【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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ついに2000pt突破!キター!!
西暦2000年、2000の技を持つ男、トライチェイサー2000……クウガといえばやっぱり"2000"です。自己満作品ですがこんなに多くの方々に読んでいただけて本当に嬉しい!お礼に今日は空から鉄球降らしちゃうぞー(ガメゴ並感)


さてさて本編のお話ですが、ラストの○○が××するシーンは是非お好きな挿入歌を流してみてください。DEEP BREATHなんかが一番それっぽいかもしれませんが作者は敵裸体です、Wカリス登場シーンをモデルにしているので。
「始!俺を信じろ!!」→『CHANGE』(この時点ではまだ無音)→『EVOLUTION』(ここで敵裸体流れ出す)
燃えるワー……


EPISODE 20. 轟焦凍:リオリジン 4/4

 目を醒ました爆豪勝己は、よろよろと自分の覆面パトに向かっていた。腹部に残る鈍い痛みに顔をしかめながら。

 

「ッ、あのクソナード……」

 

 苛立ちを表すことばは、どこか空疎に響いた。……無駄なのだ、そんなもの。

 それよりも轟焦凍のことが気にかかっていた――不本意ながら。あの幼なじみの宣言したとおりなら、行動をともにしているはずだが。

 

「………」

 

 無線で連絡して、状況だけでも聞き出す……わずかに逡巡したのち、勝己はそうすることを決断した。自分で選びとったものを、完全に投げ棄ててしまうわけにはいかない。

 が、彼が車内の無線に手を伸ばした瞬間……まるで先を制するように、それが鳴った。

 

『こちら警視06、未確認生命体が行動を開始した!』

「!」

 

 警視06――確か捜査本部の一員である網戸刑事のパトカーだ。

 いや、誰であろうがどうでもいい。重要なのはこの山に潜む未確認生命体たちが行動を再開……つまりは、彼らに襲撃をかけたという事実。

 渋谷の事件は命令もあって関知しなかった。だがこれはそうはいかない。ヒーローとして、捜査本部の一員として、何を置いてでも立ち向かわねばならない責務だ。

 

 幼なじみと元クラスメイトのことをいったん頭の片隅に追いやると、ヒーロー・爆心地は現場へ向かって車輌を発進させるのだった。

 

 

 

 

 

 それは、彼が雄英高校を卒業する直前のできごとだった。

 師から受け継いだ力のことを、憎んでいる父に知られてしまった。いや、それよりずっと以前から、父は濃い疑念を抱いていたのだ。確信へと変わったのが、その時期だったらしい。

 父は文字どおり烈火のごとく怒り、力を放棄するよう迫った。だが師を父とは比べるべくもなく敬愛する彼がそんな命令に従うわけもない。抑圧と反抗。やがてそれらは力と力のぶつかり合いへと昇華した。親子喧嘩などという生易しいものではない、殺意すらにじませる争い。

 

――それを制したのは、息子だった。三つの力を肉体に宿すいまの彼に、たったひとつ炎だけの父は敗北を喫した。負った傷は深く、三〇年を超えるヒーローとしてのキャリアはそこでいったん終わりを迎えることとなった。息子の表向き華々しいデビューと引き替えに。

 

 

 それから、二年と数ヶ月。

 

 

 受け継いだ力のために化け物と化した息子だったものによって、今度こそその身をずたずたに引き裂かれていた。

 

「……ッ、」

 

 エンデヴァーにはまだかろうじて息があった。全盛期より衰えたとはいえ、初老に差し掛かるとは思えない鍛え上げられた肉体。それが、彼の命を繋ぎとめていた。

 だが、それも風前の灯火。皮膚は火傷と凍傷でボロボロになり、超パワーで幾度も殴られたためにあちこち骨折している。折れた骨の一部が内臓に突き刺さったのか、ごぼりと血が吐き出される。

 

 瀕死の父を前にしてもなお、化け物は止まらない。その身体を強引に引きずり起こし、首を掴んで持ち上げていく。

 薄れゆく意識の中、エンデヴァーは……轟炎司は、密かに思う。

 

(それでいい……焦凍……)

 

 焦凍の中に根を張る憎しみが、彼がヒーローとして在ることを阻んでいる。その憎しみを晴らすことができるなら、息子をヒーローに戻してやることができるなら、喜んでその礎となろう。もとはと言えばあの日、既に終わったも同然の命なのだから。

 

 かつて自分の強欲のために母を壊した父の、何もかもを捨て去った覚悟。そんなものを知るよしもなく、化け物の左拳に力がこめられていく。

 

「グル゛ゥゥゥゥゥ……――グォオオオオオオオオ――ッ!!」

 

 何かを断ちきるような咆哮とともに、化け物は最後の一撃を放とうとして――

 

 

「轟くん――ッ!!」

 

 彼の人間としての名を呼ぶ叫びとともに、もうひとつの異形が夜空を舞った。

 

――青のクウガ、ドラゴンフォーム。飛翔するその姿が赤、マイティフォームへと変わる。拳が、化け物の顔面を打ち貫く。

 

「グァッ!?」

 

 まったく身構えていなかった化け物は吹っ飛ばされ、地面を転がる。

 突き放された大男の身体は、地上に叩きつけられる前にクウガの手で受け止められた。

 

「エンデヴァー!」

「ぐ、うぅ……」

 

 もはや意識が朦朧としているのか、エンデヴァーは救けた相手どころか救けられた事実さえもほとんど認識できていないようだった。

 早く救急車なり呼んで、処置を施さねば命にかかわるかもしれない大怪我。だが、それを為すためには、

 

「ガァアアアアアアッ!!」

「ッ!」

 

 案の定、すぐに態勢を立て直した化け物が飛びかかってくる。少なくともこれ以上エンデヴァーが傷つくことのないよう、クウガは避けずに受け止める途を選ぶほかない。

 無論、ただでは転ばない。

 

「――超変身ッ!!」

 

 今度は紫、タイタンフォームに超変身。その拳を真正面から受け止める。

 

「グゥ……ッ、」

「う、……ッ」

 

 その堅さに化け物はぎょっとしたようだが、クウガもまた同様だった。最高の防御力を誇る銀と紫の鎧をもってしても、衝撃を完全には殺しきれていない。

 

(なんてパワーだ……)

 

 これが、オールマイトから受け継がれた力――平和の象徴は、これだけ規格外であるがゆえに与えられたふたつ名だということか。

 だが、いまの轟焦凍はそれとはかけ離れたことをしている。――駄目だ。

 

「ッ、駄目だ、轟くん……!」

 

 想いをそのまま、もうひとつの異形はことばに乗せた。

 

「きみがやるべきことは、これじゃないだろう……!」

「グォオオオオオオオオッ!!」

 

 応えることなく、化け物は咆哮とともに右手を凍てつかせた。次の瞬間、大地を奔るような氷柱が襲いかかってくる。

 

「ッ!」

 

 再び青に超変身して躱すと、今度は赤に戻る。ワン・フォー・オールを相手に紫の鎧がどこまで耐えてくれるか不明瞭になってしまったし、青のままでは一撃受ければ確実にアウトだ。避けつつ、声が届くまで粘るしかない――

 

「思い出せ!きみは何になりたかったんだ!?――オールマイトみたいなヒーローだろう!!だったら……だったら憎しみに囚われちゃ駄目だ!!」

「グウゥ……ッ」

 

 化け物がわずかに躊躇を見せた。通じたのか、

 

 

(うるせぇ……ッ)

「……!」

 

 不意に、脳裏に声が響いた。それはまぎれもなく轟焦凍の低く抑えつけたような声音で。

 なんだ、これは?出久が戸惑っている間にも、声は次々に送り込まれてくる。

 

(テメェに何がわかる!?お母さんに煮え湯浴びせられて、そこにいるクズの身勝手な欲望に縛りつけられて育ったオレの気持ちが!それでもオールマイトに認められ仲間もできて、変わろうと必死に足掻いてッ、結局変われなかったオレの味わった絶望が!!――テメェにッ、わかるわけねえだろうがぁ!!)

 

 出久は確信した。これは間違いなく、包み隠すことのない焦凍の本当の気持ちなのだと。

 声なき声が、なぜはっきりと意味をもつことばとなって襲ってくるのかはわからない。同じヒトを超えた異形であるゆえの共振なのか、それとも焦凍が新たに発現させた力の一端なのか。

 

 それを考えるよりも、戦士クウガは真っ向からぶつかることを選んだ。

 

「そんなのッ、誰だって一緒だ!!きみにだって、無個性の子供がどんなみじめな思いをしてきたかなんてわからないだろう!?」

 

 もしもエンデヴァーにまだ意識があったら、あるいは他の観察者がいたら、クウガが一方的に脈絡ないことを叫んでいるとしか思えなかっただろう。

 それでもよかった。心のうちで叫べば自分の声も伝わるのかもしれないけれど、これは人間・緑谷出久のことばだ。

 

「誰だって他人の気持ちをすべて理解するなんてできないんだ……。それでも精一杯、相手を思いやろうとするんじゃないか!!」

 

 ヒーローになれない自分。それ以外何もないから自分はなんの価値もない空っぽな人間なのだと思い知って、絶望に涙を流した夜のことは忘れない。でもその夜が明けて、この世界はそんなささやかな営みでできているのだと初めてちゃんと気づいた。他人(ひと)を思いやる気持ちが、誰かを救けることにつながるのだと。もちろん、至らないときもあるけれど――つい数時間前の、幼なじみに対してのように。

 

「グガァアアアアアッ!!」

「!?、がッ」

 

 出久のことばを突っぱねるように、化け物が拳を振りかざす。頭の中を跳ね回る焦凍の声に気を取られていたクウガは、その一撃をまともに受けてしまった。グロンギの顔面をひしゃげさせるほどの。

 

「ぐ、く、うぅ……ッ」

 

 赤い鎧がひび割れ、隙間から血が噴き出す。気絶したくなるような痛みを堪えながら、クウガは立ち上がる。

 

「ッ、ちゃんと、伝わって、くるよ……きみの、哀しみ……憎しみ……」

「ガアァッ!!」

 

 再び飛びかかってくる化け物。もう俊敏には動けないクウガは、せめてとばかりに両腕を構えて上半身を守ろうとする。その選択は致し方ないものではあったが、己の身体を完璧に慮っているとはいえない。

 

「う゛、あ゛、あああ……ッ」

 

 何メートルも弾き飛ばされ木に叩きつけられたクウガは、左肘から先に奔る激痛にやはり呻くほかなかった。折れた……のだろう。その判断だけは、鈍る思考でも容易い。

 

 そして今度は立ち上がれないうちに、化け物の足がクウガの胴体を踏みつけた。

 

「あが、う、ぐ、」

(死ね、死ね、死ね、死ね――!)

 

 ひたすら頭に流れ込んでくる、轟焦凍の怨嗟の声。でも出久には、その禍々しくゆがんだオッドアイから透明な雫がこぼれているように見えた。

 

(轟、くん……)

 

 

「……だい、じょうぶ。戻れるよ、きみは……」

 

 徹底的に痛めつけられ続けながらも、彼はそのことばを喉から搾り出した。

 

「その憎しみは、うぐッ!?……消せない、ものかもしれない……。それでも、いい……抱えたままだって、いいんだ……きみの想いは、きみだけ、の、もの、だから……」

「グゥゥ……グオォ……!」

 

(オレ、は……俺は……!)

 

「きみは……きみのままで、変わればいい……。きみになら、できるはずだ……!だって、それは――!」

 

 

「――きみの、力じゃないか……!」

「――!」

 

 動きを止めた化け物は、次の瞬間クウガの上から弾かれていた。背中に蹴りを受けたのだ。

 

「グ、ガァ………」

「……ッ、」

 

 妙な方向に折れ曲がった左腕を放って、クウガは右の拳を構える。化け物もまた、左の拳をもって応ずる。忌み嫌う父から受け継いだ、炎を纏って。――全身を支配する憎しみが、別の記憶に塗りつぶされていく。

 

(緑谷……)

「そうだ……それでいい……!」

(緑谷……!)

 

「全力で――かかってこい!!」

 

(緑谷――ッ!!)

 

 

 幼き日の記憶が甦った。

 

 まだ元気だった母の懐に抱かれて、テレビを観ている。画面越しに輝くような笑みを投げかける、憧れのヒーローの姿。きらきらとそれを見つめ返す小さな息子の頭を撫でて、母は言った。

 

『――なりたい自分に、なっていいんだよ』

 

 

 我に返ったとき、彼はもとの人間・轟焦凍の姿で立ち尽くしていた。

 

「………」

 

 まとまらない思考のまま、ぼんやりと自分の両手を見下ろす。その日焼けと縁遠くなった白い皮膚は、間違いなく轟焦凍のものだ。化け物ではない、ひとりの人間の手。そこに宿った力も――

 

 はっと顔を上げれば、そこには血だまりの中に沈む父親と――そして、ぐったりと木の幹に寄りかかる青年の姿。彼もまた全身襤褸切れのようになっていた。特に左腕の肘から先と、右手が酷い。青黒く腫れあがり、あらぬ方向に折れ曲がっている。

 

「ッ、緑谷!!」

 

 心臓が搾り上げられるような錯覚を覚えながら、焦凍は出久のもとに駆け寄った。

 

「う、うぅ……ぐ……」

「緑谷ッ、おまえ……俺が、おまえを……ッ」

 

 自分を守ると、救けたいと言ってくれた青年。憎しみの暴走の果てに、そんな彼までもを傷つけてしまった。

 手が震える。やはり自分に、この力は――

 

「……だい、じょうぶ、だよ」

「……!」

 

 まだ意識のあった出久は、口許を弛めて精一杯微笑んだ。

 

「きみは……もう、大丈夫……」

「みど、りや……」

 

 「大丈夫、大丈夫」と、出久はうわごとのように繰り返す。でもその単純なことばのリフレインを聴く度に、心を凍てつかせていたものが完全に融けていく。

 

――そのとき、不意に鮮烈な電撃が奔った……ような錯覚。

 

「……!」

 

 それは敵意、悪意……不思議と、これまでのように個性が暴走することもない。それとは明らかに似て非なる、冷たく熱い激しい感情だけが湧き上がってくる。

 

 大丈夫だと言ってくれた、自分の身体と引き替えにそれを現実にしてくれた青年。そんな彼に背を向けて、焦凍は一歩を踏み出した。それが彼の何よりの望みだと、わかっているから。

 

「……あ」

 

 一瞬立ち止まり、

 

 

「救急車……呼んどかねえとな」

 

 

 

 

 

 メ・ガドラ・ダ率いるグロンギの一団により、山中を警戒していた警官たちには大勢の死傷者が出ていた。

 これ以上を食い止めるために立ち向かうは、この山に隠れ住む老齢のヒーロー・グラントリノ。そして、

 

「死ねクソどもがぁッ!!」

 

 爆心地こと、爆豪勝己。その激情を表すがごとき爆破が、がむしゃらに突進してくるしか能のないズのグロンギたちを寄せつけない。

 

「……ッ」

 

 もっとも、爆破のあとにはわずかに顔を歪めている。個性の反動……普段はそんなもの感じないが、異形へ姿を変えた幼なじみに殴られた腹には響くのだ。

 

(クソ、クソ、クソ……っ)

 

 どうしようもない苛立ち。爆破でも発散できず膨れ上がるそれは、4歳の出久がヒーロー気取りで刃向かってきたとき、そして14歳の出久が「ヒーローになるのはあきらめる」と告げてきたときに感じたものによく似ていると思った。

 

 勝己の変調に気づいてか、横に並んだグラントリノが気遣わしげに声をかけてくる。

 

「オイ、どうした?調子悪いのか?」

「……ッ、なんでもねえ」

「ならいいが。……にしても、しぶてぇなこいつら。4号みたいにはいかねぇか」

「………」

 

 グラントリノも自分も生身の"リント"としては善戦していることに間違いはないが、それだけではグロンギは倒せない。その強靭な肉体と回復力。クウガの封印の力がなければ、あるいはミサイルでも撃ち込むしかないのかもしれない。

 無論、いまこのときそんなことはできないし、されても困る。弾の尽きた網戸巡査部長以下生き残りの数名を逃がしてここに立っている以上、退くわけにはいかない。

 

 一方でグロンギたちも、このリントの戦士たちを前に攻めあぐねていた。爆心地の爆破やグラントリノのジェットからの鋭い蹴り、致命傷にはならずとも受けて快いものではない。彼らは死闘を演じられる好敵手ではなく、いたぶりじわじわ壊していくための生贄が欲しいのだ。

 唯一その例外である誇り高き虎の異形が、彼らを押しのけて前に進み出た。

 

「ゾギデギソ。ボギヅサパ、ゴセグジャス」グロンギ語で命じたあと、「釣り餌の役目もここまでだ。恨みはないが、その命喰らわせてもらう」

 

――比喩でなく。

 

 勝己は対して、爆破をもって応えた。

 

「ウルッセェ、寝言は寝て死ね!!」

「……こら、どっちがワルモンかわかんねぇな」

 

 軽口を叩きつつ、老人も感じとっていた。流暢な日本語を話したのもそうだが、この虎に似た怪人だけは他とは格が違う。

 

「……いくぞ」

「ッ!」

 

 ガドラが姿勢を低くする。恐らく一秒後には、飛びかかってくる――ふたりのヒーローが最大限の緊張を強いられた次の瞬間、

 

 氷柱が、大地を奔った。

 

「ッ!?」

 

 ガドラは俊敏に動いたが、躱しきれなかった。左肩のあたりが凍りつき、動きが鈍くなる。

 

「これは……」

 

 自然現象で起きるはずがない。これを為す力の持ち主を、皆、知っている――

 

 

「――轟……」

 

 伸びた紅白の髪を振り乱しながら、零落の英雄が暗闇から姿を現した。

 

 勝己は気づいた。その身に光流が浮かんでいても、瞳に宿る輝きまでは化け物のそれではなくなっている。

 人と化け物たちの間に立って、焦凍は口を開く。人間として、オールマイトを継ぐ英雄として、ことばを紡ぐために。

 

「……もういい加減、仏でも呆れてるだろうな」

「……?」

 

 その意味を説明なしで理解できるのは、流石に彼自身だけのようだった。

 

――自分は、三度も忘れてしまった。

 

 母のことば。爆豪のことば。――オールマイトのことば。形は違えど、すべて焦凍は焦凍であっていいと教えてくれるものだったのに。

 

『きみの、力じゃないか……!』

 

 四つ目、緑谷出久のくれたことば。――今度こそ、今度こそ忘れるものか。

 

「俺は戦う……。ヒーローとして……――轟、焦凍として……!」

 

 その決意が形となって、腹部に輝石が浮かび上がる。

 驚くべきは、その輝きを守護するかのように、ベルト状の装飾が現れたことだ。いままでとは違う。そして勝己にはそれが、クウガのアークルに酷似しているように思われて。

 

 焦凍が右手を顔の前に突き出す。その上から、やおら左手を重ねる。

 そして、

 

「変――――身……!」

 

 明確な意志を示すことばとともに、焦凍の姿があのくすんだ赤銅色の化け物へと変わる。――クウガの右手とぶつけ合った左手に、ヒビが入っている。化け物が一歩を踏み出す度に、それは全身へと広がっていく。

 

 

 そして昇り始めた朝日がその身を照らし出したとき、ひび割れた赤銅色がことごとく剥がれ落ちた。

 

「――!」

 

 誰もが、息を呑む。化け物の下に覆い隠されていたのは、氷結を表すアイスブルーの右腕と、燃焼を表すクリムゾンレッドの左腕。――そして、黄金の鎧。

 

 化け物から"脱皮"した英雄は、その事実を示すかのように構えた。その動作も、吐息も、すべては他でもない轟焦凍のもの。

 

 彼は人間で、ヒーローで、そして――

 

「……ヅギビレ、ザレダバ」観察するドルドの独り言。

 

 

「――"アギト"」

 

 

つづく

 




冬美「次回予告!」

冬美「緑谷くんの説得で自分を取り戻した焦凍。新しい姿に変身したけれど、"アギト"って一体……」
エンデヴァー「焦凍ォオオオオオオ!!」
冬美「わっ!?お父さん、無事だったの?」
エンデヴァー「それは次回になってみないとわからん、事と次第によっては三角巾をつけて出るべきだったかもしれん」
冬美「えー……」
エンデヴァー「……冗談はさておき、これで焦凍はヒーローに戻れる。いまはそれでいい」
冬美「お父さん……」
エンデヴァー「それより問題は未確認生命体だ。奴らは焦凍を狙っている……まだひと波乱ありそうだが」
冬美「そうね……でもきっと大丈夫よ。だって焦凍には、緑谷くんや爆豪くんたちがついてるもの」
エンデヴァー「……そうかも、しれんな」

EPISODE 21. クウガ&アギト

冬美「さらに向こうへ!プルス~……」
エンデヴァー「………」
冬美「お父さん!」
エンデヴァー「……フン」
冬美「……オールマイトならノリノリでやってくれるのになぁ?」
エンデヴァー「!、う、ウ、ウルトラァァァァァ!!」

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