【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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不穏なサブタイ……ヤベーイ!!




EPISODE 23. 血染めの生物兵器 1/4

 太陽が南の頂から西の彼方へ身を沈めようとする中にあっても、沢渡桜子は研究室にこもって古代文字の解読作業を続けていた。彼女が外に出るのといえば、お手洗いと軽い休憩くらい。ポレポレで昼食をとろうとしていた――結局未遂に終わってしまったが――出久・焦凍と異なり、そもそも食事をするというそぶりすら見せずに没頭していた。

 いまこの時も、出久たちはグロンギと死闘を繰り広げているはずだ。安全地帯にいる自分が、どうして寝食を忘れずにいられようか。この小さな部屋こそ、沢渡桜子にとって無血の戦場なのだった。

 

 そんな彼女のキーボードを叩く指が、不意に止まった。

 

「これは………」

 

 もはやリント文字の専門家になりつつある彼女が引っ掛かりを覚えた、とある碑文。

 

 その解読がなされたとき……彼女の心は、ひどく曇ることとなる。とあるできごとと相俟って。

 

 

 

 

 

 ゴウラムに掴まって空を飛ぶことで、透明化して逃亡を図るメ・ガルメ・レを捕捉、討つ――という局面に踏み込んだクウガ・ペガサスフォーム。

 しかし引き金を引く指は、突如割り込んできた一台のマシンによって阻まれてしまった。

 

「なん、なんだ……?」

 

 赤いマフラーをたなびかせる、かのライダーは一体何者か。その容姿に見覚えのない出久には当然わからない。

 ただ、

 

「――またな、クウガ」

「……!」

 

 そうつぶやくとともに、ライダーはマシンを反転させて走り去ってしまった。暫し呆然としていたクウガだったが、

 

「!、35号……!」

 

 謎のライダーに気をとられている間に、ガルメはどこぞへ逃走してしまったようだった。あちらこちら見渡すが、その気配はない。それでも粘り強く捜索を続ければ再発見が成ったかもしれないが、もう時間がなかった。

 

「……ッ、」

 

 頭痛が襲ってくると同時に、アークルの輝きが弱まっていく。タイムリミットが来てしまったのだ。二時間変身できなくなる……なんてことにならないよう、限界を迎える前にクウガは赤の姿に戻るほかなかった。――それは、ガルメのコンティニューを許すことを意味していた。

 

 

 

 

 

 人間体に戻ったメ・ガルメ・レは、アジトとなっている廃ビルに帰り着いていた。時折左手首の腕輪を見下ろすそのあどけない表情は、あまり朗らかでない。ありありと滲む不満は、表に駐輪された漆黒のバイクを認めてますます深まったようだった。

 

「――たっだいまぁ……」

 

 薄暗い一室に入り、そう声を張る。室内には黒づくめの痩身の男、ライダースーツを纏った若い青年、そして奥で何やら作業をしている初老の男性の三名がいたが、明確に反応を返してきたのは青年だけだった。

 

「よう」

「……バダー」

 

 "バダー"――そう呼ばれた青年はニヒルな笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。それがますますガルメを苛立たせる。

 

「何しに来たのさ?」

「何、ゲリザギバス・ゲゲルが始まる前に、残りのメの連中のゲゲルがどんなもんか見ておこうと思ってな。にしても、さっきは危ないとこだったな。俺が割り込まなきゃ死んでたぜ?」

「チッ」舌打ちしつつ、「はいはいどーもありがとう。……余計なコトしやがって」

 

 毒づくガルメだが、このバダーというグロンギ、相手の心情などお構いなしのようだった。さらに畳みかける。

 

「で、どうなんだ?成功しそうなのか?」

「……一応あと64人、せめてあとひとり殺っときたかったけどクウガとアギなんとかが来たからあきらめた」

「あの学校の子供らがターゲットなんだろ。流石に生き残った連中は身を隠すだろうけど、大丈夫なのか?」

「アンタに心配されなくても、ちゃんと奴らの動きは追うっつーの。ココにも進捗報告に来ただけですしー」

 

 フン、と鼻を鳴らすと、ガルメはぱっと笑みを浮かべて「じゃ、またねぇ~」と部屋を出ていった。目はまったく笑っていなかったが。

 

「またね、……ねぇ」肩を竦めつつ、「あいつは進んでこられるかね?俺たち"ゴ"だけの、ゲリザギバス・ゲゲルに」

「……さあな」

 

 はぐらかすような答えとともに闇から姿を現したのは、この廃墟に不似合いな純白のドレスを纏った女性。以前とは大きく服装が変わっているが、その額に刻まれた白いバラのタトゥが彼女の正体を示している。

 

「ザグ……ジャヅンジャシバダパ、ギバシゾバグバロギセバギン……クウガ」

「……なるほどね。場合によっちゃ、面白いモノが見られる……か」

 

 フッと笑みを浮かべたバダーは、去り際一心不乱に作業を続ける初老の男を見遣った。サングラスをかけていることもあり、その表情ははっきりとは窺い知れない。ほかのどのグロンギとも異なる、どこか茫洋とした雰囲気を醸す男だった。

 

「ジュンヂパ、ラバゲダゾ。――ザジオ」

「……ギギジョグ」

 

 ニヤリと笑うその温和げな顔立ちが、結局のところ邪悪であることに変わりはなかった。

 

 

 

 

 

 本来なら子供たちが下校し、確実に静寂へと向かっていく日没の高見沢小学校。

 確かに数時間前まで、この小学校の敷地内は血生臭い騒擾に覆われていた。未確認生命体第35号――メ・ガルメ・レにより、100人近い児童が虐殺された。ヒーロー・爆心地をはじめとする捜査本部の面々、そしてクウガ&アギトの参戦によって、それ以上は阻まれたが……。

 ともかく、その後処理のために捜査本部の面々と所轄の面々が校内を慌ただしく動き回っている。次なる犠牲者を、ひとりたりとも出さないために。

 

「………」

 

 そのひとりである鷹野藍警部補は、校庭に落ちた銃弾を拾い上げ、じっと見つめていた。その名のとおりの鋭い鷹の眼で、何か手がかりを捉えようとしている――

 

「なんか見えました、鷹野さん?」森塚が訊く。

「……いえ、私の目で見えるものには限度があるわ。ただ……何か見つかりそうな気はする」

「ふむ……」

 

 "気がする"――曖昧な物言いに思われるかもしれないが、捜査においてはそれが重大な糸口になることはままあった。刑事の端くれたる森塚もそれに期待するところがある、まして相手は洞察力に優れたエリートの先輩だから。

 と、

 

「鷹野警部補、森塚刑事!」

「!」

 

 ふたりが顔を上げれば、白銀と紺を基調としたフルアーマーのヒーローが駆けてくるところだった。

 

「インゲニウム……」

「申し訳ありません、遅くなってしまって……」

 

 神妙に謝罪するインゲニウムこと飯田天哉。事件発生時、科警研で実験の真っ最中だったのだ。主役である以上即座に抜け出すわけにもいかず、ようやく切り上げられたときにはもう戦いは終わっていたのだった。

 無論、鷹野も森塚も事情はわかっているので責めることはしない。ただ、

 

「ちょうどよかった、これからまた奴らのアジトの捜索だ」

「アジトを?」

「奴はまた明日、ここの児童を襲うと言っていたわ。もちろん保護はするけど、透明化能力をもつ相手だから動きを把握しきれない。奴が引っ込んでいるうちにアジトを叩いて潰すのよ」

 

 せっかく時間の指定までしてくれたわけだが、馬鹿正直に待ってやる必要はどこにもない。まずは攻める――手ぐすね引くのはその次だ。

 それ自体は飯田にも納得のいくものであったが、

 

「警察犬……などの手配は?」

「……今回は急だし間に合わない。半径十キロ圏内の使われていない建物なんかをローラーで探すってことになった。ま、刑事の捜査のキホンですよ」

 

 一見いつもの飄々とした調子に戻っている森塚だが、そのどんぐり眼には依然鋭さが残っている。猟犬部隊の柴崎巡査の仇であり、今日この日もたくさんの子供たちの未来を奪った第35号。――まして、ゲームなどとのたまって。

 

 既に情報を得ている飯田天哉もまた、そうした事実に激しい怒りを燃やしている。これ以上の犠牲を出す前に奴を倒す。そのためならなんでもやってやる……流石に二度目のG2出撃はあきらめたが。

 

「――了解しました。そういえば、爆豪くんの姿が見当たりませんが……」

「あぁ……彼なら4号兄と弟を連れてどっか行ったよ。彼らもローラー作戦参加させるって、管理官の許可までもらってた」

「……そう、ですか」

 

 兄と弟――そんな形容に偽りなく、あかつき村事件以降4号に似た謎の存在が戦場に姿を見せるようになった。一貫して4号と協力している、またやはり勝己はその正体を知っている様子。

 だが、4号と異なり飯田にも心当たりがあった。……彼が見せる燃焼と氷結、相反する力。左右でくっきりと分かたれた力。行方不明になっていた親友と同じ――もっと言えば、その親友が帰還した矢先のできごと。

 

(――轟くん……まさか、きみなのか……?)

 

 当の焦凍は「極秘任務」と銘打ち、行方不明になっていた時の動向を黙して語らない。それも含めて、隠しだてしようとする理由はいくらでも考えられる。それでも納得できるわけではない。

 確かなことは、飯田の秘めた疑念は既に確信に達しようとしているということだ。

 

(……この事件を、解決すれば)

 

 焦凍と直接会い、真実を問いただすこともできる。いまは4号に似たかの異形が味方であることを信じ、ともに35号を打倒することに心血を注ぐべきだ。飯田天哉はそう自分に言い聞かせ、即時の打ち合わせに臨むことした。

 

 

 

 

 

 その頃爆豪勝己は、4号兄と弟……それぞれクウガとアギトである緑谷出久と轟焦凍を伴って寂れた公園近くに車を駐めていた。傍らにはふたりのバイクも駐められている。

 

「――ゲー……ム……?」

 

 勝己の口から発せられた耳慣れた単語を、しかし出久は呆気にとられたような表情で復唱した。

 グロンギが、殺戮を続ける理由――それはとても信じられるものではなかった。いや、勝己のことばが信用できないというわけではない。荒唐無稽かと言われれば決してそうではないのだ、それが真実であるとするなら、一部の例外を除いて一体ずつしか出現していない理由も説明がつく。何より、面と向かってガルメのその発言を耳にした勝己が疑いを捨てている以上――

 

「そんな……そんなのって……!」

 

 結局信じるに至って、出久の胸には激しい怒りが湧き起こった。人の命を奪っている以上、どんな高尚な理由を掲げようがそれは許せるものではない。……だとしても、遊び感覚だなどと。

 

 歪になった右手を血が滲むほど強く握りしめる出久をバックミラー越しにちらりと見やりつつ、勝己は続けた。

 

「……あのカメレオン野郎はまだ、ガキどもを殺すつもりだ。奴の言うとおりなら……あと、64人」

「ッ、僕があのとき始末できてれば……!」

 

 ペガサスフォームに、ゴウラムによる飛翔。そうして逃走するガルメを見つけ出せた以上、間違いなく倒せたはずだという自負が出久にはあったのだ。それなのに。

 

「黒いバイクの男……。そいつもグロンギなんだろうな」焦凍がつぶやく。

「……うん。僕のこと"クウガ"って呼んでたし……きっと」

「そうか。――奴らのアジトにそいつもいると思うか、爆豪?」

 

 焦凍の問いに、勝己は振り向くこともなく「フン」と鼻を鳴らした。

 

「さァな。そいつがいようがいまいが、まずブッ殺さなきゃなんねぇのは35号だ。んなくだらねえゲーム、コンティニューさせてやる義理はどこにもねえ」

「……そうだな」

 

 うなずきつつ、焦凍は隣に座る出久に視線をやった。やや俯きがちなその表情は、いつになく険しい。爛々と光る翠の瞳にかつての、化け物と化していた頃の自分に通ずるものを、焦凍は見たような気がした。気遣いから声をかけようとした瞬間、無線が鳴ってしまったのだが。

 

「爆豪っす」

『鷹野よ。あなたたちの割り振りが決まったわ』

 

 "たち"――そう形容したからには当然、出久と焦凍の協力が前提とされている。無論、ヒーロー・爆心地のお墨付きがあってのこととはいえ――

 

 割り振られた三ヶ所のポイントを誰が担当するかは勝己の采配に委ねられた。通信を終えて、ようやく彼はその紅い瞳を背後に向けた。

 

「轟、テメェは経堂の廃団地に行け」

「わかった」

「そんでデク、テメェは大田の工場跡地だ」

「……うん」

 

 それ以上はことばもなく、ふたりは覆面パトの後部座席から降りた。即座に行動を開始せねばならないことを思えば、なんら不自然ではない。……いつもなら出久が「何か見つかったら連絡してね」とか余計な口を叩くところ、それがないというくらい。

 

 グロンギの目的が殺人ゲームであると知って、それどころではないのだろうことは想像がつく。だが思いを致すのはそこまで、いちいちあの幼なじみの機微に心を砕いてやるつもりはない。――自分がせずとも、出久を恩人とさえ形容する轟焦凍がそれをやるだろう。右手に消えない傷をつけた人間といえど、心に消えない傷をつけた人間よりはよほどその任にふさわしい。まともな神経の人間なら誰もがそう言うだろうと、爆豪勝己は思った。

 




キャラクター紹介・リント編 バギンドゲヅン

轟 焦凍/Shoto Todoroki
個性:半冷半燃+ワン・フォー・オール
   →アギト
年齢:20歳
誕生日:1月11日
身長:179cm
血液型:O型
好きなもの:冷たい蕎麦
個性詳細:
「右で凍らせ左で燃やす」、炎と氷のカーニバル!そんな生まれながらのチート個性にオールマイトから継承したワン・フォー・オールが掛け合わさり超チート野郎になってしまった!
その凄まじすぎる個性に適応すべく肉体が"アギト"へと進化、しかし未だ燻っていた憎悪や悲しみ、負の感情が暴走してあらゆるモノを破壊し尽くす不完全な化け物となってしまっていた。緑谷出久との邂逅を経て遂に暴走を乗り越え、完全なアギトとなることができた!長い隠遁生活のためにワン・フォー・オールを完全に使いこなせる身体ではなくなっているが、それでも十分にチートだ!やりたい放題かこの野郎!
備考:
ヒーロー"ショート"。エンデヴァーの息子であり、オールマイトの弟子でもあるウルトラサラブレッドだ!
しかしながら自分をオールマイトを超える"仔"として扱い苛酷な訓練を施し、母の精神を病ませた父を憎み続けていた。爆豪ら雄英時代に出会った仲間たちとの交流をもってしても抑え込むのが精一杯だったが――エンデヴァーが反省していなかったこともあって――、出久との戦い、そして改心した父の努力で母が退院していたことを知ってようやく完全に蟠りが消えた。
仲間たち、そして身を挺してまで自分に手を差し伸べてくれた出久に報いるため、アギトとしてグロンギと戦うことを決意した。これ以上なく頼もしい出久の相棒となったのだ……かっちゃんの立場は!?

作者所感:
特記事項が多すぎて困ったお方。ただでさえ設定盛り盛りなうえ拙作ではアギトときたもんですから、まあ当然といえば当然なんですが。
ハンドクラッシャーはじめボケボケしたイメージが自分の中で定着しすぎて体育祭以前を見ると「アレ?こんなキャラだったっけ?」ってなります。どっちにしろ魅力的なんだからイケメンはずるい……。
上記のとおりかっちゃん……ヘタすると出久の立場まで喰いそうなリスクを秘めたお方ですが、そこはちゃんとそれぞれ引き立つようにしていきたいところ。

ちなみに体育祭では対爆豪戦で左を使いました。なのでかっちゃんとの関係はさほど拗れず、かっちゃんも世間に醜態を晒すことなく……といった、原作より状況が好転してる数少ない例だったりします。出久がいない分だけかっちゃんは独りで成長しなければならない部分もあった……って感じ?

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