【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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当たらないGS-03……。
それでもロマンあって好きです。ゲーム版の必殺技「スーパーブレード」がカッコよくてお気に入りでした。

あのゲームのG3モード、「アギト(&ギルス)が出てくる前にG3がアンノウンをブチ殺してしまう」というとんでもねえifだったな……。本来の役目を果たしてるといえばそれまでなんですが。


EPISODE 22. チャイルドゲーム 1/3

 夕暮れの公園は、遊びに興じる子供たちの声で賑わっていた。

 ある集団は広い公園を存分に活用してサッカーに興じ、またある集団は隅に寄り集まってゲーム機に向かい……どちらが正しいとは一概には言えない。なぜなら彼ら皆、いまこの瞬間が楽しくて仕方ないという表情をしているからだ。

 

 そしてその中のひとつに、ヒーローごっこに興じている集団がいた。ヒーローチームとヴィランチームに分かれ、お互いの個性を――手加減しながら――使って相手を制圧する。子供……といっても彼らが小学校高学年であるためか、割と本格的なルールである。雄英高校ヒーロー科で行われている授業形式に近い。

 

 そして拠点――ここではジャングルジム――を守る以外好き勝手が許されるヴィランに対し、捕縛を指向せねばならないヒーローは本来やや不利なはずなのだが、今日はヒーロー側が終始優勢だった。――たったひとりの少年のために。

 

「ほい、確保」

「!?」

 

 何もない空間からいきなり溶け出すように現れた少年。彼は最後のヴィラン役の少年の身体に触れ、勝利宣言を出した。

 

「はー、負けたぁ……」ヴィラン役の少年が座り込む。「ずりぃ、"透明化"の個性なんて」

「ハハッ、ずりぃってことないっしょー。最初にちゃんと伝えたもんね」

 

 「確かに」とヴィラン役の少年が笑う。そのうちに他のヒーローチームのメンバー、そして既に確保され済みのヴィランチームのメンバーも一斉に駆け寄ってきた。

 

「すっげー、おまえ!」

「透明化サイキョーじゃん!おまえ誘って正解だったよー」

「そりゃどーも。オレも楽しかったよ」

 

 幼いゆえの無邪気さで既になんのわだかまりもなく親しいやりとりを行ってはいるが、透明化の個性をもつという派手なストライプシャツの少年と、彼らの付き合いは至って短いものだった。数十分前、公園内でひとりゲームに興じていた少年に声をかけたのがはじまり。もっと言えば、もとの人数が奇数だったことが発端だ。

 

「そういやアンタたちさぁ、学校どこなの?」

「ん、オレたちの学校?すぐそこの高見沢小だよ」

「へー、そうなの」

「おまえはどこなん?」

 

 当然の問い。訊かれた少年は愛らしく小首を傾げたあと、

 

「んー、オレこの前引っ越してきたばっかりでさ」

「そうなん?」

「そ。だからその学校に近々行くことになるかも」

「!、マジ?」

 

 少年たちはぱあっと笑顔を浮かべ、「学年一緒だよな?」「同じクラスになれるといいな!」などとのたまっている。……少年の真意も知らずに。

 

「じゃ、オレら塾あるから、またな!」

「ん、」

 

 まだ留まるつもりらしい少年と別れ、帰宅の途につく子供たち。

 

「あいつめちゃくちゃ個性使いこなしてたよな~。いいなぁ」

「面白い奴だったな。名前もちょっと変わってたけど――」

 

「――"ガルメ"なんてさぁ」

 

 

 ついいままで遊んでいた同年代の子供が未確認生命体――グロンギのひとりメ・ガルメ・レであることなど、彼らにわかるはずがなかった。

 「近々その学校に行く」ということばが、おぞましい形で果たされることも。

 

 

 

 

 

――城南大学 考古学研究室

 

 同じ"学校"と一括りにはしても、小学校とはまったく異なる性質を有するこのキャンパスの一角で、沢渡桜子は相も変わらず古代文字の解読を続けていた。ただノースリーブのブラウスという服装だけが、季節感を明らかにしている。

 

 そしてその傍らには、シンプルな白いTシャツの上にチェックシャツを羽織った童顔の青年。詰め襟でも着せれば高校生どころか中学生でも通用しそうな彼は……言わずと知れた、緑谷出久。コーヒーを飲みながら、ふぅ、とひと息ついているところだった。

 

「すっかりアイスがおいしい季節になったなぁ……」

「……何しみじみ感じ入ってるのよ、もう」

 

 呆れたように返すとようやく我に返ったようで、こちらを向いてえへへと笑う。そのあどけない表情は出会った頃から変わらないが、いまの彼の身体にはひとつ、見た目にわかる変化が刻まれていた。

 

「右手……本当に治らないんだね」

 

 右手、五本の指すべてが歪に変形してしまっている。さらに、手の甲に走る痛々しい傷痕。

 

――あかつき村から戻ってきた出久は、身体中に傷を負っていた。クウガであるがゆえに数日と経たずそれらは完治したのだが、唯一右手だけはもとに戻らないままだった。

 はっきりとした理由はわからない。関東医大の椿医師によれば、傷が完治しないうちに戦いに及んだために回復が阻害されてしまったか、さもなくば出久の精神的な問題が原因だという。

 

「これ、ね」目を伏せる出久。「生活にまったく支障はないけどね。でも、会う人会う人に心配されちゃった。当たり前なんだけどさ……こんなのただごとじゃないってひと目でわかっちゃうし」

 

 ポレポレのおやっさんにも珍しく冗談抜きで心配されてしまったし、成人女性とは思えないイノセントな性情の持ち主であるお茶子は号泣せんばかりの勢いだった。傷のつき方がつき方なので階段から落ちたなんてベタな嘘もつけず、出久は考えた末「人を救けようとして負った傷なんだ」と話すことにしていた。一応は嘘もついていない……具体性は微塵もないが。

 だが、お茶子以上に胸に焼きついたのは、友人である心操人使の反応だった。徹底的な追及を覚悟していた彼は、出久の下手な説明を聞いてこう言ったのだ。

 

『あんまり無茶するなよ。……ただでさえあんた、危なっかしいんだからさ』

 

 そのときに見せた何かを押し殺したような笑みが、どこか寂しそうで、切なそうで。……それも一瞬のことで、いまは何事もなかったかのように一緒に授業に出たり、トレーニングを行ったりしている。でも出久には忘れられない表情だった。

 

(心操くん、まさかと思うけど……)

 

 以前から薄々感じていた。――気づいているのではないか、自分が未確認生命体第4号であると。

 勘が良く観察眼も鋭い心操なら、状況証拠の数々から察しても不自然ではない。それでも問い詰めてこないのも、慎み深い彼の性格ならありえることだ。

 

 無論、自分の考えすぎかもしれない。……でもそうでないとしたら、自分はこれからどうすればいいのか。正直に話すべきなのか。それはふたりの関係にとって良いことなのか。勝己とのこととはまた違う、新たな葛藤だった。

 

「……そう簡単に、答えを出さなくてもいいんじゃないかな」

「!?」

 

 桜子のつぶやいたことばは、まるで出久の心を読んだかのようだった。

 もっとも、実際には、

 

「また漏れてたよ、声」

「あ、ご、ごめん」

「いいけど。――もしかしたら心操くん、出久くんが自分から話してくれるのを待ってるのかもしれない。だからってね、焦らなくてもいいと思う。出久くんが"いまならちゃんと話せる!"って確信できるまでは、待っててもらっても罰は当たらないと思うな」

「……いいのかな、それで」

「いいんだよ、そこまで尊重しあっての友達なんだから!その代わり、話すときにはこうも言うのよ――"いままで黙っててごめん"って」

「沢渡さん……うん、わかったよ!」

 

 笑顔を取り戻しながら、出久は思う。――こういう人たちに出会えた自分は、本当に幸せだと。そう思わせてくれる彼女たちを、これからも大切にしていきたい……。

 

 と、不意に携帯が鳴った。

 

「もしもし?――あ、うん、階段登って右のほうに進んでもらって……迎えに行ったほうがいいかな?――そっか、じゃあ待ってるね」

 

 通話を終える。桜子が「彼?」と問うてくる。

 

「うん。大学って初めてだから、迷子になりそうでちょっと心配だったんだって」

「迷子……あんなクールな雰囲気でそういうこと言うんだもん、面白い人よね」

「あはは……僕もまったく同意見です」

 

 氷のように冷徹で、炎のように苛烈――面識をもつ前に"彼"に抱いていたそんな印象は、この二週間ほどで覆されつつあった。つらい境遇であったと同時にお坊ちゃん育ちでもあるせいか妙にとぼけたところがあって、そこがまた魅力的なのだ。異性であれば"ギャップ萌え"という用語が適用できたのかな、なんて思う次第である。

 

 軽薄な考えに出久が自嘲していると、大きな木製の扉が外側からノックされる音が響いた。「どうぞ!」と桜子が声を張り上げ、

 

 扉を開いて現れたのは、キャップを目深に被った青年だった。目許まで隠してはいるが、モデル顔負けの整った顔立ちであることがひと目でわかる。

 出久は自嘲を愛想のいい笑顔に切り替えて、彼のもとに駆け寄った。

 

「轟くん、おはよう!」

「おう……おはよう、緑谷」

 

 轟焦凍――ずっと行方知れずになっていたヒーロー・ショートであり、元No.1ヒーロー・エンデヴァーの息子であり、"平和の象徴"オールマイトの後継者であり。

 

 そして何よりいまは、"アギト"――出久とともに、未確認生命体と戦う頼もしい仲間でもあるのだった。

 

「悪ィ、ちょっと迷っちまって。なるべく人目につかないように忍んでたのもあるんだけどよ」

「いやわかるよ、キャンパスって慣れてないとわかりづらいもんね。僕も入りたての頃は何が何やらだったし」

「そんなもんか……ふぅ」

 

 息をつきつつ、帽子を脱ぐ――そこから現れた紅白の髪は、隠遁生活の間伸び放題だったのが嘘のように短く切り揃えられている。学生時代よりも。

 

「なんかまだ慣れないなぁ……その髪型」

「そうか?俺は別に……あんまり頓着しねえし、これだと帽子で隠すにも楽だしな」

 

 焦凍は未確認生命体と戦うにあたり、表向きヒーローには復帰せずにいる。そのためなるべく轟焦凍と気づかれないようにしておきたいのだ。

 最初はスキンヘッドにでもしてしまおうかと考えたらしいが、相談する人全員――グラントリノや家族など――に反対されたため断念したらしい。出久もそれで正解だったと思う。

 

 ところで桜子も当然横でそのやりとりを聞いていて、まぁ美形はよほど奇抜でない限りどんな髪型でも美形なんだな、と実感していた。特に焦凍の場合、以前はいかにも"少年"な髪型だったから、ひと皮剥けて大人の男になったという感じがする。

 ただ、並ぶ出久も負けてはいないと思うのは贔屓目が過ぎるだろうか。半袖から覗く二の腕は一年前の同時期と比べて太くなったし、背も心なしか伸びて――それでも焦凍よりは低いが――なんというか、男らしさが増した気がする。クウガになって心身ともに逞しくなったのは間違いないし、自信もついてきたのだろう。少なくとも桜子にとっては、焦凍に劣らず魅力的な青年なのだった。

 

 

「あ、」焦凍がこちらに向き直り、「挨拶遅れちまってすいません。――轟焦凍です、よろしくお願いします」

「あ、いえ……。城南大学考古学研究室の沢渡桜子です」

 

 ふたりの自己紹介を済ませ――事前に出久が互いのことを伝えてはいるが――、出久が焦凍にもアイスコーヒーを勧めたあと、三人で丸テーブルを囲む。――今日、彼をここに呼んだのはほかでもない、クウガやグロンギについて詳しい説明を行うためだ。ともに戦う仲間となった以上、焦凍とも情報を共有することになるのは当然のことだった。

 

 

 と、いうわけで。

 

「――未確認生命体……グロンギについては、超古代の狩猟民族で、超人的な能力を得たことでリントに殺戮の牙を向けたということくらいしかわかっていません。あ……リントというのは私たちの直接の祖先となる民族であると考えられます」

「……グロンギっていうのか、奴ら」

 

 「珍走団みてえな名前」と大真面目にずれた感想を口にするので、桜子はリアクションに困った。既に焦凍と親しい出久は苦笑している。

 それはともかく、

 

「超古代の狩猟民族ってンなら、奴らももとは人間だった……ってことですか?」

「……恐らく、生物学的には」うなずきつつ、「もちろんそちらは私の専門分野ではないので、確かなことは言えませんけど」

 

「――でも実際、そうなんだと思うよ」

 

 出久が発言した。

 

「奴らと、僕のこのクウガの力……原理とか、かなり似てる部分もあるし。個性と違って後天的なものなんだろうけど」

「人間か……だとしても、奴らのやってることは……」

「………」

 

 現代人にだって凶悪なヴィランはいくらでも存在するが、彼らはどこの国家・地域にあってもアンダーグラウンドに潜むもの。民族単位で殺人狂など前代未聞だった。

 

「だが、あれだけ人を殺して何がしてえんだろうな、連中は。いままでの事件については一応振り返ってみたが、どうも読めねえ。少なくとも世界征服とかじゃなさそうだ」

「それが掴めれば、ね……。――そうだ沢渡さん、"アギト"については、何か出てきてないの?」

 

――アギト。焦凍が変身を遂げた、クウガにも似た異形の戦士。グロンギのひとりがそう呼んだのだ。「我らの理想」とも……。

 

「………」かぶりを振る桜子。「話を聞いてから重点的に探してはみたんだけど……それらしいのは全然。もしもないと仮定すればだけど、リントはそもそもアギトについて知らなかったか、碑文に残せない、残しておきたくないくらいの極秘事項だったか。考えられるのはそのふたつね」

「そっか……やっぱり、人間の進化形態ってことなのかな?」

「まあ、それは俺の勝手な推測だけどな。ただ個性が強力になったことに適応してそうなったんだとしたら、あながち的外れでもないと思う」

 

 

(……だから"理想"なのかもな)

 

 後天的に霊石を埋め込んで生まれたクウガ。それと似た力をもつと思われるグロンギ。――モノに依らず、器たるヒトのみの力で進化を遂げたアギト。何ものにも頼らない純粋な力、自分だけの力。

 だがなんであれ、やることは同じなのだ。力はそのかたちではなく、どう振るわれるかがすべて。少なくとも自分はヒーローとして、誰かを救けるためにこの力を使うと決めた。

 

 

――緑谷出久(クウガ)とともに。

 

 




キャラクター紹介・リント編 バギンドギブグ

発目 明/Mei Hatsume
個性:ズーム
年齢:21歳
誕生日:4月18日
身長:157cm
好きなもの:スチームパンク、チョコレート
個性詳細:
最大5キロメートル先まで鮮明に見ることができる、要するに素晴らしく目が良いという個性だ!"ズーム"なので動き回る被写体に正確に照準を合わせることもできるぞ!
発明品の細かな部品ひとつひとつにまで注意を払う必要があることから、地味ながら彼女の仕事にはこれ以上ない適性を示す個性といえるだろう。

備考:
雄英高校サポート科出身の科学警察研究所総務部付特別研究員、早い話が客員である。G-PROJECTを担当しており、第4号こと緑谷出久の協力を得て"G2"の完成に至ったぞ!
研究に熱中すると他のことが見えなくなる性格、人の気持ちを顧みず平気で実験台にするアブない女史なので飯田天哉には嫌われていた。しかし年月を経て不器用ながら気遣いもできる女性に成長し、彼との関係も修復されつつある。励ましのことばをかけられた際、彼女が覚えた生まれて初めての感情の正体は?

作者所感:
これ以上ない榎田さんポジションに適任な子ということで構想最初期から登場予定がありました。ただしGシリーズに関わるというのはギリギリで決まったことだったりします。まあ発目さんに場合、堅実に公務員になるより自由な発明ができる企業にいるのが自然なので、Gシステム専属の客員にできたのはラッキーだったかと。そういう意味ではアギトの小沢さんポジションも兼ねてる?
飯田くんとのCPができあがりつつあるこの頃ですが、拙作の恋愛要素はほのかに匂わせる程度なのでどこまで掘れるかわかりませぬ。つーかまず「相手のことが好き」って気づくとこまでが険しい道のり!

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