頬のそばかす――何より、昔から勝己を平常心でいられなくさせるその笑顔。間違えようもない、正真正銘の緑谷出久だ。生きている、出久なのだ。

 

「デ……」

 

 何かを言いかけたかと思えば。次の瞬間、勝己は悪鬼羅刹のごとき表情とともにその場で爆破を起こしはじめた。出久の笑顔がヒッと引き攣る。

 

「うわっ、な、何、かっちゃん!?」

「………」BOBOBOBOBOッ!!爆破がひたすら続く。

「おこっ、怒ってるの!?せめてなんか言って!?死ねとかぶっ殺すでいいから!!」

 

 出久があわわと顔を青くしたところで、勝己はようやく爆破をやめた。そのままくるりと踵を返す。そして、

 

 

「――遅ぇわ、カス」

「!」

 

 つぶやかれたことばは、かろうじて出久の耳に入っていた。しばらく呆気にとられていた出久だったが……やがてその表情に笑顔を取り戻すと、先を行く勝己の背を追いかけて走り出した。

 

「かっちゃん、え~と……お、おはよう!」

「何がおはようだクソナードが。寄るなゾンビ臭ぇ」

「ぞ、ゾンビじゃないよちゃんと生きてるし!」

「ウゼェ、死んどけ」

「ぼっ、僕は死にません!」

「じゃあ殺すわ。つーか似てねぇし」

 

 相変わらず容赦のない勝己のことば。――それらを紡ぐ声色に、ほんのわずかに滲んだ感情に、このときばかりは甘えてもいいだろうかと出久は思った。

 

 

つづく

 

 




ロン毛「えっ、俺らが担当なの?」
刈り上げ「モブだぞ俺ら……。覚えてない読者のために自己紹介すると中学時代カツキの取り巻きやってたモンです、ヨロシク」

ロン毛「えー……なんつーか、緑谷復活おめでとう……?」
刈り上げ「カツキも嬉しそうで何よりだわ。こんなこと言ったら半殺しにされっけど」
ロン毛「つーわけで次回、幼なじみスタンプラリー開催?関東医大、考古学研究室、ポレポレ、科警研などをふたりで回りまっす!カツキの横でブツブツやったり物真似したりもしちゃったりなんかして……緑谷の奴」
刈り上げ「……やっぱスゲー丸くなったなカツキ。ちなみにちゃんと(?)バトルもあるぞ」

EPISODE 17. なんでもない日

ロン毛「さっさらに……」(小声)
刈り上げ「向こうへ……」(小声)

ロン刈り「「プルスウルトラー……」」(超小声)

ロン毛「……恥っず、これ恥っず!」
刈り上げ「やっぱ向いてねぇわ俺ら、こーいうの……」

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