【完結】僕のヒーローアカデミア・アナザー 空我   作:たあたん

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土曜のアニメ、飯田くんが出久をぶん殴ったシーンで思わず「そりゃそうだ!」と叫んでしまった作者。

出久にはもうちょっと自分を大事にしてほしいです。もっと言うなら自分が心配されてることを自覚してほしい……。
お母さんにあれだけ心労かけてるんだからせめて躊躇くらいしてほしいわね!


EPISODE 23. 血染めの生物兵器 3/4

「――ログググ、ゴセロググレス、ビ……"ゲリザギバスゲゲル"」

 

 重くよどんだ雲の下で歩を進めながら……少年は、嗤った。

 

 

――静岡県 折寺市

 

 静岡県東部にあるこの地は、小高い丘からは富士山を拝むことができる一方、商店街なども多く存在する自然と文明の混在したどこか懐かしい匂いのする街である。

 そして何より、この地は緑谷出久と爆豪勝己の生まれ故郷でもあった。ふたりの関係がはじまり、捻れに捻れ、そしていったんの終わりを迎えるまでの十五年の月日が、間違いなくここにはあった。

 

 だが出久も勝己も、帰ってきたのだという自覚はあっても懐古の情に浸っていられる状況にはなかった。実家のほうへはまったく寄りつくことなく、メ・ガルメ・レのターゲットである高見沢小学校の生き残りの児童たち、彼らが保護されている静岡県の施設にたどり着いたのだった。

 

「爆豪くん!」

 

 施設に入るや否や、インゲニウムこと飯田天哉が駆け寄ってきた。対する勝己はぶっきらぼうに「おぉ」とだけ応じる。

 

「大丈夫なのか?B1号にやられたと聞いたが……」

「ハッ、舐めんなヨユーだわ。そもそも眠らされただけだ」

「そうか……それならいいんだ。……しかし結局、こうして守勢に回ってしまったな」

 

 結局、第35号――ガルメは行方知れずのままだ。それでいて、指定の時刻になった途端ここに現れる確率が高い。ここで倒せないという可能性は完全に排除しなければならない。自分たちが敷いているのは背水の陣なのだと、自覚しなければ。

 とはいえ、絶望的なことばかりではない。

 

「そうそう、先ほど科警研から連絡があったんだ。銃弾に付着していた第35号の体組織について」

「!、なんかわかったのか?」

「ああ、――」

 

――曰く。

 

 メ・ガルメ・レの体組織は周囲の光(電磁波)を浴びると瞬時に自らの反射波長を変えてしまうのだという。つまり、色素を急激に変化させて周囲に溶け込む――透明化したように見せるということ。

 

「……なるほどな、だから夜を避けてきたっつーわけか」

 

 暗闇の中では、擬態のために必要な光を受けることができない。"夜陰に乗じる"ということばと裏腹に、ガルメにとっては身を隠しにくい時間帯だったということだろう。

 

「ああ」うなずきつつ、「だが、奴の弱点はそれだけではない」

 

 暗闇以上に致命的な弱点が、ガルメにはあった。――強烈な光だ。

 あまりに光量が多すぎると体組織がバグを起こしてしまうのか、色素変化が抑制される……つまりは、透明になれなくなってしまうのだ。

 

 それを聞いた勝己は――不敵な笑みを浮かべていて。

 

「ハッ、そんならあのクソガキの鼻っ柱、へし折ってやれそうだな」

「そのことばが適切かはともかく……確かにきみの技ならそれが可能だな。だが透明化を抑止できるのは五分間だけだそうだ。気をつけてくれ」

「その前に決着つけりゃいいだけの話だろ」

「そう、だな……。"彼ら"もいてくれることだしな」

 

 ポロッと本音を漏らしてしまってから、飯田はしまったと思った。4号たちの協力者であり、彼らと自分たち捜査本部との窓口でありながら、勝己は彼らを恃むことに忸怩たる思いを抱いているようなふしがあった。プロヒーローとして……それ以前に爆豪勝己という人間のあり方として、誰であれ一方的に寄りかかるようなことは許せないのだろう。昔の自分であれば大いなる矛盾と決めつけていただろうが……人間の心はそう単純なものではないと、いまはわかっているつもりだ。

 

――しかし飯田の気遣いとは裏腹に、勝己は何も言わなかった。ただちらりと、施設の外を見遣っている。その紅い瞳が真に映すものがなんなのか……雄英高校に入学してからの彼しか知らない飯田には見えそうもない。

 

 そんな折、駆けつけてきた森塚から予想外のニュースがもたらされた。

 

 

――保護されていた子供がひとり、施設からの脱走を図ったのだ。

 

 

 

 

 

 "ゲーム"リスタートまで、あと一時間。

 

 腕時計でその事実を確かめて、緑谷出久は小さく息をついた。

 勝己からの指示により、出久は施設から少し離れた人気のない場所にトライチェイサーを駐めて待機していた。焦凍もまた、施設を挟んで向かい側で同様にしていることだろう。

 

……ひとりでただ時間が過ぎるのを待っていると、どうしても色々なことを考えてしまう。特に、ガルメが暴露したというグロンギが殺人を行う目的――ただの、ゲーム。

 勝己の口から聞かされてひと晩が経ち、少しは冷静に受け止められるようになると思っていた。だが実際には、そんなことを平気で言い放ち、実行できるその精神性へのマグマのような怒りが膨れあがっていくばかり。

 

(次は絶対逃がさない……。――殺す、絶対に殺す……!)

 

 ガルメも他の未確認生命体も、すべて。そのエメラルドグリーンの瞳を烈しく滾らせて、出久は拳を握りしめた。

 

 そんな折、施設のほうから一目散に走ってくる子供の姿が目に入った。その恐怖と焦燥の張りついた表情を見てとった出久は、咄嗟に彼の進行方向に立ち塞がった。

 

「ちょッ……きみ、あそこに保護されてる高見沢小学校の子だろ!?どこ行くんだよ!?」

「ッ!」

 

 子供は一瞬たじろいだものの、すぐさまキッと出久を睨みつけた。

 

「決まってるだろ逃げるんだよ!!あんな、とこにいたら……ころ、される………!」

「そんな……あそこはかっ、爆心地や警察の人たちが……」

 

 有名ヒーローや警察が、施設をがっちり守っている――その事実は、少なくともこの少年には微塵も響いていないらしかった。

 

「みんな、みんなあいつに殺されたんだ……友だちも……――弟も……!」

「………!」

 

 あの戦いのあと、校庭に並べられた98の遺体。その中に、彼の言う友人と弟もいたのだろう。こんな惨劇に遭うとは思いもよらず、ただ毎日笑ったり喧嘩をしたり、そうしてともに大人になっていく未来を信じて疑わなかっただろうに。

 そういうものをすべて、奴らは奪ったのだ。

 

「どうして……どうしておれたち、殺されなきゃなんないんだよぉ……ッ!」

「ッ!」

 

 気づけば出久は、少年の肩を力いっぱい掴んでいた。

 

 

「殺させないっ!!」

「……!」

 

「あんな奴らに、きみたちが殺されなきゃいけない理由なんて絶対ない!だから、だから……!」

 

 ほとんど我を忘れて叫んでいた出久は、少年の「い、たい……」という呻きで我に返った。力のこもった手が、ギチギチと細い肩に食い込んでいたのだ。

 慌てて手を放す。少年の瞳には当惑が滲んでいたが、まだそれはかろうじて自分への恐怖には昇華していない。出久はほっと胸を撫でおろした。

 

「……とにかく、みんなそう思って守ってくれてるから」

「………」

 

 諭すと、ようやく少年は小さくうなずいた。おずおずと踵を返し、施設へと一歩を踏み出そうとする。

 と同時に、ぽつりとつぶやいた。

 

「……あの未確認の奴とおれたち、一昨日一緒に遊んだんだ。ヒーローごっこ、して……」

「……うん」

 

 その情報は既に昨日の事情聴取で判明していたから、驚きはなかった。

 

「昨日、おれたちを殺してる途中……あいつ、そのときと同じ表情(かお)、してたんだ……ッ」

 

 心底楽しくて仕方がない、という表情。――それはそうだろう、奴にとってはどちらも変わらない、ただの遊びなのだから。

 だから出久にはもう、なんの驚きもなかった。ただ胸の奥から絶えず溢れ出る憤懣のマグマが滞留し冷えて、どす黒い巌を形成していくのがわかる。

 凝り固まったその感情はもう、そこからなくなることは決してない。……握られた拳ももう、解かれることはなかった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 沢渡桜子は、昨夕からずっと研究室に縛りつけられていた。それは無論のこと比喩であって、彼女はまったく自由の身だ。いつものように研究に没頭した結果でもない。ただ深刻な表情を浮かべて、液晶画面を凝視している。

 そこに、「Bon jour!」といういつもの快活な挨拶とともに、フランス人講師――ジャン・ミッシェル・ソレルが入室してきた。返事もなく固まったままの桜子を見て、怪訝な表情を浮かべたが。

 

「桜子サン、どうしたノ?」

「!、ジャン、先生……」

 

 話しかけられてようやく、桜子はジャンに気づいたようだった。彼女のもとに歩み寄っていく。

 

「解読で何か出タ?」

「あ、はい……その………」

 

 桜子の隣からモニターを覗きこんで……ジャンもまた、表情を曇らせていた。

 

「これっテ……クウガの?」

「わかりません……でも、たぶん……」

 

 

――聖なる泉、枯れ果てしとき、

 

――凄まじき戦士、(いかずち)のごとく出で、

 

 

――太陽は……闇に、葬られん。

 

 

 その碑文が一体何を示しているのか。

 

 ただ桜子には、不吉な予感がしてならなかった。――"雷のごとく"……いま出久の身体に起き続けている異変と、関係がないとは思えなかったのだ。

 




キャラクター紹介・グロンギ編 バギンドグシギ

カマキリ種怪人 メ・ガリマ・バ/未確認生命体第32号※

「ビデギスザベンボドパガス、ビ、クウガ(クウガに似ているだけのことはある)」

登場話:
EPISODE 8. デッドオアマッスル~

身長:197cm
体重:178kg
能力:手首から生えた鋭い鎌による斬擊
活動記録:
人間体はショートカットの美女。高いプライドとそれに見合う実力をもつ勇猛な戦士であり、メ集団のリーダー格として仲間たちのゲゲルを見届けていた。
あかつき村にてメ・ガドラ・ダとズ集団が活動している裏で、「9時間で99人を殺害する」ゲゲルを開始する。クウガとの対戦を望んでいたもののそれがかなわないことが明白だったため、主な標的をヒーローや警察官など"リントの戦士"とした。実際に97人の殺害に成功したものの――その中にはチャージズマこと上鳴電気の先輩ヒーロー、ゴルトリオンも含まれていた――、G2を装着した飯田天哉に妨害される。壮絶な激闘の末、チャージズマとイヤホン=ジャックの援護を受けたG2必殺の一撃によって大ダメージを受け吹き飛ばされるが生存しており、捜索に現れた警官ふたりを斬首――現代最初のゲゲル成功者となってしまった。

作者所感:
マジでゴ・ガリマ・バとなってしまった姐さん。以前感想で「ゲゲル成功者が出ても面白いかも」的なものをいただいたので白羽の矢が立ちました。なので原作のようなキッチリルールに則ったゲゲルではなく、あくまでこだわり程度のものに。
彼女がゴの面々とどう絡んでいくか、まだ面識のない出久たちとどうぶつかるのか、作者的にも楽しみでございます。漫画版のようにヒロインにしてもよかったんだけどなー残念だなぁー。

※原作では未確認生命体第36号。

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