【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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いや~暑くなってまいりましたね。
拙作は現在6月末~7月初旬くらいの時期なので、現実が追いついてきております。なんだかんだ投稿開始一周年も近いな……。


EPISODE 22. チャイルドゲーム 3/3

 ポレポレを飛び出した緑谷出久と轟焦凍は、目的地へ向けてバイクを疾走させていた。

 

 勝己から電話を受けた出久はともかくとして、その寸前に焦凍が未確認生命体の出現を察知できたのは、アギトに覚醒して以来身についた第六感めいたものによる。ヒトでありながらヒトならざる化け物となった者たちが放つ悪意の波動、そして力なき人々の断末魔……そんなものが頭の中に流れこんでくるのだ。

 それを恐れ、拒んでいた自分はもういない。この力を最大限に使いこなして、ひとりでも多くの人間を、守ってみせる――

 

 そしてそこまでの超能力はなくとも、出久もまた想いは同じだった。

 

「――変身ッ!!」

 

 叫びと同時に赤き戦士クウガに変身を遂げる。暗証番号を打ち込んだことでトライチェイサーのマトリクス機能が作動し、車体が漆黒から鮮やかな黄金と赤に発色する。

 

「轟くん、先行くね!」

「!」

 

 そして最高速度300km/hをもって、現場へ急行する。警察の新型白バイの試作品であるがゆえにできること。焦凍の乗る市販のオンロードマシンではとても追いつけない。

 

「………」

 

 面白くなさげな表情をメット越しに浮かべる焦凍。だがすぐに気を取り直し、

 

「変―――身ッ!!」

 

 腹部に出現したオルタリングが輝きを放ち、轟焦凍もまた三色の超越戦士へと変身する。

 その途端、驚くべきことが起こった。なんの変哲もない銀色のマシンもまた光に包まれ、騎手と同じ黄金を基調としたトリコロールカラーに変わったのだ。カウルには必殺キックの際に浮かぶのと同じ紋章が刻まれている。

 

――"マシントルネイダー"。選ばれし者のみ乗りこなすことを許される、疾風(かぜ)のごとき鋼の馬だ。

 

「先行くぞ、緑谷」

「!、え……」

 

 マシントルネイダーの最高速度はトライチェイサーを凌ぐ。それゆえアギトはクウガを巻き返し、プロヒーローとしての意地を見せつけたのだった。

 

 

 

 

 

 昼休みもとうに終わり午後の授業が始まっているはずの高見沢小学校は、未だ子供たちの騒擾に覆われていた。

 しかしそれは、いつも聞かれるような楽しげな歓声ではない。――阿鼻叫喚。

 

 校庭、そして校内にも子供たちのもの言わぬ骸が無数に転がり、そして逃げまどう子供たちもひとりまたひとりと命を奪われていく。もはや子供たちを教え育むべき場所は、ただの地獄と化していて。

 

「アハハハハっ、逃げろ逃げろ。多少は動いてくんなきゃ的の価値もないんだからさぁ!」

 

 そのように叫ぶ少年の声こそ、この惨劇をもたらしている存在。しかし明朗に響く声に反して、その主の姿はどこにも見当たらない。そしてそれゆえに教師や所轄の警官たちは子供をどう避難させればよいかわからず、右往左往している間に死体の数が増えていく。

 

 それを止めるために駆けつけた捜査本部の面々もまた、義憤以上に困惑を隠しきれなかった。

 

「ッ、なんだよこれ……」

「未確認は!?」

「わ、わかりません……!近くにいるはずなのに見つからないんです!」

 

 鷹野に詰め寄られた警官はそう答えるほかない。だが"近くにいるはずなのに見つからない"――そのことばのおかげで、ともに駆けつけた勝己の頭脳は瞬時に答えを導き出した。

 

「……透明になってやがんだ」

「!」

 

 彼の脳裏にはある同級生の名が浮かんでいた。――葉隠透。常に全身透明だったために、三年間でついぞその容姿を知ることのなかった女だ。いまはプロヒーロー"インビジブルガール"としてそれなりに存在感をもっているが。

 

 いずれにせよ、勝己のつぶやきは仲間たちの胸にすとんと落ちた。いまはあれこれ考えるより、そうとみなして動くべき。

 

「それなら……!」

 

 鷹野が己の個性"ホークアイ"を発動させる。文字どおり鷹の眼のごとく強化された視力は、常人には見えないものを捉えることもできる。――相手が完全に透明になっていたとて、そこにいる限り。

 

「――そこッ!!」

 

 ほんのわずかな空間の歪みを捉え、鷹野は躊躇うことなくライフルの引き金を引いた。寸分あとには予想どおり弾丸が何もないはずの空間に突き刺さり、同時に「うおッ!?」という未成熟な声が響いた。

 

「痛って……臭ッ!?うわこれ臭っせ!?カメムシかよぉ……」

「――!」

 

 銃弾を浴びたとは思えない、もっと言えばこの惨劇を引き起こしたとは思えない吞気な声とともに、声の主が遂に姿を現した。

 

「!、おまえは……!?」

 

 そのカメレオンに似たダークグリーンの姿――メ・ガルメ・レを見るのはこれが初めてではなかった。

 

「おまえ……柴ちゃんを殺した奴か!!」

 

 森塚が吼える。柴ちゃん――柴崎巡査。未確認生命体のアジト捜索のために招かれた猟犬部隊のメンバーで、その鋭い嗅覚によって本当にアジトを見つけ出すという功績を挙げた。

 

――そのために命を奪われてしまったのだ……目の前の怪人、メ・ガルメ・レによって。

 

 しかし、憤怒をぶつけられたガルメは、

 

「柴ちゃん?」

 

 こてんと小首を傾げる。声変わりもしていない澄んだ声と相俟って、そのしぐさは妙に子供っぽく映った。

 

「おまえが前に殺した犬頭の警察官だ、忘れたとは言わせないぞ……!」

 

 珍しく森塚の声音からは揶揄めいたいろが消えうせていたし、隣にいた鷹野もまた普段よりさらにきつくガルメを睨みすえていた。

 それでもなお、ガルメの態度は変わらない。

 

「犬頭ぁ?ん~と、ちょっと待ってね……ん~」少し考えたあと、「あっ思い出した、あいつか!あいつのせいでオレ、ゲゲルの順番後回しにされちゃったんだよなぁ……ア~思い出したら腹立ってきた!」

「……ゲゲル、だァ?」

 

 ゲゲル、順番――そのことばに引っ掛かった勝己が唸るように訊けば、ガルメは「あー」と頭を掻くようなしぐさを見せた。

 

「アンタら風に言や……"ゲーム"かなぁ?」

「ゲーム……!?」

「そ。ルールに従っていかにリントを殺すか……最っ高に楽しいゲームさ!」

「ふざけるな!本当の目的を言いなさい!!」

 

 おちょくられている――そう思った鷹野が叫びとともに銃口を突きつけるが……ガルメは肩をすくめただけだった。

 

「だ~か~らァ……ただのゲームだって!獲物を追い狩りをする、ポイント稼いで昇格する、わっかりやすいっしょ?」

「……ッ、」

 

 こちらをおちょくっているのは確かだ。しかしそれは、嘘をついているのと同義ではない。

 

――真実だ。未確認生命体が人を殺めるのは、そういうゲームだから……楽しんでいるから。ただ、それだけ。

 

「つーわけだからさぁ、アンタらみたいなお邪魔虫もほどほどになら歓迎だよん、ほどほどにならね!」

「ッ、こいつ――!」

 

 過ぎた挑発に流石に我慢の限界に達した刑事たちが、一斉に発砲しようとする。

 それを押しとどめたのは……意外にも、群を抜いて気短であるはずの通称"爆ギレヒーロー"だった。

 

「……ひとつだけ訊かせろや。この学校襲ったンも、そのゲームのルールっつーわけか……?」

「おっ、察しがいいねえ、そういうこと!この学校のガキどもの……流石に全員はキツイからさあ、162人殺すのがオレのルールなんだ。もう98人殺したから……あと、64人かな」

 

 じゃらじゃらと珠玉のついた腕輪を見せつける。以前第14号――メ・バヂス・バから回収に成功したものの、用途不明に終わっていたそれ。殺害人数のカウントという実に単純な目的のアイテムだったのだといまわかって、腸が煮えくり返った。

 

「そーかよ……―――」

 

――BOOOOM!!

 

 一瞬俯いた勝己の身体が、宙に浮き上がった。両手から爆破を起こすことによって。

 

「そんだけ聞き出しゃ用済みだオ゛ラァアアアアアッ!!」

 

 小規模な爆破の連続、その勢いを利用して一気に距離を詰め、至近距離から最大限の爆破を浴びせかける。シンプルだが強力な、勝己の得意な戦法だ。

 

「うわッ、いきなりなんだコイツ!?」

 

 焦ったガルメが慌てて姿を消す。並のヒーローなら攻撃対象が見えなくなって焦るところかもしれないが、勝己にはそんなもの関係なかった。

 

「遅ぇわクソボケがァ!!」

 

 相変わらずヒーローらしくない罵声とともに、カッと両手を煌めかせる。次の瞬間、彼の前方半径数メートルを爆炎が覆った。「うぎゃっ!?」というガルメの短い悲鳴が響く。

 

「あぢぢぢぢッ、あぢッ!?」

「姿消そうがその辺いりゃ一緒なんだよ!!」

 

 叫びつつ、勝己はちらりと鷹野に目配せする。いったん距離をとられてしまえばもう自力では居所を掴めないが、彼女のホークアイのサポートがあれば。

 

「爆心地、一時、十二メートル!」

「!」

 

 鷹野から指示が飛べば、すかさずそちらに詰めて爆破を放つ。またガルメの頓狂な声が聞こえて、目論見がうまくいったのだとわかる。

 

「ハハハハッ、臓物ぶちまけろやカメレオン野郎!!」

「う、うわぁコイツヤベー……」

 

 虐殺をゲームとのたまうグロンギすら引かせる、勝己の悪鬼羅刹ぶり。鷹野・森塚らもこれだけはガルメに同意できる部分もあったが、無論手心を加えてやるつもりなど微塵もない。

 

「十二時ちょうどっ!」

「!、――」

 

「――榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)ッ!!」

 

 ひときわ激しい大爆発。巻き起こされる爆風は、離れた場所にいる鷹野たちにまで襲いくるほどのもの。

 それを真正面で受け止めてしまったのだから、いくらグロンギといえどもただでは済まない。

 

 爆炎、そして煙が晴れたとき、そこにはカメレオン種怪人の姿はなかった。代わりに転がっていたのは、彼が標的としていたのとそう変わらない年代の少年で。

 

「痛ってぇぇ……。やってくれるよまったく……」

 

 よろよろと立ち上がる少年の顔の表皮、そのほとんどが黒く焼け焦げていたのだが……それも一種のこと。即座に回復し、元どおりの白皙を取り戻していく。

 

「……妙にガキくせぇと思ったら、マジでクソガキだったとはな」

「だったら何よ、見逃してくれんの?」

「ハッ」

 

 ニィ、と唇が吊り上がる。

 

「ンなワケねェだろブァーーーカッ!!」

 

 見た目が子供だろうが容赦しない、するわけがない。――爆破し殺す。その揺らがない志はこの場において、間違いなく強みだった。

 

「チッ……だよねぇ!」

 

 流石にそう甘い見立てはしていなかったのだろう、小柄になったぶんだけ素早く飛び退いて躱すガルメ。目と鼻の先にまで及ぶ灼熱に顔を歪めつつ。

 

「~~ッ、チックショ……いったんセーブしたいけどキリ悪いんだよ。あとひとり殺れば()()()()なのにィ……」

「ア゛?」

 

 巫山戯た言動以上にその内容(なかみ)が勝己の思考回路には引っ掛かったが、次の瞬間には真意を問いただすどころではなくなってしまった。

 

「あ、――あんなとこに見っけ!」

「!?」

 

 ガルメの視線と声に従って振り返れば、そこには植え込みがあって。

 

――震える小さな身体が見え隠れしている。避難しようにも恐怖で足が動かず、ただ隠れることで命を繋ぎとめようとした子供がいたのだ。そのせいで、戦場に取り残されてしまった。

 

 先に見つけ出しただけあって、ガルメの動きは勝己よりも先んじていた。再び怪人体に変身し、勝己の頭上を飛び越え子供のいる方向へ跳躍する。こうなるともう大規模な爆破はできない、子供を巻き込んでしまう。条件としてはいくらかマシな鷹野らや他のヒーローたちが対応しようとしたときにはもう、ガルメは子供を盾にするような位置に迷い込んでいた。

 

「よぉ、アンタ殺したら今日のとこはおさらばするよ」

「ひっ、ぃ、いぃ……ッ」

 

 ガタガタと震える子供。その目の前でがばりと口を開くガルメ。――そこから長い長い舌が姿を現し……子供の首に、巻きついた。ゆっくりその身体が持ち上げられていく。

 

「う、ぐぅ、かは……ッ」

「ッ、やめろ――!!」

 

 跳ぶ勝己。だが遠距離から爆破を仕掛けられない状況は変わらない。ゼロ距離に到達する前に、あの子の細く頼りない首は――

 

「……ギベ」

 

 誰もが柴崎の死を想起し、それを止めようと走り、それでも間に合わないという予感に絶望を抱く。

 

 

 その絶望を粉々に打ち砕ける者たちが、この世界にいる。

 

 氷の壁が地面を奔り――ガルメだけを、吹き飛ばしたのだ。

 

「ッ!」

 

 子供の身体が投げ出される。状況の変転に驚きつつも、勝己は爆速ターボでそこへ飛び込んだ。すんでのところで抱え込む。

 

「う……けほっ、ケホッ……」

 

 急に呼吸が楽になったためか、少年はひどく咳き込んでいる。しかしそれは命のある証だ、勝己はほっと胸をなで下ろした。

 それと同時に、二台の(スーパー)マシンが姿を現した。いずれも金と赤が基調のカラーとして使用されている。その片方――カウルが丸みを帯びたマシンの騎手こそ、救世主たる氷結をもたらした張本人だった。

 

「……もう、大丈夫だ」トリコロールの輝きを放つ身体が、ゆっくりと大地に降り立つ。「――俺たちが来た」

 

(轟……!)

 

 そしてもうひとり、赤の戦士。――緑谷出久の変身した、クウガだ。

 

「っぶねー……ナイスだ4号弟くん」

「………」

 

 露骨に安堵を滲ませアギトを称賛する森塚に対し、鷹野はやや渋い表情を浮かべている。他の面々の反応も三者三様だったが、いずれにせよ第一には99人目の犠牲者が救われたことへのかすかな喜びがあった。既に98の骸が積み上がっている以上、それは吹けば飛ぶような脆いものではあるが。

 

 この場において唯一忌々しさのみを感じている者があるとすれば、

 

「クッソ、ついに出やがったよ……」

 

 クウガに、アギト。前者だけならまだあしらい方も心得ているが、後者についてはまったく新しい脅威と呼ぶほかない。何せズの面々を瞬殺したうえ、あの実力"だけは"メ最強クラスのガドラを完封するほどの力の持ち主。正面切って相手取るのは避けたいところ。それに99人目に見定めた子供も、完全にヒーロー・爆心地の庇護下に入っていて手出しは難しそうだ。

 

「チッ……。キリ悪いけど……しょうがないか」

 

 不利を悟ったガルメは、迷うことなく撤退を選んだ。わざわざヒーローやG2といった"戦う者たち"に挑んだ、ガリマのようなまっすぐさは彼にはない。

 

「今日はここまで、明日の朝8時半、コンティニューさせてもらうとするよ!」一方的に宣言し、「さらばリントの諸君!――はっ!」

「!」

 

 跳躍して校門を超えると同時に、透明化を発動する。死角を利用し、鷹野の眼にも捉えられないようにする念の入れようだった。

 

「!?、消えた……」驚くクウガ。

「透明化か……」

 

 透明になれる敵。常人よりは鋭い感覚をもっているとはいえ、ふつうに追尾するのは難しい。

 が、クウガのほうには対抗手段があるはずだ。勝己が咄嗟にそれを伝えようとしたのだが、

 

「4号!」

「!」

 

 先んじたのは、なんと鷹野警部補だった。

 

「私の個性"ホークアイ"でもかろうじて奴の動きを捉えられたわ。あなたの緑の姿なら確実に追えるはずよ」

「!、そうか……!」

 

 ペガサスフォームの感覚強化は、鷹野の個性の比ではない。透明化してもわずかに残る光の屈折を捉えることができる。

 問題は五〇秒の制限時間……タイムリミットが訪れる前に敵を捕捉できるか。地上から追うのでは難しいかもしれない、でもそれ以外の手段がいまのクウガにはあった。

 

「――超変身ッ!」

 

 変身時と同じ構えをとり、叫ぶ。アークルから緑色の光が放たれ、赤い鎧と瞳に溶けていく。

 そうして緑に染まったクウガは、マイティフォームからペガサスフォームへの"超変身"を完了するのだ。

 同時に、

 

「これを使いなさい!」

 

 そう叫んだ鷹野が投げ渡してきたのは、なんと自身の拳銃だった。これには他の捜査員、さらに元々4号に好意的だった森塚ですら驚きを隠せない。無論、クウガ自身も。

 だがそれでも、迷うことなく掴みとった。警察官の命ともいえる銃を正体不明の自分に預ける――その信頼と覚悟に報いるために。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 礼を述べると同時にモーフィングパワーが発動、拳銃が天馬の弓"ペガサスボウガン"へと姿を変える。

 さらに、

 

『カディル・サキナム・ター』

 

 天空の彼方から飛来する、巨大な昆虫。古代リント族のことばを話すそれは、名をゴウラムという――クウガの、頼もしい仲間だ。

 

 

――時を巻き戻して、城南大学考古学研究室。

 

 グロンギ、アギトについての話がひと段落したあと、桜子が話題に出したのはゴウラムのことだった。

 

「この前科警研で見つけた碑文の解読結果、出てるよ」

「!、なんて書いてあったの?」

 

 ゴウラムの前脚にあたる部位。そこに記されていたのは、

 

 

『戦士としもべ、手と手をつなげ。さらば――大いなる飛翔、あらん』

 

 ペガサスボウガンのトリガーを引いて用意を整えたクウガが、前脚を握る。それを認めて、再び上昇を開始するゴウラム。神の遣いたる甲虫は、空を飛ぶことのできない主の翅という役割を喜んで果たすのだ。

 遠ざかっていく地上、こちらを見上げる、もはや戦友と呼ぶべき人たち。その中には当然幼なじみの姿もあったけれど、紅い瞳はふいと逸らされてしまった。――出久の脳裏に、人生の転機となった中学三年生の春の記憶が甦る。

 

 緑谷出久としての想いを封じ込め、天高く舞い上がった緑のクウガは索敵に意識を集中させる。学校付近の経路、建物と建物の隙間まで、一キロ以上の高度から鮮明に。絶対に、逃すものか――

 

 そして、

 

「――そこかっ!」

 

 見つけた。透明にはなっていても、必死に逃走するシルエットははっきりと視認できる。

 

 こちらに背を向けてひた走るガルメに向かって銃口を突きつけ、引き金に指をかける。またあのビリビリとした痺れが襲ってきたが、もはや日常のこととなってしまい気にもならない。このまま人差し指に力を込めれば、すべてが終わる――

 

 それを為そうとしたとき、不意に馬のいななきにも似たエンジンの音が響き渡った。

 

「ッ!?」

 

 クウガは咄嗟に射撃を中止せざるをえなくなった。――いななきの主・漆黒の二輪車が、ガルメを庇うようにして割り込んできたのだ。

 偶然通りかかってしまったのか?……いや、その割には図ったようなタイミングで現れた。その場に停車し、こちらをじっと見上げている。

 

「なん、なんだ……?」

 

 赤いマフラーをたなびかせる、黒のライダー。彼が何者なのか、出久にわかるはずがない。

 

――ただ、強化された五感とはまた異なるところで、彼がただ者でないことを予感せざるをえないのだった。

 

 

つづく

 

 






次回



EPISODE 23. 血染めの生物兵器









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