【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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一日遅れですがかっちゃん誕生日オメデト(テレ朝開局50周年を祝うディケイドっぽく)
ちなみに一条さんが4/18なので二日違いです。一条さんは今年で44歳……恐らくまだ独身、かっちゃんも誰かと結婚する未来が見えないです。

さてさて、今日のアニメのサブタイ「洸汰くん」……彼もやっぱりいいキャラしてますね。
拙作だと出久に出会わないまま10歳(小5)という美味しい年齢になってるはずなので、どこかで出したい気持ちもあります。A組も出しきれてないのに何言ってんだって感じですが、「アナザー」だし、そういう脇キャラ推してくほうが性に合ってるかもしれないと思う今日このごろ。


EPISODE 20. 轟焦凍:リオリジン 2/4

 既に宵闇に包まれた山深くの川辺で、幼なじみと呼ばれる関係で繋がったふたりは激突していた。

 

「くたばれぇッ!!」

「く……っ」

 

 動作から何から烈しく、攻撃を仕掛ける勝己。対して出久――クウガは守勢に回っている。

 

「どーしたよクソナード……大口叩いてこのザマか!?」

 

 爆破を繰り返しながら、挑発する。……しかし表向きの戦況に反して、彼の内心に余裕はなかった。雨に打たれて身体が冷えているせいで、爆発にいつもの勢いがないのだ。あえて激しく動き回ることで、発汗を促してはいるが……。

 それに対して、追い詰められているように見えるクウガはその実ほとんどダメージを受けていない。常人より遥かに堅固な赤い装甲は、本調子でない勝己の攻撃では傷つかないのだった。

 

「ッ、もういいだろ、かっちゃん!」余裕があるからこそ、クウガは叫ぶ。「こんな戦い、なんの意味もないじゃないかっ!!」

「黙れやクソナード!!」負けじと吼える。「意味ならあんだよ……テメェは昔ッから、俺のことなんざなんも理解(わか)ろうとしねぇんだからなァ!!」

「ッ、そうやって、すぐキレて暴力振るうからだろ……!」

 

 自分はいつだって歩み寄ろうとしてきた。きみが拒絶して、僕を遠ざけたんじゃないか。――出久はそう信じて疑わない。

 でも、ひとつだけ。

 

「でも……だけど……ッ、――いまのきみが、自分勝手で動いてるんじゃないことくらいはわかってる!きみが轟くんを想ってこうしてるんだってことは!!」

「……!」

 

 勝己が目を見開く。

 

「だったら――」

「でもそれじゃ、轟くんの心は救えない!轟くんは一生ッ、心の底から笑えないままになる……!だからそんなの、間違ってる!!」

「~~ッ、やっぱりテメェは、なんも理解っちゃいねぇ!!ンなモンただの綺麗事だろうが!!」

 

 勝己の爆破の勢いが一瞬増した。クウガの身体がずりずりと後退する。鎧の表面が焼け焦げる臭いが、鋭くなった嗅覚を通じて危機感を植えつけた。

 

(もう調子が戻ってきてる……!流石かっちゃん、って感心してる場合じゃないか……。いまのうちにケリつけないと……!)

 

 勝己が本調子になれば、こちらも本気でやらねばならなくなる。クウガの力で本気で殴りつけたりしたら、いくら頑丈な勝己の身体でもただでは済まない。

 幸いにも、勝己もこれ以上戦いを引き延ばすつもりはないらしかった。野獣のように態勢を低くし、グルルルと唸り声をあげている。

 そして、

 

「ウォラァアアアアアアッ!!」

「――!」

 

 跳躍と同時に爆速ターボを発動させ、一気呵成に標的へと迫る。標的たるクウガは逃げることもなく、その場にとどまり待ち構えている。かつてのような怯えすら、微塵も覗かない――表情がないせいもあるのだろうが――。それがますます、勝己を苛立たせた。

 彼が思いきり右手を振りかぶった瞬間、クウガもまた拳を握り――

 

 

――ドゴォッ!!

 

 打突音が、響き渡る。

 

「……ッ、」

 

 装甲の一部が黒く焦げ、微かな呻き声をあげるクウガ。……その拳が、勝己の鳩尾のあたりに食い込んでいた。

 

「この……偽善者野郎、が……ッ」

 

 捨て台詞のように呪詛を吐き出すと、彼はどさりとその場に崩れ落ちた。

 

 

 ……勝った。

 

 勝ってしまった、あの爆豪勝己(幼なじみ)に。二〇年生きてきて、初めて。

 

 それなのに、気持ちはこの闇深い雨空のように昏く沈んでいくばかりだった。

 

 

――僕らは結局、戦うことでしか語りあえない。

 

 暗澹たる思いを振り払って、クウガは意識を現実に引き戻した。振り返ればそこには、呆然とこちらを見つめている轟の姿。きれいに紅白分かれた頭が、闇の中でもはっきり視認できる。

 

「轟くん、大丈夫?」

「みど、りや……こんなことして、おまえ……」

 

 まるで自分のことのように、焦凍が怯えた表情を浮かべている。ただ恐怖というより、自分のせいでこんなことになってしまったという罪悪感がありありと浮かんでいたが。

 

「確かに、これからのこと考えたら……ね」うなずきつつも、「でも、いまはこれでいい。自分が正しいと思うことを僕はしたんだ、後悔はないよ」

 

 変身を解いて、出久はその人好きする笑みを向けた。そして手を差し伸べる。それをとることに、焦凍はもはや抵抗感を失いかけていたのだが、

 

「――う、ぐッ!?」

 

 現実の行動としてそれを表すより早く、焦凍の体内で何かが疼いた。伸ばしかけた手は空を切り、身体もろとも冷たい地面に沈み込む。

 

「轟くんッ!?まさか、また敵……!?」

「……ッ、ウ」

 

 焦凍は懸命に首を横に振って、否を示した。これまでのように敵意に呼応しているわけではない。ならばどうして……それは焦凍自身にもわからなかった。

 

「しっかりして、轟くん!とにかくいったんここを離れよう、かっちゃんには悪いけど……」

 

 勝己は気を失ってしまったのか、倒れ伏したままぴくりとも動かない。手加減したとはいえクウガの力で殴ったのだ、肋骨が折れたりなど、大きな怪我を負っているかもしれない――その可能性に思い至り、出久は改めて自分に与えられた力の大きさを自覚した。

 

(でも、いまは……)

 

 もし勝己が再び起き上がれば、そこで第二ラウンドとなってしまうかもしれない。勝己のタフさを思えば、そのほうがありえそうな気がして。

 

 結局出久は幼なじみを後回しにして、轟ともどもトライチェイサーでその場をあとにしたのだった。

 

 

 

 

 

 渋谷で未確認生命体第32号事件――のちにそう呼称されることとなる――が発生してから、既に四時間が経過しようとしていた。

 未だ32号ことメ・ガリマ・バは行動を継続しており、渋谷駅をターミナルとする山手線はじめJR各線、東急東横線、田園都市線、東京メトロ各線、京王井の頭線などはことごとく運転見合わせの状態が続いている。未だ鉄道に依存する東京の交通網には大きな打撃だった。まして帰宅ラッシュの時間帯を直撃しているのだから。

 

 だが、ひとりきりで戦線を維持している鋼のヒーローは、そんな傍らのビルディング内での阿鼻叫喚にまで気を回してはいられなかった。

 

 

「ぉおおおおおおおッ!!」

 

 雄叫びと、ふくらはぎのエンジン音とが重なり合う。メカクウガとでも形容すべきG2――飯田天哉は全速力でフィールドを駆け抜け、ガリマとの距離を詰める。

 そして見舞うは、旋風脚。

 

「グ……!」

 

 筋肉質な腕を守備に使ったガリマだったが、身体が大きく後退することは避けられなかった。

 

「……ビデギスザベンボドパガス、ビ、クウガ」

 

 目の前の敵に対する評価を、彼女は上方修正することにした。クウガに似せたのは外見ばかりではないらしい。その力も、クウガに迫るものがある――スピードに限ればそれ以上だ。そのスピードをもたらすエンジンが飯田自身のナチュラルにもつ"個性"であるとまでは、当然看過できなかったが。

 

(――面白い!)

 

 その、強さ。それこそガリマの追い求めていたものだった。ただのヒーローたちでは物足りなかった。しかしこのG2とやら、中身はれっきとしたリントでありながら楽しませてくれる。心が躍る。

 

「こちらの番だッ!」

「!」

 

 あえて相手に伝わるよう日本語で告げて、ガリマはG2へ向かっていった。血塗れた鋭い鎌が、まだ足りないとその赤い鋼鉄に迫る。

 

『飯田さん、回避を!』

 

 インカム越しの発目の指示に「了解!」と応じ、飯田はエンジンを唸らせる。――が、

 

「!?、う、ぐ……」

 

 突如として、全身の筋肉がずきりと疼いた。にわかに脚が動かなくなる。

 

「ッ、の……!」

 

 躱すのはもう不可能。だがまったく無防備になるつもりもなかった。半ば無理矢理左腕を持ち上げ、迫りくる鎌から頸を守る――

 

――ガキン、と、澄んだ音が響いた。

 

「……ッ、」

 

 分厚いコンクリートすら容易く両断できる、ガリマの鎌。しかし飯田の頸どころか、腕を切り落とすことすらかなわなかった。G2のアーマーが、見事その刃を受け止めきっていたのだ。

 

「僕は……負けん――ッ!!」

 

 そのまま右腕を振りかぶり、顔面を殴りつける。その衝撃に、ガリマの身体は遂に宙を舞った。

 

「ッ、ハァ、ハァ……」

 

 疼きはひとまず鳴りを潜めたが、身体中にオーバーワークの翌日のような倦怠感が残っている。――G2のマニューバーに、身体が適応しきれていない。懸念が現実のものになったと実感した。

 

『飯田さん、大丈夫ですか!?』

「……大丈夫、問題ない!まだ、やれるさ……!」

 

 そうだ。ここで撤退するわけにも、まして倒れるわけにもいかない。目の前の脅威だけでも取り除いてみせなければ。

 

「ぐ、ぅ、うぉおおおおおおッ!!」

 

 ずしりとのしかかる何かを振り払うように、彼は再び雄叫びをあげた。それに呼応するかのように、エンジンが唸りをあげて。

 

 

「す、すげぇ……」

 

 その戦いぶりに、見守る上鳴はただただ感嘆の声を漏らすほかなかった。実力そのものは学生時代からわかっていたことだが、G2とかいう鎧の性能がそこに加わって常人からはかけ離れたパワーを発揮している。

 

「あのカマキリ怪人……マジで倒せちまうんじゃね……?」

 

 思わずそうつぶやいてしまった瞬間、隣の耳郎が「いや」と反論した。

 

「なんか飯田、キツそうだ。使いこなせてないのかも……」

「!、パワーがでかすぎんのか……?」

 

 飯田のパンチが直撃すれば、ガリマは呻き、動きが鈍っている。筋力があるとはいえ、彼本来の純粋なパンチ力は常人の域を出ないはず――外付けのパーツでそれを4号並みに引き上げているとなれば……ふたりもようやく、その可能性に思い至った。

 

「あいつに限界来たら、その時点でジエンドってコトかよ……」

「――ッ、」

 

 焦った耳郎がイヤホンジャックを携え、手助けに入ろうとする。しかしそれは他ならぬ隣の男によって阻まれた。

 

「待てよ、響香!」

「ッ、止めんなよ……つーかこんなとこで呼ぶな名前で!」

「自分だってさっき呼んでたろ……。――むやみやたらなタイミングで割って入ったって、かえって足手まといになるだけだ。あいつが本格的にヤバそうだったら手伝うほうが役に立てると思うぜ」

「チッ……」舌打ちしつつ、「あんたにンな正論かまされるとは思わなかった」

「あのな……俺だって一応は成長してんの!それに……」

 

 早く決着をつけたいのは、自分とて同じ。ゴルトリオンはじめ先輩・同輩たちの首と胴体が切り離された骸は、未だぬかるんだコンクリートの上に放置されたままだ。彼らをいつまでも辱めておきたくはなかった。

 

――彼らと直接の面識はない飯田天哉も、きっと同じ想いで戦ってくれている。

 

「おオオオオオオオオ――ッ!!」

 

 G2の強力な打撃が、休むことなく打ち込まれ続ける。一発一発の威力もさることながら、そのスピードもまたG2の鎧がもたらしているもので。

 

「グ、ゥ……!」

 

 ガリマもさるもの、ことごとくいなし続けてはいるが、反転攻勢とはいかないままだ。先ほど鎌の一撃を防がれてしまったのが大きい。あれを受けて傷つかずにいられるのは、紫のクウガくらいだと思っていたが。

 

(そんなリントだからこそ、戦う価値がある……!)

 

 そして、勝つ。ガリマはわずかに後退してG2の拳の嵐を切り抜けると、鎌を地面と水平に構えて再び突撃を敢行した。

 

「ブサゲッ!!」

「――ッ、発目くん!」

 

 今度は飯田のほうから発目に呼びかける。

 

『了解、いきますよ~!』

 

 科警研にいる発目が、遠隔制御システムに何かを打ち込む。途端にG2の全身がかっと発熱する。パーツの隙間という隙間から、蒸気が噴き出す。

 装甲越しに赤熱を感じながら、

 

「いくぞ未確認生命体――フルスロットルだ!!」

 

 右拳を振り上げ……G2もまた、跳んだ。

 

「「――オオオオオオオオオオッ!!」」

 

 ガリマだけではない。その瞬間だけは、飯田天哉もまた目の前の獲物を狩る一匹の獣と化していた。

 

 そして、その結果は――

 

「……ッ」

 

 鎌の一撃を受けたパーツが割れ、ゴトリと音をたてて落ちる。……生身にまでは、届いていない。

 一方でガリマは、左の鎌に拳の直撃を喰らっていた。ひび割れたそれが、やはり地面に落下する。

 

「ウ、ウウグゥ……ッ」

 

 痛々しく呻きながら、よろよろと後退するガリマ。飯田と異なり、彼女の鎌は正真正銘の肉体の一部。神経の通っているそれを砕かれて、いま彼女の脳には耐え難い苦痛が注ぎ込まれていた。

 だが、彼女は人殺しの怪物である以上に誇り高い戦士だった。その矜持ゆえに激痛を強引に振り払い、態勢を立て直す。その呼吸はひどく荒いものとなっていたが。

 

「急所を外したか……。だが、次こそは……!」

 

 再び強力な一撃を叩き込もうとするG2。しかし瞬間的にでも威力をあげようとするということは、それだけ反動を強めることに他ならない。

 

「――うぐッ、ア……!?」

 

 先ほどまでとは比較にならない全身の痛みが、飯田を襲った。筋肉だけでなく骨から内臓から発するその悲鳴に耐えかね、たまらず片膝をつく。それはこの死闘において、致命的な隙でもあった。

 

「――!」

 

 突如動きの止まった敵に、ガリマは情けをかけない。一度戦いを始めてしまえば、敵は敵。それ以上でもそれ以下でもない。常に全身全霊で倒しにかかる。

 

 ただ、飯田は独りではなかった。

 

「ッ、飯田!」

「やらせるかってんだ!!」

 

 じっと機を窺っていた上鳴と耳郎が、遂に動いた。再びのライトニングソニック。彼らの存在を忘れていなかったガリマにはあっさりかわされてしまうが……それでも構わなかった。友人を救けられさえすれば。

 

「ビガラサ……!」

 

 実際、ガリマの注意がこちらに逸れた。鎌は片方だけになっている。いずれにせよ喰らってしまえば一環の終わりだが、少しは御しやすくなっている……はず。

 しかし彼らもまた、これ以上矢面に立つ必要はないのだった。

 

「――グアァッ!?」

 

 突如として銃声が響き、ガリマの体表面に幾つもの風穴が開く。そこから漏れ出す、ガス、ガス、ガス。

 振り返った上鳴、耳郎、そして飯田が見たのは、ライフル銃を構える背広姿の戦士たち。――合同捜査本部の面々だ。

 

「遅くなってごめん、インゲニウム!」森塚が叫ぶ。「電車止まってるせいか、道がチョー混んでてさぁ!」

 

 そんな、ふつうの遅刻の言い訳みたいな――森塚と面識のない上鳴らは呆れたが、これが彼の平常運転なので仕方ない。

 軽い言動とは裏腹にしっかり銃口をガリマに向けたままの彼の隣で、鷹野が険しい表情を浮かべる。

 

「……やっぱり、大して効いてないわね」

 

 忌々しげに身体から漏れ出るガスを払いながら、立ち上がろうとしているガリマ。ギノガがそうだったように、グロンギたちは既に耐性をつけつつあるらしい。

 ならばこの場で決め手を持っているのは、彼ひとり――

 

「ッ、発目くん……もう、一度だ……!」

 

 搾り出すような飯田の呼びかけに、発目が思わず息を呑む音が耳に飛び込んでくる。

 次の瞬間、彼女ではなく主幹研究員の切羽詰まった声が響いてきた。

 

『もう無理だインゲニウムっ、これ以上はきみの身体がもたない!離脱するんだ!!』

 

 確かに身体の中も外も、あちこちが悲鳴をあげている。これがただのシミュレーションなら、もうとっくに離脱して「これはなかなか扱えないぞ!」なんてわかりきったことをのたまっていた頃だろう。

 

 だがいまは、目の前に敵がいる。倒すべき敵が。

 

「あと、少しなんだ……!僕が……僕がひと踏ん張りさえすれば……奴を倒せるかもしれないんです……!だから――!」

『インゲニウム……』

 

 ヒーローとしての矜持。そうした未知に遭遇して、ずっと研究員畑で歩んできた彼は沈黙せざるをえなかった。

――そして入れ替わるように、黙りこくっていた発目が再び声をあげた。

 

『……わかりました。もう一度、いきますよっ!』

「ああ……来いッ!!」

 

 立ち上がるG2。その身が再び赤熱する。

 

「ウゥゥゥ……ウォオオオオオオッ!!」

 

 咆哮。そして、

 

 

――レシプロバーストと掛け合わせた跳び回し蹴りが、ガリマの胴を捉えた。

 

「ウ゛ァアアアアアッ!?」

 

 もはや満身創痍だったガリマは、悲鳴とともに吹き飛ばされていく。建物の屋上を超えて、その姿はいずこかへ消えてしまった。

 

「や、った……勝っ………」

 

 そこで飯田の視界は闇に落ちた。力の抜けた身体が宙を舞い、そしてガシャンと音をたててコンクリートに沈む。

 

「飯田ッ!?」

「飯田くん!!」

「インゲニウム!!」

 

 駆け寄っていく仲間たち。同時にG2のメットのロックが遠隔解除され、固く目を閉じた飯田の顔が露わになる。――その口許からは、わずかに血がこぼれていた。

 

「飯田、しっかりしろよ!」

「ッ、森塚、救急車!」

「もう呼んでますって!」

 

 皆が飯田の状態に気を揉むなかで、飯田はうっすらと目を開けた。……まだだ、まだ仕事は終わっていない。

 

「大、丈夫……ぼ、俺は……。それより、未確認、生命体を……」

「……わかった。わかったから、きみはもう休みな。独りでよく頑張ったよ」

「独りじゃ……あり、ませ……――、」

 

 最後まで言い切ることなく……今度こそ、飯田の意識は深淵に沈んでいった。

 そんな彼に「お疲れさま」と優しく声をかけると、森塚は上鳴たちに視線をやった。

 

「チャージズマにイヤホン=ジャック……きみたち、彼の同級生だったよね」

「そ、そうっす!」

「はい」

「じゃあ、彼のことは任せる。奴が死んだかどうか、確かめるとこまでが僕らのお仕事なもんでね」

 

 ふたりがうなずくと、この童顔刑事は「ヨロシク」と悪戯っぽく笑ってみせた。そして己の個性でバイクに変形し、鷹野を乗せて未確認生命体のあとを追っていくのだった。

 それを見送りつつ――上鳴が、ぽつりとつぶやく。

 

 

「……やっぱすげぇよ。おまえも……爆豪も」

 

 眠る飯田の口許は、どこか誇らしげにほころんでいた。

 

 

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