【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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活動報告で新タグもろもろについて説明させてもらってます。今の展開アリだよ!って方は読むまでもない内容なんですが、一応かる~く確認していただけたら…と思います。ここでひとつだけ申し上げておくと「主人公は出久!」ってコトです。最終回でキャストの一番上を轟くんに奪われたりはしません……アンタって人はぁああああ!!

さて、それとは別に単純な不手際なんですが文量が止まらないです……。
ポレポレのシーンはちょっとした小休止とある人の顔見せで入れたんですが、今回他に書かなきゃならないことが多すぎる……。全4話で一篇にする予定なのでいくつか後回しにしてもよかったかもしれないです。リアルは忙しいしYO!!

遅ればせながら、三期放送開始オメデトウ!!CMの合間にでも本作品よろしくオナシャス!!!

[追記]いくつかご指摘があったのでひとつだけ。冒頭シーンのおやっさんの発言で「出久」と「お茶子ちゃん」が逆になってるところはミスではないのでヨロシクドウゾ~


EPISODE 19. すべてを棄てて消えた男の子 2/4

――文京区 ポレポレ

 

 雨足の割に客足は伸びたランチタイムだった。

 時刻は既に午後四時を過ぎ、店内にはひとまずゆったりした時間が流れている。激戦の痕を片付けディナータイムに備えるのは、マスターであるおやっさんともうひとり――

 

「いやぁ助かったよハリーくん、昼時がっつり手伝ってもらっちゃって」

「気にしないでください、こっちも息抜きになったんで」

 

 黙々と皿洗いしつつも応じるは――心操人使。ここで昼食をとったあとおやっさんからの援軍要請を容れる形でヘルプに入ったのだ。出久やお茶子のように正規のアルバイトではないが、個人経営なのでそのあたりは融通がきく。

 

「油断大敵、まさかこんな雨の日に繁盛するとは思わなかったからねぇ。お茶子ちゃんは相変わらずバイク乗り回してて捕まんないし、出久は本業のヒーロー活動で忙しいし」

「みたいですね」

「………」

「………」

「……いいのか?」

「ダメです」

 

 そんな気の抜けた会話の直後、からんころんと音をたてて扉が開かれる。噂をすればというべきか、

 

「こんにちは~!」

「いらっしゃ……オゥ、お茶子ちゃん!」

 

 現れたのはヒーロー・ウラビティのコスチュームに身を包んだ麗日お茶子。そして、

 

「!」

 

 お茶子に比べてずいぶん長身の、どこか気品ある雰囲気の女性。こちらは私服である。

 心操が思わず目を丸くしたのは、彼女のことをよく知っていたからだ。

 

「おっ」おやっさんが声をあげる。「そっちの子、もしかして同級生?見たことある気がするんだよねえ、雄英体育祭かなんかで!」

「マスター正解!紹介するね、私の親友のヤオモモ……ってのはあだ名で――」

 

 ヤオモモと呼ばれた女性が一歩進み出、丁寧に頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります、"クリエティ"の名前でヒーローをやっております八百万百と申します。麗日さんとは高校の頃から親しくさせていただいておりまして……」

「お、おぉ……こちらこそお初にお目にかかります、ポレポレって名前の喫茶店をやっておりますおやっさんと申します」

「ん~もうッ、ヤオモモ硬い!初めて婚約者の実家に来たんやないんやから!マスターも本名じゃないでしょ、それ」

 

 ひととおりツッコミを入れると、おやっさんに先んじてお茶子は八百万をカウンター席に座らせた。「ポレポレカレー、食後にデザートセットふたつ!」と注文する。

 

「今日お昼まだだった感じ?」

「そうなんですよ~、現場が片付かなくて。あ、ヤオモモともそこで偶然一緒になって!」

「ええ。それで是非にと、わたくしから麗日さんにお願いして連れてきていただきましたの。以前からこちらのことは聞き及んでおりましたので」

「へ~そうなの。このとおりハリーくんにあの爆心地も贔屓にしてくれてるし、そのうち雄英の同窓会にでも使ってほしいな~なんてごうつくマスターは企んじゃうね、へへっ」

 

 冗談なのか本気なのかいまいち読めない返しとともに、おやっさんは調理を開始する。

 と、同時に。あだ名とはいえ名前が出てしまったこともあってか、ふたりの女性ヒーローの視線が心操に向いた。居心地の悪さを感じ、渋面をつくる。

 

「……なんだよ」

「いやぁ、なんか不思議な感じだな~と思って。普段と逆やん?」

「普段ってほど来てるわけでもないけどな、俺……。――それより、緑谷とのデートはどうだったんだ?」

「!?、だっ、で、デートちゃうし!……まぁ楽しかったよ、デクくん美味しいお店いっぱい調べてくれて。あとバイクでツーリングとかね!運転してる背中なんか男らしくてカッコイ……オッホン!!」

「ふーん、そう。よかったな」

 

「………」八百万が小首を傾げ、「心操さん……でしたわね?あなたもこちらでアルバイトを?」

「いや、ただのピンチヒッター」

「そうでしたの。エプロン姿がとてもお似合いなので、てっきり……」

「……バカにしてる?」

「?、そんなことはありませんが……。なぜそう思われますの?」

「……やっぱなんでもない、忘れてくれ」

 

 高校生の時分から薄々わかってはいたが、このお嬢様、ツンと澄ましたタイプかと見せかけておいて実際には天然まっしぐらのようである。お人好しでもあるようなので、詐欺などに遭わないか心配である。自分が気にするまでもなく周囲が目を光らせているのだろうが、こういう手合いは。

 お嬢様、といえば。A組には似たような人種がもうひとりいた。そいつは男なので、お坊ちゃまとでも形容すべきか。そいつは容易に他人を近づけない鋭さをもってもいたが、顔を合わせるたびに表情が柔らかくなっていたような気がする。

 でも――

 

「なぁ。あんたまだ、あいつのこと捜してんのか?」小声で耳打ちする。

「!」八百万は一瞬目を丸くしたあと、「あいつとは……轟さんの、ことでしょうか?」

「うん」

 

 失踪した轟焦凍――その行方をとりわけ熱心に気にかけていたのが他ならぬ彼女だった。

 八百万は目を伏せながら、

 

「……当然、ですわ。大切な、友人ですもの……」

「………」

 

 友人――本当にそれだけかはともかく。

 

「気持ちはわからないでもない。……そぶりくらいは見せてほしいよな、せめて」

 

 そうでなければ、手の差し伸べようがない――親交の浅い轟のことを語るにしては、心操の表情は真に迫っていた。

 

 

 

 

 

 その轟焦凍が隠棲している、あかつき村付近の山奥にひっそりと建てられた古い小屋。

 そこに自分の――大学での――友人である緑谷出久までもが立ち入っていると知れば、さしもの心操も開いた口が塞がらなかっただろう。

 

 まして彼が、そんな不穏な状況下で、電子レンジと対峙しているとなれば。

 

(僕は一体、何をやらされてるんだろう……?)

 

 もっとも頭の中に大量のクエスチョンマークが浮かんでいるのは、出久自身そうなのだが。

 ピロリロと軽快な電子音が鳴り響き、温めが終わったことを知らせてくる。皿を取り出すと、姿を現したのはほかほかと湯気をたてるたい焼きだった。

 

「できましたけど……」

「ン、それはきみが食っていいぞ。あ、でもあいつのぶんは残しといてやってくれ」

 

 いけしゃあしゃあとのたまいながら先に温めたたい焼きをかっ食らっているのは、出久が生で見たなかでは最年長のシルバーヒーロー・グラントリノ。この小屋の主でもあるらしかった。

 

「ちゃんと解凍されとったわ。さすが今どきの若者、電子機器の扱いはお手のモンだな!」

「そりゃまあ、独り暮らし二年やってますし……」

 

 回らないタイプのレンジの場合、こういう数のあるものは分けて温めないと解凍にムラが生まれてしまう。いまはもう、当然のこととして理解しているつもりだ。

 

「あいつは初めて会ったとき、思いっきり失敗しとったけどな!」

「あいつって……ショート?」

 

 ちら、と奥に目を向けて、出久。風呂場のほうから激しい水音が絶えず響いてくる。雨に濡れて冷えきった身体を温めている――出久も先ほどそうさせてもらったばかりだ。

 

「おう。あいつお坊ちゃんだからよ、そもそも温め開始までに四苦八苦しとったんだ」

「エンデヴァーのご子息ですもんね、彼……」

 

 長きに渡りオールマイトに次ぐNo.2ヒーローの地位を守り、一時期はNo.1に昇り詰めたエンデヴァー。少年時代の幼なじみが目指していた高額納税者ランキングにも名を連ねていたように記憶している。出久はあまり経済的なことに関心はなかったので、「すごいな~」程度にしか思っていなかったが。

 

 そこで、元々抱いていた疑問が再び浮かび上がってきた。

 

「……あの、ショートは一体なぜあんな姿に?彼の個性って"半冷半燃"ですよね?」

 

 自分がクウガになるような、"変身"によって能力を扱う個性であったならわかる。だが、かつての轟焦凍はそんなそぶりを微塵も見せはしなかった。

 それに、だ。

 

「二年生の体育祭くらいから、彼、少しずつ戦闘スタイルが変わったような……。僕の穿ちすぎかもしれませんけど、オールマイト的になっていったような気がしてたんです」

「!」

 

 たい焼きを貪る動作が止まる。図星、だろうか。

 

「やっぱり、個性に何か変化が?突然変異とか……」

「……フム」

 

(ただの学生にしちゃイイ目してンな。まさか4号がヒーローオタクとは思わなかったが)

 

「まあ、半分正解……ってとこだな」

「半分……ですか」

「おぉ、これ以上はどんなにボケても俺の口からは言えん。その資格があんのは、あいつ自身だけだ」

「………」

 

 難しい顔でじっくり考えこむ目の前の青年。答えを自分で探そうとする姿勢は好ましいものだと老人は感じたが、同時に自力ではたどり着けないだろうとも思った。

 

「それよりたい焼き食わんのか?さっきから腹がぐーぐーうるさいぞ」

「!、あっ、すすすいません!今日、お昼食べられなかったので……」

 

 またいつ戦いになるかわからない、おことばに甘えて腹拵えさせてもらおう。「いただきます」と両手を合わせると、出久はたい焼きに齧りついた。

 

(あ、おいしい。……けど、なんか調子狂うなぁ)

 

 深刻に思索したいことがたくさんあるというのに、目の前の飄々とした老人のせいでどうにもペースが乱されてしまう。意図的にやっているのだとしたらなかなかのやり手である。

 しかし、弛んだ空気はほどなくして再び冷たく鋭いものとなる。他ならぬ、彼が現れたことによって。

 

――トン、

 

「!」

「お、出てきたか焦凍」

 

 白い長袖のシャツにジーンズというラフな恰好で現れた轟焦凍。伸びた紅白の髪をバスタオルで覆い隠している。少し頬がこけてはいるが、以前と変わらずモデルのような美貌である。同じ男でもこうも自分と違うものかと出久は嘆息した。

 

「身体はもう大丈夫か?」

「……はい」小さくうなずく。「ご心配、おかけしました」

「いや、俺のほうこそ油断していた。……ここを離れるべきだったかもしれねぇな、あんな連中が出てきた時点で」

「………」

 

 俯く轟。なんとはなしにその顔を見つめていた出久と、次の瞬間目が合った。

 

「……!」

 

 出久は思わずぶるりと背筋を震わせていた。その切れ長のオッドアイが、にわかに険しく鋭いものとなる。

 

「たい焼き、食うか?」

「……あとで食います。上で少し休んできます」

 

 グラントリノに対してだけそう言いきると、轟は足早に屋根裏へ続く階段を上っていった。

 

「あ、………」

 

 無言の、拒絶。――あのとき感じた自分に対する嫌悪は、気のせいなどではなかったのだ。

 

「ったく、あとでなんつっとったら冷めちまうだろうが。これは食っちまうか……それともおまえ、食うか?」

「いや、あの……彼と話してきてもいいですか?」

「ん?」

「話してみたいんです。じゃないと、何もわからないし……」

 

 グラントリノは暫し考え込んでいたが……やがて「よかろ」とうなずいてくれた。

 

 

「………」

 

 屋根裏の狭苦しい空間。そこに敷かれた布団の上に、轟はごろりと横たわっていた。古い木造の天井をぼんやりと見つめる、澱んだオッドアイ。それらが映し出すのは、過去の記憶の数々。()()()は、本当なら未来を切り拓くためのもののはずだった。

 それなのに――

 

「……ッ」

 

 その表情がくしゃりと歪む。青年は横向きに身体を丸め、何もかもから目を伏せた。

 しかし、そうしていられたのはほんの一瞬だった。ほどなくして階段を上ってくる音が耳に飛び込んできて、彼は咄嗟に身体を起こした。

 

「あ、あの……」

「………」

 

 かの翠眼の青年。平凡で人畜無害、およそ自分とは似つかないであろう風貌――それだけなら、こんなふうに表情を険しくする必要はなかった。

 

「なんの、用だ」搾り出すように問う。

「その、少しお話を……」

「あんたと話すことなんか何もねえ……、俺の前から消えろ」

 

 この男の正体は、未確認生命体第4号――他の未確認生命体たちのような邪悪さは感じないにせよ、その身には決して誤魔化せない血の臭いが染みついていた。同じく人ならざる身になってしまった轟にはそれがわかってしまう。その臭いが、"化け物"の部分を疼かせることも。

 それなのにこの男は、ごくりと唾を呑み込みながらも近づいてこようとする。その()()()の風貌にふさわしく、ビビってすぐに引き下がればよいものを。

 

 苛立ちを深めた轟は、己が激情を抑えこめなくなる。次の瞬間には床を蹴り、青年に掴みかかっていた。

 

「……ッ!?」

 

 背中の重みをまともに受けた古びた壁が、ギシリと軋んだ音をたてる。青年の童顔もまた苦痛に歪んだ。

 

「消えろっつってんのがわかんねえのかよ……!――このッ、化け物が!!」

「――!」

 

 元々大きな翠眼が、ゆっくりと見開かれていく。それを鋭く睨んだまま、その実轟は自嘲を内心に秘めていた。"変身"するとはいえ、この男は力をコントロールできているらしい。それなら個性とさして変わらないのではないか。

 自分はどうだ。敵意に呼応して意志とは無関係に異形と化し、周囲のものを見境なく破壊してしまう。誰がどう見ても化け物はこちらのほうだ。

 

――わかっている、そんなこと。

 

 この男が怒りをあらわにして「化け物はおまえのほうだろう」と罵ってくれることを望んでいた。そうして、離れていけばいい。

 だがこの男、幼なじみに対してそうであったように、頑ななまでに意志貫徹しようとする性質も持ち合わせていて。

 

 

「みっ……緑谷出久!」

「……は?」

「僕の名前です、自己紹介がまだだったなって思って……」

 

 確かに、まだ聞いてはいなかったが。

 

「意味わかんねえ……なんでこのタイミングで言った?」

「いやっ、そ、その!……すいません、おかしかったですよね」

 

 謝罪しつつ、何やらもごもごと言い訳している姿を目の前にしていると、自ずと毒気を抜かれてしまう。轟はゆるゆると胸ぐらを掴む手をおろした。

 

「えっと……改めて、緑谷出久っていいます。城南大学の三年生で、色々あってああやって未確認生命体と戦ってるんですけど……かっちゃんに助けてもらいながら」

「……かっちゃん?」

「あ、爆心地のことです。僕、彼とは幼なじみで……段々仲悪くなっちゃったので、呼び方を変えるタイミングを逃しちゃったというか……」

 

 「なんか僕、タイミング誤ってばっかりだな」――そうつぶやいて、出久は苦笑いを浮かべている。

 かと思えば、ぱあっと表情を輝かせて、

 

「轟さんは雄英時代、かっちゃんとは良いライバル同士でしたよね!体育祭でぶつかり合ってるときなんか、いつも映画みたいで……特に一年生のときの試合、すごく感動させてもらいました!僕、この力を手に入れるまでは無個性で……中三のときヒーローの夢あきらめてそれからずっとふさぎ込みがちだったんですけど、あの試合を思い出すたびに"あぁ、僕も僕なりにがんばらなきゃな"って思えたりして……」

「……そうか」

 

 捲したてるような喋り方だが、不愉快な気分にはならなかった。目の前の敵を鎮圧して市民を救出する――それだけではなく、そうした活動を通して多くの人々に勇気と希望を与える。轟がかつて目指していたのは、そういうヒーローだったから。

 

「大学三年で爆豪と幼なじみってことは、あんた同い年だろ」

「?、はい」

「タメ口でいい。なんつーか……こそばゆい」

 

 正直にそう告げると、出久は暫しきょとんとしていたが……やがてくすりと笑って、「わかったよ、轟くん」と応じたのだった。

 

 

 

 

 

 メ・ガドラ・ダをリーダーとするあかつき村の集団とは別の、都市の片隅に潜むグロンギたち。

 その中のひとり、少年――メ・ガルメ・レは、携帯ゲームに興じながら鬱屈とした溜息をついた。

 

「ハァ……いいなぁガリマのやつ。鬼のいぬ間にゲゲルできちゃうなんて」

 

 アジトにかの誇り高いショートカットの女性の姿はなかった。ガルメのことばどおり、既に行動を開始していたのだ。

 もっとも、ガリマはあまり乗り気ではなかった。クウガとの対決こそ、彼女の望むところだったからだ。ゲゲルを遂行しさえすればまだチャンスはあるからと、不承不承街へ繰り出してはいったが。

 

「でもさぁバルバ、ガドラとズの連中をあんな鄙びた村に送り込んだのはなんでなの?」

「………」

 

 指輪と一体化した爪状の装飾品を撫でながら、バラのタトゥの女――バルバは意味深に笑う。「いずれわかる」――ガルメが引き出せた答えはそれだけだった。

 

「チェッ」舌打ちしつつも、「じゃあひとつだけ教えてよ。どうやってあの化石みたいなこと言ってるクソ老害を丸め込んだわけ?」

 

 ずいぶんな言いぐさだが、彼に限らず多くの仲間はガドラを同様に捉えていた。古くさい原理主義者――だがグロンギという種族の掟は、もはやそれとは相容れないものとなってしまっている。

 

「奴を"掟"から解放してやる。そう約束しただけだ」

「……バッカみてぇ。あんな楽しいことないってのに」

 

 吐き捨てたガルメは、ゲーム機を隣のゴオマに投げ渡した。主な遊び相手だったバヂスはとっくに死に、ガリマは付き合ってくれないとあって、彼はゴオマを鍛えている真っ最中だったのである。半ば無理矢理にだが。

 

「ま、いいや。"ゴ"になるのはガリマだけじゃない、このオレもだ。……いずれ後悔させてやるよ、楽しい遊びにケチつけたことをさ」

 

 まだあどけない少年の顔に、一片の曇りもない純粋な……邪悪な笑みを浮かべるガルメ。

 彼を近い将来の脅威とするならば――彼女は、既に現在進行形の脅威と化していた。

 

 大勢の人が行きかう、渋谷のスクランブル交差点。――地獄絵図と化していた。

 逃げまどう人々。血みどろになって倒れ臥す人々。後者は揃って、頭と胴体が切り離されていた。

 そしてまたひとり。逃げ出す男性の頸が、小気味よい音とともに飛翔する。

 

「案ずるな。苦しませはしない、一瞬で終わらせてやる」

 

 惨劇の中心でつぶやくは、手首から鋭い鎌を生やしたカマキリに似た怪人。胸の膨らみやスカート状の腰巻が、かろうじて女性的な意匠となっている。

 彼女――メ・ガリマ・バは既に数十人を殺戮していた。だが、本丸はこんな逃げるしか能のない者たちではない。

 

「……ビダバ」

 

 その視線の先に捉えるは――この惨劇を終わらせようと駆けつける、"英雄"を標榜する者たちだった。

 




ちなみにヤオモモはレギュラーになるかまだ未定です。

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