【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
G2も出したせいで情報量がやたら多いんじゃあ!
そして社会人と化してしんどい今日この頃な作者
執筆スピードも当然落ちてますがゼロにはならないようがんばってます
……まあこの轟くんに比べりゃたいがい幸せの塊だわな!!
「ヒーロー……ショート……」
「……轟、焦凍」
戦いのさなか、緑谷出久・爆豪勝己の前に突如として現れた"化け物"。その正体は勝己の雄英時代の同級生であり、最もその将来を嘱望されていながら謎の失踪を遂げた青年――"半冷半燃"のヒーロー・ショートこと、轟焦凍だった。
「………」
冷たい雨の降りしきる音と荒ぶった吐息ばかりが、辺り一帯に響き渡る。勝己の背中と俯く轟の姿を目に映す出久は、予想だにしない事態にことばを失っていた。
彼はなぜあんな姿になってしまったのか?なぜここに現れたのか?そもそも、なぜヒーローとしてこれからというときに姿を消したのか?
疑問ばかりが降って湧いて、そのせいで形にならない。――そんな出久に対して、勝己は状況を呑み込んでいるようだった。
「轟、テメェ………」
やがて搾り出すような声とともに、勝己が一歩を踏み出す。相対する青年は、まるで追い詰められたヴィランのようにびくんと身体を震わせ、後ずさる。
「ッ、く、来るな……!」
「ア゛ァ?」
「……!」
怯えている?少年時代から誰に対しても一歩も退かず、勝己と同等、ときにはそれ以上の実力と才能で耳目を集めていたあの轟焦凍が?
――出久には未だ知る由もないことだったが、彼が怯えている相手は勝己ではなかった。鋭く尖る紅い瞳が、彼の中の化け物を再び呼び覚まそうとしている……ただそれが恐ろしかった。
そしてそれは、彼の全身に鮮烈に現れていく。皮膚に浮かび上がる、膨れた血管のような光の群れ。
「……!」勝己が目を見開き、「テメェまさか、そいつのせいで……」
轟の全身に奔る光流の正体を、勝己は知っているらしかった。そして悟ったのだ。――それこそが失踪の理由、そして異形と化した理由でもあると。
「かっちゃん……一体どういう――」
クウガの姿のまま、出久が問いをぶつけようとしたそのとき、
ビュンと疾風を巻き起こしながら、小柄な影が割って入った。
「焦凍ッ!!」
「――!」
親しげに、同時に格別の慮をこめた声でその名を呼んだのは、幼児ほどの背丈の老人で。
彼はへたり込んだ轟の上に傘を差し出し、空いたもう一方の手で背中をさすってやる。
「落ち着け、落ち着け、焦凍。大丈夫だ、ここにはもうおまえの敵はおらん」
「……、はッ、………」
そうしているうちに、ようやく轟の呼吸が落ち着いてくる。浮かび上がった光流が消えていく――
それを見届け、深々と安堵の溜息をつく老人。今度は轟ではなく彼に向かって、勝己は一歩進み出でた。そして、
「ご無沙汰してます―――"グラントリノ"」
「グラン、トリノ……?」
どこかで聞いた名だと、出久は思った。かの老人はどう見ても日本人、本名ではあるまい。爆心地やインゲニウムなどと同じヒーローネーム――つまりはこの老人も、ヒーローということか。
礼儀正しく背を折るというらしからぬ行動をとる勝己に対し、顔を上げた老人の反応は――
「……誰だキミは!?」
「へぁ!?」
素っ頓狂な声をあげたのは、出久ひとりで。予めそう返ってくることがわかりきっていたかのように、勝己は溜息ひとつついただけだった。
「爆豪です。そいつの同級生の」
「何て!?」
「雄英で轟の同級生だった爆豪勝己です」
「こいつの同級生の……何て!?」
「ば、く、ご、う!」
「ば、く、ご、う……?ウムムム……」しばらく考えこんだあと、「!、ああ、あの悪ガキか!しばらく見ないうちにちったァ立派になったようじゃねぇか」
「っス」
(かかかっ、かっちゃんがおとなしい……!?)
お茶子や切島鋭児郎から聞くところによると、あのオールマイトにすらキレまくっていたらしい勝己が。いやもちろん、おやっさんなどとのやりとりはそれなりに礼節を保ってはいるので、そういう応対ができないわけではないのだろうが。
いずれにせよこのとぼけた小柄な老人、勝己にそうさせるだけの実力者ということか。しかしそれにしては、ヒーローオタクである自分が「聞いたことがある」程度なのは妙だと思ったのだが、
溢れる疑念を遮断するかのごとく、パトカーのサイレンの音が近づいてきた。
「!」
まずい。そう思ったのは出久ばかりではなかった。グラントリノが轟青年をせきたて、立ち上がらせている。
「積もる話はあとだな……悪いがこいつをねぐらに連れて帰らにゃならん。あぁ、おまえも一緒に来るか?」
「いや……俺は奴らを追います。――その代わり、こいつを連れてってもらえませんか。本部の連中と鉢合わせると面倒なんで」
「えっ……」
勝己が指す"こいつ"は、言うまでもなく出久のこと。ちなみに未だ変身は解いていない。轟とグラントリノに正体を明かすことになるからだ。
「……バラして、いいの?」
念のためそう尋ねると、
「この人なら問題ねえ。……一応、半分野郎もな」
「………」
半分野郎――轟焦凍。元々口が軽いほうではなさそうだし、何より勝己がそう言うなら間違いないのだろうが。
ふと、目が合った。――澱んだオッドアイが、一瞬忌々しげに細められる。ありありと浮かんだ嫌悪に、出久はごくりと唾を呑み込んだ。
しかし彼は結局、賛否を表明することなく。グラントリノの承諾を得られたことで、出久は変身を解いて彼らの拠点に同行することになった。未だ雨が降りしきるなか、屋根のある場所で休息をとりたいのもまた本音だった。
「じゃあ……何かあったら連絡してね、かっちゃん」
「……早よ行け」
ぶっきらぼうな声音で応じると、勝己は覆面パトカーに戻っていく。出久もまたメットを被り、トライチェイサーを発進させた。
交錯したふたりの距離が、遠ざかっていく。
*
奇しくも"標的"同様、メ・ガドラ・ダと彼に率いられたグロンギたちもまた山深くに身を潜めていた。
「バンザダダンザ、ガンダベロボグ……!?」
「ラガバ……ミウジグガンバ、バンダンビ……」
ズのグロンギたちの動揺は収まってはいなかった。ようやく思うままの殺戮が許されたというのに、自分たちを一瞬で殺すほどの怪物が突如として姿を現したのだ。
リントが"個性"なる特殊能力をもつようになっていることはわかっている。その力で治安を守る、ヒーローと呼ばれる戦士たちがいることも。――だが、あれはそんなものではない。その範疇には決して収まらない、文字どおりの"化け物"だ。
そしてひとり離れて蛇を串焼きにしていたガドラもまた、かの怪物に思いを馳せていた。もっとも、ズの者たちとは違った形で。
(あんなモノが、我らグロンギの手がかりとはな……)
確かに力は凄まじかった。下位のズとはいえ、耐久力と回復力に優れたグロンギを一撃で葬り去ったのだから。
しかしそれが"手がかり"などと言われても、首を傾げるほかない。
――その正体を知らなければ、の話だが。
「……轟、焦凍」
一時はNo.1ヒーローでもあったエンデヴァーの息子であり、ヒーロー養成の最高峰である雄英高校を首席格で卒業した男。バラのタトゥの女曰く、そんなヒーローのなれの果てがあの怪物なのだというが。
それも現代のリントに蔓延る"個性"が原因なのだろうか。そこまではガドラも知らされていない。あるいは、彼女たちでもたどり着けない秘密が隠されているのかもしれない。
(……まあいい。これが済めば、俺は自由の身……)
グロンギたちによる殺人――"ゲゲル"と呼ばれるそれは、彼らにとっては特別な権利であると同時に、義務でもあった。もっと端的に言ってしまえば、"掟"だ。
だがガドラにとってのグロンギはそうではなかった。彼のアイデンティティは、誇り高き狩猟民族であること――被食者でもない同じ人間を殺戮することに、愉しみなど見出せはしなかった。
だがこの任を遂げれば、掟からも解放される。それを破った罰を受ける必要もなくなる――
ゆえにガドラは考える。生き残った村民はもう避難してしまっている。村を襲うことで山から引きずり出す手は使えない。――ならば、
「ネズマ、ネズモ」
「!」
ガドラが厳かな声音で名を呼んだ途端、ズのグロンギたちの中から小柄な人影がふたつ、立ち上がった。まだ十代後半の年若い青年たち。顔は生き写しのようで、襤褸布のようなみすぼらしい服装まで同じ。強いて言うなら破れている袖の左右が逆であることか。
「バ、バンザ……?」
「………」
顔色を窺うように、恐る恐る歩み寄ってくるふたり。彼らはグロンギの中では比較的おとなしめの性格で、しかも珍しいことに兄弟仲が良い。――彼らを使うのも手だと、ガドラは考えた。
「ゴラゲダヂ、ビレギジス。ガンダベロボゾ、ガガギデボギ」
「ガ、ガンダベロボグ!?」
「ゴセダヂグバゼ、ゴンバボドゾ!?」
そもそもあんな化け物と関わりたくない――ふたりの抗議からはそんな思いがありありと見てとれる。それがふつうではある。
「……グラブジャセダギギ、ズブレデロジョギビ、バルバ」
「……!」
ガドラのことばに、兄弟の顔色が変わった。なおも逡巡する弟のネズモの肩に兄のネズマが手を置き、うなずく。それを目の当たりにして、弟もまたうなずいた。
「パバダダ……ショグバブ、グスダレザ、ビ……メ」
承諾のことばとともに、彼らの姿がぐにゃりと歪む。それぞれ灰色と漆黒のボディをもつ、鼠に似た怪人。
「ギブゾ、ネズモ!」
「ゴグ!ゴセダヂンセンベギ、リントゾロビリゲヅベデジャス……!」
持ち前のスピードで、双子の怪人は山中に消えていった。
*
ズ・ネズマ・ダ、ズ・ネズモ・ダの兄弟が動き出した頃、あかつき村に捜査員・ヒーローたちを派遣した合同捜査本部の幹部たちは、警視庁の庁舎内で今後の対応を協議していた。
「鷹野からの報告では、現状村内に未確認生命体の姿は確認できていないとのことです」
No.2である塚内管理官の発言に、「グルルル……」と人らしからぬ唸り声をあげたのは犬頭の面構本部長だった。異形型の個性であるというだけで、まぎれもなく人間ではある。
「あかつき村は山村です。山深くに逃げ込まれれば簡単には見つからないでしょう」
「一応、猟犬部隊や警察犬にも動員を頼んではいるが……この大雨だ、正直成果はあまり期待できないワン」
「……地道に捜してもらうしかないですね。逢魔が時には一旦引き揚げさせたほうがいいでしょうけど」
「そうだな。それ以上に問題なのは、奴らがなんの目的であの村に現れたか……それも集団で」
そんなことはいままでなかった。それが起きたのは、いままでとは異なる目的があるから――
「――エンデヴァー、貴方はどう考える?」
面構が意見を求めたのは、招聘したヒーローのひとりでありながら実質的に幹部待遇となっている元No.1ヒーロー・エンデヴァーだった。
活動時に比べればいくらかおとなしめに燃えている口髭を撫でながら、この場の最年長者らしく厳かに口を開く。
「……奴らの意図については、手がかりがない以上確たることは申し上げられんな。もっとも……これまでとは異なる動きであるとするなら、"これまでどおりの動き"にも注意を払う必要があるだろう」
「つまり、別の未確認生命体が単独で行動を開始する可能性もあると?」
「うむ」
もしもそれが現実になるとすれば。捜査本部の元々多くはない戦力をあかつき村ともう一ヶ所で割かねばならなくなる。
何より、第4号はひとりしかいない。どちらかを彼なしで解決しなければならないというのは、正直なところ厳しい――塚内や面構だけでなく、いまとなってはエンデヴァーもそう考えていた。第23号までのなかから彼自身を除いた二二体の未確認生命体のうち、実に十八体に引導を渡している功績は無視できるものではない。
(本当は俺たちが頼っちゃいけない相手なんだけどな……どう考えても)
上司たちから見えぬよう顔を背けつつ、塚内直正は密かに苦笑する。ヒーロー・爆心地という"お目付役"がついているとはいえ、彼はあくまでヴィジランテ。法を犯している可能性がある者におんぶに抱っこでは警察もヒーローも立つ瀬がない。――だからこそ"Gシステム"の開発が進められてきたわけだが。
と、不意に彼の懐で携帯電話が振動した。相手を確認し……「失礼」とだけ告げて、会議室を出る。
「――塚内だ」
『……爆豪っす』発信者は爆豪勝己だった。
「あぁ、どうした?携帯にかけてくるなんて」
捜査員としての業務連絡であれば、無線を利用すれば済む話。それをわざわざ携帯でということは、私的な用事か、おいそれと他に漏らせない事柄か――
答えは、その両方だった。
『あいつが……轟焦凍が見つかりました』
「ッ!?」
それは塚内にとっても予想外の報告だった。思わず「なんだって!?」と叫びそうになったが、ベテラン警察官らしくそこは堪えた。
「……ちょっと整理させてくれ。つまりはあれか、あかつき村に隠れ住んでいたってことか?」
『村っつーか、近くの山ン中です。グラントリノと一緒に』
「あぁ、それはグラントリノご本人から聞いてはいるけどさ……。てっきり海外にでも連れ出したのかと……」
塚内直正はグラントリノとも親交があった。ゆえに轟が彼のもとに身を寄せていることまでは知っていたが、どこへ身を隠したのかまでは教えられていなかった。まさか、単純な距離でいえばそんなすぐ近くにいたとは。灯台下暗し、そんな諺が脳裏をよぎる。
『あいつは……轟は化け物みてぇになってました。それも、あんたは知ってたんすか?』
「………」
知っていた。彼に時間を与えてやるべきだとグラントリノに注進したのは、他ならぬ塚内自身だったからだ。
が、秘密を共有する数少ない仲間である勝己がそれを不満に思わないはずがないだろうことも、容易に想像がついて。
「すまない。俺たちと違ってきみはまだこれからの人間、自分のことに集中してほしい。そう彼に言われて、俺もそのとおりだと思ったんだ。きみにはきみの将来がある、それが疎かになるのは誰の本意でもない」
『……ッ、』
ギリリ、と歯を噛み鳴らす音がスピーカー越しに聞こえる。デビューしてまだ二年と二ヶ月、がむしゃらにやってきていまの立場がある。轟のことにかまけていたら、最悪共倒れになっていてもおかしくはなかった。が、それでも――
勝己の葛藤を理解しつつ、塚内は話を先に進めることにした。いまは時間がない。
「しかし……気になるな。彼がそこにいたとなると、未確認生命体が現れたことと無関係とは思えない」
『……ええ』
殺人以外の主目的――それが轟焦凍に関する"何か"だとしたら。
(とはいえ、秘密を知っている人間はごく限られている。それが未確認生命体に漏れたとは考えにくい……奴らが轟焦凍の何に惹かれて集まってきたか……)
少し考えたあと、塚内は再び口を開く。
「……それが今回の事件に関係しているかもしれない以上、このことはひとまずこちらで諮る必要がある。――エンデヴァーにも。いいんだな、それで」
『……あの男も親父だろ、一応は。知る権利くらいあんだろ』
「それもそうだな……。じゃあ、そちらは引き続き頼んだ。また連絡する」
『っス』
いったん通話を終えた塚内は、即座には会議室に戻らなかった。往来のない廊下で独り、深々と溜息をつく。その脳裏には、かつて親友だった男の顔が浮かんでいた。
「教え子に世話かけてどうすんだ、俊典……」
応える者は、誰もいなかった。
キャラクター紹介 バギンドズゴゴ
おやっさん/Pole Pole's Master
個性:???
年齢:44歳
身長:164cm
血液型:A型
好きなもの:往年のギャグ・ポレポレカレー
備考:
出久のアルバイト先である喫茶ポレポレのマスター(そのまんま!)。おやっさんは当然ながら通称、本名は謎に包まれている……わけでもない、訊けば教えてくれるぞ!興味がある人はポレポレへ足を運んでみよう!
若い頃は冒険家で、チョモランマにも登ったことがあるそうな。その冒険譚は面白いがギャグはつまらない。ダジャレはまだいいが古い著名人の名前ネタには若者はポカーンである。悲しいかな勤務歴の長い出久は若干毒されつつある……。
作者所感:
"おやっさん"というポジションでありながらライダーの正体を知らない、日常の象徴のような人なのがそれはそれでステキ。原作でのギャグの数々はたいがいアドリブらしいです。アレ考えるのが大変だけど楽C。
"おやっさん"としか言ってないので本名はもしかすると石動惣一だったりして……まあないですね、多分、きっと。