【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我 作:たあたん
木々に包まれるようにして在る山小屋。夜にあっては暗闇の中にぼうっと浮かび上がる薄気味悪い建物であるが、この日は周囲に複数台のパトカーが張り巡らされ、警視庁の捜査員らが慌ただしく動き回っていた。
その中心にて――小屋の主たる小柄な老人が、不機嫌そうに腕組みをしている。
「ったく、いつまでウロウロやっとるんだ。年寄りはもうおねむの時間だっつーのに」
一応は"グラントリノ"を名乗る現役ヒーローである老人を前に、捜査本部の一員である
「死体の回収が終われば引き揚げますから……。それよりご老人……グラントリノもここから避難を。まだこの周辺には未確認生命体がいます」
「わかっとる。だが同居人がいるもんでな、そいつを置いてくわけにはいかん」
「同居人、ですか……」
妻帯しているのだろうか?それにしては"同居人"という呼称は違和感があるが。こんなボロ小屋に隠れるように棲んでいるのも解せない。
と、グラントリノの携帯が鳴った。懐から取り出されたそれは地味に最新型である。使いこなせているかは怪しいものだが。
「おぉ、もしもし。――ン!?誰だキミは!?」
『んもうッ、緑谷出久ですって!4号の!!』
「4号……?俺ァいても3号までだったし、男囲ったことはねェぞ!」
『なななな……』あからさまに動揺しつつ、『何言ってんですか!?じゃなくてッ、未確認生命体第4号の緑谷出久です!!』
「……あぁ、その4号な!悪い悪い、どうした?」
『あの、実は……』
電話口で、出久は事の顛末を語った。そして現在、雨風を防ぐべく小さな洞穴に避難していることも。
『そっち戻れませんか?轟くん、かなり体調悪いみたいで……』
「むぅ……そうさせてやりたいのはやまやまだが、こっちはまだサツの連中がおる。片付き次第折り返すから、もう少しそこで様子を見ちゃくれないか」
『……わかり、ました。じゃあ、また』
「おぅ」
通話を終え、ひと息つく。目の前の刑事が「同居人の方ですか?」と訊いてくるので、適当にうなずいておく。
「その、同居人の方というのはどういう――」
網戸巡査部長が踏み込んだ質問をぶつけようとしたときだった。敷地内に、赤色灯もつけていない覆面パトが進入してきたのは。
運転席から姿を現したのは、予想だにしない人物で。
「え、エンデヴァー!?」
「………」
ヒーロースーツ姿のエンデヴァー。彼は網戸を一瞥しつつ、グラントリノのもとにずんずんと歩み寄ってきた。
「お久しぶりです」
「……おぉ、そうだな。元気そうじゃねぇか」
「貴方ほどでは」
互いに含むところのある挨拶をかわして、エンデヴァーは改めて網戸に向き直った。
「すまないが彼と話したいことがある。外してもらえないか」
「あ、いや、しかし……」
「手間はとらせん。すぐに終わる」
そういうことではないのだが……エンデヴァーの有無を言わせぬ口調と表情に、承諾するほかなかった。塚内管理官への報告がセットではあったが。
「息子はどこですか」
ふたりになるなり、エンデヴァーはいきなり切り込んできた。落ち着いているように見えて、内心に焦りが覗く。致し方ないともグラントリノは思ったが。
だがいくら父親でも……いや父親だからこそ、教えてしまうわけにはいかなかった。
「さぁな。この山のどこかにはいるだろうが、特定はできん」
実際は、大体の見当はついているのだが。
暫しエンデヴァーは、その隆々とした体格をもって小柄な老人を見下ろし、睨めつけていたのだが……最初からのらりくらりとかわすつもりの老人を前には、暖簾に腕押しだと悟った。
「……結構。ならば自力で見つけ出すのみ」
「好きにすりゃいいが、この山は野生動物から何から危険がいっぱいだぞ。今日は特に物騒な連中が身を潜めとる」
「フン、元No.1ヒーローを見くびらないでいただきたい」
強がりなのか本気なのか判然としないことばとともに、エンデヴァーは踵を返していく。グラントリノはそれを見送るほかないのだった。
「……青いな、まだまだ」
思えば自分の弟子も、いい歳になってもそんなものだった。ある意味似た者同士なのかもしれない――それが命取りにならなければいいが。
*
一方で。グラントリノとの電話を終えた出久は、途方に暮れていた。
雨は既にほとんど止んでいるが、日中まったく太陽に照らされていなかったあとの夜は季節がひとつ戻ってしまったかのように寒々しい。それは洞穴にこもっていても同じことだった。
(どうしよう……)
いまの自分には、頼れる相手がいない。一番頼りになるはずの幼なじみは、自ら切ってしまった。焦凍のことばではないが、彼とのこれからを考えると暗澹たる気持ちになる。
(ッ、何弱気になってんだ……!)ぶんぶんと首を振る。(轟くんを守るんだって決めたじゃないか……。独りでも、やれることをやるんだ!)
とはいえいまは、荒い息で横たわる焦凍を見守るくらいしかできない。全身に浮かび上がる光流は、ひとまず収まりつつあるようだが――
「轟くん、大丈夫?何かしてほしいこととかある?」
「……ッ、」
背中をさすろうとした手はやんわりとではあるが払いのけられた。出会い頭に嫌悪を向けられたことを思えばたった数時間でずいぶん険がとれたと思うのだが、やはり最後の一線は許されない。
(守る……でも、その先は……)
救けたい――そこまで踏み込もうとするのは、やはり傲慢なのだろうか。強欲にすぎるのだろうか。勝己や飯田をはじめとするクラスメイトたち、グラントリノ、オールマイト……たくさんの人たちに支えられて、自分自身も精一杯足掻いて、それでも過去を乗り越えきれずにいる焦凍。そんな彼を、しょせん他人にすぎない、彼の苦しみなど何ひとつわからない自分が。
(だけど、僕は……)
出久の思考がまとまったのはそこまでだった。ほとんど何も見えない聞こえない暗闇と静寂のなかで、一日の疲労が眠気となってどっと押し寄せてくる。膝を抱えたまま、出久の意識はまどろみのなかに落ちていった。
*
一方、山の奥深くに身を潜めるグロンギたち。彼らはいっこうに戻ってこないネズマとネズモに焦れていた。一体、何をやっているのか――
もっとも、彼ら兄弟に命令を下した張本人であるメ・ガドラ・ダはその理由に薄々勘づいていたが。
そしてその予感が正しいものであることを証明するかのように、闇の中から漆黒の翼が降り立った。
「久しぶりだな、ガドラ」
「……今度は貴様か、ドルド」
翼をもつ異形は、一瞬にしてかの仮面の男に姿を変える。その登場に、ガドラと行動をともにするズのグロンギたちは色めき立った。
「ガリマがゲゲルを行っている。だから私が、バルバの名代として来た」
「こんな場所までご苦労なことだ。それで、なんの用だ?」
仮面の奥の猛禽類のような瞳が、妖しく光る。
「ネズマとネズモは滅ぼされた。クウガ……そして"奴"によって」
「!、クウガと奴が行動をともにしていると?」
「そうだ。だが引き剥がすことはできるだろう、おまえたちの存在さえあれば」
「………」
ドルドは一から十までを語らない。そうせずともガドラは意図どおりに動くと、ある意味信頼しているのだろう。
それに応えてやろうなどという殊勝な気持ちは微塵も持ち合わせてはいないが……己の望みのためならばと、ガドラは躊躇なく立ち上がった。
「いいだろう」
そのひと言を聞いて、ドルドは再び闇に溶けていった――音もなく。
それを見届けて、ガドラは背後で固唾を呑んでいるズのグロンギたちを呼び寄せた。
「リントゾロゾ、バシビギブゾ」
「……!」
リントを殺せる――そう告げられた彼らはいよいよ興奮が抑えきれずにいる。中には既に怪人体に変身している者までいる有様だ。
彼らはほとんど日本語を理解できていない。それゆえに、自分たちが真に課せられた使命など知るよしもないのだ。ガドラはその愚かしさを憂えたが、自分も結局は同じ穴の狢だと思った。
*
緑谷出久は夢を見ていた。
いまより少しだけ幼い自分が、歓声ざわめくスタジアムの中心に立っている。かつて、テレビ画面越しに眺めていた雄英高校の体育祭――その舞台なのだとすぐにわかった。
どうして自分が?そんな疑問を抱くこともないままに、目の前に対戦相手なのだろう体操着姿の少年が現れた。左右できれいに分かたれた紅白の頭、端正な顔立ちに刻まれた醜い火傷の痕。
(……轟、くん?)
気づけば自分はボロボロだった。何がどうしてそうなったかはまったく不明だが、右手の指が青黒く腫れあがっている。すべて。
『――!』
そんな自分が、何かを叫ぶ。途端、焦凍の左がめらめらと燃え上がり――
そこで、目が覚めた。
「………」
妙にリアルな夢だった……と、思う。まるで実体験をプレイバックしたかのような。当然ながら、そんな体験をしたことはないのだが。
あるいは何か、虫の知らせだろうか。アマダムが体内に宿ってから、ゴウラムのように夢というかたちで何かが現れることはままあった。焦凍のことで、何か――
そこでようやく、出久は気づいた。地面に這いつくばるようにして、焦凍が呻いている。
「う、ううウウ゛……ッ」
「轟くんっ!?」
「どうしたの、大丈夫」――純粋な心配から駆け寄ろうとした出久に、焦凍は炎と氷でもって応えた。
「う゛あ゛ッ!?」
まったく心の準備ができていなかった出久。それでも咄嗟にその場を転がったが、狭い洞穴の中で躱しきれるわけもなく、右腕の皮膚がわずかに灼けた。
「来るな……来るんじゃねえ……!」
「……!」
ゆらりと立ち上がった焦凍。暗闇の中に浮かぶオッドアイは……出会ったその時に逆戻りしたかのように、激しい嫌悪の光を放っている。
だがそれは、出久を映してはいなかった。
「ウ゛ゥゥゥゥ……ッ、――ウ゛ォオオオオオオオオッ!!」
皮膚という皮膚に浮かぶ光流がひときわ色濃くなり、焦凍の肉体を呑み込んでいく。――"化け物"へと、変える。
"化け物"はもはや出久を一顧だにすることなく、何かを目がけて洞穴を飛び出していく。その場に炎と氷の残滓を残して。
「ッ、轟、くん……!」
突如として、再び暴走した彼。一体何にひかれてそうなったのか?グロンギか、それとも――
先ほど見た夢のこともあって、出久は自分を叱咤して焦凍のあとを追った。無論、夢を見ていなくともそうしていただろうが。
(やっぱり……僕は……!)
*
闇に包まれた獣道を身に纏った炎で煌々と照らしながら、エンデヴァーこと轟炎司は歩を進めていた。
「………」
元No.1ヒーロー、でありながら傷もつ身であるゆえにもうまともに戦うことはできない彼が、グロンギの潜んでいるかもしれない危険な山道をたった独りで歩いている。それはひとえに、この山のどこかにいる息子を捜し出すためだった。
捜してどうするのか?訊けば彼は「連れ戻すに決まっている」と答えることだろう。だが、いまの状況でそれが至難であるのは彼自身承知している。それでも取り戻す――だからグラントリノはじめ息子に近しい人間に助力を頼まず、たった独りで来たのだ。
そして焦凍は、そんな自分の前に必ず姿を現す――
――予感は、ほどなくして現実のものとなった。
「ウ゛ォオオオオオオッ!!」
「――!」
鬱蒼とした木々をかき分けるようにして、飛び出してきた異形の怪物。右に氷、左に炎を纏い、エンデヴァーに襲いかかる。
予想はできていたこと。ゆえに彼は大柄な身体に似合わず俊敏に飛び退き、その一撃を回避する。
「グォオオオオオ……」
「……焦凍」
この化け物が息子の成れの果てであることは、もはや疑うべくもなかった。
「――情けない」
「……!」
化け物が一瞬、唸るのも忘れて硬直する。
「オールマイトはどこまでも余計なことをしてくれる。俺の最高傑作に勝手に手を加えて、こんな醜悪な化け物に変えてしまった」
「おまえもおまえだ、焦凍。
まるで原稿を読み上げるかのように、つらつらと並べたてていくエンデヴァー。そのことばのひとつひとつが、傷ついた焦凍の心を苛み……その憎しみを、煽っていく。
「テ、メェ……!」化け物が、初めて人語を発した。「テメェが……ッ、テメェのせいで……!」
そうだ、すべてこの男のせいだ。この男が個性婚に手を出さなければ。母を選ばなければ。自分をつくらなければ。苦しみぬいた母が、あんなふうになることはなかった。
――憎い。憎い憎い憎い、憎い!!
「殺す……!
己が大きすぎる力を恐れる弱きヒーローは、その瞬間消えてなくなった。残ったのはただ、目の前の仇敵を切り刻み、噛みちぎり、凍らせ、跡形もなく燃やし尽くすこと以外頭にない化け物。そこに轟焦凍の面影はなかった。
エンデヴァーは、一瞬目を伏せながらも……すぐにその表情を相対するものとして。
「やれるものならやってみろ、化け物め。頭を冷やさせてやる」
「グル゛ル゛ル゛ル゛……ッ、――グォオオオオオオオオッ!!」
英雄と、化け物。かつて親子だった彼らもまた、取り返しのつかない死闘に身を投じようとしている。
――すべては、拭い去れぬ過去のために。
キャラクター紹介・リント編 バギンドズガギ
轟 炎司/Enji Todoroki
個性:ヘルフレイム
年齢:50歳
誕生日:8月8日
身長:194cm
好きなもの:葛餅
個性詳細:
身体に獄炎を纏い、自在に放出することができるぞ!ただそれだけ、超シンプルだがそれゆえにめちゃくちゃ強力だ!この個性で彼は事件解決数史上最多のNo.2ヒーロー(オールマイト引退後はNo.1)の座を手に入れたのだ!
備考:
ヒーローネーム"エンデヴァー"。轟焦凍の父親であり、また雄英高校の大先輩でもある。
その上昇志向の強さゆえに若い男性の支持は厚いが、苛烈な性格を隠そうともしないため全体としての人気はオールマイトに及ぶべくもない。若手の爆心地とはタイプが似通っているのだが、なぜか犬猿の仲……ただの同族嫌悪か、それとも!?
とある事件で負った大怪我のため一時は引退していたが、息子の失踪後復帰し、現在は未確認生命体関連事件合同捜査本部に籍を置いている。古傷のため全盛期のようには戦えないが、その威厳と冷静な判断力は若手の多い捜査本部にあっては大変貴重である。
……実は携帯の待ち受け画面が少年時代の焦凍の入浴姿なのだが、闇が深すぎて誰も指摘できずにいる。塚内警視、事情聴取たのんます!
作者所感:
いいタイミングで紹介できたなあと思いマッスル。
言わずと知れた轟パパ。妻子に対する仕打ちはあまりにもクズというか、一歩間違うと蛮野になっちまうレベルだと思うんですが……なんでか憎めないんですよね「焦凍ォオオオオ!!」とか。ヒロアカってどうにもそういうキャラが多いです。
CVの稲田徹さんは特撮だと地獄の番犬(好物:ゴーカイピンク)が有名ですが、実はクウガにも出演してます※TV本編には出てません。ちなみに相澤先生は桜子さんの聴いてるラジオでDJやってたり。
焦凍との親子対決……手負いのヒーローとグロンギすら一撃で葬る化け物では勝負は見えてる気もしますが、どんな結末を迎えるか是非お楽しみに!